ゼブラフィッシュの求愛行動を促進するフェロモン受容体の発見
矢吹陽一・吉原良浩
(理化学研究所脳科学総合研究センター シナプス分子機構研究チーム)
email:吉原良浩
DOI: 10.7875/first.author.2016.063
Olfactory receptor for prostaglandin F2α mediates male fish courtship behavior.
Yoichi Yabuki, Tetsuya Koide, Nobuhiko Miyasaka, Noriko Wakisaka, Miwa Masuda, Masamichi Ohkura, Junichi Nakai, Kyoshiro Tsuge, Soken Tsuchiya, Yukihiko Sugimoto, Yoshihiro Yoshihara
Nature Neuroscience, 19, 897-904 (2016)
嗅覚系は物体から発せられる匂い分子やほかの個体から発せられるフェロモンを受容し,その情報を鼻から脳へと伝達して,個体の生存,生体の恒常性の維持,種の保存のため,必要な行動や生理的な変化をもたらす神経系である.とりわけ,好きな匂いへの誘引行動,嫌いな匂いからの逃避行動,フェロモンを介した性行動は,多くの生物に共通する嗅覚系における3つの根源的な行動である.この研究においては,ゼブラフィッシュを用いてオスの性行動の発現を制御する嗅覚系について解析した.その結果,メスが排卵の際に放出する性フェロモンであるプロスタグランジンF2αを特異的に認識する嗅覚受容体が同定され,さらに,プロスタグランジンF2αの刺激により活性化される嗅覚中枢が見い出された.また,プロスタグランジンF2α受容体を欠損したゼブラフィッシュの行動学的な解析により,プロスタグランジンF2αはこの受容体を介してオスの誘引行動および求愛行動を促進することがわかった.以上の結果から,魚類における性フェロモンであるプロスタグランジンF2αによる性行動の発現の分子機構が明らかにされた.
フェロモンは“ある個体から分泌され,受容した同種のほかの個体に特定の行動や内分泌の変化をひき起こす物質”と定義される.なかでも,性行動に対し作用を起こすものは性フェロモンとよばれる.たとえば,メスのカイコガから放出されるボンビコールは性フェロモンとしてはじめて同定された分子であり,オスを誘引する作用をもつ1).また,オスのマウスの涙に分泌されるESP1はメスがオスを受け入れる行動をひき起こす2)(新着論文レビュー でも掲載).さらに,キンギョにおいてはプロスタグランジンF2αがオスの性行動を誘起する性フェロモンであると報告されている3).
プロスタグランジンF2αは哺乳類においては子宮にて産生されるホルモンであり,黄体の退行や子宮平滑筋の収縮の作用のあることが知られており4),畜産業において分娩や発情を誘起させる薬としても使われている.プロスタグランジンF2αは魚類においては排卵期の卵巣にて産生され,排卵および産卵を誘発するホルモンとして機能する.1988年,排卵したキンギョを保持する水中においてプロスタグランジンF2αの濃度の上昇が見い出され,プロスタグランジンF2αが低濃度で嗅細胞を活性させること,さらに,オスの性行動をひき起こすことが報告された3).のちの研究において,ゼブラフィッシュを含む多くの魚類においても低濃度のプロスタグランジンF2αが嗅細胞を活性化することが示され,プロスタグランジンF2αが魚類において性フェロモンとして機能する可能性が示唆された5).
ホルモンとしてもフェロモンとしても作用するプロスタグランジンF2αはホルモン様フェロモンとよばれ6),メスの体内の情報をオスに伝達する手段として,さらには,オスとメスの性行動を同期させるために非常に重要な役割を担うと考えられている.しかしながら,プロスタグランジンF2αをフェロモンとして受容する分子機構やプロスタグランジンF2αにより活性化される神経回路についてはこれまでまったくわかっていなかった.この研究においては,ゼブラフィッシュを用いてプロスタグランジンF2αを認識する嗅覚受容体の同定および求愛行動の促進の神経機構について解析した.
ゼブラフィッシュはプロスタグランジンF2αに対しどのような行動応答を示すのか調べた.4~8匹のオスが泳いでいる水槽にプロスタグランジンF2αを投与すると,プロスタグランジンF2αへと誘引されるようすが観察された.嗅上皮を外科的に除去したゼブラフィッシュにおいてはこの誘引応答がまったく観察されなかったことから,プロスタグランジンF2αは嗅覚を介してオスのゼブラフィッシュを誘引することが明らかにされた.
ゼブラフィッシュの嗅上皮には,形態,発現,嗅上皮における局在の異なる嗅細胞として繊毛嗅細胞,微絨毛嗅細胞,Crypt嗅細胞が存在する.プロスタグランジンF2αにより刺激したゼブラフィッシュの嗅上皮を神経の興奮のマーカーである抗リン酸化ERK抗体を用いて免疫組織染色をしたところ,繊毛嗅細胞が特異的に活性化されていることがわかった.おのおのの繊毛嗅細胞は約150種類のORファミリー受容体と約100種類のTAARファミリー受容体のうちどれか1種類の嗅覚受容体を選択的に発現する7).プロスタグランジンF2αはアミノ基をもたないため,その受容体が微量アミン関連受容体であるTAARファミリー受容体に属するとは考えにくく,ORファミリー受容体に的をしぼった.
ゼブラフィッシュのすべてのORファミリー受容体の遺伝子をPCR法によりクローニングしてcRNAプローブを作製し,プロスタグランジンF2αにより刺激した嗅上皮における蛍光二重in situハイブリダイゼーション法により,神経の興奮のマーカーであるc-Fos mRNAの発現と重なりの観察されるORファミリー受容体のmRNAを探索した.その結果,OR114-1がc-Fosに陽性の細胞の約90%において発現することがわかった.さらに,データベース検索によりOR114-1と57%のアミノ酸同一性を示す新規のORファミリー受容体を発見し,OR114-2と名づけた.これら2つのタンパク質は嗅覚受容体βグループに属し,一般的なプロスタノイド受容体とはまったく関連のないものであった.
嗅細胞において受容された匂いあるいはフェロモンの情報は,嗅覚の1次中枢である嗅球の特定の糸球体へと伝達され匂い地図として表現される.そののち,この情報は終脳や間脳の高次の嗅覚中枢へと伝達され,匂い地図の解読とともに多様な行動の発現へといたる.そこで,嗅球においてプロスタグランジンF2αにより活性化される糸球体の同定を試みた.抗リン酸化ERK抗体を用いた嗅球のホールマウント免疫染色およびG-CaMP7発現トランスジェニックゼブラフィッシュにおける嗅球のCa2+イメージングにおいて,プロスタグランジンF2αは腹内側の領域の隣接する2つの糸球体を活性化することがわかった.この結果はこれまでの報告8) とも合致した.
プロスタグランジンF2αによる刺激により活性化される高次の嗅覚中枢をERKのリン酸化を指標にして解析した.その結果,終脳腹側部腹側核,視索前核,外側視床下部などの領域において,プロスタグランジンF2αの刺激に特異的なリン酸化ERKのシグナルが観察された.
プロスタグランジンF2α受容体であるOR114-1の生理機能を明らかにするため,TALENゲノム編集技術を用いてOR114-1を欠損したゼブラフィッシュを作製した.野生型のオスはプロスタグランジンF2αに対し顕著な誘引行動を示したが,OR114-1欠損体のオスにおいて誘引行動は観察されなかった.
野生型のメスに対するオスの求愛行動を野生型とOR114-1欠損体とで比較した.野生型のオスはメスに対し,追尾,接触,回り込みなどの求愛行動を頻繁に行ったが,OR114-1欠損体のオスにおいてこれらの回数および時間は大きく減少した.以上の結果から,プロスタグランジンF2α受容体であるOR114-1はゼブラフィッシュの求愛行動において重要な役割をはたすことが明らかにされた.
プロスタグランジンF2α,プロスタグランジンD2,プロスタグランジンE2など各種のプロスタグランジンは,それぞれが特異的なプロスタノイド受容体を介して体内において多様な機能を発現するホルモンあるいはオータコイドとして知られてきた4).この研究においては,排卵期のメスのゼブラフィッシュから放出されるプロスタグランジンF2αが,性フェロモンとしてオスの嗅覚受容体と結合し求愛行動をひき起こすという個体のあいだのコミュニケーションの現象を,分子レベル,細胞レベル,さらには,神経回路レベルにおいて証明し,プロスタグランジンの研究において新たな地平を開拓した(図1).
性フェロモンであるプロスタグランジンF2αにより活性化される脳の高次の領域として,終脳腹側部腹側核および視索前核が見い出された.魚類において終脳腹側部腹側核は哺乳類の中核野に対応すると考えられており,マウスにおいて中核野が快感や報酬のモチベーションを制御すること9) との関連が示唆された.また,視索前核は哺乳類において交尾行動をつかさどると報告されている10).キンギョにおいては終脳腹側部腹側核あるいは視索前核を破壊すると産卵行動がいちじるしく阻害され11),サンフィッシュにおいては視索前核の電気刺激によりオスの求愛行動や放精が起こる12).以上のように,ゼブラフィッシュを用いて得られたこの研究における知見は,これまでに発表されている脳の高次の領域の生殖行動における機能と合致し,種の壁をこえた性行動の中枢の存在が示唆された.
略歴:2016年 長岡技術科学大学大学院工学研究科 修了,同年より理化学研究所脳科学総合研究センター 客員研究員.
研究テーマ:性フェロモンによりひき起こされる性行動の分子機構および神経機構.
関心事:同種あるいは異種を問わず,動物間のコミュニケーションの機構.嗅覚,聴覚,視覚など多くの感覚情報の統合がどのようにして起こり,適切な行動が選択されるのかに興味があります.
吉原 良浩(Yoshihiro Yoshihara)
理化学研究所脳科学総合研究センター シニア・チームリーダー.
© 2016 矢吹陽一・吉原良浩 Licensed under CC 表示 2.1 日本
(理化学研究所脳科学総合研究センター シナプス分子機構研究チーム)
email:吉原良浩
DOI: 10.7875/first.author.2016.063
Olfactory receptor for prostaglandin F2α mediates male fish courtship behavior.
Yoichi Yabuki, Tetsuya Koide, Nobuhiko Miyasaka, Noriko Wakisaka, Miwa Masuda, Masamichi Ohkura, Junichi Nakai, Kyoshiro Tsuge, Soken Tsuchiya, Yukihiko Sugimoto, Yoshihiro Yoshihara
Nature Neuroscience, 19, 897-904 (2016)
要 約
嗅覚系は物体から発せられる匂い分子やほかの個体から発せられるフェロモンを受容し,その情報を鼻から脳へと伝達して,個体の生存,生体の恒常性の維持,種の保存のため,必要な行動や生理的な変化をもたらす神経系である.とりわけ,好きな匂いへの誘引行動,嫌いな匂いからの逃避行動,フェロモンを介した性行動は,多くの生物に共通する嗅覚系における3つの根源的な行動である.この研究においては,ゼブラフィッシュを用いてオスの性行動の発現を制御する嗅覚系について解析した.その結果,メスが排卵の際に放出する性フェロモンであるプロスタグランジンF2αを特異的に認識する嗅覚受容体が同定され,さらに,プロスタグランジンF2αの刺激により活性化される嗅覚中枢が見い出された.また,プロスタグランジンF2α受容体を欠損したゼブラフィッシュの行動学的な解析により,プロスタグランジンF2αはこの受容体を介してオスの誘引行動および求愛行動を促進することがわかった.以上の結果から,魚類における性フェロモンであるプロスタグランジンF2αによる性行動の発現の分子機構が明らかにされた.
はじめに
フェロモンは“ある個体から分泌され,受容した同種のほかの個体に特定の行動や内分泌の変化をひき起こす物質”と定義される.なかでも,性行動に対し作用を起こすものは性フェロモンとよばれる.たとえば,メスのカイコガから放出されるボンビコールは性フェロモンとしてはじめて同定された分子であり,オスを誘引する作用をもつ1).また,オスのマウスの涙に分泌されるESP1はメスがオスを受け入れる行動をひき起こす2)(新着論文レビュー でも掲載).さらに,キンギョにおいてはプロスタグランジンF2αがオスの性行動を誘起する性フェロモンであると報告されている3).
プロスタグランジンF2αは哺乳類においては子宮にて産生されるホルモンであり,黄体の退行や子宮平滑筋の収縮の作用のあることが知られており4),畜産業において分娩や発情を誘起させる薬としても使われている.プロスタグランジンF2αは魚類においては排卵期の卵巣にて産生され,排卵および産卵を誘発するホルモンとして機能する.1988年,排卵したキンギョを保持する水中においてプロスタグランジンF2αの濃度の上昇が見い出され,プロスタグランジンF2αが低濃度で嗅細胞を活性させること,さらに,オスの性行動をひき起こすことが報告された3).のちの研究において,ゼブラフィッシュを含む多くの魚類においても低濃度のプロスタグランジンF2αが嗅細胞を活性化することが示され,プロスタグランジンF2αが魚類において性フェロモンとして機能する可能性が示唆された5).
ホルモンとしてもフェロモンとしても作用するプロスタグランジンF2αはホルモン様フェロモンとよばれ6),メスの体内の情報をオスに伝達する手段として,さらには,オスとメスの性行動を同期させるために非常に重要な役割を担うと考えられている.しかしながら,プロスタグランジンF2αをフェロモンとして受容する分子機構やプロスタグランジンF2αにより活性化される神経回路についてはこれまでまったくわかっていなかった.この研究においては,ゼブラフィッシュを用いてプロスタグランジンF2αを認識する嗅覚受容体の同定および求愛行動の促進の神経機構について解析した.
1.プロスタグランジンF2αはオスのゼブラフィッシュを誘引する
ゼブラフィッシュはプロスタグランジンF2αに対しどのような行動応答を示すのか調べた.4~8匹のオスが泳いでいる水槽にプロスタグランジンF2αを投与すると,プロスタグランジンF2αへと誘引されるようすが観察された.嗅上皮を外科的に除去したゼブラフィッシュにおいてはこの誘引応答がまったく観察されなかったことから,プロスタグランジンF2αは嗅覚を介してオスのゼブラフィッシュを誘引することが明らかにされた.
2.プロスタグランジンF2αを特異的に認識する嗅覚受容体の同定
ゼブラフィッシュの嗅上皮には,形態,発現,嗅上皮における局在の異なる嗅細胞として繊毛嗅細胞,微絨毛嗅細胞,Crypt嗅細胞が存在する.プロスタグランジンF2αにより刺激したゼブラフィッシュの嗅上皮を神経の興奮のマーカーである抗リン酸化ERK抗体を用いて免疫組織染色をしたところ,繊毛嗅細胞が特異的に活性化されていることがわかった.おのおのの繊毛嗅細胞は約150種類のORファミリー受容体と約100種類のTAARファミリー受容体のうちどれか1種類の嗅覚受容体を選択的に発現する7).プロスタグランジンF2αはアミノ基をもたないため,その受容体が微量アミン関連受容体であるTAARファミリー受容体に属するとは考えにくく,ORファミリー受容体に的をしぼった.
ゼブラフィッシュのすべてのORファミリー受容体の遺伝子をPCR法によりクローニングしてcRNAプローブを作製し,プロスタグランジンF2αにより刺激した嗅上皮における蛍光二重in situハイブリダイゼーション法により,神経の興奮のマーカーであるc-Fos mRNAの発現と重なりの観察されるORファミリー受容体のmRNAを探索した.その結果,OR114-1がc-Fosに陽性の細胞の約90%において発現することがわかった.さらに,データベース検索によりOR114-1と57%のアミノ酸同一性を示す新規のORファミリー受容体を発見し,OR114-2と名づけた.これら2つのタンパク質は嗅覚受容体βグループに属し,一般的なプロスタノイド受容体とはまったく関連のないものであった.
3.プロスタグランジンF2αにより活性化される嗅覚の神経回路の解析
嗅細胞において受容された匂いあるいはフェロモンの情報は,嗅覚の1次中枢である嗅球の特定の糸球体へと伝達され匂い地図として表現される.そののち,この情報は終脳や間脳の高次の嗅覚中枢へと伝達され,匂い地図の解読とともに多様な行動の発現へといたる.そこで,嗅球においてプロスタグランジンF2αにより活性化される糸球体の同定を試みた.抗リン酸化ERK抗体を用いた嗅球のホールマウント免疫染色およびG-CaMP7発現トランスジェニックゼブラフィッシュにおける嗅球のCa2+イメージングにおいて,プロスタグランジンF2αは腹内側の領域の隣接する2つの糸球体を活性化することがわかった.この結果はこれまでの報告8) とも合致した.
プロスタグランジンF2αによる刺激により活性化される高次の嗅覚中枢をERKのリン酸化を指標にして解析した.その結果,終脳腹側部腹側核,視索前核,外側視床下部などの領域において,プロスタグランジンF2αの刺激に特異的なリン酸化ERKのシグナルが観察された.
4.プロスタグランジンF2α受容体を欠損したゼブラフィッシュにおける求愛行動の異常
プロスタグランジンF2α受容体であるOR114-1の生理機能を明らかにするため,TALENゲノム編集技術を用いてOR114-1を欠損したゼブラフィッシュを作製した.野生型のオスはプロスタグランジンF2αに対し顕著な誘引行動を示したが,OR114-1欠損体のオスにおいて誘引行動は観察されなかった.
野生型のメスに対するオスの求愛行動を野生型とOR114-1欠損体とで比較した.野生型のオスはメスに対し,追尾,接触,回り込みなどの求愛行動を頻繁に行ったが,OR114-1欠損体のオスにおいてこれらの回数および時間は大きく減少した.以上の結果から,プロスタグランジンF2α受容体であるOR114-1はゼブラフィッシュの求愛行動において重要な役割をはたすことが明らかにされた.
おわりに
プロスタグランジンF2α,プロスタグランジンD2,プロスタグランジンE2など各種のプロスタグランジンは,それぞれが特異的なプロスタノイド受容体を介して体内において多様な機能を発現するホルモンあるいはオータコイドとして知られてきた4).この研究においては,排卵期のメスのゼブラフィッシュから放出されるプロスタグランジンF2αが,性フェロモンとしてオスの嗅覚受容体と結合し求愛行動をひき起こすという個体のあいだのコミュニケーションの現象を,分子レベル,細胞レベル,さらには,神経回路レベルにおいて証明し,プロスタグランジンの研究において新たな地平を開拓した(図1).
性フェロモンであるプロスタグランジンF2αにより活性化される脳の高次の領域として,終脳腹側部腹側核および視索前核が見い出された.魚類において終脳腹側部腹側核は哺乳類の中核野に対応すると考えられており,マウスにおいて中核野が快感や報酬のモチベーションを制御すること9) との関連が示唆された.また,視索前核は哺乳類において交尾行動をつかさどると報告されている10).キンギョにおいては終脳腹側部腹側核あるいは視索前核を破壊すると産卵行動がいちじるしく阻害され11),サンフィッシュにおいては視索前核の電気刺激によりオスの求愛行動や放精が起こる12).以上のように,ゼブラフィッシュを用いて得られたこの研究における知見は,これまでに発表されている脳の高次の領域の生殖行動における機能と合致し,種の壁をこえた性行動の中枢の存在が示唆された.
文 献
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- Yoshihara, Y.: Zebrafish olfactory system. in The Olfactory System: From Odor Molecules to Motivational Behaviors (Mori, K. ed.), pp.71-96, Springer, Tokyo (2014)
- Friedrich, R. W. & Korsching, S. I.: Chemotopic, combinatorial, and noncombinatorial odorant representations in the olfactory bulb revealed using a voltage-sensitive axon tracer. J. Neurosci., 18, 9977-9988 (1998)[PubMed]
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著者プロフィール
略歴:2016年 長岡技術科学大学大学院工学研究科 修了,同年より理化学研究所脳科学総合研究センター 客員研究員.
研究テーマ:性フェロモンによりひき起こされる性行動の分子機構および神経機構.
関心事:同種あるいは異種を問わず,動物間のコミュニケーションの機構.嗅覚,聴覚,視覚など多くの感覚情報の統合がどのようにして起こり,適切な行動が選択されるのかに興味があります.
吉原 良浩(Yoshihiro Yoshihara)
理化学研究所脳科学総合研究センター シニア・チームリーダー.
© 2016 矢吹陽一・吉原良浩 Licensed under CC 表示 2.1 日本