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トリパノソーマのもつ型破りな動原体タンパク質の発見

2014年3月6日

秋吉 文悟
(英国Oxford大学Department of Biochemistry)
email:秋吉文悟
DOI: 10.7875/first.author.2014.034

Discovery of unconventional kinetochores in kinetoplastids.
Bungo Akiyoshi, Keith Gull
Cell, 156, 1247-1258 (2014)

要 約

 動原体は真核生物のセントロメアDNAに形成される巨大なタンパク質複合体であり,細胞分裂において染色体とスピンドル微小管とを結びつける役割をはたす.数十年におよぶ研究から,すべての真核生物は同じタイプの動原体タンパク質をもつだろうと,これまで広く信じられていた.しかしながら,キネトプラスト類において動原体タンパク質はまったくみつかっておらず,キネトプラスト類がどのような動原体をもつかは謎であった.今回,筆者らは,キネトプラスト類に属するトリパノソーマTrypanosoma bruceiから19個の動原体タンパク質を同定した.これらのタンパク質はキネトプラスト類においてよく保存されていたが,ほかの生物の動原体タンパク質とは相同性をまったくもたなかったことから,キネトプラスト類の動原体はこれまで知られていたものとは異なることが示唆された.トリパノソーマはアフリカ睡眠病などの疾患をひき起こすことから,これらの異なる動原体タンパク質はトリパノソーマに対し特異的な薬剤を開発するうえで有望な標的となる可能性をひめている.また,この発見は,キネトプラスト類が真核生物の進化の歴史のなかで,もっとも早く分岐したのではないかという仮説を支持した.

はじめに

 遺伝情報をもつ染色体は細胞分裂において娘細胞に正確に分配されなければならない.染色体の分配が正常に起こらないとがんや先天性異常などの疾患が生じる.真核生物の染色体分配は,セントロメアDNAに形成される動原体とよばれる巨大なタンパク質複合体がスピンドル微小管に結合することによりもたらされる.スピンドル微小管を構成するα/βチューブリンはこれまで調べられたすべての真核生物において保存されている1).動原体は非常に複雑な構造をしており,比較的単純と考えられている出芽酵母の動原体ですら,約40種類のコア動原体タンパク質から構成されている2).さまざまな生物において動原体タンパク質のホモログの候補がみつかっていることから,これまで,すべての真核生物の動原体は同じタイプのタンパク質から構成されているだろうと信じられてきた.とくに,セントロメアに特異的なヒストンH3のバリアントであるCENP-Aは,ゲノム塩基配列が解読されているほぼすべての生物において見い出されている3).しかしながら,例外的にCENP-Aのみつかっていない生物種が存在する.トリパノソーマを含むキネトプラスト類である.これまで5種以上のキネトプラスト類においてゲノム塩基配列が解読されているが,CENP-Aのホモログはみつかっておらず,また,ほかの動原体タンパク質もまったくみつかっていない4,5).これらのことから,キネトプラスト類の動原体はどのようなタンパク質から構成されているのか,まったくの謎であった.

1.トリパノソーマから19個の動原体タンパク質を発見した

 キネトプラスト類の動原体を構成するタンパク質について明らかにするため,実験系のよく確立されているトリパノソーマTrypanosoma bruceiを用い,タンパク質の局在をベースにしたスクリーニングを行った.S期もしくはG2期/M期において発現が上昇し,かつ,機能の知られていない遺伝子30個を選択し,蛍光タンパク質YFPとの融合タンパク質を発現する細胞株を作製することにより,それぞれの遺伝子がコードするタンパク質の局在について調べた.すると,動原体タンパク質が示すであろうと思われる局在パターンを示すタンパク質を,運よく1つ同定することができた.キネトプラスト類においてよく保存されていたことから,このタンパク質をKKT1(kinetoplastid kinetochore protein 1)と名づけた.
 トリパノソーマのもつ動原体タンパク質をさらに同定するため,YFP-KKT1融合タンパク質に対し抗GFP抗体を用いた免疫沈降および質量分析により共沈するタンパク質を決定した.この方法によりKKT1と特異的に共沈する12個の機能未知のタンパク質がみつかり,その局在をYFPタグにより調べたところ,この12個のタンパク質すべてが動原体タンパク質が示すであろうと思われる局在パターンを示した.よって,これらのタンパク質をKKT2~KKT13と名づけた.つぎに,これら12個のタンパク質を免疫沈降し共沈するタンパク質の局在を調べることにより,さらに6個の動原体タンパク質KKT14~KKT19を同定した.これら6個のタンパク質を免疫沈降したが,これ以上の動原体タンパク質はみつからなかった.
 これらのタンパク質が本当に動原体タンパク質であるかどうかを調べるため,クロマチン免疫沈降-塩基配列決定(ChIP-seq)法によりKKT2およびKKT3が染色体のどの部位に局在するか調べたところ,以前の研究で判明していたセントロメア部位6) において強いシグナルがみられた.さらに,これらのタンパク質が染色体分配に貢献するかどうか,6つのKKTタンパク質をRNAi法を用いてそれぞれノックダウンすることにより調べた.成長曲線,DNA含量,分裂後期における動原体の位置について調べたところ,これらKKTタンパク質は正常な染色体分配に必須であることが示された.これらの結果から,KKTタンパク質は動原体タンパク質であると結論づけた.

2.KKTタンパク質は既存の動原体タンパク質と相同性がみられない

 同定された19個のKKTタンパク質のアミノ酸配列についてくわしく調べたところ,驚くべきことが判明した.KKTタンパク質はほかの生物のもつ動原体タンパク質とは似ても似つかなかったのである.このこと自体はネガティブなデータであり,タンパク質の1次構造からだけでは相同性をみつけることができないだけなのかもしれなかった.しかし一方で,KKTタンパク質に特有の特徴がいくつもみられた.たとえば,4つのKKTタンパク質はキナーゼドメインをもっていた.このうち2つのキナーゼドメインは,ほかの真核生物のもついかなるキナーゼドメインとも強い相同性がみられなかった.残り2つのキナーゼドメインはCLKファミリーに属していたが,ほかの生物のもつ動原体タンパク質にこのファミリーに属するキナーゼドメインをもつものは知られていない.また,KKTタンパク質にはFHAドメインあるいはBRCTドメインをもつものがあったが,ほかの生物のもつ動原体タンパク質にこれらのドメインをもつものは知られていない.これらの結果から,キネトプラスト類のもつKKTタンパク質はほかの生物のもつ動原体タンパク質とは似ても似つかない,すなわち,異なるタンパク質である可能性が高いといえた.
 キネトプラスト類にはヒトに感染し疾患をひき起こすものも多い.たとえば,Trypanosoma bruceiはアフリカ睡眠病,Trypanosoma cruziはChagas病,Leishmaniaはリーシュマニア症をひき起こす7).現在,これらの疾患に対する薬剤として有効なものは少なく,毒性も高い.染色体分配はどの生物にとっても必須な過程であり,キネトプラスト類のもつ動原体タンパク質がほかの生物のものと異なることは,これらの動原体タンパク質がキネトプラスト類に対し特異的な薬剤の標的になりうるということを意味した.

3.KKTタンパク質の発見はキネトプラスト類が進化的に早い段階で分岐したという仮説を支持する

 真核生物の系統樹の根元の付近がどうなっているのかという問いに対する答えは,いまだはっきりしない.すなわち,真核生物の進化の歴史のなかで,どの生物がほかの生物から最初に分岐したのか,わかっていないのである.これまで複数の仮説が提唱されているが,どの仮説もそのもとになる証拠が強いとはいえず,意見の一致にはほど遠いのが現状である.それらの仮説のひとつに,キネトプラスト類を含むユーグレノゾアが進化的に最初に分岐したというものがある8)図1).これは,ユーグレノゾアにおいてミトコンドリアのシトクロムcあるいはシトクロムc1がほかのすべての真核生物とは異なるしくみでヘムと結合する,また,シトクロム生合成タンパク質がみつかっていないのはユーグレノゾアだけである9),というデータをもとにしている.ただし,諸々の理由から,この仮説を支持する研究者は少ないのが現状である10).しかし,今回の筆者らの発見は,この仮説と合致した.すなわち,キネトプラスト類は進化の早い段階でほかの真核生物と分岐したので,特有の動原体タンパク質から動原体を構成しているのではないか,ということである.いい換えると,今回の発見はこの物議を醸している仮説を支持することになった.この仮説が正しいかどうかについては今後の研究をみまもりたい.ただし,KKTタンパク質の進化の歴史がどうであれ,これらを解析することが真核生物における染色体分配の機構の解明に役だつことは確かであろう.

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おわりに

 このプロジェクトをはじめたばかりのころ,2010年に出版した論文11) について 新着論文レビュー にて紹介したのだが,その著者プロフィールにて,“トリパノソーマはCENP-Aをもたず,また,セントロメアのない染色体をもつたいへん興味深い生物である.この奇妙な生物を研究することにより,これまで酵母やヒトなどの真核モデル生物でわかってきた知見がほかの真核生物でどれだけ保存されているのか,または,まったく新しい機構が存在するのか,そして,染色体分配の進化的な起源などについてヒントが得られないか,などと考え中.夢は生きた細胞を試験管内でつくりだすこと”と記していた.思い起こせば,このプロジェクトをはじめる際には多くのことを危惧していた.1)トリパノソーマの実験系の容易さ,あるいは,むずかしさについての不確かさ.筆者は,それ以前,出芽酵母の動原体について研究していた.近くにはトリパノソーマを扱っている人はおらず,規制が厳しく思いどおりに実験が行えないのではないかという不安があった.2)トリパノソーマの動原体タンパク質を同定することは,どれだけむずかしいのか.はたして何年かかるのか? 3)トリパノソーマの動原体タンパク質を同定できたとして,何もおもしろいことがみつからない可能性.そもそも,トリパノソーマはCENP-Aをもたないといわれているが,本当にそうなのか? 既知の動原体タンパク質がみつかっていないのはその配列が大きく変化したためで,本質的にはほかの生物と同じなのではないのか? そのほかにも多くの不安な点があったが,ハイリスクハイリターンの精神でとりあえずやってみようと玉砕覚悟ではじめたプロジェクトであった.
 しかし,いざ蓋を開けてみれば想像以上にうまく進んだ.1)であるが,たしかに規制は厳しかったが実験に支障のでるレベルではなかった.分子生物学的な手法も多く確立されていたことからトリパノソーマの実験系は非常に扱いやすく,すぐに気に入った.2)であるが,1つ発見できれば残りは芋づる式に容易に同定できるだろうと思ったので,最初の1つをみつけるのに奨学金のある2年間は続けてみようと考えた.2年間やって何もみつからなければあきらめようと考えていたが,気がつくと1年たたないうちに1つ目の動原体タンパク質がみつかり,もう半年でさらに18個を同定することができた.こうなってくると,何個みつけなければならないのかという別の問題が生じたが,用いた手法ではこの19個以外はみつけられず,とりあえず安心した.3)であるが,おもしろいことがあるかどうか,そんなことはやってみなければわからない.研究なんぞ賭けのようなものである.トリパノソーマにCENP-Aが本当にないのであれば,少なくともその点を調べることに意味があるだろうと考えていた.いざ19個の動原体タンパク質をみつけ,いまあるバイオインフォマティクスの技術でいくら調べようともほかの動原体タンパク質との相同性がまったくみられなかったときには,喜んだのと同時に,それ以降,ほかの動原体タンパク質とは本当に違うのかという不安がつねにつきまとっている.これからの研究において,この19個の動原体タンパク質がどのように動原体の機能を担っているのかを解析することにより,ほかの動原体タンパク質とは本当に違うのか,また,完全に違うのかなどを調べていきたい.たとえば,結晶構造を明らかにし,ほかの動原体タンパク質と立体構造における類似性があるのかどうか調べることは重要な課題のひとつである.いずれにせよ,キネトプラスト類のもつこの奇妙な動原体タンパク質を研究することにより,真核生物の動原体をつくりあげるにはどの点が必須であるかを明らかにし,いつの日か,試験管内において完全に人工的な動原体をもつ細胞をつくりだすという夢にむかって努力していきたい.

文 献

  1. Wickstead, B. & Gull, K.: The evolution of the cytoskeleton. J. Cell Biol., 194, 513-525 (2011)[PubMed]
  2. Cheeseman, I. M. & Desai, A.: Molecular architecture of the kinetochore-microtubule interface. Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 9, 33-46 (2008)[PubMed]
  3. Talbert, P. B., Bayes, J. J. & Henikoff, S.: Evolution of centromeres and kinetochores: a two-part fugue. in The Kinetochore: From Molecular Discoveries to Cancer Therapy (De Wulf, P. & Earnshaw, W. C. eds.), pp. 1-37, Springer, New York (2009)
  4. Lowell, J. E. & Cross, G. A. M.: A variant histone H3 is enriched at telomeres in Trypanosoma brucei. J. Cell Sci., 117, 5937-5947 (2004)[PubMed]
  5. Berriman, M., Ghedin, E., Hertz-Fowler, C. et al.: The genome of the African trypanosome Trypanosoma brucei. Science, 309, 416-422 (2005)[PubMed]
  6. Obado, S. O., Bot, C., Nilsson, D. et al.: Repetitive DNA is associated with centromeric domains in Trypanosoma brucei but not Trypanosoma cruzi. Genome Biol., 8, R37 (2007)[PubMed]
  7. Stuart, K., Brun, R., Croft, S. et al.: Kinetoplastids: related protozoan pathogens, different diseases. J. Clin. Invest., 118, 1301-1310 (2008)[PubMed]
  8. Cavalier-Smith, T.: Kingdoms Protozoa and Chromista and the eozoan root of the eukaryotic tree. Biol. Lett., 6, 342-345 (2010)[PubMed]
  9. Allen, J. W. A., Ferguson, S. J. & Ginger, M. L.: Distinctive biochemistry in the trypanosome mitochondrial intermembrane space suggests a model for stepwise evolution of the MIA pathway for import of cysteine-rich proteins. FEBS Lett., 582, 2817-2825 (2008)[PubMed]
  10. Katz, L. A.: Origin and diversification of eukaryotes. Annu. Rev. Microbiol., 66, 411-427 (2012)[PubMed]
  11. Akiyoshi, B., Sarangapani, K. K., Powers, A. F. et al.: Tension directly stabilizes reconstituted kinetochore-microtubule attachments. Nature, 468, 576-579 (2010)[PubMed] [新着論文レビュー]

生命科学の教科書における関連するセクションへのリンク

東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.

著者プロフィール

秋吉 文悟(Bungo Akiyoshi)
略歴:2010年 米国Washington大学にてPh.D.取得,同年 英国Oxford大学 ポスドク研究員を経て,2013年より同 グループリーダー.
研究テーマ:型破りな動原体.
関心事:いきのいいポスドク・学生を募集中.
研究室URL:http://bungoakiyoshi.web.fc2.com/

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