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ノンレム睡眠における皮質のトップダウン入力による知覚記憶の固定化

2016年6月16日

宮本大祐・村山正宜
(理化学研究所脳科学総合研究センター 行動神経生理学研究チーム)
email:宮本大祐村山正宜
DOI: 10.7875/first.author.2016.059

Top-down cortical input during NREM sleep consolidates perceptual memory.
D. Miyamoto, D. Hirai, C. C. A. Fung, A. Inutsuka, M. Odagawa, T. Suzuki, R. Boehringer, C. Adaikkan, C. Matsubara, N. Matsuki, T. Fukai, T. J. McHugh, A. Yamanaka, M. Murayama
Science, 352, 1315-1318 (2016)

要 約

 睡眠には起きているあいだの知覚体験を記憶として固定化させる機能がある.感覚情報などの外部からの入力の少ない睡眠の際の脳において,高次脳領域から低次脳領域へのトップダウンの情報により知覚記憶が固定化すると考えられている.しかし,実際に脳のトップダウン回路と記憶の固定化とのあいだに因果関係があるのかどうかは不明であった.今回,筆者らは,マウスにおいて大脳新皮質の高次皮質から感覚皮質へのトップダウン回路を操作し,記憶の固定化におよぼす影響について検討した.知覚学習の直後に深い眠りであるノンレム睡眠においてトップダウン入力を抑制すると,感覚皮質における再活性化が抑制され,知覚記憶の固定化が障害された.反対に,学習の直後のノンレム睡眠において高次皮質と感覚皮質を同期して刺激したところ,学習した知覚記憶はより長く保持された.学習の直後に断眠させながら同期して刺激した場合においても,通常の睡眠をとった場合と比べ,より長いあいだ知覚記憶を保持していた.

はじめに

 外界の情報は受容器を介し中枢神経系をとおり脳へと伝わり,その情報は知覚体験される.脳において中枢神経系から最初に情報を受け取る領域を低次脳領域とよび,低次脳領域からさらに情報を受け取りより複雑な処理をする領域を高次脳領域とよぶ.低次脳領域から高次脳領域への経路をボトムアップ回路とよぶが,逆に,高次脳領域から低次脳領域に情報が伝達されるような経路をトップダウン回路とよぶ.知覚学習によりトップダウンの方向の情報の連絡が強化されることが霊長類1) やげっ歯類2) において知られており,記憶を思い出す想起への関与が示唆されてきた.では,知覚体験を想起の可能な記憶として固定化する過程においてもトップダウン回路は関与するのだろうか?
 記憶の固定化には睡眠の関与が知られている.睡眠のときには感覚情報を知覚する機能が低下しており,新たな感覚情報を伝えるボトムアップ入力はあまり入ってこない.そこで,長年にわたり脳におけるトップダウンの情報処理が記憶の固定化に関与すると考えられてきた3).しかし,実際にトップダウン回路を操作すると,知覚記憶の固定化が向上あるいは低下するかどうかは不明であった.
 筆者らは,先行研究において,触覚の知覚にかかわる大脳新皮質のトップダウン回路を発見した4)新着論文レビュー でも掲載).大脳新皮質の第2運動野から第1体性感覚野へのトップダウン回路が形成される.マウスにおいてこのトップダウン入力を抑制すると,皮膚感覚の正常な知覚が阻害されることが見い出された.今回は,第2運動野および第1体性感覚野における神経活動の操作が知覚記憶の固定化におよぼす影響について調べた.

1.マウスにおいて触覚記憶の固定化を調べるための行動試験の開発

 触覚に関する知覚記憶の固定化を調べるためのマウスの行動課題として床面認識課題を確立した(図1).1日目,マウスを10分間,床がツルツルの材質である箱の内部を自由に探索させた.床の左右には探索用のオブジェクトが設置してある.これを学習期間とする.そののち,マウスをホームケージにもどし,24時間おく.これを休息期間とする.2日目,床の半分がツルツルの材質,半分がデコボコの材質の箱を用意し,前日と同じオブジェクトを設置して,マウスを自由に探索させた.これを試験期間とする.すると,マウスはなじみのない新しい環境を好んで探索する性質をもつので,ツルツルの床面に置かれたオブジェクトよりも,はじめて体験するデコボコの床面に置かれたオブジェクトをより長い時間にわたり探索した.2日目にみられた,一方の質感の床面への滞在時間のかたよりは,前日に経験した床面の質感を記憶し,その記憶にもとづく新しい質感の床面への選好性を示すと考えられるので,このかたよりを知覚記憶の指標として用いた.

figure1

 この行動課題において,睡眠が記憶の固定化に必要であるかどうかを調べるため,休息期間のマウスが不動状態のときにケージをゆらして睡眠を阻害し断眠させた.マウスが学習した直後の1時間において断眠させると,2日目における新規な床面への選好性は低下した.一方,学習の6~7時間後において断眠させても記憶の成績には影響しなかった.これより,学習の直後の睡眠が知覚記憶の固定化に必要であることがわかった.

2.ノンレム睡眠におけるトップダウン入力の記憶の固定化への関与

 マウスの脳の状態は少なくとも3つに分類できる.覚醒状態,深い眠りであるノンレム睡眠,浅い眠りであるレム睡眠,である.そこで,マウスの脳波および筋電位から脳の状態をリアルタイムで判定し,特定の脳の状態のあいだだけ,第2運動野から第1体性感覚野への投射を光遺伝学的な手法5) により抑制した(図2).学習の直後のノンレム睡眠において光の照射によりトップダウン回路を抑制すると知覚記憶の固定化は阻害されたが,学習の6~7時間後のノンレム睡眠におけるトップダウン回路の抑制は記憶の固定化に影響しなかった.一方,学習の直後の覚醒においてトップダウン回路を抑制しても記憶の固定化には影響しなかった.これより,学習の直後のノンレム睡眠におけるトップダウン入力が記憶の固定化に必要であることがわかった.

figure2

 第2運動野から第1体性感覚野への経路はほかの知覚記憶にも関与するのか検討するため,視覚を用いる物体位置認識試験を行った.近年,物体位置認識試験は睡眠に依存的な記憶の固定化を調べる行動試験としてさかんに利用されており6,7),今回,学習の直後の1時間の断眠により記憶の固定化が障害されることが確認された.しかし,学習の直後のノンレム睡眠において第2運動野から第1体性感覚野への経路を抑制しても記憶の固定化は障害されなかった.これより,ノンレム睡眠のときのモダリティに選択的なトップダウン経路が記憶の固定化に関与することが示唆された.

3.ノンレム睡眠における大脳新皮質の神経活動の解析

 記憶の固定化がどのような神経活動により担われているかを調べるため,第2運動野および第1体性感覚野に電極を刺入し局所フィールド電位を記録した.局所フィールド電位は記録電極の周囲にあるニューロンの集団の活動をとらえており,そのオンオフのリズムと関連する.ノンレム睡眠においては,第2運動野および第1体性感覚野においてデルタ帯域の低周波の局所フィールド電位が観察され,これらの局所フィールド電位は同期していた.第2運動野および第1体性感覚野における脳波に対しGranger因果性解析を行った.Granger因果性解析は,経時変化する2つの変数Xおよび変数Y(たとえば,気温およびビールの消費量)において,変数X(たとえば,気温)から変数Y(たとえば,ビールの消費量)への予測を試みる手法である8).その結果,実際に第2運動野から第1体性感覚野へのトップダウンの方向に情報が流れていることが見い出された.第2運動野から第1体性感覚野へのトップダウン入力を抑制すると,この情報の流れは抑制された.
 第2運動野および第1体性感覚野におけるユニット記録により単一のニューロンのレベルにおける神経活動を記録した.第2運動野および第1体性感覚野において,学習において活性化したニューロンは学習ののちのノンレム睡眠においても再活性化していた.第2運動野から第1体性感覚野へのトップダウン入力を抑制すると,第2運動野における再活性化は阻害されなかったが,第1体性感覚野における再活性化が阻害された.これまでの研究において,記憶の固定化には神経活動の再活性化が重要だと考えられてきたが9),実際に,どの脳領域が再活性化を誘発するのかまったくわかっていなかった.これらの結果から,感覚記憶の固定化に不可欠な感覚野における再活性化には,皮質のトップダウン入力が必要であることが示された.

4.大脳皮質の刺激による記憶の固定化の増強

 睡眠の際にトップダウン回路を抑制すると記憶の固定化が阻害されたが,逆に,トップダウン回路の活性化が記憶の固定化におよぼす影響について検討した.大脳新皮質を刺激するため,大脳新皮質の興奮性ニューロンにチャネルロドプシンを発現した遺伝子改変マウスを用いた10).光感受性のイオンチャネルであるチャネルロドプシンを発現したニューロンに光を照射すると,外部からニューロンに陽イオンが流入し,結果的に,ニューロンの活動は活性化される.学習ののちのノンレム睡眠において,第2運動野および第1体性感覚野をデルタ帯域のリズムで同期させた光を用いて刺激した.光刺激していない通常のマウスにおいては,学習の4日後に床面認識課題を行うと,1日目の知覚記憶を忘れており床面の選好性を示さなかった.ところが,同期して光刺激したマウスは学習から4日たっても記憶を保持していた.一方で,光を同期させずに位相をずらして光刺激すると,翌日には記憶を忘れていた.この結果から,大脳新皮質に対する特定の刺激により記憶の固定化を制御することが可能であることが示された.
 断眠されたマウスにおいても同期した光刺激により記憶の固定化が可能かどうか調べた.これまでの実験においてはノンレム睡眠を検出して光刺激していたが,断眠させるとノンレム睡眠は生じないため,光刺激のタイミングが不明瞭になる.そこで,通常の睡眠をとったマウスにおけるノンレム睡眠のパターンにあわせて,断眠させたマウスに対し同期して光刺激した.その結果,学習から1日後においても4日後においても知覚記憶を保持していた.このことから,睡眠不足の場合でも,大脳新皮質を適切に刺激すれば記憶を維持あるいは向上させることが可能なことがわかった.

おわりに

 今回,筆者らは,知覚記憶の固定化には学習の直後のノンレム睡眠におけるトップダウン入力が必要であることを証明した.また,記憶の固定化に関連する神経活動の再活性化には,このトップダウン入力が関連することが示された.さらに,睡眠不足の状態でも,適切なタイミングで大脳新皮質を刺激することにより知覚記憶を向上させることができることも示された.質の良い睡眠は心と体を正常に保つため重要であるが,知覚記憶の固定化に関しては睡眠は必要でない可能性を示す驚くべき結果であった.一般にマウスは約12時間の睡眠をとるが,今回,神経活動を操作した時間は合計で30分間であった.睡眠のたった4%の時間の神経活動の操作により記憶を向上あるいは低下できることは驚きであった.
 第2運動野および第1体性感覚野は皮膚感覚の知覚情報に関連した感覚野であるが,視覚野や聴覚野などほかの感覚野においても似たような記憶の固定化の機構のある可能性がある.今回,光刺激した感覚野を含む大脳新皮質は脳の表面に位置するので,近年,臨床において用いられはじめている経頭蓋磁気刺激や経頭蓋直流刺激により,ヒトにおいても同様な刺激をあたえることが可能である.臨床への展開にむけ,刺激のパターンをより検討し改良することにより,記憶障害をともなう睡眠障害の患者や高齢者への応用が期待される.

文 献

  1. Miyashita, Y.: Cognitive memory: cellular and network machineries and their top-down control. Science, 306, 435-440 (2004)[PubMed]
  2. Makino, H. & Komiyama, T.: Learning enhances the relative impact of top-down processing in the visual cortex. Nat Neurosci., 18, 1116-1122 (2015)[PubMed] [新着論文レビュー]
  3. Tononi, G. & Cirelli, C.: Sleep and the price of plasticity: from synaptic and cellular homeostasis to memory consolidation and integration. Neuron, 81, 12-34 (2014)[PubMed]
  4. Manita, S., Suzuki, T., Homma, C. et al.: A top-down cortical circuit for accurate sensory perception. Neuron, 86, 1304-1316 (2015)[PubMed] [新着論文レビュー]
  5. Tsunematsu, T., Kilduff, T. S., Boyden, E. S. et al.: Acute optogenetic silencing of orexin/hypocretin neurons induces slow-wave sleep in mice. J. Neurosci., 31, 10529-10539 (2011)[PubMed]
  6. Boyce, R., Glasgow, S. D., Williams, S. et al.: Causal evidence for the role of REM sleep theta rhythm in contextual memory consolidation. Science, 352, 812-816 (2016)[PubMed]
  7. Maingret, N., Girardeau, G., Todorova, R. et al.: Hippocampo-cortical coupling mediates memory consolidation during sleep. Nat. Neurosci., 19, 959-964 (2016)[PubMed]
  8. Brovelli, A., Ding, M., Ledberg, A. et al.: Beta oscillations in a large-scale sensorimotor cortical network: directional influences revealed by Granger causality. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101, 9849-9854 (2004)[PubMed]
  9. Yang, G., Lai, C. S., Cichon, J. et al.: Sleep promotes branch-specific formation of dendritic spines after learning. Science, 344, 1173-1178 (2014)[PubMed]
  10. Beltramo, R., D’Urso, G., Dal Maschio, M. et al.: Layer-specific excitatory circuits differentially control recurrent network dynamics in the neocortex. Nat. Neurosci., 16, 227-234 (2013)[PubMed]

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著者プロフィール

宮本 大祐(Daisuke Miyamoto)
略歴:2014年 東京大学大学院薬学系研究科博士課程 修了,同年 名古屋大学環境医学研究所 研究員,理化学研究所脳科学総合研究センター 客員研究員を経て,2016年より米国Wisconsin大学Madison校 客員研究員.
研究テーマ:神経生理学,睡眠の機能.
抱負:脳神経回路の研究をつうじて睡眠の機能を明らかにしていきたい.

村山 正宜(Masanori Murayama)
理化学研究所脳科学総合研究センター チームリーダー.
研究室URL:http://www.riken.jp/research/labs/bsi/behav_neurophysiol/

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