自己免疫疾患における全身に発現するタンパク質に対するT細胞性の免疫反応の検出
伊藤能永・坂口志文
(京都大学再生医科学研究所 生体機能調節学分野)
email:坂口志文
DOI: 10.7875/first.author.2014.130
Detection of T cell responses to a ubiquitous cellular protein in autoimmune disease.
Yoshinaga Ito, Motomu Hashimoto, Keiji Hirota, Naganari Ohkura, Hiromasa Morikawa, Hiroyoshi Nishikawa, Atsushi Tanaka, Moritoshi Furu, Hiromu Ito, Takao Fujii, Takashi Nomura, Sayuri Yamazaki, Akimichi Morita, Dario A. A. Vignali, John W. Kappler, Shuichi Matsuda, Tsuneyo Mimori, Noriko Sakaguchi, Shimon Sakaguchi
Science, 346, 363-368 (2014)
これまで,関節リウマチを代表とする全身性の自己免疫疾患において,発症の原因となるT細胞を同定することは困難であった.その理由のひとつは,これらの自己反応性のT細胞の多くが全身に発現する自己抗原を認識し,そのため胸腺において除去あるいは不活性化されていると考えられたからである.この研究において,T細胞受容体のシグナルの強度を弱めることにより自己反応性T細胞の負の選択に対する感受性を低下させ,自己反応性T細胞が胸腺から産生されるようになることが示された.また,この方法により自己免疫性関節炎の原因となるT細胞を産生するようになったマウスから関節炎をひき起こすT細胞受容体が遺伝子クローニングされ,さらに,そのT細胞受容体が認識する自己抗原が特定された.そのうちのひとつは全身に発現するタンパク質RPL23Aであった.さらに,関節リウマチの患者においてRPL23Aに反応するT細胞および自己抗体が検出された.今後は,同様の方法によりさまざまな自己免疫疾患において病因に関する理解が進む可能性がある.
T細胞は自己抗原に対する反応を介してさまざまな自己免疫疾患をひき起こす1).しかし,これまで,関節リウマチなどの全身性の自己免疫疾患の原因となる自己反応性のT細胞が,どの自己抗原を認識するかを特定することは困難であった.その原因のひとつとして,それらの疾患を惹起するようなT細胞は全身に発現する自己抗原に対し高親和性のT細胞受容体をもつため,通常は胸腺において負の選択によりその多くが除去され,末梢における検出がむずかしい点があった.この問題に対し,これまで筆者らを含むいくつかの研究グループは,T細胞受容体のシグナルの強度を変えることにより胸腺で分化しつつあるT細胞の正の選択および負の選択に対する感受性を変化させ,全身性の自己免疫疾患の原因となるような自己反応性のT細胞が体内におけるT細胞の主要なレパートリーとなるようにできることを示してきた2-6).たとえば,ZAP-70をコードする遺伝子に特定の機能低下型の点変異をもつSKGマウスは,関節リウマチに酷似したT細胞に依存性の自己免疫性関節炎を自然発症する.この研究において,このSKGマウスを用いて,自己免疫性関節炎の原因となるT細胞,および,それが認識する全身に発現する自己抗原が同定された.
SKGマウスに存在する自己免疫性関節炎の原因となるCD4陽性T細胞が,特定のT細胞受容体を発現しているかどうかについて検討した.異なるT細胞受容体を発現するSKGマウスに由来するCD4陽性T細胞をそれぞれ別々に免疫不全マウスに養子移入すると,おのおののレシピエントマウスは同じ程度の関節炎を発症した.また,SKGマウスの関節炎の局所に集積するT細胞のもつT細胞受容体の配列は,おのおののレシピエントマウスにおいて異なっていた.これらの結果から,SKGマウスに由来する関節炎の原因となるCD4陽性T細胞は非常にポリクローナルであり,さまざまなT細胞受容体をもつと考えられた.つぎに,SKGマウスから自己免疫性関節炎の原因となるCD4陽性T細胞のクローンの単離を試みた.SKGマウスの関節炎の局所に存在するおのおののCD4陽性T細胞から単一のT細胞に由来するT細胞受容体の遺伝子をクローニングし,遺伝子組換えが起こらないことによりT細胞およびB細胞を欠損するRAGノックアウトSKGマウスの骨髄細胞へと遺伝子導入した.この骨髄細胞を免疫不全マウスへ養子移入すると単一のT細胞受容体を発現するT細胞のみをもつレトロジェニックマウスを作製することができ7),このマウスが疾患を発症するかどうかを検討することにより遺伝子導入したT細胞受容体の疾患惹起性の有無がわかる(図1).この方法により9種類のT細胞受容体について検討したところ,2種類のT細胞受容体,7-39 T細胞受容体および6-39 T細胞受容体と名づけたT細胞受容体をそれぞれもつレトロジェニックマウスは,80%および27.3%の個体において関節炎を自然発症した.関節炎を発症した7-39 T細胞受容体をもつレトロジェニックマウスの関節は,単核細胞の浸潤,パンヌスの形成,軟骨の破壊といった関節リウマチと同様の病理組織な所見を示した.また,このレトロジェニックマウスの66.7%は乾癬に類似した慢性皮膚炎を発症した.それ以外の臓器には組織学的に異常は認められなかった.7-39 T細胞受容体を導入した細胞は,レトロジェニックマウスにおいてモノクローナルな活性化CD4陽性T細胞へと分化しており,さらにほかの免疫不全マウスへ養子移入するともとのマウスと同様の関節炎や皮膚炎を惹起した.7-39 T細胞受容体をもつレトロジェニックマウスも対照となる関節炎を起こさないレトロジェニックマウスも,Foxp3陽性の制御性T細胞はもたなかった.ZAP-70に変異をもつSKGマウスに由来する7-39 T細胞受容体をもつレトロジェニックマウスは関節炎を発症したのに対し,野生型のZAP-70をもつレトロジェニックマウスは関節炎を発症しなかった.このレトロジェニックマウスでは,7-39 T細胞受容体を発現したCD4陽性T細胞はそのほとんどが胸腺において除去されていた一方,胸腺における負の選択をのがれたT細胞は不活性化されていた.これらの結果より,自己免疫性関節炎や自己免疫性皮膚炎の発症には特定のT細胞受容体をもつT細胞が必要であること,複数の種類のT細胞受容体が関節炎の原因となりうることが明らかになった.
7-39 T細胞受容体あるいは6-39 T細胞受容体が認識する自己抗原を同定するため,これらのT細胞受容体を発現するハイブリドーマ細胞株を樹立した.7-39 T細胞受容体を発現するハイブリドーマはSKGマウスの関節滑膜細胞あるいは形質細胞株に由来する細胞破砕液の刺激により活性化された.一方,6-39 T細胞受容体を発現するハイブリドーマは抗原提示細胞からの刺激により活性化されたため,抗原提示細胞に恒常的に提示されている自己抗原を認識しているものと考えられた.
7-39 T細胞受容体の認識する自己抗原をさらに絞り込むため,7-39 T細胞受容体をもつレトロジェニックマウスにT細胞受容体β鎖のノックアウトマウスの骨髄細胞を移入することによりB細胞を補充した.この“B細胞再構築”したマウスではT細胞は7-39 T細胞受容体を発現するCD4陽性T細胞のみからもたらされるため,7-39 T細胞受容体が認識する自己抗原に特異的な自己抗体のみが血清に分泌されると想定された.実際に,この“B細胞再構築”された7-39 T細胞受容体をもつレトロジェニックマウスの血清を形質細胞株に由来する細胞破砕液に対し免疫ブロット法により反応させると,18 kDのタンパク質が特異的に検出された.この18 kDタンパク質は免疫沈降法および質量分析法により全身に発現するタンパク質RPL23Aであることがわかった8).マウスにおいては疾患のない状態でも全身のさまざまな臓器においてRPL23A mRNAが発現していた.また,RPL23Aのアミノ酸配列はマウスとヒトとで100%保存されていた.“B細胞再構築”された7-39 T細胞受容体をもつレトロジェニックマウスの血清の自己抗体は組換えRPL23Aと反応した.また,7-39 T細胞受容体を発現するハイブリドーマはMHCクラスII分子を介し組換えRPL23Aの濃度に依存して活性化された.さらに,RPL23Aに由来するペプチドのうち,RPL23Aの71番目から90番目のペプチドがもっとも強力に7-39 T細胞受容体を刺激した.“B細胞再構築”した7-39 T細胞受容体をもつレトロジェニックマウスには,関節リウマチの患者において特異的に上昇の認められる抗シトルリン化ペプチド抗体の上昇が認められた.一方,RPL23Aに対する抗体量は,シトルリン化したRPL23Aに対してもシトルリン化していないRPL23Aに対しても同じ程度であった.また,6-39 T細胞受容体はRPL23Aに由来するペプチドとは反応しなかった.以上の結果より,全身に発現するRPL23Aが関節炎および皮膚炎の標的抗原となりうること,関節炎の発症に際して,複数の種類の全身に発現する自己抗原が標的になっていることが示された.
“B細胞再構築”した7-39 T細胞受容体をもつレトロジェニックマウスのCD4陽性T細胞は養子移入によりほかの免疫不全マウスに関節炎を起こすことができたが,このレトロジェニックマウスに由来する血清は関節炎を起こすことができなかった.実際に,7-39 T細胞受容体をもつレトロジェニックマウスのリンパ節のCD4陽性T細胞は,組換えRPL23AあるいはRPL23Aの71番目から90番目のペプチドにより刺激すると,インターロイキン17A,インターフェロンγ,GM-CSFといった炎症性サイトカインを分泌した.さらに,組換えRPL23Aの刺激によりSKGマウスのもつCD4陽性T細胞はインターロイキン17Aを分泌し,関節炎を起こしているSKGマウスではその分泌が増加していた.SKGマウスの関節炎の局所のCD4陽性T細胞には,7-39 T細胞受容体のVβ鎖のCDR3と同じ配列のVβ鎖をもつものが含まれていた.制御性T細胞が7-39 T細胞を抑制できるかどうかを養子移入の系において検討したところ,野生型のZAP-70をもつ制御性T細胞もSKGマウスに由来する変異型のZAP-70をもつ制御性T細胞も,すでに活性化している7-39 T細胞を抑制して関節炎の発症を予防することはできなかった.これらの結果から,RPL23Aは7-39 T細胞受容体をもつレトロジェニックマウスのCD4陽性T細胞をMHCクラスII分子を介して活性化し,関節炎をひき起こすエフェクターヘルパーT細胞へと分化させることがわかった.
関節リウマチの患者において,RPL23Aに特異的な免疫反応の有無について検討した.RPL23A mRNAは健常人のさまざまな臓器において発現していた.免疫組織染色により,変形性関節症の患者の滑膜組織のうち正常な構造が保たれている部位,あるいは,関節リウマチの患者の滑膜組織においてRPL23Aの発現が認められ,とくに,CD55陽性の繊維芽細胞様の滑膜細胞など,滑膜細胞の細胞質部分に発現していた.また,関節リウマチの患者の16.8%では血清において免疫グロブリンG型の抗RPL23A抗体が陽性であり,これは健常人に比べ優位に高い割合であった.また,変形性関節症,全身性エリテマトーデス,多発性筋炎/皮膚筋炎の患者では抗RPL23A抗体に陽性例はなかったのに対し,乾癬性関節炎の患者では23例のうち3例において弱陽性となった.さらに,33%の関節リウマチの患者の関節液において,RPL23Aに反応してインターフェロンγを分泌するCD4陽性T細胞が検出された.マウスモデルにおいてRPL23Aに特異的なT細胞が自己免疫性関節炎および乾癬様の皮膚炎の原因となったことより,これらの結果から,RPL23Aに対する自己免疫反応が,少なくとも一部の関節リウマチや乾癬性関節炎の患者においても疾患惹起性をもつものと考えられた.
この研究において,T細胞受容体のシグナルの強度を弱めることにより胸腺における自己抗原による負の選択に対する感受性を減弱させ,全身で発現する自己抗原を特異的に認識するT細胞をT細胞のレパートリーにおいて主要なクローンとして産生できること,さらに,そのT細胞が実際に末梢において全身性の自己免疫疾患を起こすことが示された.
T細胞受容体のシグナルをさまざまな強度に調整することと,制御性T細胞を除去することとを組み合わせると,マウスにおいてほかのさまざまな自己免疫疾患が再現できることを勘案すると4,9),この研究の方法論は,これまで原因不明であった種々の自己免疫疾患の発症機構の解明に役だつと考えられる.また,T細胞シグナルを担うタンパク質の遺伝子多型が関節リウマチを含むさまざまなヒト自己免疫疾患における主要な疾患関連遺伝子多型のひとつであることから10),このような遺伝子多型が実際に,少なくとも部分的には胸腺におけるT細胞の選択に影響をあたえ,疾患の原因となるT細胞のレパートリーを形成している可能性がある.この研究の結果は,全身に発現するタンパク質に対するT細胞の免疫応答がどのように局所的な組織破壊を起こしているのかを明らかにし,全身あるいは局所的に作用するような効果的な自己免疫疾患の治療法の開発につながるものである.
略歴:2009年 京都大学大学院医学研究科にて博士号取得,同年 京都大学再生医科学研究所 ポスドクを経て,2011年より同 助教.
研究テーマ:自己反応性T細胞.
坂口 志文(Shimon Sakaguchi)
大阪大学免疫学フロンティア研究センター 教授.
研究室URL:http://exp.immunol.ifrec.osaka-u.ac.jp/
© 2014 伊藤能永・坂口志文 Licensed under CC 表示 2.1 日本
(京都大学再生医科学研究所 生体機能調節学分野)
email:坂口志文
DOI: 10.7875/first.author.2014.130
Detection of T cell responses to a ubiquitous cellular protein in autoimmune disease.
Yoshinaga Ito, Motomu Hashimoto, Keiji Hirota, Naganari Ohkura, Hiromasa Morikawa, Hiroyoshi Nishikawa, Atsushi Tanaka, Moritoshi Furu, Hiromu Ito, Takao Fujii, Takashi Nomura, Sayuri Yamazaki, Akimichi Morita, Dario A. A. Vignali, John W. Kappler, Shuichi Matsuda, Tsuneyo Mimori, Noriko Sakaguchi, Shimon Sakaguchi
Science, 346, 363-368 (2014)
要 約
これまで,関節リウマチを代表とする全身性の自己免疫疾患において,発症の原因となるT細胞を同定することは困難であった.その理由のひとつは,これらの自己反応性のT細胞の多くが全身に発現する自己抗原を認識し,そのため胸腺において除去あるいは不活性化されていると考えられたからである.この研究において,T細胞受容体のシグナルの強度を弱めることにより自己反応性T細胞の負の選択に対する感受性を低下させ,自己反応性T細胞が胸腺から産生されるようになることが示された.また,この方法により自己免疫性関節炎の原因となるT細胞を産生するようになったマウスから関節炎をひき起こすT細胞受容体が遺伝子クローニングされ,さらに,そのT細胞受容体が認識する自己抗原が特定された.そのうちのひとつは全身に発現するタンパク質RPL23Aであった.さらに,関節リウマチの患者においてRPL23Aに反応するT細胞および自己抗体が検出された.今後は,同様の方法によりさまざまな自己免疫疾患において病因に関する理解が進む可能性がある.
はじめに
T細胞は自己抗原に対する反応を介してさまざまな自己免疫疾患をひき起こす1).しかし,これまで,関節リウマチなどの全身性の自己免疫疾患の原因となる自己反応性のT細胞が,どの自己抗原を認識するかを特定することは困難であった.その原因のひとつとして,それらの疾患を惹起するようなT細胞は全身に発現する自己抗原に対し高親和性のT細胞受容体をもつため,通常は胸腺において負の選択によりその多くが除去され,末梢における検出がむずかしい点があった.この問題に対し,これまで筆者らを含むいくつかの研究グループは,T細胞受容体のシグナルの強度を変えることにより胸腺で分化しつつあるT細胞の正の選択および負の選択に対する感受性を変化させ,全身性の自己免疫疾患の原因となるような自己反応性のT細胞が体内におけるT細胞の主要なレパートリーとなるようにできることを示してきた2-6).たとえば,ZAP-70をコードする遺伝子に特定の機能低下型の点変異をもつSKGマウスは,関節リウマチに酷似したT細胞に依存性の自己免疫性関節炎を自然発症する.この研究において,このSKGマウスを用いて,自己免疫性関節炎の原因となるT細胞,および,それが認識する全身に発現する自己抗原が同定された.
1.自己免疫性関節炎をひき起こすT細胞受容体の同定
SKGマウスに存在する自己免疫性関節炎の原因となるCD4陽性T細胞が,特定のT細胞受容体を発現しているかどうかについて検討した.異なるT細胞受容体を発現するSKGマウスに由来するCD4陽性T細胞をそれぞれ別々に免疫不全マウスに養子移入すると,おのおののレシピエントマウスは同じ程度の関節炎を発症した.また,SKGマウスの関節炎の局所に集積するT細胞のもつT細胞受容体の配列は,おのおののレシピエントマウスにおいて異なっていた.これらの結果から,SKGマウスに由来する関節炎の原因となるCD4陽性T細胞は非常にポリクローナルであり,さまざまなT細胞受容体をもつと考えられた.つぎに,SKGマウスから自己免疫性関節炎の原因となるCD4陽性T細胞のクローンの単離を試みた.SKGマウスの関節炎の局所に存在するおのおののCD4陽性T細胞から単一のT細胞に由来するT細胞受容体の遺伝子をクローニングし,遺伝子組換えが起こらないことによりT細胞およびB細胞を欠損するRAGノックアウトSKGマウスの骨髄細胞へと遺伝子導入した.この骨髄細胞を免疫不全マウスへ養子移入すると単一のT細胞受容体を発現するT細胞のみをもつレトロジェニックマウスを作製することができ7),このマウスが疾患を発症するかどうかを検討することにより遺伝子導入したT細胞受容体の疾患惹起性の有無がわかる(図1).この方法により9種類のT細胞受容体について検討したところ,2種類のT細胞受容体,7-39 T細胞受容体および6-39 T細胞受容体と名づけたT細胞受容体をそれぞれもつレトロジェニックマウスは,80%および27.3%の個体において関節炎を自然発症した.関節炎を発症した7-39 T細胞受容体をもつレトロジェニックマウスの関節は,単核細胞の浸潤,パンヌスの形成,軟骨の破壊といった関節リウマチと同様の病理組織な所見を示した.また,このレトロジェニックマウスの66.7%は乾癬に類似した慢性皮膚炎を発症した.それ以外の臓器には組織学的に異常は認められなかった.7-39 T細胞受容体を導入した細胞は,レトロジェニックマウスにおいてモノクローナルな活性化CD4陽性T細胞へと分化しており,さらにほかの免疫不全マウスへ養子移入するともとのマウスと同様の関節炎や皮膚炎を惹起した.7-39 T細胞受容体をもつレトロジェニックマウスも対照となる関節炎を起こさないレトロジェニックマウスも,Foxp3陽性の制御性T細胞はもたなかった.ZAP-70に変異をもつSKGマウスに由来する7-39 T細胞受容体をもつレトロジェニックマウスは関節炎を発症したのに対し,野生型のZAP-70をもつレトロジェニックマウスは関節炎を発症しなかった.このレトロジェニックマウスでは,7-39 T細胞受容体を発現したCD4陽性T細胞はそのほとんどが胸腺において除去されていた一方,胸腺における負の選択をのがれたT細胞は不活性化されていた.これらの結果より,自己免疫性関節炎や自己免疫性皮膚炎の発症には特定のT細胞受容体をもつT細胞が必要であること,複数の種類のT細胞受容体が関節炎の原因となりうることが明らかになった.
2.関節炎の原因となるT細胞が認識する全身で発現する自己抗原の同定
7-39 T細胞受容体あるいは6-39 T細胞受容体が認識する自己抗原を同定するため,これらのT細胞受容体を発現するハイブリドーマ細胞株を樹立した.7-39 T細胞受容体を発現するハイブリドーマはSKGマウスの関節滑膜細胞あるいは形質細胞株に由来する細胞破砕液の刺激により活性化された.一方,6-39 T細胞受容体を発現するハイブリドーマは抗原提示細胞からの刺激により活性化されたため,抗原提示細胞に恒常的に提示されている自己抗原を認識しているものと考えられた.
7-39 T細胞受容体の認識する自己抗原をさらに絞り込むため,7-39 T細胞受容体をもつレトロジェニックマウスにT細胞受容体β鎖のノックアウトマウスの骨髄細胞を移入することによりB細胞を補充した.この“B細胞再構築”したマウスではT細胞は7-39 T細胞受容体を発現するCD4陽性T細胞のみからもたらされるため,7-39 T細胞受容体が認識する自己抗原に特異的な自己抗体のみが血清に分泌されると想定された.実際に,この“B細胞再構築”された7-39 T細胞受容体をもつレトロジェニックマウスの血清を形質細胞株に由来する細胞破砕液に対し免疫ブロット法により反応させると,18 kDのタンパク質が特異的に検出された.この18 kDタンパク質は免疫沈降法および質量分析法により全身に発現するタンパク質RPL23Aであることがわかった8).マウスにおいては疾患のない状態でも全身のさまざまな臓器においてRPL23A mRNAが発現していた.また,RPL23Aのアミノ酸配列はマウスとヒトとで100%保存されていた.“B細胞再構築”された7-39 T細胞受容体をもつレトロジェニックマウスの血清の自己抗体は組換えRPL23Aと反応した.また,7-39 T細胞受容体を発現するハイブリドーマはMHCクラスII分子を介し組換えRPL23Aの濃度に依存して活性化された.さらに,RPL23Aに由来するペプチドのうち,RPL23Aの71番目から90番目のペプチドがもっとも強力に7-39 T細胞受容体を刺激した.“B細胞再構築”した7-39 T細胞受容体をもつレトロジェニックマウスには,関節リウマチの患者において特異的に上昇の認められる抗シトルリン化ペプチド抗体の上昇が認められた.一方,RPL23Aに対する抗体量は,シトルリン化したRPL23Aに対してもシトルリン化していないRPL23Aに対しても同じ程度であった.また,6-39 T細胞受容体はRPL23Aに由来するペプチドとは反応しなかった.以上の結果より,全身に発現するRPL23Aが関節炎および皮膚炎の標的抗原となりうること,関節炎の発症に際して,複数の種類の全身に発現する自己抗原が標的になっていることが示された.
3.SKGマウスのもつRPL23Aに特異的なT細胞
“B細胞再構築”した7-39 T細胞受容体をもつレトロジェニックマウスのCD4陽性T細胞は養子移入によりほかの免疫不全マウスに関節炎を起こすことができたが,このレトロジェニックマウスに由来する血清は関節炎を起こすことができなかった.実際に,7-39 T細胞受容体をもつレトロジェニックマウスのリンパ節のCD4陽性T細胞は,組換えRPL23AあるいはRPL23Aの71番目から90番目のペプチドにより刺激すると,インターロイキン17A,インターフェロンγ,GM-CSFといった炎症性サイトカインを分泌した.さらに,組換えRPL23Aの刺激によりSKGマウスのもつCD4陽性T細胞はインターロイキン17Aを分泌し,関節炎を起こしているSKGマウスではその分泌が増加していた.SKGマウスの関節炎の局所のCD4陽性T細胞には,7-39 T細胞受容体のVβ鎖のCDR3と同じ配列のVβ鎖をもつものが含まれていた.制御性T細胞が7-39 T細胞を抑制できるかどうかを養子移入の系において検討したところ,野生型のZAP-70をもつ制御性T細胞もSKGマウスに由来する変異型のZAP-70をもつ制御性T細胞も,すでに活性化している7-39 T細胞を抑制して関節炎の発症を予防することはできなかった.これらの結果から,RPL23Aは7-39 T細胞受容体をもつレトロジェニックマウスのCD4陽性T細胞をMHCクラスII分子を介して活性化し,関節炎をひき起こすエフェクターヘルパーT細胞へと分化させることがわかった.
4.関節リウマチの患者におけるRPL23Aに特異的な液性免疫および細胞性免疫
関節リウマチの患者において,RPL23Aに特異的な免疫反応の有無について検討した.RPL23A mRNAは健常人のさまざまな臓器において発現していた.免疫組織染色により,変形性関節症の患者の滑膜組織のうち正常な構造が保たれている部位,あるいは,関節リウマチの患者の滑膜組織においてRPL23Aの発現が認められ,とくに,CD55陽性の繊維芽細胞様の滑膜細胞など,滑膜細胞の細胞質部分に発現していた.また,関節リウマチの患者の16.8%では血清において免疫グロブリンG型の抗RPL23A抗体が陽性であり,これは健常人に比べ優位に高い割合であった.また,変形性関節症,全身性エリテマトーデス,多発性筋炎/皮膚筋炎の患者では抗RPL23A抗体に陽性例はなかったのに対し,乾癬性関節炎の患者では23例のうち3例において弱陽性となった.さらに,33%の関節リウマチの患者の関節液において,RPL23Aに反応してインターフェロンγを分泌するCD4陽性T細胞が検出された.マウスモデルにおいてRPL23Aに特異的なT細胞が自己免疫性関節炎および乾癬様の皮膚炎の原因となったことより,これらの結果から,RPL23Aに対する自己免疫反応が,少なくとも一部の関節リウマチや乾癬性関節炎の患者においても疾患惹起性をもつものと考えられた.
おわりに
この研究において,T細胞受容体のシグナルの強度を弱めることにより胸腺における自己抗原による負の選択に対する感受性を減弱させ,全身で発現する自己抗原を特異的に認識するT細胞をT細胞のレパートリーにおいて主要なクローンとして産生できること,さらに,そのT細胞が実際に末梢において全身性の自己免疫疾患を起こすことが示された.
T細胞受容体のシグナルをさまざまな強度に調整することと,制御性T細胞を除去することとを組み合わせると,マウスにおいてほかのさまざまな自己免疫疾患が再現できることを勘案すると4,9),この研究の方法論は,これまで原因不明であった種々の自己免疫疾患の発症機構の解明に役だつと考えられる.また,T細胞シグナルを担うタンパク質の遺伝子多型が関節リウマチを含むさまざまなヒト自己免疫疾患における主要な疾患関連遺伝子多型のひとつであることから10),このような遺伝子多型が実際に,少なくとも部分的には胸腺におけるT細胞の選択に影響をあたえ,疾患の原因となるT細胞のレパートリーを形成している可能性がある.この研究の結果は,全身に発現するタンパク質に対するT細胞の免疫応答がどのように局所的な組織破壊を起こしているのかを明らかにし,全身あるいは局所的に作用するような効果的な自己免疫疾患の治療法の開発につながるものである.
文 献
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著者プロフィール
略歴:2009年 京都大学大学院医学研究科にて博士号取得,同年 京都大学再生医科学研究所 ポスドクを経て,2011年より同 助教.
研究テーマ:自己反応性T細胞.
坂口 志文(Shimon Sakaguchi)
大阪大学免疫学フロンティア研究センター 教授.
研究室URL:http://exp.immunol.ifrec.osaka-u.ac.jp/
© 2014 伊藤能永・坂口志文 Licensed under CC 表示 2.1 日本