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血管の周囲に形成される白血球のクラスターは皮膚におけるT細胞の活性化に必須である

江川形平・椛島健治
(京都大学大学院医学研究科 皮膚科学分野)
email:江川形平椛島健治
DOI: 10.7875/first.author.2014.123

Perivascular leukocyte clusters are essential for efficient activation of effector T cells in the skin.
Yohei Natsuaki, Gyohei Egawa, Satoshi Nakamizo, Sachiko Ono, Sho Hanakawa, Takaharu Okada, Nobuhiro Kusuba, Atsushi Otsuka, Akihiko Kitoh, Tetsuya Honda, Saeko Nakajima, Soken Tsuchiya, Yukihiko Sugimoto, Ken J. Ishii, Hiroko Tsutsui, Hideo Yagita, Yoichiro Iwakura, Masato Kubo, Lai guan Ng, Takashi Hashimoto, Judilyn Fuentes, Emma Guttman-Yassky, Yoshiki Miyachi, Kenji Kabashima
Nature Immunology, 15, 1064-1069 (2014)




要 約


 皮膚はさまざまな外的な刺激につねにさらされており,そこでは多彩な免疫応答が起こっている.しかしながら,末梢組織である皮膚においてT細胞がどのように効率よく活性化されているのかは不明であった.この研究では,記憶免疫の古典的なモデルとして知られる接触皮膚炎のマウスモデルを用いて,外的な刺激により真皮の樹状細胞およびT細胞がインテグリンのひとつLFA-1に依存して血管の周囲にクラスターを形成すること,このクラスターの形成には皮膚マクロファージの存在が不可欠であること,これらの免疫応答はインターロイキン1およびCXCL2のシグナルに依存していること,を見い出した.これらの発見は,皮膚において誘導される血管の周囲の白血球のクラスターが皮膚における免疫応答の制御に必須であることを示唆した.

はじめに


 皮膚は肺や腸管とならび外界との境界を構成する臓器であり,生体防御の最前線として多彩な免疫応答の場となっている.接触皮膚炎はいわゆる“かぶれ“のことで,もっとも頻繁に遭遇する皮膚疾患のひとつであるが,その反応は免疫学的には感作相と惹起相の2つに分類される1).感作相は,皮膚の内部に侵入した抗原を表皮のランゲルハンス細胞や真皮の樹状細胞といった抗原提示細胞が取り込み所属リンパ節へと遊走する免疫応答である.すなわち,抗原提示細胞が抗原を提示する相手はナイーブT細胞で,抗原提示の場はリンパ節の内部である.一方で,惹起相は,感作の成立した個体の皮膚にふたたび同じ抗原が侵入した際に開始される免疫応答である.抗原を取り込んだ抗原提示細胞は皮膚へと浸潤してきたT細胞に抗原を提示し,特異的な抗原を認識したT細胞が活性化され,すみやかに皮膚炎が誘導される.すなわち,抗原提示細胞が抗原を提示する相手はエフェクターT細胞で,抗原提示の場は皮膚の内部である.惹起相における皮膚の内部でのT細胞への抗原提示はこの免疫応答の誘導におけるもうひとつの重要なステップであるが,抗原提示細胞のどのサブセットが重要であるのか,また,抗原の提示を効率よく行うための分子機構の存在については未解明であった.この研究では,接触皮膚炎のマウスモデルを用い,皮膚の内部でどのようにT細胞が活性化されるのかについて,その分子機構にせまった.

1.惹起相においては真皮の樹状細胞が抗原提示細胞として必須である


 惹起相において抗原提示細胞のどのサブセットが重要であるかを検討した.皮膚の抗原提示細胞は表皮のランゲルハンス細胞と真皮の樹状細胞とに大きく分けられる.遺伝子改変マウスを用いて,すべての皮膚の樹状細胞,あるいは,それぞれのサブセットの除去を選択的に誘導できるマウスを作製した.これらのマウスに抗原を感作し,惹起の前日にそれぞれの抗原提示細胞のサブセットを除去した.ランゲルハンス細胞のみを除去した場合には惹起応答は問題なく生じたが,すべての皮膚の樹状細胞,あるいは,真皮の樹状細胞を選択的に除去した場合には皮膚の内部におけるT細胞の活性化は起こらず,惹起応答はほぼ消失した.これらの結果から,皮膚の内部におけるT細胞の活性化には真皮の樹状細胞の存在が必須であることが明らかになった.

2.真皮の樹状細胞によるクラスターの形成


 惹起相における皮膚の内部での樹状細胞およびT細胞の実際の動態を2光子顕微鏡により観察したところ,興味深い現象が観察された.惹起のまえには真皮の内部に散在しランダムに動きまわっていた真皮の樹状細胞が,抗原を塗布したのち徐々に集まりクラスターを形成したのである.このクラスターは主として真皮の血管の周囲に形成され,また,同じ部位には皮膚に浸潤してきたT細胞も集積していた.すなわち,皮膚のなかに“抗原提示の場”が誘導されたのである.この真皮の樹状細胞とT細胞によるクラスターの形成は,インテグリンのひとつLFA-1を抗体でブロックすることにより阻害された.すなわち,リンパ節の内部と同様に,皮膚における樹状細胞とT細胞との会合にもLFA-1およびICAM1を介する細胞接着が必須であることが示された.
 ヒトの接触皮膚炎の患者の生検標本においても同様の真皮の樹状細胞とT細胞のクラスターが存在し,また,その直上の表皮に強い湿疹反応が誘導されていることが観察された.また,真皮の樹状細胞のクラスターは惹起相のみならず感作相においてもみつかり,このクラスターはT細胞に非依存性,かつ,獲得免疫に非依存性に形成されることが明らかになった.

3.真皮の樹状細胞と皮膚マクロファージとのかかわり


 真皮の樹状細胞とT細胞によるクラスターの形成はどのような分子機構により誘導されるのだろうか.遺伝子改変マウスや抗体を用いて,皮膚の内部に常在する,あるいは,浸潤してくるさまざまな種類の免疫細胞を選択的に除去し,真皮の樹状細胞によるクラスターの形成にあたえる影響を評価した.好中球,好塩基球,肥満細胞,T細胞,B細胞のそれぞれを除去した場合にはクラスターの形成は障害されなかったが,真皮の組織マクロファージを除去したところクラスターの形成の著明な抑制が認められた.このとき,皮膚の内部におけるT細胞の活性化も著明に抑制されていた.これらの結果から,真皮の樹状細胞によるクラスターの形成は皮膚の内部におけるT細胞の活性化に必須であること,クラスターの形成には真皮の組織マクロファージの存在が不可欠であることが示された.

4.樹状細胞を集合させる分子機構


 真皮の樹状細胞と皮膚マクロファージとの相互作用にどのような分子機構が介在しているのか検討した.さきに述べたように,真皮の樹状細胞によるクラスターの形成は感作相においても観察されたことから,皮膚マクロファージはなんらかの危険シグナル(danger signal)を介して活性化されていると考えられた.実際に,代表的な危険シグナルであるインターロイキン1αシグナルを阻害すると真皮の樹状細胞によるクラスターの形成は著明に抑制された.インターロイキン1αがどの細胞に由来するのかは明らかではないが,表皮の角化細胞は定常状態においても多量のインターロイキン1αを蓄積し,擦れるといった細胞死をともなわない機械的な刺激によってもインターロイキン1αを放出することが報告されていることから2),表皮の角化細胞が最初のトリガーとなっていることが推測された.
 マクロファージは,リポ多糖やインターフェロンγにより誘導される,いわゆる古典的活性化マクロファージと,インターロイキン4やインターロイキン13により誘導される選択的活性化マクロファージとに大別される.古典的活性化マクロファージはインターロイキン1α受容体を発現していないことから,選択的活性化マクロファージが真皮の樹状細胞によるクラスターの形成に関与していると考えられた.実際に,古典的活性化マクロファージに分化させたマクロファージにインターロイキン1αを添加してもサイトカインの産生に変化はみられなかったが,選択的活性化マクロファージからはCCL5,CCL17,CCL22,CXCL2といったサイトカインの産生が誘導された.なかでも,CXCL2の発現の誘導が顕著であり,CXCL2の阻害により真皮の樹状細胞によるクラスターの形成も抑制されることが示された.

5.抗原提示の場としての皮膚


 これらの知見から,皮膚も抗原提示の場としての機能をもちうること明らかになった.腸管あるいは肺といった粘膜上皮では,末梢組織における抗原提示の場として,気管支関連リンパ系組織あるいは粘膜関連リンパ組織とよばれるリンパ様の構造が形成されることが知られている3).皮膚については,1980年代に,皮膚関連リンパ組織という概念が提唱されたものの4,5),その実体は証明されていなかった.今回,筆者らが示した,真皮の樹状細胞によるクラスターは皮膚における“抗原提示の場”であり,皮膚関連リンパ組織そのものであるといえた.しかし,このクラスターは定常的には存在せず炎症によってのみ誘導されたことから,誘導的皮膚関連リンパ組織とよぶほうが適切であろう.

おわりに


 接触皮膚炎のマウスモデルをつうじて得られた,皮膚マクロファージの新しい役割の概略を示す(図1).1)外的な刺激を感受した表皮の角化細胞からインターロイキン1αをはじめとする危険シグナルが産生される.2)危険シグナルを受け取った血管の周囲の皮膚マクロファージがCXCL2などのサイトカインを産生する.3)それらのサイトカインにより真皮の樹状細胞によるクラスターが形成され,T細胞に効率よく抗原を提示する誘導的皮膚関連リンパ組織が皮膚の内部に形成される.4)活性化されたT細胞はインターフェロンγをはじめとするサイトカインを産生しすみやかに皮膚炎を誘導する.真皮の組織マクロファージはおもに外来の抗原や死細胞を取り除き組織の恒常性を維持する貪食細胞としての役割を担っていると考えられてきたが,今回の研究をつうじ,獲得免疫においても重要な役割を担っていることが明らかになった.今後,皮膚免疫疾患の新しい治療戦略として,皮膚マクロファージの機能制御を標的とする薬剤の開発が期待される.




文 献



  1. Honda, T., Egawa, G., Grabbe, S. et al.: Update of immune events in the murine contact hypersensitivity model: toward the understanding of allergic contact dermatitis. J. Invest. Dermatol., 133, 303-315 (2013)[PubMed]

  2. Lee, R. T., Briggs, W. H., Rossiter, H. B. et al.: Mechanical deformation promotes secretion of IL-1α and IL-1 receptor antagonist. J. Immunol., 159, 5084-5088 (1997)[PubMed]

  3. Brandtzaeg, P., Baekkevold, E. S., Farstad, I. N. et al.: Regional specialization in the mucosal immune system: what happens in the microcompartments? Immunol. Today, 20, 141-151 (1999)[PubMed]

  4. Streilein, J. W.: Skin-associated lymphoid tissues (SALT): origins and functions. J. Invest. Dermatol., 80(Suppl.), 12s-16s (1983)[PubMed]

  5. Egawa, G. & Kabashima, K.: Skin as a peripheral lymphoid organ: revisiting the concept of skin-associated lymphoid tissue. J. Invest Dermatol., 131, 2178-2185 (2011)[PubMed]





著者プロフィール


江川 形平(Gyohei Egawa)
略歴:2008年 京都大学大学院医学研究科博士課程 修了,同年 次世代免疫制御を目指す創薬医学融合拠点 研究員,2010年 京都大学大学院医学研究科 助教を経て,2012年より同 研究員.
研究テーマ:皮膚におけるさまざまな免疫応答の生細胞イメージング.

椛島 健治(Kenji Kabashima)
京都大学大学院医学研究科 准教授.

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