C型レクチン受容体Dectin-2は結核菌の細胞壁のマンノース付加リポアラビノマンナンを認識して宿主の免疫応答に寄与する
米川晶子・山崎 晶
(九州大学生体防御医学研究所 感染ネットワーク研究センター分子免疫学分野)
email:山崎 晶
DOI: 10.7875/first.author.2014.115
Dectin-2 is a direct receptor for mannose-capped lipoarabinomannan of mycobacteria.
Akiko Yonekawa, Shinobu Saijo, Yoshihiko Hoshino, Yasunobu Miyake, Eri Ishikawa, Maho Suzukawa, Hiromasa Inoue, Masato Tanaka, Mitsutoshi Yoneyama, Masatsugu Oh-hora, Koichi Akashi, Sho Yamasaki
Immunity, 41, 402-413 (2014)
結核菌などのミコバクテリアに特有の細胞壁の成分のうち,マンノース付加リポアラビノマンナンは宿主の免疫応答に対し抑制性と刺激性の両方の活性を示すことが知られている.しかし,その多面的な作用を説明しうるような受容体は,はっきりとは同定されていない.筆者らは,この研究において,C型レクチン受容体であるDectin-2がマンノース付加リポアラビノマンナンの受容体であることを見い出した.マンノース付加リポアラビノマンナンはDectin-2に依存して樹状細胞を活性化し,炎症性サイトカインおよび抑制性サイトカインの産生を誘導した.また,Dectin-2を介して樹状細胞において抗原に特異的なT細胞の応答を増強することもわかった.さらに,マウス自己免疫疾患モデルにおいてマンノース付加リポアラビノマンナンのもつアジュバント活性が明らかにされた.実際の感染において,Dectin-2ノックアウトマウスは肺における病態の悪化を示した.以上より,Dectin-2はマンノース付加リポアラビノマンナンを認識し,ミコバクテリアに対する宿主の免疫応答に寄与することが明らかになった.
結核菌を含むミコバクテリアの細胞壁は,トレハロースジミコール酸,ミコール酸,ホスファチジルミオイノシトールマンノシド,リポマンナン,リポアラビノマンナンなど,宿主の免疫応答に影響を及ぼす多彩な成分をもつ.主要なリポグリカンであるリポアラビノマンナンは結核菌のもつ重要な病原因子である1).リポアラビノマンナンは,マンノシルホスファチジルイノシトールアンカー,マンノース骨格,アラビナン領域,キャップ構造という4つの構成要素からなり,キャップ構造は菌種により異なっている.マンノースの付加されたリポアラビノマンナン,ホスファチジルイノシトールの付加されたリポアラビノマンナン,キャップ構造を欠くリポアラビノマンナンが知られており,なかでも,マンノース付加リポアラビノマンナンは結核菌をはじめ病原性をもつミコバクテリアにみられ,宿主の免疫応答に対し多面的な効果を発揮することから1),これまで精力的に研究されてきた.一方で,C型レクチン受容体であるDC-SIGN(CD209),そのマウスにおける相同体であるSIGNR1(CD209b)およびSIGNR3(CD209)や2-4),MMR 5)(CD206)など,これまで多くのタンパク質がマンノース付加リポアラビノマンナンに対する受容体であると提唱されてきた.しかし,そのいずれもマンノース付加リポアラビノマンナンのもつ刺激性および抑制性の両方の効果を説明するには不十分であったことから,筆者らは,未知の受容体の探索をめざした.
近年,筆者らは,C型レクチン受容体であるMincleおよびMCLが結核菌に対する受容体であることを報告した6,7).同じくC型レクチン受容体であるDectin-2は,その遺伝子が第6染色体においてMincleおよびMCLの遺伝子と隣接し,Fc受容体γ鎖と会合し8),真菌Candida albicansの菌糸を感知しこれに対する感染防御にはたらく9,10).Dectin-2とMCLは遺伝子重複により生じ種間でよく保存されていることから7),これらが“ミコバクテリア受容体”として進化をとげ,Dectin-2もミコバクテリアを認識する可能性について考えた.
リガンドの認識を蛍光により検出できるインジケーター細胞を用いて,Dectin-2が結核菌を認識するかどうか調べた.Dectin-2はMincleと同様に,強毒株である結核菌H37Rv株やワクチン株であるウシ型結核菌BCGを認識したが,Dectin-2のリガンドはMincleのリガンドであるトレハロースジミコール酸とは異なっていた.ウシ型結核菌BCGの成分の分画において,水性画分のみがDectin-2に対する活性を示した.結核菌のもつ親水性成分のうちリポアラビノマンナンはもっとも豊富なリポグリカンであることから11),結核菌に由来するリポアラビノマンナンを用いてDectin-2発現インジケーター細胞を刺激したところ,このインジケーター細胞は活性化され,Dectin-2がリポアラビノマンナンを認識することが明らかになった.
さまざまな菌株を用いた検討により,Dectin-2はマンノース付加リポアラビノマンナンをもつ菌株を認識するが,キャップ構造を欠くリポアラビノマンナンをもつ菌株は認識しないことがわかった.また,マンノース付加リポアラビノマンナンをαマンノシダーゼにより処理してマンノースを取り除くとDectin-2に対する活性は失われた.さらに,マンノースの結合に重要なEPN配列をガラクトース結合型のQPD配列に置換したインジケーター細胞を用いることにより,Dectin-2によるマンノース付加リポアラビノマンナンおよびミコバクテリアの認識はそのEPNモチーフに依存していることが確認された.以上の結果から,Dectin-2はマンノース付加リポアラビノマンナンを介してミコバクテリアを認識し,Dectin-2とマンノース付加リポアラビノマンナンとの相互作用にはマンノース付加リポアラビノマンナンのキャップ構造およびDectin-2のマンノースとの結合能の両方が必要であることがわかった.
樹状細胞は骨髄系細胞のなかでDectin-2をもっとも豊富に発現することから12),骨髄に由来する樹状細胞を用いてマンノース付加リポアラビノマンナンの刺激によるサイトカインの産生について検討した.マンノース付加リポアラビノマンナンはトレハロースジミコール酸と同様に,MIP-2,TNF,インターロイキン6などの炎症性サイトカインの産生をその濃度に依存して誘導した.Dectin-2ノックアウトマウスの骨髄に由来する樹状細胞においてはマンノース付加リポアラビノマンナンにより誘導されるサイトカインの産生は消失したが,トレハロースジミコール酸を介するサイトカインの産生は変化しなかった.ウシ型結核菌BCGの感染によるTNFあるいはインターロイキン6の産生については,Dectin-2に非依存的な産生は残存したものの,野生型マウスと比較してDectin-2ノックアウトマウスの骨髄に由来する樹状細胞においては部分的に減少した.これらのことから,Dectin-2が樹状細胞におけるマンノース付加リポアラビノマンナンによる炎症性サイトカインの産生に決定的な意味をもつことが示された.
マンノース付加リポアラビノマンナン-Dectin-2経路の抗炎症作用に焦点をあて,マンノース付加リポアラビノマンナンが炎症性サイトカインにくわえ,抗炎症性サイトカインであるインターロイキン10の産生をDectin-2に依存して誘導することも見い出された.他方,トレハロースジミコール酸あるいはリポ多糖ではインターロイキン10あるいはインターロイキン2の産生は誘導されなかった.さらに,ウシ型結核菌BCGの感染におけるインターロイキン10あるいはインターロイキン2の産生は,TNFとは対照的に,Dectin-2ノックアウトマウスの骨髄に由来する樹状細胞ではほぼ完全に障害された.また,キャップ構造を欠くリポアラビノマンナンをもつMycobacterium abscessusは,MIP-2の産生は誘導したのに対し,インターロイキン10あるいはインターロイキン2の産生は誘導できなかった.これらの結果から,ミコバクテリアに応答したインターロイキン10あるいはインターロイキン2の産生において,Dectin-2が中心的な役割をはたしていることが示唆された.
マンノース付加リポアラビノマンナンが炎症反応を惹起するかどうか,生体にマンノース付加リポアラビノマンナンを投与することにより検討した.まず,マウスにリポアラビノマンナンあるいはリポ多糖を気管から投与し,気管支肺胞洗浄液における炎症細胞の浸潤およびサイトカインの産生について評価した.野生型マウスにおいてリポ多糖はTNFの産生や細胞の浸潤を有意に増加させたが,マンノース付加リポアラビノマンナンは顕著な炎症反応は誘導しなかった.Dectin-2およびMincleの共通のサブユニットであるFc受容体γ鎖を欠損したマウスにマンノース付加リポアラビノマンナンを投与しても,野生型マウスと比べて明らかな差はみられなかった.
静脈からの投与において,トレハロースジミコール酸の投与では,既報のとおり6),炎症性の肺の腫脹および肺における肉芽腫の形成が確認された.それに対して,同量のマンノース付加リポアラビノマンナンの投与では肺の腫脹や肉芽腫の形成は惹起されなかった.これらの結果から,マンノース付加リポアラビノマンナンは,トレハロースジミコール酸やリポ多糖などほかの病原細菌関連分子パターン(pathogen-associated molecular pattern:PAMP)と比べ,肺に強い炎症をひき起こさないことが示された.
マンノース付加リポアラビノマンナンのアジュバント活性について生体外において評価した.樹状細胞の成熟に対する効果を調べるため,マンノース付加リポアラビノマンナンにより刺激した骨髄に由来する樹状細胞における補助刺激分子の発現について評価した.すると,マンノース付加リポアラビノマンナンは野生型の骨髄に由来する樹状細胞においてCD40およびCD80の発現を亢進させたが,Dectin-2,あるいは,Dectin-2およびMincleの共通のサブユニットであるFc受容体γ鎖が存在しないとその効果はみられず,マンノース付加リポアラビノマンナンがDectin-2に依存して樹状細胞の成熟を促進することが示された.
マンノース付加リポアラビノマンナンによる刺激に対する樹状細胞のもつ抗原提示能について調べた.骨髄に由来する樹状細胞と卵白アルブミンに特異的なOT-II T細胞受容体トランスジェニックマウスに由来するT細胞との共培養系において,OT-II T細胞の抗原に特異的なインターロイキン17の産生はマンノース付加リポアラビノマンナンにより処理した樹状細胞と共培養した際に有意に増強した.他方,Dectin-2を欠損した樹状細胞を用いると,この増強効果は著明に減弱した.共培養上清におけるインターロイキン10の濃度は抗原の濃度に依存して上昇し,マンノース付加リポアラビノマンナン-Dectin-2経路により刺激された樹状細胞の存在のもと,インターロイキン10を産生するT細胞が分化したことが示唆された.
以上から,生体外におけるマンノース付加リポアラビノマンナンによる刺激は樹状細胞のもつ抗原提示能を増強し,Dectin-2に依存してインターロイキン17の産生を促進することが示唆された.
生体外においてマンノース付加リポアラビノマンナンによるDectin-2の活性化によりインターロイキン17の産生の誘導が確認されたことから,Th17細胞に依存性の自己免疫疾患のマウスモデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎について調べた.マンノース付加リポアラビノマンナンをアジュバントとしてマウスに投与すると,野生型マウスはすべて実験的自己免疫性脳脊髄炎を発症したのに対し,Dectin-2ノックアウトマウスはまったく発症しなかった.この知見から,マンノース付加リポアラビノマンナンに対するほかの受容体は,生体においてDectin-2の欠損を代償できないことがわかった.
さらに,免疫したマウスから鼠径,腰部,腋窩リンパ節を採取し,リンパ節細胞を生体外において抗原により刺激したところ,野生型マウスに比べDectin-2ノックアウトマウスにおいてはインターロイキン17,インターフェロンγ,GM-CSFの産生がみられず,抗原に特異的なT細胞の応答は完全に障害されることがわかった.これらの結果から,マンノース付加リポアラビノマンナンは生体においてもアジュバント活性を示し,Dectin-2はマンノース付加リポアラビノマンナンのアジュバント活性において必須の受容体であることが示された.
ミコバクテリアの感染におけるDectin-2の役割について検討した.近年,非結核性抗酸菌症は罹患率が増加の傾向にあり,結核とならび臨床的に大きな問題となっている.そこで,非結核性抗酸菌症の原因であるMycobacterium avium complexを野生型マウスおよびDectin-2ノックアウトマウスに経鼻的に感染させた.感染ののち3週間の肺における細菌の量に有意な変化はなかったものの,コロニー形成単位の平均値は野生型マウスに比べDectin-2ノックアウトマウスにおいて増加した.感染させたDectin-2ノックアウトマウスの肺は有意に腫脹しており,病理組織学的な悪化も認められた.感染ののちの肺におけるケモカインの濃度は野生型マウスに比べDectin-2ノックアウトマウスにおいて上昇しており,肺に定着した細菌によるケモカインの産生の誘導が考えられた.また,感染させたマウスにおける抗原に特異的なT細胞の応答において,Dectin-2ノックアウトマウスに由来する脾臓のT細胞では大量のインターフェロンγの産生が認められた.このように,Dectin-2の欠損にともない,おそらく,細菌の排除が不十分になり,肺の病態は悪化し獲得免疫応答が増強したと考えられた.これらの結果から,Dectin-2がミコバクテリアの感染に対する宿主の防御応答に関与していることが示唆された.
筆者らは,この研究において,Dectin-2がミコバクテリアの細胞壁の構成成分であるマンノース付加リポアラビノマンナンの機能的な受容体であることを示した.マンノース付加リポアラビノマンナンはDectin-2により認識され,樹状細胞において炎症性サイトカインおよび抑制性サイトカインの産生を誘導した.また,マンノース付加リポアラビノマンナンは有害な炎症を惹起することなく,アジュバントとしてT細胞を介する獲得免疫応答を増強した.Dectin-2およびMincleは,Fc受容体γ鎖,さらに,その下流のシグナル伝達経路を共有する.しかし,マンノース付加リポアラビノマンナン-Dectin-2経路がトレハロースジミコール酸-Mincle経路とは異なる免疫応答を誘導する分子機構は,いまだに不明である(図1).今後,その解析を進めることにより,有害な炎症を最小限に抑えて獲得免疫応答の増強を促進する有用なアジュバントの開発につながることが期待される.
略歴:九州大学大学院医学系学府博士課程 在学中.
研究テーマ:C型レクチンを介する自己と非自己の認識機構およびその意義.
関心事:感染症における免疫の役割.
山崎 晶(Sho Yamasaki)
九州大学生体防御医学研究所 教授.
研究室URL:http://www.bioreg.kyushu-u.ac.jp/labo/molimm/
© 2014 米川晶子・山崎 晶 Licensed under CC 表示 2.1 日本
(九州大学生体防御医学研究所 感染ネットワーク研究センター分子免疫学分野)
email:山崎 晶
DOI: 10.7875/first.author.2014.115
Dectin-2 is a direct receptor for mannose-capped lipoarabinomannan of mycobacteria.
Akiko Yonekawa, Shinobu Saijo, Yoshihiko Hoshino, Yasunobu Miyake, Eri Ishikawa, Maho Suzukawa, Hiromasa Inoue, Masato Tanaka, Mitsutoshi Yoneyama, Masatsugu Oh-hora, Koichi Akashi, Sho Yamasaki
Immunity, 41, 402-413 (2014)
要 約
結核菌などのミコバクテリアに特有の細胞壁の成分のうち,マンノース付加リポアラビノマンナンは宿主の免疫応答に対し抑制性と刺激性の両方の活性を示すことが知られている.しかし,その多面的な作用を説明しうるような受容体は,はっきりとは同定されていない.筆者らは,この研究において,C型レクチン受容体であるDectin-2がマンノース付加リポアラビノマンナンの受容体であることを見い出した.マンノース付加リポアラビノマンナンはDectin-2に依存して樹状細胞を活性化し,炎症性サイトカインおよび抑制性サイトカインの産生を誘導した.また,Dectin-2を介して樹状細胞において抗原に特異的なT細胞の応答を増強することもわかった.さらに,マウス自己免疫疾患モデルにおいてマンノース付加リポアラビノマンナンのもつアジュバント活性が明らかにされた.実際の感染において,Dectin-2ノックアウトマウスは肺における病態の悪化を示した.以上より,Dectin-2はマンノース付加リポアラビノマンナンを認識し,ミコバクテリアに対する宿主の免疫応答に寄与することが明らかになった.
はじめに
結核菌を含むミコバクテリアの細胞壁は,トレハロースジミコール酸,ミコール酸,ホスファチジルミオイノシトールマンノシド,リポマンナン,リポアラビノマンナンなど,宿主の免疫応答に影響を及ぼす多彩な成分をもつ.主要なリポグリカンであるリポアラビノマンナンは結核菌のもつ重要な病原因子である1).リポアラビノマンナンは,マンノシルホスファチジルイノシトールアンカー,マンノース骨格,アラビナン領域,キャップ構造という4つの構成要素からなり,キャップ構造は菌種により異なっている.マンノースの付加されたリポアラビノマンナン,ホスファチジルイノシトールの付加されたリポアラビノマンナン,キャップ構造を欠くリポアラビノマンナンが知られており,なかでも,マンノース付加リポアラビノマンナンは結核菌をはじめ病原性をもつミコバクテリアにみられ,宿主の免疫応答に対し多面的な効果を発揮することから1),これまで精力的に研究されてきた.一方で,C型レクチン受容体であるDC-SIGN(CD209),そのマウスにおける相同体であるSIGNR1(CD209b)およびSIGNR3(CD209)や2-4),MMR 5)(CD206)など,これまで多くのタンパク質がマンノース付加リポアラビノマンナンに対する受容体であると提唱されてきた.しかし,そのいずれもマンノース付加リポアラビノマンナンのもつ刺激性および抑制性の両方の効果を説明するには不十分であったことから,筆者らは,未知の受容体の探索をめざした.
近年,筆者らは,C型レクチン受容体であるMincleおよびMCLが結核菌に対する受容体であることを報告した6,7).同じくC型レクチン受容体であるDectin-2は,その遺伝子が第6染色体においてMincleおよびMCLの遺伝子と隣接し,Fc受容体γ鎖と会合し8),真菌Candida albicansの菌糸を感知しこれに対する感染防御にはたらく9,10).Dectin-2とMCLは遺伝子重複により生じ種間でよく保存されていることから7),これらが“ミコバクテリア受容体”として進化をとげ,Dectin-2もミコバクテリアを認識する可能性について考えた.
1.Dectin-2はマンノース付加リポアラビノマンナンを介しミコバクテリアを認識する
リガンドの認識を蛍光により検出できるインジケーター細胞を用いて,Dectin-2が結核菌を認識するかどうか調べた.Dectin-2はMincleと同様に,強毒株である結核菌H37Rv株やワクチン株であるウシ型結核菌BCGを認識したが,Dectin-2のリガンドはMincleのリガンドであるトレハロースジミコール酸とは異なっていた.ウシ型結核菌BCGの成分の分画において,水性画分のみがDectin-2に対する活性を示した.結核菌のもつ親水性成分のうちリポアラビノマンナンはもっとも豊富なリポグリカンであることから11),結核菌に由来するリポアラビノマンナンを用いてDectin-2発現インジケーター細胞を刺激したところ,このインジケーター細胞は活性化され,Dectin-2がリポアラビノマンナンを認識することが明らかになった.
さまざまな菌株を用いた検討により,Dectin-2はマンノース付加リポアラビノマンナンをもつ菌株を認識するが,キャップ構造を欠くリポアラビノマンナンをもつ菌株は認識しないことがわかった.また,マンノース付加リポアラビノマンナンをαマンノシダーゼにより処理してマンノースを取り除くとDectin-2に対する活性は失われた.さらに,マンノースの結合に重要なEPN配列をガラクトース結合型のQPD配列に置換したインジケーター細胞を用いることにより,Dectin-2によるマンノース付加リポアラビノマンナンおよびミコバクテリアの認識はそのEPNモチーフに依存していることが確認された.以上の結果から,Dectin-2はマンノース付加リポアラビノマンナンを介してミコバクテリアを認識し,Dectin-2とマンノース付加リポアラビノマンナンとの相互作用にはマンノース付加リポアラビノマンナンのキャップ構造およびDectin-2のマンノースとの結合能の両方が必要であることがわかった.
2.マンノース付加リポアラビノマンナンは樹状細胞のサイトカインの産生をDectin-2に依存して誘導する
樹状細胞は骨髄系細胞のなかでDectin-2をもっとも豊富に発現することから12),骨髄に由来する樹状細胞を用いてマンノース付加リポアラビノマンナンの刺激によるサイトカインの産生について検討した.マンノース付加リポアラビノマンナンはトレハロースジミコール酸と同様に,MIP-2,TNF,インターロイキン6などの炎症性サイトカインの産生をその濃度に依存して誘導した.Dectin-2ノックアウトマウスの骨髄に由来する樹状細胞においてはマンノース付加リポアラビノマンナンにより誘導されるサイトカインの産生は消失したが,トレハロースジミコール酸を介するサイトカインの産生は変化しなかった.ウシ型結核菌BCGの感染によるTNFあるいはインターロイキン6の産生については,Dectin-2に非依存的な産生は残存したものの,野生型マウスと比較してDectin-2ノックアウトマウスの骨髄に由来する樹状細胞においては部分的に減少した.これらのことから,Dectin-2が樹状細胞におけるマンノース付加リポアラビノマンナンによる炎症性サイトカインの産生に決定的な意味をもつことが示された.
マンノース付加リポアラビノマンナン-Dectin-2経路の抗炎症作用に焦点をあて,マンノース付加リポアラビノマンナンが炎症性サイトカインにくわえ,抗炎症性サイトカインであるインターロイキン10の産生をDectin-2に依存して誘導することも見い出された.他方,トレハロースジミコール酸あるいはリポ多糖ではインターロイキン10あるいはインターロイキン2の産生は誘導されなかった.さらに,ウシ型結核菌BCGの感染におけるインターロイキン10あるいはインターロイキン2の産生は,TNFとは対照的に,Dectin-2ノックアウトマウスの骨髄に由来する樹状細胞ではほぼ完全に障害された.また,キャップ構造を欠くリポアラビノマンナンをもつMycobacterium abscessusは,MIP-2の産生は誘導したのに対し,インターロイキン10あるいはインターロイキン2の産生は誘導できなかった.これらの結果から,ミコバクテリアに応答したインターロイキン10あるいはインターロイキン2の産生において,Dectin-2が中心的な役割をはたしていることが示唆された.
3.マンノース付加リポアラビノマンナンは生体において有害な炎症を惹起しない
マンノース付加リポアラビノマンナンが炎症反応を惹起するかどうか,生体にマンノース付加リポアラビノマンナンを投与することにより検討した.まず,マウスにリポアラビノマンナンあるいはリポ多糖を気管から投与し,気管支肺胞洗浄液における炎症細胞の浸潤およびサイトカインの産生について評価した.野生型マウスにおいてリポ多糖はTNFの産生や細胞の浸潤を有意に増加させたが,マンノース付加リポアラビノマンナンは顕著な炎症反応は誘導しなかった.Dectin-2およびMincleの共通のサブユニットであるFc受容体γ鎖を欠損したマウスにマンノース付加リポアラビノマンナンを投与しても,野生型マウスと比べて明らかな差はみられなかった.
静脈からの投与において,トレハロースジミコール酸の投与では,既報のとおり6),炎症性の肺の腫脹および肺における肉芽腫の形成が確認された.それに対して,同量のマンノース付加リポアラビノマンナンの投与では肺の腫脹や肉芽腫の形成は惹起されなかった.これらの結果から,マンノース付加リポアラビノマンナンは,トレハロースジミコール酸やリポ多糖などほかの病原細菌関連分子パターン(pathogen-associated molecular pattern:PAMP)と比べ,肺に強い炎症をひき起こさないことが示された.
4.マンノース付加リポアラビノマンナンは生体外において抗原提示能を増強する
マンノース付加リポアラビノマンナンのアジュバント活性について生体外において評価した.樹状細胞の成熟に対する効果を調べるため,マンノース付加リポアラビノマンナンにより刺激した骨髄に由来する樹状細胞における補助刺激分子の発現について評価した.すると,マンノース付加リポアラビノマンナンは野生型の骨髄に由来する樹状細胞においてCD40およびCD80の発現を亢進させたが,Dectin-2,あるいは,Dectin-2およびMincleの共通のサブユニットであるFc受容体γ鎖が存在しないとその効果はみられず,マンノース付加リポアラビノマンナンがDectin-2に依存して樹状細胞の成熟を促進することが示された.
マンノース付加リポアラビノマンナンによる刺激に対する樹状細胞のもつ抗原提示能について調べた.骨髄に由来する樹状細胞と卵白アルブミンに特異的なOT-II T細胞受容体トランスジェニックマウスに由来するT細胞との共培養系において,OT-II T細胞の抗原に特異的なインターロイキン17の産生はマンノース付加リポアラビノマンナンにより処理した樹状細胞と共培養した際に有意に増強した.他方,Dectin-2を欠損した樹状細胞を用いると,この増強効果は著明に減弱した.共培養上清におけるインターロイキン10の濃度は抗原の濃度に依存して上昇し,マンノース付加リポアラビノマンナン-Dectin-2経路により刺激された樹状細胞の存在のもと,インターロイキン10を産生するT細胞が分化したことが示唆された.
以上から,生体外におけるマンノース付加リポアラビノマンナンによる刺激は樹状細胞のもつ抗原提示能を増強し,Dectin-2に依存してインターロイキン17の産生を促進することが示唆された.
5.マンノース付加リポアラビノマンナンによる免疫はDectin-2を介して実験的自己免疫性脳脊髄炎の発症を誘導する
生体外においてマンノース付加リポアラビノマンナンによるDectin-2の活性化によりインターロイキン17の産生の誘導が確認されたことから,Th17細胞に依存性の自己免疫疾患のマウスモデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎について調べた.マンノース付加リポアラビノマンナンをアジュバントとしてマウスに投与すると,野生型マウスはすべて実験的自己免疫性脳脊髄炎を発症したのに対し,Dectin-2ノックアウトマウスはまったく発症しなかった.この知見から,マンノース付加リポアラビノマンナンに対するほかの受容体は,生体においてDectin-2の欠損を代償できないことがわかった.
さらに,免疫したマウスから鼠径,腰部,腋窩リンパ節を採取し,リンパ節細胞を生体外において抗原により刺激したところ,野生型マウスに比べDectin-2ノックアウトマウスにおいてはインターロイキン17,インターフェロンγ,GM-CSFの産生がみられず,抗原に特異的なT細胞の応答は完全に障害されることがわかった.これらの結果から,マンノース付加リポアラビノマンナンは生体においてもアジュバント活性を示し,Dectin-2はマンノース付加リポアラビノマンナンのアジュバント活性において必須の受容体であることが示された.
6.Dectin-2はミコバクテリアの感染に対する宿主の防御応答に寄与する
ミコバクテリアの感染におけるDectin-2の役割について検討した.近年,非結核性抗酸菌症は罹患率が増加の傾向にあり,結核とならび臨床的に大きな問題となっている.そこで,非結核性抗酸菌症の原因であるMycobacterium avium complexを野生型マウスおよびDectin-2ノックアウトマウスに経鼻的に感染させた.感染ののち3週間の肺における細菌の量に有意な変化はなかったものの,コロニー形成単位の平均値は野生型マウスに比べDectin-2ノックアウトマウスにおいて増加した.感染させたDectin-2ノックアウトマウスの肺は有意に腫脹しており,病理組織学的な悪化も認められた.感染ののちの肺におけるケモカインの濃度は野生型マウスに比べDectin-2ノックアウトマウスにおいて上昇しており,肺に定着した細菌によるケモカインの産生の誘導が考えられた.また,感染させたマウスにおける抗原に特異的なT細胞の応答において,Dectin-2ノックアウトマウスに由来する脾臓のT細胞では大量のインターフェロンγの産生が認められた.このように,Dectin-2の欠損にともない,おそらく,細菌の排除が不十分になり,肺の病態は悪化し獲得免疫応答が増強したと考えられた.これらの結果から,Dectin-2がミコバクテリアの感染に対する宿主の防御応答に関与していることが示唆された.
おわりに
筆者らは,この研究において,Dectin-2がミコバクテリアの細胞壁の構成成分であるマンノース付加リポアラビノマンナンの機能的な受容体であることを示した.マンノース付加リポアラビノマンナンはDectin-2により認識され,樹状細胞において炎症性サイトカインおよび抑制性サイトカインの産生を誘導した.また,マンノース付加リポアラビノマンナンは有害な炎症を惹起することなく,アジュバントとしてT細胞を介する獲得免疫応答を増強した.Dectin-2およびMincleは,Fc受容体γ鎖,さらに,その下流のシグナル伝達経路を共有する.しかし,マンノース付加リポアラビノマンナン-Dectin-2経路がトレハロースジミコール酸-Mincle経路とは異なる免疫応答を誘導する分子機構は,いまだに不明である(図1).今後,その解析を進めることにより,有害な炎症を最小限に抑えて獲得免疫応答の増強を促進する有用なアジュバントの開発につながることが期待される.
文 献
- Mishra, A. K., Driessen, N. N., Appelmelk, B. J. et al.: Lipoarabinomannan and related glycoconjugates: structure, biogenesis and role in Mycobacterium tuberculosis physiology and host-pathogen interaction. FEMS Microbiol. Rev., 35, 1126-1157 (2011)[PubMed]
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著者プロフィール
略歴:九州大学大学院医学系学府博士課程 在学中.
研究テーマ:C型レクチンを介する自己と非自己の認識機構およびその意義.
関心事:感染症における免疫の役割.
山崎 晶(Sho Yamasaki)
九州大学生体防御医学研究所 教授.
研究室URL:http://www.bioreg.kyushu-u.ac.jp/labo/molimm/
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