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制御性T細胞におけるId2およびId3の発現は全身性のアレルギー様炎症の抑制に必須である

宮崎正輝・宮崎和子・Cornelis Murre
(米国California大学San Diego校Department of Molecular Biology)
email:宮崎正輝
DOI: 10.7875/first.author.2014.100

Id2 and Id3 maintain the regulatory T cell pool to suppress inflammatory disease.
Masaki Miyazaki, Kazuko Miyazaki, Shuwen Chen, Manami Itoi, Marina Miller, Li-Fan Lu, Nissi Varki, Aaron N. Chang, David H. Broide, Cornelis Murre
Nature Immunology, 15, 767-776 (2014)




要 約


 制御性T細胞は自己免疫疾患やアレルギーなどの炎症性疾患の抑制において中心となりはたらく細胞であるが,その転写制御ネットワークは完全には解明されていない.bHLH型の転写因子であるEタンパク質とその阻害タンパク質であるIdタンパク質とのバランスは,リンパ球の細胞分化の決定や細胞選択の過程において重要なことがわかっている.今回,制御性T細胞において特異的にId2およびId3を欠損させたマウスは,アトピー性皮膚炎,気管支喘息,好酸球性食道炎といったヒトのアレルギー性疾患と類似した病態をひき起こし,T細胞およびB細胞の活性化,胚中心の形成,血清における免疫グロブリンEの上昇が認められた.さらに,トランスクリプトームの解析により,ケモカイン受容体であるCXCR5をコードする遺伝子などEタンパク質の標的となる遺伝子の発現に異常が認められた.以上より,Idタンパク質によるEタンパク質の活性制御が,制御性T細胞の分化および活性化,局在,維持において必須であることが示された.

はじめに


 免疫系は,病原体に対する防御と,自己抗原および病原性のない外来性の抗原に対する寛容という,2つの機能のバランスにより成り立っている.防御機能の低下は感染やがんの発生などにつながる一方,寛容機構の破綻は自己免疫疾患,アレルギー,炎症性腸疾患などをひき起こす.こうした免疫系における恒常性の維持に重要な細胞のひとつとして制御性T細胞がある1)(制御性T細胞による免疫系における恒常性の維持については,濱口真英・坂口志文, 領域融合レビュー, 2, e005, 2013 も参照されたい).制御性T細胞は転写因子Foxp3を特異的に発現しており,その発現の異常によりヒトおよびマウスにおいて全身性の自己免疫疾患,炎症性腸疾患,アレルギーなどをひき起こす1,2).アレルギー性疾患は病原性のない外来性抗原によりひき起こされるTh2型の炎症と考えられ,インターロイキン4やインターロイキン5などのTh2型サイトカインの産生および血清における免疫グロブリンEの高値を特徴する.
 塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックス(bHLH)型の転写因子であるEタンパク質(E2A,HEB,E2-2)は,その塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックスドメインを介してホモ二量体あるいはヘテロ二量体を形成し,Eボックスとよばれる特定のDNA配列に結合して標的とする遺伝子の発現を制御する.一方,Idタンパク質(Id1~Id4)はそのヘリックス-ループ-ヘリックスドメインを介してEタンパク質とヘテロ二量体を形成し,Eタンパク質のDNAへの結合を阻害することによりその転写制御能を阻害する3)図1).E2AやHEBはT細胞やB細胞の分化に必須の転写因子であり,一方,Id2はナチュラルキラー細胞や樹状細胞などの分化に重要であることが知られている.また,Id3は胸腺細胞における正の選択に関与していること,Id3ノックアウトマウスは自己免疫疾患のひとつであるSjogren症候群に類似した症状を起こすことなどが報告されている4-7).さらに,Id3はケモカイン受容体であるCXCR5の発現制御を介して濾胞性ヘルパーT細胞の分化制御に寄与していることが報告されている8,9).このように,Idタンパク質はリンパ球の分化および活性化において重要な機能を担うことが知られていたが,制御性T細胞における機能については不明であった.今回,筆者らは,制御性T細胞において特異的にId2およびId3を欠損させたマウスを作製し,その機能解析を試みた.




1.制御性T細胞におけるId2およびId3の発現はTh2型炎症の抑制において必須である


 Id2-YFP融合タンパク質およびId3-GFP融合タンパク質をコードする遺伝子をもつレポーターマウスを用いて,制御性T細胞におけるId2およびId3の発現について検討した.その結果,Id2およびId3の発現は制御性T細胞の分化および活性化にともない大きく変化すること,とくに,制御性T細胞の活性化によりId2 Id3二重陰性画分が増加することが認められた.そこで,制御性T細胞において特異的にId2およびId3を欠損するマウスを作製した.このId2 Id3ダブルノックアウトマウスは3~4週齢までは正常に発育したが,6~8週齢において眼の周囲に皮膚炎を起こし,多くのマウスが10週齢くらいで死亡した.皮下リンパ節の腫脹と脾臓の肥大が認められ,T細胞およびB細胞の増加もみられた.組織学的な解析においては,眼の周囲および食道の上皮の下部,肺の血管および気管支の周囲に炎症細胞の浸潤が認められた.さらに,杯細胞の増加,気管支の周囲および皮下や食道の上皮の下部への好酸球の浸潤がみられた.気管支肺胞の洗浄液の解析においてもTh2型の気管支ぜんそく様の炎症細胞の浸潤が認められ,さらに,全身性の好酸球の浸潤および増加がみられた.蛍光セルソーターによる解析の結果,リンパ組織における濾胞性ヘルパーT細胞の増加および胚中心の形成が認められ,さらには,インターロイキン4,インターロイキン5,インターロイキン13などTh2型サイトカインを産生するTh2細胞の増加がみられたが,Th1細胞あるいはTh17細胞の増加はみられなかった.また,血清における免疫グロブリンM,免疫グロブリンG1,免疫グロブリンEの増加も認められた.以上のことから,制御性T細胞におけるId2およびId3の発現は液性免疫反応を抑制し,全身性のTh2型炎症を抑制するために必須であることが示された.

2.CXCR5の発現およびFoxp3のタンパク質量に対するId2およびId3の影響


 レポーターマウスの解析から,ICOS陽性のエフェクター制御性T細胞とよばれる画分においてId3の発現低下が認められ,さらに,Id2低発現およびId3低発現のエフェクター制御性T細胞の画分ではケモカイン受容体であるCXCR5の発現が高いことが見い出された.これと一致して,制御性T細胞に特異的なId2 Id3ダブルノックアウトマウスにおいて制御性T細胞におけるCXCR5およびPD-1の高発現が認められた.CXCR5陽性PD-1陽性の制御性T細胞は濾胞性制御性T細胞とよばれ,濾胞性T細胞の抑制能などが報告されていた10).このことから,制御性T細胞はId2およびId3を欠損することにより,エフェクター制御性T細胞,さらには,濾胞性制御性T細胞へと分化が進行してしまうことが示唆された.
 興味深いことに,制御性T細胞に特異的なId2 Id3ダブルノックアウトマウスの制御性T細胞において転写因子Foxp3は,mRNAレベルでの発現には大きな差がなかったにもかかわらずタンパク質レベルでの発現が低下していたことから,Id2およびId3の発現は翻訳あるいはタンパク質分解を含めFoxp3の安定性に影響をあたえていることが示された.以上のように,Id2およびId3の発現は制御性T細胞の活性化および分化に影響をあたえ,Foxp3のタンパク質量にも影響することが示唆された.

3.制御性T細胞による免疫抑制機能および末梢における制御性T細胞の維持


 制御性T細胞に特異的なId2 Id3ダブルノックアウトマウスの制御性T細胞における免疫抑制機能について検討するため,CD4陽性T細胞に対する免疫抑制実験を行った.Id2およびId3を欠損した制御性T細胞はin vitroにおいては正常な免疫抑制機能を示したが,Rag1ノックアウトマウスへのCD4陽性T細胞および制御性T細胞の共移入によるin vivoにおける免疫抑制実験においては,マウスの体重の減少および大腸炎の組織像が観察されたことにくわえ,野生型の制御性T細胞の共移入と比較すると,Id2およびId3を欠損した制御性T細胞の共移入では免疫抑制機能が障害されているようであった.in vitroin vivoでの結果の違いの理由を検討するため移入した制御性T細胞を調べてみると,Id2およびId3を欠損した制御性T細胞は顕著に減少していることがわかった.このことから,Id2およびId3を欠損した制御性T細胞は免疫抑制機能を保持しているが,リンパ球の減少した状況においては制御性T細胞を維持できないため炎症が起こってしまうと考えられた.
 さらに,野生型の制御性T細胞とId2およびId3を欠損した制御性T細胞とが混在したマウスを解析したところ,胸腺に存在する発生段階においてはId2およびId3を欠損した制御性T細胞と野生型の制御性T細胞の割合はほぼ1対1であったが,末梢のリンパ組織ではId2およびId3を欠損した制御性T細胞の割合が著しく低下していた.このことは,末梢のリンパ組織における制御性T細胞の維持にはId2およびId3の発現が必要であることを意味した.さらには,in vitroにおいてT細胞受容体への刺激により制御性T細胞を活性化すると,野生型の制御性T細胞に比べ,Id2およびId3を欠損した制御性T細胞は増殖の障害および細胞死の亢進を示した.
 以上のことから,Id2およびId3の発現は,制御性T細胞の末梢のリンパ組織における維持,さらに,活性化したときの細胞死の抑制において重要であることが示された.このことは,リンパ球の減少した状況における制御性T細胞の顕著な減少,および,炎症の起こっている肺組織における制御性T細胞の減少を説明すると考えられた.

4.制御性T細胞におけるトランスクリプトームの解析


 3週齢の制御性T細胞に特異的なId2 Id3ダブルノックアウトマウスから制御性T細胞を分離し,RNA-seq法を用いてトランスクリプトームの解析を行った.その結果,Id2およびId3の欠損により約800の遺伝子において発現に顕著な違いが見い出され,代謝,転写因子,T細胞の活性化,サイトカインおよびケモカイン,細胞周期/細胞死に関する遺伝子において発現の変化が認められた.興味深いことに,CXCR5,インターロイキン10,Gzmaといった濾胞性制御性T細胞の機能にかかわるタンパク質をコードする遺伝子に発現上昇がみられたが,濾胞性制御性T細胞において発現の上昇するBcl6やBlimp1といった転写因子をコードする遺伝子に発現上昇は認められなかった.また,Hif1a,ApoE,Mybといった転写因子,さらには,セマフォリン受容体であるNrp1をコードする遺伝子の発現にも大きな変化が認められた.また,Id2およびId3の欠損により発現に変化の認められた多くの遺伝子がEタンパク質のひとつE2Aの標的となる遺伝子であることが,クロマチン免疫沈降-seq(ChIP-seq)法により示された.

おわりに


 制御性T細胞の活性化にともないId2およびId3の発現が低下し,Eタンパク質のひとつであるE2Aの転写能が変化する.このことにより濾胞性制御性T細胞を含むエフェクター制御性T細胞において遺伝子発現プログラムがはじまり,適切な細胞への分化が起こる.Eタンパク質の適切な活性化がIdタンパク質により制御されないとこうしたプログラムが異常に発動し,制御性T細胞の局在あるいは炎症抑制機能などが変化し,さらには,活性化にともなう細胞死をひき起こしてしまうと考えられた(図2).



 この研究により,Idタンパク質によるEタンパク質の阻害が制御性T細胞において重要な役割をはたしていることが明らかにされた.今後は,Eタンパク質によるエンハンサー機能の制御およびクロマチン構造の変化についての解析,さらには,Foxp3やFoxo1などほかの転写因子との関連性についてゲノムワイドに解析し,制御性T細胞における転写制御ネットワーク機構を明らかにしたい.また,この研究から,さまざまな環境要因が制御性T細胞の転写制御機構を変化させアレルギーの発症や増悪に関与している可能性が示唆された.今後は,ヒトのアレルギー性疾患の基礎病態の解明に寄与できるよう研究を進めていきたい.

文 献



  1. Sakaguchi, S., Yamaguchi, T., Nomura, T. et al.: Regulatory T cells and immune tolerance. Cell, 133, 775-787 (2008)[PubMed]

  2. Bennett, C. L., Christie, J., Ramsdell, F. et al.: The immune dysregulation, polyendocrinopathy, enteropathy, X-linked syndrome (IPEX) is caused by mutations of FOXP3. Nat. Genet., 27, 20-21 (2001)[PubMed]

  3. Murre, C.: Helix-loop-helix proteins and lymphocyte development. Nat. Immunol., 6, 1079-1086 (2005)[PubMed]

  4. Yokota, Y., Mansouri, A., Mori, S. et al.: Development of peripheral lymphoid organs and natural killer cells depends on the helix-loop-helix protein Id2. Nature, 397, 702-706 (1999)[PubMed]

  5. Miyazaki, K., Miyazaki, M. & Murre, C.: The establishment of B versus T cell identity. Trends Immunol., 35, 205-210 (2014)[PubMed]

  6. Rivera, R. R., Johns, C. P., Quan, J. et al.: Thymocyte selection is regulated by the helix-loop-helix inhibitor protein, Id3. Immunity, 12, 17-26 (2000)[PubMed]

  7. Li, H., Dai, M. & Zhuang, Y. A.: T cell intrinsic role of Id3 in a mouse model for primary Sjogren’s syndrome. Immunity, 21, 551-560 (2004)[PubMed]

  8. Miyazaki, M., Rivera, R. R., Miyazaki, K. et al.: The opposing roles of the transcription factor E2A and its antagonist Id3 that orchestrate and enforce the naive fate of T cells. Nat. Immunol., 12, 992-1001 (2011)[PubMed] [新着論文レビュー]

  9. Liu, X., Chen, X., Zhong, B. et al.: Transcription factor achaete-scute homologue 2 initiates follicular T-helper-cell development. Nature, 507, 513-518 (2014)[PubMed]

  10. Chung, Y., Tanaka, S., Chu, F. et al.: Follicular regulatory T cells expressing Foxp3 and Bcl-6 suppress germinal center reactions. Nat. Med., 17, 983-988 (2011)[PubMed]





著者プロフィール


宮崎 正輝(Masaki Miyazaki)
略歴:2005年 広島大学大学院医歯薬学総合研究科博士課程 修了,同年 同 助教,2009年 米国California大学San Diego校 研究員を経て,2010年より同Assistant Project Scientist.
研究テーマ:T細胞の分化および活性化における転写制御機構.

宮崎 和子(Kazuko Miyazaki)
米国California大学San Diego校Assistant Project Scientist.

Cornelis Murre
米国California大学San Diego校Professor.
研究室URL:http://biology.ucsd.edu/labs/murre/

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