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前頭連合野の神経活動の解析により二重課題干渉とこれに関わる認知的容量制限の神経機構を明らかにした

渡邉 慶・船橋新太郎
(京都大学こころの未来研究センター)
email:船橋新太郎
DOI: 10.7875/first.author.2014.037

Neural mechanisms of dual-task interference and cognitive capacity limitation in the prefrontal cortex.
Kei Watanabe, Shintaro Funahashi
Nature Neuroscience, 17, 601-611 (2014)




要 約


 2つの課題を同時に行おうとすると,どちらの課題の成績も低下する.この現象は二重課題干渉として知られている.これは,さまざまな認知機能の実行に必要な神経資源の容量に限度のあることの証拠として考えられ,また,これには前頭連合野の外側部が関与することが知られている.しかし,これにかかわる神経機構は明らかではない.この研究では,サルに難易度を変えた注意課題と記憶課題とを同時に行わせ,両方の課題の実行にかかわる前頭連合野の外側部における神経活動の解析により,二重課題干渉の生じる機構の解明を試みた.その結果,サルでもヒトと同様に二重課題干渉が観察されること,そして,二重課題条件では,注意課題の難易度の上昇にともない前頭連合野における記憶に関連する神経活動が著しく減弱することが明らかになった.このことから,二重課題干渉においては2つの課題を同時に行うため同一のニューロンの集団が同時かつ過剰に動員されるが,その量には限度があるため,それぞれの課題にかかわるニューロンの活動を制限しあうことが原因であることが明らかになった.この結果は,二重課題干渉やこれにかかわる認知的な容量制限の心理学的なモデルに関する神経科学的な証拠を示した.

はじめに


 2つのことを同時にしようとするとどちらもうまくいかないが,それぞれを単独で行うときにはなんら問題なくできることは,われわれの日常生活でもよくある.たとえば,人通りの多い狭い商店街を人や自転車や対向車に注意しながら自動車を運転しているとき,重要な内容の電話がかかってきてそれに対応しなければならない場面を想像すると容易に理解できる.自動車の運転や携帯電話での会話は,それぞれを単独で行う場合にはなんら問題なく実行できる.しかし,さきのような場面に遭遇すると,歩行者や自転車への注意がおろそかになりブレーキを踏むタイミングが遅くなったり,電話での対応がまずくなったりすることになる.このように,2つの異なる課題を同時に実行しようとするとどちらの成績も悪くなってしまう現象を,二重課題干渉とよんでいる.
 二重課題干渉の生じる要因を説明するため,神経資源という概念が提案されている1).われわれの脳は,さまざまな場面で遭遇するさまざまな問題をすばやく解決できるという柔軟性をもつ一方で,このような認知機能の実行に必要な情報処理を行うために用いられる神経資源には容量にいちじるしい制限があると考えられている.自動車の運転や携帯電話での会話は,それらを単独で行う場合には容量の多くをその情報処理にあてることができるので,なんら問題なく実行できる.しかし,さきのような場面に遭遇すると,限られた資源を自動車の運転のための情報処理と電話での会話のための情報処理の両方に分割しなければならず,どちらのプロセスも十分な量の資源を得られなくなる結果,どちらもうまくいかなくなる.つまり,二重課題干渉は,2つの課題を同時に行う場合には,おのおのの課題の情報処理のため必要な容量を確保しようとするが,資源の容量に上限があるためそれぞれの課題のために十分な容量を確保できないことにより生じる,と説明することができる.
 実際に脳においてこのような現象の生じていることは,ヒトの脳機能イメージング研究により示されている.2つの課題をそれぞれ単独で行った場合と同時に行った場合とで脳の活動を比較すると,二重課題条件においては単独の課題のときに観察される活動の範囲が重複し,前頭連合野の外側部においてより大きな範囲での活動が観察される2).このように,二重課題干渉は限られた容量の神経資源を2つの課題がとりあうことにより生じること,前頭連合野の外側部がこの現象にかかわることが明らかにされている3)
 しかしながら,前頭連合野の外側部におけるニューロンの活動が行動研究において観察されているような干渉を示すのかどうか,また,この干渉はニューロンの活動のどのような変化に対応するのか,などについてはまだ十分に理解されていない.そこで,この研究では,ニホンザルに2つの認知課題を同時に行わせることにより,行動によりサルでもヒトと同様に二重課題干渉の生じることを確かめたのち,前頭連合野の外側部から得られる単一のニューロンの活動を解析することにより二重課題干渉の生じる要因について検討した.

1.使用した認知課題


 2頭のニホンザルに空間性の注意課題および記憶課題を学習させた.どちらの課題も前頭連合野の外側部のはたらきを必要とすることが知られている.サルはサル用のチェアに座り,真っ暗な防音室でモニター画面を見ている.サルの眼の動きは磁気サーチコイル法を用いて記録した.
 注意課題では,注意をむける場所をあらかじめ視覚刺激によりサルに指示し,その場所において刺激の変化が生じたらすばやく反応行動をしなければならない課題を行わせた.チェアの手前にはレバーがあり,サルがレバーを押すと課題がはじまる(図1).レバーを押すとまもなく,モニターの中央に白色の丸の注視点が現われる.注視点がでているあいだ,サルはこれを見つづけていなければならない.注視点を見ていると上下に白色の丸が現われ,これら3つの白色の丸は課題の終了までモニターに呈示される(図2a).上下に白色の丸が現われた1秒のち,3つの白色の丸のいずれかが短時間(0.4秒間)赤色に変化し(注意手がかり刺激の呈示),また,もとの白色にもどる.サルは赤色に変化した位置に注意をむけ,ふたたびその位置に赤色の丸がでたらすばやく(0.6秒以内)レバーを離すと,報酬(ジュース)が得られる.2回目に赤色の丸がでるまでの時間はランダムに変化するため,いつ現われるかの予測はできない.また,注意手がかり刺激の現われた位置以外に,だましの色の変化の現われる試行がランダムに挿入されており,サルはこれを無視して正しく反応しなければならない.したがって,注意課題を正しく行って報酬を得るためには,サルは注意手がかり刺激の現われた位置への注意を持続しなければならない.





 記憶課題では,注視点の周辺に現われる視覚刺激の場所を記憶し,ランダムな待ち時間(遅延時間)ののち,さきに視覚刺激が現われた場所を眼球の運動により答える課題を行わせた(図1).注視点を見ていると,その周辺の8カ所(のちに説明する二重課題条件では,5カ所)のうちの1カ所に白色の四角形が短時間(0.4秒間)現われ,消える(記憶手がかり刺激の呈示,図2b).そののちのランダムな遅延時間のあいだ注視点を見ていると,注視点が消えるのと同時に,記憶手がかり刺激の現われる可能性のある8カ所に小さな白色の点が現われる.サルはこれらの白色の点のうち,さきに記憶手がかり刺激の現われた位置にむけすばやく(0.6秒以内)眼球の運動を行うと,報酬が得られる.記憶手がかり刺激の現われる位置は試行ごとにランダムに選択されるため,サルはそのつど,記憶手がかり刺激の現われた位置を覚え,遅延期間ののち正しくその位置へむけ眼球運動をしなければならない.
 二重課題条件では,注意課題と記憶課題とを同時に行わせた(図1).サルがレバーを押すことにより注意課題がはじまり,注意手がかり刺激が呈示され(図2a),その位置における色の変化を待っているあいだに,注視点の周辺の決められた位置5カ所のどこかに記憶手がかり刺激が呈示される(図2b).記憶手がかり刺激が呈示されたのち,ランダムな時間ののち注意手がかり刺激が現われた位置で色の変化が生じ,サルはすばやくレバーを離す反応をしなければならない.サルはそののちも注視点を見つづけ,注視点が消えると同時に,5カ所に小さな白点が現われる.これらの白色の点のうち,さきに記憶手がかり刺激の現われた白点の位置にむけすばやく眼球の運動を行うと,報酬が得られる.二重課題条件では,注意課題と記憶課題の両方を正しく行わなければ報酬は得られない.また,二重課題条件では,注意課題の刺激の呈示および反応は,記憶課題の刺激の呈示および反応に,それぞれつねに先行している.

2.サルでも二重課題干渉が観察される


 二重課題条件における注意課題の成績は,注意をむけなければならない位置の違いや,それが試行ごとにランダムに変化するかしないかで異なっていた.上下のいずれかの位置に注意をむけておかなければならない条件では,注視点に注意をむけておく条件に比べ正答率が低くなったことから,注意をむけなければならない位置により難易度の異なることが示唆された.また,注意をむける位置が試行ごとにランダムに変化する条件では,注視点にだけ注意をむけていればよい条件に比べ正答率が低下した.注意をむけなければならない位置による難易度のちがいは,レバーを離すときの反応時間においても見い出された.注意をむける位置が試行ごとにランダムに変化する条件において,上下のいずれかの位置に注意をむけておかなければならない条件における反応時間は有意に長く,注視点にだけ注意をむけていればよい条件における反応時間は有意に短くなることが観察された.このように,二重課題条件における注意課題の成績は課題の難易度が高くなると低下し,反応時間も長くなることがわかった.
 一方,二重課題条件における記憶課題の成績は記憶課題のみでの成績に比べ有意に低下すること,注意課題の難易度が高くなると記憶課題の成績はさらに低下すること,遅延時間を長くすると記憶課題のみでの成績に比べ記憶課題の成績は低下すること,などが観察された.
 このことから,前頭連合野における神経資源を共有するような2つの認知課題を同時に行わせると,サルでもヒトと同様に二重課題干渉が観察されることが明らかになった.

3.前頭連合野の外側部におけるニューロンの活動の解析により二重課題干渉の機構を探る


 サルに記憶課題を行わせ前頭連合野から単一のニューロンの活動を記録すると,記憶手がかり刺激の呈示から眼球運動の実行までの遅延期間に,遅延期間活動とよぶ持続的な神経活動が観察される4).遅延期間活動は記憶手がかり刺激が視野のある領域に現われたときにのみ生じること,ニューロンにより遅延期間活動の生じる視野の領域が異なること,遅延期間活動は正答した試行でのみ現われることなどから,記憶手がかり刺激が現われた位置の記憶にかかわる神経活動(記憶関連活動)であると考えられている5).この研究においては,前頭連合野のニューロンにおいて観察される記憶関連活動が,二重課題条件においてどのような影響をうけるのかに注目した.
 記憶関連活動を示す前頭連合野のニューロンは,記憶課題のみを実行しているときには,記憶手がかり刺激が視野のある場所に呈示されると遅延期間のあいだに高い頻度の神経活動を生じるが,記憶手がかり刺激がそれ以外の場所に呈示されるとそのような活動は生じなかった.このような活動パターンを示す前頭連合野のニューロンの活動を二重課題条件において調べたところ,遅延期間に生じていた高い頻度の神経活動はほとんど観察されなくなった.しかし,ふたたび記憶課題のみを実行すると,遅延期間において高い頻度の神経活動が観察された.記憶課題の実行にくわえ注意課題を行わせると,記憶課題の実行にかかわる記憶関連神経活動に大きな変化の生じることが明らかになった.
 二重課題条件における記憶関連活動の減弱は,記憶関連活動を示す前頭連合野の多くのニューロンにおいて観察され,それは多数のニューロンの活動を集めた集団活動のレベルにおいても観察された.さらに,注意手がかり刺激を呈示する位置をランダムに変えて注意課題の難易度を高くすると記憶関連活動の減弱の傾向の強まることが,個々のニューロンの活動および集団活動において見い出された.記憶関連活動の減弱は,記憶課題のみでなく注意課題をくわえたことによる難易度の上昇によるものではなく,記憶課題と注意課題とを同時に行うという二重課題条件の導入により生じたものであることも明らかになった.二重課題条件においては記憶関連活動のいちじるしい減少が生じたものの,完全に消滅するのではなく記憶関連活動は低い発火頻度で持続し,レバーを離すことにより注意課題を終了すると低下していた記憶関連活動が復活することが観察された.注意課題の終了による記憶関連活動の復活は,低い頻度で記憶関連活動を維持していたニューロンへの干渉が注意課題の終了により解消されたことにより生じたものか,ほかの脳領域からの入力により生じたものかは明らかではない.いずれにせよ,注意課題の終了による記憶関連活動の復活によって,二重課題条件においても記憶課題の成績は比較的高いレベルで維持されていたものと考えられた.

おわりに


 2つの課題を同時に行おうとすると,どちらの課題の成績も低下する.この現象は二重課題干渉として知られ,さまざまな認知機能の実行に必要な神経資源の容量に限度があることの証拠として考えられ,また,これには前頭連合野の外側部が関与していることが知られている.しかし,二重課題干渉にかかわる神経機構は明らかではなかった.今回の研究では,前頭連合野のかかわることが知られている注意課題と記憶課題とを使用し,記憶課題を単独で行った場合の前頭連合野におけるニューロンの活動と,両方の課題を同時に行う二重課題条件における神経活動とを比較することにより,二重課題干渉にかかわる前頭連合野の機構の解明を試みた.その結果,前頭連合野の同じニューロンの集団がおのおのの課題に必要な情報処理のため同時かつ過剰に動員されるが,情報処理のための資源は限られているので,互いに他方の使っている資源をとろうとして他方の活動を制限してしまうことが二重課題干渉の機構であることが明らかになった.
 この研究により,二重課題干渉は限られた神経資源を2つの課題がとりあうことにより起こることが明らかになった.ただ,このような場面で限られた資源をうまく振り分ける機構は,遂行機能とよばれ前頭連合野の重要なはたらきと考えられているが6),なお明らかではない.二重課題干渉の機構の解明は,日常の場面で同時に直面するさまざまな問題の解決や判断,意思決定がどのようにして行われているのかという問いの解明に直結する.この機構はわれわれの行うさまざまな認知機能の解明に不可欠であると同時に,自閉症や統合失調症などの原因の究明にも役だつと考えられる.ひきつづき,この機構の解明をめざしたい.

文 献



  1. Wickens, C. D.: Multiple resources and performance prediction. Theor. Issues Ergon., 3, 159-177 (2002)

  2. Adcock, R. A., Constable, R. T., Gore, J. C. et al.: Functional neuroanatomy of executive processes involved in dual-task performance. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97, 3567-3572 (2000)[PubMed]

  3. Klingberg, T. & Roland, P. E.: Interference between two concurrent tasks is associated with activation of overlapping fields in the cortex. Brain Res. Cogn. Brain Res., 6, 1-8 (1997)[PubMed]

  4. Funahashi, S., Bruce, C. J. & Goldman-Rakic, P. S.: Mnemonic coding of visual space in the monkey’s dorsolateral prefrontal cortex. J. Neurophysiol., 61, 331-349 (1989)[PubMed]

  5. Funahashi, S. & Kubota, K.: Working memory and prefrontal cortex. Neurosci. Res., 21, 1-11 (1994)[PubMed]

  6. Funahashi, S.: Neuronal mechanisms of executive control by the prefrontal cortex. Neurosci. Res., 39, 147-165 (2001)[PubMed]



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東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.



著者プロフィール


渡邉 慶(Kei Watanabe)
略歴:2008年 京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程 修了,同年 京都大学こころの未来研究センター 研究員を経て,2012年より英国Oxford大学 研究員.

船橋 新太郎(Shintaro Funahashi)
京都大学こころの未来研究センター 教授.
研究室URL:http://www.pfc.kokoro.kyoto-u.ac.jp

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