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小胞体ストレス応答におけるトランスデューサーBBF2H7の小胞体内腔ドメインによる軟骨細胞の増殖の制御

齋藤 敦・今泉和則
(広島大学大学院医歯薬保健学研究院 分子細胞情報学)
email:齋藤 敦今泉和則
DOI: 10.7875/first.author.2014.016

Chondrocyte proliferation regulated by secreted luminal domain of ER stress transducer BBF2H7/CREB3L2.
Atsushi Saito, Soshi Kanemoto, Yizhou Zhang, Rie Asada, Kenta Hino, Kazunori Imaizumi
Molecular Cell, 53, 127-139 (2014)




要 約


 小胞体ストレス応答におけるトランスデューサーBBF2H7は,小胞体ストレスに応答して膜の内部において切断をうけ,N末端側の断片が核へと移行し転写因子として機能する.軟骨細胞におけるBBF2H7の標的遺伝子のひとつは小胞体とゴルジ体とのあいだの分泌タンパク質の輸送に必須のタンパク質をコードするSec23a遺伝子であり,BBF2H7を欠損したマウスはSec23aの減少により軟骨基質タンパク質の分泌障害をともなう軟骨の形成不全を示す.興味深いことに,このマウスでは軟骨細胞の数が顕著に減少しているが,細胞死の亢進はみられない.BBF2H7を欠損した細胞にそのN末端の断片を発現させても細胞の増殖速度は回復しなかったが,小胞体の内腔側にあたるC末端の断片を発現させると野生型の細胞と同じ程度まで増殖速度は回復した.C末端の断片の細胞における局在を調べたところ,切断ののち,すみやかに小胞体から細胞膜の近傍に移動し細胞の外へと分泌されていた.分泌されたC末端の断片はHedgehogリガンドであるIhhとその受容体であるPtch1と結合してHedgehogシグナルを活性化し,周辺の細胞の増殖を促進させるシグナルタンパク質として機能していることがわかった.

はじめに


 あらゆる細胞は小胞体の機能を維持するため,小胞体から細胞質や核へとシグナルを発信するシステムをもつ.そのシステムのひとつである小胞体ストレス応答は,折りたたみ不全タンパク質の蓄積による小胞体内腔の環境の異常(小胞体ストレス)を改善するだけでなく,分泌タンパク質および膜タンパク質の輸送,細胞の分化,組織の形成を制御することにより,細胞および生体の恒常性の維持に関与することが明らかになっている1-3).小胞体ストレス応答のシグナルはそのトランスデューサーであるPERK,IRE1,ATF6を起点として発信されることがよく知られている.これら主要なトランスデューサーにくわえ,筆者らは,細胞あるいは組織において特異的に発現する複数の新規のトランスデューサーを見い出している.
 それらのうちのひとつBBF2H7(box B-binding factor 2 human homolog on chromosome 7)は,ATF6と類似した構造をもつ小胞体局在型の1回膜貫通型タンパク質で,軟骨細胞において強く発現している4,5).BBF2H7は小胞体ストレスに応答して膜の内部において切断をうけ,転写活性ドメインおよびDNA結合能をもつ塩基性ロイシンジッパードメインを含むN末端の断片が核へと移行し,転写因子として機能する4)図1).筆者らが作製したBBF2H7ノックアウトマウスは重度の軟骨の形成不全を示し,出生の直後に死亡する5).これは,軟骨細胞におけるBBF2H7の標的遺伝子のひとつが小胞体とゴルジ体とのあいだの分泌タンパク質の輸送に必須のタンパク質をコードするSec23a遺伝子であるためで,BBF2H7ノックアウトマウスの軟骨組織では軟骨基質タンパク質の分泌の障害により軟骨細胞の小胞体に大量の軟骨基質タンパク質が貯留しており,細胞の外に分泌される軟骨基質タンパク質が極度に減少している5).このように,BBF2H7のN末端の断片は転写因子として機能し,Sec23a遺伝子の転写の誘導を介して軟骨基質タンパク質の分泌を促進することが明らかにされている.しかし,BBF2H7の小胞体の内腔側にあたるC末端の断片の細胞における局在やその役割についてはわかっていなかった.




1.BBF2H7を欠損した細胞では細胞の増殖が抑制されている


 このような軟骨基質タンパク質の分泌の異常にくわえ,BBF2H7ノックアウトマウスの軟骨組織において細胞の数の減少が見い出されている.筆者らは以前の研究において,BBF2H7ノックアウトマウスにおける軟骨細胞の減少の一部は,アポトーシスが亢進していることに起因することを示した6).しかし,BBF2H7ノックアウトマウスの軟骨組織においてアポトーシスを起こしている細胞の割合は,野生型マウスと比較して減少している軟骨細胞のうち10%程度にすぎない.このことは,アポトーシスの亢進はBBF2H7ノックアウトマウスにおける軟骨細胞の激減の主要な原因ではないことを示していた.
 このことから,BBF2H7を欠損した軟骨細胞において細胞の増殖が抑制されているかどうか検討した.胎生18.5日目のマウスの肋軟骨より軟骨細胞を採取して細胞の増殖能を調べたところ,BBF2H7を欠損した軟骨細胞においてBrdUの取り込みの減少,細胞周期に関連する遺伝子の発現の低下,G1期からS期への進行の抑制などがみられ,細胞の増殖速度が低下していることがわかった.つぎに,BBF2H7を欠損した初代培養軟骨細胞に,BBF2H7の全長,N末端の断片,C末端の断片を発現させ,細胞の増殖能が回復するかどうか検討した.BBF2H7を欠損した軟骨細胞に全長のBBF2H7を発現させると細胞の増殖能の低下は回復した.しかし,転写因子として機能するN末端の断片のみを発現させても細胞の増殖速度は回復しなかった.一方で,小胞体の内腔側にあたるC末端の断片を発現させると細胞の増殖速度は野生型の細胞と同じ程度にまで回復した.このことから,BBF2H7のC末端の断片には細胞の増殖を促進させるはたらきがあることがわかった.

2.BBF2H7のC末端の断片は細胞の外へと分泌される


 BBF2H7のC末端の断片が細胞の増殖を促進させる分子機構を明らかにするため,その細胞における局在について調べた.N末端側にFLAGタグ,C末端側にHAタグを付加した全長のBBF2H7を発現させ,免疫染色法によりN末端の断片およびC末端の断片の細胞における局在を解析したところ,N末端の断片は,はじめは小胞体に局在していたが,時間が経過するとともに徐々に核へと移行した.一方,C末端の断片は,はじめはN末端の断片と同様に小胞体に局在していたが,時間が経過するとともに小胞体には局在しないドットを形成し,徐々に細胞膜の近傍へと移動していき,最終的にこのドットは消失した.このことから,C末端の断片は輸送小胞により輸送され細胞の外へと分泌されている可能性が考えられた.実際に,初代培養軟骨細胞の細胞抽出液と培養上清をウェスタンブロッティング法により解析すると,C末端の断片は培養上清に多く含まれることが明らかになった.以上より,BBF2H7のC末端の断片は切断ののち細胞の外へと分泌されていることがわかった.

3.BBF2H7のC末端の断片はHedgehogシグナルの活性化を介し周辺の細胞の増殖を促進させる


 細胞の外へと分泌されたBBF2H7のC末端の断片は細胞の増殖速度を促進させる機能をもつかどうか検討した.まず,HEK293T細胞にBBF2H7のN末端の断片あるいはC末端の断片を発現させ,その培養上清を初代培養軟骨細胞に添加し,細胞を計数することにより細胞増殖能の変化について調べた.すると,N末端の断片を発現させた細胞の培養上清をBBF2H7を欠損した軟骨細胞に添加しても,細胞の増殖速度の低下は回復しなかった.それに対し,C末端の断片を発現させた細胞の培養上清をBBF2H7を欠損した軟骨細胞に添加すると,細胞の増殖速度の低下は大幅に回復することが明らかになった.さらに,C末端の断片を発現させた細胞の培養上清から,C末端の断片に対する抗体を用いた免疫沈降によりC末端の断片のみを除去した.この培養上清を初代培養軟骨細胞に添加すると,C末端の断片による細胞の増殖速度の回復はみられなくなることがわかった.このことから,分泌されたBBF2H7のC末端の断片は周辺の細胞の増殖を亢進することがわかった.
 この分子機構を明らかにするため,細胞の外へと分泌されたBBF2H7のC末端の断片が作用する細胞膜の受容体およびその下流のシグナル伝達経路の同定を試みた.これまで,BBF2H7と細胞増殖との関与を示すものとして,線維粘液性肉腫において染色体の転座によりBBF2H7とFUSとが融合したキメラタンパク質が発現していることが報告されている7).このキメラタンパク質はFUSのN末端側とBBF2H7のC末端側とが融合したもので,BBF2H7の転写活性ドメインは含んでいない.また,線維粘液性肉腫ではHedgehogシグナルが活性化していることが報告されている8).近年,Hedgehogシグナルの過剰な亢進が線維粘液性肉腫を含む複数の腫瘍において細胞増殖の亢進と腫瘍の形成に関与することがわかっている8,9).BBF2H7のC末端の断片による細胞増殖の促進作用はHedgehogシグナルを介しているという仮説のもと,初代培養軟骨細胞を用いたマイクロアレイデータ5) を用いて,BBF2H7を欠損した軟骨細胞におけるHedgehogシグナルの標的遺伝子の発現量を調べた.すると,BBF2H7のN末端の断片の標的遺伝子であるSec23a遺伝子と同様に,Hedgehogシグナルの標的遺伝子の発現量も低下していることがわかった.Hedgehogシグナルは軟骨組織においてはとくに,Indian hedgehog(Ihh)がHedgehogリガンドとして機能していることが知られている10).通常,細胞膜に存在する受容体Patched-1(Ptch1)は,同じく細胞膜に局在するSmoothenedの活性化を阻害し,その下流のシグナルを抑制している.しかし,Ihhを含むHedgehogリガンドがPtch1に結合するとこの抑制が解除され,Smoothenedの下流において活性化する転写因子Gli1およびGli2が,Hedgehogシグナル伝達系を構成するタンパク質をコードする遺伝子や細胞周期に関連する遺伝子といった,Hedgehogシグナルの標的遺伝子の発現量を上昇させる11-13).実際に,初代培養軟骨細胞を用いてHedgehogシグナルの標的遺伝子産物の発現量を調べたところ,BBF2H7を欠損した軟骨細胞においてPtch1およびGli1の発現量が低下していた.これより,細胞の外へと分泌されたBBF2H7のC末端の断片はHedgehogシグナルを活性化して周辺の細胞の増殖を促進させている可能性が示唆された.

4.BBF2H7のC末端の断片はIhhおよびPtch1と結合してリガンド-受容体複合体の形成を促進する


 細胞の外へと分泌されたBBF2H7のC末端の断片がHedgehogシグナルを活性化する分子機構について調べた.Ihhに対する抗体を用いた免疫沈降によりIhhのみを除去した培養上清にBBF2H7のC末端の断片をくわえたものを,BBF2H7を欠損した初代培養軟骨細胞に添加しても細胞の増殖速度の回復は認められなかった.このことから,分泌されたC末端の断片それ自体はHedgehogリガンドとしての機能はもたないことがわかった.しかし,免疫沈降により,BBF2H7のC末端の断片はHedgehogリガンドIhhおよびその受容体Ptch1と結合することがわかった.さらに,BBF2H7を欠損した初代培養軟骨細胞では,IhhとPtch1との結合が抑制されており,BBF2H7のC末端の断片を発現させた細胞の培養上清を添加することによりこの結合は回復した.このことから,BBF2H7のC末端の断片はHedgehogリガンドとしての機能はもたないが,IhhおよびPtch1と結合してリガンド-受容体複合体の形成を促進することがわかった.

おわりに


 小胞体ストレス応答における主要なトランスデューサーであるPERK,IRE1,ATF6は,小胞体内腔ドメインにより小胞体に蓄積した折りたたみ不全タンパク質を感知し,細胞質ドメインから小胞体ストレス応答シグナルを発信する.それに対して,BBF2H7の小胞体の内腔側にあたるC末端側は折りたたみ不全タンパク質を感知するセンサーとしての機能はもたず,細胞間コミュニケーションを担うシグナルタンパク質として機能することが明らかにされた.このことは,小胞体ストレス応答シグナルを介した細胞間コミュニケーションにおいて,トランスデューサーそれ自体がシグナル伝達タンパク質として機能するという新しい分子機構を発見したという点で大きな意義をもつ.BBF2H7が強く発現している胎生期の成長軟骨組織の形成においては,軟骨基質タンパク質の分泌の促進による細胞外マトリックス領域の形成と軟骨細胞の急速な増殖とがきわめて重要になる.BBF2H7は転写因子として機能するN末端の断片(細胞質ドメイン)が分泌経路の活性化を担うと同時に,細胞の外へと分泌されたC末端の断片(小胞体内腔ドメイン)がHedgehogシグナルの活性化を介して軟骨細胞の急激な増殖を促進する(図2).BBF2H7はきわめて重要なこの2つの分子機構を2方向性の機能により同時に制御していることから,成長軟骨組織の形成に必要不可欠なタンパク質であるといえる.




文 献



  1. Reimold, A. M., Iwakoshi, N. N., Manis, J. et al.: Plasma cell differentiation requires the transcription factor XBP-1. Nature, 412, 300-307 (2001)[PubMed]

  2. Zhang, K., Shen, X., Wu, J. et al.: Endoplasmic reticulum stress activates cleavage of CREBH to induce a systemic inflammatory response. Cell, 124, 587-599 (2006)[PubMed]

  3. Vecchi, C., Montosi, G., Zhang, K. et al.: ER stress controls iron metabolism through induction of hepcidin. Science, 325, 877-880 (2009)[PubMed]

  4. Kondo, S., Saito, A., Hino, S. -I. et al.: BBF2H7, a novel transmembrane bZIP transcription factor, is a new type of endoplasmic reticulum stress transducer. Mol. Cell. Biol., 27, 1716-1729 (2007)[PubMed]

  5. Saito, A., Hino, S. -I., Murakami, T. et al.: Regulation of endoplasmic reticulum stress response by a BBF2H7-mediated Sec23a pathway is essential for chondrogenesis. Nat. Cell Biol., 11, 1197-1204 (2009)[PubMed]

  6. Izumi, S., Saito, A., Kanemoto, S. et al.: The endoplasmic reticulum stress transducer BBF2H7 suppresses apoptosis by activating the ATF5-MCL1 pathway in growth plate cartilage. J. Biol. Chem., 287, 36190-36200 (2012)[PubMed]

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著者プロフィール


齋藤 敦(Atsushi Saito)
略歴:2010年 宮崎大学大学院医学系研究科博士課程 修了,同年 同 助教を経て,同年より広島大学大学院医歯薬学総合研究科(現 大学院医歯薬保健学研究院)助教.
研究テーマ:小胞体の機能を起点とした生体の制御機構.
抱負:基礎研究の成果を疾患に対する臨床応用にまで発展させたい.

今泉 和則(Kazunori Imaizumi)
広島大学大学院医歯薬保健学研究院 教授.
研究室URL:http://home.hiroshima-u.ac.jp/imaizumi/

© 2014 齋藤 敦・今泉和則 Licensed under CC 表示 2.1 日本