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アクチン結合タンパク質Wave1は卵母細胞の核における転写プログラムの初期化と正常な発生に必要である

宮本 圭
(英国Wellcome Trust/Cancer Research UK Gurdon Institute)
email:宮本 圭
DOI: 10.7875/first.author.2013.114

Nuclear Wave1 is required for reprogramming transcription in oocytes and for normal development.
Kei Miyamoto, Marta Teperek, Kosuke Yusa, George E. Allen, Charles R. Bradshaw, J. B. Gurdon
Science, 341, 1002-1005 (2013)




要 約


 卵は精子との受精ののち初期胚を形成し,胚発生が進行する.正常な初期胚の発生の過程において,生殖細胞において発現の抑制されていた胚性遺伝子の転写はつぎつぎに活性化される.一方,分化した細胞の核を卵に移植することにより作製される核移植胚の場合にも同様の変化が誘導され,体細胞の核から胚性遺伝子が発現する.これらの転写プログラムの初期化は胚の正常な発生のため不可欠である.以前に,筆者らは,転写プログラムの初期化の過程において核に存在するアクチンが重要な役割をはたすことを示した.細胞におけるアクチンのはたらきはアクチン結合タンパク質により制御されている.今回,筆者らは,アクチン結合タンパク質のひとつであるWave1が卵母細胞の核に存在することを発見し,卵に移植された体細胞の核における転写プログラムの初期化に必要であることを見い出した.また,卵に由来するWave1の機能を阻害すると正常な胚発生も阻害され,発生において不可欠なホメオティック遺伝子の発現に異常がみられた.核に存在するWave1はWHDドメインを介して転写を活性化するタンパク質と結合し,RNAポリメラーゼIIによる転写において重要な役割をはたしていた.この研究成果は,Wave1を母性リプログラミングタンパク質として同定するとともに,発生におけるWave1の新たな機能を明らかにした.

はじめに


 卵および卵母細胞(卵の前駆体)に移植された体細胞の核においては,初期化(リプログラミング)が効率よく誘導され胚性遺伝子の発現が開始する1).この卵および卵母細胞が体細胞の核に対しもつリプログラミングの能力は,正常な胚発生の際に卵が受精ののち精子の核を活性化する能力と関連すると考えられている.これらを誘導するリプログラミングタンパク質は卵の形成過程において蓄えられ,とくに,アフリカツメガエルの卵母細胞の核である卵核胞に多く蓄積されていると考えられている1).卵核胞には胚発生に必要なタンパク質が存在することもわかっている2,3).しかし,卵核胞に存在するリプログラミングタンパク質および胚発生に必要な特定のタンパク質,また,その作用機構については明らかにされていない.
 筆者らのグループは,卵核胞に存在する母性リプログラミングタンパク質を同定するため,アフリカツメガエルの卵母細胞を用いた核移植法を開発した4).アフリカツメガエル卵母細胞の卵核胞に哺乳類に由来する数百個の体細胞の核を移植し,2日間培養することにより体細胞の核にリプログラミングが誘導され新たに胚性遺伝子の転写が活性化される1).この転写プログラムの初期化は卵核胞に存在するタンパク質により誘導されるため,母性リプログラミングタンパク質の同定において有用な実験系となる.今回の研究では,アフリカツメガエル卵母細胞への核移植の実験系を利用してリプログラミングタンパク質の同定を試みた.

1.アクチン結合タンパク質Wave1はアフリカツメガエルの卵母細胞の核および核移植ののちの体細胞の核に存在する


 筆者らの以前の研究により,アフリカツメガエルの卵核胞にはアクチンが存在し,転写プログラムの初期化において重要な役割をはたすことがわかっていた5,6).アクチンは細胞骨格の主要な構成タンパク質であり,そのはたらきはアクチン結合タンパク質により制御されている.そこで,核に存在するアクチン結合タンパク質が転写プログラムの初期化に関与するのではないかと仮説をたてこれを検証した.アフリカツメガエル卵母細胞の核にアクチン結合タンパク質を過剰に発現させ,この卵核胞にマウスの筋芽細胞の核を移植した.移植されたマウスの核における胚性遺伝子の転写の活性化はリアルタイムPCR法を用いて解析した.いくつかのアクチン結合タンパク質について試した結果,Toca1およびRac1の過剰発現により胚性遺伝子であるOct4遺伝子の発現が有意に上昇した.Toca1およびRac1はWiskott-Aldrich症候群タンパク質ファミリーに属するN-waspあるいはWaveを下流の標的タンパク質としている7-9).まず,N-waspの転写プログラムの初期化への関与について過剰発現実験や機能阻害実験により調べたが,その影響はほとんどみられなかった.そこで,Waveに着目し卵母細胞における発現を調べた.驚くべきことに,細胞質における機能が広く知られていたWave1は卵母細胞の核にも存在することがわかった.さらに,アフリカツメガエルの卵核胞にマウスの筋芽細胞の核を移植すると,移植された核にWave1が取り込まれることもわかった.

2.核に存在するWave1は卵母細胞における転写プログラムの初期化に必要である


 卵核胞に存在するWave1が転写プログラムの初期化に関与するかどうかを確認するため,アフリカツメガエルの卵母細胞を用いた核移植を行った.卵核胞へと移植されたマウスの筋芽細胞の核は,通常,移植ののち48時間以内にOct4遺伝子の転写を活性化するが,核と同時にWave1に特異的な抗体を注入することによりその活性化は阻害された.これより,卵における転写プログラムの初期化に対するWave1の関与が示唆された.そこで,卵に存在するWave1についてより詳細に検討するため,アフリカツメガエル卵母細胞よりWave1遺伝子をクローニングした.その結果,少なくともWave1-A,Wave1-B,Wave1-Cの3つの転写バリアントが存在することがわかった.もっとも長いWave1-AとC末端領域を欠損したWave1-Bを卵母細胞に過剰発現して核移植を行った結果,移植されたマウスの核において胚性遺伝子の転写の活性化が促進されることがわかった.さらに,特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて卵においてWave1をノックダウンした結果,卵母細胞はマウスに由来する体細胞の核において転写プログラムを効率的に初期化する能力を失った(図1).この実験結果は,Wave1をノックダウンした卵母細胞にアフリカツメガエルの上皮細胞や精子の核を移植することによっても再現された.Wave1をノックダウンした卵母細胞におけるリプログラム能力の欠損は,核にWave1-Bを過剰発現することにより回復した.以上の結果より,アフリカツメガエルの卵母細胞の核に存在するWave1は転写プログラムの初期化に必要であることがわかった.




3.Wave1は受精卵の発生に必要である


 卵に存在するリプログラミングタンパク質は正常な発生にも必要であると考えられてきた.そこで,Wave1の胚発生における役割について検証した.Wave1に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドをアフリカツメガエルの卵母細胞に注入し体外で成熟させることにより,受精のまえにWave1を減少させた卵を作製した.この卵を用いて顕微授精を行い受精卵の発生を観察したところ,初期の卵割の異常とオタマジャクシまでの発生率の減少がみられた.とくに,初期の卵割の異常は初期胚に核局在化シグナルを付加したWave1-Bを過剰発現することにより回復した.以上の結果より,核に存在するWave1は初期胚の発生に重要な役割をはたすことがわかった.さらに,Wave1の翻訳の阻害による胚発生率の減少は,成熟した卵にWave1に対するモルフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチドを注入する方法でも再現された.それにより発生の停止した胚では前後軸の形成および頭部の形成に異常が多くみられた.この結果は,卵に由来するWave1が正常な初期胚の発生に必要であることをさらに裏づけるものであった.

4.初期胚の発生におけるWave1の機能阻害はホメオティック遺伝子の転写の正常な活性化をさまたげる


 卵母細胞の核に存在するWave1は転写プログラムの初期化に関与していたため,胚発生の過程においてもWave1は胚性遺伝子の転写の活性化に関与しているのではないかと考えた.そこで,モルフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチドの注入によりWave1の機能を阻害した胚と,発生には影響をあたえない対照のモルフォリノオリゴヌクレオチドを注入した胚における転写の変化をRNA-seq法により解析した.その結果,23,560の全転写産物のうち964の転写産物がWave1の阻害により異常な発現を示した.興味深いことに,前後軸および体節を決定するホメオティック遺伝子の多くがWave1の阻害により正常な転写の活性化に失敗した.ホメオティック遺伝子の発現の減少は核においてWave1を過剰発現することにより部分的に回復した.以上の結果より,卵に存在するWave1は初期胚においてホメオティック遺伝子を含む多くの遺伝子の転写の活性化に重要な役割をはたすことがわかった.

5.Wave1は核においてWHDドメインを介して転写に関連するタンパク質と結合し転写の活性化に寄与する


 Wave1の胚性遺伝子の転写への関与は明らかになったのだが,どのようして発現を停止した遺伝子の転写の活性化を促進したのか,その作用機構に疑問が残った.そこで,核においてWave1に結合するタンパク質について調べた.核局在化シグナルを付加したWave1をアフリカツメガエルの卵母細胞に過剰に発現し,核に存在するWave1を免疫沈降法により回収して,Wave1に結合したタンパク質を質量分析により解析した.その結果,Rhoキナーゼといった既知の結合タンパク質にくわえ,転写に関連するタンパク質がWave1と結合するタンパク質として同定された.つづいて,Wave1と転写を活性化するタンパク質との核における結合について調べた.共免疫沈降法により,アフリカツメガエルの原腸胚の核において,Wave1と転写伸長している高リン酸化したRNAポリメラーゼIIとが結合していることがわかった.さらに,核においてWave1はヒストンメチル化活性をもつSETドメインを有するタンパク質と結合していた.Wave1-AおよびWave1-Bはこれら転写を活性化するタンパク質と結合することができたが,Wave1-Cとの結合はみられなかった.この結果をもとに,Wave1において結合に必要な領域を調べた結果,Wave1はN末端に存在するWHDドメインを介して転写を活性化するタンパク質と結合していることがわかった.さらに,クロマチン免疫沈降法により,Wave1はホメオティック遺伝子のエンハンサー領域に結合することもわかった.胚においてWave1を阻害すると,ホメオティック遺伝子において転写伸長しているRNAポリメラーゼIIが減少し,ヒストンH3の4番目のLysのメチル化が減少した.これらの結果より,Wave1は核において転写を活性するタンパク質と直接に結合し,ホメオティック遺伝子の転写においてそれらのタンパク質が正常にはたらくため貢献していることがわかった(図2).




おわりに


 筆者らは,この論文において,アフリカツメガエルの卵母細胞の核あるいは初期胚の核に存在するWave1が転写の活性化に重要な役割をはたすことを示した.また,Wave1が発生に必要であることも見い出した.この核におけるWave1の機能はWHDドメインに起因した.興味深いことに,Wave1は細胞質において,同じWHDドメインを介して転写を活性化するタンパク質とは別のタンパク質と結合し,細胞骨格の維持にはたらいている.すなわち,細胞質と核とで違う結合パートナータンパク質をもつことにより,異なる機能を有すると考えられた.アクチンの重合を制御するC末端の領域とは逆のN末端の領域を介して転写を活性化するタンパク質と結合することも興味深い点であり,転写に必要とされるアクチンを転写が誘導される近辺に供給する役割をもつのかもしれない.
 発生生物学において,卵核胞のどのようなタンパク質がのちの胚発生あるいはリプログラミングに関与するのかは大きな疑問であった.筆者らの研究成果は,Wave1をリプログラミングに関与する母性タンパク質として同定するとともに,正常な胚発生に必要なタンパク質としてその特性を明らかにした.

文 献



  1. Jullien, J., Pasque, V., Halley-Stott, R. P. et al.: Mechanisms of nuclear reprogramming by eggs and oocytes: a deterministic process? Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 12, 453-459 (2011)[PubMed]

  2. Ogushi, S., Palmieri, C., Fulka, H. et al.: The maternal nucleolus is essential for early embryonic development in mammals. Science, 319, 613-616 (2008)[PubMed]

  3. Gao, S., Gasparrini, B., McGarry, M. et al.: Germinal vesicle material is essential for nucleus remodeling after nuclear transfer. Biol. Reprod., 67, 928-934 (2002)[PubMed]

  4. Byrne, J. A., Simonsson, S., Western, P. S. et al.: Nuclei of adult mammalian somatic cells are directly reprogrammed to oct-4 stem cell gene expression by amphibian oocytes. Curr. Biol., 13, 1206-1213 (2003)[PubMed]

  5. Miyamoto, K., Pasque, V., Jullien, J. et al.: Nuclear actin polymerization is required for transcriptional reprogramming of Oct4 by oocytes. Genes Dev., 25, 946-958 (2011)[PubMed]

  6. Miyamoto, K. & Gurdon, J. B.: Transcriptional regulation and nuclear reprogramming: roles of nuclear actin and actin-binding proteins. Cell. Mol. Life Sci., 70, 3289-3302 (2013)[PubMed]

  7. Fricke, R., Gohl, C., Dharmalingam, E. et al.: Drosophila Cip4/Toca-1 integrates membrane trafficking and actin dynamics through WASP and SCAR/WAVE. Curr. Biol., 19, 1429-1437 (2009)[PubMed]

  8. Ho, H. Y., Rohatgi, R., Lebensohn, A. M. et al.: Toca-1 mediates Cdc42-dependent actin nucleation by activating the N-WASP-WIP complex. Cell, 118, 203-216 (2004)[PubMed]

  9. Miki, H., Suetsugu, S. & Takenawa, T.: WAVE, a novel WASP-family protein involved in actin reorganization induced by Rac. EMBO J., 17, 6932-6941 (1998)[PubMed]



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東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.



著者プロフィール


宮本 圭(Kei Miyamoto)
略歴:2009年 京都大学農学研究科博士後期課程 修了,同年 英国Cambridge大学Gurdon Institute博士研究員,2012年より英国Cambridge大学Wolfson Collegeリサーチフェロー.
研究テーマ:卵におけるリプログラミング機構の解明.
関心事:胚性ゲノムの活性化,テニス,育児.

© 2013 宮本 圭 Licensed under CC 表示 2.1 日本