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マイクロRNAは排卵の機能を制御することにより雌の妊娠の成立において重要な機能をもつ

蓮輪英毅・岡部 勝
(大阪大学微生物病研究所 附属生体応答遺伝子解析センター)
email:蓮輪英毅岡部 勝
DOI: 10.7875/first.author.2013.085

MiR-200b and miR-429 function in mouse ovulation and are essential for female fertility.
Hidetoshi Hasuwa, Jun Ueda, Masahito Ikawa, Masaru Okabe
Science, 341, 71-73 (2013)




要 約


 ヒトを含めた哺乳動物の周期的な排卵は,視床下部-下垂体-卵巣系からのホルモンの分泌により制御されている.筆者らは,マイクロRNAが動物の個体においてどのようなはたらきをもつのかを明らかにするため,2つのマイクロRNA,miR-200bおよびmiR-429を欠損させたマウスを作製したところ,雌のマウスにおいて排卵のひき金となるホルモン応答が起こらず不妊になることを見い出した.さらに,これら2つのマイクロRNAは下垂体においてZeb1遺伝子を標的遺伝子とし,これらの欠損により増加したZEB1タンパク質は黄体形成ホルモンのサブユニットをコードするLhb遺伝子の発現を抑制することが示された.これらの結果から,視床下部-下垂体-卵巣系により制御される排卵の機構は,2つのマイクロRNA,miR-200bおよびmiR-429がないと機能しないことが明らかになった.

はじめに


 マイクロRNA(miRNA)は22塩基ほどの鎖長をもつ非コードRNAであり,標的とするmRNAの3’側非翻訳領域に結合,あるいは,これを切断することなどにより遺伝子の発現を翻訳の段階において抑制するといわれている1-3).また,これまでの研究により,miRNAは発生やがんなどにかかわることが示唆されている4-6).しかしながら,成熟した動物の個体において,さまざまなmiRNAがどのような生命現象にかかわっているのかについてはあまり知られていない.以前に,筆者らは,miRNAのひとつであるmiR-200bが2週齢のマウスの精巣においてその発現が極大となることを見い出し,精子の形成の過程におけるmiRNAのはたらきを解析するため,miR-200bを単独に欠損したマウスの作製を試みた.ところが,miR-200bノックアウトマウスの作製に用いたターゲティングベクターには,のちに見い出された別のmiRNAであるmiR-429が存在し,しかも,そこには偶然に点変異が導入されていて成熟型のmiR-429も発現しないことがわかった.結果的に,作製されたノックアウトマウスは,第4染色体に存在するmiR-200b-miR-200a-miR-429クラスターのうち,標的遺伝子を認識するシード配列が同じで生体において同じ機能をもつと予想されるmiR-200bおよびmiR-429を二重に欠損したマウスであった.

1.miR-200bおよびmiR-429を欠損したマウスは排卵の不全により不妊になる


 雄のmiR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスの精巣になんらかの異常がないか調べたが,精子は正常に形成され,交配により正常な生殖能力をもつことが確認された.ところが,さまざまな遺伝子型をもつマウスとの交配実験から,まったく予想しなかった結果として,雌のmiR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスはほとんど妊娠しないことがわかった.正常なマウスは4~5日おきに排卵する性周期をもち,排卵の直後の発情期に雄を受け入れて交尾し妊娠が成立する.8週齢の雌のマウスを用い,20日間の交配期間において膣栓を交尾の指標とした交尾あたりの妊娠率を調べたところ,miR-200bおよびmiR-429をヘテロで欠損したマウスの妊娠率はおよそ85%であったのに対し,miR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスでは9%であった.さらに,いちど出産したmiR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスをそののち3カ月にわたり交配させつづけても2回目の出産を確認することはできなかった.miR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスの膣スメアを採取し性周期を確認すると,周期は維持されていたが発情期が延長されており,性周期の異常が確認された.
 miR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスにみられた不妊の表現型がmiRNAの欠損によるものであり,それ以外の遺伝的な問題に派生するものではないことを証明するため,miR-200bおよびmiR-429を欠損するという遺伝的なバックグラウンドをもつマウスに,新たに作製したmiR-200bおよびmiR-429を発現するトランスジェニックマウスを交配させ,miR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスの不妊の表現型がトランス遺伝子により回復するかどうか調べた.その結果,miR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスに対しmiR-200bおよびmiR-429のトランス遺伝子をもどしてやると,マウスの妊娠率は回復した.このことから,miR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスにみられた雌の不妊はmiR-200bおよびmiR-429の欠損に起因するものであると確認された.
 雌が不妊になる原因として,排卵,受精,着床など,それぞれのステップの障害が考えられる.そこで,交尾ののちに雌のマウスの卵管を開け受精卵があるかどうか調べてみると,miR-200bおよびmiR-429をヘテロで欠損したマウスでは5個体すべてから受精卵が回収できたのに対し,miR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスでは20個体のうち2個体からしか受精卵が回収されず,基本的に,miR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスは無排卵であることがわかった.さらに,miR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスの卵巣の切片を作製し観察したところ,それらの卵巣には排卵ののちに形成される黄体がなく,排卵の不全により不妊になっていることが示唆された.

2.miR-200bおよびmiR-429を欠損したマウスには排卵のひき金となるホルモン応答が起こらない


 排卵は視床下部-下垂体-卵巣からの内分泌により制御されている.miR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスにおける卵巣の機能を調べるため,妊馬血清性腺刺激ホルモンおよびヒト絨毛性性腺刺激ホルモンにより過排卵処理を行ったところ,miR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスの卵巣はmiR-200bおよびmiR-429をヘテロで欠損したマウスと同様に排卵することがわかった.さらに,過排卵処理により得られたmiR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスの卵子を体外受精に供したところ正常な受精能を示し,そののちの発生にも影響はみられなかった.これらの結果から,miR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスの卵巣は正常な卵子を排卵する能力のあることがわかった.また,生殖内分泌系が成熟し性周期が開始される以前の3週齢のmiR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスの卵巣の形態にも異常はみられなかった.これらの結果を総合すると,miR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスにおいて卵巣の機能は正常であるが,生殖内分泌系に異常があり排卵の不全をひき起こしている可能性が考えられた.
 miR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスの血中の卵胞刺激ホルモンおよびエストラジオールについては,雌の野生型マウスとmiR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスとのあいだに有意な差はみられなかったが,黄体形成ホルモン(LH)およびプロゲステロンはmiR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスにおいて有意に減少していた.下垂体の形態に異常はみられなかったが,免疫染色により黄体形成ホルモンが血中と同様に減少していることが確認された.また,対照とした雄のmiR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスでは血中の黄体形成ホルモンの量は変化していなかった.排卵には,視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモンの分泌の刺激に下垂体が応答し黄体形成ホルモンが一過性に分泌されるLHサージが必要である.卵巣を切除しエストラジオールを投与することによりLHサージを誘発する方法7) を用いて調べたところ,miR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスはLHサージそのものを起こそうとするが,血中の黄体形成ホルモンは低値にとどまるため排卵できないと考えられた.視床下部,下垂体,卵巣におけるmiR-200bおよびmiR-429の発現を調べたところ,下垂体において非常に強く発現していることがわかった.miR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスでは下垂体に不具合が生じ,それがLHサージの不全による不妊をひき起こしている可能性が示唆された.

3.miR-200bおよびmiR-429はどの遺伝子を標的としているのか?


 miRNAはそれ自体が直接に生命現象を担っているわけではなく,5’側の2~8塩基からなるシード配列の相同性を利用して,標的となるmRNAの3’側非翻訳領域に干渉し,mRNAからタンパク質への翻訳を抑制することにより生命現象に関与していると考えられている.miR-200bおよびmiR-429のもつ共通のシード配列の標的となりうる遺伝子を検索し,これを1000程度の遺伝子に絞り込んだのち,miRNAの標的配列を多くもち下垂体において発現しているZeb1遺伝子が標的遺伝子としてうかびあがった.蛍光タンパク質DsRed2の遺伝子のコード領域の下流にZeb1遺伝子の3’側非翻訳領域を配置した発現ベクターを作製し,miR-200bあるいはmiR-429と同時に発現させるとその蛍光は10%以下になったことから,Zeb1遺伝子が標的遺伝子となりうることが示唆された.
 動物の個体レベルにおいてもZeb1遺伝子が標的遺伝子となりうるか調べるため,野生型マウスおよびmiR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスの下垂体においてZeb1遺伝子のmRNAを測定したが,差はなかった.しかし,ZEB1タンパク質が増加していることが確かめられた.このことから,miR-200bおよびmiR-429Zeb1遺伝子の翻訳の抑制という転写後制御にかかわっていることが示された.これらの結果を総合し,Zeb1遺伝子が下垂体においてmiR-200bおよびmiR-429の標的遺伝子となっていることが強く示唆された.

4.ZEB1はLhb遺伝子の発現を抑制し排卵の不全をひき起こす


 ZEB1は発現制御領域にあるCACCT配列に結合することによりその遺伝子の発現を抑制することが知られている8).黄体形成ホルモンのβサブユニットをコードするLhb遺伝子の上流には複数のZEB1結合配列があるためゲルシフトアッセイを行ったところ,Lhb遺伝子にはZEB1の強く結合する領域が少なくとも3箇所あることがわかった.細胞内におけるZEB1の増減によりLhb遺伝子の発現が変化するかどうかを調べるため,ゴナドトロフ細胞様の培養細胞であるLβT2細胞を用い9),siRNAによりZeb1遺伝子の発現を20%までノックダウンしたところ,Lhb遺伝子の発現が80%ほど上昇することがわかった.
 Zeb1遺伝子を下垂体のゴナドトロフ細胞において特異的に発現するトランスジェニックマウスを作製したところ,ひとつの系列では妊娠率が約8%,Zeb1遺伝子の発現がより強い別の系列ではまったく妊娠しないことがわかった.これらのトランスジェニックマウスではmiR-200b miR-429ダブルノックアウトマウスと同様に黄体の形成がなく排卵をしていないことがわかった.これらのことから,miR-200bおよびmiR-429は下垂体のゴナドトロフ細胞においてZeb1遺伝子を介しLhb遺伝子の発現を制御することにより,排卵の機能を制御していることが示された.

おわりに


 今回のマウスを用いた研究から,下垂体において発現するmiRNAであるmiR-200bおよびmiR-429は,Zeb1遺伝子の翻訳を抑制することによりLhb遺伝子の発現を促し,周期的な排卵機能の維持に寄与していることが明らかになった(図1).miR-200b,miR-429Zeb1遺伝子,Lhb遺伝子の構造はヒトにおいてもマウスと同様に保存されていることから,ヒトでも同様の分子機構により排卵が制御されていることが予想される.この研究により,排卵におけるmiRNAの関与が明らかになり,不妊症につながる排卵障害の発症機構のひとつにつき,その理解が深まったといえる.




文 献



  1. Bartel, D. P.: MicroRNAs: genomics, biogenesis, mechanism, and function. Cell, 116, 281-297 (2004)[PubMed]

  2. Grimson, A., Farh, K. K., Johnston, W. K. et al.: MicroRNA targeting specificity in mammals: determinants beyond seed pairing. Mol. Cell, 27, 91-105 (2007)[PubMed]

  3. Yekta, S., Shih, I. H. & Bartel, D. P.: MicroRNA-directed cleavage of HOXB8 mRNA. Science, 304, 594-596 (2004)[PubMed]

  4. Kloosterman, W. P. & Plasterk, R. H.: The diverse functions of microRNAs in animal development and disease. Dev. Cell, 11, 441-450 (2006)[PubMed]

  5. Park, C. Y., Choi, Y. S. & McManus, M. T.: Analysis of microRNA knockouts in mice. Hum. Mol. Genet., 19, R169-R175 (2010)[PubMed]

  6. Nicoloso, M. S., Spizzo, R., Shimizu, M. et al.: MicroRNAs: the micro steering wheel of tumour metastases. Nat. Rev. Cancer, 9, 293-302 (2009)[PubMed]

  7. Christian, C. A., Mobley, J. L. & Moenter, S. M.: Diurnal and estradiol-dependent changes in gonadotropin-releasing hormone neuron firing activity. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 102, 15682-15687 (2005)[PubMed]

  8. Sekido, R., Murai, K., Funahashi, J. et al.: The δ-crystallin enhancer-binding protein δEF1 is a repressor of E2-box-mediated gene activation. Mol. Cell. Biol., 14, 5692-5700 (1994)[PubMed]

  9. Alarid, E. T., Windle, J. J., Whyte, D. B. et al.: Immortalization of pituitary cells at discrete stages of development by directed oncogenesis in transgenic mice. Development, 122, 3319-3329 (1996)[PubMed]



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東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.



著者プロフィール


蓮輪 英毅(Hidetoshi Hasuwa)
略歴:2001年 久留米大学大学院医学研究科 修了,2003年より大阪大学微生物病研究所 助教.
研究テーマ:動物の個体レベルにおける機能性核酸の機能.
抱負:遺伝子改変動物や機能性核酸の研究をとおして生命科学の発展に貢献したい.

岡部 勝(Masaru Okabe)
大阪大学名誉教授.

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