ライフサイエンス新着論文レビュー

リガンドの選択性にかかわる進化的に保存されたNotchの細胞外領域の発見

山本慎也・Hugo J. Bellen
(米国Baylor College of Medicine,Department of Molecular and Human Genetics)
email:山本慎也
DOI: 10.7875/first.author.2013.002

A mutation in EGF repeat-8 of Notch discriminates between Serrate/Jagged and Delta family ligands.
Shinya Yamamoto, Wu-Lin Charng, Nadia A. Rana, Shinako Kakuda, Manish Jaiswal, Vafa Bayat, Bo Xiong, Ke Zhang, Hector Sandoval, Gabriela David, Hao Wang, Robert S. Haltiwanger, Hugo J. Bellen
Science, 338, 1229-1232 (2012)




要 約


 Notchシグナル伝達系は発生においてさまざまな形態形成および臓器形成についての指示を伝達する役割のほか,成体においても幹細胞の維持や分化およびニューロンの機能にかかわる細胞間シグナル伝達において重要な役割を担う.そのため,Notchシグナル伝達系の異常はヒトをはじめ哺乳類において胎児期における心臓や肝臓の形成異常,また,出生後の白血病,皮膚がん,脳梗塞といったさまざまな疾患の原因となりうることが明らかになってきている.Notchシグナル伝達系はショウジョウバエにおいて発見され,のちに,哺乳類やそのほか多くの多細胞生物に広く保存されていることが知られるようになった.Notchシグナル伝達系におけるシグナルは,受容体であるNotchとリガンドであるDeltaもしくはSerrate(哺乳類ではJaggedとよばれる)とが細胞の表面において相互作用することにより細胞の内部へと伝達される.従来の研究から,NotchDeltaSerrate/Jaggedとを分子的に見分けていること,また,その際,糖転移酵素のひとつであるFringeによるNotchの糖鎖修飾が重要な役割をはたしていることが明らかになっている.しかしながら,Notchのどのドメインがこの分子認識に関与しているのか,その詳細は不明であった.筆者らは,ショウジョウバエを用い,Notchの変異体を新しくランダムに作製してその構造機能解析を行った.その結果,Notch遺伝子に変異をもつ42の系統を新たに見い出し,なかでもとくにユニークな表現型をもつ変異体をjigsaw変異体と命名した.この変異体の表現型の詳細な解析により,jigsaw変異体はSerrateからのシグナルに伝達不全をきたす一方,Deltaからのシグナルは伝達の可能な,機能分離変異体であることがわかった.さらなる解析により,jigsaw変異体はNotchの細胞外ドメインにあるEGFリピート8番目に点変異をもち,このバリン残基はショウジョウバエからヒトまで広く保存されていることが明らかになった.さらに,このjigsaw変異はSerrateNotchとの結合を著しく阻害すること,また,マウスのNotch2に人為的に同様の変異をくわえると,Notch2とJagged1とのあいだのシグナル伝達が特異的に阻害されることが明らかになった.これらの一連の新しい知見は,NotchDeltaSerrate/Jaggedとをどのように区別しているのかという分子構造学的な研究の発展のみならず,Notchを標的としたより特異的な小分子薬剤や抗体薬剤の開発にも寄与するものと期待される.

はじめに


 Notchシグナル伝達系は細胞間シグナル伝達を担う主要なシグナル伝達系のひとつであり,隣接する細胞のあいだの受容体とリガンドとが相互作用することにより互いの状態を伝達する1)図1).受容体としてはたらくNotchは細胞の表面においてリガンドと結合し,さらに物理的な力のくわわることにより構造変化が起こり,ADAMプロテアーゼあるいはγセクレターゼといったタンパク質切断酵素の作用により活性化される.こうして活性化されたNotchの細胞内ドメインは核へと移行し,標的遺伝子の上流において転写因子やコアクチベーターと相互作用することによりその転写を促進させる2)Notchのリガンドはその構造からDeltaSerrate/Jaggedという2つのファミリーに分類され,それぞれは異なった機能をもつ.従来の研究により,NotchDeltaSerrate/Jaggedとを分子的に識別でき,糖転移酵素のひとつであるFringeにより翻訳後修飾をうけることによりそれらリガンドとの結合能の変化することが知られている3).修飾をうけていないNotchSerrate/Jaggedとの結合能が高くDeltaとの結合能は低いが,Fringeの作用によりこの関係は逆転する.こうしたFringeによるNotchの修飾は,いつどこでNotchを活性化させるかという選択に重要な役割をはたしており,Fringeの機能が阻害されるとNotchDeltaSerrate/Jaggedの機能不全と同様に,発生の異常を惹起し死にいたる.また近年,ヒトにおいてNotchやそのほかNotchシグナル伝達系を構成するタンパク質の変異が遺伝性脳小血管病,アラジール症候群,大動脈弁疾患,急性白血病,扁平上皮がんといったさまざまな疾患の原因となることが解明されてきており4),こうした疾患に対処するためNotchやそのリガンドを標的とした薬剤が広く研究されている.しかしながら,こうした医学,薬学および生物学における重要性にもかかわらず,Fringeによる修飾はNotchの構造をどのように変化させるのか,また,NotchDeltaSerrate/Jaggedとをどのように分子的に見分けているのか,といった構造機能的な基礎知識の不足していることはいなめない.




1.jigsaw変異体の発見


 Notchの構造機能に関する新たな知見を得るため,ショウジョウバエを用いた遺伝的なスクリーニングを行い,35,000系統よりNotch遺伝子に変異をもつ42の系統を見い出した.これらの変異体のホモ接合体はすべて胚から蛹の期間における致死を示したので,表現型の詳細な解析のため,ヘテロ接合体の一部の細胞をホモ接合体に置換する遺伝的な手法であり,マウスにおけるコンディショナルノックアウト法のような用途で用いられる,FLP/FRTを用いたクローン解析を行った5)Notchはショウジョウバエの発生の過程においてさまざまな組織の形成に重要な役割をはたすが,とくに,DeltaおよびSerrateに依存的な翅の辺縁の形成,Deltaに依存的な胸部における感覚毛原基の等間隔性,および,DeltaSerrateのどちらか機能すれば正常となる感覚毛の形成に着目した.解析の結果,あるひとつの変異体において,感覚毛原基の間隔および感覚毛の形成は正常だが翅の辺縁の形成に異常をきたすという興味深い表現型が得られた.この変異体のホモ接合体クローンをもつショウジョウバエでは,翅の形成において,通常はNotchシグナル伝達系の機能欠損によりもたらされる辺縁の欠損のほか,Notchシグナル伝達系の機能亢進が原因とみられる辺縁の過剰な形成が同じ個体でみられるという奇妙な表現型を示した.これら翅の表現型をジグソーパズルのピースに見立てて,この変異体をjigsaw変異体と名づけた.さらに解析を進めたところ,jigsaw変異をもつNotchDeltaからのシグナルの正常な伝達能をもっていた一方,Serrateからのシグナルの伝達能に著しい異常がみられた.Notch遺伝子の変異体については,1913年にショウジョウバエ遺伝学の創始者であるMorganの研究室において最初の変異体がみつかって以来,1世紀にわたり多くの系統が見い出され研究されてきたが,このようなリガンドに選択的な表現型をもつ変異体はこのjigsaw変異体がはじめてであった.

2.jigsaw変異をもつNotchDeltaとは結合できるがSerrateとの結合能は低い


 NotchはI型膜貫通型タンパク質であり,その細胞外ドメインのほとんどはEGFリピートという約40アミノ酸残基からなる配列のくり返しから構成されている.また,36個あるそれぞれのEGFリピートの配列は微妙に異なっている.DNA塩基配列の決定により,jigsaw変異はNotchEGFリピート8番目にある,進化的に保存されたバリン残基のメチオニン残基への変化であることがつきとめられた.ショウジョウバエの培養細胞にこの変異をもつNotchの発現プラスミドを導入し,Notchとリガンドとの結合アッセイを行ったところ,jigsaw変異をもつNotchは,Deltaと結合することはできるが,Serrateとの結合能は著しく低下していることが明らかになった.こうしたNotchSerrateとの結合の不全という知見により,なぜjigsaw変異のクローンをもつ翅では辺縁の欠損と過剰な形成という相反する表現型がみられるかというパズルも,Notchとリガンドとがとなりあった細胞の表面のあいだで結合する場合はシグナルを正に制御するが,ひとつの同じ細胞の表面において結合する場合にはシグナルを負に制御するというNotch-Serrateのシス-トランス結合理論により解決できた6)

3.jigsaw変異体の解析


 以上の実験から,NotchEGFリピート8番目の保存されたバリン残基は,Serrateとの相互作用には不可欠であるがDeltaとの結合には関与しないことが明らかになった.ここで,新たな疑問が生まれた.この変異はNotchの糖鎖修飾にどのような影響をあたえているのか,また,EGFリピート8番目のバリン残基は哺乳類においても同様の機能をもつのか,という2点である.前者の解決のため,jigsaw変異をもつNotchと野生型のNotchの翻訳後修飾を質量分析計を用い比較したが,EGFリピート8番目およびそのほかのEGFリピートにおいて有意な差はみられなかった.後者を検討するため,jigsaw変異と同じ変異をもつマウスNotch2の発現プラスミドを哺乳類の培養細胞に導入し,3つあるDeltaの哺乳類ホモログのひとつDelta-like1(Dll1),および,2つあるSerrateの哺乳類ホモログのひとつJagged1からのシグナルの伝達能を検証した.その結果,ショウジョウバエにおける実験結果から予想されたとおり,jigsaw様変異をもつNotch2Delta-like1により野生型Notch2と同じ程度まで活性化されたが,Jagged1による刺激では活性化は抑制されていた.これらの知見により,jigsaw変異体におけるリガンドに特異的な効果は糖鎖に非依存的であること,また,NotchEGFリピート8番目のバリン残基は種をこえてSerrate/Jaggedによる結合および活性化に必要であることが示された.

おわりに


 この論文は,ショウジョウバエおよび哺乳類の培養細胞を用い,Notchのリガンドに対する選択性においてEGFリピート8番目の保存されたバリン残基が重要な役割をはたしていることを明らかにした.これまで,Notchのリガンド選択性には糖転移酵素Fringeによる糖鎖修飾が重要な役割をはたすとされてきたが,具体的にNotchのどの領域がDeltaおよびSerrate/Jaggedとの選択的な結合にかかわっているのかは不明であった.NotchEGFリピート11番目および12番目がDeltaおよびSerrate/Jaggedとの結合に不可欠であることを考慮すると7)NotchSerrate/Jaggedとの結合にはEGFリピート11番目および12番目にくわえ,EGFリピート8番目が重要な役割をはたしていると考えられた.このとき,EGFリピート8番目がSerrate/Jaggedと直接に相互作用している可能性,また,EGFリピート8番目がEGFリピート11番目および12番目をSerrate/Jaggedと結合しやすいような位置に配置する手助けをしている可能性が考えられた(図2).現在のところ,EGFリピート11番目および12番目以外にNotchDeltaとの結合に特異的に必要な部位は未発見であるが,将来的には,この研究と類似した手法などにより発見されることが期待される.



 この研究により得られた成果はNotchシグナル伝達系に関連する複数の分野に波及するであろう.第1に,jigsaw様変異をもつマウスのNotchホモログを用いることにより,Notchシグナル伝達系に依存的なさまざまな現象において,DeltaとJaggedとがそれぞれどのような役割をはたしているのか明確にすることが可能となると予想される.哺乳類には3種類のDeltaホモログと2種類のJaggedホモログが存在するが,それぞれの機能の重複性のため役割の分担の解析は容易ではない.今後,jigsaw様変異をもつマウスの作製により,それぞれのリガンドがさまざまな臓器においてどのような役割をはたしているのかといった検証がより容易になる可能性が高い.第2に,構造生物学的な研究において,Notchとリガンドとがどのように相互作用するのか,NotchがどのようにDeltaSerrate/Jaggedとを分子的に見分けているのか,という研究に寄与することが期待される.現在のところ,NotchEGFリピート11番目および12番目を含む小さな断片の結晶構造が解析されているが8),リガンドの選択性に関する情報は得られていない.今後,EGFリピート8番目とEGFリピート11番目および12番目を含む断片へと研究対象を広げることにより,こうした分子機構が明らかになっていくものと考えられる.
 最後に,この研究の臨床応用における可能性を示しておきたい.現在,複数の研究機関および製薬会社によりNotchのリガンド結合部位を標的とした抗体薬剤が開発されているが9,10),これらの薬剤はDeltaとJaggedの両方との結合を阻害するため,一方のリガンドとの結合のみを阻害したい場合には適切ではない.今後,EGFリピート8番目を含む領域を標的にした分子標的薬の研究が進むことにより,より限定された用途あるいは副作用の少ない薬剤が開発できる可能性がある.Notchに対する薬剤は次世代の抗がん剤などにおいて大きく期待されていることからも,Notchの機能構造の研究のさらなる発展が望まれる.

文 献



  1. Artavanis-Tsakonas, S. & Muskavitch, M. A.: Notch: the past, the present, and the future. Curr. Top. Dev. Biol., 92, 1-29 (2010)[PubMed]

  2. Kopan, R. & Ilagan, M. X.: The canonical Notch signaling pathway: unfolding the activation mechanism. Cell, 137, 216-233 (2009)[PubMed]

  3. Stanley, P. & Okajima, T.: Roles of glycosylation in Notch signaling. Curr. Top. Dev. Biol., 92, 131-164 (2010)[PubMed]

  4. Louvi, A. & Artavanis-Tsakonas, S.: Notch and disease: a growing field. Semin. Cell Dev. Biol., 23, 473-480 (2012)[PubMed]

  5. Xu, T. & Rubin, G. M.: Analysis of genetic mosaics in developing and adult Drosophila tissues. Development, 117, 1223-1237 (1993)[PubMed]

  6. del Alamo, D., Rouault, H. & Schweisguth, F.: Mechanism and significance of cis-inhibition in Notch signalling. Curr. Biol., 21, R40-R47 (2011)[PubMed]

  7. Rebay, I., Fleming, R. J., Fehon, R. G. et al.: Specific EGF repeats of Notch mediate interactions with Delta and Serrate: implications for Notch as a multifunctional receptor. Cell, 67, 687-699 (1991)[PubMed]

  8. Chillakuri, C. R., Sheppard, D., Lea, S. M. et al.: Notch receptor-ligand binding and activation: insights from molecular studies. Semin. Cell Dev. Biol., 23, 421-428 (2012)[PubMed]

  9. Aste-Amezaga, M., Zhang, N., Lineberger, J. E. et al.: Characterization of Notch1 antibodies that inhibit signaling of both normal and mutated Notch1 receptors. PLoS One, 5, e9094 (2010)[PubMed]

  10. Wu, Y., Cain-Hom, C., Choy, L. et al.: Therapeutic antibody targeting of individual Notch receptors. Nature, 464, 1052-1057 (2010)[PubMed]



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著者プロフィール


山本 慎也(Shinya Yamamoto)
略歴:2012年 米国Baylor College of Medicine大学院 修了,同年より同 博士研究員.
研究テーマ:ショウジョウバエ遺伝学を用いた,細胞間シグナル伝達に関する新規の遺伝子の探索.
抱負:近々,当地で研究室の運営を開始する予定.今後は,Notchシグナル伝達系の研究と並行して,脳におけるドーパミンの動態に関与する新規の遺伝子の探索を行い,細胞間シグナル伝達の研究のさらなる発展に寄与したい.

Hugo J. Bellen
米国Baylor College of Medicine教授.
研究室URL:http://flypush.imgen.bcm.tmc.edu/lab/index.html

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