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GAA/TTC 3塩基くり返し配列のもたらすゲノム不安定性の分子機構

西田悠里・Kirill S. Lobachev
(米国Georgia Institute of Technology,School of Biology)
email:西田悠里
DOI: 10.7875/first.author.2012.118

Genome-wide screen identifies pathways that govern GAA/TTC repeat fragility and expansions in dividing and nondividing yeast cells.
Yu Zhang, Alexander A. Shishkin, Yuri Nishida, Dana Marcinkowski-Desmond, Natalie Saini, Kirill V. Volkov, Sergei M. Mirkin, Kirill S. Lobachev
Molecular Cell, 48, 254-265 (2012)




要 約


 筆者らは,GAA/TTC 3塩基くり返し配列における不安定性に影響を及ぼす遺伝子のスクリーニングを行った.そしてとくに,DNA複製に関する遺伝子および転写の開始に関する遺伝子の発現抑制により,GAA/TTC 3塩基くり返し配列において特異的に起こるDNA二本鎖切断,および,GAA/TTC 3塩基くり返し配列の伸長の増加することが示された.この論文では,DNAを複製している分裂細胞,および,転写を開始している非分裂細胞における,GAA/TTC 3塩基くり返し配列のもたらす染色体の構造変化の分子機構につき論証した.

はじめに


 DNAの正確な複製は生物にとり遺伝子の安定性の基盤として重要であるが,DNAがきわめて低い頻度で変異を起こすことも生物進化の原動力として重要である.しかし,DNAの変異の多くは生物に有害な帰結をもたらし,ヒトにとっては深刻な遺伝子疾患をひき起こす要因となる.DNAの変異としては一塩基置換がよく知られ研究も進んでいるが,塩基の挿入および欠失,ならびに,染色体の欠失を含む染色体の構造変化をともなう変異については,まだその分子機構が十分に解明されているとはいいがたい.
 GAA/TTC 3塩基くり返し配列はFriedreich失調症の原因として知られている1).ヒトのゲノムにはGAAのくり返しの数が30~62の領域が29箇所,65以上の領域が9箇所ある.通常,frataxin遺伝子のイントロンにおけるGAAのくり返しの数は6~34であるが,Friedreich失調症の患者ではこれが67から約1700にもなっている1,2).このことから,GAA/TTC 3塩基くり返し配列の異常な伸長がFriedreich失調症の発症の原因であるとされているが,その伸長の分子機構の全貌はいまだ明らかではない.真核生物のモデル生物である出芽酵母Saccharomyces cereviciaeにおいて,GAAのくり返しの数の増加にしたがい,GAA/TTC 3塩基くり返し配列における複製フォークの進行の遅れや,DNA切断の頻度の上昇,染色体の構造変化の頻度の上昇の起こることが明らかになっている3)
 GAA/TTC 3塩基くり返し配列においては,ホモプリン/ホモピリミジン二本鎖にホモピリミジン一本鎖あるいはホモプリン一本鎖がHoogsteen型水素結合を介し結合することによりDNA三本鎖(トリプレックス構造)を形成している.また,in vitroにおけるDNA三本鎖の形成実験により,DNA二本鎖へのDNA一本鎖の介入にはDNA二本鎖の解離が必須であることが示されている4).DNA三本鎖の形成をともなう疾患として,BCL2遺伝子5) およびc-MYC遺伝子6) のプロモーター領域のかかわる悪性リンパ腫や,PKD1遺伝子のイントロン21 7) のかかわる多発性嚢胞腎が報告されており,ホモプリン/ホモピリミジン二本鎖のくり返し配列におけるゲノムの不安定性が注目をあびている.

1.正常なDNA複製と正常な転写の開始がGAA/TTC 3塩基くり返し配列の安定性において重要である


 約4800のORFをノックアウトしたYKOライブラリーと約800の必須遺伝子を網羅したyTHCライブラリーを用いて8)GAAを230回くり返した配列における不安定性に対し影響を及ぼす遺伝子のスクリーニングを行った.さらに,このスクリーニングにおいて候補にあがった遺伝子の発現抑制実験により,GAA/TTC 3塩基くり返し配列に特異的に起こる第5染色体の腕部の欠失の誘発される頻度を測定し,GAA/TTC 3塩基くり返し配列における染色体の構造変化に影響を及ぼす遺伝子を同定した.すると,その遺伝子の多くのがDNA複製にかかわるもの,あるいは,転写の開始にかかわるものであった.そこで,DNA複製にかかわる遺伝子のうちもっとも大きな影響を示したRFA2遺伝子の発現を抑制した株,転写の開始にかかわる遺伝子のうちもっとも大きな影響を示したTAF4遺伝子の発現を抑制した株,および,対照として野生株を用い,サザンハイブリダイゼーション解析にて欠失した染色体の断片を検出することにより,GAA/TTC 3塩基くり返し配列におけるDNA二本鎖切断の頻度を測定した.その結果,RFA2遺伝子の発現抑制株およびTAF4遺伝子の発現抑制株の両方においてDNA二本鎖切断の増加がみられた.この結果は,DNAの正常な複製はGAA/TTC 3塩基くり返し配列の安定性において重要であることを強く示唆した.また,基本転写因子の発現の抑制によってもGAA/TTC 3塩基くり返し配列における不安定性が上昇したことから,正常な転写の開始もGAA/TTC 3塩基くり返し配列における安定性に寄与していることが示唆された.

2.GAA/TTC 3塩基くり返し配列は遺伝子プロモーターとして機能する


 転写にかかわる遺伝子のうち,GAA/TTC 3塩基くり返し配列における安定性にもっとも大きな影響をもつことが明らかになったTAF4遺伝子は,基本転写因子TFIIDのサブユニットのひとつをコードする遺伝子であり,TFIIDはプロモーター領域を認識してTATAボックスに結合することが知られている.そこで,Taf4がTATAボックスだけでなくGAA/TTC 3塩基くり返し配列にも結合し,この領域における転写開始の引き金になっているのではないかと考えた.そこで,トリプトファン代謝の必須遺伝子であるTRP1遺伝子のORF部分のみをもつ株,および,その上流の約50 bpの位置にGAA/TTC 3塩基くり返し配列を挿入した株を作製し,トリプトファン欠乏培地における生育を調べた.すると,TRP1遺伝子のORFのみをもつ株は生育しなかったが,GAA/TTC 3塩基くり返し配列の挿入により生育がみられるようになった.なお,この生育はGAAのくり返しの数が120まではその数にともない促進されたが,くり返しの数が230のときにはくり返しの数が5のときとほぼ同じ生育を示した(くり返しの数が230というのは長すぎるのだと考えられた).この結果は,GAA/TTC 3塩基くり返し配列は遺伝子プロモーターとしての役割をみたすこと強く示唆した.

3.GAA/TTC 3塩基くり返し配列における不安定性は非分裂細胞でも上昇する


 液体培養により対数増殖期にある分裂細胞と静止期にある非分裂細胞を取得し,GAA/TTC 3塩基くり返し配列における染色体の構造変化の頻度を測定した.すると,野生株よりTAF4遺伝子の発現抑制株のほうが,分裂細胞と非分裂細胞の両方において染色体の構造変化の頻度は増加した.また,非分裂細胞において,どちらの株でも染色体の構造変化の頻度は増加しつづけた.そこで,非分裂細胞においてもDNA二本鎖切断は増加するのかどうかを直接的に調べるため,サザンハイブリダイゼーション解析にてGAA/TTC 3塩基くり返し配列においてDNA二本鎖切断により生じた欠失した染色体の断片を検出したところ,培養時間の経過とともに,明らかに染色体断片の蓄積がみられた.さらにGAAのくり返しの数が100から130以上に伸長するとこれを検出できる実験系を用いて9)GAA/TTC 3塩基くり返し配列の伸長は非分裂細胞においても起こるのかどうかを調べたが,非分裂細胞において伸長はみられなかった.よって,GAA/TTC 3塩基くり返し配列における不安定性は分裂細胞と非分裂細胞の両方で増加するが,GAA/TTC 3塩基くり返し配列の伸長は分裂細胞において,つまり,DNA複製の際に起こるものと考えられた.

4.GAA/TTC 3塩基くり返し配列のもたらすゲノム不安定性の分子機構のモデル


 今回,得られた結果から,GAA/TTC 3塩基くり返し配列の伸長とGAA/TTC 3塩基くり返し配列において起こるDNA二本鎖切断に焦点をあてて構築した,染色体の構造変化の誘発の分子機構のモデルを示す(図1).分裂細胞ではDNAの複製がさかんに行われている.DNAの合成においてはリーディング鎖よりもラギング鎖においてDNA合成の進行は遅い.したがって,GAA/TTC 3塩基くり返し配列においてDNA三本鎖の形成の起こる可能性はラギング鎖のほうが高い.DNA三本鎖DNAの形成はDNAポリメラーゼの進行をとどこおらせることによりDNA合成の進行をさまたげる.DNAポリメラーゼの進行がとどこおると,鋳型のない一本鎖DNAにおいてDNAの切断が起こる.しかし,リーディング鎖のGAA/TTC 3塩基くり返し配列を鋳型としてDNA鎖を伸長し,さらにラギング鎖のGAA/TTC 3塩基くり返し配列にもとってくれば,GAAのくり返しの数は増加する.一方,非分裂細胞では,GAA/TTC 3塩基くり返し配列に基本転写因子が結合する.その結果,DNA二本鎖が開いて異常なRループ構造が生み出され,これがDNA二本鎖切断の引き金になっているものと考えられる.




おわりに


 ヒトの細胞においてもGAA/TTC 3塩基くり返し配列の伸長の報告がある10,11).しかしながら,大きなスケールの伸長を検出できる今回の実験系では,非分裂細胞においてGAA/TTC 3塩基くり返し配列の伸長はみられなかった.よって,このような大きなスケールでの伸長はDNA複製の際にしか起こらないのかもしれない.出芽酵母の細胞とヒトの細胞との違い,また,GAA/TTC 3塩基くり返し配列におけるDNA二本鎖切断をひき起こすDNAヌクレアーゼは何か,今後の分子機構の解明に期待する.

文 献



  1. Campuzano, V., Montermini, L., Molto, M. D. et al.: Friedreich’s ataxia: autosomal recessive disease caused by an intronic GAA triplet repeat expansion. Science, 271, 1423-1427 (1996)[PubMed]

  2. Clark, R. M., Dalgliesh, G. L., Endres, D. et al.: Expansion of GAA triplet repeats in the human genome: unique origin of the FRDA mutation at the center of an Alu. Genomics, 83, 373-383. (2004)[PubMed]

  3. Kim, H. M., Narayanan, V., Mieczkowski, P. A. et al.: Chromosome fragility at GAA tracts in yeast depends on repeat orientation and requires mismatch repair. EMBO J., 27, 2896-2906 (2008)[PubMed]

  4. Bacolla, A. & Wells, R. D.: Non-B DNA conformations, genomic rearrangements, and human disease. J. Biol. Chem., 279, 47411-47414 (2004)[PubMed]

  5. Raghavab, S. C., Chastain, P., Lee, J. S. et al.: Evidence for a triplex DNA conformation at the bcl-2 major breakpoint region of the t(14;18) translocation. J. Biol. Chem., 280, 22749-22760 (2005)[PubMed]

  6. Michelotti, G. A., Michelotti, E. F., Pullner, A. et al.: Multiple single-stranded cis elements are associated with activated chromatin of the human c-myc gene in vivo. Mol. Cell Biol., 16, 2656-2669 (1996)[PubMed]

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  9. Shishkin, A. A., Voineagu, I., Matera, R. et al.: Large-scale expansions of Friedreich’s ataxia GAA repeats in yeast. Mol. Cell, 35, 82-92 (2009)[PubMed]

  10. De Biase, I., Rasmussen, A., Endres, D. et al.: Progressive GAA expansions in dorsal root ganglia of Friedreich’s ataxia patients. Ann. Neurol., 61, 55-60 (2007)[PubMed]

  11. Ditch, S., Sammarco, M. C., Banerjee, A. et al.: Progressive GAA.TTC repeat expansion in human cell lines. PLoS Genet., 5, e1000704 (2009)[PubMed]



生命科学の教科書における関連するセクションへのリンク


東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.



著者プロフィール


西田 悠里(Yuri Nishida)
略歴:2007年 立命館大学大学院フロンティア理工学研究科 修了,同年 米国Georgia Institute of Technology研究員を経て,2012年より米国Georgia大学 ポスドク.
関心事:染色体の安定性.

Kirill S. Lobachev
米国Georgia Institute of TechnologyにてAssociate Professor.

© 2012 西田悠里・Kirill S. Lobachev Licensed under CC 表示 2.1 日本