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肥満に伴う高レプチン血症が肝において少量のエンドトキシンに過剰反応をきたし非アルコール性脂肪肝炎の進展に関与する

今城健人・中島 淳
(横浜市立大学大学院医学研究科 分子消化管内科学)
email:今城健人中島 淳
DOI: 10.7875/first.author.2012.091

Hyperresponsivity to low-dose endotoxin during progression to nonalcoholic steatohepatitis is regulated by leptin-mediated signaling.
Kento Imajo, Koji Fujita, Masato Yoneda, Yuichi Nozaki, Yuji Ogawa, Yoshiyasu Shinohara, Shingo Kato, Hironori Mawatari, Wataru Shibata, Hiroshi Kitani, Kenichi Ikejima, Hiroyuki Kirikoshi, Noriko Nakajima, Satoru Saito, Shiro Maeyama, Sumio Watanabe, Koichiro Wada, Atsushi Nakajima
Cell Metabolism, 16, 44-54 (2012)




要 約


 非アルコール性脂肪性肝炎における病態進展因子のひとつとして腸管に由来する細菌性のエンドトキシンが報告されているが,その役割は解明されていない.筆者らは,野生型マウスを用いて,健常な肝臓においては炎症や線維化をきたさない少量のエンドトキシンに対しても,高脂肪食により誘導された脂肪肝においてはその反応性が亢進することにより著明な炎症および線維化が惹起されることを示した.くわえて,高脂肪食により誘導された脂肪肝では,エンドトキシンの受容体でありその反応性を亢進させることが知られているCD14がクッパー細胞において高発現していることを示した.また,レプチン欠損マウスでは著明な脂肪肝を呈するにもかかわらず肝臓におけるCD14の発現が著明に低下したことから,レプチンがクッパー細胞におけるCD14の発現に関与していることが示唆された.これらの結果から,肥満にともなう高レプチン血症が少量のエンドトキシンに対する肝臓のクッパー細胞の反応性を亢進し,炎症性サイトカインなどを介し非アルコール性脂肪性肝炎の病態を進展させる可能性が示唆された.

はじめに


 近年,先進国では食の欧米化と運動不足により肥満が増加している.それにともない,内臓脂肪の蓄積を原因とする糖尿病,高血圧,高脂血症など複数の疾患が集積し,いわゆるメタボリックシンドロームが増加している.非アルコール性脂肪肝はメタボリックシンドロームにおいて肝臓の示す表現型として注目されており,さまざまな国での調査により人口の10~24%が罹患していると報告されている1).非アルコール性脂肪肝の一部は肝臓に慢性的な炎症を惹起し非アルコール性脂肪性肝炎にいたる.非アルコール性脂肪性肝炎は10年間でその約2割が肝硬変へと進展し,ときに肝細胞がんにいたる疾患であり2),現在,肥満者の増加を反映しわが国でも人口の約3%が罹患しているとされる.しかしながら,脂肪肝に炎症が惹起される詳細な分子機構は解明されておらず,そのため,治療法の開発も遅れているのが現状である.
 このように,肥満の状態は非アルコール性脂肪性肝炎の発症に強く関与する.肥満の状態では脂肪細胞などからアディポサイトカインが産生されるが,その一種であるレプチンはエネルギーが過剰な状態において恒常性を保つため食欲の抑制やエネルギーの産生をもたらすことが知られている.非アルコール性脂肪性肝炎においてレプチンが肝臓の線維化を促進するとの報告はあるが3),依然として,非アルコール性脂肪性肝炎へのレプチンの影響については未知な部分も多い.
 肥満にくわえ,肝臓における炎症は非アルコール性脂肪性肝炎の発症および進展における重要な因子である.古くから,腸管に由来する細菌性のエンドトキシンが肝臓における炎症に関与することが示唆されてきた4).それにもかかわらず,エンドトキシンに焦点をあてた非アルコール性脂肪性肝炎の研究は依然として少ない.これまでに,非アルコール性脂肪性肝炎の患者では腸管壁の脆弱性が惹起され血中のエンドトキシンの増加することが報告されている5).しかしながら,肝臓に対し著明な炎症を惹起するほどの量のエンドトキシンが,自覚症状もないまま腸から血中に多量に流入するとはとうてい考えられない.そこで,筆者らは,肥満により生じた脂肪肝においては,腸から流入してくる微量のエンドトキシンに対し過剰な反応が起こるのではないかとの仮説をたて,これを検討することにした.さらに,微量のエンドトキシンに対する反応性を変化させるアディポサイトカインとしてレプチンに注目して検討を行った.

1.脂肪肝における少量のリポ多糖に対する反応性


 8週齢のC57BL/6Jマウスに対し普通食あるいは高脂肪食をそれぞれ12週間にわたり投与し,正常な肝臓および脂肪肝のモデルを作製した.この両方のマウスに対して,細菌性のエンドトキシンとして大腸菌に由来するリポ多糖を少量にて1回,腹腔内に投与し時間をおって検討した.普通食をあたえたマウスでは肝臓における障害の指標である血清ALT値は上昇しなかったのに対し,高脂肪食をあたえたマウスでは肝臓における炎症性サイトカインの著増にともない血清ALT値および肝臓における炎症細胞の浸潤が有意に増加した.すなわち,高脂肪食により誘導された脂肪肝では少量のリポ多糖に対する反応性の亢進していることが明らかになった.
 リポ多糖に対する持続的な暴露による影響を検討するため,少量のリポ多糖を連日28日間にわたり腹腔内に投与したところ,普通食をあたえたマウスの正常な肝臓においては炎症や線維化はほとんど惹起されないのに対し,高脂肪食をあたえたマウスの脂肪肝においては著明な炎症や線維化の惹起されることが示された.この病態は,リポ多糖に対する反応性の違いにより生じた変化であると考えられた.

2.脂肪肝におけるリポ多糖に対する反応性の亢進の分子機構


 脂肪肝における少量のリポ多糖に対する反応性の亢進の分子機構を知るため,さきの正常な肝臓と脂肪肝のモデルを網羅的な遺伝子解析により検討したところ,脂肪肝モデルでは正常な肝臓と比べ自然免疫にかかわる細胞膜タンパク質CD14の発現が有意に増加していることが明らかになった.CD14はリポ多糖の共受容体であり,リポ多糖に対する反応性を制御する重要なタンパク質である.この結果をリアルタイムPCR法により確認したところ,CD14をコードするmRNAの発現は高脂肪食をあたえた期間に依存して増加していた.さらに,CD14の発現部位を蛍光二重染色により検討したところ,CD14陽性を示す細胞はF4/80陽性細胞と一致していた.また,F4/80陽性細胞の数は普通食をあたえたマウスと高脂肪食をあたえたマウスとで有意な差を認めなかったが,CD14陽性細胞の数は高脂肪食をあたえたマウスにおいて有意に増加していた.これらの結果は,高脂肪食をあたえることにより肝臓においてCD14陽性のクッパー細胞が増加していることを示唆するものであった.
 では,脂肪肝におけるCD14の過剰な発現は本当にリポ多糖に対する反応性の亢進をもたらすのか.それを確認するため,高脂肪食をあたえたマウスにおいてsiRNAによりCD14をノックダウンし,少量のリポ多糖に対する反応性を検討することにした.CD14のsiRNAの投与により肝臓におけるCD14 mRNAの発現低下を確認したのち,少量のリポ多糖を投与したところ,高脂肪食をあたえたマウスにおいて血清ALT値および炎症性サイトカインの増加が有意に抑制された.これらの結果は,肝臓におけるCD14の発現抑制がリポ多糖に対する反応性の抑制につながることを示しており,このことは,クッパー細胞におけるCD14の発現亢進が肝臓において腸管に由来する少量のエンドトキシンに対する反応性を亢進させている可能性を示唆するものであった.

3.脂肪肝におけるクッパー細胞でのCD14の発現亢進の分子機構


 脂肪肝におけるCD14の発現亢進は肝臓の脂肪化により生じるのか,あるいは,食餌の影響により誘導されるのかを検討した.普通食をあたえても著明な脂肪肝を呈するレプチン欠損マウスにおいて,肝臓におけるCD14の発現について検討したところ普通食をあたえた野生型マウスと比べても有意に低下していた.さらに,普通食をあたえたレプチン欠損マウスおよび野生型マウスに対しレプチンを投与したところ,両方のマウスで肝臓におけるCD14の発現は著明に亢進した.これらの結果は,レプチンによるシグナルが肝臓におけるCD14の発現を制御している可能性を示唆した.
 レプチンは長鎖型のレプチン受容体ObRbのTyr1138リン酸化を誘導しSTAT3を活性化することが知られている.高脂肪食をあたえた野生型マウスでは普通食をあたえた野生型マウスと比べObRbおよびSTAT3のリン酸化が亢進していた.すなわち,高脂肪食をあたえた野生型マウスでは肥満により誘導されたレプチンが肝臓においてレプチン受容体-STAT3シグナル伝達系を活性化していることが示唆された.蛍光二重染色による免疫染色ではF4/80陽性細胞はレプチン受容体の陽性細胞と一致しており,クッパー細胞にはレプチン受容体の発現していることが判明した.さらに,リン酸化STAT3陽性の細胞はF4/80陽性細胞と一致しており,STAT3の活性化はクッパー細胞において生じていることが判明した.これらの結果は,レプチンによるレプチン受容体-STAT3シグナル伝達系の活性化がクッパー細胞において生じていることを示唆するものであった.CD14の発現に対するSTAT3の役割を検討するため,高脂肪食をあたえた野生型マウスに対しSTAT3の阻害剤を尾静脈より投与したところ,CD14の発現は抑制された.これらの結果は,肝臓におけるCD14の発現にSTAT3の活性化が必要であることを示唆した.

4.肝臓におけるリポ多糖に対する反応性の亢進におけるレプチンの役割


 ここまでの検討により,レプチンは肝臓のクッパー細胞においてリポ多糖に対する反応性を増強させている可能性が示唆された.事実,普通食をあたえた野生型マウスに対しレプチンの投与から2時間のちに少量のリポ多糖を投与したところ,レプチンを投与していないマウスと比べ血清ALT値および肝臓における炎症性サイトカインは有意に増加したが,レプチンの投与だけではこれらの増加は生じなかった.これらの結果は,レプチンは正常な肝臓においても少量のリポ多糖に対し反応性を増強していることを示唆するものであった.

5.レプチンの投与によるマクロファージにおけるCD14の発現およびリポ多糖に対する反応性


 クッパー細胞におけるSTAT3-CD14シグナル伝達系へのレプチンの影響を評価するため,マウスの単球/マクロファージ細胞系列の培養細胞であるRAW264.7細胞を用いて検討を行った.レプチンを投与して培養したRAW264.7細胞においては,CD14の有意な発現亢進が認められた.この反応は普通食をあたえた野生型マウスより分離したクッパー細胞でも確認された.さらに,RAW264.7細胞にレプチンおよびリポ多糖を投与したところ,炎症性サイトカインのひとつであるTNFαをコードするmRNAの発現は,レプチンあるいはリポ多糖それぞれの単独での投与と比べ有意に増加した.RAW264.7細胞におけるレプチン投与ののちのCD14の発現亢進およびリポ多糖に対する反応性の亢進はSTAT3の阻害剤により抑制された.

6.ヒトにおける血清レプチン値と肝臓におけるCD14の発現


 ヒトにおける検討により,血清レプチン値および肝臓におけるCD14の発現は健常者と比べ非アルコール性脂肪肝の患者において有意に高く,かつ,単純性脂肪肝の患者と比べ非アルコール性脂肪性肝炎の患者において有意に高いことが示された.この傾向は,肥満の指標であるBMI(body mass index)を一致させた一部の症例でも認められた.さらに,血清レプチン値は肝臓におけるCD14の発現と有意な正の相関を認め,ヒトにおいてもレプチンと肝臓におけるCD14の発現との関連が示唆された.

おわりに


 この研究において,筆者らは,肥満にともなう脂肪肝においてはレプチンがクッパー細胞におけるSTAT3シグナルの活性化を介してCD14の発現を誘導し,肝臓における少量のリポ多糖に対する反応性を亢進させることにより,著明な炎症および線維化につながっている可能性を示唆した(図1).これは,レプチンが少量のエンドトキシンに対する反応性を亢進し,脂肪肝炎の病態形成に関与する可能性を示唆したはじめての報告である.



 以前の検討により,非アルコール性脂肪性肝炎において単純性脂肪肝から脂肪肝炎へといたる過程で,腸管に由来する細菌性のエンドトキシンが重要な役割をはたしている可能性が示された.興味深いことに,プロバイオティクスおよび抗菌剤の投与が非アルコール性脂肪性肝炎の動物モデルにおける肝臓の障害の進行を抑制したとの報告がある6).ここで筆者らは,腸管に由来する細菌性のエンドトキシンに対する反応性は,正常な肝臓と比べ脂肪肝では亢進しているものと仮定した.事実,筆者らのデータにおいて,高脂肪食の投与により誘導されたマウスの脂肪肝では少量のリポ多糖に対する反応性は亢進していた.その分子機構としてCD14が関与する可能性が示唆された.CD14はリポ多糖に対する炎症反応における重要な制御タンパク質であり,クッパー細胞におけるリポ多糖への反応性を増強するものと考えられている7).CD14ノックアウトマウスではリポ多糖に対する感受性が減少し,リポ多糖の投与によるTNFαの産生が抑制されているとの報告がある8).また,CD14を過剰発現させたマウスの単球はリポ多糖に対する感受性が亢進しているとの報告もある9).さらに,ヒトにおける検討でも,CD14遺伝子に存在するSNP(一塩基多型)が非アルコール性脂肪性肝炎の発症リスクとなる可能性が示唆されている10).これらの報告と筆者らの検討の結果より,肝臓におけるCD14の発現亢進(CD14陽性クッパー細胞の増加)は腸管に由来する細菌性のエンドトキシンに対する炎症反応を増強することにより,非アルコール性脂肪性肝炎の病態進展における重要な因子となる可能性が示唆された.
 つづいて筆者らは,レプチン欠損マウスを用い,肝臓におけるレプチンシグナルとCD14の発現との関係を検討した.興味深いことに,レプチンが欠損した状態におけるCD14の発現は,著明な肥満や脂肪肝を呈するにもかかわらず低下していることが示された.それに対して,高脂肪食をあたえた野生型マウスでは著明な肥満および脂肪肝を呈するとともに,血清レプチン値の上昇,クッパー細胞における長鎖型のレプチン受容体ObRbおよびSTAT3シグナルの活性化が生じることにより,肝臓におけるCD14の発現の亢進することが示された.さらに,普通食をあたえた野生型マウスに対しレプチンを投与することにより,肥満や脂肪肝がなくても肝臓におけるCD14の発現は亢進し,結果として,リポ多糖に対する反応性は亢進した.これらの結果は,脂肪肝のない正常な肝臓であったとしても,レプチンがCD14の発現を亢進することにより腸管に由来する少量のエンドトキシンに対する反応性が亢進する可能性を示唆するものであった.事実,ヒトにおける検討により,血清レプチン値の上昇と肝臓におけるCD14の発現が非アルコール性脂肪肝の病態進展に関与する可能性が示唆された.また,STAT3阻害剤を用いた実験により,STAT3シグナルがCD14の発現に関与することを示した.すなわち,筆者らの結果は,STAT3シグナルがクッパー細胞におけるCD14の発現に重要であり,リポ多糖に対する反応性を制御している可能性を示唆した.レプチンがSTAT3シグナルを介してクッパー細胞におけるCD14の発現を誘導することで,少量の細菌性のエンドトキシンに対する反応性を制御している可能性がある.
 筆者らは,肥満にともなう高レプチン血症がクッパー細胞におけるSTAT3シグナルを活性化することによりCD14の発現を亢進し,エンドトキシンに対する肝臓の過剰な炎症反応を惹起することで単純性脂肪肝から炎症および線維化をともなう非アルコール性脂肪性肝炎をきたし,肝硬変や肝細胞がんへ進展するものと予想している(図2).この研究により,非アルコール性脂肪性肝炎に対しレプチン-STAT3シグナル伝達系およびCD14を標的とする治療が有効である可能性が示唆されたことから,今後の検討が必要であろう.




文 献



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著者プロフィール


今城 健人(Kento Imajo)
略歴:2012年 横浜市立大学大学院医学研究科 修了,2010年より横浜市立大学附属病院 指導診療医.
研究テーマ:非アルコール性脂肪性肝炎の発症機構の解明,および,その非侵襲的な診断法の開発.

中島 淳(Atsushi Nakajima)
横浜市立大学大学院医学研究科 教授.

© 2012 今城健人・中島 淳 Licensed under CC 表示 2.1 日本