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覚醒しているアカゲザルの聴覚野における高ガンマ帯の自発的な活動は聴覚皮質の機能的な構造を反映する

福島 誠
(米国NIH National Institute of Mental Health,Laboratory of Neuropsychology)
email:福島 誠
DOI: 10.7875/first.author.2012.081

Spontaneous high-gamma band activity reflects functional organization of auditory cortex in the awake macaque.
Makoto Fukushima, Richard C. Saunders, David A. Leopold, Mortimer Mishkin, Bruno B. Averbeck
Neuron, 74, 899-910 (2012)




要 約


 脳の自発的な活動は規則的な構造をもつことがさまざまな時空間スケールにおける計測手法により見い出されている.このような自発的な活動のもつ規則的な構造の起源は何だろうか? アカゲザルの聴覚皮質においては,ヒトの聴覚皮質と同様に,音の周波数に対する選択性が連続して変化することにより音の周波数を表現する,トノトピックマップとよばれる地図が存在する.今回の研究では,聴覚皮質における電気活動をマイクロ皮質脳波電極により記録し,トノトピックマップと自発的な活動との関係性を調べた.外側溝に埋め込んだマイクロ皮質脳波電極により吻尾側の方向に約2 cmにわたる低次および高次の聴覚野のトノトピックマップを同定することにはじめて成功し,音の刺激のない状態で覚醒しているアカゲザルの自発的な活動において,同様の周波数に対する選択性をもつ部位が同期して活動していることを発見した.この結果より,覚醒している霊長類の聴覚野における自発的な活動は,音の周波数を表現するトノトピックマップの構造と密接な関係のあることが示された.

はじめに


 一日のはじまり.目覚まし時計の音,窓から差し込む太陽の光,眠気覚ましのコーヒーの味と香り.われわれの脳は日々の生活のなか,このような視覚,聴覚,嗅覚,味覚などの外界からの刺激を受け取っている.また一方で,静かな部屋で考えをめぐらし物思いにふけるときのように,われわれの脳は外界からの刺激の少ないときでもめまぐるしく情報を処理し,さまざまな物事が頭のなかでイメージされ意識されうる.このような状況での脳の“自発的”な神経活動は,脳が外界からの刺激を処理しているときの神経活動と,どのような関係性にあるのだろうか?(図1



 感覚系の神経活動の研究は感覚刺激に対する応答を主に行われてきたが,近年,その自発的な活動の複雑な時空間構造や刺激に対する応答への影響などがさまざまな計測手法により研究されるようになった1).さらに,神経系の自発的な活動と感覚刺激により誘発された神経活動との類似性が視覚皮質および聴覚皮質などにおいて見い出されている.たとえば,麻酔されたネコの1次視覚野において方位選択性マップの空間構造が自発的な活動における電位の変化においても観測されることが示されている2).このことは,自発的な活動における空間パターンは,視覚野における視覚情報を表現する感覚地図の構造により拘束されていることを意味する.ラットの聴覚野においては聴覚刺激に対する応答と自発的な活動との類似性が発見されている3,4).また,覚醒しているアカゲザルの1次聴覚野において,異なる皮質層での自発的な活動の関係性が調べられているが5),音の周波数に対する選択性が皮質における位置において連続して変化することで音の周波数を表現するトノトピックマップ(tonotopic map)の構造と自発的な活動との関係性はいまだ不明である.今回,筆者らは,覚醒している動物において,感覚地図と自発的な活動との関係性が複数の低次から高次の感覚野にわたるより大きな空間スケールについて成立しうるかどうかを,霊長類のアカゲザルの聴覚野で調べた.

1.マイクロ皮質脳波電極による外側溝のなかでの聴覚誘発電位の測定


 脳の広範囲の電気活動を計測する手段として注目をされているのが,皮質脳波計測(electrocorticography:ECoG)とよばれる,脳の皮質の表面に配置された平板の電極から神経の電気活動を計測する手法である.この方法は,てんかん患者の術前評価に用いられるなど比較的非侵襲的な脳の計測方法であるとともに,高い時空間分解能をもつ計測手段としての利点があげられる.近年,皮質脳波計測はニホンザルにも応用され,腕の動きを高精度で予測できるような神経電位活動を計測できることが示されている6)
 アカゲザルのおもな聴覚野は外側溝とよばれる“脳のしわ”のなかの上側頭平面に存在する(図2a).以前の研究では視覚皮質の自発的な活動の時空間パターンを同定するのに光計測法が用いられたが,この方法を脳の溝のなかの領野に適応することは困難であった.よって,長さ2 cm以上にもわたる脳の溝のなかの皮質からの時間分解能の高い記録をどのように実現するかがこの研究におけるひとつの技術的な課題であった.今回,この問題を,厚さわずか20μmのポリイミドフィルムからなるマイクロ皮質脳波電極を外側溝に埋め込むことで解決した.このマイクロ皮質脳波電極は通常の皮質脳波電極より高い空間分解能をもち,1 mm間隔の空間分解能で聴覚誘発電位を計測することが可能であった.1つのマイクロ皮質脳波電極には4×8の格子状の合計32個の接点が配置されている.この電極を3つ並べて埋め込むことにより上側頭平面の3 mm×21 mm以上の部位を96個の接点によりカバーし,1次聴覚野のみならず,その吻側に存在する複数の高次聴覚野における電位の変化を同時に記録することに成功した.




2.高ガンマ帯における複数のノトピックマップによる同定


 ヒトと同様に,アカゲザルの上側頭平面の聴覚野にはトノトピックマップとよばれる周波数を表現する地図の存在することが知られている.この周波数に対する選択性は尾側から吻側の方向に変化し,高音への選択性と低音への選択性が周期的にくり返す鏡像対称性(mirror symmetry)をもつ複数のトノトピックマップの存在することが知られている7)図2a).今回の実験では,マイクロ皮質脳波電極を埋め込んだ覚醒しているアカゲザルに100ミリ秒の長さの純音の刺激を聴かせた.6つの異なる音圧と30個の周波数の計180個の純音を用いることで,おのおのの電極の接点において高ガンマ帯(60~200 Hz)の電圧を用いて特徴となる周波数を推定することにより,おのおのの電極の接点がどのような周波数の音によく反応するかを調べた.このことで,マイクロ皮質脳波電極により上側頭平面の複数のトノトピックマップを同定することに成功した.さらに,トノトピックマップの構造は高ガンマ帯よりも低い周波数の成分(シータ帯,ベータ帯,アルファ帯,低ガンマ帯)では鏡像対称性は明確に同定されないことも示された.高ガンマ帯の電圧と単一細胞記録法におけるスパイクやfMRI(機能的磁気共鳴画像)法におけるBOLD信号との相関の高さは以前から実験的に示されており,今回の結果は,以前に単一細胞記録法やfMRI法により同定されたトノトピックマップと整合性のある結果といえた.

3.自発的な活動による電位の変化はトノトピックマップの構造を反映する


 高ガンマ帯の聴覚誘発電位を用いて同定された聴覚野のトノトピックマップと自発的な活動との関係を調べるため,音の刺激をあたえない状況で覚醒しているアカゲザルの上側頭平面の聴覚野からの高ガンマ帯の自発的な電位の変化を記録した.トノトピックマップの空間構造と同時に記録した自発的な電位の変化との相関係数の分布を計算すると,1時間ほど記録された自発的な電位の約10%が,トノトピックマップと統計的に有意な相関のある空間構造を示すことがわかった.さらに,自発的な電位の変化の主成分分析の結果,高いランクの主成分がトノトピックマップに類似した空間構造をもつことがわかった.これらの結果は,同様の音の周波数に対する選択性をもつ部位どうしが,自発的な活動において少なくともある一定の時間においては同期し,違う周波数に対する選択性をもつ部位はそれとは違う位相で同期していることを示唆した(図2b).これにより,上側頭平面の複数の聴覚野は音の刺激を表現する地図の構造を反映した自発的な活動の時間変動を示すことが明らかにされた.

おわりに


 この研究により,以前の研究では示されていなかった覚醒している霊長類の複数の聴覚野でのトノトピックマップと自発的な活動との類似性が見い出され,聴覚野における自発的な活動の時空間構造の起源の解明に寄与したといえるだろう.現在,このような同じ音の周波数に対して選択性をもつ部位の同期を可能とするような解剖学的な結合を解明するため,神経トレーサーによる組織学的な方法を用いた研究を進行している.

文 献



  1. Raichle, M. E.: Two views of brain function. Trends Cogn. Sci., 14, 180-190 (2010)[PubMed]

  2. Kenet, T., Bibitchkov, D., Tsodyks, M. et al.: Spontaneously emerging cortical representations of visual attributes. Nature, 425, 954-956 (2003)[PubMed]

  3. Sakata, S. & Harris, K. D.: Laminar structure of spontaneous and sensory-evoked population activity in auditory cortex. Neuron, 64, 404-418 (2009)[PubMed]

  4. Luczak, A., Bartho, P. & Harris, K. D.: Spontaneous events outline the realm of possible sensory responses in neocortical populations. Neuron, 62, 413-425 (2009)[PubMed]

  5. Lakatos, P., Shah, A. S., Knuth, K. H. et al.: An oscillatory hierarchy controlling neuronal excitability and stimulus processing in the auditory cortex. J. Neurophysiol., 94, 1904-1911 (2005)[PubMed]

  6. Chao, Z. C., Nagasaka, Y. & Fujii, N.: Long-term asynchronous decoding of arm motion using electrocorticographic signals in monkeys. Front. Neuroeng., 3, 3 (2010)[PubMed]

  7. Petkov, C. I., Kayser, C., Augath, M. et al.: Functional imaging reveals numerous fields in the monkey auditory cortex. PLoS Biol., 4, e215 (2006)[PubMed]



生命科学の教科書における関連するセクションへのリンク


東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.



著者プロフィール


福島 誠(Makoto Fukushima)
略歴:2008年 米国Chicago大学にて博士号取得,同年より米国NIH National Institute of Mental Health博士研究員.
研究テーマ:霊長類の聴覚野などの大域的な神経活動の記録と解析.
関心事:脳における感覚系と運動系の統合的な理解.感覚運動学習および制御.神経回路ネットワークの動力学.

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