X染色体性知的障害の原因タンパク質CUL4BはWDR5のユビキチン化にはたらくことで神経に特異的な遺伝子の発現を制御する
中川 直・Yue Xiong
(米国North Carolina大学Chapel Hill校,Lineberger Comprehensive Cancer Center)
email:中川 直
DOI: 10.7875/first.author.2011.139
X-linked mental retardation gene CUL4B targets ubiquitylation of H3K4 methyltransferase component WDR5 and regulates neuronal gene expression.
Tadashi Nakagawa, Yue Xiong
Molecular Cell, 43, 381-391 (2011)
ユビキチンリガーゼCUL4BはX染色体性知的障害の患者において変異のみられるタンパク質であるが,その発症の分子機構は不明であった.今回,筆者らは,CUL4Bがヒストンメチル化酵素の構成タンパク質であるWDR5のユビキチン化にはたらきその分解を促進すること,その結果,神経に特異的ないくつかの遺伝子のプロモーターにおけるヒストンメチル化を減少させ,神経に特異的な遺伝子の発現を負に制御することを示した.また,CUL4Bの発現抑制はWDR5の増加に依存してPC12細胞における神経突起の伸張を阻害すること,この表現型は野生型CUL4Bを導入することで相補されるものの,患者でみられる変異型CUL4Bでは相補されないことを示した.これらの結果から,CUL4Bの変異は神経に特異的な遺伝子の過剰発現およびニューロンの機能不全をひき起こし,知的障害を発症させていることが示唆された.
真核生物の細胞内における選択的なタンパク質の分解は,おもにユビキチン-プロテアソーム系により遂行されている.この系において,分解されるべき標的タンパク質(基質)は,まずユビキチンリガーゼによりユビキチン化され,つづいてプロテアソームにより分解される.ユビキチン-プロテアソーム系の破綻はタンパク質の異常蓄積による神経疾患,自己免疫疾患,がんなどの病態をひき起こす1).
Cullinファミリータンパク質は,それ自体はユビキチンリガーゼ活性をもたないものの,リングフィンガータンパク質ROC1あるいはROC2,および,アダプタータンパク質,基質認識タンパク質と結合することによりユビキチンリガーゼ複合体を形成し標的タンパク質のユビキチン化に関与する.このうちCullin 4(CUL4)はCUL1およびCUL3とともに進化的にもっともよく保存されたCullinファミリータンパク質のひとつであり,分裂酵母などモデル生物を用いた研究によりクロマチン制御にかかわることが示されてきた2).興味深いことに,脊椎動物のゲノムには2つのCUL4,CUL4AおよびCUL4Bがコードされており,これらはアミノ酸レベルにおいて80%以上が同一であるが,その機能的な差異については未解明であった.とくに,哺乳動物ではCUL4BはX染色体にコードされており,X染色体性知的障害患者において変異のみられるタンパク質であるが,その発症の分子機構は不明であった.
筆者らおよびいくつかの研究グループにより,CUL4はアダプタータンパク質としてDDB1,基質認識タンパク質としてWD40ドメインを含む約90種類のタンパク質と相互作用することが示唆されていた3).今回,この基質認識タンパク質(DDB1-binding WD40 protein,DWDタンパク質)の機能を解析する過程で,DWDタンパク質のひとつWDR5自体がCUL4Bを含むユビキチンリガーゼ複合体によりユビキチン化されることを見い出した.そこで,CUL4BによるWDR5の制御機構および神経機能との関連について調べた.
CUL4との機能的な関連が解明されているDWDタンパク質はまだ半分にもみたない.また,CUL4はクロマチン制御にかかわることが示されていた.そこで,クロマチン制御において機能をもつDWDタンパク質をリストアップし,それらの機能とCUL4との関連を調べることにした.その過程で偶然に,DWDタンパク質のひとつWDR5がDDB1またはCUL4Bのノックダウンにより増加することを見い出した.このとき,mRNAレベルでは変化が認められなかったことから,この増加はタンパク質レベルで起こっていることが示唆された.さらに,CUL4を含むユビキチンリガーゼ複合体はWDR5をin vitroおよびin vivoでユビキチン化し,プロテアソームによる分解を促進することが示された.
CUL4AとCUL4Bとの機能的な差異は未解明であったが,興味深いことに,CUL4AのノックダウンはWDR5の増加をひき起こさなかったことから,WDR5の分解に対する差異を調べることにした.CUL4AとCUL4Bのアミノ酸配列を比較すると,CUL4BのN末端側にはCUL4Aにみられない約150アミノ酸残基からなる領域が付加されていることがわかった(図1).さらに,この領域には核移行シグナルがあったが,CUL4Bは核に局在することが報告されていた4).WDR5も核に局在することが報告されていたことから,CUL4BとWDR5の核における共局在がCUL4Bを含むユビキチンリガーゼ複合体によるWDR5のユビキチン化に必須であり,CUL4Aは核移行シグナルをもたないためWDR5の分解において機能しないとの仮説をたてた.実際に,核移行シグナルに変異を導入したCUL4BはWDR5の分解を促進できないこと,および,CUL4Bの核移行シグナルをCUL4AのN末端側に融合させたタンパク質はWDR5の分解を促進することを見い出した.
WDR5はクロマチン修飾活性をもつ種々の複合体の構成タンパク質として同定されているが,このうちもっともよく解析されているのはMLL複合体における機能である5).MLL複合体においてWDR5は,ヒストンH3の4番目のLys残基のメチル化活性を増大させ,その結果,いつくかの遺伝子の転写開始点の上流においてヒストントリメチル化を増加させ遺伝子の転写を活性化させる.以前の研究から,X染色体性知的障害の原因タンパク質のひとつSMCX/JARID1C/KDM5Cは,トリメチル化したヒストンH3の4番目のLys残基において脱メチル化活性をもつこと,および,このタンパク質の発現抑制は神経に特異的な遺伝子のプロモーターにおけるヒストントリメチル化を増加させ遺伝子の発現を上昇させることが示されていた6).筆者らは,CUL4Bの発現抑制もこれと同様に,WDR5の増加に依存して神経に特異的な遺伝子のプロモーターにおけるヒストンH3の4番目のLys残基のトリメチル化を増加させ,神経に特異的な遺伝子の発現を上昇させることを見い出した.
さらに別の報告により,SMCX/JARID1C/KDM5Cの発現抑制はラットにおいてニューロンの樹状突起の伸長を阻害することが示されていた7).筆者らは,CUL4Bの発現抑制もこれと同様に,WDR5の増加に依存してラットPC12細胞においてNGFにより誘導される神経突起の伸長を阻害することを示した.さらに,WDR5の過剰発現によっても同様の効果が観察された.
これまで,X染色体性知的障害患者10家族および1人の新規患者においてCUL4Bの変異が報告されているが,このうち8つの変異が切断変異,3つが点変異である(図1).8つの切断変異のうち新規患者の変異については,詳細な解析はなされていないものの,少なくともROC1結合領域よりまえのイントロン11の欠損していることが報告されている.また,このほか5つの切断変異においてもROC1結合領域のまえで切断が起こっているので,これら切断変異型CUL4Bはユビキチンリガーゼ活性において機能不全であるといえる.残り2つの切断変異は,ROC1結合領域よりC末端側で生じているものの,いずれも最終エキソンよりまえのエキソンに終止コドンが導入されるため,NMD(nonsense-mediated degradation:ナンセンス変異に依存する分解)経路によりmRNAが分解されているものと思われる.以上のことより,CUL4Bの変異はその機能不全をひき起こし知的障害を発症させるものと思われるが,残り3つの点変異についてはどのようにCUL4Bの機能不全をひき起こすのか不明であった.そこで,これら点変異をもった変異型CUL4Bの機能を調べた.その結果,これらの点変異型CUL4BはDDB1およびROC1とは結合できるもののタンパク質自体が不安定であり,分解が早いことがわかった.また,さきのラットPC12細胞を用いた実験において,CUL4Bの発現抑制による神経突起の伸長の阻害は野生型CUL4Bを導入することで相補されたが,これらの点変異型CUL4Bの導入では相補されないことが示された.
以上の結果から,CUL4Bの変異はCUL4Bのユビキチンリガーゼ活性を失わせるか,あるいは,CUL4Bの不安定化をひき起こすことでWDR5を増加させ,神経に特異的な遺伝子の過剰発現およびニューロンの機能不全をひき起こして,知的障害を発症させることが示唆された(図2).
これまで,哺乳動物においてCUL4の基質として約30種類のタンパク質が報告されているが,CUL4Bに特異的なタンパク質は,筆者らの知るかぎり,βカテニン,芳香族炭化水素受容体,エストロゲン受容体α,および,アンドロゲン受容体とまれであった.WDR5およびこれらのタンパク質がCUL4Bの機能不全による知的障害の発症にどのくらいかかわっているか調べるためには,CUL4Bノックアウトマウスの解析が必須と思われる.興味深いことに最近,CUL4Aノックアウトマウスは精子形成の異常のほかめだった表現型を示さないが8),CUL4Bノックアウトマウスは胎生致死であることが示された9).このことから,CUL4Aの機能は大部分がCUL4Bにより補えるものの,CUL4Bの機能は(少なくとも,胚発生の段階において)CUL4Aでは補えないことが示唆された.CUL4Bの成体における機能を調べるため,CUL4Bの組織特異的なノックアウトマウスの作製およびその解析が待たれる.
最後に,今回の論文により新たに提起された生化学的な疑問をいくつか指摘したい.1)CUL4によるWDR5の制御は進化的に保存されているのか? WDR5はCUL4と同様に真核生物においてよく保存されたタンパク質であるため,この制御がより下等な真核生物においても保存されている可能性がある.2)ほかのDWDタンパク質もCUL4の基質となるのか? WDR5のほか,DDB2もCUL4の基質であることが報告されており,ほかにも同様の例の存在する可能性がある.3)CUL4BおよびWDR5とほかの知的障害の原因タンパク質とのクロストークは存在するか? 筆者らの結果から,CUL4BとSMCX/JARID1C/KDM5Cは同様の生化学的な機構により知的障害をひき起こすことが示唆された.このほか,多くの知的障害の原因タンパク質がクロマチンの制御にかかわっていることが報告されており,これらのあいだになんらかのクロストークの存在する可能性がある.
略歴:2008年 九州大学大学院医学研究院博士課程 修了,同年より米国North Carolina大学Chapel Hill校 博士研究員.
研究テーマ:CUL4によるクロマチン制御機構の解明.
Yue Xiong
米国North Carolina大学Chapel Hill校にてProfessor.
研究室URL:http://cancer.med.unc.edu/xionglab/public_html/
© 2011 中川 直・Yue Xiong Licensed under CC 表示 2.1 日本
(米国North Carolina大学Chapel Hill校,Lineberger Comprehensive Cancer Center)
email:中川 直
DOI: 10.7875/first.author.2011.139
X-linked mental retardation gene CUL4B targets ubiquitylation of H3K4 methyltransferase component WDR5 and regulates neuronal gene expression.
Tadashi Nakagawa, Yue Xiong
Molecular Cell, 43, 381-391 (2011)
要 約
ユビキチンリガーゼCUL4BはX染色体性知的障害の患者において変異のみられるタンパク質であるが,その発症の分子機構は不明であった.今回,筆者らは,CUL4Bがヒストンメチル化酵素の構成タンパク質であるWDR5のユビキチン化にはたらきその分解を促進すること,その結果,神経に特異的ないくつかの遺伝子のプロモーターにおけるヒストンメチル化を減少させ,神経に特異的な遺伝子の発現を負に制御することを示した.また,CUL4Bの発現抑制はWDR5の増加に依存してPC12細胞における神経突起の伸張を阻害すること,この表現型は野生型CUL4Bを導入することで相補されるものの,患者でみられる変異型CUL4Bでは相補されないことを示した.これらの結果から,CUL4Bの変異は神経に特異的な遺伝子の過剰発現およびニューロンの機能不全をひき起こし,知的障害を発症させていることが示唆された.
はじめに
真核生物の細胞内における選択的なタンパク質の分解は,おもにユビキチン-プロテアソーム系により遂行されている.この系において,分解されるべき標的タンパク質(基質)は,まずユビキチンリガーゼによりユビキチン化され,つづいてプロテアソームにより分解される.ユビキチン-プロテアソーム系の破綻はタンパク質の異常蓄積による神経疾患,自己免疫疾患,がんなどの病態をひき起こす1).
Cullinファミリータンパク質は,それ自体はユビキチンリガーゼ活性をもたないものの,リングフィンガータンパク質ROC1あるいはROC2,および,アダプタータンパク質,基質認識タンパク質と結合することによりユビキチンリガーゼ複合体を形成し標的タンパク質のユビキチン化に関与する.このうちCullin 4(CUL4)はCUL1およびCUL3とともに進化的にもっともよく保存されたCullinファミリータンパク質のひとつであり,分裂酵母などモデル生物を用いた研究によりクロマチン制御にかかわることが示されてきた2).興味深いことに,脊椎動物のゲノムには2つのCUL4,CUL4AおよびCUL4Bがコードされており,これらはアミノ酸レベルにおいて80%以上が同一であるが,その機能的な差異については未解明であった.とくに,哺乳動物ではCUL4BはX染色体にコードされており,X染色体性知的障害患者において変異のみられるタンパク質であるが,その発症の分子機構は不明であった.
筆者らおよびいくつかの研究グループにより,CUL4はアダプタータンパク質としてDDB1,基質認識タンパク質としてWD40ドメインを含む約90種類のタンパク質と相互作用することが示唆されていた3).今回,この基質認識タンパク質(DDB1-binding WD40 protein,DWDタンパク質)の機能を解析する過程で,DWDタンパク質のひとつWDR5自体がCUL4Bを含むユビキチンリガーゼ複合体によりユビキチン化されることを見い出した.そこで,CUL4BによるWDR5の制御機構および神経機能との関連について調べた.
1.WDR5はCUL4Bを含むユビキチンリガーゼ複合体によりユビキチン化される
CUL4との機能的な関連が解明されているDWDタンパク質はまだ半分にもみたない.また,CUL4はクロマチン制御にかかわることが示されていた.そこで,クロマチン制御において機能をもつDWDタンパク質をリストアップし,それらの機能とCUL4との関連を調べることにした.その過程で偶然に,DWDタンパク質のひとつWDR5がDDB1またはCUL4Bのノックダウンにより増加することを見い出した.このとき,mRNAレベルでは変化が認められなかったことから,この増加はタンパク質レベルで起こっていることが示唆された.さらに,CUL4を含むユビキチンリガーゼ複合体はWDR5をin vitroおよびin vivoでユビキチン化し,プロテアソームによる分解を促進することが示された.
2.CUL4を含むユビキチンリガーゼ複合体によるWDR5のユビキチン化には核への局在が必須である
CUL4AとCUL4Bとの機能的な差異は未解明であったが,興味深いことに,CUL4AのノックダウンはWDR5の増加をひき起こさなかったことから,WDR5の分解に対する差異を調べることにした.CUL4AとCUL4Bのアミノ酸配列を比較すると,CUL4BのN末端側にはCUL4Aにみられない約150アミノ酸残基からなる領域が付加されていることがわかった(図1).さらに,この領域には核移行シグナルがあったが,CUL4Bは核に局在することが報告されていた4).WDR5も核に局在することが報告されていたことから,CUL4BとWDR5の核における共局在がCUL4Bを含むユビキチンリガーゼ複合体によるWDR5のユビキチン化に必須であり,CUL4Aは核移行シグナルをもたないためWDR5の分解において機能しないとの仮説をたてた.実際に,核移行シグナルに変異を導入したCUL4BはWDR5の分解を促進できないこと,および,CUL4Bの核移行シグナルをCUL4AのN末端側に融合させたタンパク質はWDR5の分解を促進することを見い出した.
3.CUL4BはWDR5に依存して神経に特異的な遺伝子の発現を制御する
WDR5はクロマチン修飾活性をもつ種々の複合体の構成タンパク質として同定されているが,このうちもっともよく解析されているのはMLL複合体における機能である5).MLL複合体においてWDR5は,ヒストンH3の4番目のLys残基のメチル化活性を増大させ,その結果,いつくかの遺伝子の転写開始点の上流においてヒストントリメチル化を増加させ遺伝子の転写を活性化させる.以前の研究から,X染色体性知的障害の原因タンパク質のひとつSMCX/JARID1C/KDM5Cは,トリメチル化したヒストンH3の4番目のLys残基において脱メチル化活性をもつこと,および,このタンパク質の発現抑制は神経に特異的な遺伝子のプロモーターにおけるヒストントリメチル化を増加させ遺伝子の発現を上昇させることが示されていた6).筆者らは,CUL4Bの発現抑制もこれと同様に,WDR5の増加に依存して神経に特異的な遺伝子のプロモーターにおけるヒストンH3の4番目のLys残基のトリメチル化を増加させ,神経に特異的な遺伝子の発現を上昇させることを見い出した.
4.CUL4BはWDR5に依存して神経突起の伸長を制御する
さらに別の報告により,SMCX/JARID1C/KDM5Cの発現抑制はラットにおいてニューロンの樹状突起の伸長を阻害することが示されていた7).筆者らは,CUL4Bの発現抑制もこれと同様に,WDR5の増加に依存してラットPC12細胞においてNGFにより誘導される神経突起の伸長を阻害することを示した.さらに,WDR5の過剰発現によっても同様の効果が観察された.
5.知的障害患者に由来するCUL4Bの点変異はその不安定化をひき起こす
これまで,X染色体性知的障害患者10家族および1人の新規患者においてCUL4Bの変異が報告されているが,このうち8つの変異が切断変異,3つが点変異である(図1).8つの切断変異のうち新規患者の変異については,詳細な解析はなされていないものの,少なくともROC1結合領域よりまえのイントロン11の欠損していることが報告されている.また,このほか5つの切断変異においてもROC1結合領域のまえで切断が起こっているので,これら切断変異型CUL4Bはユビキチンリガーゼ活性において機能不全であるといえる.残り2つの切断変異は,ROC1結合領域よりC末端側で生じているものの,いずれも最終エキソンよりまえのエキソンに終止コドンが導入されるため,NMD(nonsense-mediated degradation:ナンセンス変異に依存する分解)経路によりmRNAが分解されているものと思われる.以上のことより,CUL4Bの変異はその機能不全をひき起こし知的障害を発症させるものと思われるが,残り3つの点変異についてはどのようにCUL4Bの機能不全をひき起こすのか不明であった.そこで,これら点変異をもった変異型CUL4Bの機能を調べた.その結果,これらの点変異型CUL4BはDDB1およびROC1とは結合できるもののタンパク質自体が不安定であり,分解が早いことがわかった.また,さきのラットPC12細胞を用いた実験において,CUL4Bの発現抑制による神経突起の伸長の阻害は野生型CUL4Bを導入することで相補されたが,これらの点変異型CUL4Bの導入では相補されないことが示された.
以上の結果から,CUL4Bの変異はCUL4Bのユビキチンリガーゼ活性を失わせるか,あるいは,CUL4Bの不安定化をひき起こすことでWDR5を増加させ,神経に特異的な遺伝子の過剰発現およびニューロンの機能不全をひき起こして,知的障害を発症させることが示唆された(図2).
おわりに
これまで,哺乳動物においてCUL4の基質として約30種類のタンパク質が報告されているが,CUL4Bに特異的なタンパク質は,筆者らの知るかぎり,βカテニン,芳香族炭化水素受容体,エストロゲン受容体α,および,アンドロゲン受容体とまれであった.WDR5およびこれらのタンパク質がCUL4Bの機能不全による知的障害の発症にどのくらいかかわっているか調べるためには,CUL4Bノックアウトマウスの解析が必須と思われる.興味深いことに最近,CUL4Aノックアウトマウスは精子形成の異常のほかめだった表現型を示さないが8),CUL4Bノックアウトマウスは胎生致死であることが示された9).このことから,CUL4Aの機能は大部分がCUL4Bにより補えるものの,CUL4Bの機能は(少なくとも,胚発生の段階において)CUL4Aでは補えないことが示唆された.CUL4Bの成体における機能を調べるため,CUL4Bの組織特異的なノックアウトマウスの作製およびその解析が待たれる.
最後に,今回の論文により新たに提起された生化学的な疑問をいくつか指摘したい.1)CUL4によるWDR5の制御は進化的に保存されているのか? WDR5はCUL4と同様に真核生物においてよく保存されたタンパク質であるため,この制御がより下等な真核生物においても保存されている可能性がある.2)ほかのDWDタンパク質もCUL4の基質となるのか? WDR5のほか,DDB2もCUL4の基質であることが報告されており,ほかにも同様の例の存在する可能性がある.3)CUL4BおよびWDR5とほかの知的障害の原因タンパク質とのクロストークは存在するか? 筆者らの結果から,CUL4BとSMCX/JARID1C/KDM5Cは同様の生化学的な機構により知的障害をひき起こすことが示唆された.このほか,多くの知的障害の原因タンパク質がクロマチンの制御にかかわっていることが報告されており,これらのあいだになんらかのクロストークの存在する可能性がある.
文 献
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著者プロフィール
略歴:2008年 九州大学大学院医学研究院博士課程 修了,同年より米国North Carolina大学Chapel Hill校 博士研究員.
研究テーマ:CUL4によるクロマチン制御機構の解明.
Yue Xiong
米国North Carolina大学Chapel Hill校にてProfessor.
研究室URL:http://cancer.med.unc.edu/xionglab/public_html/
© 2011 中川 直・Yue Xiong Licensed under CC 表示 2.1 日本