ライフサイエンス新着論文レビュー

Unc93B1はTLR7とTLR9の応答性を相反的に制御し致死的な自然炎症から生体を防御する

福井竜太郎・三宅健介
(東京大学医科学研究所 感染遺伝学分野)
email:福井竜太郎三宅健介
DOI: 10.7875/first.author.2011.112

Unc93B1 restricts systemic lethal inflammation by orchestrating Toll-like receptor 7 and 9 trafficking.
Ryutaro Fukui, Shin-Ichiroh Saitoh, Atsuo Kanno, Masahiro Onji, Takuma Shibata, Akihiko Ito, Morikazu Onji, Mitsuru Matsumoto, Shizuo Akira, Nobuaki Yoshida, Kensuke Miyake
Immunity, 35, 69-81 (2011)




要 約


 TLR7TLR9は自然免疫を担当するタンパク質であり,TLR7はRNAなど,TLR9はDNAを認識する.TLR7TLR9の応答性は相反的に制御されており,定常時にはTLR9に優位なバランスが保たれることでTLR7の応答性が抑制されている.このような現象はUnc93B1とよばれるタンパク質により担われており,その34番目のアスパラギン酸残基を中心とした部位がTLR7TLR9とのバランスをつかさどっている.そのため,このアスパラギン酸残基をアラニン残基に置換した変異体はTLR7の応答性を亢進させTLR9の応答性を減弱させる.筆者らは,相反的なTLR7TLR9とのバランスの生体における役割を解明するため,Unc93B1にこの変異をもつマウスを作製し解析を行った.この変異マウスはTLR7に優位な応答バランスとなった結果として自然にさまざまな表現型が誘導され,1年以内に半数以上が死亡した.このことから,相反的なTLR7TLR9とのバランスは生体が恒常性を維持するために不可欠な機能であることが示された.

はじめに


 自然免疫系を担当するタンパク質は遺伝子の再構築をうけることのないため病原体の認識パターンにはかぎりがある.そのため,ひとつの受容体が1種類のリガンドを認識するのではなく,ひとつの受容体が複数の病原体に共通する分子構造を認識することで認識対象の幅を広げている.こうしたタンパク質のうち,Toll様受容体(Toll-like receptor:TLR)は約10種類からなるファミリーを形成しており,細菌やウイルスなどの病原体に特異的な分子構造を認識する1)
 一方,宿主に由来する物質であっても病原体と構造が類似している場合にはToll様受容体の認識対象となるため,自己に由来する物質が内因性のリガンドとなり自己免疫疾患などの慢性的な炎症をひき起こす可能性が指摘されている2,3).なかでも,核酸はすべての生命体のあいだで高度に保存されているため,核酸を認識するToll様受容体の応答性は適切に制御されなくてはならない.こうした制御機構を担うタンパク質のひとつにUnc93 homolog B1(Unc93B1)とよばれるものがある.
 Unc93B1は複数回膜貫通型のタンパク質で,定常時は核酸認識系のToll様受容体と小胞体膜において結合している4)図1).細胞が刺激をうけるとUnc93B1Toll様受容体をリガンド認識の場であるエンドリソソームへと輸送しシグナルが惹起される5)Unc93B1によるToll様受容体との結合はC末端側の膜貫通領域に依存的であるため,412番目のヒスチジン残基がアルギニン残基に変異したUnc93B1Toll様受容体と結合することができず,結果としてToll様受容体の核酸リガンドに不応答性となる6).これらのことから,Unc93B1は核酸認識系のToll様受容体の応答性に必須のタンパク質として知られるようになった.筆者らは,Unc93B1の34番目のアスパラギン酸残基を中心とするN末端側にTLR7TLR9の応答性を相反的に制御する機能のあることを発見した7).このアスパラギン酸残基をアラニン残基に置換した変異体(以下,D34A変異体)はTLR7の応答性を亢進させTLR9の応答性を抑制する.したがって,野生型のUnc93B1TLR9に優位な応答性を保つことでTLR7の応答性を抑制しているものと考えられるが,相反的なTLR7TLR9とのバランスの生体における役割は未知である.そこで,Unc93B1にD34A変異をもつマウス(D34A変異マウス)を作製し,相反的なTLR7TLR9とのバランスが破綻した際に生体のうける影響を検討した.




1.D34Aマウスの細胞はTLR7の応答性が亢進しTLR9の応答性が減弱している


 これまで,D34A変異体を用いた実験は細胞株などへの強制発現系にかぎられていたため,D34Aマウスのように内在性のUnc93B1が変異をうけた際にも同様の結果が得られるのかどうかを確認した.D34Aマウスから誘導または採取した樹状細胞,マクロファージ,B細胞はいずれもTLR7の応答性が亢進しTLR9の応答性が減弱していたため,D34AマウスのToll様受容体リガンドに対する応答性はin vitroの結果を反映するものであることが確認された.また,各種のToll様受容体の発現量は野生型マウスとの差がなかったことから,D34A変異によるToll様受容体の応答変化はあくまでUnc93B1の機能が変化したために起こっていることが示された.

2.相反的なTLR7TLR9とのバランスの崩壊は致死的な全身性の炎症をひき起こす


 D34Aマウスには脾腫,肝炎,糸球体腎炎,血小板の減少,骨髄増殖性疾患などの表現型が自然に誘導され,10週齢前後から死亡する個体がみられるようになった.半数以上のマウスは1年以内に死亡し,病理学的な解析や血清学的な解析から死因は急性の肝炎と推測された.また,脾腫はもっとも頻発する表現型のひとつであり症状との相関が強かった.D34Aマウスの脾臓や肝臓では特定の画分のミエロイド系細胞が増殖していたことから,脾臓において異常に増殖したミエロイド系細胞が門脈をとおって肝臓に浸潤し肝炎をひき起こしているのではないかと考えられた.さらに,これらの表現型はD34AマウスにおいてTLR7をノックアウトすると消失するため,D34A変異によるTLR7の過剰な応答が表現型を誘導していることが示された.
 なお,これまでにもTLR7の過剰応答マウスは知られており,これらのマウスは自己免疫疾患によって死亡するが,おもな死因は自己抗体による糸球体腎炎と考えられている8,9).D34Aマウスにも糸球体腎炎は発症するものの,血中クレアチニンの値などから総合的に判断すると糸球体腎炎が致死的であるとは考えにくかった.TLR7の過剰応答がD34Aマウスの表現型に主要な役割をはたしていることは確実だが,ほかの要因により独特の表現型が誘導されている可能性が高いものと思われた.

3.D34AマウスにはTLR7に依存的な獲得免疫系の活性化がみられる


 自然免疫系の活性化はワクチンにおけるアジュバントのように獲得免疫系の活性化につながっているものとされる.D34Aマウスにおける獲得免疫系の影響を検討するため,RAG2をノックアウトしたD34Aマウスを作製してリンパ球系細胞を欠損させたところ脾腫などの表現型がみられなくなった.この結果からD34Aマウスの表現型に対するリンパ球系細胞の関与が示唆されたため,D34AマウスのT細胞を調べたところ,メモリーT細胞の割合が極端に増加し,また,活性化マーカーであるCD69ICOSの発現上昇がみられた.さらに,Th1細胞およびTh17細胞が増殖していたことから,D34AマウスではT細胞が刺激をうけて活性化された状態になっているものと考えられた.
 一方,D34AマウスのB細胞は以下の点から活性化をうけているものと推測された.まず,免疫グロブリンG2aや免疫グロブリンG2bなど特定の血清抗体価が上昇しており,クラススイッチと抗体分泌細胞への分化の亢進がうかがえた.また,D34Aマウスの脾臓では濾胞性B細胞に対する辺縁帯B細胞の割合が減少していたことから,Toll様受容体を介した内因性リガンドによる刺激にくわえ,B細胞受容体を介した刺激が増強されているものと考えられた10).なお,こうしたT細胞やB細胞の活性化はD34AマウスのTLR7をノックアウトするとみられなくなることから,自然免疫系であるTLR7の活性化が獲得免疫系にまで影響を及ぼしていることが確認された.

4.D34AマウスのB細胞はT細胞を活性化させ表現型の形成に寄与する


 さきに述べたように,D34AマウスのT細胞はTLR7依存的に活性化されているが,T細胞自体はTLR7を発現していない.したがって,TLR7を発現しているほかの細胞がT細胞を活性化させているものと推測された.リンパ球系細胞のうちB細胞はTLR7を発現していることから,D34Aマウスの免疫グロブリンμ鎖をノックアウトして成熟B細胞を欠損させたところメモリーT細胞の増加やICOSの発現上昇などがみられなくなった.さらに,脾腫などの表現型もみられなくなったことから,D34Aマウスの症状はB細胞がTLR7依存的に活性化され,活性化されたB細胞がT細胞を活性化させた結果として現れることが示された.
 ただし,B細胞のみを欠損させた場合には血小板の減少は完全には回復しなかった.一方,RAG2のノックアウトによりT細胞を含むリンパ球系細胞を欠損させた場合には野生型と同様の値まで血小板の濃度が回復することから,血小板の減少についてはB細胞に非依存的なT細胞の活性化による部分があるものと考えられた.D34AマウスのTLR7をノックアウトした場合も血小板の濃度が完全に回復することを考えると,TLR7を発現しているミエロイド系細胞がT細胞を活性化させている可能性が推測された.

おわりに


 相反的なTLR7TLR9とのバランスの破綻は生体の恒常性の維持に著しく不利益をもたらすことがD34Aマウスの解析から明らかになった(図2).その際に誘発される炎症は核酸系の内因性リガンドによるものであると考えられたが,核酸は通常の代謝などによっても生成されることから,TLR7TLR9とのバランスが正常に保たれている状況であっても軽微で可逆的な炎症反応はつねに起こっているといえるだろう.こうした炎症反応に対しては,近年,“自然炎症”(homeostatic inflammation)という概念が提唱されており,TLR7TLR9とのバランスは自然炎症が不可逆的あるいは致死的な状態へ移行することを防いでいるものと考えられた.今後は,Unc93B1による相反的なTLR7TLR9とのバランス制御機構について分子レベルでの詳細な解析をめざすと同時に,TLR7TLR9とのバランスの破綻による炎症がどのようにして表現型に結びつくのかを解明する必要がある.




文 献



  1. Kawai, T. & Akira, S.: The role of pattern-recognition receptors in innate immunity: update on Toll-like receptors. Nat. Immunol., 11, 373-384 (2010)[PubMed]

  2. Green, N. M. & Marshak-Rothstein, A.: Toll-like receptor driven B cell activation in the induction of systemic autoimmunity. Semin. Immunol., 23, 106-112 (2011)[PubMed]

  3. Yu, L., Wang, L. & Chen, S.: Endogenous toll-like receptor ligands and their biological significance. J. Cell. Mol. Med., 14, 2592-2603 (2010)[PubMed]

  4. Brinkmann, M. M., Spooner, E., Hoebe, K. et al.: The interaction between the ER membrane protein UNC93B and TLR3, 7, and 9 is crucial for TLR signaling. J. Cell Biol., 177, 265-275 (2007)[PubMed]

  5. Kim, Y. M., Brinkmann, M. M., Paquet, M. E. et al.: UNC93B1 delivers nucleotide-sensing toll-like receptors to endolysosomes. Nature, 452, 234-238 (2008)[PubMed]

  6. Tabeta, K., Hoebe, K., Janssen, E. M. et al.: The Unc93b1 mutation 3d disrupts exogenous antigen presentation and signaling via Toll-like receptors 3, 7 and 9. Nat. Immunol., 7, 156-164 (2006)[PubMed]

  7. Fukui, R., Saitoh, S., Matsumoto, F. et al.: Unc93B1 biases Toll-like receptor responses to nucleic acid in dendritic cells toward DNA- but against RNA-sensing. J. Exp. Med., 206, 1339-1350 (2009)[PubMed]

  8. Deane, J. A., Pisitkun, P., Barrett, R. S. et al.: Control of toll-like receptor 7 expression is essential to restrict autoimmunity and dendritic cell proliferation. Immunity, 27, 801-810 (2007)[PubMed]

  9. Santiago-Raber, M. L., Kikuchi, S., Borel, P. et al.: Evidence for genes in addition to Tlr7 in the Yaa translocation linked with acceleration of systemic lupus erythematosus. J. Immunol., 181, 1556-1562 (2008)[PubMed]

  10. Pillai, S. & Cariappa, A.: The follicular versus marginal zone B lymphocyte cell fate decision. Nat. Rev. Immunol., 9, 767-777 (2009)[PubMed]



生命科学の教科書における関連するセクションへのリンク


東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.



著者プロフィール


福井 竜太郎(Ryutaro Fukui)
略歴:2009年 東京大学大学院医学系研究科 修了,同年より同 医科学研究所 特任研究員.
研究テーマ:核酸認識系のToll様受容体の機能解析.
関心事:自然免疫系における相反的な応答バランスの制御.

三宅 健介(Kensuke Miyake)
東京大学医科学研究所 教授.
研究室URL:http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/kanseniden/index.html

© 2011 福井竜太郎・三宅健介 Licensed under CC 表示 2.1 日本