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新規のレポーターマウスを用いた胚中心B細胞および濾胞ヘルパーT細胞におけるBcl6の発現動態とその機能の解析

森山彩野1・北野正寛2・岡田峰陽2
〈著者所属〉1大阪大学大学院生命機能研究科,2理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センター 免疫細胞動態研究ユニット
email:森山彩野
DOI: 10.7875/first.author.2011.106

Bcl6 protein expression shapes pre-germinal center B cell dynamics and follicular helper T cell heterogeneity.
Masahiro Kitano, Saya Moriyama, Yoshikazu Ando, Masaki Hikida, Yasuo Mori, Tomohiro Kurosaki, Takaharu Okada
Immunity, 34, 961-972 (2011)




要 約


 胚中心は免疫応答の際に2次免疫組織につくられる微小構造であり,免疫記憶の形成の場として知られる.胚中心における免疫反応は胚中心B細胞と濾胞ヘルパーT細胞により担われ,これらの分化には転写因子であるBcl6が必須であるが,免疫応答の際の生体におけるBcl6の発現動態は不明であった.これを明らかにするため,この研究では新たにBcl6のレポーターマウスを作製し,B細胞では胚中心を形成するまえの濾胞外縁部に局在する段階でBcl6の発現が上昇することを明らかにした.また,この濾胞外縁部におけるBcl6の発現はB細胞の胚中心への移動およびヘルパーT細胞との相互作用を制御していた.T細胞ではT細胞領域に局在する時点でBcl6が発現し,そののち,濾胞へ局在してさらなるBcl6の発現上昇が観察された.さらに,分化したのちの濾胞ヘルパーT細胞ではBcl6の発現が低下していた.この細胞はメモリーT細胞様の特徴をもっており,濾胞ヘルパーT細胞に由来するメモリーヘルパーT細胞が分化している可能性を示唆していた.

はじめに


 いちど反応した抗原に対する応答性を長期にわたり維持し,つぎに同じ抗原が侵入した際に以前よりすばやく強力な免疫反応を起こす免疫記憶は,外来抗原を効率的に排除するために重要である.この免疫記憶は2次免疫組織にある胚中心とよばれる微小構造において形成される(図1).胚中心のなかでは抗原に対し高い親和性をもつ胚中心B細胞の選択および増殖や,抗体産生細胞あるいはメモリーB細胞への分化などさまざまな反応が起こっている1).これらの反応はヘルパーT細胞により補助されていることが古くから知られていたが,現在ではそのT細胞の実体は濾胞ヘルパーT細胞であると考えられている2).濾胞ヘルパーT細胞はCXCR5の発現上昇により濾胞(B細胞領域)の内部に入り込んでB細胞と相互作用しており,胚中心の形成あるいは維持に深く関与している2).ナイーブB細胞あるいはナイーブT細胞から胚中心B細胞あるいは濾胞ヘルパーT細胞への分化には転写因子Bcl6が必要であるが3-5),その分化過程でのBcl6の時空間的な発現変化や,Bcl6の発現による細胞移動の制御の有無,濾胞ヘルパーT細胞に分化したのちのBcl6の発現変化は不明であった.そこで筆者らは,野生型Bcl6の代わりに黄色蛍光タンパク質YFPをBcl6に連結した融合タンパク質(YFP-Bcl6)を発現するノックインレポーターマウスを作製し,胚中心の反応のときの抗原特異的B細胞とヘルパーT細胞におけるBcl6の発現変化と,それにともなう細胞の挙動変化を解析した.




1.濾胞外縁部に局在する活性化B細胞においてBcl6の発現が上昇する


 YFP-Bcl6遺伝子をヘテロにもつレポーターマウスに由来する抗原特異的B細胞を,野生型のレシピエントマウスに移植したのち,抗原を投与(免疫)して,YFP-Bcl6ヘテロ接合型ナイーブB細胞が胚中心B細胞へと分化する過程でのYFP-Bcl6の発現変化をフローサイトメトリーにより解析した.免疫して3日目にはヘテロ接合型B細胞の一部でYFP-Bcl6の発現上昇がみられ,4日目以降にはYFP-Bcl6を高発現するFas強陽性CD38弱陽性の胚中心B細胞集団がみられた.免疫反応を起こしているリンパ節組織切片を観察したところ,免疫して4日目の時点ではYFP-Bcl6を発現する胚中心B細胞が胚中心を形成していた.一方,3日目の時点では胚中心の構造はまだ形成されておらず活性化B細胞は濾胞外縁部に局在しており,これらのB細胞でYFP-Bcl6の発現上昇が確認された.このことから,B細胞では胚中心の形成のまえにBcl6の発現が上昇することが明らかになった.

2.Bcl6は活性化B細胞の濾胞外縁部から胚中心への移動とヘルパーT細胞との安定な相互作用を制御する


 つぎに,濾胞外縁部でのBcl6の発現上昇が胚中心の形成にあたえる影響を調べる実験を行った.YFP-Bcl6遺伝子をホモでもつマウスに由来するB細胞は,免疫すると活性化して濾胞外縁部へ局在するが,胚中心B細胞にはほとんど分化せず胚中心の形成が著しく阻害されていた.そこで,このマウスをBcl6のハイポモルフ変異体(程度の弱い変異体)として利用し,野生型のB細胞とYFP-Bcl6ホモ接合型マウスに由来するB細胞の,免疫応答中の濾胞での挙動を2光子ライブイメージングにより比較した.濾胞外縁部に局在したあとのこれらの細胞の動態を観察したところ,野生型B細胞は胚中心の内部へと移動するようすが観察されたが,ホモ接合型B細胞の胚中心への移動は顕著に阻害されていた.さらに,このホモ接合型B細胞では野生型B細胞に比べ,Bcl6の標的遺伝子の候補でありB細胞の濾胞における局在を制御することが知られるGタンパク質共役型受容体EBI2 6,7) の遺伝子の発現変化が抑制されていた.このことから,濾胞外縁部のB細胞におけるBcl6の発現上昇はEBI2による発現制御を介し胚中心への細胞移動を促進するものと考えられた.
 さらに,濾胞外縁部でのB細胞とヘルパーT細胞との相互作用のようすを2光子顕微鏡により観察したところ,YFP-Bcl6ホモ接合型B細胞では野生型B細胞に比べ,ヘルパーT細胞との6分間以上に及ぶ長い相互作用を行う頻度が減少していた.これらのことから,濾胞外縁部でのBcl6の発現上昇は活性化B細胞の胚中心への移動を正に制御するとともに,ヘルパーT細胞との安定な相互作用を制御することが明らかになった.

3.ヘルパーT細胞ではT細胞領域においてBcl6の発現上昇がはじまり濾胞ヘルパーT細胞へ分化したのちにBcl6の発現が低下する


 YFP-Bcl6ヘテロ接合型レポーターマウスに由来する抗原特異的ヘルパーT細胞の免疫反応におけるYFP-Bcl6の発現変化をフローサイトメトリーにより解析したところ,免疫して2日目からYFP-Bcl6陽性のヘルパーT細胞が多く検出された.3日目にはCXCR5強陽性PD-1強陽性の濾胞ヘルパーT細胞集団が出現し,その大部分がYFP-Bcl6を発現していた.この免疫して3日目のリンパ節組織切片を観察したところ,T細胞領域に局在するヘルパーT細胞においてYFP-Bcl6の弱い発現がみられ,濾胞に局在する濾胞ヘルパーT細胞ではYFP-Bcl6のより強い発現がみられた.また,ヘテロ接合型抗原特異的ヘルパーT細胞をB細胞をもたないマウスに移植し免疫してYFP-Bcl6の発現変化を解析したところ,YFP-Bcl6の弱い発現はみられたが,さきに述べたような強い発現はみられなかった.これらのことから,ヘルパーT細胞ではT細胞領域においてBcl6の発現上昇がはじまり,そののち,濾胞においてB細胞と相互作用してBcl6の発現がさらに増強されるものと考えられた.
 YFP-Bcl6ヘテロ接合型レポーターマウスに由来するヘルパーT細胞のフローサイトメトリーによる解析をさらにつづけたところ,免疫して4日目以降では,濾胞ヘルパーT細胞におけるYFP-Bcl6陽性の細胞の割合は減少していき,免疫してから3週間が経過するとほぼすべてのCXCR5強陽性PD-1強陽性の濾胞ヘルパーT細胞はYFP-Bcl6陰性となった.また,免疫して10日目のリンパ節組織切片を観察したところ,胚中心や濾胞外縁部にYFP-Bcl6陰性のヘルパーT細胞の存在が確認された.これらの結果から,濾胞ヘルパーT細胞へ分化したのちにBcl6の発現が低下することが示された.

4.YFP-Bcl6陰性の濾胞ヘルパーT細胞では細胞分裂が抑制されインターロイキン7受容体の発現が亢進している


 YFP-Bcl6陰性の濾胞ヘルパーT細胞の特徴を調べるため,YFP-Bcl6陽性およびYFP-Bcl6陰性の濾胞ヘルパーT細胞と,それ以外の活性化ヘルパーT細胞とをそれぞれセルソーターで単離し,これらの細胞における遺伝子発現をマイクロアレイにより解析した.濾胞ヘルパーT細胞以外の活性化ヘルパーT細胞と比較すると,YFP-Bcl6陽性の濾胞ヘルパーT細胞とYFP-Bcl6陰性の濾胞ヘルパーT細胞の遺伝子発現は互いに似ており,濾胞ヘルパーT細胞の機能に関与すると考えられるCD40LICOS,インターロイキン4,インターロイキン21などをコードする遺伝子はその両方で高い発現がみられた.転写因子Blimp-1はBcl6の発現を抑制し濾胞ヘルパーT細胞以外のヘルパーT細胞集団の分化に関与するものと考えられているが8),YFP-Bcl6陰性の濾胞ヘルパーT細胞ではBlimp-1遺伝子の発現上昇はみられず,また,ほかのヘルパーT細胞集団への分化を誘導する遺伝子の発現上昇もみられなかった.
 YFP-Bcl6陰性の濾胞ヘルパーT細胞の遺伝子発現の特徴は,細胞分裂に関与する遺伝子の発現低下と,メモリー細胞の生存にかかわるインターロイキン7受容体の遺伝子の発現上昇であった.これらに関してフローサイトメトリーにより解析したところ,YFP-Bcl6陰性の濾胞ヘルパーT細胞では陽性の濾胞ヘルパーT細胞よりもS期,G2期,M期の細胞が減少していること,また,インターロイキン7受容体の発現が亢進していることが確認された.さらに,リンパ組織から血中への移動に関与するKlf2遺伝子やS1pr1遺伝子9,10) の発現がYFP-Bcl6陰性の濾胞ヘルパーT細胞では上昇していた.これらの結果から,Bcl6の発現の低下した濾胞ヘルパーT細胞はメモリーヘルパーT細胞となりリンパ組織から血中やほかの組織に移動する可能性が考えられた.

おわりに


 この研究から,B細胞におけるBcl6の発現上昇が濾胞外縁部で起こること,また,この発現上昇が胚中心への移動とヘルパーT細胞との安定な相互作用を制御することが明らかになった(図2).しかし,Bcl6がヘルパーT細胞との相互作用を制御する分子機構はまだ不明であり,濾胞における細胞移動を制御する分子機構にもいまだわからない部分の多いことから,今後,ライブイメージングを駆使した胚中心B細胞の分化過程における分子機能の研究のさらなる進展が期待される.また,この研究では,ヘルパーT細胞においてBcl6の発現上昇がT細胞領域ではじまり,濾胞ヘルパーT細胞へと分化したのち,Bcl6の発現が低下することを明らかにした(図2).このBcl6の発現の低下した濾胞ヘルパーT細胞でみられた特徴は濾胞ヘルパーT細胞に由来する新たなメモリーT細胞の形成を示唆しており,さらなる解析により新たな免疫記憶の制御機構の解明につながることが期待される.




文 献



  1. Allen, C. D., Okada, T., Cyster, J. G.: Germinal-center organization and cellular dynamics. Immunity, 27, 190-202 (2007)[PubMed]

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生命科学の教科書における関連するセクションへのリンク


東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.



著者プロフィール


森山 彩野(Saya Moriyama)
略歴:大阪大学大学院生命機能研究科博士課程 在学中.
研究テーマ:濾胞ヘルパーT細胞による免疫制御,長期免疫記憶の形成機構.

北野 正寛(Masahiro Kitano)
理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センター 基礎科学特別研究員.

岡田 峰陽(Takaharu Okada)
理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センター ユニットリーダー.

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