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Tecpr1は病原体・アグリソーム・ミトコンドリアを標的とする選択的なオートファジーに必要なカーゴ受容体である

小川道永・笹川千尋
(東京大学医科学研究所 細菌感染分野)
email:小川道永
DOI: 10.7875/first.author.2011.095

A Tecpr1-dependent selective autophagy pathway targets bacterial pathogens.
Michinaga Ogawa, Yuko Yoshikawa, Taira Kobayashi, Hitomi Mimuro, Makoto Fukumatsu, Kotaro Kiga, Zhenzi Piao, Hiroshi Ashida, Mitsutaka Yoshida, Shigeru Kakuta, Tomohiro Koyama, Yoshiyuki Goto, Takahiro Nagatake, Shinya Nagai, Hiroshi Kiyono, Magdalena Kawalec, Jean-Marc Reichhart, Chihiro Sasakawa
Cell Host & Microbe, 9, 376-389 (2011)




要 約


 オートファジーには,栄養飢餓状態におかれた細胞においてオルガネラを非選択的に分解する“非選択的オートファジー”と,細胞において損傷をうけたオルガネラ,変性タンパク質,病原体などを選択的に認識し分解する“選択的オートファジー”とがある.筆者らは,宿主細胞が侵入した赤痢菌を特異的に認識しオートファジーにより分解するために必要な新規タンパク質Tecpr1を見い出した.細胞においてTecpr1はオートファジーに必須のタンパク質複合体Atg12-Atg5-Atg16L1と複合体を形成し,赤痢菌を捕捉しているオートファゴソームではTecpr1とAtg5,LC3とが共局在していた.さらに,Tecpr1はホスファチジルイノシトールトリスリン酸結合タンパク質であるWIPI-2と結合し,初期オートファゴソームであるファゴホアにこのWIPI-2を介してリクルートされることが明らかになった.Tecpr1ノックダウン細胞またはTecpr1ノックアウトマウスに由来する胎仔線維芽細胞では赤痢菌の増殖が顕著に増加しており,このことは赤痢菌を特異的に認識するオートファジーにおいてTecpr1がきわめて重要な役割をはたしていることを示していた.一方で,興味深いことに,栄養飢餓やラパマイシンにより誘導される非選択的オートファジーではTecpr1は必須ではないことも明らかになった.さらに,Tecpr1は赤痢菌だけではなく,サルモネラ菌,A群連鎖球菌などの病原細菌,変性タンパク質からなる凝集体や脱分極したミトコンドリアを選択的に認識するオートファジーにも関与しており,Tecpr1が選択的オートファジーにおいて広く一般的に関与していることが明らかになった.

はじめに


 オートファジーは細胞が栄養飢餓状態におちいったときやストレスにさらされた場合にオルガネラをまとめて非選択的に分解する現象であることが知られていた1).近年の研究からは,オートファジーは損傷をうけたオルガネラや変性タンパク質からなる凝集体を異物として特異的に認識し分解する重要な恒常性の維持システムであり,その機能異常は不要物の蓄積をひき起こすため,細胞の恒常性の維持,細胞寿命,発生および分化,がんなど多岐に影響しさまざまな変性疾患の一因となることがわかってきた2).さらに最新の研究から,オートファジーは,1)細胞に侵入した病原細菌を特異的に異物として認識し分解殺菌するとともに,2)宿主の自然免疫系における病原体センサーのひとつとして機能し炎症反応を誘導することで病原細菌の排除を促進することが明らかになってきており3-5),その異物認識機構の解明は感染制御の面からもきわめて重要な課題である.このような選択的オートファジーでは標的を特異的なカーゴ受容体により認識することが知られているが6),個々の標的に対するカーゴ受容体の認識機構に関する研究は緒に就いたばかりである.
 赤痢菌は細菌性赤痢の原因となる細菌として知られており,分泌するエフェクターとよばれる一連の病原タンパク質により宿主細胞が本来もっている機能をハイジャックすることで感染が成立する7).現在までに筆者らは,1)赤痢菌の表面にあるVirGがオートファジー関連タンパク質であるAtg5と直接に結合することによりオートファジーが誘導され,2)それに対し,赤痢菌はIcsBを分泌し,Atg5とVirGとの結合を競合的に阻害することでオートファジーによる認識を回避していることを明らかにした4).今回,これらの研究をさらに発展させ,Atg5結合性の新規タンパク質としてTecpr1(Tectonin domain-containing protein 1)を見い出し,このTecpr1が細胞質においてオートファジーに必須のタンパク質複合体Atg12-Atg5-Atg16L1と複合体を形成し,赤痢菌,サルモネラ菌,A群連鎖球菌,さらには,変性タンパク質からなる凝集体や損傷をうけたミトコンドリアを選択的に認識するオートファジーに関与していることを明らかにした.

1.Tecpr1はAtg5と直接に結合しAtg12-Atg5-Atg16L1と複合体を形成する


 赤痢菌のオートファジー認識機構の解析を行うにあたり,まず,Atg5をバイトにした酵母ツーハイブリッド法によるスクリーニングを行った.その結果,機能未知のタンパク質であるTecpr1を得た.Tecpr1は線虫からヒトまで高度に保存された約130 kDaの機能未知のタンパク質であり,DysferinドメインとTECPRドメインのペアをN末端領域とC末端領域に1対ずつもち,中央部分にはPHドメイン様配列があるという特徴的な構造をもっていた(図1).Tecpr1のヒトにおける組織分布をリアルタイムPCRにより調べた結果,発現量の程度に差はあるが調べたすべての組織において普遍的に発現していた.Tecpr1とAtg5との直接の結合を確認するためGSTプルダウンアッセイを行ったところ,GST-Tecpr1融合タンパク質と組換えAtg5との結合が確認された.さらに,細胞におけるTecpr1とAtg5との結合を調べるため抗Tecpr1抗体を用いた免疫沈降実験を行った結果,Tecpr1はヒト培養細胞においてAtg12-Atg5-Atg16L1複合体とAtg5を介し複合体を形成していることが明らかになった.




2.Tecpr1は赤痢菌を標的とするオートファゴソームに局在する


 Tecpr1のオートファジーにおける機能解析を行うため,赤痢菌を標的とするオートファゴソームにおけるTecpr1の局在を調べた.オートファジー感受性株である赤痢菌ΔIcsB株をTecpr1-3×Myc融合タンパク質を発現させた細胞に感染させたところ,感染の1時間のちに赤痢菌の周囲にTecpr1とAtg5との共局在が観察された.さらに,赤痢菌のVirGと宿主細胞のAtg5との結合が明らかになっていたことから,VirG,Atg5,Tecpr1の局在を調べた結果,宿主細胞に侵入した赤痢菌の一極にVirG,Atg5,Tecpr1の共局在することが認められた.さらに,オートファゴソームのマーカーであるLC3とTecpr1の局在を調べたところ,感染の90分のちにおいて赤痢菌の周囲にTecpr1とGFP-LC3融合タンパク質の共局在することが認められた.
 赤痢菌に対するオートファジーはVirGに依存することを報告していることから,virG遺伝子に変異をもつ赤痢菌ΔIcsB株を感染させた細胞におけるTecpr1の局在を調べた結果,この株の周囲へのTecpr1の局在は認めらなかった.オートファジーに必須の因子であるホスファチジルイノシトールトリスリン酸はIII型PI3キナーゼにより産生されるが,その阻害剤である3-メチルアデニンにより処理した細胞においてTecpr1の局在を調べたところ,赤痢菌ΔIcsB株の周囲へのTecpr1の局在は消失していた.これらの結果は,Tecpr1が赤痢菌を標的としたオートファゴソームに局在するためには,VirGおよびホスファチジルイノシトールトリスリン酸が必要であることを示唆していた.

3.Tecpr1はWIPI-2を介してファゴホアにリクルートされる


 さきに述べたように,Tecpr1が赤痢菌を標的とするオートファゴソームにリクルートされるためには,ホスファチジルイノシトールトリスリン酸を介しファゴホア(初期オートファゴソーム)に結合することが必要である.Tecpr1にはホスファチジルイノシトールトリスリン酸結合モチーフであるFRRG配列が存在し,中央部分にはPHドメイン様配列が存在することから,Tecpr1とホスファチジルイノシトールトリスリン酸との直接の結合の可能性を調べたが両者の結合は認められなかった.また,オートファジーにおいてホスファチジルイノシトールトリスリン酸を産生するため必要な複合体の構成タンパク質であるBeclin1,Vps34,Atg14,Vps15とTecpr1との結合も認められなかった.赤痢菌は細胞への侵入の直後にファゴソーム膜の断片化をひき起こし,そこには内在性のレクチンであるガレクチン3の局在することが報告されている8).Tecpr1に存在するTECPRドメインもカブトガニレクチンに類似したレクチン様ドメインであることから9),Tecpr1とガラクトースおよびアセチル化グルコースとの結合解析を行ったが結合は認められなかった.
 つぎに,形成初期のオートファゴソームに局在しホスファチジルイノシトールトリスリン酸に結合することが知られているWIPI-2に着目し10),赤痢菌に感染した細胞におけるWIPI-2-GFP融合タンパク質とTecpr1-3×Myc融合タンパク質の局在を調べた結果,オートファジー感受性株である赤痢菌ΔIcsB株の周囲にTecpr1とWIPI-2との共局在が観察された.Tecpr1とWIPI-2との結合を免疫沈降実験により解析したところ,WIPI-2はTecpr1のC末端側のTECPRドメインと相互作用することが明らかになった.そこで,WIPI-2のノックダウン実験を行ったところ,赤痢菌の周囲へのTecpr1の局在は大幅に低下した.以上の結果から,Tecpr1はホスファチジルイノシトールトリスリン酸を結合したWIPI2を介してファゴホアにリクルートされることが明らかになった.

4.Tecpr1は赤痢菌に対するオートファジーに必須である


 赤痢菌を標的としたオートファジーにおけるTecpr1の役割をさらに詳細に調べるため,Tecpr1をノックダウンしたHeLa細胞にオートファジー感受性株である赤痢菌ΔIcsB株を感染させ,オートファジーによる赤痢菌の捕捉をGFP-LC3融合タンパク質の局在を指標に調べた.その結果,対照細胞と比較して,Tecpr1ノックダウン細胞では赤痢菌の感染により誘導されるオートファジーは顕著に抑制された.さらに,Tecpr1ノックダウン細胞における赤痢菌の増殖性を調べたところ,対照細胞と比較して顕著に上昇していた.
 この結果をさらに解析するため,Tecpr1ノックアウトマウスを作製した.Tecpr1ノックアウトマウスから得られたマウス胎仔線維芽細胞を用いて同様の解析を行った結果,野生型マウス胎仔線維芽細胞と比較して,Tecpr1ノックアウトマウスに由来する胎仔線維芽細胞では赤痢菌ΔIcsB株に対するオートファジーが大幅に低下し,細胞内における赤痢菌の増殖性が顕著に上昇した.これらの結果から,Tecpr1は赤痢菌に対する選択的オートファジーに必須のタンパク質であることが明らかになった.興味深いことに,アミノ酸飢餓やラパマイシン処理により誘導される非選択的オートファジーでは,Tecpr1はオートファゴソームに局在するにもかかわらずその役割はきわめて小さいことが,Tecpr1ノックダウン細胞やTecpr1ノックアウトマウスに由来する胎仔線維芽細胞を用いた実験から明らかになった.以上の結果から,Tecpr1は選択的オートファジーにおいてカーゴ受容体として機能していることが強く示唆された.

5.Tecpr1は選択的オートファジーに広く関与している


 Tecpr1が赤痢菌を選択的に認識するオートファジーにおいて機能していることが明らかになったことから,A群連鎖球菌やサルモネラ菌を標的とするオートファジーにおけるTecpr1の機能を解析した.その結果,A群連鎖球菌やサルモネラ菌を標的とするオートファゴソームにもTecpr1の局在することが明らかになった.さらに,Tecpr1ノックダウン細胞ではA群連鎖球菌に対するオートファジーも大幅に低下していた.
 選択的オートファジーの標的として,脱分極したミトコンドリアや変性タンパク質の凝集塊などが報告されている2,6).そこで,これらを標的とするオートファジーにおけるTecpr1の機能について検討を行った.その結果,HeLa細胞に人為的に誘導したマイトファジー(ミトコンドリアに特異的なオートファジー),あるいは,易凝集性のタンパク質を発現させた場合に形成されるアグリソームを標的とするオートファゴソームにTecpr1の局在することが明らかになった.さらに,電子顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡による観察により,Tecpr1ノックアウトマウスに由来する胎仔線維芽細胞では変性タンパク質からなる凝集体や損傷をうけたミトコンドリアなど,選択的オートファジーの標的となる基質の蓄積が認められた.このことは,赤痢菌だけではなく,サルモネラ菌,A群連鎖球菌などの病原細菌,脱分極したミトコンドリアや変性タンパク質からなる凝集体を選択的に認識するオートファジーにもTecpr1が関与することを示しており,Tecpr1は選択的オートファジーにおいて広く一般的に関与することを示唆していた(図2).




おわりに
 この研究の成果から,選択的オートファジーにおいてWIPI-2-Tecpr1-Atg5複合体という基質認識のための新たなカーゴ受容体の存在することが明らかになった.このことは,病原細菌を標的とするオートファジーの選択的な認識機構の解明のみならず,変性タンパク質の蓄積によるハンチントン病などの神経変性疾患や,異常ミトコンドリアの蓄積による若年性パーキンソン病の発症機序の解明,治療薬の開発にも重要な手がかりをあたえるものと考えられる.

文 献



  1. Kroemer, G., Marino, G. & Levine, B.: Autophagy and the integrated stress response. Mol. Cell, 40, 280-293 (2010)[PubMed]

  2. Komatsu, M. & Ichimura, Y.: Selective autophagy regulates various cellular functions. Genes Cells, 15, 923-933 (2010)[PubMed]

  3. Deretic, V.: Autophagy in infection. Curr. Opin. Cell Biol., 22, 252-262 (2010)[PubMed]

  4. Ogawa, M., Yoshimori, T., Suzuki, T. et al.: Escape of intracellular Shigella from autophagy. Science, 307, 727-731 (2005)[PubMed]

  5. Yoshikawa, Y., Ogawa, M., Hain, T. et al.: Listeria monocytogenes ActA-mediated escape from autophagic recognition. Nat. Cell Biol., 11, 1233-1240 (2009)[PubMed]

  6. Johansen, T. & Lamark, T.: Selective autophagy mediated by autophagic adapter proteins. Autophagy, 7, 279-296 (2011)[PubMed]

  7. Ogawa, M., Handa, Y., Ashida, H. et al.: The versatility of Shigella effectors. Nat. Rev. Microbiol., 6, 11-16 (2008)[PubMed]

  8. Dupont, N., Lacas-Gervais, S., Bertout, J. et al.: Shigella phagocytic vacuolar membrane remnants participate in the cellular response to pathogen invasion and are regulated by autophagy. Cell Host Microbe, 6, 137-149 (2009)[PubMed]

  9. Low, D. H., Ang, Z., Yuan, Q. et al.: A novel human tectonin protein with multivalent beta-propeller folds interacts with ficolin and binds bacterial LPS. PLoS One, 4, e6260 (2009)[PubMed]

  10. Polson, H. E. J., de Lartigue, J., Rigden, D. J. et al.: Mammalian Atg18 (WIPI2) localizes to omegasome-anchored phagophores and positively regulates LC3 lipidation. Autophagy, 6, 506-522 (2010)[PubMed]





著者プロフィール


小川 道永(Michinaga Ogawa)
略歴:1996年 東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程 修了,同年 ヤクルト本社,2003年 東京大学大学院医学系研究科博士課程 修了,同年より東京大学医科学研究所 助教.
研究テーマ:赤痢菌の病原エフェクターの機能解析,赤痢菌をはじめとする病原細菌のオートファジー認識機構および回避機構.
関心事:病原細菌による感染戦略.

笹川 千尋(Chihiro Sasakawa)
東京大学医科学研究所 教授.
研究室URL:http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/bac/hp/mainpage.html

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