結晶シリカおよびアルミニウム塩はマクロファージを刺激しNALP3インフラマソームに依存することなくプロスタグランジンの産生を制御する
黒田 悦史
(産業医科大学医学部 免疫学・寄生虫学講座)
email:黒田悦史
DOI: 10.7875/first.author.2011.080
Silica crystals and aluminum salts regulate the production of prostaglandin in macrophages via NALP3 inflammasome-independent mechanisms.
Etsushi Kuroda, Ken J. Ishii, Satoshi Uematsu, Keiichi Ohata, Cevayir Coban, Shizuo Akira, Kosuke Aritake, Yoshihiro Urade, Yasuo Morimoto
Immunity, 34, 514-526 (2011)
結晶シリカやアルミニウム塩などの粒子状物質の多くは自然免疫の活性化を介して特異的な獲得免疫を誘導するアジュバント効果をもっていることが知られている.しかしながら,粒子状物質による自然免疫の活性化の分子機構は長いあいだ明らかにされてこなかった.最近,これらの粒子状物質が細胞内パターン認識受容体のひとつであるインフラマソームを活性化し,炎症性サイトカインであるインターロイキン1βおよびインターロイキン18を誘導することが報告された.今回,筆者らはさらに,粒子状物質が自然免疫と獲得免疫とを活性化する新しい分子機構として,脂質メディエーターであるプロスタグランジンを介した免疫制御機構を見い出した.結晶シリカやアルミニウム塩はマクロファージを刺激してインフラマソームに依存的にインターロイキン1βやインターロイキン18の産生を,インフラマソームに非依存的にプロスタグランジンの産生を誘導した.これらの粒子状物質はタンパク質抗原とともにマウスに免疫すると免疫グロブリンEの産生を誘導することが知られているが,プロスタグランジンE2を産生しないプロスタグランジンE合成酵素のノックアウトマウスでは抗原に特異的な免疫グロブリンEの産生の低下が認められた.さらに,結晶シリカやアルミニウム塩によるプロスタグランジンの産生の分子機構について解析したところ,p38 MAPキナーゼとSykの活性化の関与が明らかになった.
獲得免疫の誘導には自然免疫の活性化が重要であることが知られている.動物実験の免疫操作や予防接種のワクチンでは免疫増強剤であるアジュバントをくわえることでより効果的に獲得免疫反応を誘導することができるが,これはアジュバントが自然免疫を活性化する能力をもっているからである.マクロファージや樹状細胞のような自然免疫を担当する細胞は病原体に対するセンサーとしてToll様受容体(Toll-like receptor:TLR)をはじめとするパターン認識受容体(pattern-recognition recetor:PRR)を発現しており,病原体に由来する抗原パターン(pathogen-associated molecular pattern:PAMP)はパターン認識受容体を介して免疫担当細胞に認識される.この病原体に由来する抗原パターンを認識した細胞は活性化され,サイトカインをはじめとする液性因子を産生し獲得免疫反応の誘導を促す.このように,パターン認識受容体を介する刺激は効率よく自然免疫を活性化するため,パターン認識受容体のリガンドはアジュバントとして有用であると考えられている.一方,古くから臨床に応用されているアルミニウム塩アジュバントや吸入性化学物質である結晶シリカやアスベストも自然免疫を活性化する能力があると考えられているが,その作用機序は明らかにされていない.さらに,Toll様受容体のリガンドが細胞性免疫やI型免疫反応を活性化するのに対して,結晶シリカやアルミニウム塩のような粒子状物質は好酸球の誘導や免疫グロブリンEおよび免疫グロブリンG1の上昇をはじめとするII型免疫反応(液性免疫)を誘導することが知られている.そのため,粒子状物質によるアジュバント活性はパターン認識受容体のリガンドなどにおいて提唱されてきた自然免疫の活性化の分子機構とは異なることが示唆されていた(図1).
興味深いことに,2008年に,結晶シリカやアルミニウム塩による自然免疫の活性化にインフラマソームが関与していることがあいついで報告された1-3).インフラマソームは細胞内に存在するパターン認識受容体のひとつで現在では4種類が報告されている.そのなかでも粒子状物質により活性化されるものはNALP3インフラマソームとよばれており,NALP3とよばれるNOD様受容体,アダプタータンパク質であるASC(apoptosis-associated speck-like protein containing a caspase recruitment domein),および,カスパーゼ1から構成される巨大なタンパク質複合体である.自然免疫を担当するマクロファージや樹状細胞が粒子状物質を貪食するとインフラマソームが活性化され,カスパーゼ1の活性化を介して炎症性サイトカインであるインターロイキン1βやインターロイキン18が誘導される.この炎症性サイトカインが粒子状物質によるアジュバント活性に重要であることが報告された3,4).しかしながらそののち,インフラマソームは抗原に特異的な免疫グロブリンGの産生には関与しないという報告や5,6),インフラマソームの欠損は免疫グロブリンEの産生のみに影響をあたえるとの報告がなされ7),粒子状物質によるインフラマソームを介さないアジュバント活性の誘導機構が示唆されている(図1).
この研究では,粒子状物質による免疫グロブリンEの産生をはじめとした液性免疫の活性化に,インフラマソームに依存することなく誘導された脂質メディエーターが関与することを見い出した.
これまで,結晶シリカやアルミニウム塩は貪食細胞であるマクロファージを刺激しインフラマソームに依存的にインターロイキン1βやインターロイキン18を誘導することが報告されている.同様の実験系でマクロファージを結晶シリカやアルミニウム塩で刺激することにより,インフラマソームに依存的にインターロイキン1βの誘導が認められた.この実験系においてインフラマソームに非依存性のサイトカインやケモカインなどの液性因子の産生について検討を行ったところ,脂質メディエーターであるプロスタグランジンE2の誘導が認められた.このような現象はすべての粒子状物質において認められたわけではなく,炎症誘導能が低いことが報告されている二酸化チタン粒子ではインフラマソームの活性化もプロスタグランジンE2の産生も誘導されなかった.また,結晶シリカはヒトの末梢血単核細胞も刺激し,マウスのマクロファージと同様にインターロイキン1βとプロスタグランジンE2を誘導した.これらの結果から,アジュバント活性をもち炎症反応を誘導する粒子状物質はインフラマソームの活性化のみならずプロスタグランジンE2の産生も誘導することが明らかになった.
一般に,プロスタグランジンE2はインターロイキン1などの炎症性サイトカインにより誘導されることが知られている.プロスタグランジンE2の産生におけるインターロイキン1の関与を調べる目的で,インターロイキン1受容体ノックアウトマウスに由来するマクロファージを用いてこれまでと同様の実験を行ったが,結晶シリカやアルミニウム塩の刺激によるプロスタグランジンE2の産生には野生型マウスに由来するマクロファージとノックアウトマウスに由来するマクロファージとのあいだで差は認められなかった.さらに,プロスタグランジンE2の産生におけるNALP3インフラマソームの関与について検討する目的で,その構成タンパク質であるNALP3,ASC,または,カスパーゼ1をノックアウトしたマウスに由来するマクロファージを用いて検討した.これらのノックアウトマウスではインフラマソームが活性化されないため結晶シリカやアルミニウム塩による刺激に対してインターロイキン1βの産生を誘導しなかったが,プロスタグランジンE2の産生についてはいずれのノックアウトマウスに由来するマクロファージにおいても野生型マウスと同等の産生が認められた.これらの結果は,粒子状物質により誘導されるプロスタグランジンE2の産生がインフラマソームに非依存的であることを示していた.
結晶シリカやアルミニウム塩により誘導されるインフラマソームに依存性のインターロイキン1βは好中球の浸潤を主体とした急性炎症に関与することが報告されている.一方,インフラマソームに非依存的に誘導されるプロスタグランジンE2はどのような役割を演じているのだろうか? プロスタグランジンE2の産生には3種類の酵素が関与することが知られている.まず,ホスホリパーゼA2の作用により細胞膜のリン脂質からアラキドン酸が遊離され,遊離されたアラキドン酸はシクロオキシゲナーゼ1およびシクロオキシゲナーゼ2の作用によりプロスタグランジンH2に変換される.最終的に,プロスタグランジンE合成酵素によりプロスタグランジンH2からプロスタグランジンE2が産生される.とくに,膜結合型プロスタグランジンE合成酵素は刺激に依存的に産生されるプロスタグランジンE2の最終合成酵素であり,そのノックアウトマウスに由来するマクロファージではリポ多糖の刺激によるプロスタグランジンE2の産生の低下が報告されている8).実際に,膜結合型プロスタグランジンE合成酵素ノックアウトマウスに由来するマクロファージでは結晶シリカやアルミニウム塩の刺激によるプロスタグランジンE2の産生が認められなかった.
そこで,結晶シリカやアルミニウム塩により誘導されるプロスタグランジンE2のin vivoにおける役割について膜結合型プロスタグランジンE合成酵素ノックアウトマウスを用いて検討した.結晶シリカまたはアルミニウム塩をタンパク質抗原とともに免疫することで液性免疫が活性化され,抗原に特異的な免疫グロブリンEや免疫グロブリンG1が誘導されることが知られている.同様の実験系で結晶シリカまたはアルミニウム塩を卵白アルブミンとともに野生型マウスに免疫することで,卵白アルブミンに特異的な免疫グロブリンEの誘導が認められた.興味深いことに,膜結合型プロスタグランジンE合成酵素ノックアウトマウスでは野生型マウスに比べ卵白アルブミンに特異的な免疫グロブリンEの量が有意に低下していた.一方,卵白アルブミンに特異的な免疫グロブリンG1および免疫グロブリンG2c抗体の量についてはノックアウトマウスおよび野生型マウスとのあいだで有意な差は認められなかった.プロスタグランジンE2の免疫グロブリンE抗体の産生に対する関与に関しては古くから解析されており,プロスタグランジンE2はインターロイキン4により刺激されたB細胞の免疫グロブリンEへのクラススイッチを促進する作用があることが報告されている9).以上の結果から,粒子状物質により誘導されたプロスタグランジンE2はin vivoにおいて免疫グロブリンE抗体の産生に関与することが示された.
同様のin vivoの免疫実験をNALP3ノックアウトマウスやカスパーゼ1ノックアウトマウスを用いて行ったが,この実験系ではノックアウトマウスと野生型マウスとのあいだで抗原に特異的な免疫グロブリンE抗体の量に差は認められなかった.
結晶シリカやアルミニウム塩によるインフラマソームの活性化の分子機構は完全には明らかにされていないが,貪食により生じる活性酸素の産生,貪食された粒子状物質によりひき起こされるファゴリソソームの傷害ストレスや,消化酵素であるカテプシンBの細胞内への流出などが引き金となりインフラマソームが活性化されることが報告されている.インフラマソームに非依存性であるプロスタグランジンE2の産生に関しても,貪食とファゴリソソームの傷害ストレスとが関与していることが阻害剤などを用いた実験により明らかになった.さらに,プロスタグランジンE2の産生に関係する詳細なシグナル伝達経路を明らかにするためさまざまなシグナル伝達阻害剤を用いた解析を行ったところ,Syk(spleen tyrosine kinase)およびp38 MAPキナーゼの阻害により結晶シリカやアルミニウム塩により誘導されるプロスタグランジンE2の産生が強く抑制された.とくに,Sykはインフラマソームの活性化にも関与することが報告されているシグナル伝達タンパク質でもあり10),興味深いことに,Sykの活性化はファゴリソソームの傷害ストレスにより誘導されることが明らかになった.このように,Sykの活性化は粒子状物質によるインフラマソームの活性化経路とプロスタグランジンE2の産生誘導経路の起点となり,粒子状物質によるアジュバント活性を決定する重要なタンパク質であることが示唆された(図2).
さまざまな粒子状物質が免疫系に作用しアジュバント活性を示すことが報告されているが,その現象が報告されるだけで詳細な分子機構については明らかにされないままであった.アルミニウム塩は古くから臨床に応用された粒子状アジュバントであるが,その作用機序についてはアルミニウムに吸着した抗原が徐々に体内に放出される徐放作用が主であると解釈されていた.最近になり,ある種の粒子状物質が免疫担当細胞を刺激しインフラマソームの活性化や脂質メディエーターの産生を誘導することが明らかになったが,アジュバント活性の全貌を解明するためにはさらなる研究が必要であると思われる.粒子状物質のアジュバント活性の分子機構を解明することは,従来のワクチンアジュバントの改良や新規アジュバントの探索,粒子状物質によりひき起こされる免疫性疾患(アレルギー性炎症)の治療などに貢献するものと考えられる.
略歴:2001年 産業医科大学大学院医学研究科 修了,同年 産業医科大学医学部 助手,2007年 カナダBritish Columbia Cancer Agency研究員を経て,2009年より産業医科大学医学部 講師.
研究テーマ:自然免疫を介した免疫制御機構の解析.
関心事:自然免疫,とくにマクロファージの機能制御による免疫反応の制御.サイトカインや脂質メディエーターなどの液性因子に注目して研究を進めたい.
© 2011 黒田 悦史 Licensed under CC 表示 2.1 日本
(産業医科大学医学部 免疫学・寄生虫学講座)
email:黒田悦史
DOI: 10.7875/first.author.2011.080
Silica crystals and aluminum salts regulate the production of prostaglandin in macrophages via NALP3 inflammasome-independent mechanisms.
Etsushi Kuroda, Ken J. Ishii, Satoshi Uematsu, Keiichi Ohata, Cevayir Coban, Shizuo Akira, Kosuke Aritake, Yoshihiro Urade, Yasuo Morimoto
Immunity, 34, 514-526 (2011)
要 約
結晶シリカやアルミニウム塩などの粒子状物質の多くは自然免疫の活性化を介して特異的な獲得免疫を誘導するアジュバント効果をもっていることが知られている.しかしながら,粒子状物質による自然免疫の活性化の分子機構は長いあいだ明らかにされてこなかった.最近,これらの粒子状物質が細胞内パターン認識受容体のひとつであるインフラマソームを活性化し,炎症性サイトカインであるインターロイキン1βおよびインターロイキン18を誘導することが報告された.今回,筆者らはさらに,粒子状物質が自然免疫と獲得免疫とを活性化する新しい分子機構として,脂質メディエーターであるプロスタグランジンを介した免疫制御機構を見い出した.結晶シリカやアルミニウム塩はマクロファージを刺激してインフラマソームに依存的にインターロイキン1βやインターロイキン18の産生を,インフラマソームに非依存的にプロスタグランジンの産生を誘導した.これらの粒子状物質はタンパク質抗原とともにマウスに免疫すると免疫グロブリンEの産生を誘導することが知られているが,プロスタグランジンE2を産生しないプロスタグランジンE合成酵素のノックアウトマウスでは抗原に特異的な免疫グロブリンEの産生の低下が認められた.さらに,結晶シリカやアルミニウム塩によるプロスタグランジンの産生の分子機構について解析したところ,p38 MAPキナーゼとSykの活性化の関与が明らかになった.
はじめに
獲得免疫の誘導には自然免疫の活性化が重要であることが知られている.動物実験の免疫操作や予防接種のワクチンでは免疫増強剤であるアジュバントをくわえることでより効果的に獲得免疫反応を誘導することができるが,これはアジュバントが自然免疫を活性化する能力をもっているからである.マクロファージや樹状細胞のような自然免疫を担当する細胞は病原体に対するセンサーとしてToll様受容体(Toll-like receptor:TLR)をはじめとするパターン認識受容体(pattern-recognition recetor:PRR)を発現しており,病原体に由来する抗原パターン(pathogen-associated molecular pattern:PAMP)はパターン認識受容体を介して免疫担当細胞に認識される.この病原体に由来する抗原パターンを認識した細胞は活性化され,サイトカインをはじめとする液性因子を産生し獲得免疫反応の誘導を促す.このように,パターン認識受容体を介する刺激は効率よく自然免疫を活性化するため,パターン認識受容体のリガンドはアジュバントとして有用であると考えられている.一方,古くから臨床に応用されているアルミニウム塩アジュバントや吸入性化学物質である結晶シリカやアスベストも自然免疫を活性化する能力があると考えられているが,その作用機序は明らかにされていない.さらに,Toll様受容体のリガンドが細胞性免疫やI型免疫反応を活性化するのに対して,結晶シリカやアルミニウム塩のような粒子状物質は好酸球の誘導や免疫グロブリンEおよび免疫グロブリンG1の上昇をはじめとするII型免疫反応(液性免疫)を誘導することが知られている.そのため,粒子状物質によるアジュバント活性はパターン認識受容体のリガンドなどにおいて提唱されてきた自然免疫の活性化の分子機構とは異なることが示唆されていた(図1).
興味深いことに,2008年に,結晶シリカやアルミニウム塩による自然免疫の活性化にインフラマソームが関与していることがあいついで報告された1-3).インフラマソームは細胞内に存在するパターン認識受容体のひとつで現在では4種類が報告されている.そのなかでも粒子状物質により活性化されるものはNALP3インフラマソームとよばれており,NALP3とよばれるNOD様受容体,アダプタータンパク質であるASC(apoptosis-associated speck-like protein containing a caspase recruitment domein),および,カスパーゼ1から構成される巨大なタンパク質複合体である.自然免疫を担当するマクロファージや樹状細胞が粒子状物質を貪食するとインフラマソームが活性化され,カスパーゼ1の活性化を介して炎症性サイトカインであるインターロイキン1βやインターロイキン18が誘導される.この炎症性サイトカインが粒子状物質によるアジュバント活性に重要であることが報告された3,4).しかしながらそののち,インフラマソームは抗原に特異的な免疫グロブリンGの産生には関与しないという報告や5,6),インフラマソームの欠損は免疫グロブリンEの産生のみに影響をあたえるとの報告がなされ7),粒子状物質によるインフラマソームを介さないアジュバント活性の誘導機構が示唆されている(図1).
この研究では,粒子状物質による免疫グロブリンEの産生をはじめとした液性免疫の活性化に,インフラマソームに依存することなく誘導された脂質メディエーターが関与することを見い出した.
1.結晶シリカやアルミニウム塩はインフラマソームの活性化とともにプロスタグランジンの産生を誘導する
これまで,結晶シリカやアルミニウム塩は貪食細胞であるマクロファージを刺激しインフラマソームに依存的にインターロイキン1βやインターロイキン18を誘導することが報告されている.同様の実験系でマクロファージを結晶シリカやアルミニウム塩で刺激することにより,インフラマソームに依存的にインターロイキン1βの誘導が認められた.この実験系においてインフラマソームに非依存性のサイトカインやケモカインなどの液性因子の産生について検討を行ったところ,脂質メディエーターであるプロスタグランジンE2の誘導が認められた.このような現象はすべての粒子状物質において認められたわけではなく,炎症誘導能が低いことが報告されている二酸化チタン粒子ではインフラマソームの活性化もプロスタグランジンE2の産生も誘導されなかった.また,結晶シリカはヒトの末梢血単核細胞も刺激し,マウスのマクロファージと同様にインターロイキン1βとプロスタグランジンE2を誘導した.これらの結果から,アジュバント活性をもち炎症反応を誘導する粒子状物質はインフラマソームの活性化のみならずプロスタグランジンE2の産生も誘導することが明らかになった.
2.粒子状物質によるプロスタグランジンの産生の誘導はNALP3インフラマソームに依存しない
一般に,プロスタグランジンE2はインターロイキン1などの炎症性サイトカインにより誘導されることが知られている.プロスタグランジンE2の産生におけるインターロイキン1の関与を調べる目的で,インターロイキン1受容体ノックアウトマウスに由来するマクロファージを用いてこれまでと同様の実験を行ったが,結晶シリカやアルミニウム塩の刺激によるプロスタグランジンE2の産生には野生型マウスに由来するマクロファージとノックアウトマウスに由来するマクロファージとのあいだで差は認められなかった.さらに,プロスタグランジンE2の産生におけるNALP3インフラマソームの関与について検討する目的で,その構成タンパク質であるNALP3,ASC,または,カスパーゼ1をノックアウトしたマウスに由来するマクロファージを用いて検討した.これらのノックアウトマウスではインフラマソームが活性化されないため結晶シリカやアルミニウム塩による刺激に対してインターロイキン1βの産生を誘導しなかったが,プロスタグランジンE2の産生についてはいずれのノックアウトマウスに由来するマクロファージにおいても野生型マウスと同等の産生が認められた.これらの結果は,粒子状物質により誘導されるプロスタグランジンE2の産生がインフラマソームに非依存的であることを示していた.
3.プロスタグランジンE2はin vivoにおいて粒子状物質により誘導される免疫グロブリンEの産生を制御する
結晶シリカやアルミニウム塩により誘導されるインフラマソームに依存性のインターロイキン1βは好中球の浸潤を主体とした急性炎症に関与することが報告されている.一方,インフラマソームに非依存的に誘導されるプロスタグランジンE2はどのような役割を演じているのだろうか? プロスタグランジンE2の産生には3種類の酵素が関与することが知られている.まず,ホスホリパーゼA2の作用により細胞膜のリン脂質からアラキドン酸が遊離され,遊離されたアラキドン酸はシクロオキシゲナーゼ1およびシクロオキシゲナーゼ2の作用によりプロスタグランジンH2に変換される.最終的に,プロスタグランジンE合成酵素によりプロスタグランジンH2からプロスタグランジンE2が産生される.とくに,膜結合型プロスタグランジンE合成酵素は刺激に依存的に産生されるプロスタグランジンE2の最終合成酵素であり,そのノックアウトマウスに由来するマクロファージではリポ多糖の刺激によるプロスタグランジンE2の産生の低下が報告されている8).実際に,膜結合型プロスタグランジンE合成酵素ノックアウトマウスに由来するマクロファージでは結晶シリカやアルミニウム塩の刺激によるプロスタグランジンE2の産生が認められなかった.
そこで,結晶シリカやアルミニウム塩により誘導されるプロスタグランジンE2のin vivoにおける役割について膜結合型プロスタグランジンE合成酵素ノックアウトマウスを用いて検討した.結晶シリカまたはアルミニウム塩をタンパク質抗原とともに免疫することで液性免疫が活性化され,抗原に特異的な免疫グロブリンEや免疫グロブリンG1が誘導されることが知られている.同様の実験系で結晶シリカまたはアルミニウム塩を卵白アルブミンとともに野生型マウスに免疫することで,卵白アルブミンに特異的な免疫グロブリンEの誘導が認められた.興味深いことに,膜結合型プロスタグランジンE合成酵素ノックアウトマウスでは野生型マウスに比べ卵白アルブミンに特異的な免疫グロブリンEの量が有意に低下していた.一方,卵白アルブミンに特異的な免疫グロブリンG1および免疫グロブリンG2c抗体の量についてはノックアウトマウスおよび野生型マウスとのあいだで有意な差は認められなかった.プロスタグランジンE2の免疫グロブリンE抗体の産生に対する関与に関しては古くから解析されており,プロスタグランジンE2はインターロイキン4により刺激されたB細胞の免疫グロブリンEへのクラススイッチを促進する作用があることが報告されている9).以上の結果から,粒子状物質により誘導されたプロスタグランジンE2はin vivoにおいて免疫グロブリンE抗体の産生に関与することが示された.
同様のin vivoの免疫実験をNALP3ノックアウトマウスやカスパーゼ1ノックアウトマウスを用いて行ったが,この実験系ではノックアウトマウスと野生型マウスとのあいだで抗原に特異的な免疫グロブリンE抗体の量に差は認められなかった.
4.プロスタグランジンの産生はSykとp38 MAPキナーゼにより制御されている
結晶シリカやアルミニウム塩によるインフラマソームの活性化の分子機構は完全には明らかにされていないが,貪食により生じる活性酸素の産生,貪食された粒子状物質によりひき起こされるファゴリソソームの傷害ストレスや,消化酵素であるカテプシンBの細胞内への流出などが引き金となりインフラマソームが活性化されることが報告されている.インフラマソームに非依存性であるプロスタグランジンE2の産生に関しても,貪食とファゴリソソームの傷害ストレスとが関与していることが阻害剤などを用いた実験により明らかになった.さらに,プロスタグランジンE2の産生に関係する詳細なシグナル伝達経路を明らかにするためさまざまなシグナル伝達阻害剤を用いた解析を行ったところ,Syk(spleen tyrosine kinase)およびp38 MAPキナーゼの阻害により結晶シリカやアルミニウム塩により誘導されるプロスタグランジンE2の産生が強く抑制された.とくに,Sykはインフラマソームの活性化にも関与することが報告されているシグナル伝達タンパク質でもあり10),興味深いことに,Sykの活性化はファゴリソソームの傷害ストレスにより誘導されることが明らかになった.このように,Sykの活性化は粒子状物質によるインフラマソームの活性化経路とプロスタグランジンE2の産生誘導経路の起点となり,粒子状物質によるアジュバント活性を決定する重要なタンパク質であることが示唆された(図2).
おわりに
さまざまな粒子状物質が免疫系に作用しアジュバント活性を示すことが報告されているが,その現象が報告されるだけで詳細な分子機構については明らかにされないままであった.アルミニウム塩は古くから臨床に応用された粒子状アジュバントであるが,その作用機序についてはアルミニウムに吸着した抗原が徐々に体内に放出される徐放作用が主であると解釈されていた.最近になり,ある種の粒子状物質が免疫担当細胞を刺激しインフラマソームの活性化や脂質メディエーターの産生を誘導することが明らかになったが,アジュバント活性の全貌を解明するためにはさらなる研究が必要であると思われる.粒子状物質のアジュバント活性の分子機構を解明することは,従来のワクチンアジュバントの改良や新規アジュバントの探索,粒子状物質によりひき起こされる免疫性疾患(アレルギー性炎症)の治療などに貢献するものと考えられる.
文 献
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著者プロフィール
略歴:2001年 産業医科大学大学院医学研究科 修了,同年 産業医科大学医学部 助手,2007年 カナダBritish Columbia Cancer Agency研究員を経て,2009年より産業医科大学医学部 講師.
研究テーマ:自然免疫を介した免疫制御機構の解析.
関心事:自然免疫,とくにマクロファージの機能制御による免疫反応の制御.サイトカインや脂質メディエーターなどの液性因子に注目して研究を進めたい.
© 2011 黒田 悦史 Licensed under CC 表示 2.1 日本