ライフサイエンス新着論文レビュー

麻疹ウイルスの感染とp62の変異はともにPaget's病における破骨細胞の活性亢進に貢献する

栗原徳善・寺町順平
(米国Pittsburgh大学Medical Center,Deprtment of Medicine,Division of Oncology/Hematology)
email:栗原徳善寺町順平
DOI: 10.7875/first.author.2011.021

Contributions of the measles virus nucleocapsid gene and the SQSTM1/p62P392L mutation to Paget's disease.
Noriyoshi Kurihara, Yuko Hiruma, Kei Yamana, Laëtitia Michou, Côme Rousseau, Jean Morissette, Deborah L. Galson, Jumpei Teramachi, Hua Zhou, David W. Dempster, Jolene J. Windle, Jacques P. Brown, G. David Roodman
Cell Metabolism, 13, 23-34 (2011)




要 約


 Paget’s病の発症には麻疹ウイルスの感染とp62の変異とが関与していることが示唆されたため,p62に変異をもつ12人の患者と8人の健常者につき麻疹ウイルスの感染の有無とPaget’s病による破骨細胞の形成について検討した.患者12人中8人に麻疹ウイルスの感染を認めPaget’s病による破骨細胞の形成も認められたが,その特徴的な破骨細胞の形成は麻疹ウイルスヌクレオカプシドタンパク質をコードするアンチセンスオリゴヌクレオチドにより抑制された.麻疹ウイルスの感染が認められなかった4人の患者はRANKLに高感受性であり破骨細胞の形成は有意に促進されたが,破骨細胞の形態は正常でありアンチセンスオリゴヌクレオチドによる影響をうけなかった.つぎに,トランスジェニックマウスを用いた解析を行ったところ,変異型p62を発現するノックインマウスの骨髄からは正常な形態の破骨細胞が形成されたが,麻疹ウイルスヌクレオカプシドタンパク質を発現するトランスジェニックマウス,あるいは,変異型p62ノックイン/麻疹ウイルストランスジェニックマウスからはPaget’s病による破骨細胞の形成が認められ,さらに,p38の活性化により破骨細胞からのインターロイキン6の産生が有意に上昇していた.また,麻疹ウイルストランスジェニックマウスにおいてインターロイキン6をノックダウンするとPaget’s病による破骨細胞の形成は抑制された.変異型p62ノックイン/麻疹ウイルストランスジェニックマウスではPaget’s病による劇的な骨病変が観察された.これらの結果より,p62の変異と麻疹ウイルスの感染によるインターロイキン6の産生促進とがPaget’s病の発症に関与していることが示唆された.

はじめに


 Paget’s病は活性化した破骨細胞による骨吸収の促進とそれにともなう過度の骨形成の認められる慢性かつ代謝性の骨疾患である1).患者の骨組織片には100核以上に巨大化した破骨細胞が観察される.患者の破骨前駆細胞では1,25-ジヒドロキシビタミンD3,RANKLやTNFαに対する感受性が健常者と比較して10~100倍も亢進している2-4).また,インターロイキン6の産生も上昇している5).Paget’s病患者の破骨前駆細胞にはTFIID転写複合体の構成タンパク質であるTAF12が存在し,低濃度の1,25-ジヒドロキシビタミンD3とビタミンD受容体による転写を促進している3)
 Paget’s病の発症の原因は長いあいだ不明であった.その理由として,著しい人種差と家族性の存在すること,男女差のないことがあげられ,遺伝的な要因が指摘されていた1).とくに,骨吸収にかかわるタンパク質p62/SQSTM-1の遺伝子変異が関与していることが指摘され21タイプのp62変異が報告されている6-8).筆者らは,もっとも一般的にみられる392番目のPro残基がLeu残基に置換した変異型p62のPaget’s病への貢献を知るため,変異型p62ノックインマウスおよびp62ノックアウトマウスを作製して検討したところ,破骨前駆細胞のRANKLに対する感受性に亢進は認められたが,形成された破骨細胞は正常マウスと同様の形態をしておりTAF12の発現亢進やインターロイキン6の産生亢進は認められなかった9)
 また,Paget’s病患者の破骨細胞ではウイルス感染に特有の核の凝集が認められることから,骨吸収の亢進は麻疹ウイルスに代表されるパラミクソウイルスの感染によることも示唆されてきた10).これまでの筆者らの知見により,Paget’s病患者の70%に麻疹ウイルスの感染を認め,麻疹ウイルスヌクレオカプシドタンパク質を発現するトランスジェニックマウスの作製により29%のマウスにPaget’s病による骨病変の存在を認めた11).このことから,Paget’s病での骨吸収の亢進には麻疹ウイルスの感染が重要な役割を演じていることが明らかにされてきた.
 しかし,さきに述べたように,Paget’s病の発症は骨吸収にかかわる遺伝子変異あるいは麻疹ウイルス感染の単独で起こるものではなく,両者の関与が示唆された.そこで, p62ノックイン/麻疹ウイルストランスジェニックマウスを作製しPaget’s病の病態発症の機序について検討した.

1.Paget’s病患者の破骨前駆細胞における麻疹ウイルスの感染


 これまでの筆者らの知見により,Paget’s病患者の破骨細胞において麻疹ウイルスの感染が認められたため,麻疹ウイルスヌクレオカプシドタンパク質を発現するトランスジェニックマウスを作製し検討したところ,Paget's病に特有の破骨細胞が形成され,かつ,Paget’s病に特有の骨代謝の異常を示した.そこで,392番目のPro残基がLeu残基に置換した変異型p62をもつPaget’s病患者における麻疹ウイルスの感染を検討した.12人のp62に変異をもつPaget’s病患者と8人の同じ年齢の健常者について,Paget’s病患者のうち8人から麻疹ウイルスの感染が検出されたが,健常者からは検出されなかった.

2.Paget’s病患者の破骨前駆細胞における刺激に対する感受性


 麻疹ウイルス感染かつp62変異Paget’s病患者の破骨前駆細胞は1,25-ジヒドロキシビタミンD3による刺激に対して高感受性を示し,麻疹ウイルス非感染かつp62変異Paget’s病患者,および,健常者と比較して,1/10~1/100の濃度の1,25-ジヒドロキシビタミンD3により破骨細胞の形成を促進した.一方,RANKLによる刺激に対しては麻疹ウイルスの感染の有無にかかわらずp62に変異をもつPaget’s病患者で感受性が亢進していた.

3.p62に変異をもつPaget’s病患者の破骨前駆細胞へのアンチセンスオリゴヌクレオチド導入実験


 Paget’s病患者の破骨前駆細胞へ麻疹ウイルスヌクレオカプシドタンパク質をコードするアンチセンスオリゴヌクレオチドを導入して破骨細胞の形成を検討した.麻疹ウイルス感染かつp62変異Paget’s病患者の破骨前駆細胞ではアンチセンスオリゴヌクレオチドの導入によりヌクレオカプシドタンパク質の発現レベルは著しく減少した.ミスマッチをもつアンチセンスオリゴヌクレオチドを導入しても発現レベルは変化しなかった.麻疹ウイルス感染かつp62変異Paget’s病患者の破骨前駆細胞にアンチセンスオリゴヌクレオチドを導入すると1,25-ジヒドロキシビタミンD3刺激による破骨細胞の形成が50~70%にまで減少した.さらに,Paget’s病による破骨細胞の病変も認められず,TAF12の発現,インターロイキン6の産生や骨吸収の活性も顕著に抑制された.一方,麻疹ウイルス非感染かつp62変異Paget’s病患者および健常者の破骨前駆細胞へアンチセンスオリゴヌクレオチドを導入しても,破骨細胞の形成,TAF12の発現,および,インターロイキン6の産生になんら変化はなかった.p62に変異をもつPaget’s病患者の破骨前駆細胞では麻疹ウイルス感染の有無にかかわらずRANKL刺激に対し高感受性であり,アンチセンスオリゴヌクレオチドを導入してもRANKL刺激への感受性には影響しなかった.
 これらの結果より,p62の変異により破骨細胞のRANKL刺激に対する感受性が亢進し,一方,麻疹ウイルスの感染により1,25-ジヒドロキシビタミンD3に対する感受性が亢進され,インターロイキン6の産生を促進し破骨細胞による骨吸収を促進することが示唆された.

4.変異型p62ノックイン/麻疹ウイルストランスジェニックマウスにおける解析


 Paget’s病患者の骨髄細胞の解析からp62の変異と麻疹ウイルスの感染の両方がその病因として指摘された.しかし,Paget’s病の発症におけるそれぞれの役割は不明である.筆者らは以前に,破骨細胞系列の細胞のみに麻疹ウイルスヌクレオカプシドタンパク質を発現するトランスジェニックマウスを作製し,そのうち29%がPaget’s病による骨病変を発現し破骨細胞もPaget’s病による病変を発現すること,対照的に,392番目のPro残基がLeu残基に置換した変異型p62のノックインマウスではPaget’s病に近い骨病変を発現するが破骨細胞にはPaget’s病による病変を発現しない,という現象を報告している.そこで,変異型p62と麻疹ウイルスの両者の破骨細胞の形成および骨リモデリングに対する影響を検討するため,変異型p62ノックインマウスと麻疹ウイルストランスジェニックマウスからその二重変異をもつマウスを作製し検討した.さらに,対照として,野生型マウス,麻疹ウイルストランスジェニックマウス,変異型p62ノックインマウスについても検討した.
 1)刺激に対する感受性:麻疹ウイルストランスジェニックマウスおよび変異型p62ノックイン/麻疹ウイルストランスジェニックマウスの破骨前駆細胞は低濃度の1,25-ジヒドロキシビタミンD3による刺激においても破骨細胞の形成が認められ,野生型マウスおよび変異型p62ノックインマウスと比較して有意に破骨細胞数が増加していた.これまでの筆者らの知見から,1,25-ジヒドロキシビタミンD3に対する高感受性にはTAF12の発現が関与していることがわかっていたためその発現を検討した.その結果,麻疹ウイルストランスジェニックマウスおよび変異型p62ノックイン/麻疹ウイルストランスジェニックマウスの破骨前駆細胞においてTAF12の高い発現が認められた.一方,RANKLへの感受性は,野生型マウス,麻疹ウイルストランスジェニックマウスと比べ変異型p62ノックインマウス,変異型p62ノックイン/麻疹ウイルストランスジェニックマウスで亢進していた.
 2)破骨細胞の形態(Paget’s病による病変をもつ破骨細胞の出現):1,25-ジヒドロキシビタミンD3により誘導した破骨細胞の形成系では,麻疹ウイルストランスジェニックマウスおよび変異型p62ノックイン/麻疹ウイルストランスジェニックマウスにおいて破骨細胞数とその大きさが増大し,さらに,1細胞あたりの核数が著しく増加していた(図1).一方,RANKLにより誘導した破骨細胞の形成系ではいずれのマウスにおいても破骨細胞の形態に変化はなかった.変異型p62ノックイン/麻疹ウイルストランスジェニックマウスの破骨前駆細胞はRANKL刺激に対して破骨細胞を有意に増加させたが,1,25-ジヒドロキシビタミンD3刺激により形成された破骨細胞と比較すると核の数も少なく大きさも小さかった.麻疹ウイルストランスジェニックマウスおよび変異型p62ノックイン/麻疹ウイルストランスジェニックマウスの破骨前駆細胞は1,25-ジヒドロキシビタミンD3刺激により有意に骨吸収を促進した.また,RANKL刺激においては,野生型マウスに比べ麻疹ウイルストランスジェニックマウス,変異型p62ノックインマウス,変異型p62ノックイン/麻疹ウイルストランスジェニックマウスの破骨細胞において骨吸収が増加していた.Paget’s病による病変を示す破骨細胞は1,25-ジヒドロキシビタミンD3刺激に対し高感受性で,その刺激により高レベルのインターロイキン6を分泌することが報告されている.そこで,破骨前駆細胞からのインターロイキン6の産生を検討した.その結果,麻疹ウイルストランスジェニックマウスおよび変異型p62ノックインマウス/麻疹ウイルストランスジェニックマウスから高レベルのインターロイキン6の産生が認められた.



 3)Paget’s病による破骨細胞の形成にかかわるシグナル伝達経路:p38はインターロイキン6の産生に関与していることが示唆されている.そこで,p38シグナルについて検討した.その結果,1,25-ジヒドロキシビタミンD3刺激により麻疹ウイルストランスジェニックマウスおよび変異型p62ノックイン/麻疹ウイルストランスジェニックマウスの破骨前駆細胞では5分後をピークに著しいp38リン酸化を示したが,野生型マウスおよび変異型p62ノックインマウスではあまり顕著な変化を示さなかった.
 4)組織学的および骨形態学的な検討(Paget’s病による骨病変の有無):骨を組織学的に検討したところ,野生型マウスに比べ変異型p62ノックイン/麻疹ウイルストランスジェニックマウスでは18カ月齢で劇的な骨病変が観察された.さらに,骨髄コンパートメントに多数の多核の破骨細胞が認められ,局所の骨に網目状のPaget’s病に特有の骨吸収像も認められた(図1).

おわりに


 麻疹ウイルストランスジェニックマウスおよび変異型p62ノックイン/麻疹ウイルストランスジェニックマウスの破骨前駆細胞を1,25-ジヒドロキシビタミンD3により刺激すると,野生型マウスおよび変異型p62ノックインマウスに比べ亢進した骨吸収能をもつ大型で多核の破骨細胞が多く形成され,その作用はTAF12の高発現によるものであることがわかった.また,RANKL刺激による破骨細胞の形成においては,麻疹ウイルストランスジェニックマウス,変異型p62ノックインマウス,変異型p62ノックインマウス/麻疹ウイルストランスジェニックマウスの破骨前駆細胞は野生型マウスのそれに比べて破骨細胞の形成が有意に増加したが,形成された破骨細胞の形態は正常なものであった.これらの結果から,Paget’s病の発症においてはp62の変異と麻疹ウイルスの感染の両者により機能的に異常な破骨細胞が形成されているものと考えられた.

文 献



  1. Roodman, G. D. & Windle, J. J.: Paget disease of bone. J. Clin. Invest., 115, 200-208 (2005)[PubMed]

  2. Kurihara, N., Bertolini, D., Suda, T. et al.: IL-6 stimulates osteoclast-like multinucleated cell formation in long term human marrow cultures by inducing IL-1 release. J. Immunol., 144, 4226-4230 (1990)[PubMed]

  3. Kurihara, N., Reddy, S. V., Araki, N. et al.: Role of TAFII-17, a VDR binding protein, in the increased osteoclast formation in Paget’s disease. J. Bone Miner. Res., 19, 1154-1164 (2004)[PubMed]

  4. Menaa, C., Reddy, S. V., Kurihara, N. et al.: Enhanced RANK ligand expression and responsivity of bone marrow cells in Paget’s disease of bone. J. Clin. Invest., 105, 1833-1838 (2000)[PubMed]

  5. Roodman, G. D., Kurihara, N., Ohsaki, Y. et al.: Interleukin 6. A potential autocrine/paracrine factor in Paget’s disease of bone. J. Clin. Invest., 89, 46-52 (1992)[PubMed]

  6. Laurin, N., Brown, J. P., Morissette, J. et al.: Recurrent mutation of the gene encoding sequestosome 1 (SQSTM1/p62) in Paget disease of bone. Am. J. Hum. Genet., 70, 1582-1588 (2002)[PubMed]

  7. Morissette, J., Laurin, N. & Brown, J. P.: Sequestosome 1: mutation frequencies, haplotypes, and phenotypes in familial Paget’s disease of bone. J. Bone Miner. Res., 21(Suppl.2), 38-44 (2006)[PubMed]

  8. Ralston, S. H.: Pathogenesis of Paget’s disease of bone. Clin. Rev. Bone Miner. Metab., 1, 109-114 (2002)

  9. Kurihara, N., Hiruma, Y., Zhou, H. et al.: Mutation of the sequestosome 1 (p62) gene increases osteoclastogenesis but does not induce Paget disease. J. Clin. Invest., 117, 133-142 (2007)[PubMed]

  10. Kurihara, N., Reddy, S. V., Manaa, C. et al.: Osteoclasts expressing the measles virus nucleocapsid gene display a pagetic phenotype. J. Clin. Invest., 105, 607-614 (2000)[PubMed]

  11. Kurihara, N., Zhou, H., Reddy, S. V. et al.: Expression of measles virus nucleocapsid protein in osteoclasts induces Paget’s disease-like bone lesions in mice. J. Bone Miner. Res., 21, 446-455 (2006)[PubMed]





著者プロフィール


栗原 徳善(Noriyoshi Kurihara)
略歴:1986年 城西歯科大学大学院博士課程 修了,1991年 明海大学歯学部 講師,1998年 米国Texas大学San Antonio校 准教授,2001年 米国Pittsburgh大学 准教授を経て,2008年 同 教授.
研究テーマ:Paget’s病の病態解明,多発性骨髄腫と微小環境.
関心事:われわれの研究に参加してくれるモチベーションの高い日本人ポスドクを待ち望んでいます.

寺町 順平(Jumpei Teramachi)
略歴:2008年 九州大学大学院歯学研究科 修了,2010年より米国Pittsburgh大学 リサーチアソシエート.

© 2011 栗原徳善・寺町順平 Licensed under CC 表示 2.1 日本