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RAPLの欠損によるp27kip1の細胞内での局在の異常はリンパ球増殖性疾患の発症をひき起こす

片桐晃子1・木梨達雄2
1関西学院大学理工学部 生命科学科,2関西医科大学附属生命医学研究所 分子遺伝学部門)
email:片桐晃子
DOI: 10.7875/first.author.2011.018

Deficiency of Rap1-binding protein RAPL causes lymphoproliferative disorders through mislocalization of p27kip1.
Koko Katagiri, Yoshihiro Ueda, Takashi Tomiyama, Kaneki Yasuda, Yoshinobu Toda, Susumu Ikehara, Keiichi I. Nakayama, Tatsuo Kinashi
Immunity, 34, 24-38 (2011)




要約


 免疫細胞に特異的に発現するRAPLはRap1の結合タンパク質でありRap1の活性化により誘導される細胞接着や細胞遊走において重要な役割をはたしている.RAPLノックアウトマウスは加齢とともにループス腎炎など自己免疫疾患やBリンパ腫を発症することがわかった.その発症機構として,RAPLはCDK阻害タンパク質であるp27kip1の核への移行を促進することでリンパ球の増殖を抑えているため,RAPLを欠損するとリンパ球の過剰な増殖をまねくことが明らかになった.この成果は,リンパ球の接着と増殖とが連携して制御されており,その両者に関与するタンパク質の破綻は単独でもリンパ球増殖性疾患の発症につながることを示した.

はじめに


 免疫細胞に特異的に発現する接着制御分子RAPLは免疫細胞の接着や移動の調節において重要なはたらきをしている1-4).一方,RAPLはがん抑制遺伝子であるRASSFファミリーに属するRASSF5c遺伝子の産物でもある.近年,RASSFファミリー遺伝子はアポトーシス誘導能および増殖抑制能をもちさまざまながんにおいて発現の低下している重要ながん抑制遺伝子として注目されている5).しかしながら,細胞接着を制御するRAPLがほかのRASSFファミリー遺伝子産物と同様にがん抑制遺伝子産物として機能しているかどうかは不明であった.
 この研究によって,RAPLがリンパ球の増殖を負に制御し生体免疫系の過剰応答に起因する自己免疫疾患やBリンパ腫の発症の抑制に重要な役割をはたしていることがわかった.また,RASSFファミリー遺伝子産物による増殖抑制の分子機構は十分には明らかになっていないが,RAPLはリンパ球においてサイクリン依存性キナーゼ(cyclin-dependent kinase:CDK)のひとつCDK2の阻害タンパク質6) であるp27kip1の核への移行を促進することで増殖を制御していることが判明した.リンパ球においてp27kip1はユビキチン-プロテアソーム系を介する分解によりその発現量が調節されていることはよく知られているが,p27kip1の細胞内での局在の制御の重要性については明らかになっていなかった.近年,p27kip1の細胞質における局在は,核におけるCDK2の活性を抑制できないだけでなく,細胞のがん化にも関与することが示されている7-9).この研究によって,リンパ球におけるp27kip1の細胞内での局在の異常が自己免疫疾患やBリンパ腫の発症につながることが明らかになった.

1.RAPLノックアウトマウスの解析


 RAPLノックアウトマウスでは加齢とともに抗2本鎖DNA抗体などの自己抗体価が上昇し,腎臓に免疫複合体が沈着しループス腎炎を発症した.また,1年以内に30%の割合でリンパ節および脾臓においてBリンパ腫を発症することが明らかになった.
 発症前の6週令RAPLノックアウトマウスに由来するB細胞およびT細胞の抗原受容体を介する増殖応答をin vitroで検討したところ,いずれもG1期からS期への移行が亢進していた.また,10カ月令RAPLノックアウトマウスへBrdUを投与しin vivoにおけるリンパ球の増殖を検討したところ,RAPLノックアウトマウスのリンパ節および脾臓においてB細胞およびT細胞のBrdU取り込みが亢進していた.
 RAPLノックアウトリンパ球における増殖応答の亢進の機構を明らかにするため,細胞周期の制御タンパク質であるサイクリンの発現およびサイクリン依存性キナーゼの活性を調べたところ,RAPLノックアウトB細胞およびRAPLノックアウトT細胞では,サイクリンEの発現には差がないにもかかわらずCDK2活性が2~3倍も上昇していた.

2.p27kip1の細胞内での局在


 サイクリンE-CDK2複合体に結合しその活性を阻害するp27kip1は,正常のリンパ球では抗原刺激によってG1期に核においてユビキチン-プロテアソーム系により分解されることがわかっている.RAPLノックアウトリンパ球ではCDK2活性が上昇しているにもかかわらずp27kip1は分解されなかった.そこで,RAPLノックアウトリンパ球のp27kip1の局在を免疫染色法により検討したところ,p27kip1は細胞質に蓄積していることが判明した.p27kip1は核においてCDK2の活性を阻害できなければ,細胞増殖を抑制することができない.RAPLはp27kip1の核への移行に重要なはたらきをしている可能性が示唆された.
 抗原刺激ののちのp27kip1の細胞内での局在の変化を詳細に調べたところ,刺激をあたえなかったときには正常なB細胞ではp27kip1は細胞質に存在するが正常なT細胞ではもともと核に存在することが明らかになった.抗原刺激によって正常なB細胞ではp27kip1は数分以内に細胞質から核へと移行するのに対し,RAPLノックアウトB細胞では細胞質にとどまったままであった.正常なT細胞では抗原刺激ののちp27kip1は核から細胞質へと移行するが,RAPLノックアウトT細胞ではその割合が2倍に増加していた.
 p27kip1の核から細胞質への移行には10番目のセリン残基のリン酸化が必要であるが,RAPLはそのリン酸化を抑制することが明らかになった.すなわち,293細胞においてRAPLを過剰させるとp27kip1の10番目のセリン残基のリン酸化が抑制されて核に局在し細胞増殖が抑制された.抗原刺激ののちのRAPLノックアウトB細胞およびRAPLノックアウトT細胞におけるp27kip1の10番目のセリン残基のリン酸化のレベルは正常細胞に比較して亢進していた.これらの結果より,RAPLはp27kip1の10番目のセリン残基のリン酸化を抑制することでp27kip1の核への移行を促進していることが明らかになった.
 RAPLノックアウトマウスのp27kip1が正常に核に移行できるよう,p27kip1の10番目のセリン残基をアラニン残基に変換したp27kip1変異体をノックインしたマウスと掛け合わせて10番目のセリン残基のリン酸化が起こらないようにしたところ,RAPLの欠損による自己免疫疾患やリンパ腫の発症が抑制された.

おわりに


 接着制御分子RAPLがp27kip1の核への移行を促進しリンパ球の増殖を抑制するシグナルとして,リンパ球増殖性疾患の発症抑制に重要な機能をはたしていることが明らかになった(図1).RAPLの破綻により自己免疫疾患を発症するモデルマウスを用いて接着制御因子の欠損による自己寛容の成立および維持の機構を明らかにすることで,さらに詳細に自己免疫疾患の発症機構を提示できるものと予想される.また,RAPLによりp27kip1が核に移行する際の分子機構を解明することで,リンパ球の増殖を抑制させるはたらきを担う標的タンパク質が見い出され,リンパ球増殖性疾患に新たな治療法を確立できるものと期待される.

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文 献



  1. Katagiri, K., Imamura, M. & Kinashi, T.: Spatiotemporal regulation of the kinase Mst1 by binding protein RAPL is critical for lymphocyte polarity and adhesion. Nat. Immunol., 7, 919-928 (2006)[PubMed]

  2. Katagiri, K., Katakai, T., Ebisuno, Y. et al.: Mst1 controls lymphocyte trafficking and interstitial motility within lymph nodes. EMBO J., 28, 1319-1331(2009)[PubMed]

  3. Katagiri, K., Maeda, A., Shimonaka, M. et al.: RAPL, a Rap1-binding molecule that mediates Rap1-induced adhesion through spatial regulation of LFA-1. Nat. Immunol., 4, 741-748 (2003)[PubMed]

  4. Katagiri, K., Ohnishi, N., Kabashima, K. et al.: Crucial functions of the Rap1 effector molecule RAPL in lymphocyte and dendritic cell trafficking. Nat. Immunol., 5, 1045-1051 (2004)[PubMed]

  5. Avruch, J., Xavier, R., Bardeesy, N. et al.: Rassf family of tumor suppressor polypeptides. J. Biol. Chem., 284, 11001-11005 (2009)[PubMed]

  6. Nakayama, K., Ishida, N., Shirane, M. et al.: Mice lacking p27Kip1 display increased body size, multiple organ hyperplasia, retinal dysplasia, and pituitary tumors. Cell, 85, 707-720 (1996)[PubMed]

  7. Besson, A., Hwang, H. C., Cicero, S. et al.: Discovery of an oncogenic activity in p27Kip1 that causes stem cell expansion and a multiple tumor phenotype. Genes Dev., 21, 1731-1746 (2007)[PubMed]

  8. Boehm, M., Yoshimoto, T., Crook, M. F. et al.: A growth factor-dependent nuclear kinase phosphorylates p27Kip1 and regulates cell cycle progression. EMBO J., 21, 3390-3401 (2002)[PubMed]

  9. Rodier, G., Montagnoli, A., Di Marcotullio, L. et al.: p27 cytoplasmic localization is regulated by phosphorylation on Ser10 and is not a prerequisite for its proteolysis. EMBO J., 20, 6672-6682 (2001)[PubMed]



生命科学の教科書における関連するセクションへのリンク


東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.



著者プロフィール


片桐 晃子(Koko Katagiri)
略歴:1980年 北海道大学大学院獣医研究科 修了,1981年 中外製薬 新薬研究所,1994年 ニッピ バイオマトリックス研究所,1999年 京都大学大学院医学研究科,2004年 関西医科大学附属医科学研究所を経て,2009年より関西学院大学理工学部 教授.
研究テーマ:免疫細胞の動態制御の分子機構.
関心事:リンパ球の動くしくみ.

木梨 達雄(Tatsuo Kinashi)
関西医科大学附属生命医学研究所 教授.
研究室URL:http://www3.kmu.ac.jp/molgent/index.html

© 2011 片桐晃子・木梨達雄 Licensed under CC 表示 2.1 日本

要 約

文 献