チェックポイントタンパク質Rad9はリン酸化によりDNA損傷クロマチンから解離する
古谷 寛治
(国立遺伝学研究所系統生物研究センター 原核生物遺伝研究室)
email:古谷寛治
DOI: 10.7875/first.author.2011.001
DDK phosphorylates checkpoint clamp component Rad9 and promotes its release from damaged chromatin.
Kanji Furuya, Izumi Miyabe, Yasuhiro Tsutsui, Francesca Paderi, Naoko Kakusho, Hisao Masai, Hironori Niki, Antony M. Carr
Molecular Cell, 40, 606-618 (2010)
細胞がうけたDNA損傷はDNAチェックポイント機構を介して検出され,さまざまなDNA修復酵素により修復される.これまでに,チェックポイントタンパク質はDNA修復酵素にさきんじて未修復のDNA損傷部位へとリクルートされることがわかっていた.しかしながら,DNA損傷部位において検出の機構と修復の機構とがどのように共調しているのかは明らかでなかった.筆者らは,チェックポイントタンパク質Rad9がDNA損傷部位に直接に結合したのち,さまざまなキナーゼによって段階的にリン酸化をうけること,また,これらの一連のリン酸化によりRad9がDNA損傷部位から解離することで,DNA修復酵素へとその場所を明け渡しているというモデルを提唱した.
DNA損傷ストレスをうけた細胞は細胞周期の特定の時期でいったんその進行を停止し障害の回復するのを待つ.この停止の時期を細胞周期チェックポイントとよび,停止システム全体をDNAチェックポイント機構とよぶ.DNAチェックポイント機構に欠損をきたすと複製やDNA修復が完了しないまま分裂期に入るので不均等分配や遺伝情報の欠失が起こる.コアとなるチェックポイントタンパク質のほとんどは種をこえて保存されていて,種によって微妙な役割の差異や嗜好はあるものの大まかな役割は保存されている.また,DNAチェックポイント機構は複製やDNA修復の完了のみを監視しているのではない.酵母やヒトの遺伝病などの解析から,その中心となるATR-ATRIPキナーゼ複合体は停止した複製フォークの維持や回復に必要なことが報告されており,また,Rad9,Rad1,Hus1で形成されるPCNA様の9-1-1複合体は特定のDNA修復の促進にもかかわっていることが示されてきた.しかし,その分子機構についてはわかっていない部分も多い1).
よく知られているDNA損傷にDNA二本鎖切断がある.DNA二本鎖切断が生じると,まず,末端ヌクレアーゼによりDNA切断部位の5’末端が分解をうけ,1本鎖DNA結合タンパク質RPAがすばやくここに結合する.最後に,Rad52などの相同組換えタンパク質が集合し姉妹染色体をコピーしてギャップを埋めることでDNA修復が完了する.DNA修復酵素にさきんじて,チェックポイントタンパク質が未修復のDNA損傷部位の指標であるRPAにおおわれた1本鎖DNAに結合する2).なかでも,ATR-ATRIP複合体と9-1-1複合体は独立にDNA損傷部位を検出しDNAチェックポイント機構の活性化を促す.これらの複合体のサブユニットにはDNA損傷を認識するドメインが備わっている.9-1-1複合体はPCNA様の環状構造を利用してDNA損傷を認識するほか,そのサブユニットであるRad9,および,ATR-ATRIP複合体のサブユニットであるATRIPは1本鎖DNAに結合しているRPAに直接に結合することでDNA損傷部位の検出に寄与している.興味深いことに,1本鎖DNAに結合しているRPAはほぼすべてのDNA修復の過程においてみられる共通の中間構造体であり,DNA損傷の修復にかかわる多くのタンパク質がRPAを標的としてDNA損傷部位へと集合する.RPAのサブユニットであるRpa1のN末端にあるOB様モチーフには塩基性の“裂け目”構造があり,Rad9およびATRIPは保存された“RPA結合モチーフ”を介してそこに結合する3).RPA結合モチーフは酸性アミノ酸残基に富んでおり,相同組換え修復などに関与するさまざまなDNA修復タンパク質にも同様の配列がある.そのため,これら複数のタンパク質がRPAの近傍でうまく機能するための共調機構のあることが提唱されてきた4).
DNAチェックポイント機構の特徴は多くのリン酸化である.下流のタンパク質やチェックポイントタンパク質自体がリン酸化をうけることでチェックポイントシグナルの活性化および不活性化を促す.チェックポイントタンパク質のリン酸化による制御のうち,もっともよく理解されているのがRad9によるものである.Rad9はN末端側にPCNA様ドメインをもち,Rad1およびHus1と環状の複合体を形成する(図1a).C末端側は配列レベルでは保存されていないものの,機能的には種をこえて保存されている5,6).筆者らは,これまでにRad9の6か所のセリン残基あるいはスレオニン残基が段階的にリン酸化をうけることを見い出しており7),まずリン酸化の起こる順番と条件を検討することにした.Rad9は,1)Rad1およびHus1と3量体を形成し,2)Rad17複合体によりDNA損傷部位へとロードされ,3)最終的にChk1を活性化する.分裂酵母ではrad1遺伝子,rad17遺伝子,chk1遺伝子の破壊株を使えばこの1)~3)のステップを遺伝学的に分離することができる.これらの変異株を駆使して7つのリン酸化部位のうちSer319,Ser320,Thr321がDNAチェックポイント機構の最後の段階で起こることを見い出した.すなわち,これら3つの残基のリン酸化はRad9複合体がDNA損傷を検出して下流のチェックポイントキナーゼの活性化をひき起こしたのちに起こることがわかった(図1b).
つぎに興味をもったのは,何がSer319,Ser320,Thr321のキナーゼなのか,そして,リン酸化の役割は何かであった.さまざまなキナーゼの変異株を用いて検討した結果,DDKの変異株であるhsk1-89のみでこれら3つの残基のリン酸化の欠損がみられた.そのほか遺伝学的あるいは生化学的なデータからも,DDKがこれら3つの残基のリン酸化を行うことを示すことが示された.ちなみに,DDKは複製開始に必要なMCMヘリカーゼをリン酸化することでその機能を促進するなど,DNA複製の際にクロマチンでさまざまなタンパク質をリン酸化するキナーゼである.
リン酸化によって細胞では何が起こっているのであろうか? そのヒントは変異株の解析から得られた.分裂酵母は遺伝子操作が簡便に行え,野生型遺伝子から変異型遺伝子への変換も比較的簡単である.そこで,Ser319,Ser320,Thr321をすべてアラニン残基に置換したrad9変異株rad9-SST/AAAを作製した.このrad9-SST/AAA変異株はDNA損傷に対し感受性を示した.しかしながら,典型的なチェックポイント変異株にみられるようなチェックポイント停止の欠損は示さないことがわかった.野生型と同様に,ほぼ正常にDNA損傷に応答して細胞周期の進行を停止し,また,停止から回復した.その一方で,rad9-SST/AAA変異株ではDNA修復がとどこおっていて,DNA損傷がうまく修復されていないことがDNA修復酵素の蛍光標識実験からわかった.以上の実験より,rad9-SST/AAA変異株はチェックポイントの活性化は正常に起こるがそののちのDNA修復の過程に問題が生じるという,これまでチェックポイントタンパク質の変異株ではみられなかった興味深い表現型を示すことがわかった.
rad9-SST/AAA変異株のDNA損傷の修復における異常はどこからくるのであろうか.また,どういう分子機構によるのであろうか.そのヒントはクロマチン分画実験から得られた.分裂酵母の細胞壁を消化し,非イオン性の界面活性剤であるTriton-X100で透過処理を行ったのち,高速で遠心することでクロマチン画分と可溶性画分とに分画することができる.分画ののちRad9はどちらの画分にあるかを検定した.驚いたことに,リン酸化されたRad9はほとんど可溶性画分に分画されていた.一方,リン酸化していないRad9はクロマチン画分において増加するのが観察された.さきに述べたように,DDKによるRad9のリン酸化は9-1-1複合体がDNA損傷部位へロードされChk1が活性化したのちにしか起こらない.以上の観察から,Rad9のリン酸化はRad9のDNA損傷部位からの解離を促進しているものと考えた.また,これらの分子機構を検討するためin vitroでRad9とRPAとの結合をモニターする系をたちあげたところ,リン酸化により結合の弱まることを示唆する結果が得られた.in vivoでの実験からもDDKの大量発現がRad9とRPAとの結合を低下させることが見い出された.
一連の結果から,DDKによりリン酸化されたRad9は1本鎖DNAに結合したRPAとの結合を失いDNA損傷部位から解離するものと考えられた.DDKによるリン酸化はDNAチェックポイント機構の下流に位置するChk1に依存するため,チェックポイント停止が発動されてからRad9の解離が促進することを保障する機構があるものと考えられた.また,Rad9を含む9-1-1複合体がRPAから取り除かれることで,相同組換えタンパク質などRPAを標的としてリクルートされるタンパク質がDNA損傷部位へとアクセスできるようにされているものと考えた.複製,チェックポイント,DNA修復のそれぞれの機構のリン酸化による連携を提唱したおもしろいモデルだと考えている.しかしながら,9-1-1複合体の解離の分子レベルでの詳細など,まだあいまいな点も多い.おそらく,9-1-1複合体のDNA損傷部位への結合と解離の平衡が段階的なリン酸化により調節されているのだと考えている(図2).今後は,これらの作用機作を詳細に検討したい.
略歴:2000年 京都大学大学院理学研究科博士課程 修了,英国Sussex大学Genome Damage and Stability Centreを経て,2007年より国立遺伝学研究所 助教.
研究テーマ:DNAチェックポイントの分子機構.
© 2011 古谷 寛治 Licensed under CC 表示 2.1 日本
(国立遺伝学研究所系統生物研究センター 原核生物遺伝研究室)
email:古谷寛治
DOI: 10.7875/first.author.2011.001
DDK phosphorylates checkpoint clamp component Rad9 and promotes its release from damaged chromatin.
Kanji Furuya, Izumi Miyabe, Yasuhiro Tsutsui, Francesca Paderi, Naoko Kakusho, Hisao Masai, Hironori Niki, Antony M. Carr
Molecular Cell, 40, 606-618 (2010)
要 約
細胞がうけたDNA損傷はDNAチェックポイント機構を介して検出され,さまざまなDNA修復酵素により修復される.これまでに,チェックポイントタンパク質はDNA修復酵素にさきんじて未修復のDNA損傷部位へとリクルートされることがわかっていた.しかしながら,DNA損傷部位において検出の機構と修復の機構とがどのように共調しているのかは明らかでなかった.筆者らは,チェックポイントタンパク質Rad9がDNA損傷部位に直接に結合したのち,さまざまなキナーゼによって段階的にリン酸化をうけること,また,これらの一連のリン酸化によりRad9がDNA損傷部位から解離することで,DNA修復酵素へとその場所を明け渡しているというモデルを提唱した.
はじめに
DNA損傷ストレスをうけた細胞は細胞周期の特定の時期でいったんその進行を停止し障害の回復するのを待つ.この停止の時期を細胞周期チェックポイントとよび,停止システム全体をDNAチェックポイント機構とよぶ.DNAチェックポイント機構に欠損をきたすと複製やDNA修復が完了しないまま分裂期に入るので不均等分配や遺伝情報の欠失が起こる.コアとなるチェックポイントタンパク質のほとんどは種をこえて保存されていて,種によって微妙な役割の差異や嗜好はあるものの大まかな役割は保存されている.また,DNAチェックポイント機構は複製やDNA修復の完了のみを監視しているのではない.酵母やヒトの遺伝病などの解析から,その中心となるATR-ATRIPキナーゼ複合体は停止した複製フォークの維持や回復に必要なことが報告されており,また,Rad9,Rad1,Hus1で形成されるPCNA様の9-1-1複合体は特定のDNA修復の促進にもかかわっていることが示されてきた.しかし,その分子機構についてはわかっていない部分も多い1).
1.チェックポイントタンパク質は1本鎖DNA結合タンパク質に結合する
よく知られているDNA損傷にDNA二本鎖切断がある.DNA二本鎖切断が生じると,まず,末端ヌクレアーゼによりDNA切断部位の5’末端が分解をうけ,1本鎖DNA結合タンパク質RPAがすばやくここに結合する.最後に,Rad52などの相同組換えタンパク質が集合し姉妹染色体をコピーしてギャップを埋めることでDNA修復が完了する.DNA修復酵素にさきんじて,チェックポイントタンパク質が未修復のDNA損傷部位の指標であるRPAにおおわれた1本鎖DNAに結合する2).なかでも,ATR-ATRIP複合体と9-1-1複合体は独立にDNA損傷部位を検出しDNAチェックポイント機構の活性化を促す.これらの複合体のサブユニットにはDNA損傷を認識するドメインが備わっている.9-1-1複合体はPCNA様の環状構造を利用してDNA損傷を認識するほか,そのサブユニットであるRad9,および,ATR-ATRIP複合体のサブユニットであるATRIPは1本鎖DNAに結合しているRPAに直接に結合することでDNA損傷部位の検出に寄与している.興味深いことに,1本鎖DNAに結合しているRPAはほぼすべてのDNA修復の過程においてみられる共通の中間構造体であり,DNA損傷の修復にかかわる多くのタンパク質がRPAを標的としてDNA損傷部位へと集合する.RPAのサブユニットであるRpa1のN末端にあるOB様モチーフには塩基性の“裂け目”構造があり,Rad9およびATRIPは保存された“RPA結合モチーフ”を介してそこに結合する3).RPA結合モチーフは酸性アミノ酸残基に富んでおり,相同組換え修復などに関与するさまざまなDNA修復タンパク質にも同様の配列がある.そのため,これら複数のタンパク質がRPAの近傍でうまく機能するための共調機構のあることが提唱されてきた4).
2.Rad9のリン酸化はDNAチェックポイント機構の最終段階で起こる
DNAチェックポイント機構の特徴は多くのリン酸化である.下流のタンパク質やチェックポイントタンパク質自体がリン酸化をうけることでチェックポイントシグナルの活性化および不活性化を促す.チェックポイントタンパク質のリン酸化による制御のうち,もっともよく理解されているのがRad9によるものである.Rad9はN末端側にPCNA様ドメインをもち,Rad1およびHus1と環状の複合体を形成する(図1a).C末端側は配列レベルでは保存されていないものの,機能的には種をこえて保存されている5,6).筆者らは,これまでにRad9の6か所のセリン残基あるいはスレオニン残基が段階的にリン酸化をうけることを見い出しており7),まずリン酸化の起こる順番と条件を検討することにした.Rad9は,1)Rad1およびHus1と3量体を形成し,2)Rad17複合体によりDNA損傷部位へとロードされ,3)最終的にChk1を活性化する.分裂酵母ではrad1遺伝子,rad17遺伝子,chk1遺伝子の破壊株を使えばこの1)~3)のステップを遺伝学的に分離することができる.これらの変異株を駆使して7つのリン酸化部位のうちSer319,Ser320,Thr321がDNAチェックポイント機構の最後の段階で起こることを見い出した.すなわち,これら3つの残基のリン酸化はRad9複合体がDNA損傷を検出して下流のチェックポイントキナーゼの活性化をひき起こしたのちに起こることがわかった(図1b).
3.Rad9のリン酸化はDDKキナーゼによってひき起こされる
つぎに興味をもったのは,何がSer319,Ser320,Thr321のキナーゼなのか,そして,リン酸化の役割は何かであった.さまざまなキナーゼの変異株を用いて検討した結果,DDKの変異株であるhsk1-89のみでこれら3つの残基のリン酸化の欠損がみられた.そのほか遺伝学的あるいは生化学的なデータからも,DDKがこれら3つの残基のリン酸化を行うことを示すことが示された.ちなみに,DDKは複製開始に必要なMCMヘリカーゼをリン酸化することでその機能を促進するなど,DNA複製の際にクロマチンでさまざまなタンパク質をリン酸化するキナーゼである.
4.Rad9のリン酸化はDNA修復を促進する
リン酸化によって細胞では何が起こっているのであろうか? そのヒントは変異株の解析から得られた.分裂酵母は遺伝子操作が簡便に行え,野生型遺伝子から変異型遺伝子への変換も比較的簡単である.そこで,Ser319,Ser320,Thr321をすべてアラニン残基に置換したrad9変異株rad9-SST/AAAを作製した.このrad9-SST/AAA変異株はDNA損傷に対し感受性を示した.しかしながら,典型的なチェックポイント変異株にみられるようなチェックポイント停止の欠損は示さないことがわかった.野生型と同様に,ほぼ正常にDNA損傷に応答して細胞周期の進行を停止し,また,停止から回復した.その一方で,rad9-SST/AAA変異株ではDNA修復がとどこおっていて,DNA損傷がうまく修復されていないことがDNA修復酵素の蛍光標識実験からわかった.以上の実験より,rad9-SST/AAA変異株はチェックポイントの活性化は正常に起こるがそののちのDNA修復の過程に問題が生じるという,これまでチェックポイントタンパク質の変異株ではみられなかった興味深い表現型を示すことがわかった.
5.DDKによるリン酸化はRad9をDNA損傷部位から解離させるのに寄与する
rad9-SST/AAA変異株のDNA損傷の修復における異常はどこからくるのであろうか.また,どういう分子機構によるのであろうか.そのヒントはクロマチン分画実験から得られた.分裂酵母の細胞壁を消化し,非イオン性の界面活性剤であるTriton-X100で透過処理を行ったのち,高速で遠心することでクロマチン画分と可溶性画分とに分画することができる.分画ののちRad9はどちらの画分にあるかを検定した.驚いたことに,リン酸化されたRad9はほとんど可溶性画分に分画されていた.一方,リン酸化していないRad9はクロマチン画分において増加するのが観察された.さきに述べたように,DDKによるRad9のリン酸化は9-1-1複合体がDNA損傷部位へロードされChk1が活性化したのちにしか起こらない.以上の観察から,Rad9のリン酸化はRad9のDNA損傷部位からの解離を促進しているものと考えた.また,これらの分子機構を検討するためin vitroでRad9とRPAとの結合をモニターする系をたちあげたところ,リン酸化により結合の弱まることを示唆する結果が得られた.in vivoでの実験からもDDKの大量発現がRad9とRPAとの結合を低下させることが見い出された.
おわりに
一連の結果から,DDKによりリン酸化されたRad9は1本鎖DNAに結合したRPAとの結合を失いDNA損傷部位から解離するものと考えられた.DDKによるリン酸化はDNAチェックポイント機構の下流に位置するChk1に依存するため,チェックポイント停止が発動されてからRad9の解離が促進することを保障する機構があるものと考えられた.また,Rad9を含む9-1-1複合体がRPAから取り除かれることで,相同組換えタンパク質などRPAを標的としてリクルートされるタンパク質がDNA損傷部位へとアクセスできるようにされているものと考えた.複製,チェックポイント,DNA修復のそれぞれの機構のリン酸化による連携を提唱したおもしろいモデルだと考えている.しかしながら,9-1-1複合体の解離の分子レベルでの詳細など,まだあいまいな点も多い.おそらく,9-1-1複合体のDNA損傷部位への結合と解離の平衡が段階的なリン酸化により調節されているのだと考えている(図2).今後は,これらの作用機作を詳細に検討したい.
文 献
- Kai, M., Furuya, K., Paderi, F. et al.: Rad3-dependent phosphorylation of the checkpoint clamp regulates repair-pathway choice. Nat. Cell Biol., 9, 691-697 (2007)[PubMed]
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- Takeishi, Y., Ohashi, E., Ogawa, K. et al.: Casein kinase 2-dependent phosphorylation of human Rad9 mediates the interaction between human Rad9-Hus1-Rad1 complex and TopBP1. Genes Cells, 15, 761-771 (2010)[PubMed]
- Furuya, K., Poitelea, M., Guo, L. et al.: Chk1 activation requires Rad9 S/TQ-site phosphorylation to promote association with C-terminal BRCT domains of Rad4TOPBP1. Genes Dev., 18, 1154-1164 (2004)[PubMed]
著者プロフィール
略歴:2000年 京都大学大学院理学研究科博士課程 修了,英国Sussex大学Genome Damage and Stability Centreを経て,2007年より国立遺伝学研究所 助教.
研究テーマ:DNAチェックポイントの分子機構.
© 2011 古谷 寛治 Licensed under CC 表示 2.1 日本