インターロイキン18は多発性骨髄腫の炎症性の微小環境において中心的な役割をはたす
中村 恭平
(オーストラリアQIMR Berghofer Medical Research Institute,Immunology in Cancer and Infection Laboratory)
email:中村恭平
DOI: 10.7875/first.author.2018.036
Dysregulated IL-18 is a key driver of immunosuppression and a possible therapeutic target in the multiple myeloma microenvironment.
Kyohei Nakamura, Sahar Kassem, Alice Cleynen, Marie-Lorraine Chrétien, Camille Guillerey, Eva Maria Putz, Tobias Bald, Irmgard Förster, Slavica Vuckovic, Geoffrey R. Hill, Seth L. Masters, Marta Chesi, P. Leif Bergsagel, Hervé Avet-Loiseau, Ludovic Martinet, Mark J. Smyth
Cancer Cell, 33, 634-648.e5 (2018)
がん微小環境においては,組織の障害に起因する炎症,および,それによりひき起こされる免疫の抑制が協調的にがんの進展を促進する.この研究において,筆者らは,多発性骨髄腫における炎症および免疫抑制の機構を明らかにすることを目的とした.多発性骨髄腫マウスモデル,73名の多発性骨髄腫の患者におけるトランスクリプトーム解析,152名の多発性骨髄腫の患者における骨髄血漿のサイトカインの解析から,多発性骨髄腫の微小環境における重要なサイトカインとしてインターロイキン18が同定された.インターロイキン18は多発性骨髄腫の微小環境において高いレベルで産生され,ミエロイド由来サプレッサー細胞の機能の亢進を介して免疫を抑制する環境を形成し多発性骨髄腫の進展を促進した.多発性骨髄腫の診断のときの骨髄血漿におけるインターロイキン18の高値は独立した予後不良因子であり,また,前臨床試験においてインターロイキン18の阻害は生存期間を延長したことから,インターロイキン18は多発性骨髄腫のがん微小環境において炎症および免疫抑制をつかさどる中心的な役割をはたすと考えられた.
多発性骨髄腫は,腫瘍化した形質細胞の骨髄における増殖,モノクローナルな免疫グロブリンの産生,骨破壊をはじめとする多彩な臨床症状により特徴づけられる.近年,プロテアソーム阻害剤,免疫制御薬,種々の免疫療法により治療の選択肢は大幅に増えているものの,依然として多発性骨髄腫は難治性の血液腫瘍である.一般に,がん微小環境においては,組織の障害に起因する炎症,および,炎症によりひき起こされる免疫の抑制が相互にかかわり,がんを促進する環境を形成することから1),炎症と免疫抑制とのクロストークの理解が有効な治療薬の開発に不可欠である.多発性骨髄腫においては,古くから骨髄における炎症の役割が注目され,なかでも,インターロイキン6が多発性骨髄腫の生存および増殖をつかさどる中心的な炎症性サイトカインと考えられてきた.しかしながら,近年の臨床試験においてインターロイキン6の阻害抗体の効果はきわめてかぎられており2),多発性骨髄腫の炎症性の微小環境の深い理解が望まれている.この研究において,筆者らは,多発性骨髄腫のがん微小環境においてインターロイキン18が重要な役割をはたすことを明らかにした.
可移植性の骨髄腫細胞株であるVk12653細胞およびVK12598細胞を用いて,多発性骨髄腫の進展にかかわる炎症性サイトカインの同定を試みた.これらの骨髄腫細胞株は,同系のC57BL6マウスに接種すると骨髄において増殖しヒトの多発性骨髄腫の病態と類似した表現型をひき起こすことから,多発性骨髄腫に対する治療薬を予測する前臨床試験に用いられている3).まず,無菌性の炎症において中心的な役割をはたすインターロイキン1ファミリーのサイトカインに着目した.そのうち,インターロイキン1βは炎症を惹起する能力が高く,さまざまな炎症性の病態に関与する.一方で,インターロイキン18はNK細胞の活性化やインターフェロンγの産生など,抗腫瘍効果をもつサイトカインとして知られている4).そこで,インターロイキン1シグナルが多発性骨髄腫を促進するとの仮説をたてた.しかしながら,野生型のマウス,インターロイキン1受容体ノックアウトマウス,インターロイキン18ノックアウトマウスにVk12653細胞を接種したところ,インターロイキン1受容体ノックアウトマウスにおいては野生型のマウスと同じレベルの臨床症状が認められ,生存期間に有意差は認められなかった.ところが,予想に反して,インターロイキン18ノックアウトマウスは多発性骨髄腫の進展に対し強い抵抗性を示し,生存期間の有意な延長が認められた.独立して樹立された細胞株であるVk12598細胞の接種においても同様に,インターロイキン18ノックアウトマウスは多発性骨髄腫の進展に対し顕著な抵抗性を示した.なお,近年,インターロイキン18ノックアウトマウスは野生型のマウスとは異なる腸内細菌叢をもち,肥満など一部の表現型の原因となると報告された5).腸内細菌叢と多発性骨髄腫に対する抵抗性との関連を調べる目的で,野生型のマウスとインターロイキン18ノックアウトマウスとを同一のケージで飼育したのち骨髄腫細胞株を接種したが,それらのあいだで多発性骨髄腫の進展に対する抵抗性に変化は認められず,腸内細菌叢の違いが多発性骨髄腫に対する抵抗性に関与する可能性については否定的であった.以上の結果より,インターフェロンγの発現を誘導するインターロイキン18を欠損するマウスが,逆説的に,多発性骨髄腫に対し抵抗性を示すことが明らかにされ,インターロイキン18が多発性骨髄腫の進展において決定的に重要な役割をはたすことが示唆された.
インターロイキン1ファミリーのサイトカインの産生は,主として危険シグナルを認識し活性化するタンパク質複合体であるインフラマソームの活性化により制御される6).インフラマソームのなかでも,Nlrp3インフラマソームは生体におけるさまざまな危険シグナルを認識し多彩な炎症性の疾患に関与する.そこで,Nlrp3ノックアウトマウス,および,アダプタータンパク質であるAscのノックアウトマウスに骨髄腫細胞株を接種したところ,野生型のマウスと比較してわずかに多発性骨髄腫の進展が抑制されるのみで,インターロイキン18ノックアウトマウスのような多発性骨髄腫に対する強い抵抗性は示さなかった.このことから,インターロイキン18の主たる産生機構として,Nlrp3インフラマソーム以外の経路の存在が示唆された.近年,Nlrp1インフラマソームの活性化にAscは必須ではないこと,Nlrp1ノックアウトマウスはインターロイキン18ノックアウトマウスときわめて類似した表現型を示すことが報告された7,8).この報告をもとに,Nlrp1ノックアウトマウスに骨髄腫細胞株を接種したところ,インターロイキン18ノックアウトマウスと同等の長期の生存が認められ,Nlrp1がインターロイキン18の産生において主要な役割をはたすことが考えられた.くわえて,骨髄キメラマウスにおける骨髄腫細胞腫の接種により,血球系細胞および非血球系細胞においてNlrp1およびインターロイキン18が多発性骨髄腫の進展に重要であることがわかった.以上の結果から,主としてNlrp1インフラマソームを介したインターロイキン18の産生が多発性骨髄腫の進展に関与すると考えられた.
エフェクターリンパ球の役割を検証する目的で,インターロイキン18ノックアウトマウスあるいはNlrp1ノックアウトマウスにCD8陽性T細胞を除去する抗CD8抗体を投与したところ,生存期間が野生型のマウスと同じレベルにまで低下した.すなわち,CD8陽性T細胞がインターロイキン18ノックアウトマウスおよびNlrp1ノックアウトマウスにおける多発性骨髄腫に対する抵抗性に必須であった.多発性骨髄腫マウスモデルの骨髄においてインターロイキン18は増加していることから,インターロイキン18が骨髄において免疫を抑制する環境の形成に寄与し,T細胞の応答を負に制御するとの仮説をたてた.この仮説を検証する目的で,インターロイキン18の存在下のin vitroにおいて骨髄に由来するミエロイド系細胞を培養したところ,インターロイキン18のミエロイド系細胞の数に対する影響はごく軽度であったものの,インターロイキン18によりミエロイド系細胞においてアルギナーゼおよび誘導型NO合成酵素の活性が高まり,T細胞の応答を強く抑制する機能を獲得することがわかった.すなわち,インターロイキン18は高い免疫抑制能をもつミエロイド由来サプレッサー細胞の分化を誘導することがわかった.インターロイキン18による免疫抑制能の亢進は,単球系のミエロイド由来サプレッサー細胞および多形核細胞系のミエロイド由来サプレッサー細胞のいずれにおいても認められた.さらに,in vivoにおいて,組換えインターロイキン18の4週間の投与により,野生型のマウス,インターロイキン18ノックアウトマウス,Nlrp1ノックアウトマウスの生存期間の短縮が確認された.しかしながら,リンパ球を欠損する免疫不全マウスにおいてはインターロイキン18の投与は生存期間に影響をおよぼさなかったことから,インターロイキン18が主として免疫抑制をひき起こし,T細胞の応答を負に制御することにより多発性骨髄腫の進展を促進すると考えられた.
多発性骨髄腫マウスモデルにおいて得られた知見を確認するため,73名の多発性骨髄腫の未治療の患者において,CD138陽性の骨髄腫細胞を除いた細胞を用いてトランスクリプトームを解析した.その結果,グランザイムをはじめとする細胞障害性リンパ球に関連する遺伝子の発現と,ミエロイド由来サプレッサー細胞,とくに多形核細胞系のミエロイド由来サプレッサー細胞に関連する遺伝子の発現とのあいだに負の相関が認められた.さらに,多発性骨髄腫の患者は,細胞障害性リンパ球に関連する遺伝子を高く発現しミエロイド由来サプレッサー細胞に関連する遺伝子を低く発現するグループと,細胞障害性リンパ球に関連する遺伝子を低く発現しミエロイド由来サプレッサー細胞に関連する遺伝子を高く発現するグループとに分けられたことから,ミエロイド由来サプレッサー細胞がT細胞の応答を制御することが示唆された.実際に,81名の多発性骨髄腫の患者の解析により,多形核細胞系のミエロイド由来サプレッサー細胞は骨髄における主要な免疫抑制細胞であり,T細胞の増殖およびサイトカイン応答を強く抑制することが確認された.
トランスクリプトームの解析をもとに,多発性骨髄腫の患者においてインターロイキン18遺伝子の発現と308の遺伝子の発現とのあいだに強い相関が認められた.エンリッチメント解析の結果,好中球に関連する遺伝子の発現および多形核細胞系のミエロイド由来サプレッサー細胞に関連する遺伝子の発現とのあいだに有意な相関が認められた.さらに,マウスと同様に,インターロイキン18はin vitroにおいて多発性骨髄腫の患者に由来する多形核細胞系のミエロイド由来サプレッサー細胞の免疫抑制能を亢進することがわかった.以上より,インターロイキン18は多発性骨髄腫における主要な免疫抑制細胞である多形核細胞系のミエロイド由来サプレッサー細胞の機能を高め,骨髄における免疫を抑制する環境の形成に寄与することがわかった.
骨髄においてインターロイキン18が予後におよぼす影響を調べる目的で,152名の多発性骨髄腫の患者において,診断のときの骨髄血漿におけるインターロイキン18の値を後方視的に検討した.中央値を基準として高値の患者および低値の患者の予後を調べたところ,高値の患者は低値の患者と比較して有意に予後不良であった.診断ののちにボルテゾミブ,デキサメタゾン,メルファランによる同一の治療をうけた93名にかぎって予後を評価した場合においても,高値の患者は有意に予後不良であった.インターロイキン18の値と国際病期分類にもとづいた病期,年齢,高リスク染色体異常とのあいだに相関は認められず,多変量解析の結果からもインターロイキン18の高値は独立した予後不良因子であることがわかった.なお,多形核細胞系細胞の分化に関与するインターロイキン1β,インターロイキン6,血管内皮増殖因子,顆粒球単球コロニー刺激因子,マクロファージコロニー刺激因子に関しても予後との関連を調べたが,高値と低値とで生存に差は認めらなかった.以上のことから,骨髄血漿におけるインターロイキン18の値から多発性骨髄腫の予後を独立して予測することが可能であると考えられた.
インターロイキン18の阻害の効果を検討する目的で,中和抗体によりインターロイキン18を阻害したところ,4週間の長期的な投与によりマウスの生存期間の延長が認められた.2週間の短期的な投与では有意な効果は認められなかったが,標準的な多発性骨髄腫の治療薬であるプロテアソーム阻害剤ボルテゾミブとの併用により有意な生存期間の延長の効果が認められた.ボルテゾミブとの併用により末梢血におけるCD8陽性細胞と多形核細胞系細胞との比の上昇が認められ,また,抗CD8抗体の投与により生存期間の延長の効果が認められなくなったことから,ボルテゾミブとの併用はCD8陽性T細胞に依存的に抗腫瘍効果を発揮すると考えられた.近年,ボルテゾミブをはじめとする多発性骨髄腫の治療薬は,細胞を直接的に傷害する効果のみならず,腫瘍に対する免疫応答を惹起しやすい細胞死をひき起こすことにより抗腫瘍効果を発揮すると考えられている9).すなわち,この前臨床試験の結果から,腫瘍に対する免疫応答を惹起しやすい細胞死をひき起こす多発性骨髄腫の治療薬と抗インターロイキン18抗体による免疫抑制の制御の併用は有望な治療選択肢となる可能性が示唆された.
この研究により,1)多発性骨髄腫において多形核細胞系のミエロイド由来サプレッサー細胞はT細胞の応答を制御する主要な免疫抑制細胞であること,2)骨髄の微小環境において産生されるインターロイキン18は多形核細胞系細胞の免疫抑制能を高めること,3)骨髄血漿におけるインターロイキン18の高値は独立した予後不良因子であること,が明らかにされ,インターロイキン18が多発性骨髄腫のがん微小環境において炎症および免疫抑制をつかさどる重要なサイトカインであることがわかった(図1).前臨床試験の結果からも,インターロイキン18の阻害は多発性骨髄腫において免疫を抑制する環境を制御し,多発性骨髄腫の治療薬の効果を高める可能性が示唆された.プロテアソーム阻害剤をはじめとする多発性骨髄腫の治療薬の作用機序として,免疫応答を介した機序の重要性が報告されている.さらに近年では,抗CD38抗体療法およびキメラ抗原受容体発現T細胞療法が高い臨床効果を示しており,免疫療法が多発性骨髄腫の治療の有力な選択肢として期待されている.この研究において得られた知見は,免疫療法を軸とした多発性骨髄腫の治療に重要な示唆をあたえるものと考えられる.
略歴:2014年 東北大学大学院医学系研究科博士課程 修了,同年 同 特任助手,2015年 オーストラリアQIMR Berghofer Medical Research Institute博士研究員を経て,2018年より同 上級研究員.
研究テーマ:造血器腫瘍における腫瘍免疫および免疫病理.
抱負:造血器腫瘍のトランスレーショナルリサーチを展開していきたい.
© 2018 中村 恭平 Licensed under CC 表示 2.1 日本
(オーストラリアQIMR Berghofer Medical Research Institute,Immunology in Cancer and Infection Laboratory)
email:中村恭平
DOI: 10.7875/first.author.2018.036
Dysregulated IL-18 is a key driver of immunosuppression and a possible therapeutic target in the multiple myeloma microenvironment.
Kyohei Nakamura, Sahar Kassem, Alice Cleynen, Marie-Lorraine Chrétien, Camille Guillerey, Eva Maria Putz, Tobias Bald, Irmgard Förster, Slavica Vuckovic, Geoffrey R. Hill, Seth L. Masters, Marta Chesi, P. Leif Bergsagel, Hervé Avet-Loiseau, Ludovic Martinet, Mark J. Smyth
Cancer Cell, 33, 634-648.e5 (2018)
要 約
がん微小環境においては,組織の障害に起因する炎症,および,それによりひき起こされる免疫の抑制が協調的にがんの進展を促進する.この研究において,筆者らは,多発性骨髄腫における炎症および免疫抑制の機構を明らかにすることを目的とした.多発性骨髄腫マウスモデル,73名の多発性骨髄腫の患者におけるトランスクリプトーム解析,152名の多発性骨髄腫の患者における骨髄血漿のサイトカインの解析から,多発性骨髄腫の微小環境における重要なサイトカインとしてインターロイキン18が同定された.インターロイキン18は多発性骨髄腫の微小環境において高いレベルで産生され,ミエロイド由来サプレッサー細胞の機能の亢進を介して免疫を抑制する環境を形成し多発性骨髄腫の進展を促進した.多発性骨髄腫の診断のときの骨髄血漿におけるインターロイキン18の高値は独立した予後不良因子であり,また,前臨床試験においてインターロイキン18の阻害は生存期間を延長したことから,インターロイキン18は多発性骨髄腫のがん微小環境において炎症および免疫抑制をつかさどる中心的な役割をはたすと考えられた.
はじめに
多発性骨髄腫は,腫瘍化した形質細胞の骨髄における増殖,モノクローナルな免疫グロブリンの産生,骨破壊をはじめとする多彩な臨床症状により特徴づけられる.近年,プロテアソーム阻害剤,免疫制御薬,種々の免疫療法により治療の選択肢は大幅に増えているものの,依然として多発性骨髄腫は難治性の血液腫瘍である.一般に,がん微小環境においては,組織の障害に起因する炎症,および,炎症によりひき起こされる免疫の抑制が相互にかかわり,がんを促進する環境を形成することから1),炎症と免疫抑制とのクロストークの理解が有効な治療薬の開発に不可欠である.多発性骨髄腫においては,古くから骨髄における炎症の役割が注目され,なかでも,インターロイキン6が多発性骨髄腫の生存および増殖をつかさどる中心的な炎症性サイトカインと考えられてきた.しかしながら,近年の臨床試験においてインターロイキン6の阻害抗体の効果はきわめてかぎられており2),多発性骨髄腫の炎症性の微小環境の深い理解が望まれている.この研究において,筆者らは,多発性骨髄腫のがん微小環境においてインターロイキン18が重要な役割をはたすことを明らかにした.
1.インターロイキン18は多発性骨髄腫の進展において重要である
可移植性の骨髄腫細胞株であるVk12653細胞およびVK12598細胞を用いて,多発性骨髄腫の進展にかかわる炎症性サイトカインの同定を試みた.これらの骨髄腫細胞株は,同系のC57BL6マウスに接種すると骨髄において増殖しヒトの多発性骨髄腫の病態と類似した表現型をひき起こすことから,多発性骨髄腫に対する治療薬を予測する前臨床試験に用いられている3).まず,無菌性の炎症において中心的な役割をはたすインターロイキン1ファミリーのサイトカインに着目した.そのうち,インターロイキン1βは炎症を惹起する能力が高く,さまざまな炎症性の病態に関与する.一方で,インターロイキン18はNK細胞の活性化やインターフェロンγの産生など,抗腫瘍効果をもつサイトカインとして知られている4).そこで,インターロイキン1シグナルが多発性骨髄腫を促進するとの仮説をたてた.しかしながら,野生型のマウス,インターロイキン1受容体ノックアウトマウス,インターロイキン18ノックアウトマウスにVk12653細胞を接種したところ,インターロイキン1受容体ノックアウトマウスにおいては野生型のマウスと同じレベルの臨床症状が認められ,生存期間に有意差は認められなかった.ところが,予想に反して,インターロイキン18ノックアウトマウスは多発性骨髄腫の進展に対し強い抵抗性を示し,生存期間の有意な延長が認められた.独立して樹立された細胞株であるVk12598細胞の接種においても同様に,インターロイキン18ノックアウトマウスは多発性骨髄腫の進展に対し顕著な抵抗性を示した.なお,近年,インターロイキン18ノックアウトマウスは野生型のマウスとは異なる腸内細菌叢をもち,肥満など一部の表現型の原因となると報告された5).腸内細菌叢と多発性骨髄腫に対する抵抗性との関連を調べる目的で,野生型のマウスとインターロイキン18ノックアウトマウスとを同一のケージで飼育したのち骨髄腫細胞株を接種したが,それらのあいだで多発性骨髄腫の進展に対する抵抗性に変化は認められず,腸内細菌叢の違いが多発性骨髄腫に対する抵抗性に関与する可能性については否定的であった.以上の結果より,インターフェロンγの発現を誘導するインターロイキン18を欠損するマウスが,逆説的に,多発性骨髄腫に対し抵抗性を示すことが明らかにされ,インターロイキン18が多発性骨髄腫の進展において決定的に重要な役割をはたすことが示唆された.
2.Nlrp1インフラマソームは多発性骨髄腫の進展において重要である
インターロイキン1ファミリーのサイトカインの産生は,主として危険シグナルを認識し活性化するタンパク質複合体であるインフラマソームの活性化により制御される6).インフラマソームのなかでも,Nlrp3インフラマソームは生体におけるさまざまな危険シグナルを認識し多彩な炎症性の疾患に関与する.そこで,Nlrp3ノックアウトマウス,および,アダプタータンパク質であるAscのノックアウトマウスに骨髄腫細胞株を接種したところ,野生型のマウスと比較してわずかに多発性骨髄腫の進展が抑制されるのみで,インターロイキン18ノックアウトマウスのような多発性骨髄腫に対する強い抵抗性は示さなかった.このことから,インターロイキン18の主たる産生機構として,Nlrp3インフラマソーム以外の経路の存在が示唆された.近年,Nlrp1インフラマソームの活性化にAscは必須ではないこと,Nlrp1ノックアウトマウスはインターロイキン18ノックアウトマウスときわめて類似した表現型を示すことが報告された7,8).この報告をもとに,Nlrp1ノックアウトマウスに骨髄腫細胞株を接種したところ,インターロイキン18ノックアウトマウスと同等の長期の生存が認められ,Nlrp1がインターロイキン18の産生において主要な役割をはたすことが考えられた.くわえて,骨髄キメラマウスにおける骨髄腫細胞腫の接種により,血球系細胞および非血球系細胞においてNlrp1およびインターロイキン18が多発性骨髄腫の進展に重要であることがわかった.以上の結果から,主としてNlrp1インフラマソームを介したインターロイキン18の産生が多発性骨髄腫の進展に関与すると考えられた.
3.インターロイキン18はミエロイド由来サプレッサー細胞の機能を高め骨髄において免疫を抑制する環境を形成する
エフェクターリンパ球の役割を検証する目的で,インターロイキン18ノックアウトマウスあるいはNlrp1ノックアウトマウスにCD8陽性T細胞を除去する抗CD8抗体を投与したところ,生存期間が野生型のマウスと同じレベルにまで低下した.すなわち,CD8陽性T細胞がインターロイキン18ノックアウトマウスおよびNlrp1ノックアウトマウスにおける多発性骨髄腫に対する抵抗性に必須であった.多発性骨髄腫マウスモデルの骨髄においてインターロイキン18は増加していることから,インターロイキン18が骨髄において免疫を抑制する環境の形成に寄与し,T細胞の応答を負に制御するとの仮説をたてた.この仮説を検証する目的で,インターロイキン18の存在下のin vitroにおいて骨髄に由来するミエロイド系細胞を培養したところ,インターロイキン18のミエロイド系細胞の数に対する影響はごく軽度であったものの,インターロイキン18によりミエロイド系細胞においてアルギナーゼおよび誘導型NO合成酵素の活性が高まり,T細胞の応答を強く抑制する機能を獲得することがわかった.すなわち,インターロイキン18は高い免疫抑制能をもつミエロイド由来サプレッサー細胞の分化を誘導することがわかった.インターロイキン18による免疫抑制能の亢進は,単球系のミエロイド由来サプレッサー細胞および多形核細胞系のミエロイド由来サプレッサー細胞のいずれにおいても認められた.さらに,in vivoにおいて,組換えインターロイキン18の4週間の投与により,野生型のマウス,インターロイキン18ノックアウトマウス,Nlrp1ノックアウトマウスの生存期間の短縮が確認された.しかしながら,リンパ球を欠損する免疫不全マウスにおいてはインターロイキン18の投与は生存期間に影響をおよぼさなかったことから,インターロイキン18が主として免疫抑制をひき起こし,T細胞の応答を負に制御することにより多発性骨髄腫の進展を促進すると考えられた.
多発性骨髄腫マウスモデルにおいて得られた知見を確認するため,73名の多発性骨髄腫の未治療の患者において,CD138陽性の骨髄腫細胞を除いた細胞を用いてトランスクリプトームを解析した.その結果,グランザイムをはじめとする細胞障害性リンパ球に関連する遺伝子の発現と,ミエロイド由来サプレッサー細胞,とくに多形核細胞系のミエロイド由来サプレッサー細胞に関連する遺伝子の発現とのあいだに負の相関が認められた.さらに,多発性骨髄腫の患者は,細胞障害性リンパ球に関連する遺伝子を高く発現しミエロイド由来サプレッサー細胞に関連する遺伝子を低く発現するグループと,細胞障害性リンパ球に関連する遺伝子を低く発現しミエロイド由来サプレッサー細胞に関連する遺伝子を高く発現するグループとに分けられたことから,ミエロイド由来サプレッサー細胞がT細胞の応答を制御することが示唆された.実際に,81名の多発性骨髄腫の患者の解析により,多形核細胞系のミエロイド由来サプレッサー細胞は骨髄における主要な免疫抑制細胞であり,T細胞の増殖およびサイトカイン応答を強く抑制することが確認された.
トランスクリプトームの解析をもとに,多発性骨髄腫の患者においてインターロイキン18遺伝子の発現と308の遺伝子の発現とのあいだに強い相関が認められた.エンリッチメント解析の結果,好中球に関連する遺伝子の発現および多形核細胞系のミエロイド由来サプレッサー細胞に関連する遺伝子の発現とのあいだに有意な相関が認められた.さらに,マウスと同様に,インターロイキン18はin vitroにおいて多発性骨髄腫の患者に由来する多形核細胞系のミエロイド由来サプレッサー細胞の免疫抑制能を亢進することがわかった.以上より,インターロイキン18は多発性骨髄腫における主要な免疫抑制細胞である多形核細胞系のミエロイド由来サプレッサー細胞の機能を高め,骨髄における免疫を抑制する環境の形成に寄与することがわかった.
4.骨髄血漿におけるインターロイキン18の高値は独立した予後不良因子である
骨髄においてインターロイキン18が予後におよぼす影響を調べる目的で,152名の多発性骨髄腫の患者において,診断のときの骨髄血漿におけるインターロイキン18の値を後方視的に検討した.中央値を基準として高値の患者および低値の患者の予後を調べたところ,高値の患者は低値の患者と比較して有意に予後不良であった.診断ののちにボルテゾミブ,デキサメタゾン,メルファランによる同一の治療をうけた93名にかぎって予後を評価した場合においても,高値の患者は有意に予後不良であった.インターロイキン18の値と国際病期分類にもとづいた病期,年齢,高リスク染色体異常とのあいだに相関は認められず,多変量解析の結果からもインターロイキン18の高値は独立した予後不良因子であることがわかった.なお,多形核細胞系細胞の分化に関与するインターロイキン1β,インターロイキン6,血管内皮増殖因子,顆粒球単球コロニー刺激因子,マクロファージコロニー刺激因子に関しても予後との関連を調べたが,高値と低値とで生存に差は認めらなかった.以上のことから,骨髄血漿におけるインターロイキン18の値から多発性骨髄腫の予後を独立して予測することが可能であると考えられた.
5.インターロイキン18は多発性骨髄腫の治療の標的となりうる
インターロイキン18の阻害の効果を検討する目的で,中和抗体によりインターロイキン18を阻害したところ,4週間の長期的な投与によりマウスの生存期間の延長が認められた.2週間の短期的な投与では有意な効果は認められなかったが,標準的な多発性骨髄腫の治療薬であるプロテアソーム阻害剤ボルテゾミブとの併用により有意な生存期間の延長の効果が認められた.ボルテゾミブとの併用により末梢血におけるCD8陽性細胞と多形核細胞系細胞との比の上昇が認められ,また,抗CD8抗体の投与により生存期間の延長の効果が認められなくなったことから,ボルテゾミブとの併用はCD8陽性T細胞に依存的に抗腫瘍効果を発揮すると考えられた.近年,ボルテゾミブをはじめとする多発性骨髄腫の治療薬は,細胞を直接的に傷害する効果のみならず,腫瘍に対する免疫応答を惹起しやすい細胞死をひき起こすことにより抗腫瘍効果を発揮すると考えられている9).すなわち,この前臨床試験の結果から,腫瘍に対する免疫応答を惹起しやすい細胞死をひき起こす多発性骨髄腫の治療薬と抗インターロイキン18抗体による免疫抑制の制御の併用は有望な治療選択肢となる可能性が示唆された.
おわりに
この研究により,1)多発性骨髄腫において多形核細胞系のミエロイド由来サプレッサー細胞はT細胞の応答を制御する主要な免疫抑制細胞であること,2)骨髄の微小環境において産生されるインターロイキン18は多形核細胞系細胞の免疫抑制能を高めること,3)骨髄血漿におけるインターロイキン18の高値は独立した予後不良因子であること,が明らかにされ,インターロイキン18が多発性骨髄腫のがん微小環境において炎症および免疫抑制をつかさどる重要なサイトカインであることがわかった(図1).前臨床試験の結果からも,インターロイキン18の阻害は多発性骨髄腫において免疫を抑制する環境を制御し,多発性骨髄腫の治療薬の効果を高める可能性が示唆された.プロテアソーム阻害剤をはじめとする多発性骨髄腫の治療薬の作用機序として,免疫応答を介した機序の重要性が報告されている.さらに近年では,抗CD38抗体療法およびキメラ抗原受容体発現T細胞療法が高い臨床効果を示しており,免疫療法が多発性骨髄腫の治療の有力な選択肢として期待されている.この研究において得られた知見は,免疫療法を軸とした多発性骨髄腫の治療に重要な示唆をあたえるものと考えられる.
文 献
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著者プロフィール
略歴:2014年 東北大学大学院医学系研究科博士課程 修了,同年 同 特任助手,2015年 オーストラリアQIMR Berghofer Medical Research Institute博士研究員を経て,2018年より同 上級研究員.
研究テーマ:造血器腫瘍における腫瘍免疫および免疫病理.
抱負:造血器腫瘍のトランスレーショナルリサーチを展開していきたい.
© 2018 中村 恭平 Licensed under CC 表示 2.1 日本