ライフサイエンス新着論文レビュー

大規模なゲノムワイド関連解析による58項目の臨床検査値に影響する遺伝的な背景の解明

金井仁弘1・岡田随象2・鎌谷洋一郎1
1理化学研究所統合生命医科学研究センター 統計解析研究チーム,2大阪大学大学院医学系研究科 遺伝統計学)
email:岡田随象鎌谷洋一郎
DOI: 10.7875/first.author.2018.025

Genetic analysis of quantitative traits in the Japanese population links cell types to complex human diseases.
Masahiro Kanai, Masato Akiyama, Atsushi Takahashi, Nana Matoba, Yukihide Momozawa, Masashi Ikeda, Nakao Iwata, Shiro Ikegawa, Makoto Hirata, Koichi Matsuda, Michiaki Kubo, Yukinori Okada, Yoichiro Kamatani
Nature Genetics, 50, 390-400 (2018)




要 約


 医療機関において日々実施される臨床検査の結果は,検査時の健康状態だけでなく,個人の遺伝的な背景にも影響されることが知られており,その遺伝的な背景をつうじて疾患への罹患性や病態の解明につながることが期待されている.日本人の集団については,筆者らが2010年に,約1万5千人を対象にしたゲノムワイド関連解析について報告したが,より大規模な解析の実施が望まれていた.この研究において,筆者らは,バイオバンク・ジャパンにより集められた日本人の集団16万人の遺伝情報および58項目の臨床検査値を用いて大規模なゲノムワイド関連解析を実施し,臨床検査値に影響をおよぼす1407カ所の遺伝的変異を同定した.そのうち679カ所は新規のものであった.さらに,32の疾病のゲノムワイド関連解析の結果とあわせ,220種の細胞あるいは組織に特異的なエピゲノム情報を統合した分野横断的なオミクス解析を実施し,複数の臨床検査値が生活習慣病や自己免疫疾患などと共通する遺伝的な背景を示すことや,同一の関連する細胞あるいは組織をもつことが明らかにされた.

はじめに


 ゲノムワイド関連解析(genome-wide association study:GWAS)はヒトの形質に感受性をもつ遺伝子座を網羅的に同定する代表的な手法のひとつである.ヒトのゲノム全体に存在する数百万から数千万の1塩基多型を対象として,その遺伝子型と形質との関連を遺伝統計解析により評価する.2002年に理化学研究所が世界にさきがけて報告して以来1),数百にのぼる形質に対しのべ5万以上の関連遺伝子座が同定されている2)
 ヒトの数ある形質のうち,臨床検査値はもっともさかんに研究されているもののひとつである.医療機関において日々実施される臨床検査の結果は,検査時の健康状態だけでなく,個人の遺伝的な背景にも影響されることが知られており,その遺伝的な背景の解明をつうじて,疾患への罹患性や病態の解明につながることが期待されている.今日まで,臨床検査値に関する多くのゲノムワイド関連解析について報告されてきたが,その大半は欧米人の集団を中心とした研究であった.日本人の集団に対しては,筆者らが2010年に,約1万5千人を対象にしたゲノムワイド関連解析について報告したが3),より大規模な解析の実施が望まれていた.
 また近年,数多くのゲノムワイド関連解析の結果を互いに比較したり4),複数の細胞あるいは組織から得られたエピゲノム情報を統合した分野横断的なオミクス解析を実施したりすることにより5),形質どうしの遺伝的な相関関係や感受性遺伝子座の細胞や組織の特異性を定量することが可能になった.2017年に筆者らは,肥満にかかわる疾患や細胞あるいは組織の同定に成功しており6)新着論文レビュー でも掲載),より広範な臨床情報に対し包括的な解析の実施が望まれていた.

1.58項目の臨床検査値を用いたゲノムワイド関連解析


 日本人の集団における臨床検査値の遺伝的な背景について包括的に解明するため,バイオバンク・ジャパンにより集められた日本人の集団16万人の遺伝情報および58項目の臨床検査値を用いて大規模なゲノムワイド関連解析を実施した.58項目の臨床検査値は,採血による血液学的な検査(血球数など13項目),生化学検査(血糖・脂質関連,血清タンパク質,腎機能,電解質,肝機能など31項目),生理機能検査(血圧および心エコーなど14項目)から構成された.ヒトのゲノムの全体をカバーする約610万カ所の遺伝的変異を網羅的に解析した結果,これらの臨床検査値に影響をおよぼす1407カ所の遺伝的変異が同定され,そのうち679カ所は新規のものであった.
 同定された遺伝的変異のアレル頻度を1000 Genomes Projectにおける欧米人の集団および東アジア人の集団とのあいだで比較したところ,全体としてはおおむね共通していた.一方,新規に同定された遺伝的変異にしぼって解析してみると,60カ所の遺伝的変異が東アジア人の集団において広く共有されていたのに対し,欧米人の集団においては希少であった.とくに,うち15の領域における変異は東アジア人の集団においては高い頻度で共有されていた一方,欧米人の集団には存在しなかった.これらの事実から,非欧米人の集団においてゲノムワイド関連解析を実施する意義が明確にされただけでなく,同定された遺伝的変異の一部は進化的な選択圧といった人種に特異的な影響をうけてきたことが示唆された.

2.同定された感受性領域の多面的な作用


 同定された遺伝的変異と複数の臨床検査値との関係について明らかにするため,多面的な作用について検討した.多面的な作用とは,共通の遺伝的変異が複数の形質に影響をおよぼす現象のことであり,複数の形質のあいだの遺伝的な背景の共有関係を解明するうえで重要である7).同定された感受性領域のなかから複数の臨床検査値に影響をおよぼす領域について調べたところ,およそ半数が多面的な作用を示すことが明らかにされた.さらに,うち88の領域は複数の臨床検査値のカテゴリー(脂質と肝機能など)と関連を示し,異なる生物学的な経路に対し多面的に作用するなどして複数の臨床検査値に影響をおよぼす遺伝的変異の存在が示唆された.
 とくにALDH2遺伝子の変異は最多の形質との関連を示し,7つの臨床検査値のカテゴリー(血糖・脂質関連,血清タンパク質,腎機能,電解質,肝機能,血球数,血圧)の21の臨床検査値に影響をおよぼすことが明らかにされた.ALDH2はエチルアルコールの代謝により生じるアセトアルデヒドを酢酸に分解する代謝酵素のひとつであり,東アジア人の集団に特異的にその活性が弱い遺伝子多型が存在することが知られている.実際に,ALDH2遺伝子の変異がもっとも強い関連を示した形質は,アルコール性肝障害などの診断に広く活用される肝機能の指標のひとつであるγ-グルタミルトランスフェラーゼであった.

3.32の疾病との遺伝的な相関


 多面的な作用の解析は,個々の遺伝的変異の影響が形質のあいだでどのように共有されているのかを明らかにする一方,ゲノムの全体における形質のあいだの遺伝的な相関(原因変異の効果量の相関)を推定することはできない.そこで,二変量LDスコア回帰法を用いて4),多因子遺伝モデルのもとで遺伝的な相関解析を実施した.日本人の集団に対しバイオバンク・ジャパンを中心に別途実施された32の疾病(生活習慣病,自己免疫疾患,悪性腫瘍,精神神経疾患,骨関節疾患)におけるゲノムワイド関連解析の結果を,58項目の臨床検査値のゲノムワイド関連解析の結果とあわせたうえで,疾患あるいは臨床検査値の組合せにおける形質のあいだの遺伝的な相関を網羅的に推定した.その結果,270組の統計的に有意な遺伝的な相関関係が同定された.同定された遺伝的な相関の多くはこれまでの疫学調査において指摘されていたものであり,複数の臨床検査値と疾患が実際に遺伝的な背景を共有することが明確にされた.
 臨床検査値のあいだでは,肥満の指標のひとつであるBMI(body mass index)が最多の7つの臨床検査値のカテゴリー(血糖・脂質関連,血清タンパク質,腎機能,肝機能,血球数,血圧,心エコー)にまたがる22の臨床検査値と遺伝的な相関を示した.肥満は多くの疾患の危険因子として知られており6),複数の臨床検査値と共通する遺伝的な背景の存在が示唆された.また,白血球数と肝機能の指標のひとつである総ビリルビンとは疫学調査の結果から負の相関を示すことが知られていたが,両者の遺伝的な背景の共有関係については解明されていなかった.今回,疫学調査と一致する負の遺伝的な相関が見い出され,ビリルビンの抗炎症作用仮説8) をはじめて遺伝学的に支持するものとなった.
 疾患と臨床検査値のあいだでは,生活習慣病(2型糖尿病や心血管障害)との遺伝的な相関が多く同定された.血圧や脂質マーカー(中性脂肪やコレステロール値)といった遺伝学的にも既知の臨床検査値との相関にくわえ,虚血性脳卒中と尿酸値との正の相関や,心筋梗塞とアルブミン/グロブリン比との負の相関など,疫学調査で示唆されていた生活習慣病と臨床検査値とのあいだに遺伝的な相関のあることが示された.さらに,同定された68組の疾患と臨床検査値とのあいだの遺伝的な相関についてメンデル無作為化解析により因果関係を推定したところ,うち24組に統計的に有意な因果関係が認められた.
 得られた疾患あるいは臨床検査値の組合せにおける遺伝的な相関関係をもとに,形質のあいだの遺伝的な相関ネットワークを構築した.遺伝的な相関の強さを距離としたネットワークは多数の疾患とそのバイオマーカーの集積を明確に示し,ゲノム解析は事前の生物学的な知識を必要とせずに形質のあいだの複雑な関係を遺伝的な背景の共有をつうじて解明できることが明らかにされた.

4.エピゲノム情報との統合による細胞あるいは組織の特異性の解析


 疾患や臨床検査値に関連する細胞や組織を同定することにより,原因となる変異の正確なマッピングに役だつだけでなく,有力な治療の標的の同定や,最終的には疾患の病態の完全な解明へとつながることが期待される.そこで,Roadmap Epigenomicsプロジェクトによりヒトの身体のさまざまな部位から得られた細胞あるいは組織におけるエピゲノム情報を用いて,臨床検査値および疾患のゲノムワイド関連解析の結果と分野横断的に統合するオミクス解析を実施した.具体的には,層別化LDスコア回帰法を用いて5),それぞれの細胞あるいは組織において得られたヒストン修飾領域における遺伝率の集積を定量し,臨床検査値および疾患のおのおのの細胞あるいは組織における特異性を推定した.
 細胞あるいは組織を10のおおまかなカテゴリー(内分泌細胞,心血管細胞,骨・結合組織,免疫細胞,肝臓組織,消化管組織,筋骨格組織,中枢神経系,そのほかの組織)に分類したうえで,臨床検査値および疾患のゲノムワイド関連解析の結果と関連するカテゴリーの同定を試みた.その結果,身長についてのゲノムワイド関連解析の結果における骨・結合組織との関連,腎機能の指標についてのゲノムワイド関連解析の結果における腎臓組織との関連,肝機能の指標についてのゲノムワイド関連解析の結果における肝臓組織との関連など,臨床検査値や疾患の生理学的な意義に合致した細胞あるいは組織における関連が確認された.
 さらに,220種類の細胞あるいは組織に細分化したうえで,臨床検査値および疾患のゲノムワイド関連解析の結果と関連する細胞あるいは組織の同定を試みた.その結果,50の臨床検査値および疾患に対し計384の統計的に有意な細胞あるいは組織の特異性が同定された.そこで,臨床検査値,疾患,細胞,組織から構成される包括的な細胞あるいは組織の特異性のネットワークを構築したところ,その多くがこれまでの生物学的な知見と広く一致した(図1).たとえば,造血前駆細胞のマーカーとして知られるCD34はヘモグロビン濃度とヘマトクリット値を除くすべての血球数についてのゲノムワイド関連解析の結果と有意な関連を示し,造血前駆細胞の遺伝子発現を制御する領域に存在する変異が造血細胞の分化の過程に影響し最終的な血球数に変化をおよぼす可能性が示唆された.また,免疫系において重要な役割をはたす制御性T細胞は甲状腺の機能に異常を生じるバセドウ病9) と有意な関連を示し,実際に,制御性T細胞を除去したマウスは甲状腺炎を発症することから10),バセドウ病の病態に制御性T細胞が重要な役割をはたすことが統合オミクス解析からも明らかにされた.



 このように,ゲノム情報およびエピゲノム情報にもとづくオミクス解析により,複雑な生体システムを構成する細胞あるいは組織と臨床検査値や疾患の遺伝的な背景との関連が解明され,疾患の病態のより深い理解へとつながる可能性が示された.

おわりに


 日本人の集団において臨床検査値の遺伝的な背景を大規模かつ包括的に解析することにより,複数の臨床検査値が疾患と共通した遺伝的な背景を示すことや,同一の関連する細胞あるいは組織をもつことが明らかにされた.この研究は,今日までに東アジア人について報告された最大規模のゲノムワイド関連解析であり,日本人の集団におけるゲノム研究の発展や個別化医療の実現に広く寄与することが期待される.また,ゲノム情報とエピゲノム情報を統合するオミクス解析により,臨床検査値,疾患,細胞,組織のかかわりが明らかになるにつれ,複数のオミクス領域を統合した解析の重要性がよりいっそう増すものと考えられる.
 この研究により得られたゲノムワイド関連解析の結果は,バイオサイエンスデータベースセンターから(URL:https://humandbs.biosciencedbc.jp/hum0014-v6),また,理化学研究所統合生命医科学研究センター 統計解析研究チームによる日本人集団ゲノム関連解析情報データベースJENGER(URL:http://jenger.riken.jp/)をつうじ,一般に公開されている.また,JENGERにおいては,これらの結果をブラウザにてインタラクティブに閲覧できるPheWebインターフェイスも公開している.こうしたリソースが広く活用されることにより,非欧米人の集団における疾患ゲノム研究が進展すること,また,遺伝統計解析の新規の手法が開発されることが望まれる.

文 献



  1. Ozaki, K., Ohnishi, Y., Iida, A. et al.: Functional SNPs in the lymphotoxin-α gene that are associated with susceptibility to myocardial infarction. Nat. Genet., 32, 650-654 (2002)[PubMed]

  2. MacArthur, J., Bowler, E., Cerezo, M. et al.: The new NHGRI-EBI Catalog of published genome-wide association studies (GWAS Catalog). Nucleic Acids Res., 45, D896-D901 (2017)[PubMed]

  3. Kamatani, Y., Matsuda, K., Okada, Y. et al.: Genome-wide association study of hematological and biochemical traits in a Japanese population. Nat. Genet., 42, 210-215 (2010)[PubMed]

  4. Bulik-Sullivan, B., Finucane, H. K., Anttila, V. et al.: An atlas of genetic correlations across human diseases and traits. Nat. Genet., 47, 1236-1241 (2015)[PubMed]

  5. Finucane, H. K., Bulik-Sullivan, B., Gusev, A. et al.: Partitioning heritability by functional annotation using genome-wide association summary statistics. Nat. Genet., 47, 1228-1235 (2015)[PubMed]

  6. Akiyama, M., Okada, Y., Kanai, M. et al.: Genome-wide association study identifies 112 new loci for body mass index in the Japanese population. Nat. Genet., 49, 1458-1467 (2017)[PubMed] [新着論文レビュー]

  7. Sivakumaran, S., Agakov, F., Theodoratou, E. et al.: Abundant pleiotropy in human complex diseases and traits. Am. J. Hum. Genet., 89, 607-618 (2011)[PubMed]

  8. Liu, Y., Li, P., Lu, J. et al.: Bilirubin possesses powerful immunomodulatory activity and suppresses experimental autoimmune encephalomyelitis. J. Immunol., 181, 1887-1897 (2008)[PubMed]

  9. Okada, Y., Momozawa, Y., Ashikawa, K. et al.: Construction of a population-specific HLA imputation reference panel and its application to Graves’ disease risk in Japanese. Nat. Genet., 47, 798-802 (2015)[PubMed] [新着論文レビュー]

  10. Sakaguchi, S., Sakaguchi, N., Asano, M. et al.: Immunologic self-tolerance maintained by activated T cells expressing IL-2 receptor alpha-chains (CD25). Breakdown of a single mechanism of self-tolerance causes various autoimmune diseases. J. Immunol., 155, 1151-1164 (1995)[PubMed]


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著者プロフィール


金井 仁弘(Masahiro Kanai)
略歴:米国Harvard Medical School博士課程 在学中.
研究テーマ:大規模なオミクス解析をつうじた疾患の多様性の解明.
抱負:多人種の集団における研究の成果を個別化医療の実現に役だてたい.

岡田 随象(Yukinori Okada)
大阪大学大学院医学系研究科 教授.
研究室URL:http://www.sg.med.osaka-u.ac.jp/index.html

鎌谷 洋一郎(Yoichiro Kamatani)
理化学研究所統合生命医科学研究センター チームリーダー.
研究室URL:http://www.riken.jp/research/labs/ims/stat_anl/

© 2018 金井仁弘・岡田随象・鎌谷洋一郎 Licensed under CC 表示 2.1 日本