転写因子GTF2IRD1による脂肪組織の線維化の抑制および糖代謝の改善
長谷川豊・梶村真吾
(米国California大学San Francisco校UCSF Diabetes Center)
email:長谷川豊
DOI: 10.7875/first.author.2018.020
Repression of adipose tissue fibrosis through a PRDM16-GTF2IRD1 complex improves systemic glucose homeostasis.
Yutaka Hasegawa, Kenji Ikeda, Yong Chen, Diana L. Alba, Daniel Stifler, Kosaku Shinoda, Takashi Hosono, Pema Maretich, Yangyu Yang, Yasushi Ishigaki, Jingyi Chi, Paul Cohen, Suneil K. Koliwad, Shingo Kajimura
Cell Metabolism, 27, 180-194.e6 (2018)
脂肪細胞には白色脂肪細胞と褐色/ベージュ脂肪細胞とがある.この研究において,筆者らは,褐色/ベージュ脂肪細胞が熱産生とは異なる機構により糖代謝を改善する機序に着目し,転写因子GTF2IRD1を同定した.GTF2IRD1は褐色/ベージュ脂肪細胞において特異的に高く発現しており,また,褐色/ベージュ脂肪細胞の分化や機能の維持における重要性が報告されている転写因子PRDM16,および,ヒストンメチル化酵素EHMT1と複合体を形成し遺伝子の発現を制御することが判明した.GTF2IRD1は脂肪組織の線維化にかかわる広範な遺伝子の発現を制御し,TGFβシグナルを強力に抑制していた.脂肪組織にGTF2IRD1を過剰に発現させたマウスにおいては,肥満の進展にともない脂肪組織において生じる細胞外マトリックスのリモデリングおよび線維化が抑制され,肥満および全身の糖代謝が改善された.これらは,熱産生にかかわる脱共役タンパク質UCP1に依存しない新たな機序であった.ヒトの皮下脂肪組織において遺伝子の発現を解析したところ,非肥満者においてGTF2IRD1の発現が高い一方,肥満者や内臓脂肪が蓄積した者では発現が低かったことから,GTF2IRD1はヒトの脂肪組織においても肥満やメタボリック症候群の病態の基盤の形成に重要な役割をはたすことが確認された.以上の結果から,GTF2IRD1とPRDM16との複合体が脂肪細胞の線維化にかかわる広範な遺伝子の発現を抑制することにより,肥満および肥満にともなう糖代謝やインスリン抵抗性を改善する新たな機序が見い出された.
脂肪細胞には白色脂肪細胞と褐色/ベージュ脂肪細胞の2種類がある.熱産生が主要な役割とされる褐色/ベージュ脂肪細胞は,血液中の糖や脂質をエネルギー源として消費することによる抗肥満作用が期待されるため,メタボリック症候群の治療の重要な標的として注目されている1-3).しかしながら,褐色/ベージュ脂肪細胞の増加による糖代謝の改善には熱産生とは異なる機構が存在する.そのひとつとして,褐色/ベージュ脂肪細胞が増加したマウスの脂肪組織においては線維化が抑制される現象に着目した.
PRDM16は脂肪組織において褐色/ベージュ脂肪細胞の分化およびその機能の維持にはたらく転写因子である4,5).脂肪組織においてPRDM16を過剰に発現させたトランスジェニックマウスの皮下脂肪組織においては,野生型のマウスと比べ,褐色/ベージュ脂肪細胞の分化が亢進し全身の糖代謝が改善した.また,熱産生にかかわる脱共役タンパク質であるUCP1のノックアウトマウスとPRDM16過剰発現マウスとを掛け合わせたマウスにおいても,UCP1ノックアウトマウスと比べ,同様に全身の糖代謝が改善した.すなわち,UCP1に依存することなく,PRDM16により分化の誘導された褐色/ベージュ脂肪細胞により糖代謝が改善される機序の存在が示唆された.さらに,野生型のマウス,PRDM16過剰発現マウス,UCP1ノックアウトマウス,UCP1ノックアウトマウスとPRDM16過剰発現マウスとを掛け合わせたマウスの皮下脂肪組織において,組織学的な解析およびRNA-seq法による解析を実施したところ,褐色/ベージュ脂肪細胞の分化が亢進するPRDM16過剰発現マウスおよびUCP1ノックアウトマウスとPRDM16過剰発現マウスとを掛け合わせたマウスにおいて,熱産生とは関係なく線維化が抑制されることが見い出された.以上から,糖代謝の改善の機能のもつ転写因子PRDM16は,UCP1に依存することなく脂肪組織の線維化を抑制することが示唆された.
PRDM16による線維化の抑制の機序を解明する目的で,PRDM16と複合体を形成するタンパク質の同定を試みた.そのため,液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法によりPRDM16と相互作用するタンパク質を網羅的に探索し,さらに,そのなかから核に局在しDNA結合能をもつタンパク質を選別した.選別されたタンパク質には,すでに褐色/ベージュ脂肪細胞における役割が報告されていたC/EBPβ,EBF2,PPARγ,ZFP518などが含まれた.このなかから,in vivoの褐色/ベージュ脂肪組織およびin vitroの褐色/ベージュ脂肪細胞において特異的に発現の高い転写因子としてGTF2IRD1が同定された.寒冷刺激や褐色/ベージュ脂肪細胞を活性化させるβ3アドレナリン受容体の作動薬の刺激によりGTF2IRD1の発現は上昇した.また,GTF2IRD1はPRDM16の2か所のジンクフィンガードメインを介して結合すること,さらには,ヒストンメチル化酵素であるEHMT1 6)(新着論文レビュー でも掲載)とも複合体を形成し遺伝子の発現を制御することが判明した(図1).
脂肪組織においてGTF2IRD1を過剰に発現させたトランスジェニックマウスを作製しin vivoにおけるGTF2IRD1の役割について解析した.高脂肪食を負荷したGTF2IRD1過剰発現マウスは,野生型のマウスと比べ,肥満の進展にともない脂肪組織に生じる細胞外マトリックスのリモデリングおよび線維化が抑制された.RNA-seq法による脂肪組織における遺伝子の発現の網羅的な解析によりGTF2IRD1はリプレッサーとして機能することが示唆され,線維化にかかわる広範な遺伝子の発現が抑制され,なかでも,TGFβシグナルは強力に抑制されていた.さらに,TGFβシグナルの標的となる遺伝子の同定を進めたところ,Lgals3遺伝子およびPcolce2遺伝子が直接に制御されることが明らかにされた.これらの遺伝子の制御は褐色/ベージュ脂肪細胞において細胞自律的に起こっていた.ヒトの皮下脂肪組織における遺伝子の発現の解析により,GTF2IRD1の発現は非肥満者において高く,一方,肥満者や内臓脂肪が蓄積した者では低かった.さらに,GTF2IRD1の発現と線維化にかかわる遺伝子の発現とのあいだには負の相関が認められた.GTF2IRD1はヒトの脂肪組織においても同様に線維化を抑制すると考えられ,肥満およびメタボリック症候群の病態の基盤の形成に重要な役割をはたすことが確認された.
GTF2IRD1による脂肪組織の線維化を抑制する機構が全身のエネルギー代謝におよぼす影響についてさらに詳細に検討した.脂肪組織においてGTF2IRD1を過剰に発現させたトランスジェニックマウスは,野生型のマウスと比べ,摂餌や活動の量に差がないにもかかわらず,長期間にわたる高脂肪食の負荷による体重の増加が軽度に抑制された.また,体重に有意差のつかない比較的早い時期においても,糖代謝およびインスリン抵抗性が改善していた.この機序について解析を進めたところ,褐色/ベージュ脂肪組織における糖の取り込みが亢進し,褐色/ベージュ脂肪組織および皮下脂肪組織においてインスリンシグナルが増強していた.in vitroにおける褐色脂肪細胞の解析においても,GTF2IRD1による線維化の抑制およびインスリンに依存性の糖の取り込みの亢進が確認され,褐色/ベージュ脂肪細胞において細胞自律的に起こる機構であることが判明した.
以上より,GTF2IRD1はPRDM16と複合体を形成し脂肪組織における線維化にかかわる広範な遺伝子の発現を制御すること,肥満の進展にともない脂肪組織に生じる細胞外マトリックスのリモデリングおよび線維化を抑制することにより肥満および全身の糖代謝を改善させることが示された.そして,これらは熱産生にかかわる脱共役タンパク質であるUCP1に依存しない新たな機序によるものであった.
近年,褐色/ベージュ脂肪細胞の熱産生による抗肥満作用が注目されているが,褐色/ベージュ脂肪細胞は熱産生とは異なる機構により肥満やメタボリック症候群の病態に影響をおよぼすことがつぎつぎと報告されている7-10).この研究において,筆者らは,独自の質量分析法およびRNA-seq法を駆使することにより,脂肪組織の線維化を抑制する転写因子としてGTF2IRD1を同定し,褐色/ベージュ脂肪細胞が熱産生とは異なる機構により糖代謝を改善させる新たな機序が解明された.褐色/ベージュ脂肪細胞による熱産生とは異なる機構による糖代謝の改善は,肥満や糖尿病における新たな標的になる可能性がある.今後,より詳細な分子機序が解明され,褐色/ベージュ脂肪細胞を活性化させる機構あるいは薬剤が臨床に応用されることを期待している.
略歴:2007年 東北大学大学院医学系研究科 修了,2008年 東北大学病院 助教,2014年 米国California大学San Francisco校 研究員を経て,2016年より岩手医科大学医学部 特任講師.
研究テーマ:肥満および糖尿病の基礎研究および臨床への応用.
関心事:褐色/ベージュ脂肪細胞の活性化の機序.
梶村 真吾(Shingo Kajimura)
米国California大学San Francisco校Assistant Professor
研究室URL:http://kajimuralab.ucsf.edu/
© 2018 長谷川豊・梶村真吾 Licensed under CC 表示 2.1 日本
(米国California大学San Francisco校UCSF Diabetes Center)
email:長谷川豊
DOI: 10.7875/first.author.2018.020
Repression of adipose tissue fibrosis through a PRDM16-GTF2IRD1 complex improves systemic glucose homeostasis.
Yutaka Hasegawa, Kenji Ikeda, Yong Chen, Diana L. Alba, Daniel Stifler, Kosaku Shinoda, Takashi Hosono, Pema Maretich, Yangyu Yang, Yasushi Ishigaki, Jingyi Chi, Paul Cohen, Suneil K. Koliwad, Shingo Kajimura
Cell Metabolism, 27, 180-194.e6 (2018)
要 約
脂肪細胞には白色脂肪細胞と褐色/ベージュ脂肪細胞とがある.この研究において,筆者らは,褐色/ベージュ脂肪細胞が熱産生とは異なる機構により糖代謝を改善する機序に着目し,転写因子GTF2IRD1を同定した.GTF2IRD1は褐色/ベージュ脂肪細胞において特異的に高く発現しており,また,褐色/ベージュ脂肪細胞の分化や機能の維持における重要性が報告されている転写因子PRDM16,および,ヒストンメチル化酵素EHMT1と複合体を形成し遺伝子の発現を制御することが判明した.GTF2IRD1は脂肪組織の線維化にかかわる広範な遺伝子の発現を制御し,TGFβシグナルを強力に抑制していた.脂肪組織にGTF2IRD1を過剰に発現させたマウスにおいては,肥満の進展にともない脂肪組織において生じる細胞外マトリックスのリモデリングおよび線維化が抑制され,肥満および全身の糖代謝が改善された.これらは,熱産生にかかわる脱共役タンパク質UCP1に依存しない新たな機序であった.ヒトの皮下脂肪組織において遺伝子の発現を解析したところ,非肥満者においてGTF2IRD1の発現が高い一方,肥満者や内臓脂肪が蓄積した者では発現が低かったことから,GTF2IRD1はヒトの脂肪組織においても肥満やメタボリック症候群の病態の基盤の形成に重要な役割をはたすことが確認された.以上の結果から,GTF2IRD1とPRDM16との複合体が脂肪細胞の線維化にかかわる広範な遺伝子の発現を抑制することにより,肥満および肥満にともなう糖代謝やインスリン抵抗性を改善する新たな機序が見い出された.
はじめに
脂肪細胞には白色脂肪細胞と褐色/ベージュ脂肪細胞の2種類がある.熱産生が主要な役割とされる褐色/ベージュ脂肪細胞は,血液中の糖や脂質をエネルギー源として消費することによる抗肥満作用が期待されるため,メタボリック症候群の治療の重要な標的として注目されている1-3).しかしながら,褐色/ベージュ脂肪細胞の増加による糖代謝の改善には熱産生とは異なる機構が存在する.そのひとつとして,褐色/ベージュ脂肪細胞が増加したマウスの脂肪組織においては線維化が抑制される現象に着目した.
1.転写因子PRDM16は脂肪組織において熱産生とは異なる機構により線維化を抑制する
PRDM16は脂肪組織において褐色/ベージュ脂肪細胞の分化およびその機能の維持にはたらく転写因子である4,5).脂肪組織においてPRDM16を過剰に発現させたトランスジェニックマウスの皮下脂肪組織においては,野生型のマウスと比べ,褐色/ベージュ脂肪細胞の分化が亢進し全身の糖代謝が改善した.また,熱産生にかかわる脱共役タンパク質であるUCP1のノックアウトマウスとPRDM16過剰発現マウスとを掛け合わせたマウスにおいても,UCP1ノックアウトマウスと比べ,同様に全身の糖代謝が改善した.すなわち,UCP1に依存することなく,PRDM16により分化の誘導された褐色/ベージュ脂肪細胞により糖代謝が改善される機序の存在が示唆された.さらに,野生型のマウス,PRDM16過剰発現マウス,UCP1ノックアウトマウス,UCP1ノックアウトマウスとPRDM16過剰発現マウスとを掛け合わせたマウスの皮下脂肪組織において,組織学的な解析およびRNA-seq法による解析を実施したところ,褐色/ベージュ脂肪細胞の分化が亢進するPRDM16過剰発現マウスおよびUCP1ノックアウトマウスとPRDM16過剰発現マウスとを掛け合わせたマウスにおいて,熱産生とは関係なく線維化が抑制されることが見い出された.以上から,糖代謝の改善の機能のもつ転写因子PRDM16は,UCP1に依存することなく脂肪組織の線維化を抑制することが示唆された.
2.PRDM16およびEHMT1と複合体を形成する転写因子GTF2IRD1の同定
PRDM16による線維化の抑制の機序を解明する目的で,PRDM16と複合体を形成するタンパク質の同定を試みた.そのため,液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法によりPRDM16と相互作用するタンパク質を網羅的に探索し,さらに,そのなかから核に局在しDNA結合能をもつタンパク質を選別した.選別されたタンパク質には,すでに褐色/ベージュ脂肪細胞における役割が報告されていたC/EBPβ,EBF2,PPARγ,ZFP518などが含まれた.このなかから,in vivoの褐色/ベージュ脂肪組織およびin vitroの褐色/ベージュ脂肪細胞において特異的に発現の高い転写因子としてGTF2IRD1が同定された.寒冷刺激や褐色/ベージュ脂肪細胞を活性化させるβ3アドレナリン受容体の作動薬の刺激によりGTF2IRD1の発現は上昇した.また,GTF2IRD1はPRDM16の2か所のジンクフィンガードメインを介して結合すること,さらには,ヒストンメチル化酵素であるEHMT1 6)(新着論文レビュー でも掲載)とも複合体を形成し遺伝子の発現を制御することが判明した(図1).
3.GTF2IRD1によるマウスおよびヒトにおける脂肪組織の線維化の抑制
脂肪組織においてGTF2IRD1を過剰に発現させたトランスジェニックマウスを作製しin vivoにおけるGTF2IRD1の役割について解析した.高脂肪食を負荷したGTF2IRD1過剰発現マウスは,野生型のマウスと比べ,肥満の進展にともない脂肪組織に生じる細胞外マトリックスのリモデリングおよび線維化が抑制された.RNA-seq法による脂肪組織における遺伝子の発現の網羅的な解析によりGTF2IRD1はリプレッサーとして機能することが示唆され,線維化にかかわる広範な遺伝子の発現が抑制され,なかでも,TGFβシグナルは強力に抑制されていた.さらに,TGFβシグナルの標的となる遺伝子の同定を進めたところ,Lgals3遺伝子およびPcolce2遺伝子が直接に制御されることが明らかにされた.これらの遺伝子の制御は褐色/ベージュ脂肪細胞において細胞自律的に起こっていた.ヒトの皮下脂肪組織における遺伝子の発現の解析により,GTF2IRD1の発現は非肥満者において高く,一方,肥満者や内臓脂肪が蓄積した者では低かった.さらに,GTF2IRD1の発現と線維化にかかわる遺伝子の発現とのあいだには負の相関が認められた.GTF2IRD1はヒトの脂肪組織においても同様に線維化を抑制すると考えられ,肥満およびメタボリック症候群の病態の基盤の形成に重要な役割をはたすことが確認された.
4.GTF2IRD1による褐色/ベージュ脂肪細胞における糖代謝の改善
GTF2IRD1による脂肪組織の線維化を抑制する機構が全身のエネルギー代謝におよぼす影響についてさらに詳細に検討した.脂肪組織においてGTF2IRD1を過剰に発現させたトランスジェニックマウスは,野生型のマウスと比べ,摂餌や活動の量に差がないにもかかわらず,長期間にわたる高脂肪食の負荷による体重の増加が軽度に抑制された.また,体重に有意差のつかない比較的早い時期においても,糖代謝およびインスリン抵抗性が改善していた.この機序について解析を進めたところ,褐色/ベージュ脂肪組織における糖の取り込みが亢進し,褐色/ベージュ脂肪組織および皮下脂肪組織においてインスリンシグナルが増強していた.in vitroにおける褐色脂肪細胞の解析においても,GTF2IRD1による線維化の抑制およびインスリンに依存性の糖の取り込みの亢進が確認され,褐色/ベージュ脂肪細胞において細胞自律的に起こる機構であることが判明した.
以上より,GTF2IRD1はPRDM16と複合体を形成し脂肪組織における線維化にかかわる広範な遺伝子の発現を制御すること,肥満の進展にともない脂肪組織に生じる細胞外マトリックスのリモデリングおよび線維化を抑制することにより肥満および全身の糖代謝を改善させることが示された.そして,これらは熱産生にかかわる脱共役タンパク質であるUCP1に依存しない新たな機序によるものであった.
おわりに
近年,褐色/ベージュ脂肪細胞の熱産生による抗肥満作用が注目されているが,褐色/ベージュ脂肪細胞は熱産生とは異なる機構により肥満やメタボリック症候群の病態に影響をおよぼすことがつぎつぎと報告されている7-10).この研究において,筆者らは,独自の質量分析法およびRNA-seq法を駆使することにより,脂肪組織の線維化を抑制する転写因子としてGTF2IRD1を同定し,褐色/ベージュ脂肪細胞が熱産生とは異なる機構により糖代謝を改善させる新たな機序が解明された.褐色/ベージュ脂肪細胞による熱産生とは異なる機構による糖代謝の改善は,肥満や糖尿病における新たな標的になる可能性がある.今後,より詳細な分子機序が解明され,褐色/ベージュ脂肪細胞を活性化させる機構あるいは薬剤が臨床に応用されることを期待している.
文 献
- Kajimura, S. & Saito, M.: A new era in brown adipose tissue biology: molecular control of brown fat development and energy homeostasis. Annu. Rev. Physiol., 76, 225-249 (2014)[PubMed]
- Kajimura, S., Seale, P. & Spiegelman, B. M.: Transcriptional control of brown fat development. Cell Metab., 11, 257-262 (2010)[PubMed]
- Shinoda, K., Ohyama, K., Hasegawa, Y. et al.: Phosphoproteomics identifies CK2 as a negative regulator of beige adipocyte thermogenesis and energy expenditure. Cell Metab., 22, 997-1008 (2015)[PubMed] [新着論文レビュー]
- Kajimura, S., Seale, P., Kubota, K. et al.: Initiation of myoblast to brown fat switch by a PRDM16-C/EBP-β transcriptional complex. Nature, 460, 1154-1158 (2009)[PubMed]
- Seale, P., Conroe, H. M., Estall, J. et al.: Prdm16 determines the thermogenic program of subcutaneous white adipose tissue in mice. J. Clin. Invest., 121, 96-105 (2011)[PubMed]
- Ohno, H., Shinoda, K., Ohyama, K. et al.: EHMT1 controls brown adipose cell fate and thermogenesis through the PRDM16 complex. Nature, 504, 163-167 (2013)[PubMed] [新着論文レビュー]
- Ikeda, K., Kang, Q., Yoneshiro, T. et al.: UCP1-independent signaling involving SERCA2b-mediated calcium cycling regulates beige fat thermogenesis and systemic glucose homeostasis. Nat. Med., 23, 1454-1465 (2017)[PubMed]
- Wang, G. X., Zhao, X. Y., Meng, Z. X. et al.: The brown fat-enriched secreted factor Nrg4 preserves metabolic homeostasis through attenuation of hepatic lipogenesis. Nat. Med., 20, 1436-1443 (2014)[PubMed]
- Lynes, M. D., Leiria, L. O., Lundh, M. et al.: The cold-induced lipokine 12,13-diHOME promotes fatty acid transport into brown adipose tissue. Nat. Med., 23, 631-637 (2017)[PubMed]
- Ikeda, K., Maretich, P. & Kajimura, S.: The common and distinct features of brown and beige adipocytes. Trends Endocrinol. Metab., 29, 191-200 (2018)[PubMed]
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著者プロフィール
略歴:2007年 東北大学大学院医学系研究科 修了,2008年 東北大学病院 助教,2014年 米国California大学San Francisco校 研究員を経て,2016年より岩手医科大学医学部 特任講師.
研究テーマ:肥満および糖尿病の基礎研究および臨床への応用.
関心事:褐色/ベージュ脂肪細胞の活性化の機序.
梶村 真吾(Shingo Kajimura)
米国California大学San Francisco校Assistant Professor
研究室URL:http://kajimuralab.ucsf.edu/
© 2018 長谷川豊・梶村真吾 Licensed under CC 表示 2.1 日本