細胞分裂ののち核膜および核膜孔複合体はそれぞれ小胞体膜および小胞体膜の穴をもとに再形成される
大塚正太郎・Jan Ellenberg
(ドイツEuropean Molecular Biology Laboratory,Cell Biology and Biophysics Unit)
email:大塚正太郎
DOI: 10.7875/first.author.2017.140
Postmitotic nuclear pore assembly proceeds by radial dilation of small membrane openings.
Shotaro Otsuka, Anna M. Steyer, Martin Schorb, Jean-Karim Hériché, M. Julius Hossain, Suruchi Sethi, Moritz Kueblbeck, Yannick Schwab, Martin Beck, Jan Ellenberg
Nature Structural & Molecular Biology, 25, 21-28 (2018)
細胞分裂ののちの細胞の生存においては,機能的な核膜が迅速に再形成され核と細胞質とが隔離されなければならない.これまで,染色体のまわりをどのように膜がおおうのか,また,核膜孔複合体はどのように再形成されるのかについては不明であった.この研究においては,生細胞の観察と3次元電子顕微鏡法とを組み合わせることにより分裂している細胞を経時的に観察し,核膜および核膜孔複合体の形成の過程を可視化した.超微細な構造の変化を定量的に解析した結果,核膜は無数の穴の空いた小胞体膜から形成され,その穴が小さくなる過程において核膜孔複合体が形成されはじめ,核膜孔複合体は内輪を構築しながら膜を同心円状に広げつつ成長し,わずか数分間で約2000個の成熟した核膜孔複合体が形成されることがわかった.この形成の機構は,これまで知られていた間期における核膜孔複合体の核膜の内膜と外膜との融合が必要な遅い機構とは根本的に異なるものであり,細胞が分裂したのちなぜ迅速に核を再形成できるのかを説明するものであった.
核膜孔複合体は核膜を貫通する,核と細胞質とのあいだの物質輸送を媒介するオルガネラである.核膜孔複合体は真核生物の細胞においてもっとも巨大なタンパク質複合体のひとつであり,ヌクレオポリンとよばれる約30種類のタンパク質が重合することによりなりたつ1).核膜孔複合体の正常な形成は細胞のあらゆる機能においてきわめて重要であり,核膜孔複合体の異常はがん,免疫疾患,神経系疾患につながることが報告されている2).
哺乳類を含む高等真核生物においては,核膜および核膜孔複合体は細胞分裂の前中期において崩壊し細胞分裂の後期に再形成される.迅速かつ正確な核膜および核膜孔複合体の再形成は細胞分裂ののちの娘細胞が正常に機能するために必要不可欠である3).これまで,アフリカツメガエルの卵抽出液を用いてin vitroにおいて核を再形成する実験により核膜あるいは核膜孔複合体の再形成に必要な因子が同定されてきた4).また,生細胞の観察により核膜孔複合体を構成するタンパク質は決まった順で集合することが知られていた5).しかしながら,崩壊した核膜および核膜孔複合体が細胞分裂ののちどのように再形成されるかは不明のままであり,その機構に関しては2つのモデルが提唱されていた.ひとつは核膜が形成されたのちに核膜孔複合体が埋め込まれるというモデル,もうひとつは核膜孔複合体を構成するタンパク質が染色体にさきに形成されあとから核膜がそれをとりかこむというモデルである3).核膜および核膜孔複合体の再形成の機構の解明のためには細胞分裂の後期の細胞において実際に核膜および核膜孔複合体が集合するようすを可視化する必要があり,従来の光学顕微鏡を用いた観察では時空間的な分解能が不十分であった.
そこで,筆者らは,生細胞の観察と高解像度での3次元電子顕微鏡法とを組み合わせて,核膜および核膜孔複合体の再形成の過程を分単位の時間分解能,かつ,ナノメートルのスケールで観察した.
核膜および核膜孔複合体が細胞分裂ののちどのように再形成されるかを調べるため,分裂期の細胞を生細胞のまま観察し,染色体が分離したのち異なる時期において急速凍結法により固定し,凍結置換法により樹脂に包埋したのち,同じ細胞の全体の3次元構造を集束イオンビーム走査型電子顕微鏡(FIB-SEM)法により観察した.電子顕微鏡の画像を解析し,染色体の表面およびその近傍の小胞体膜をトレースしたところ,染色体の分離から3分後の細胞においては染色体の表面の約10%しか小胞体膜と接触していないが,染色体の分離の4分後からその接触面は急速に増加し,約2分間で染色体の表面のほぼすべてが膜でおおわれることがわかった.また,小胞体膜の構造をより詳細に解析すると,小胞体膜には大きさの異なる無数の穴が空いており,膜が染色体をおおうにしたがいその穴が小さくなることがわかった.染色体に接触した膜の穴が小さくなる過程において,核膜孔複合体と同様の大きさの,直径が約50 nmほどの穴には電子密度の高い構造がみられはじめ,その数は約3分間で2000個にまで増加した.この核膜孔様の構造は,大きさおよび染色体における密度が間期の核膜孔複合体と非常に似ていたことから,核膜孔複合体の前駆体ではないかと考えられ,その構造をより詳細に調べた.
核膜孔複合体の形成の過程をより高解像度で観察するため,電子線トモグラフィーを用いて3次元の超微細構造を解析した.集束イオンビーム走査型電子顕微鏡法による解析により染色体の分離の約5分後から核膜孔複合体が形成されはじめることがわかったので,染色体の分離から5分後,6分後,8分後,10分後,15分後の細胞を生細胞のまま観察することにより同定し,急速凍結固定して樹脂に包埋したのち,電子線トモグラフィーを用いて解析した.
核膜孔複合体の直径を測定したところ,染色体の分離から5分後の細胞においては平均約39 nmであったが,そののち急速に大きくなり,染色体の分離から10分後の細胞においては間期の成熟した核膜孔複合体と同様の直径63 nmほどになった.核膜孔複合体の内部の構造がどう変わっていくのかを調べるため,核膜孔複合体の中心から同心円状に内部の電子密度を定量的に解析したところ,染色体の分離から5分後の細胞においてはおもに穴の中心に電子密度が集中していたが,染色体の分離の5分後から10分後においては新たな電子密度が膜の側に集積し,穴の拡大とともに同心円状に広がり,穴の中心の電子密度は染色体の分離の10分後からさらに増加していくことがわかった.
複数の核膜孔複合体の電子線トモグラフィーの画像を平均化することにより,核膜孔複合体の構造をより詳細に調べることができる6).しかしながら,核膜孔複合体の形成の過程は完全には同調的ではないので,できるだけ過程の同じ核膜孔複合体を選別する必要がある.そこで,染色体の分離からの時間ではなく,個々の核膜孔複合体の類似性を計算し,それをもとにさまざまな形成の過程にある核膜孔複合体を5つのグループに分類した.
おのおののグループには同様の構造をもつ60個から100個の核膜孔複合体が分類され,それらを平均化したところ,核膜孔複合体のおのおのの部位がどのように形成されるか明瞭にみられるようになった.形成の初期の核膜孔複合体は穴の中心に電子密度があることにくわえ,核の側に核リングとよばれる構造が形成されていた.そののち,電子密度は外側へと広がっていき,それにつれて穴の大きさも大きくなり,内輪および細胞質リングとよばれる構造が形成されはじめた.さらに,つぎの段階では内輪の形成が進み,対称的な八量体の構造がはっきりとみられるようになり,最後に中心孔とよばれる構造が成熟することがわかった.内輪の形成および穴の直径の増加が同じ時期に同じ速度で起こることから,内輪の自己集合が膜を拡大させる原動力になっているのではないかと推察された.
確認のため,ゲノム編集技術により核膜孔複合体を構成するタンパク質に蛍光タンパク質を融合させ,異なる構成タンパク質が細胞分裂の後期に核のまわりに集合するようすを生細胞のまま観察したところ,集合の順は電子線トモグラフィー解析により得られた結果と一致したことから,観察された核膜孔複合体の形成の過程はほかのタンパク質ではなく核膜孔複合体を構成するタンパク質の集合に起因すると考えられた.
核膜および核膜孔複合体の迅速な再形成は,細胞分裂ののち細胞が機能しはじめるのに必要不可欠であるが,これまで,その機構は光学顕微鏡の時空間的な分解能の不足により不明なままであった.この研究においては,生細胞の観察と高解像度での3次元電子顕微鏡法とを組み合わせることにより,その過程を1分間隔かつナノメートルでのスケールで可視化し,その形成の過程を明らかにした(図1).核膜孔複合体の形成の過程における詳細な構造変化が明らかにされたことで,今後,その形成の過程を制御する分子機構の理解が進み,核膜孔複合体の異常を原因とする疾患の病態の解明,また,その効率的な治療法の開発が進むことが期待される.
また,細胞分裂ののち約2000個の核膜孔複合体がわずか3分間で形成された.核膜孔複合体は間期においても新規に形成されるが,その際には,核膜孔複合体はすでに形成されている核膜を核の側から押し上げ核膜の内膜と外膜を融合させることにより形成されること,また,その過程は45分間ほどかかることが知られており7),この研究において判明した細胞分裂の後期における形成の機構とはまったく別の機構であった.細胞分裂ののちには核膜孔複合体は膜にすでに空いている穴を利用できるので,形成の際に膜を変形させる必要がなく,このことが,核膜孔複合体が迅速に形成される理由のひとつではないかと考えられた.
この研究により,核膜孔複合体が細胞周期の別の時期において2つの異なる機構により形成されることが明らかにされた.このことは,核膜孔複合体の進化の起源の解明において重要な知見であり,また,細胞生物学の分野において未解決な問題である,タンパク質複合体が細胞においてどのように自己集合するかを解明するうえでも有用な知見である.
略歴:2011年 京都大学大学院生命科学研究科博士課程 修了,同年 ドイツEuropean Molecular Biology Laboratory博士研究員を経て,2017年より同 スタッフ研究員.
研究テーマ:細胞周期における核の機能,構造の変化と,その制御機構.
抱負:今後も最先端の顕微鏡技術を発展,応用して生命の神秘に挑む所存です.
Jan Ellenberg
ドイツEuropean Molecular Biology Laboratory ユニットリーダー.
研究室URL:http://www.ellenberg.embl.de/
© 2017 大塚正太郎・Jan Ellenberg Licensed under CC 表示 2.1 日本
(ドイツEuropean Molecular Biology Laboratory,Cell Biology and Biophysics Unit)
email:大塚正太郎
DOI: 10.7875/first.author.2017.140
Postmitotic nuclear pore assembly proceeds by radial dilation of small membrane openings.
Shotaro Otsuka, Anna M. Steyer, Martin Schorb, Jean-Karim Hériché, M. Julius Hossain, Suruchi Sethi, Moritz Kueblbeck, Yannick Schwab, Martin Beck, Jan Ellenberg
Nature Structural & Molecular Biology, 25, 21-28 (2018)
要 約
細胞分裂ののちの細胞の生存においては,機能的な核膜が迅速に再形成され核と細胞質とが隔離されなければならない.これまで,染色体のまわりをどのように膜がおおうのか,また,核膜孔複合体はどのように再形成されるのかについては不明であった.この研究においては,生細胞の観察と3次元電子顕微鏡法とを組み合わせることにより分裂している細胞を経時的に観察し,核膜および核膜孔複合体の形成の過程を可視化した.超微細な構造の変化を定量的に解析した結果,核膜は無数の穴の空いた小胞体膜から形成され,その穴が小さくなる過程において核膜孔複合体が形成されはじめ,核膜孔複合体は内輪を構築しながら膜を同心円状に広げつつ成長し,わずか数分間で約2000個の成熟した核膜孔複合体が形成されることがわかった.この形成の機構は,これまで知られていた間期における核膜孔複合体の核膜の内膜と外膜との融合が必要な遅い機構とは根本的に異なるものであり,細胞が分裂したのちなぜ迅速に核を再形成できるのかを説明するものであった.
はじめに
核膜孔複合体は核膜を貫通する,核と細胞質とのあいだの物質輸送を媒介するオルガネラである.核膜孔複合体は真核生物の細胞においてもっとも巨大なタンパク質複合体のひとつであり,ヌクレオポリンとよばれる約30種類のタンパク質が重合することによりなりたつ1).核膜孔複合体の正常な形成は細胞のあらゆる機能においてきわめて重要であり,核膜孔複合体の異常はがん,免疫疾患,神経系疾患につながることが報告されている2).
哺乳類を含む高等真核生物においては,核膜および核膜孔複合体は細胞分裂の前中期において崩壊し細胞分裂の後期に再形成される.迅速かつ正確な核膜および核膜孔複合体の再形成は細胞分裂ののちの娘細胞が正常に機能するために必要不可欠である3).これまで,アフリカツメガエルの卵抽出液を用いてin vitroにおいて核を再形成する実験により核膜あるいは核膜孔複合体の再形成に必要な因子が同定されてきた4).また,生細胞の観察により核膜孔複合体を構成するタンパク質は決まった順で集合することが知られていた5).しかしながら,崩壊した核膜および核膜孔複合体が細胞分裂ののちどのように再形成されるかは不明のままであり,その機構に関しては2つのモデルが提唱されていた.ひとつは核膜が形成されたのちに核膜孔複合体が埋め込まれるというモデル,もうひとつは核膜孔複合体を構成するタンパク質が染色体にさきに形成されあとから核膜がそれをとりかこむというモデルである3).核膜および核膜孔複合体の再形成の機構の解明のためには細胞分裂の後期の細胞において実際に核膜および核膜孔複合体が集合するようすを可視化する必要があり,従来の光学顕微鏡を用いた観察では時空間的な分解能が不十分であった.
そこで,筆者らは,生細胞の観察と高解像度での3次元電子顕微鏡法とを組み合わせて,核膜および核膜孔複合体の再形成の過程を分単位の時間分解能,かつ,ナノメートルのスケールで観察した.
1.核膜は無数に穴の空いた小胞体膜のシートから形成される
核膜および核膜孔複合体が細胞分裂ののちどのように再形成されるかを調べるため,分裂期の細胞を生細胞のまま観察し,染色体が分離したのち異なる時期において急速凍結法により固定し,凍結置換法により樹脂に包埋したのち,同じ細胞の全体の3次元構造を集束イオンビーム走査型電子顕微鏡(FIB-SEM)法により観察した.電子顕微鏡の画像を解析し,染色体の表面およびその近傍の小胞体膜をトレースしたところ,染色体の分離から3分後の細胞においては染色体の表面の約10%しか小胞体膜と接触していないが,染色体の分離の4分後からその接触面は急速に増加し,約2分間で染色体の表面のほぼすべてが膜でおおわれることがわかった.また,小胞体膜の構造をより詳細に解析すると,小胞体膜には大きさの異なる無数の穴が空いており,膜が染色体をおおうにしたがいその穴が小さくなることがわかった.染色体に接触した膜の穴が小さくなる過程において,核膜孔複合体と同様の大きさの,直径が約50 nmほどの穴には電子密度の高い構造がみられはじめ,その数は約3分間で2000個にまで増加した.この核膜孔様の構造は,大きさおよび染色体における密度が間期の核膜孔複合体と非常に似ていたことから,核膜孔複合体の前駆体ではないかと考えられ,その構造をより詳細に調べた.
2.核膜孔複合体の再形成は小胞体膜の小さな穴を同心円状に広げながら進行する
核膜孔複合体の形成の過程をより高解像度で観察するため,電子線トモグラフィーを用いて3次元の超微細構造を解析した.集束イオンビーム走査型電子顕微鏡法による解析により染色体の分離の約5分後から核膜孔複合体が形成されはじめることがわかったので,染色体の分離から5分後,6分後,8分後,10分後,15分後の細胞を生細胞のまま観察することにより同定し,急速凍結固定して樹脂に包埋したのち,電子線トモグラフィーを用いて解析した.
核膜孔複合体の直径を測定したところ,染色体の分離から5分後の細胞においては平均約39 nmであったが,そののち急速に大きくなり,染色体の分離から10分後の細胞においては間期の成熟した核膜孔複合体と同様の直径63 nmほどになった.核膜孔複合体の内部の構造がどう変わっていくのかを調べるため,核膜孔複合体の中心から同心円状に内部の電子密度を定量的に解析したところ,染色体の分離から5分後の細胞においてはおもに穴の中心に電子密度が集中していたが,染色体の分離の5分後から10分後においては新たな電子密度が膜の側に集積し,穴の拡大とともに同心円状に広がり,穴の中心の電子密度は染色体の分離の10分後からさらに増加していくことがわかった.
3.電子線トモグラフィーの画像の平均化により形成の過程の核膜孔複合体の超微細構造が明らかにされた
複数の核膜孔複合体の電子線トモグラフィーの画像を平均化することにより,核膜孔複合体の構造をより詳細に調べることができる6).しかしながら,核膜孔複合体の形成の過程は完全には同調的ではないので,できるだけ過程の同じ核膜孔複合体を選別する必要がある.そこで,染色体の分離からの時間ではなく,個々の核膜孔複合体の類似性を計算し,それをもとにさまざまな形成の過程にある核膜孔複合体を5つのグループに分類した.
おのおののグループには同様の構造をもつ60個から100個の核膜孔複合体が分類され,それらを平均化したところ,核膜孔複合体のおのおのの部位がどのように形成されるか明瞭にみられるようになった.形成の初期の核膜孔複合体は穴の中心に電子密度があることにくわえ,核の側に核リングとよばれる構造が形成されていた.そののち,電子密度は外側へと広がっていき,それにつれて穴の大きさも大きくなり,内輪および細胞質リングとよばれる構造が形成されはじめた.さらに,つぎの段階では内輪の形成が進み,対称的な八量体の構造がはっきりとみられるようになり,最後に中心孔とよばれる構造が成熟することがわかった.内輪の形成および穴の直径の増加が同じ時期に同じ速度で起こることから,内輪の自己集合が膜を拡大させる原動力になっているのではないかと推察された.
確認のため,ゲノム編集技術により核膜孔複合体を構成するタンパク質に蛍光タンパク質を融合させ,異なる構成タンパク質が細胞分裂の後期に核のまわりに集合するようすを生細胞のまま観察したところ,集合の順は電子線トモグラフィー解析により得られた結果と一致したことから,観察された核膜孔複合体の形成の過程はほかのタンパク質ではなく核膜孔複合体を構成するタンパク質の集合に起因すると考えられた.
おわりに
核膜および核膜孔複合体の迅速な再形成は,細胞分裂ののち細胞が機能しはじめるのに必要不可欠であるが,これまで,その機構は光学顕微鏡の時空間的な分解能の不足により不明なままであった.この研究においては,生細胞の観察と高解像度での3次元電子顕微鏡法とを組み合わせることにより,その過程を1分間隔かつナノメートルでのスケールで可視化し,その形成の過程を明らかにした(図1).核膜孔複合体の形成の過程における詳細な構造変化が明らかにされたことで,今後,その形成の過程を制御する分子機構の理解が進み,核膜孔複合体の異常を原因とする疾患の病態の解明,また,その効率的な治療法の開発が進むことが期待される.
また,細胞分裂ののち約2000個の核膜孔複合体がわずか3分間で形成された.核膜孔複合体は間期においても新規に形成されるが,その際には,核膜孔複合体はすでに形成されている核膜を核の側から押し上げ核膜の内膜と外膜を融合させることにより形成されること,また,その過程は45分間ほどかかることが知られており7),この研究において判明した細胞分裂の後期における形成の機構とはまったく別の機構であった.細胞分裂ののちには核膜孔複合体は膜にすでに空いている穴を利用できるので,形成の際に膜を変形させる必要がなく,このことが,核膜孔複合体が迅速に形成される理由のひとつではないかと考えられた.
この研究により,核膜孔複合体が細胞周期の別の時期において2つの異なる機構により形成されることが明らかにされた.このことは,核膜孔複合体の進化の起源の解明において重要な知見であり,また,細胞生物学の分野において未解決な問題である,タンパク質複合体が細胞においてどのように自己集合するかを解明するうえでも有用な知見である.
文 献
- Beck, M. & Hurt, E.: The nuclear pore complex: understanding its function through structural insight. Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 18, 73-89 (2017)[PubMed]
- Jamali, T., Jamali, Y., Mehrbod, M. et al.: Nuclear pore complex: biochemistry and biophysics of nucleocytoplasmic transport in health and disease. Int. Rev. Cell Mol. Biol., 287, 233-286 (2011)[PubMed]
- Wandke, C. & Kutay, U.: Enclosing chromatin: reassembly of the nucleus after open mitosis. Cell, 152, 1222-1225 (2013)[PubMed]
- Weberruss, M. & Antonin, W.: Perforating the nuclear boundary: how nuclear pore complexes assemble. J. Cell Sci., 129, 4439-4447 (2016)[PubMed]
- Dultz, E., Zanin, E., Wurzenberger, C. et al.: Systematic kinetic analysis of mitotic dis- and reassembly of the nuclear pore in living cells. J. Cell Biol., 180, 857-865 (2008)[PubMed]
- Beck, M., Forster, F., Ecke, M. et al.: Nuclear pore complex structure and dynamics revealed by cryoelectron tomography. Science, 306, 1387-1390 (2004)[PubMed]
- Otsuka, S., Bui, K. H., Schorb, M. et al.: Nuclear pore assembly proceeds by an inside-out extrusion of the nuclear envelope. Elife, 5, e19071 (2016)[PubMed]
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著者プロフィール
略歴:2011年 京都大学大学院生命科学研究科博士課程 修了,同年 ドイツEuropean Molecular Biology Laboratory博士研究員を経て,2017年より同 スタッフ研究員.
研究テーマ:細胞周期における核の機能,構造の変化と,その制御機構.
抱負:今後も最先端の顕微鏡技術を発展,応用して生命の神秘に挑む所存です.
Jan Ellenberg
ドイツEuropean Molecular Biology Laboratory ユニットリーダー.
研究室URL:http://www.ellenberg.embl.de/
© 2017 大塚正太郎・Jan Ellenberg Licensed under CC 表示 2.1 日本