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PDZD8による小胞体とミトコンドリアの繋留は哺乳類のニューロンにおいてCa2+の動態を制御する

平林 祐介
(米国Columbia大学Medical Center,Department of Neuroscience)
email:平林祐介
DOI: 10.7875/first.author.2017.138

ER-mitochondria tethering by PDZD8 regulates Ca2+ dynamics in mammalian neurons.
Yusuke Hirabayashi, Seok-Kyu Kwon, Hunki Paek, Wolfgang M. Pernice, Maëla A. Paul, Jinoh Lee, Parsa Erfani, Ashleigh Raczkowski, Donald S. Petrey, Liza A. Pon, Franck Polleux
Science, 358, 623-630 (2017)




要 約


 小胞体とミトコンドリアといったオルガネラどうしが接触する部位は生物学的なさまざまな反応が起こるための場として注目をあびている.出芽酵母においては,ERMES複合体とよばれる4つのタンパク質からなる複合体が小胞体とミトコンドリアを物理的に繋留することが知られているが,多細胞生物において機能的に相同なタンパク質は発見されていない.この研究において,筆者らは,機能がほとんど未知であったタンパク質PDZD8は小胞体とミトコンドリアとの接触面に存在する小胞体タンパク質であることを見い出した.PDZD8はSMPドメインをもつが,このドメインはERMES複合体の構成タンパク質であるMMM1のもつSMPドメインと機能的に相同であった.電子顕微鏡の連続切片を用いた解析によりPDZD8は小胞体とミトコンドリアとの物理的な近接に必要であることがわかった.また,ニューロンにおいてシナプスへの刺激にともない起こる細胞質におけるCa2+濃度の上昇の制御にPDZD8による小胞体とミトコンドリアの繋留が必須の役割をはたすことも明らかにされた.

はじめに


 細胞においてオルガネラは区画化され互いに独立して機能するが,一方で,オルガネラどうしの物理的な接触をともなうコミュニケーションが細胞の恒常性の維持に必要であると提唱されている.事実,多くのオルガネラのあいだに接触がみられるが,それらの接触のもつ機能に関してはまだ一部が明らかにされているだけである.
 小胞体とミトコンドリアとの接触はオルガネラどうしの接触のなかでももっともめだって観察される.小胞体とミトコンドリアとの接触面においては小胞体からミトコンドリアへCa2+が流入することが知られており,そのほかにも,ミトコンドリアの形態の制御,脂質の合成,オートファゴソームの形成など,細胞におけるさまざまな恒常性の維持において重要な役割をはたすと提唱されてきた1,2).実際に,アルツハイマー病やパーキンソン病をはじめとする神経疾患において小胞体とミトコンドリアとの接触の異常が多く報告されており,小胞体とミトコンドリアとの接触の制御およびその役割は大きな注目をあびてきた3,4).しかしながら,その形成あるいは維持の機構の多くは不明であり,小胞体とミトコンドリアとの接触はどのような制御をうけるのか,細胞においてどのような機構に必須なのかなど,不明な点が非常に多い.小胞体とミトコンドリアとの接触には小胞体とミトコンドリアが数十nmまで近接することが必要であり,小胞体とミトコンドリアはなんらかの分子により繋留されると示唆されてきた5).しかし,多細胞生物において小胞体とミトコンドリアを繋留する分子としていまだ決定的なものは発見されておらず,このことがこの分野における研究の進捗のさまたげになっていた.この研究において,筆者らは,小胞体とミトコンドリアを繋留するタンパク質を同定し,ニューロンの樹状突起における小胞体とミトコンドリアとの接触の役割を明らかにした.

1.Mmm1およびPDZD8のもつSMPドメインの機能的な類似性


 出芽酵母においては,ERMES複合体とよばれる4つのタンパク質からなる複合体が小胞体とミトコンドリアを繋留することが知られているが,多細胞生物においてその機能的なオーソログは発見されていない6).このERMES複合体について,構成タンパク質のうち3つがSMPドメインをもつことに注目した.タンパク質の2次構造に着目した相同性検索により,哺乳類のタンパク質のうちSMPドメインをもつものを探索した.そして,この探索により同定されたタンパク質のなかで膜タンパク質であるPDZD8に着目した.ERMES複合体の構成タンパク質のひとつであるMMM1のSMPドメインをPDZD8のSMPドメインと入れ替え,MMM1を欠損した出芽酵母にこのキメラMMM1を発現させたところ,MMM1の欠損による表現型の一部が回復した.このことから,PDZD8のSMPドメインはMMM1のSMPドメインと機能的に相同であることが明らかにされた.

2.PDZD8は小胞体とミトコンドリアとの接触面に局在する小胞体タンパク質である


 PDZD8の細胞における局在について調べるため,内在性のPDZD8に対しCRISPR-Cas9系を利用したゲノム編集により蛍光タンパク質を融合させ,その局在を超解像度顕微鏡の技術のひとつである構造化照明顕微鏡法(structured illumination microscopy:SIM)により調べた.その結果,PDZD8は小胞体,なかでも小胞体とミトコンドリアとの接触面に局在していた.

3.PDZD8は小胞体とミトコンドリアとの接触に必要である


 約30 nmとされる小胞体とミトコンドリアとの距離5) を正確に定量するには電子顕微鏡による観察が必須であるが,これまでの小胞体とミトコンドリアとの接触の研究の多くは共焦点顕微鏡を用いており,電子顕微鏡を用いていたとしても定量性はあまり追求されていなかった.そこで,電子顕微鏡の連続切片を用いた画像の3次元での再構築を最適化し,また,電子顕微鏡の複数のプラットフォームについて検討した結果,集束イオンビームを用いた走査型電子顕微鏡(FIB-SEM)法により得られた画像の3次元での再構築により小胞体とミトコンドリアとの接触の割合を正確にかつ定量的に測定することに成功した.この手法を用いて,PDZD8をノックダウンした細胞を観察したところ,小胞体とミトコンドリアとの接触は野生型の細胞と比べ約2割にまで大きく減少していた.

4.PDZD8による小胞体とミトコンドリアの繋留は小胞体からミトコンドリアへのCa2+の流入に必要である


 ミトコンドリアがCa2+を取り込むためにはミトコンドリア内膜に存在するチャネルであるMCUが開口しなければならない.多くの細胞において,MCUの開口にはミトコンドリアの表面におけるCa2+の濃度が10μM以上になることが必要である7).ミトコンドリアの表面,つまり,細胞質におけるCa2+の濃度は通常は1μM以下であるが,小胞体の近傍においては小胞体から高濃度のCa2+が放出されるためCa2+はMCUの開口に十分な濃度に達し,小胞体からミトコンドリアへCa2+が流入する8,9).そこで,PDZD8をノックダウンした細胞において小胞体からミトコンドリアへCa2+が流入するかどうか調べたところ,小胞体からのCa2+の放出は野生型の細胞と同様に起こるのにもかかわらず,ミトコンドリアへのCa2+の流入はほとんど起こらなかった(図1).このことから,PDZD8をノックダウンした細胞においては小胞体とミトコンドリアの距離が遠いため,小胞体から放出されたCa2+は拡散しミトコンドリアの表面におけるCa2+の濃度が十分には高くならないことが示唆された.




5.PDZD8は大脳皮質のニューロンの樹状突起においてCa2+の動態を制御する


 電子顕微鏡による観察などにより,ニューロンの樹状突起においても小胞体とミトコンドリアとの接触は頻繁に観察される.そこで,ニューロンの樹状突起においてシナプスの活動にともない小胞体からリアノジン受容体やイノシトールトリスリン酸受容体などのチャネルをとおし放出されたCa2+の行方を調べたところ,Ca2+の多くは近接するミトコンドリアにMCUを介し取り込まれていた.そこで,ニューロンの樹状突起における小胞体からミトコンドリアへのCa2+の流入に対しPDZD8がおよぼす影響について調べた.その結果,PDZD8をノックダウンした細胞においてシナプスを刺激したのち小胞体から放出されるCa2+の量は野生型の細胞と変わらなかったが,ミトコンドリアへ流入するCa2+の量は大きく減少した.そして,ミトコンドリアに取り込まれなかったCa2+により細胞質におけるCa2+の濃度は上昇した.
 以上の結果から,PDZD8は小胞体とミトコンドリアとの繋留に必須のタンパク質であり,ニューロンの樹状突起におけるCa2+の制御に重要なはたらきをすることが明らかにされた.これは,細胞の代謝をはじめとする恒常性の維持の機構から神経疾患の治療にいたるまで,広く大きなインパクトをもつ発見であると考えている.

おわりに


 小胞体とミトコンドリアとの接触が重要であることは広く受け入れられていたが,技術的な限界などからその接触を形成し維持するための機構については不明な部分が多かった.この研究においては,近年,急速に発展をとげた3次元電子顕微鏡技術や,最近,開発された小胞体やミトコンドリアそれぞれのCa2+の濃度に最適化されたCa2+インジケーターを用いたイメージング技術を用いることにより,PDZD8が小胞体とミトコンドリアとの接触に必須の役割をはたすことが明らかにされた.
 ヒトの脳は非常に多くのエネルギーを消費することが知られ,脳のミトコンドリアは全身で使う酸素のうち20%を使いエネルギーを産生する.このエネルギーの産生の制御においてミトコンドリアに流入するCa2+は重要な役割をはたす.一方,Ca2+はニューロンの内部におけるシグナル伝達においても中心的な役割をはたし,Ca2+の流入あるいは拡散の制御がニューロンにおける情報処理の機構の分子的な実体であることが明らかにされた.この研究は,ニューロンにおけるCa2+の動態の制御にオルガネラのあいだの接触が重要であることを示した.これにより,ニューロンの制御において新たな階層を見い出したと考えている.また,ニューロンにかぎらずさまざまな系において小胞体とミトコンドリアとの接触は重要であることが知られており,今後,多様な系における小胞体とミトコンドリアとの接触の役割が明らかにされると考えられる.

文 献



  1. Rizzuto, R., Pinton, P., Carrington, W. et al.: Close contacts with the endoplasmic reticulum as determinants of mitochondrial Ca2+ responses. Science, 280, 1763-1766 (1998)[PubMed]

  2. Rowland, A. A. & Voeltz, G. K.: Endoplasmic reticulum-mitochondria contacts: function of the junction. Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 13, 607-625 (2012)[PubMed]

  3. Area-Gomez, E. & Schon, E. A.: Mitochondria-associated ER membranes and Alzheimer disease. Curr. Opin. Genet. Dev., 38, 90-96 (2016)[PubMed]

  4. Paillusson, S., Stoica, R., Gomez-Suaga, P. et al.: There's something wrong with my MAM; the ER-mitochondria axis and neurodegenerative diseases. Trends Neurosci., 39, 146-157 (2016)[PubMed]

  5. Helle, S. C., Kanfer, G., Kolar, K. et al.: Organization and function of membrane contact sites. Biochim. Biophys. Acta, 1833, 2526-2541 (2013)[PubMed]

  6. Kornmann, B., Currie, E., Collins, S. R. et al.: An ER-mitochondria tethering complex revealed by a synthetic biology screen. Science, 325, 477-481 (2009)[PubMed]

  7. Kamer, K. J. & Mootha, V. K.: The molecular era of the mitochondrial calcium uniporter. Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 16, 545-553 (2015)[PubMed]

  8. Csordas, G., Varnai, P., Golenar, T. et al.: Imaging interorganelle contacts and local calcium dynamics at the ER-mitochondrial interface. Mol. Cell, 39, 121-132 (2010)[PubMed]

  9. Giacomello, M., Drago, I., Bortolozzi, M. et al.: Ca2+ hot spots on the mitochondrial surface are generated by Ca2+ mobilization from stores, but not by activation of store-operated Ca2+ channels. Mol. Cell, 38, 280-290 (2010)[PubMed]


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著者プロフィール


平林 祐介(Yusuke Hirabayashi)
略歴:2006年 東京大学大学院先端生命研究科博士課程 修了,同年 東京大学大学院医学系研究科 特任研究員,2007年 東京大学分子細胞生物学研究所 助教,2013年 米国Scripps Research Institute研究員を経て,同年より米国Columbia大学Medical Center研究員.2016年より科学技術振興機構 さきがけ専任研究者.
研究テーマ:哺乳類細胞,とくに,ニューロンの分子レベルにおける解明.

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