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インナーセントロメア-シュゴシンネットワークは染色体不安定性をふせぐ

丹野悠司・渡邊嘉典
(東京大学分子細胞生物学研究所 染色体動態研究分野)
email:丹野悠司渡邊嘉典
DOI: 10.7875/first.author.2015.109

The inner centromere-shugoshin network prevents chromosomal instability.
Yuji Tanno, Hiroaki Susumu, Miyuki Kawamura, Haruhiko Sugimura, Takashi Honda, Yoshinori Watanabe
Science, 349, 1237-1240 (2015)




要 約


 がん細胞に広くみられる染色体不安定性は腫瘍の形成を促進すると考えられている.しかしながら,その機構については未解明の点が多い.この研究においては,染色体不安定性を示す多くの細胞株における動原体と微小管との接続の異常は,インナーセントロメア-シュゴシンネットワークの不安定化によりひき起こされていることが示された.染色体不安定性を示す細胞株におけるインナーセントロメア-シュゴシンネットワークの不安定化は,ヒストンH3の9番目のLysのトリメチル化の低下,および,コヒーシンのクロマチンとの結合の低下によりおもにひき起こされていた.ヒストンH3の9番目のLysのトリメチル化あるいはコヒーシンのクロマチンとの結合は,それぞれ独立にシュゴシンのセントロメアへの局在を促進した.また,がん抑制遺伝子産物であるRBおよびBRCA1は,それぞれ,ヒストンH3の9番目のLysのトリメチル化およびコヒーシンを介してインナーセントロメア-シュゴシンネットワークを制御していた.ヒストンH3の9番目のLysのトリメチル化あるいはコヒーシンのクロマチンとの結合を人工的に促進することにより,シュゴシンのセントロメアへの局在が回復し染色体不安定性の抑制がみられたことから,インナーセントロメア-シュゴシンネットワークは染色体不安定性をふせぐ要となる分子機構である可能性が示唆された.

はじめに


 多くのがん細胞は染色体の分配異常の頻度の高いことが知られている1,2).この性質は染色体不安定性とよばれ,染色体の数の変化(異数性)をつうじて娘細胞にがん化およびがんの悪性化を促進すると考えられている1,2)図1).これまで,染色体不安定性をひき起こす機構として,紡錘体形成チェックポイントの異常,中心体の数の増加による多極紡錘体,微小管の過度な安定化,姉妹染色分体の接着の異常などが提唱されているが1-4),その分子基盤についてはよくわかっていなかった.



 なお,染色体不安定性については,丹野悠司・渡邊嘉典, 領域融合レビュー, 1, e004, 2012 も参照されたい.

1.染色体不安定性を示す細胞株における微小管の過度な安定化および姉妹染色分体の接着の異常


 染色体不安定性の分子基盤についてさぐるため,正常な細胞およびがん細胞を含む17種類のヒトの細胞株について染色体の分配異常を定量した.その結果,3種類の細胞株においては分配異常が低い頻度であったのに対し,14種類の細胞株は分配異常の頻度が高く染色体不安定性を示した.染色体不安定性を示す細胞株のうち9種類にはおもに動原体と微小管との接続の異常に由来する分配異常がみられた一方,ほかの5種類の細胞株にはおもに染色体の構造の異常に由来する分配異常がみられた.染色体不安定性を示す細胞株の大半は分裂中期において正常な二極性の紡錘体を形成し,微小管脱重合剤による紡錘体形成チェックポイントの活性化にも異常はみられなかった.しかしながら,染色体不安定性を示す細胞株のほとんどにおいて,分裂中期における微小管の過度な安定性および姉妹染色分体の接着の維持機能が低下していた.とくに,程度にばらつきはあったものの,動原体と微小管との接続の異常に由来する染色体不安定性を示すすべての細胞株は,染色体不安定性を示さない細胞株と比較して,これら2つの異常はともに顕著に増加していた.以上の結果から,微小管の過度の安定化および姉妹染色分体の接着の異常はがん細胞に広く共通する性質である可能性が示唆された.

2.染色体不安定性を示す細胞株におけるインナーセントロメア-シュゴシンネットワークの不安定化


 姉妹動原体のあいだの領域はインナーセントロメアとよばれ,染色体の均等な分配において必須の役割を担う5).筆者らの研究室において同定されたシュゴシンSGO1は,姉妹動原体の接着を維持するとともに,染色体パッセンジャー複合体の局在化をつうじて染色体の2方向性の接続を促進する役割をもつ.SGO1と染色体パッセンジャー複合体はさらに複合体を形成してインナーセントロメアに安定に局在するが,この局在を制御する分子ネットワークはインナーセントロメア-シュゴシンネットワークとよばれる5)図2).SGO1の機能の低下は姉妹染色分体の接着の異常をひき起こし,また,染色体パッセンジャー複合体の機能の低下は染色体の2方向性の接続の失敗と紡錘体微小管の安定化をひき起こすことが報告されている6).そこで,染色体不安定性を示す細胞株においてみられた微小管の過度な安定化および姉妹染色分体の接着の異常の原因がインナーセントロメア-シュゴシンネットワークの異常によるものである可能性について検討するため,SGO1および染色体パッセンジャー複合体の構成タンパク質であるM期キナーゼAurora Bのセントロメアへの局在を定量した.その結果,染色体不安定性を示す細胞株の大半において,染色体の整列ののちのSGO1およびAurora Bの局在がいちじるしく低下していた.整列のまえのSGO1およびAurora Bの局在には大きな違いがみられなかったことから,染色体不安定性を示す細胞株において特異的に,整列ののちのSGO1およびAurora Bの局在の維持機能が低下している可能性が示唆された.また,染色体不安定性を示す肺がんの臨床検体を用いた解析においてもSGO1の局在の低下が観察された.以上の結果から,インナーセントロメア-シュゴシンネットワークの不安定化は染色体不安定性を示す細胞株に広くみられる性質であり,染色体不安定性の分子基盤になっている可能性が示唆された.




3.HP1αおよびコヒーシンは独立にSGO1の局在を安定化させる


 染色体不安定性を示さない細胞株において染色体の整列ののちのインナーセントロメア-シュゴシンネットワークの維持機構について解析した.M期キナーゼBUB1によるヒストンH2Aのリン酸化はM期の開始の際にSGO1をセントロメアに集積させる役割をもつことが知られている4).染色体不安定性を示さない細胞株および染色体不安定性を示す細胞株とも,整列のまえの染色体においてはインナーセントロメアにてヒストンH2Aのリン酸化が観察されたのに対し,整列ののちの染色体においてはヒストンH2Aのリン酸化は動原体の近傍に限定して検出された.整列ののちのインナーセントロメアにおいてSGO1の維持にはたらくタンパク質の候補としてHP1αおよびコヒーシンが考えられた.どちらもインナーセントロメアに局在し,SGO1と直接に相互作用してインナーセントロメアへの局在を促進することが知られている7,8).染色体不安定性を示さない細胞株においてHP1αあるいはコヒーシンをRNAi法によりノックダウンしたところ,SGO1およびAurora Bのセントロメアへの局在が整列ののちの染色体においていちじるしく低下し,染色体不安定性がみられた.SGO1の局在の制御におけるHP1αおよびコヒーシンの寄与についてさらに調べるため,HP1αと相互作用できないSGO1変異体7),および,コヒーシンと相互作用できないSGO1変異体8) をそれぞれGFPにより標識して染色体不安定性を示さない細胞株に発現させた結果,どちらも野生型のSGO1よりセントロメアへの局在は低下した.また,この2つの変異体のセントロメアにおける安定性をFRAP(fluorescence recovery after photobleaching,光退色後蛍光回復)法により調べた結果,野生型のSGO1に比べ有意に低かった.以上の結果より,HP1αおよびコヒーシンはそれぞれ独立にSGO1をインナーセントロメアに安定的にとどめる役割をはたすことが示唆された(図2).

4.染色体不安定性を示す細胞株におけるHP1αおよびコヒーシンのクロマチンとの結合の異常


 インナーセントロメア-シュゴシンネットワークの不安定化の分子機構について検討した.動原体と微小管との接続の異常に由来する染色体不安定性を示すすべての細胞株は,分裂中期におけるHP1αのインナーセントロメアへの局在が低下していた.HP1αの足場として,ヒストンH3の9番目のLysのトリメチル化が知られている9).動原体と微小管との接続の異常に由来する染色体不安定性を示す細胞株のM期の染色体においては,HP1αと同様に,セントロメアにおけるヒストンH3の9番目のLysのトリメチル化の低下の傾向がみられた.一方,ヒストンH3の9番目のLysの脱メチル化酵素であるKDM4ファミリータンパク質については,がん細胞における過剰な発現が報告されていた10).ウェスタンブロッティング法による解析の結果,動原体と微小管との接続の異常に由来する染色体不安定性を示す9つの細胞株のうち8つにおいて,KDM4A,KDM4B,KDM4Cのいずれかの過剰な発現がみられた.これらの結果から,M期の染色体のセントロメアにおけるヒストンH3の9番目のLysのトリメチル化の低下は,動原体と微小管との接続の異常に由来する染色体不安定性を示す細胞株に広くみられる特徴であり,KDM4ファミリータンパク質の過剰な発現がその原因である可能性が示唆された(図2).
 もうひとつのSGO1と相互作用するタンパク質であるコヒーシンの局在について解析した.コヒーシンは複製ののち染色体に安定に結合することが知られているが,動原体と微小管との接続の異常に由来する染色体不安定性を示す3つの細胞株では,G2期におけるコヒーシンのクロマチンとの結合が染色体不安定性を示さない細胞株に比べて低下していた.よく知られたがん抑制遺伝子産物であるBRCA1の発現の抑制はヒストンH3の9番目のLysのトリメチル化の,また,RBの発現の抑制はコヒーシンのクロマチンとの結合の異常をひき起こし染色体不安定性を誘発することが明らかにされた.これらの結果から,BRCA1あるいはRBの機能の異常によりひき起こされる染色体不安定性が,インナーセントロメア-シュゴシンネットワークの不安定化を介している可能性が示唆された(図2).

5.インナーセントロメア-シュゴシンネットワークの修復による染色体不安定性の抑圧


 染色体不安定性を示す細胞株においてインナーセントロメア-シュゴシンネットワークの不安定化が染色体不安定性の引き金である可能性について検討するため,不安定化したインナーセントロメア-シュゴシンネットワークを安定化することにより染色体不安定性が抑圧されるかどうか検討した.ヒストンH3の9番目のLysのトリメチル化酵素であるSUV39H1 9) とセントロメアタンパク質であるCENP-Bとの融合タンパク質を発現させ,低下していたヒストンH3の9番目のLysのトリメチル化の促進を試みた.その結果,動原体と微小管との接続の異常に由来する染色体不安定性を示す4つの細胞株について,SGO1およびAurora Bの発現が回復し,そのうちの3つにおいて染色体不安定性が抑圧された.染色体不安定性の抑圧はBRCA1に変異をもつ細胞株においても確認された.コヒーシンのクロマチンとの結合が低下していた3つの細胞株においては,ヒストンH3の9番目のLysのトリメチル化の促進にくわえ,コヒーシンの安定化にはたらくタンパク質であるSororin 11) の過剰発現を試みた.その結果,3つの細胞株のうち2つにおいて染色体不安定性の抑圧が観察され,同様の結果は,RBの発現を抑制した細胞株においてもみられた.これらの結果から,ヒストンH3の9番目のLysのトリメチル化およびコヒーシンの異常をつうじたインナーセントロメア-シュゴシンネットワークの不安定化が,幅広い細胞における染色体不安定性の原因になっている可能性が示唆された.

おわりに


 以上の結果から,インナーセントロメア-シュゴシンネットワークの不安定化が染色体不安定性をひき起こす鍵となる機構である可能性が示唆された.インナーセントロメア-シュゴシンネットワークに関連するタンパク質のホモノックアウトマウスは胎生致死になるが,機能不全におちいらない程度の異常が染色体不安定性をつうじてがん化を促進すると考えられる.実際のがんのゲノム解析においてインナーセントロメア-シュゴシンネットワークの構成タンパク質それ自体における遺伝子変異の報告が少ないことから,BRCA1,RB,KDM4のようにインナーセントロメア-シュゴシンネットワークを間接的に不安定化させるタンパク質における変異の蓄積ががん化の主要な原因であると考えられる.さらに,これら以外のがん関連遺伝子産物によるインナーセントロメア-シュゴシンネットワーク制御機構が存在する可能性は十分に考えられ,その解明は今後の重要な課題である.また,がん細胞におけるインナーセントロメア-シュゴシンネットワークの不安定化は,裏をかえせば,がん細胞は機能が低下した状態のインナーセントロメア-シュゴシンネットワークにより“虫の息”で生き延びている状態であるとも考えられる.このことから,SGO1などのインナーセントロメア-シュゴシンネットワークの構成タンパク質を標的とした抗がん剤を開発することにより,がん細胞においてインナーセントロメア-シュゴシンネットワークの“息の根を止める”ことが可能になるかもしれない.このような抗がん剤はがん細胞に特異的に染色体の分配異常による細胞死をひき起こすことから,副作用の少ない有用なものになることが期待される.

文 献



  1. Lengauer, C., Kinzler, K. W. & Vogelstein, B.: Genetic instabilities in human cancers. Nature, 396, 643-649 (1998)[PubMed]

  2. Thompson, S. L. & Compton, D. A.: Chromosomes and cancer cells. Chromosome Res., 19, 433-444 (2011)[PubMed]

  3. Ganem, N. J., Godinho, S. A. & Pellman, D.: A mechanism linking extra centrosomes to chromosomal instability. Nature, 460, 278-282 (2009)[PubMed]

  4. Barber, T. D., McManus, K., Yuen, K. et al.: Chromatid cohesion defects may underlie chromosome instability in human colorectal cancers. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 3443-3448 (2008)[PubMed]

  5. Watanabe, Y.: Geometry and force behind kinetochore orientation: lessons from meiosis. Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 13, 370-382 (2012)[PubMed]

  6. Cimini, D., Wan, X., Hirel, C. B. et al.: Aurora kinase promotes turnover of kinetochore microtubules to reduce chromosome segregation errors. Curr. Biol., 16, 1711-1718 (2006)[PubMed]

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  8. Liu, H., Rankin, S. & Yu, H.: Phosphorylation-enabled binding of SGO1-PP2A to cohesin protects sororin and centromeric cohesion during mitosis. Nat. Cell Biol., 15, 40-49 (2013)[PubMed]

  9. Lachner, M., O'Carroll, D., Rea, S. et al.: Methylation of histone H3 lysine 9 creates a binding site for HP1 proteins. Nature, 410, 116-120 (2001)[PubMed]

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  11. Nishiyama, T., Ladurner, R., Schmitz, J. et al.: Sororin mediates sister chromatid cohesion by antagonizing Wapl. Cell, 143, 737-749 (2010)[PubMed] [新着論文レビュー]



生命科学の教科書における関連するセクションへのリンク


東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.



著者プロフィール


丹野 悠司(Yuji Tanno)
略歴:2010年 東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程 修了,同年より東京大学分子細胞生物学研究所 助教.
研究テーマ:染色体分配.
関心事:実際にからだのなかで起こっている細胞分裂と染色体分配.

渡邊 嘉典(Yoshinori Watanabe)
東京大学分子細胞生物学研究所 教授.
研究室URL:http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/watanabe-lab/

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