インターフェロンγに依存的なトキソプラズマ原虫に対する応答におけるオートファジー関連タンパク質の一種GABARAPサブファミリーの役割
笹井美和・山本雅裕
(大阪大学微生物病研究所 感染病態分野)
email:笹井美和,山本雅裕
DOI: 10.7875/first.author.2017.066
Essential role for GABARAP autophagy proteins in interferon-indusible GTPase-mediated host defense.
Miwa Sasai, Naoya Sakaguchi, Ji Su Ma, Shuhei Nakamura, Tsuyoshi Kawabata, Hironori Bando, Youngae Lee, Tatsuya Saitoh, Shizuo Akira, Akiko Iwasaki, Daron M. Standley, Tamotsu Yoshimori, Masahiro Yamamoto
Nature Immunology, 18, 899-910 (2017)
トキソプラズマ原虫やサルモネラ菌といった細胞内寄生性の病原体は感染した細胞に病原体含有膜という特殊な膜構造体を形成しそのなかで増殖することにより感染を拡大するが,宿主はインターフェロンγ誘導性GTPaseを介して病原体含有膜を破壊することにより感染を制御する.近年,病原体含有膜の破壊に関与するインターフェロンγ誘導性GTPaseについては解明が進んでいるものの,どのように病原体含有膜に集積しその破壊を始動するのかについては未解明である.この研究においては,オートファジー関連タンパク質の一種であるGABARAPサブファミリーが,オートファジーとは無関係にArf1に依存的な小胞の形成を亢進し,インターフェロンγ誘導性GTPaseを含有する小胞様の構造体を細胞質において均一に分散させることにより,病原体の感染にともない形成される病原体含有膜へのインターフェロンγ誘導性GTPaseの集積を促進することが明らかにされた.
さまざまな種類の病原体が存在するなか,細菌であるサルモネラ菌,結核菌,トキソプラズマ原虫は感染した細胞のなかで特殊な膜構造体を形成しそのなかで増殖することから細胞内寄生性の病原体と総称される.宿主のもつ生体防御系として,Toll様受容体に代表される自然免疫系と,自然免疫系の活性化に追随して活性化される獲得免疫系とがあり,両者がともに正常に機能することではじめて感染症を制御することができる1,2).
細胞内寄生性の病原体のなかでもトキソプラズマ原虫は人類の約30%に感染しており,健康なときには何の症状も示さないが,臓器の移植にともない免疫を抑制した患者やヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染して免疫力が低下した患者においては致死的な脳症をひき起こす.また,妊娠の初期に初感染した場合には胎盤をつうじて胎児に感染し先天性トキソプラズマ症を発症する場合もある.トキソプラズマ原虫を含む細胞内寄生性の病原体は感染した細胞において病原体含有膜とよばれる特殊な膜構造体を形成してそのなかで増殖することが特徴であるが,宿主は活性化したナチュラルキラー細胞やT細胞から産生されるインターフェロンγにより発現が誘導されるGTPaseを用いて病原体含有膜の構造を破壊することにより病原体の排除を促進する.さまざまなインターフェロンγ誘導性GTPaseが病原体含有膜の破壊に関与することが報告されており,なかでも,GBPはさまざまな細胞内寄生性の病原体の形成する病原体含有膜の破壊に重要な役割をはたすことが,以前に筆者らの研究グループにより示されている.しかし,GBPがどのように病原体含有膜に集積するのか,その詳細な機構は未解明であった.
筆者らは,さきの研究において,トキソプラズマ原虫を含む病原体含有膜へのGBPの集積にオートファジー関連タンパク質の一部が関与することを報告した3,4).しかし,オートファジー関連タンパク質のすべてがオートファジーに関与するのに対し,なぜ一部のオートファジー関連タンパク質だけがGBPに依存的なトキソプラズマ原虫に対する応答を制御するのか,その機構は不明であった.
インターフェロンγ誘導性GTPaseによる病原体の排除機構に関与するオートファジー関連タンパク質と関与しないオートファジー関連タンパク質とを分類してその特徴について考察したところ,Atg結合系とよばれる経路に関与するオートファジー関連タンパク質のみがインターフェロンγに依存的なトキソプラズマ原虫に対する応答に関与していた.Atg結合系に関与するオートファジー関連タンパク質のうちAtg8ファミリーのみがファミリーを構成していたことから,このAtg8ファミリーのなかにインターフェロンγに依存的な病原体の排除機構に関与するタンパク質があると考えた.Atg8ファミリーはマウスにおいてはLC3aおよびLC3bからなるLC3サブファミリーと,Gate-16,Gabarap,Gabarapl1からなるGABARAPサブファミリーの計5種類の構成タンパク質が報告されていたことから,5種類それぞれのノックアウトマウスを作製し,インターフェロンγに依存的なトキソプラズマ原虫に対する応答におけるAtg8ファミリーの関与について解析した.その結果,Gate-16を単独で欠損した細胞においてインターフェロンγに依存的なトキソプラズマ原虫に対する応答が低下した.しかし,Atg結合系の経路において必須のタンパク質であるAtg3を欠損する細胞において比較すると,Gate-16を欠損する細胞においては依然としてインターフェロンγに依存的なトキソプラズマ原虫に対する一定の応答が残存していたことから,ほかのAtg8ファミリーが相補的に機能する可能性が考えられた.そこで,Gate-16の欠損にくわえて,おのおののAtg8ファミリーとの二重欠損細胞あるいは三重欠損細胞を作製した.その結果,Gate-16,Gabarap,Gabarapl1のGABARAPサブファミリーのすべてを欠損する細胞においてAtg3を欠損した細胞と同じ程度にインターフェロンγに依存的なトキソプラズマ原虫に対する応答が低下したことから,細胞のレベルではGABARAPサブファミリーが重要であることが明らかにされた.一方で,LC3aおよびLC3bを欠損してもインターフェロンγに依存的なトキソプラズマ原虫に対する応答は正常であったことから,LC3サブファミリーは無関係であることも判明した.
GABARAPサブファミリーによるインターフェロンγに依存的な病原体の排除機構の制御がトキソプラズマ原虫に特異的に作用するのかどうかを明らかにするため,GABARAPサブファミリーを欠損した細胞にサルモネラ菌を感染させた際のインターフェロンγに依存的な病原体に対する応答について解析したところ,Gate-16を単独で欠損した細胞およびGABARAPサブファミリーをすべて欠損した細胞においてはサルモネラ菌の増殖の抑制はみられなかった.これらの結果から,GABARAPサブファミリーはトキソプラズマ原虫だけでなく,サルモネラ菌などの細胞内寄生性の病原体に対するインターフェロンγに依存的な感染制御機構に広く関与することが明らかにされた.
個体への感染におけるAtg8ファミリーの機能について解明するため,Atg8ファミリーそれぞれのノックアウトマウスにトキソプラズマ原虫を感染させた.マウスに腹腔よりトキソプラズマ原虫を感染させると,Gate-16ノックアウトマウスのみが顕著に感受性を示し感染9日目までに死亡した.これは,インターフェロンγ受容体ノックアウトマウスと同様の時間経過であった.さらに,どの細胞におけるGate-16の発現が感染防御に重要なのかを明確にするため,Gate-16のコンディショナルノックアウトマウスにトキソプラズマ原虫を感染させた.その結果,ミエロイド系細胞にてGate-16を欠損したマウスにおいて,感染5日目に腹腔においてトキソプラズマ原虫に感染している好中球および炎症性単球が劇的に増加し,Gate-16ノックアウトマウスと同様の時間経過で全数が死亡した.これらの結果から,インターフェロンγに依存的な病原体に対する応答にはミエロイド系細胞に由来する好中球および炎症性単球におけるGate-16の発現が重要であることが示された.
GABARAPサブファミリーをすべて欠損した細胞においてインターフェロンγに依存的な病原体の排除機構が低下する原因を解明するため,GABARAPサブファミリーをすべて欠損した細胞において,インターフェロンγ誘導性GTPaseのひとつでありトキソプラズマ原虫およびサルモネラ菌に対する応答に重要であるGBPの動態について検討した.細胞内寄生性の病原体が感染すると,インターフェロンγにより刺激した野生型の細胞において病原体含有膜にGBPの集積が観察されたのに対し,GABARAPサブファミリーをすべて欠損した細胞においてはGBPの病原体含有膜への集積は顕著に減少し,細胞質の病原体含有膜が存在しない場所にGBPの凝集体が観察された.そこで,病原体を感染させずにGBPの細胞における局在について検討したところ,野生型の細胞においてGBPは小さなドット状で細胞質に均一に拡散していたのに対し,GABARAPサブファミリーをすべて欠損した細胞およびGate-16を単独で欠損した細胞においてGBPは細胞質に凝集体を形成し数か所に集積していた.
このGBPの集積がオートファジー機能の欠損によるものかどうかを明らかにするため,さまざまなオートファジー関連タンパク質を欠損した細胞においてGBPの局在を解析したところ,標準的なオートファジーの誘導に必須であるAtg9a,FIP200,Atg14を欠損した細胞においてはGBPの凝集体は検出されず,また,LC3サブファミリーを欠損した細胞においてもGBPの凝集体は検出されなかった.また,GBPだけでなく,ほかのインターフェロンγ誘導性GTPaseの凝集体も同様に制御されていた.これらの結果から,GABARAPサブファミリーの欠損により誘導されるインターフェロンγ誘導性GTPaseの凝集体の形成は,オートファジーとは無関係な現象であることが明らかにされた.
野生型の細胞においては細胞質に拡散するインターフェロンγ誘導性GTPaseがGate-16を欠損した細胞においては凝集体を形成する機構についてさらに検討した.Gate-16はゴルジ体における小胞輸送に関与するという報告があり5),また,GBPはゴルジ体に局在するとの報告もあったことから6),ゴルジ体からのGBPを含む小胞の形成にGate-16が関与するのではないかと考えた.そこで,ゴルジ体からの小胞輸送に必須のタンパク質であるArf1 7) の機能を阻害しGBPの細胞における局在について検討したところ,Gate-16の存在する野生型の細胞においても,GBPは細胞質にてGate-16を欠損した細胞と同様の凝集体を形成した.また,Arf1の恒常活性化型の変異体をGABARAPサブファミリーをすべて欠損した細胞に発現させると,凝集していたGBPがドット状の小胞として観察されるようになり,病原体含有膜へのGBPの蓄積が回復した.さらに,GABARAPサブファミリーをすべて欠損した細胞において活性化型のArf1の量を測定したところ,野生型の細胞と比べて顕著に少なかった.これらの結果から,Gate-16はArf1の活性化の亢進に関与することが示唆された.
Gate-16がArf1の活性化に特異的に関与する機構を明らかにするため,Gate-16とArf1との相互作用について免疫沈降法を用いて解析したところ,Gate-16はArf1と共沈した一方,LC3bはArf1とは共沈しなかった.Gate-16のArf1との相互作用領域を同定するため,Gate-16とLC3bとのさまざまなキメラタンパク質を作製してインターフェロンγに依存的なトキソプラズマ原虫に対する応答への影響,インターフェロンγ誘導性GTPaseの凝集体の形成,Arf1との相互作用について検討した.その結果,Gate16の25番目~29番目のアミノ酸残基のみをLC3bのアミノ酸配列に置換しただけでArf1とGate-16との結合は顕著に減少し,さらに,GABARAPサブファミリーをすべて欠損した細胞にこの変異体を導入してもGBPの凝集体の形成は解消されなかった.これらの結果から,Gate-16はArf1と相互作用することによりArf1の活性化に関与し,インターフェロンγ誘導性GTPaseを含む小胞様の構造体を細胞質へと均一に分散させ,細胞内寄生性の病原体の感染により形成される病原体含有膜へのインターフェロンγ誘導性GTPaseの集積を促進することが明らかにされた(図1).
この研究により,インターフェロンγ誘導性GTPaseが病原体含有膜を破壊するためにはGABARAPサブファミリー,とくにGate-16が重要であることが示された.しかし,散在するインターフェロンγ誘導性GTPaseがどのように病原体含有膜を認識してその破壊を誘導するのかは未解明である.また,この研究において,オートファジー関連タンパク質のオートファジー以外における役割が示されたことから,今後,Atg8ファミリーのノックアウトマウスを用いて,さまざまな生命現象におけるオートファジーに非依存的なAtg8ファミリーの役割を明らかにしていきたい.
略歴:2007年 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 修了,同年 米国Yale大学School of Medicineポストドクトラルフェローを経て,2012年より大阪大学微生物病研究所 助教.
研究テーマ;病原体の感染に対する生体防御機構.
抱負:感染症に対する宿主の応答から生命の不思議を解明したい.
山本 雅裕(Masahiro Yamamoto)
大阪大学微生物病研究所 教授.
研究室URL:http://www.biken.osaka-u.ac.jp/lab/immpara/index.html
© 2017 笹井美和・山本雅裕 Licensed under CC 表示 2.1 日本
(大阪大学微生物病研究所 感染病態分野)
email:笹井美和,山本雅裕
DOI: 10.7875/first.author.2017.066
Essential role for GABARAP autophagy proteins in interferon-indusible GTPase-mediated host defense.
Miwa Sasai, Naoya Sakaguchi, Ji Su Ma, Shuhei Nakamura, Tsuyoshi Kawabata, Hironori Bando, Youngae Lee, Tatsuya Saitoh, Shizuo Akira, Akiko Iwasaki, Daron M. Standley, Tamotsu Yoshimori, Masahiro Yamamoto
Nature Immunology, 18, 899-910 (2017)
要 約
トキソプラズマ原虫やサルモネラ菌といった細胞内寄生性の病原体は感染した細胞に病原体含有膜という特殊な膜構造体を形成しそのなかで増殖することにより感染を拡大するが,宿主はインターフェロンγ誘導性GTPaseを介して病原体含有膜を破壊することにより感染を制御する.近年,病原体含有膜の破壊に関与するインターフェロンγ誘導性GTPaseについては解明が進んでいるものの,どのように病原体含有膜に集積しその破壊を始動するのかについては未解明である.この研究においては,オートファジー関連タンパク質の一種であるGABARAPサブファミリーが,オートファジーとは無関係にArf1に依存的な小胞の形成を亢進し,インターフェロンγ誘導性GTPaseを含有する小胞様の構造体を細胞質において均一に分散させることにより,病原体の感染にともない形成される病原体含有膜へのインターフェロンγ誘導性GTPaseの集積を促進することが明らかにされた.
はじめに
さまざまな種類の病原体が存在するなか,細菌であるサルモネラ菌,結核菌,トキソプラズマ原虫は感染した細胞のなかで特殊な膜構造体を形成しそのなかで増殖することから細胞内寄生性の病原体と総称される.宿主のもつ生体防御系として,Toll様受容体に代表される自然免疫系と,自然免疫系の活性化に追随して活性化される獲得免疫系とがあり,両者がともに正常に機能することではじめて感染症を制御することができる1,2).
細胞内寄生性の病原体のなかでもトキソプラズマ原虫は人類の約30%に感染しており,健康なときには何の症状も示さないが,臓器の移植にともない免疫を抑制した患者やヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染して免疫力が低下した患者においては致死的な脳症をひき起こす.また,妊娠の初期に初感染した場合には胎盤をつうじて胎児に感染し先天性トキソプラズマ症を発症する場合もある.トキソプラズマ原虫を含む細胞内寄生性の病原体は感染した細胞において病原体含有膜とよばれる特殊な膜構造体を形成してそのなかで増殖することが特徴であるが,宿主は活性化したナチュラルキラー細胞やT細胞から産生されるインターフェロンγにより発現が誘導されるGTPaseを用いて病原体含有膜の構造を破壊することにより病原体の排除を促進する.さまざまなインターフェロンγ誘導性GTPaseが病原体含有膜の破壊に関与することが報告されており,なかでも,GBPはさまざまな細胞内寄生性の病原体の形成する病原体含有膜の破壊に重要な役割をはたすことが,以前に筆者らの研究グループにより示されている.しかし,GBPがどのように病原体含有膜に集積するのか,その詳細な機構は未解明であった.
筆者らは,さきの研究において,トキソプラズマ原虫を含む病原体含有膜へのGBPの集積にオートファジー関連タンパク質の一部が関与することを報告した3,4).しかし,オートファジー関連タンパク質のすべてがオートファジーに関与するのに対し,なぜ一部のオートファジー関連タンパク質だけがGBPに依存的なトキソプラズマ原虫に対する応答を制御するのか,その機構は不明であった.
1.インターフェロンγ誘導性GTPaseによる病原体の排除機構にGate-16は必須である
インターフェロンγ誘導性GTPaseによる病原体の排除機構に関与するオートファジー関連タンパク質と関与しないオートファジー関連タンパク質とを分類してその特徴について考察したところ,Atg結合系とよばれる経路に関与するオートファジー関連タンパク質のみがインターフェロンγに依存的なトキソプラズマ原虫に対する応答に関与していた.Atg結合系に関与するオートファジー関連タンパク質のうちAtg8ファミリーのみがファミリーを構成していたことから,このAtg8ファミリーのなかにインターフェロンγに依存的な病原体の排除機構に関与するタンパク質があると考えた.Atg8ファミリーはマウスにおいてはLC3aおよびLC3bからなるLC3サブファミリーと,Gate-16,Gabarap,Gabarapl1からなるGABARAPサブファミリーの計5種類の構成タンパク質が報告されていたことから,5種類それぞれのノックアウトマウスを作製し,インターフェロンγに依存的なトキソプラズマ原虫に対する応答におけるAtg8ファミリーの関与について解析した.その結果,Gate-16を単独で欠損した細胞においてインターフェロンγに依存的なトキソプラズマ原虫に対する応答が低下した.しかし,Atg結合系の経路において必須のタンパク質であるAtg3を欠損する細胞において比較すると,Gate-16を欠損する細胞においては依然としてインターフェロンγに依存的なトキソプラズマ原虫に対する一定の応答が残存していたことから,ほかのAtg8ファミリーが相補的に機能する可能性が考えられた.そこで,Gate-16の欠損にくわえて,おのおののAtg8ファミリーとの二重欠損細胞あるいは三重欠損細胞を作製した.その結果,Gate-16,Gabarap,Gabarapl1のGABARAPサブファミリーのすべてを欠損する細胞においてAtg3を欠損した細胞と同じ程度にインターフェロンγに依存的なトキソプラズマ原虫に対する応答が低下したことから,細胞のレベルではGABARAPサブファミリーが重要であることが明らかにされた.一方で,LC3aおよびLC3bを欠損してもインターフェロンγに依存的なトキソプラズマ原虫に対する応答は正常であったことから,LC3サブファミリーは無関係であることも判明した.
GABARAPサブファミリーによるインターフェロンγに依存的な病原体の排除機構の制御がトキソプラズマ原虫に特異的に作用するのかどうかを明らかにするため,GABARAPサブファミリーを欠損した細胞にサルモネラ菌を感染させた際のインターフェロンγに依存的な病原体に対する応答について解析したところ,Gate-16を単独で欠損した細胞およびGABARAPサブファミリーをすべて欠損した細胞においてはサルモネラ菌の増殖の抑制はみられなかった.これらの結果から,GABARAPサブファミリーはトキソプラズマ原虫だけでなく,サルモネラ菌などの細胞内寄生性の病原体に対するインターフェロンγに依存的な感染制御機構に広く関与することが明らかにされた.
個体への感染におけるAtg8ファミリーの機能について解明するため,Atg8ファミリーそれぞれのノックアウトマウスにトキソプラズマ原虫を感染させた.マウスに腹腔よりトキソプラズマ原虫を感染させると,Gate-16ノックアウトマウスのみが顕著に感受性を示し感染9日目までに死亡した.これは,インターフェロンγ受容体ノックアウトマウスと同様の時間経過であった.さらに,どの細胞におけるGate-16の発現が感染防御に重要なのかを明確にするため,Gate-16のコンディショナルノックアウトマウスにトキソプラズマ原虫を感染させた.その結果,ミエロイド系細胞にてGate-16を欠損したマウスにおいて,感染5日目に腹腔においてトキソプラズマ原虫に感染している好中球および炎症性単球が劇的に増加し,Gate-16ノックアウトマウスと同様の時間経過で全数が死亡した.これらの結果から,インターフェロンγに依存的な病原体に対する応答にはミエロイド系細胞に由来する好中球および炎症性単球におけるGate-16の発現が重要であることが示された.
2.Gate-16を欠損した細胞においてインターフェロンγ誘導性GTPaseが凝集体を形成する
GABARAPサブファミリーをすべて欠損した細胞においてインターフェロンγに依存的な病原体の排除機構が低下する原因を解明するため,GABARAPサブファミリーをすべて欠損した細胞において,インターフェロンγ誘導性GTPaseのひとつでありトキソプラズマ原虫およびサルモネラ菌に対する応答に重要であるGBPの動態について検討した.細胞内寄生性の病原体が感染すると,インターフェロンγにより刺激した野生型の細胞において病原体含有膜にGBPの集積が観察されたのに対し,GABARAPサブファミリーをすべて欠損した細胞においてはGBPの病原体含有膜への集積は顕著に減少し,細胞質の病原体含有膜が存在しない場所にGBPの凝集体が観察された.そこで,病原体を感染させずにGBPの細胞における局在について検討したところ,野生型の細胞においてGBPは小さなドット状で細胞質に均一に拡散していたのに対し,GABARAPサブファミリーをすべて欠損した細胞およびGate-16を単独で欠損した細胞においてGBPは細胞質に凝集体を形成し数か所に集積していた.
このGBPの集積がオートファジー機能の欠損によるものかどうかを明らかにするため,さまざまなオートファジー関連タンパク質を欠損した細胞においてGBPの局在を解析したところ,標準的なオートファジーの誘導に必須であるAtg9a,FIP200,Atg14を欠損した細胞においてはGBPの凝集体は検出されず,また,LC3サブファミリーを欠損した細胞においてもGBPの凝集体は検出されなかった.また,GBPだけでなく,ほかのインターフェロンγ誘導性GTPaseの凝集体も同様に制御されていた.これらの結果から,GABARAPサブファミリーの欠損により誘導されるインターフェロンγ誘導性GTPaseの凝集体の形成は,オートファジーとは無関係な現象であることが明らかにされた.
3.Gate-16はArf1の活性化の亢進に関与する
野生型の細胞においては細胞質に拡散するインターフェロンγ誘導性GTPaseがGate-16を欠損した細胞においては凝集体を形成する機構についてさらに検討した.Gate-16はゴルジ体における小胞輸送に関与するという報告があり5),また,GBPはゴルジ体に局在するとの報告もあったことから6),ゴルジ体からのGBPを含む小胞の形成にGate-16が関与するのではないかと考えた.そこで,ゴルジ体からの小胞輸送に必須のタンパク質であるArf1 7) の機能を阻害しGBPの細胞における局在について検討したところ,Gate-16の存在する野生型の細胞においても,GBPは細胞質にてGate-16を欠損した細胞と同様の凝集体を形成した.また,Arf1の恒常活性化型の変異体をGABARAPサブファミリーをすべて欠損した細胞に発現させると,凝集していたGBPがドット状の小胞として観察されるようになり,病原体含有膜へのGBPの蓄積が回復した.さらに,GABARAPサブファミリーをすべて欠損した細胞において活性化型のArf1の量を測定したところ,野生型の細胞と比べて顕著に少なかった.これらの結果から,Gate-16はArf1の活性化の亢進に関与することが示唆された.
Gate-16がArf1の活性化に特異的に関与する機構を明らかにするため,Gate-16とArf1との相互作用について免疫沈降法を用いて解析したところ,Gate-16はArf1と共沈した一方,LC3bはArf1とは共沈しなかった.Gate-16のArf1との相互作用領域を同定するため,Gate-16とLC3bとのさまざまなキメラタンパク質を作製してインターフェロンγに依存的なトキソプラズマ原虫に対する応答への影響,インターフェロンγ誘導性GTPaseの凝集体の形成,Arf1との相互作用について検討した.その結果,Gate16の25番目~29番目のアミノ酸残基のみをLC3bのアミノ酸配列に置換しただけでArf1とGate-16との結合は顕著に減少し,さらに,GABARAPサブファミリーをすべて欠損した細胞にこの変異体を導入してもGBPの凝集体の形成は解消されなかった.これらの結果から,Gate-16はArf1と相互作用することによりArf1の活性化に関与し,インターフェロンγ誘導性GTPaseを含む小胞様の構造体を細胞質へと均一に分散させ,細胞内寄生性の病原体の感染により形成される病原体含有膜へのインターフェロンγ誘導性GTPaseの集積を促進することが明らかにされた(図1).
おわりに
この研究により,インターフェロンγ誘導性GTPaseが病原体含有膜を破壊するためにはGABARAPサブファミリー,とくにGate-16が重要であることが示された.しかし,散在するインターフェロンγ誘導性GTPaseがどのように病原体含有膜を認識してその破壊を誘導するのかは未解明である.また,この研究において,オートファジー関連タンパク質のオートファジー以外における役割が示されたことから,今後,Atg8ファミリーのノックアウトマウスを用いて,さまざまな生命現象におけるオートファジーに非依存的なAtg8ファミリーの役割を明らかにしていきたい.
文 献
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著者プロフィール
略歴:2007年 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 修了,同年 米国Yale大学School of Medicineポストドクトラルフェローを経て,2012年より大阪大学微生物病研究所 助教.
研究テーマ;病原体の感染に対する生体防御機構.
抱負:感染症に対する宿主の応答から生命の不思議を解明したい.
山本 雅裕(Masahiro Yamamoto)
大阪大学微生物病研究所 教授.
研究室URL:http://www.biken.osaka-u.ac.jp/lab/immpara/index.html
© 2017 笹井美和・山本雅裕 Licensed under CC 表示 2.1 日本