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ヒトにおける共通単球前駆細胞の同定

川村俊輔・樗木俊聡
(東京医科歯科大学難治疾患研究所 生体防御学分野)
email:川村俊輔樗木俊聡
DOI: 10.7875/first.author.2017.048

Identification of a human clonogenic progenitor with strict monocyte differentiation potential: a counterpart of mouse cMoPs.
Shunsuke Kawamura, Nobuyuki Onai, Fuyuki Miya, Taku Sato, Tatsuhiko Tsunoda, Kazutaka Kurabayashi, Satoshi Yotsumoto, Shoko Kuroda, Katsuto Takenaka, Koichi Akashi, Toshiaki Ohteki
Immunity, 46, 835-848.e4 (2017)




要 約


 単球は炎症の際にマクロファージや樹状細胞に分化することにより,宿主の防御や組織の病理に大きく寄与する.近年,マウスにおいて単球のみに分化する共通単球前駆細胞が同定された.この研究において,ヒトの臍帯血や骨髄に存在する従来型の顆粒球-単球前駆細胞において共通単球前駆細胞が同定された.ヒトの共通単球前駆細胞はほかのミエロイド系細胞やリンパ球系細胞へは分化せず単球のみに分化した.また,従来型の顆粒球-単球前駆細胞において顆粒球あるいは単球にのみ分化し樹状細胞やリンパ球への分化能をまったくもたない亜集団を同定し,修正型の顆粒球-単球前駆細胞と定義した.以上の結果は,ヒトにおけるミエロイド系細胞の分化の系譜に新たな経路をくわえ,その理解を広げるものである.

はじめに


 単球はさまざまな組織に移入し,そこでマクロファージへと分化し,多種多様な機能により組織の恒常性の維持に寄与する1).単球は骨髄において造血幹細胞より分化し,前駆細胞が段階的かつ連続的に増殖をともない分化することにより供給される1).近年,マウスにおいて共通単球前駆細胞が同定された2).マウスの共通単球前駆細胞は樹状細胞および単球を供給する単球-樹状細胞前駆細胞に由来することが証明されている2).ヒトにおいてはミエロイド系細胞の前駆細胞として,共通ミエロイド前駆細胞,赤芽球系前駆細胞,そして,従来型の顆粒球-単球前駆細胞が同定されてきた3,4).そして近年,ヒトにおいて単球-樹状細胞前駆細胞が同定され5),この発見により,ヒトにおいても単球への分化能をもつ共通単球前駆細胞の存在が示唆された.
 筆者らは,従来型の顆粒球-単球前駆細胞に着目し,その亜集団として共通単球前駆細胞が存在するのではないかと仮説をたてた.その理由は2つあり,ひとつは従来型の顆粒球-単球前駆細胞がマクロファージや樹状細胞の供給源となることが報告されていたこと,もうひとつは従来型の顆粒球-単球前駆細胞にはT細胞への分化能をもつ細胞が混在し非常にヘテロな細胞の集団であることが示唆されたことである4)

1.従来型の顆粒球-単球前駆細胞は4つの亜集団に分画される


 ヒトにおいて共通単球前駆細胞を同定するため,臍帯血に由来する従来型の顆粒球-単球前駆細胞を複数の画分に分けることのできるマーカーをスクリーニングした.その結果,C型レクチンであるCLEC12AおよびFcγ受容体であるCD64により従来型の顆粒球-単球前駆細胞は4つの亜集団,すなわち,CLEC12A高発現CD64高発現のR2画分,CLEC12A高発現CD64中発現のR3画分,CLEC12A陽性CD64陰性のR4画分,CLEC12A陰性CD64陰性のR5画分に分画された(図1).また,幹細胞マーカーであるCD34が陰性の画分にR2画分と非常によく似た表現型をもつ亜集団としてR1画分が同定された.R1画分~R5画分の亜集団は臍帯血のみならず骨髄にも認められたが,末梢血には認められなかった.



 R1画分~R5画分に含まれる細胞のおおまかな分化能とその増殖能について確かめるため,メチルセルロース培地を用いてコロニーアッセイを行なった.その結果,R2画分およびR5画分はマクロファージコロニーのみを形成するクローンから構成され,R3画分およびR4画分はマクロファージコロニー,顆粒球コロニー,マクロファージ-顆粒球コロニーを形成するクローンから構成されていた.また,R1画分はコロニーを形成せず,増殖能をもたない細胞から構成されていた.以上の結果から,従来型の顆粒球-単球前駆細胞はCLEC12AおよびCD64により4つの亜集団に分画されることがわかり,これらの亜集団はそれぞれ異なる分化能をもつ細胞から構成されることが示唆された.

2.共通単球前駆細胞および修正型の顆粒球-単球前駆細胞の同定


 R1画分~R5画分の亜集団のミエロイド系細胞へのより詳細な分化能について確かめるため,単球,顆粒球,形質細胞様樹状細胞,従来型の樹状細胞が分化しうる培養の条件を確立し,これら5つの亜集団を培養した.その結果,R1画分およびR2画分からは単球のみが,R3画分からは単球および顆粒球が,R4画分からは単球,顆粒球,形質細胞様樹状細胞,従来型の樹状細胞が,R5画分からは単球,形質細胞様樹状細胞,従来型の樹状細胞が分化した(図1).
 従来型の顆粒球-単球前駆細胞にはリンパ球への分化能が残存することがわかっていたので,どの画分にリンパ球への分化能をもつ細胞が含まれるか確認した.その結果,R1画分,R2画分,R3画分にはリンパ球への分化能をもつ細胞は含まれなかった一方,R4画分およびR5画分にはリンパ球への分化能をもつ細胞が含まれることがわかった(図1).以上の結果から,CLEC12A高発現CD64高発現の画分(R2画分)をすべての単球サブセットを産生するヒトにおける共通単球前駆細胞と定義し,CLEC12A高発現CD64中発現の画分(R3画分)を樹状細胞への分化能をもたず単球あるいは顆粒球に分化する真の顆粒球-単球前駆細胞,すなわち,修正型の顆粒球-単球前駆細胞と定義した(図1).また,R1画分は既報の前単球と同一の表現型を呈したことから前単球であることが示唆された.

3.共通単球前駆細胞あるいは修正型の顆粒球-単球前駆細胞に由来する1細胞のもつ分化能


 共通単球前駆細胞あるいは修正型の顆粒球-単球前駆細胞を構成する亜集団の1細胞からどのような細胞が分化するか確かめるため,それぞれに含まれる細胞を1細胞ずつ培養した.その結果,共通単球前駆細胞はすべての単球サブセットに分化するクローンから構成され,修正型の顆粒球-単球前駆細胞は単球に分化するクローン,顆粒球に分化するクローン,顆粒球および単球に分化するクローンから構成されることが示唆された.以上の結果から,ここで定義された共通単球前駆細胞は1細胞のレベルですべての単球サブセットにおける前駆細胞であることが示唆され,また,修正型の顆粒球-単球前駆細胞は単球あるいは顆粒球のみに分化する,これまでに報告のないまったく新しい前駆細胞であることが明らかにされた.さらに,以上の結果から,マウスとヒトは単球の分化の過程はわずかに異なることが示唆された.

4.前単球,共通単球前駆細胞,修正型の顆粒球-単球前駆細胞の分化における階層関係および単球の分化の経路


 前単球,共通単球前駆細胞,修正型の顆粒球-単球前駆細胞のあいだの分化における階層関係を明らかにするために,共通単球前駆細胞および修正型の顆粒球-単球前駆細胞を24時間にわたり培養し,それぞれがどの細胞に分化するか検証した.その結果,共通単球前駆細胞からは前単球のみが分化し,修正型の顆粒球-単球前駆細胞からは前単球および共通単球前駆細胞が分化した.以上の結果から,この三者のあいだでの分化の階層関係は,修正型の顆粒球-単球前駆細胞,共通単球前駆細胞,前単球の順であることが明らかにされた(図2).



 単球のより詳細な分化の過程を明らかにするため,ミエロイド系前駆細胞の最上流に位置する共通ミエロイド前駆細胞,修正型の顆粒球-単球前駆細胞,共通単球前駆細胞,前単球,共通単球前駆細胞に由来する単球(in vitroにおいて共通単球前駆細胞を培養し単球に分化させた細胞),末梢血の単球において,遺伝子の発現を網羅的に解析した.その結果,約9000遺伝子を用いた樹形図階層型クラスタリング解析により,共通ミエロイド前駆細胞,修正型の顆粒球-単球前駆細胞,共通単球前駆細胞,前単球,共通単球前駆細胞に由来する単球,末梢血の単球,の順におのおのの遺伝子の発現パターンがひもづけされた.また,主成分解析の結果,主成分1は,クラスタリング解析と同様に,共通ミエロイド前駆細胞,修正型の顆粒球-単球前駆細胞,共通単球前駆細胞,前単球,共通単球前駆細胞に由来する単球,末梢血の単球,の順に分化することをよく表わした.さらに,末梢血の単球に特徴的な遺伝子を抽出しGSEA(gene set enrichment analysis)法により解析した結果,修正型の顆粒球-単球前駆細胞は共通ミエロイド前駆細胞よりも,共通単球前駆細胞は修正型の顆粒球-単球前駆細胞よりも,前単球は共通単球前駆細胞よりも,共通単球前駆細胞由来単球は前単球よりも,単球に特徴的な遺伝子の発現パターンをもつことが明らかにされた.以上の結果から,単球は,共通ミエロイド前駆細胞,修正型の顆粒球-単球前駆細胞,共通単球前駆細胞,前単球,末梢血の単球,の順に増殖をともない分化することが示唆された(図2).

5.マウスとヒトにおける共通単球前駆細胞の比較


 すでに,マウスにおいては共通単球前駆細胞が同定され,疾患における挙動やその機能が解析されている.したがって,ヒトの共通単球前駆細胞とマウスの共通単球前駆細胞とを比較することは,ヒトの試料ではなかなか解析できない部分をマウスの実験系を用いて代替的に解析することが有意義かどうかを判断する指標となりうる.そこで,既報のマウスの共通単球前駆細胞における遺伝子の網羅的な発現パターン6) からヒトのホモログを抽出し,ヒトの共通単球前駆細胞における遺伝子の発現パターンと比較した.約5000の遺伝子を用いた樹形図階層型クラスタリング解析の結果,マウスの共通単球前駆細胞とヒトの共通単球前駆細胞とのあいだは統計学的に有意な相関性のあることがわかった.ヒトの単球とマウスの単球とでは分化の過程に違いがあるものの,単球に限局した分化能を示す共通単球前駆細胞においては非常によく似た表現型をもつことから,マウスの共通単球前駆細胞に由来する単球の関与する疾患モデルにおいて得られた知見をヒトにも応用することのできる可能性が示された.

おわりに


 ヒトにおける血液細胞の分化の過程は,試料の入手が困難なことやその実験系に限界があることから未詳な点が多く残っている.また,ヒトにおいてはマウスにて確認されていない分化能をもつ細胞も発見されており2),ヒトとマウスの血液細胞の分化の過程は,ある程度の相同性をもちながらそれぞれに特徴的な過程が存在する.この研究において,筆者らは,ヒトの臍帯血あるいは骨髄の従来型の顆粒球-単球前駆細胞の亜集団として,共通単球前駆細胞,および,樹状細胞への分化能をもたず単球あるいは顆粒球に分化する修正型の顆粒球-単球前駆細胞を定義した.さらに,ex vivoにおける実験により,ヒトにおいて共通単球前駆細胞は修正型の顆粒球-単球前駆細胞から供給されることが示され,ヒトとマウスにおける単球の分化の過程は異なることが示唆された.ヒトにおいて,共通単球前駆細胞は単球をへて,炎症性腸疾患では炎症惹起マクロファージ,骨疾患では破骨細胞,腫瘍組織では腫瘍随伴マクロファージに分化することから,ヒトの共通単球前駆細胞を標的とした新規の治療法の開発が期待される.

文 献



  1. Ginhoux, F. & Jung, S.: Monocytes and macrophages: developmental pathways and tissue homeostasis. Nat. Rev. Immunol., 14, 392-404 (2014)[PubMed]

  2. Hettinger, J., Richards, D. M., Hansson, J. et al.: Origin of monocytes and macrophages in a committed progenitor. Nat. Immunol., 14, 821-830 (2013)[PubMed]

  3. Manz, M. G., Miyamoto, T., Akashi, K. et al.: Prospective isolation of human clonogenic common myeloid progenitors. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99, 11872-11877 (2002)[PubMed]

  4. Doulatov, S., Notta, F., Eppert, K. et al.: Revised map of the human progenitor hierarchy shows the origin of macrophages and dendritic cells in early lymphoid development. Nat. Immunol., 11, 585-593 (2010)[PubMed]

  5. Lee, J., Breton, G., Oliveira, T. Y. et al.: Restricted dendritic cell and monocyte progenitors in human cord blood and bone marrow. J. Exp. Med., 212, 385-399 (2015)[PubMed]

  6. Hoeffel, G., Chen, J., Lavin, Y. et al.: C-Myb+ erythro-myeloid progenitor-derived fetal monocytes give rise to adult tissue-resident macrophages. Immunity, 42, 665-678 (2015)[PubMed]


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著者プロフィール


川村 俊輔(Shunsuke Kawamura)
略歴:東京医科歯科大学難治疾患研究所 研究支援者.
研究テーマ:ヒトにおける血液細胞の分化の機構.
関心事:妻と娘.

樗木 俊聡(Toshiaki Ohteki)
東京医科歯科大学難治疾患研究所 教授.
研究室URL:http://www.tmd.ac.jp/mri/bre/index.html

© 2017 川村俊輔・樗木俊聡 Licensed under CC 表示 2.1 日本