ユビキチンリガーゼTRIM56は2本鎖DNAに対する自然免疫応答を制御する
河合太郎・審良静男
(大阪大学免疫学フロンティア研究センター 自然免疫学研究室)
email:河合太郎,審良静男
DOI: 10.7875/first.author.2010.055
The ubiquitin ligase TRIM56 regulates innate immune responses to intracellular double-stranded DNA.
Tetsuo Tsuchida, Jian Zou, Tatsuya Saitoh, Himanshu Kumar, Takayuki Abe, Yoshiharu Matsuura, Taro Kawai, Shizuo Akira
Immunity, 33, 765-776 (2010)
ウイルスや細菌のもつDNAは自然免疫系により認識される.この認識によりI型インターフェロンや炎症性サイトカインの産生が誘導され,感染病原体に対する適切な生体防御が行われる.しかしながら,DNAを認識する分子機構については不明な点が多い.今回,筆者らは,発現スクリーニングにより2本鎖DNAに対する自然免疫応答を制御する細胞内タンパク質としてTRIM56を同定した.このTRIM56はユビキチンリガーゼとして機能し,STINGとよばれるアダプタータンパク質のK63型ユビキチン化を促進した.この修飾によりリン酸化酵素TBK1がリクルートされ,最終的にI型インターフェロンの発現が誘導された.以上のことから,DNAに対する自然免疫応答において,TRIM56によるユビキチン化を軸とした新たなシグナル伝達経路が存在することが明らかとなった.
自然免疫は細菌,ウイルス,寄生虫といった感染病原体の初期認識ならびにそののちの炎症反応の惹起や獲得免疫の誘導に重要な役割をはたす生体防御機構である.自然免疫をつかさどる細胞であるマクロファージや樹状細胞は病原体に固有に存在する構造(pathogen-associated molecular pattern:PAMP,病原体特異的分子パターン)を認識するパターン認識受容体(pattern-recognition receptor:PRR)を発現しており,このパターン認識受容体を介して活性化シグナルが伝達される.代表的なパターン認識受容体としてToll様受容体(Toll-like receptor:TLR)ファミリーが知られている1).Toll様受容体ファミリーはヒトで13種類,マウスで10種類が報告されており,それぞれが細菌,ウイルス,寄生虫などのタンパク質,脂質,核酸といった異なるPAMPを認識して自然免疫系を活性化する.一方,Toll様受容体ファミリーは膜型受容体であるため,細胞内へと遊離したPAMPを認識することは困難であると考えられている.これらの細胞内PAMPを認識するパターン認識受容体としてRIG-I様受容体(RIG-I-like receptor:RLR)ファミリーとNOD様受容体(NOD-like receptor:NLR)ファミリーが知られている2).RIG-I様受容体ファミリーはウイルスの複製産物であるRNAを認識し,I型インターフェロンや炎症性サイトカインの産生を誘導することでウイルスに対する免疫反応を誘導する.一方,多くのNOD様受容体ファミリーの機能はまだ不明であるものの,そのなかのいくつか(たとえば,NLRP3)はさまざまな病原体の成分の刺激に応じてカスパーゼ1を活性化し,炎症性サイトカインであるインターロイキン1βの前駆体を活性化型へと変換させるインフラマソームとして機能している2).さらに近年,Toll様受容体ファミリー,RIG-I様受容体ファミリー,NOD様受容体ファミリー以外の新規のパターン認識受容体の存在も明らかにされつつある.
DNAウイルスや細菌のゲノムに存在する2本鎖DNAは自然免疫系により認識され,I型インターフェロンや炎症性サイトカインの産生を誘導することが報告されている3,4).Toll様受容体ファミリーのうちTLR9はエンドソーム内に遊離した病原体に由来するDNAを認識してI型インターフェロンを誘導することが示されている1,2)(図1).とくに,形質細胞様樹状細胞とよばれる樹状細胞におけるウイルスDNAの認識にこの経路は主要な役割をはたしている1,2).また,ある種の合成2本鎖DNAをリポフェクションにより細胞質へと導入するとTLR9非依存的に自然免疫系が活性化される3,4).この活性化にはRIG-I様受容体ファミリーのメンバーであるRIG-Iのかかわっていることが示唆されている.この場合,RIG-IはDNA自体ではなくRNAポリメラーゼIIIにより転写されたRNAの5’末端の三リン酸を含む部分を認識しているものと考えられている5)(図1).DNAを直接に認識する細胞内のRIG-I様受容体ファミリーとしてDAIやAIM2が知られている.ただし,DAIノックアウトマウスに由来する細胞ではDNA刺激によるI型インターフェロンの産生に異常が認められていないことから,さらに別のDNAセンサーの存在が示唆されている6,7).一方,AIM2はASCとカスパーゼ1とともにAIM2インフラマソームを形成しており,I型インターフェロンではなくインターロイキン1βの産生に必須の役割をはたしている8)(図1).
興味深いことに,DNAセンサーは細胞障害などにともなって細胞外へと放出された自己DNAが自然免疫細胞により取り込まれた際の認識にも関与していることが示唆されている9).重要なことに,この異常認識が炎症性疾患や自己免疫疾患の引き金となっていると考えられている.また,DNAワクチンによる自然免疫の発動と獲得免疫の誘導にはDNAセンサーからのシグナルの必要であることも示唆されている7).さらに,腫瘍血管系を破壊する抗がん剤の一種5,6-ジメチルキサンテノン-4-酢酸(DMXAA)はI型インターフェロンの産生を誘導する活性をもっているが,この誘導はToll様受容体ファミリーおよびRIG-I様受容体ファミリーに非依存的であり,おそらくDNAセンサーを介しているものと考えられている10).このように,DNAセンサーは感染や腫瘍に対する生体防御に必要である一方,炎症性疾患や自己免疫疾患の原因にもなりうる側面をあわせもっている.
DNA刺激に応じたI型インターフェロンの産生にはリン酸化酵素TBK1が主要なはたらきをしている.TBK1は刺激に応じて転写因子IRF3をリン酸化する.リン酸化をうけたIRF3は核内へと移行し,I型インターフェロンであるインターフェロンβの遺伝子を含む一連の標的遺伝子の発現を制御する.DNAセンサーの下流に位置しTBK1と結合してこれを活性化するシグナル伝達タンパク質としてSTING(別名MITA,MPYS,ERIS)が同定されている11).STINGは,過剰発現によってインターフェロンβの発現やISREプロモーター(ISRE:interferon-stimulated response element,インターフェロン刺激応答配列)の活性化をひき起こすことのできるようなタンパク質の発現スクリーニングにより同定された.STINGノックアウトマウスでは合成B型DNA(ポリdA:dT・ポリdT:dA)による刺激やHSV-1といったDNAウイルスの感染によるI型インターフェロンの産生が顕著に減少しており,DNAワクチンに対する効果も減少している12).したがって,STINGはDNAセンサーの下流に位置するシグナル伝達タンパク質であると考えられる.
筆者らは,DNAセンサーおよびそのシグナル伝達経路にかかわるタンパク質を得るため発現スクリーニングを行った.HEK293細胞にcDNA発現ライブラリー由来プラスミドをインターフェロンβ遺伝子プロモーターにより制御されるルシフェラーゼレポータープラスミドとともに導入したのち,合成B型DNAで刺激し,ルシフェラーゼの発現をライブラリープラスミドのあいだで比較した.最終的に,TRIM(tripartite motif)タンパク質ファミリーのメンバーのひとつTRIM56を同定した(図2a).TRIMタンパク質ファミリーはヒトやマウスで60種類ほど同定されており,その多くはRINGフィンガー型ユビキチンリガーゼ活性をもつ.TRIM56を細胞に発現させると合成DNAや抗がん剤の一種DMXAAによる刺激にともなうI型インターフェロンの産生誘導を上昇させた.その一方,TRIM56をノックダウンした細胞ではI型インターフェロンの産生が減少した.興味深いことに,TRIM56をSTINGとともに発現させると相乗的にインターフェロンβ遺伝子プロモーターを活性化した.くわしく調べてみると,TRIM56はユビキチンリガーゼとして機能し,STINGをK63型ユビキチン化(ユビキチンの63番目のリジン残基を介するユビキチン化)していることがわかった.TRIM56はSTINGの150番目のリジン残基のユビキチン化を誘導するが,このリジン残基をアルギニン残基に置換した変異体はインターフェロンβ遺伝子プロモーターを活性化することができなかった.さらに,この部位の修飾はSTINGの2量体形成に必要であった.また,この変異体はリン酸化酵素TBK1と結合することができなかった.以上のことから,TRIM56によるSTINGのユビキチン化は,STINGの2量体形成とTBK1のリクルートを促すものと考えられた(図2b).一方,in vitroにおいてTRIM56とDNAとのあいだに結合活性が認められないことから,TRIM56自体はDNAセンサーとして機能しているわけではなく,STINGの調節タンパク質として機能しているものと予想された.
STINGは未刺激では小胞体膜に局在しているが,DNA刺激にともないエクソシスト複合体の構成タンパク質Sec5(別名EXOC2)を含む核膜の周辺の小胞へと移行する12).この小胞にはTBK1も含まれ,このSTINGとTBK1との小胞内での複合体の形成が転写因子IRF3の活性化を誘導するものと考えられた.TRIM56は未刺激状態では細胞質に存在していたが,DNAや抗がん剤DMXAAによる刺激にともないドット状の構造へと移行し,一部はSTINGと局在をともにした.このドット状の構造は小胞体やミトコンドリアとは異なるものであった.興味深いことに,DNA刺激にともない150番目のリジン残基をアルギニン残基に置換したSTING変異体はSTING野生型と同様にTBK1を含む小胞へと移行した.このことから,STINGのユビキチン化はTBK1を含む小胞への移行には影響をあたえず,むしろ,この小胞内でのTBK1との直接の結合とそれにともなうTBK1の活性化に必要であるものと考えられた.今後は,STINGの小胞での移行を制御する分子機構の解明が必要である.
また,TRIM56を細胞内に発現させるとDNA刺激にはじまる経路のみならず,RNA刺激によりRIG-I様受容体ファミリーの活性化をへるインターフェロンβ遺伝子プロモーターの活性化も増強した.また,RIG-I様受容体ファミリーのアダプタータンパク質IPS-1 13)(別名MAVS,VISA,Cardif)の過剰発現によるインターフェロンβ遺伝子プロモーターの活性も上昇させた.しかしながら,TRIM56とIPS-1との結合やIPS-1のユビキチン化は認められなかった.これまで,STINGがRIG-I様受容体ファミリーの下流に位置していることも示唆されていたことから,TRIM56によるIPS-1の機能増強はSTINGを介した間接的なものである可能性がある.
Shuらのグループは,STINGのユビキチン化を誘導する別のユビキチンリガーゼとしてRNF5を同定している14).RNF5はTRIM56と異なり,K48型ユビキチン化(ユビキチンの48番目のリジン残基を介するユビキチン化)をとおしてSTINGの分解を導くことから,DNAセンサーシグナル伝達経路の負の制御タンパク質であると考えられる.RNF5はTRIM56と同じくSTINGの150番目のリジン残基を標的としていることから,このリジン残基はK48型ユビキチン化およびK63型ユビキチン化をとおして正と負の両方の制御をうけているものと考えられた.STINGの一部はミトコンドリアに局在していることが報告されており,同様に,RNF5もミトコンドリアに局在している14).したがって,DNA刺激やRNA刺激によりSTINGは最終的にはミトコンドリアの近辺で分解され,これがDNA刺激による自然免疫応答の収束につながっている可能性がある.
今回,TRIM56の同定をとおしてDNAセンサーのシグナル伝達経路の一部が明らかとなった.しかしながら,DNAセンサー自体の同定にはいたっておらず,今後のさらなる解析が待たれる.DNAセンサーの同定やそのシグナル伝達経路のさらなる解明は,DNAウイルスや細菌に対する免疫応答の理解にとどまらず,DNAが起因する種々の疾患の発症機序やDNAワクチン効果の発揮機構,また,DMXAAといった抗がん剤の作用機序を理解するうえで非常に重要であるものと考えられる.
略歴:2000年 大阪大学大学院医学系研究科博士課程 修了,同年 米国Burnham Medical Research Institute,2003年ERATO審良自然免疫プロジェクト グループリーダーを経て,2006年 大阪大学微生物病研究所 助教授(現 大阪大学免疫学フロンティア研究センター 准教授).
研究テーマ:自然免疫.
審良 静男(Shizuo Akira)
大阪大学免疫学フロンティア研究センター 教授.
研究室URL:http://hostdefense.ifrec.osaka-u.ac.jp/ja/index.html
© 2010 河合太郎・審良静男 Licensed under CC 表示 2.1 日本
(大阪大学免疫学フロンティア研究センター 自然免疫学研究室)
email:河合太郎,審良静男
DOI: 10.7875/first.author.2010.055
The ubiquitin ligase TRIM56 regulates innate immune responses to intracellular double-stranded DNA.
Tetsuo Tsuchida, Jian Zou, Tatsuya Saitoh, Himanshu Kumar, Takayuki Abe, Yoshiharu Matsuura, Taro Kawai, Shizuo Akira
Immunity, 33, 765-776 (2010)
要 約
ウイルスや細菌のもつDNAは自然免疫系により認識される.この認識によりI型インターフェロンや炎症性サイトカインの産生が誘導され,感染病原体に対する適切な生体防御が行われる.しかしながら,DNAを認識する分子機構については不明な点が多い.今回,筆者らは,発現スクリーニングにより2本鎖DNAに対する自然免疫応答を制御する細胞内タンパク質としてTRIM56を同定した.このTRIM56はユビキチンリガーゼとして機能し,STINGとよばれるアダプタータンパク質のK63型ユビキチン化を促進した.この修飾によりリン酸化酵素TBK1がリクルートされ,最終的にI型インターフェロンの発現が誘導された.以上のことから,DNAに対する自然免疫応答において,TRIM56によるユビキチン化を軸とした新たなシグナル伝達経路が存在することが明らかとなった.
はじめに
自然免疫は細菌,ウイルス,寄生虫といった感染病原体の初期認識ならびにそののちの炎症反応の惹起や獲得免疫の誘導に重要な役割をはたす生体防御機構である.自然免疫をつかさどる細胞であるマクロファージや樹状細胞は病原体に固有に存在する構造(pathogen-associated molecular pattern:PAMP,病原体特異的分子パターン)を認識するパターン認識受容体(pattern-recognition receptor:PRR)を発現しており,このパターン認識受容体を介して活性化シグナルが伝達される.代表的なパターン認識受容体としてToll様受容体(Toll-like receptor:TLR)ファミリーが知られている1).Toll様受容体ファミリーはヒトで13種類,マウスで10種類が報告されており,それぞれが細菌,ウイルス,寄生虫などのタンパク質,脂質,核酸といった異なるPAMPを認識して自然免疫系を活性化する.一方,Toll様受容体ファミリーは膜型受容体であるため,細胞内へと遊離したPAMPを認識することは困難であると考えられている.これらの細胞内PAMPを認識するパターン認識受容体としてRIG-I様受容体(RIG-I-like receptor:RLR)ファミリーとNOD様受容体(NOD-like receptor:NLR)ファミリーが知られている2).RIG-I様受容体ファミリーはウイルスの複製産物であるRNAを認識し,I型インターフェロンや炎症性サイトカインの産生を誘導することでウイルスに対する免疫反応を誘導する.一方,多くのNOD様受容体ファミリーの機能はまだ不明であるものの,そのなかのいくつか(たとえば,NLRP3)はさまざまな病原体の成分の刺激に応じてカスパーゼ1を活性化し,炎症性サイトカインであるインターロイキン1βの前駆体を活性化型へと変換させるインフラマソームとして機能している2).さらに近年,Toll様受容体ファミリー,RIG-I様受容体ファミリー,NOD様受容体ファミリー以外の新規のパターン認識受容体の存在も明らかにされつつある.
1.自然免疫によるDNA認識
DNAウイルスや細菌のゲノムに存在する2本鎖DNAは自然免疫系により認識され,I型インターフェロンや炎症性サイトカインの産生を誘導することが報告されている3,4).Toll様受容体ファミリーのうちTLR9はエンドソーム内に遊離した病原体に由来するDNAを認識してI型インターフェロンを誘導することが示されている1,2)(図1).とくに,形質細胞様樹状細胞とよばれる樹状細胞におけるウイルスDNAの認識にこの経路は主要な役割をはたしている1,2).また,ある種の合成2本鎖DNAをリポフェクションにより細胞質へと導入するとTLR9非依存的に自然免疫系が活性化される3,4).この活性化にはRIG-I様受容体ファミリーのメンバーであるRIG-Iのかかわっていることが示唆されている.この場合,RIG-IはDNA自体ではなくRNAポリメラーゼIIIにより転写されたRNAの5’末端の三リン酸を含む部分を認識しているものと考えられている5)(図1).DNAを直接に認識する細胞内のRIG-I様受容体ファミリーとしてDAIやAIM2が知られている.ただし,DAIノックアウトマウスに由来する細胞ではDNA刺激によるI型インターフェロンの産生に異常が認められていないことから,さらに別のDNAセンサーの存在が示唆されている6,7).一方,AIM2はASCとカスパーゼ1とともにAIM2インフラマソームを形成しており,I型インターフェロンではなくインターロイキン1βの産生に必須の役割をはたしている8)(図1).
興味深いことに,DNAセンサーは細胞障害などにともなって細胞外へと放出された自己DNAが自然免疫細胞により取り込まれた際の認識にも関与していることが示唆されている9).重要なことに,この異常認識が炎症性疾患や自己免疫疾患の引き金となっていると考えられている.また,DNAワクチンによる自然免疫の発動と獲得免疫の誘導にはDNAセンサーからのシグナルの必要であることも示唆されている7).さらに,腫瘍血管系を破壊する抗がん剤の一種5,6-ジメチルキサンテノン-4-酢酸(DMXAA)はI型インターフェロンの産生を誘導する活性をもっているが,この誘導はToll様受容体ファミリーおよびRIG-I様受容体ファミリーに非依存的であり,おそらくDNAセンサーを介しているものと考えられている10).このように,DNAセンサーは感染や腫瘍に対する生体防御に必要である一方,炎症性疾患や自己免疫疾患の原因にもなりうる側面をあわせもっている.
2.DNAセンサーを介するシグナル伝達経路
DNA刺激に応じたI型インターフェロンの産生にはリン酸化酵素TBK1が主要なはたらきをしている.TBK1は刺激に応じて転写因子IRF3をリン酸化する.リン酸化をうけたIRF3は核内へと移行し,I型インターフェロンであるインターフェロンβの遺伝子を含む一連の標的遺伝子の発現を制御する.DNAセンサーの下流に位置しTBK1と結合してこれを活性化するシグナル伝達タンパク質としてSTING(別名MITA,MPYS,ERIS)が同定されている11).STINGは,過剰発現によってインターフェロンβの発現やISREプロモーター(ISRE:interferon-stimulated response element,インターフェロン刺激応答配列)の活性化をひき起こすことのできるようなタンパク質の発現スクリーニングにより同定された.STINGノックアウトマウスでは合成B型DNA(ポリdA:dT・ポリdT:dA)による刺激やHSV-1といったDNAウイルスの感染によるI型インターフェロンの産生が顕著に減少しており,DNAワクチンに対する効果も減少している12).したがって,STINGはDNAセンサーの下流に位置するシグナル伝達タンパク質であると考えられる.
3.ユビキチンリガーゼTRIM56の同定
筆者らは,DNAセンサーおよびそのシグナル伝達経路にかかわるタンパク質を得るため発現スクリーニングを行った.HEK293細胞にcDNA発現ライブラリー由来プラスミドをインターフェロンβ遺伝子プロモーターにより制御されるルシフェラーゼレポータープラスミドとともに導入したのち,合成B型DNAで刺激し,ルシフェラーゼの発現をライブラリープラスミドのあいだで比較した.最終的に,TRIM(tripartite motif)タンパク質ファミリーのメンバーのひとつTRIM56を同定した(図2a).TRIMタンパク質ファミリーはヒトやマウスで60種類ほど同定されており,その多くはRINGフィンガー型ユビキチンリガーゼ活性をもつ.TRIM56を細胞に発現させると合成DNAや抗がん剤の一種DMXAAによる刺激にともなうI型インターフェロンの産生誘導を上昇させた.その一方,TRIM56をノックダウンした細胞ではI型インターフェロンの産生が減少した.興味深いことに,TRIM56をSTINGとともに発現させると相乗的にインターフェロンβ遺伝子プロモーターを活性化した.くわしく調べてみると,TRIM56はユビキチンリガーゼとして機能し,STINGをK63型ユビキチン化(ユビキチンの63番目のリジン残基を介するユビキチン化)していることがわかった.TRIM56はSTINGの150番目のリジン残基のユビキチン化を誘導するが,このリジン残基をアルギニン残基に置換した変異体はインターフェロンβ遺伝子プロモーターを活性化することができなかった.さらに,この部位の修飾はSTINGの2量体形成に必要であった.また,この変異体はリン酸化酵素TBK1と結合することができなかった.以上のことから,TRIM56によるSTINGのユビキチン化は,STINGの2量体形成とTBK1のリクルートを促すものと考えられた(図2b).一方,in vitroにおいてTRIM56とDNAとのあいだに結合活性が認められないことから,TRIM56自体はDNAセンサーとして機能しているわけではなく,STINGの調節タンパク質として機能しているものと予想された.
STINGは未刺激では小胞体膜に局在しているが,DNA刺激にともないエクソシスト複合体の構成タンパク質Sec5(別名EXOC2)を含む核膜の周辺の小胞へと移行する12).この小胞にはTBK1も含まれ,このSTINGとTBK1との小胞内での複合体の形成が転写因子IRF3の活性化を誘導するものと考えられた.TRIM56は未刺激状態では細胞質に存在していたが,DNAや抗がん剤DMXAAによる刺激にともないドット状の構造へと移行し,一部はSTINGと局在をともにした.このドット状の構造は小胞体やミトコンドリアとは異なるものであった.興味深いことに,DNA刺激にともない150番目のリジン残基をアルギニン残基に置換したSTING変異体はSTING野生型と同様にTBK1を含む小胞へと移行した.このことから,STINGのユビキチン化はTBK1を含む小胞への移行には影響をあたえず,むしろ,この小胞内でのTBK1との直接の結合とそれにともなうTBK1の活性化に必要であるものと考えられた.今後は,STINGの小胞での移行を制御する分子機構の解明が必要である.
また,TRIM56を細胞内に発現させるとDNA刺激にはじまる経路のみならず,RNA刺激によりRIG-I様受容体ファミリーの活性化をへるインターフェロンβ遺伝子プロモーターの活性化も増強した.また,RIG-I様受容体ファミリーのアダプタータンパク質IPS-1 13)(別名MAVS,VISA,Cardif)の過剰発現によるインターフェロンβ遺伝子プロモーターの活性も上昇させた.しかしながら,TRIM56とIPS-1との結合やIPS-1のユビキチン化は認められなかった.これまで,STINGがRIG-I様受容体ファミリーの下流に位置していることも示唆されていたことから,TRIM56によるIPS-1の機能増強はSTINGを介した間接的なものである可能性がある.
Shuらのグループは,STINGのユビキチン化を誘導する別のユビキチンリガーゼとしてRNF5を同定している14).RNF5はTRIM56と異なり,K48型ユビキチン化(ユビキチンの48番目のリジン残基を介するユビキチン化)をとおしてSTINGの分解を導くことから,DNAセンサーシグナル伝達経路の負の制御タンパク質であると考えられる.RNF5はTRIM56と同じくSTINGの150番目のリジン残基を標的としていることから,このリジン残基はK48型ユビキチン化およびK63型ユビキチン化をとおして正と負の両方の制御をうけているものと考えられた.STINGの一部はミトコンドリアに局在していることが報告されており,同様に,RNF5もミトコンドリアに局在している14).したがって,DNA刺激やRNA刺激によりSTINGは最終的にはミトコンドリアの近辺で分解され,これがDNA刺激による自然免疫応答の収束につながっている可能性がある.
おわりに
今回,TRIM56の同定をとおしてDNAセンサーのシグナル伝達経路の一部が明らかとなった.しかしながら,DNAセンサー自体の同定にはいたっておらず,今後のさらなる解析が待たれる.DNAセンサーの同定やそのシグナル伝達経路のさらなる解明は,DNAウイルスや細菌に対する免疫応答の理解にとどまらず,DNAが起因する種々の疾患の発症機序やDNAワクチン効果の発揮機構,また,DMXAAといった抗がん剤の作用機序を理解するうえで非常に重要であるものと考えられる.
文 献
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著者プロフィール
略歴:2000年 大阪大学大学院医学系研究科博士課程 修了,同年 米国Burnham Medical Research Institute,2003年ERATO審良自然免疫プロジェクト グループリーダーを経て,2006年 大阪大学微生物病研究所 助教授(現 大阪大学免疫学フロンティア研究センター 准教授).
研究テーマ:自然免疫.
審良 静男(Shizuo Akira)
大阪大学免疫学フロンティア研究センター 教授.
研究室URL:http://hostdefense.ifrec.osaka-u.ac.jp/ja/index.html
© 2010 河合太郎・審良静男 Licensed under CC 表示 2.1 日本