ラットの体性感覚皮質におけるくすぐったさと相関する神経の活動
石山晋平・Michael Brecht
(ドイツHumboldt大学Berlin,Institute for Biology,Bernstein Center for Computational Neuroscience Berlin)
email:石山晋平
DOI: 10.7875/first.author.2016.116
Neural correlates of ticklishness in the rat somatosensory cortex.
S. Ishiyama, M. Brecht
Science, 354, 757-760 (2016)
ラットはくすぐると超音波の“笑い声”を発することが知られているが,くすぐったいという感覚の生物学的な意味や神経機構については明らかにされていない.この研究において,くすぐられたラットは笑い声を発し,くすぐる手に近寄ってきて悦びのジャンプをみせることが確認された.体性感覚皮質の胴体に対応する部位の多くのニューロンはくすぐりに激しく反応し,また,少数のニューロンはくすぐりにより発火が抑制された.さらに,これらのニューロンはラットが触覚をともなわずに手と遊んでいるときも同様の活動をみせ,くすぐりと遊びには神経のレベルで強いつながりのあることが示唆された.不安なラットをくすぐると笑い声および体性感覚皮質の胴体に対応する部位のニューロンの発火の頻度が低下した.体性感覚皮質の胴体に対応する部位の深層のニューロンは笑い声のタイミングにあわせて発火の頻度が上昇し,深層の局所への刺激は笑い声を誘発した.これらの結果から,体性感覚皮質の胴体に対応する部位の深層の活動はくすぐったさと相関すると結論づけられた.
くすぐったさはおそらくもっとも不思議な感覚のひとつだろう.くすぐりは皮膚への単なる物理的な接触にすぎない.それなのに,なぜヒトはくすぐられると笑ってしまうのか.子どもはくすぐられると喜ぶのに,なぜ大人になるとくすぐりは不快なのか,そして,不快なのになぜそれでも笑うのか.なぜ脇腹はくすぐったいのに腕はあまりくすぐったくないのか.なぜ自分で自分をくすぐることができないのか.くすぐったいときの笑いとおかしいときの笑いは違うものなのか.そもそも,くすぐったさは生物学的にどんな意味があるのか.事実,くすぐったさの謎は2000年以上もまえから語られてきた.しかしながら,くすぐったさに関する多くのことは依然として謎につつまれたままである.筆者らは,くすぐったさに関する数々の謎を解明するためには,まず,くすぐったいという感覚の神経機構を明らかにする必要があると考えた.この研究は,さきに発表された,ラットがくすぐりに反応して50 kHzの超音波の“笑い声”を発して楽しむという驚異的かつ風変わりな研究1) をもとにしており,ラットにおける“くすぐったさ”を,人間の手によるくすぐりに反応してこの笑い声を発する性質と定義する.哺乳類において体性感覚皮質は触覚の情報を担い,また,ヒトにおける脳の画像の研究においてくすぐりによりこの部位が活性化されることが示されていたため2),筆者らは,体性感覚皮質に着目した.
若いラットの身体の背中,腹,尾をくすぐり,あるいは,やさしくなでて行動を観察した.ラットはやさしくなでられたときに比べ,くすぐられたときにとくに多く50 kHzの笑い声を発した.ラットにおいて50 kHzの声はポジティブな感情を示すことが知られている3).スペクトログラムのかたちから50 kHzの声を変調型,トリル型,複合型,そのほかの型に分けた.ラットは腹をくすぐられたとき(図1)にもっとも高頻度で笑い声を発し,ほかの部位をくすぐったときに比べて複合型の声が多くみられた.ラットはくすぐる手にすばやくむかってくるだけでなく,くすぐりの合間にはウサギのように両脚で飛び跳ねる“悦びのジャンプ”が観察され,ラットにとりくすぐりは報酬であるという先行研究1,4) と一貫した.さらに,ラットはいちどくすぐりがはじまるとくすぐりの合間にも笑い声を発し,くすぐったい“スイッチが入る”こともわかった.くすぐったいスイッチの入ったラットにおいては笑い声を発しながら高速で手を追いかけて遊ぶ行動もみられた.ストレスや恐怖などのネガティブな感情を示す22 kHzの声はこの研究においては確認されず,ラットにとりくすぐりや遊びはポジティブな感情をともなう楽しい体験であると解釈された.
くすぐられているラットの行動の観察と並行して,大脳の体性感覚皮質の胴体に対応する部位においてシングルユニット記録を行った.体性感覚皮質の胴体に対応する部位のニューロンの多くはやさしくなでられたとき発火の頻度が上昇し,くすぐられたときにはさらに高頻度で発火した.一方,少数のニューロンはくすぐりおよびやさしくなでることにより発火の頻度が低下した.また,笑い声と同様に,くすぐられるまえに比べ,くすぐりの合間の発火の頻度が高かった.さらに,体性感覚皮質の胴体に対応する部位のニューロンにおいてはラットが手を追いかけて遊んでいるときも同様の発火の頻度の上昇および低下がみられた.このとき,実験者の手はラットの目のまえでくすぐるときのように指をすばやく動かしているだけで,ラットの身体には触れていない.従来,体性感覚皮質は物理的な触覚に対し反応すると考えられていたが,これはそれとは異なる結果であった.これらの結果から,くすぐったさと遊びには神経のレベルでつながりがあることが示唆された.
不安なラットをくすぐってもあまり笑い声を発しないことが知られている1).そこで,くすぐりに対する体性感覚皮質の胴体に対応する部位のニューロンの反応も気分により変化するかどうかを調べるため,通常の条件および狭く高い足場に置き明るいライトで照らすことにより不安にさせた条件においてラットをくすぐった.不安な状況においては,通常の状態に比べ笑い声の頻度が低下し,同様に,体性感覚皮質の胴体に対応する部位のニューロンの発火の頻度も低下した.体性感覚皮質のニューロンの活動が気分により影響されるという報告はこれまでになく,はじめての発見であった.
くすぐりや遊びにより体性感覚皮質の胴体に対応する部位のニューロンの活動が活発になり,その活動は気分により影響されることがわかった.このニューロンの活動とくすぐりによる笑い声とのあいだに因果関係はあるのだろうか.そこで,笑い声を発するタイミングにおける体性感覚皮質の胴体に対応する部位のニューロンの発火の頻度の変化について調べた.ラットの身体への接触による触覚の刺激を原因とする体性感覚皮質の胴体に対応する部位のニューロンの活性化との混同をさけるため,この分析はくすぐりの合間に発せられた笑い声に限定した.体性感覚皮質胴体に対応する部位のニューロンの発火の頻度は笑い声の開始の直前に大きく上昇した.発火の頻度の上昇は複合型の声のときにとくに大きかった.複合型の声はくすぐられたときに特有の笑い声であるのかもしれない.さらに,体性感覚皮質の胴体に対応する部位の1層~3層の浅い層に比べ,4層および5a層においては笑い声にあわせた発火の頻度の上昇が大きかった.体性感覚皮質の胴体に対応する部位のニューロンの発火がくすぐったさによる笑い声をひき起こすかどうか調べるため,この部位の局所を刺激した.局所の刺激はランダムなタイミングで行い,ラットにとり視覚的あるいは聴覚的な情報はともなわないようにした.また,実験者の手はラットの目のとどかないところにおいた.それでもなお,ラットは局所の刺激を開始した直後,50 ms~100 msの短い遅延のあと笑い声を発した.笑い声を誘発する刺激の強度の閾値は50~300μAであったが,くすぐりの直後につづけて局所を刺激するとその閾値は下がり,また,より多くの笑い声が確認された.さらに,体性感覚皮質の胴体に対応する部位の1層~3層への局所の刺激は笑い声を誘発せず,4層~6層の深層を刺激したときにのみ笑い声が誘発された.これらの結果から,ラットの体性感覚皮質の深層における神経活動がくすぐったさと相関すると結論づけられた.
筆者らの結果は先行研究1) と一貫し,ラットはくすぐられると気分に応じて50 kHzの超音波の笑い声を発することが確認された.これまで,くすぐられて笑うと科学的に確認された動物はヒトを含む一部の霊長類とラットのみである.しかし一般的には,イヌ,ネコ,ブタ,ハイエナ,イルカ,ハリネズミなどの哺乳類だけでなく,サメ,マスなどの動物もくすぐりに対し反応を示すことが確認されている.また,悦びのジャンプも一般的に,ヒト,仔ヒツジ,モルモット,ウサギ,キツネ,ウシなどでみられる.くすぐったいという感覚が長い進化の過程で社会性をもつ動物において保存されてきたことを考えれば,この不思議な感覚の神経機構がヒトを含むほかの動物にみられたとしても不思議ではないだろう.この研究の結果から,くすぐったさと社会的な遊び行動には神経のレベルでの強いつながりがあることが示唆された.くすぐったいという感覚は,われわれヒトや動物を触れあわせ遊ばせるための脳のしかけなのではないだろうか.神経科学はもっとも学際的な学問のひとつであるが,その研究の内容はうつ病,統合失調症,依存症,恐怖などのネガティブなテーマに偏重している.いうまでもなくこれらは重要な研究であるが,一方で,楽しさ,幸福,笑い,遊びなどのポジティブな感情こそわれわれが必要としているものであり,気分障害などの疾患により失われているものである.これからの脳の研究においては,ポジティブな感情の機構について研究することも等しく重要だろう.
略歴:2014年 ドイツLeipzig大学にて博士号取得,ドイツHumboldt大学Berlin研究員.
研究テーマ:くすぐったさの神経機構.
関心事:そのほか,くすぐったさに関する数々の謎.
Michael Brecht
ドイツHumboldt大学Berlin教授.
研究室URL:https://www.activetouch.de/
© 2016 石山晋平・Michael Brecht Licensed under CC 表示 2.1 日本
(ドイツHumboldt大学Berlin,Institute for Biology,Bernstein Center for Computational Neuroscience Berlin)
email:石山晋平
DOI: 10.7875/first.author.2016.116
Neural correlates of ticklishness in the rat somatosensory cortex.
S. Ishiyama, M. Brecht
Science, 354, 757-760 (2016)
要 約
ラットはくすぐると超音波の“笑い声”を発することが知られているが,くすぐったいという感覚の生物学的な意味や神経機構については明らかにされていない.この研究において,くすぐられたラットは笑い声を発し,くすぐる手に近寄ってきて悦びのジャンプをみせることが確認された.体性感覚皮質の胴体に対応する部位の多くのニューロンはくすぐりに激しく反応し,また,少数のニューロンはくすぐりにより発火が抑制された.さらに,これらのニューロンはラットが触覚をともなわずに手と遊んでいるときも同様の活動をみせ,くすぐりと遊びには神経のレベルで強いつながりのあることが示唆された.不安なラットをくすぐると笑い声および体性感覚皮質の胴体に対応する部位のニューロンの発火の頻度が低下した.体性感覚皮質の胴体に対応する部位の深層のニューロンは笑い声のタイミングにあわせて発火の頻度が上昇し,深層の局所への刺激は笑い声を誘発した.これらの結果から,体性感覚皮質の胴体に対応する部位の深層の活動はくすぐったさと相関すると結論づけられた.
はじめに
くすぐったさはおそらくもっとも不思議な感覚のひとつだろう.くすぐりは皮膚への単なる物理的な接触にすぎない.それなのに,なぜヒトはくすぐられると笑ってしまうのか.子どもはくすぐられると喜ぶのに,なぜ大人になるとくすぐりは不快なのか,そして,不快なのになぜそれでも笑うのか.なぜ脇腹はくすぐったいのに腕はあまりくすぐったくないのか.なぜ自分で自分をくすぐることができないのか.くすぐったいときの笑いとおかしいときの笑いは違うものなのか.そもそも,くすぐったさは生物学的にどんな意味があるのか.事実,くすぐったさの謎は2000年以上もまえから語られてきた.しかしながら,くすぐったさに関する多くのことは依然として謎につつまれたままである.筆者らは,くすぐったさに関する数々の謎を解明するためには,まず,くすぐったいという感覚の神経機構を明らかにする必要があると考えた.この研究は,さきに発表された,ラットがくすぐりに反応して50 kHzの超音波の“笑い声”を発して楽しむという驚異的かつ風変わりな研究1) をもとにしており,ラットにおける“くすぐったさ”を,人間の手によるくすぐりに反応してこの笑い声を発する性質と定義する.哺乳類において体性感覚皮質は触覚の情報を担い,また,ヒトにおける脳の画像の研究においてくすぐりによりこの部位が活性化されることが示されていたため2),筆者らは,体性感覚皮質に着目した.
1.くすぐられたラットの笑い声,遊び,悦びのジャンプ
若いラットの身体の背中,腹,尾をくすぐり,あるいは,やさしくなでて行動を観察した.ラットはやさしくなでられたときに比べ,くすぐられたときにとくに多く50 kHzの笑い声を発した.ラットにおいて50 kHzの声はポジティブな感情を示すことが知られている3).スペクトログラムのかたちから50 kHzの声を変調型,トリル型,複合型,そのほかの型に分けた.ラットは腹をくすぐられたとき(図1)にもっとも高頻度で笑い声を発し,ほかの部位をくすぐったときに比べて複合型の声が多くみられた.ラットはくすぐる手にすばやくむかってくるだけでなく,くすぐりの合間にはウサギのように両脚で飛び跳ねる“悦びのジャンプ”が観察され,ラットにとりくすぐりは報酬であるという先行研究1,4) と一貫した.さらに,ラットはいちどくすぐりがはじまるとくすぐりの合間にも笑い声を発し,くすぐったい“スイッチが入る”こともわかった.くすぐったいスイッチの入ったラットにおいては笑い声を発しながら高速で手を追いかけて遊ぶ行動もみられた.ストレスや恐怖などのネガティブな感情を示す22 kHzの声はこの研究においては確認されず,ラットにとりくすぐりや遊びはポジティブな感情をともなう楽しい体験であると解釈された.
2.くすぐりおよび遊びに対する体性感覚皮質の胴体に対応する部位のニューロンの反応
くすぐられているラットの行動の観察と並行して,大脳の体性感覚皮質の胴体に対応する部位においてシングルユニット記録を行った.体性感覚皮質の胴体に対応する部位のニューロンの多くはやさしくなでられたとき発火の頻度が上昇し,くすぐられたときにはさらに高頻度で発火した.一方,少数のニューロンはくすぐりおよびやさしくなでることにより発火の頻度が低下した.また,笑い声と同様に,くすぐられるまえに比べ,くすぐりの合間の発火の頻度が高かった.さらに,体性感覚皮質の胴体に対応する部位のニューロンにおいてはラットが手を追いかけて遊んでいるときも同様の発火の頻度の上昇および低下がみられた.このとき,実験者の手はラットの目のまえでくすぐるときのように指をすばやく動かしているだけで,ラットの身体には触れていない.従来,体性感覚皮質は物理的な触覚に対し反応すると考えられていたが,これはそれとは異なる結果であった.これらの結果から,くすぐったさと遊びには神経のレベルでつながりがあることが示唆された.
3.くすぐったさは神経のレベルで気分に左右される
不安なラットをくすぐってもあまり笑い声を発しないことが知られている1).そこで,くすぐりに対する体性感覚皮質の胴体に対応する部位のニューロンの反応も気分により変化するかどうかを調べるため,通常の条件および狭く高い足場に置き明るいライトで照らすことにより不安にさせた条件においてラットをくすぐった.不安な状況においては,通常の状態に比べ笑い声の頻度が低下し,同様に,体性感覚皮質の胴体に対応する部位のニューロンの発火の頻度も低下した.体性感覚皮質のニューロンの活動が気分により影響されるという報告はこれまでになく,はじめての発見であった.
4.体性感覚皮質の胴体に対応する部位のニューロンの活動がくすぐったさによる笑い声をひき起こす
くすぐりや遊びにより体性感覚皮質の胴体に対応する部位のニューロンの活動が活発になり,その活動は気分により影響されることがわかった.このニューロンの活動とくすぐりによる笑い声とのあいだに因果関係はあるのだろうか.そこで,笑い声を発するタイミングにおける体性感覚皮質の胴体に対応する部位のニューロンの発火の頻度の変化について調べた.ラットの身体への接触による触覚の刺激を原因とする体性感覚皮質の胴体に対応する部位のニューロンの活性化との混同をさけるため,この分析はくすぐりの合間に発せられた笑い声に限定した.体性感覚皮質胴体に対応する部位のニューロンの発火の頻度は笑い声の開始の直前に大きく上昇した.発火の頻度の上昇は複合型の声のときにとくに大きかった.複合型の声はくすぐられたときに特有の笑い声であるのかもしれない.さらに,体性感覚皮質の胴体に対応する部位の1層~3層の浅い層に比べ,4層および5a層においては笑い声にあわせた発火の頻度の上昇が大きかった.体性感覚皮質の胴体に対応する部位のニューロンの発火がくすぐったさによる笑い声をひき起こすかどうか調べるため,この部位の局所を刺激した.局所の刺激はランダムなタイミングで行い,ラットにとり視覚的あるいは聴覚的な情報はともなわないようにした.また,実験者の手はラットの目のとどかないところにおいた.それでもなお,ラットは局所の刺激を開始した直後,50 ms~100 msの短い遅延のあと笑い声を発した.笑い声を誘発する刺激の強度の閾値は50~300μAであったが,くすぐりの直後につづけて局所を刺激するとその閾値は下がり,また,より多くの笑い声が確認された.さらに,体性感覚皮質の胴体に対応する部位の1層~3層への局所の刺激は笑い声を誘発せず,4層~6層の深層を刺激したときにのみ笑い声が誘発された.これらの結果から,ラットの体性感覚皮質の深層における神経活動がくすぐったさと相関すると結論づけられた.
おわりに
筆者らの結果は先行研究1) と一貫し,ラットはくすぐられると気分に応じて50 kHzの超音波の笑い声を発することが確認された.これまで,くすぐられて笑うと科学的に確認された動物はヒトを含む一部の霊長類とラットのみである.しかし一般的には,イヌ,ネコ,ブタ,ハイエナ,イルカ,ハリネズミなどの哺乳類だけでなく,サメ,マスなどの動物もくすぐりに対し反応を示すことが確認されている.また,悦びのジャンプも一般的に,ヒト,仔ヒツジ,モルモット,ウサギ,キツネ,ウシなどでみられる.くすぐったいという感覚が長い進化の過程で社会性をもつ動物において保存されてきたことを考えれば,この不思議な感覚の神経機構がヒトを含むほかの動物にみられたとしても不思議ではないだろう.この研究の結果から,くすぐったさと社会的な遊び行動には神経のレベルでの強いつながりがあることが示唆された.くすぐったいという感覚は,われわれヒトや動物を触れあわせ遊ばせるための脳のしかけなのではないだろうか.神経科学はもっとも学際的な学問のひとつであるが,その研究の内容はうつ病,統合失調症,依存症,恐怖などのネガティブなテーマに偏重している.いうまでもなくこれらは重要な研究であるが,一方で,楽しさ,幸福,笑い,遊びなどのポジティブな感情こそわれわれが必要としているものであり,気分障害などの疾患により失われているものである.これからの脳の研究においては,ポジティブな感情の機構について研究することも等しく重要だろう.
文 献
- Panksepp, J. & Burgdorf, J.: Laughing rats? Playful tickling arouses high frequency ultrasonic chirping in young rodents. in Toward a Science of Consciousness III (Hameroff, S. R., Kaszniak, A. W. & Chalmers, D. eds.), pp. 231-244, MIT Press, Cambridge (1999)
- Blakemore, S. J., Wolpert, D. M. & Frith, C. D.: Central cancellation of self-produced tickle sensation. Nat. Neurosci., 1, 635-640 (1998)[PubMed]
- Knutson, B., Burgdorf, J. & Panksepp, J.: Ultrasonic vocalizations as indices of affective states in rats. Psychol. Bull., 128, 961-977 (2002)[PubMed]
- Hori, M., Shimoju, R., Tokunaga, R. et al.: Tickling increases dopamine release in the nucleus accumbens and 50 kHz ultrasonic vocalizations in adolescent rats. Neuroreport, 24, 241-245 (2013)[PubMed]
著者プロフィール
略歴:2014年 ドイツLeipzig大学にて博士号取得,ドイツHumboldt大学Berlin研究員.
研究テーマ:くすぐったさの神経機構.
関心事:そのほか,くすぐったさに関する数々の謎.
Michael Brecht
ドイツHumboldt大学Berlin教授.
研究室URL:https://www.activetouch.de/
© 2016 石山晋平・Michael Brecht Licensed under CC 表示 2.1 日本