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Pten遺伝子の欠損後のmTORの活性化はがん抑制遺伝子を誘導し白血病発症を抑え造血幹細胞を枯渇させる

中田 大介
(米国Michigan大学,Center for Stem Cell Biology,Life Sciences Institute,Department of Internal Medicine)
email:中田大介
DOI: 10.7875/first.author.2010.050

mTOR activation induces tumor suppressors that inhibit leukemogenesis and deplete hematopoietic stem cells after Pten deletion.
Jae Y. Lee, Daisuke Nakada, Omer H. Yilmaz, Zuzana Tothova, Nancy M. Joseph, Megan S. Lim, D. Gary Gilliland, Sean J. Morrison
Cell Stem Cell, 7, 593-605 (2010)




要 約


 Pten遺伝子の欠損は造血幹細胞を枯渇させる一方で白血病始原細胞を増幅させ,mTORの阻害剤であるラパマイシンはこれら両方を抑制する.造血幹細胞と白血病始原細胞に対するmTORの2つの相反する作用を理解することは白血病の治療の発展に貢献することが期待される.筆者らは,まず,Pten遺伝子の欠損による造血幹細胞の枯渇は抗酸化剤NACでは抑制されず,この枯渇は酸化ストレスが原因ではないことを見い出した.つぎに,Pten遺伝子の欠損は造血幹細胞においてp16Ink4a遺伝子とp53遺伝子の発現を,そのほかの造血細胞においてはp19Arf遺伝子とp53遺伝子の発現を誘導することを見い出した.p53は白血病の発症を抑え造血幹細胞の枯渇を促進した.p16Ink4aは造血幹細胞の枯渇をひき起こしたが白血病の発症における効果は微少であった.p19Arfは白血病の発症を抑えたが造血幹細胞の枯渇には影響をあたえなかった.Pten遺伝子を欠損した白血病細胞では二次的な変異の導入によりがん抑制遺伝子の欠損がみられた.これらの結果から,mTORの活性化はがん抑制遺伝子を誘導することにより造血幹細胞を枯渇させ,白血病細胞ではこれらのがん抑制遺伝子が欠損していることが明らかになった.

はじめに


 ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(phosphatidylinositol 3-kinase:PI3K)経路は細胞の成長,増殖,生存を制御する重要な経路である1).受容体型チロシンキナーゼを含むさまざまな経路により活性化されたPI3Kは,ホスファチジルイノシトール-3,4,5-トリスリン酸を産生しAktを活性化させる.AktはTSCを阻害することでmTORを活性化させる.mTORはラパマイシンにより直接的に阻害されるmTORC1と,ラパマイシンにより間接的に阻害されるmTORC2の2つの複合体を形成する.mTORC1はS6Kの活性化と4EBPの不活性化によりタンパク質の合成を促し細胞成長と増殖とを促進する.Ptenはホスファチジルイノシトール-3,4,5-トリスリン酸を脱リン酸化することでAkt-mTORC1経路を抑制する.結果として,Pten遺伝子の欠損は細胞成長と増殖とを亢進させ,Pten遺伝子の変異は多くのがんにおいて発見されている.
 PI3K経路は幹細胞に多彩な影響をあたえることが知られている.Pten遺伝子を欠損した胚性幹細胞や神経幹細胞には細胞周期および自己複製能の亢進がみられる.一方で,Pten遺伝子を欠損した造血幹細胞では細胞周期の亢進がみられるが,これは造血幹細胞の急速な枯渇および白血病の発症をまねく2).造血幹細胞の枯渇および白血病の発症はラパマイシンで阻害されることからmTORに依存的であることが示されている.Tsc1遺伝子やPml遺伝子の欠損もmTOR依存的な造血幹細胞の枯渇をひき起こす3,4).すなわち,mTORは幹細胞の維持において重要な役割をはたしているものと考えられるが,mTORの活性化がどのように幹細胞の枯渇をひき起こすかは不明である.
 一方で,Pten遺伝子の欠損は転写因子FoxOの不活性化により造血幹細胞の枯渇をまねいている可能性も考えられる.FoxOは核内に局在することで活性酸素種を抑制するさまざまなタンパク質の発現を誘導する.活性化したAktはFoxOをリン酸化することでFoxOの細胞質への移行を誘導し,結果として活性酸素種が亢進する.FoxO1遺伝子,FoxO3a遺伝子,FoxO4遺伝子の多重欠損,もしくは,FoxO3a遺伝子の欠損は造血幹細胞における活性酸素種の亢進とそれによる造血幹細胞の枯渇をまねき,これらは抗酸化剤であるNAC(N-アセチル-L-システイン)により抑制される5,6).また,Tsc1遺伝子を欠損した造血幹細胞の枯渇もNACにより抑制される3).一方で,構成的活性化型Aktは活性酸素種を誘導せず,造血幹細胞の枯渇はNACにより抑制されなかった7).以上の結果から,PI3K経路のさまざまなタンパク質は活性酸素種の制御にかかわっているが,Pten遺伝子の欠損がFoxOの欠損と同じ分子機構で造血幹細胞の枯渇をひき起こしているかどうかは不明である.
 この研究で,筆者らは,Pten遺伝子の欠損はFoxO1遺伝子,FoxO3a遺伝子,FoxO4遺伝子の欠損とは異なる分子機構で造血幹細胞の枯渇をひき起こすことを見い出した.Pten遺伝子を欠損した造血幹細胞ではFoxOの不活性化や活性酸素種の亢進はみられず,造血幹細胞の枯渇はNACでは抑制されなかった.一方で,Pten遺伝子を欠損した造血幹細胞ではp16Ink4a遺伝子とp53遺伝子,そのほかの造血細胞においてはp19Arf遺伝子とp53遺伝子といったがん抑制遺伝子が誘導された.多重変異マウスの解析により,p19Arfとp53が白血病の発症を抑え,p16Ink4aとp53が造血幹細胞の枯渇をひき起こすことを発見した.これらの結果から,PI3K経路の活性化がmTORを介したがん抑制遺伝子の発現誘導をひき起こし造血幹細胞の枯渇をまねくこと,また,これらがん抑制遺伝子の欠損により白血病の発症することがわかった.

1.Pten遺伝子の欠損はAktおよびmTORC1を活性化するがFoxO3aの不活性化は起こさない


 まず,Pten遺伝子の欠損がPI3K経路の構成タンパク質の活性に影響するかどうかをウェスタンブロットにより検討した.Pten遺伝子のコンディショナルノックアウトマウスを作製し,Pten遺伝子を誘導的に欠損させたのち,1週間,ラパマイシンもしくは対照溶媒を投与し,造血幹細胞を高純度に含む細胞画分をセルソーターにより分取した.Pten遺伝子の誘導的な欠損とラパマイシン処理はともにAktの活性化を誘導した.ラパマイシン処理がS6Kを介した負のフィードバックを緩和することでAktを活性化することはすでに報告されている.一方で,Pten遺伝子の欠損はFoxO3aのタンパク質量,および,細胞内局在には影響をあたえなかった.また,Pten遺伝子の欠損はmTORC1の活性化をひき起こし,この活性化はラパマイシン処理で抑制された.Pten遺伝子の欠損がFoxOの不活性化をともなわずにmTORC1の活性化をひき起こしたことから,Pten遺伝子の欠損による造血幹細胞の枯渇はmTORC1を介して起こることが考えられた.

2.Pten遺伝子の欠損は造血幹細胞や骨髄細胞ではなく胸腺細胞において活性酸素種の亢進をもたらす


 転写因子FoxOは活性酸素種を抑制することから,Pten遺伝子を欠損した細胞において活性酸素種が亢進するかどうかを検討したところ,胸腺細胞ではPten遺伝子の欠損により活性酸素種の亢進がみられたが,造血幹細胞や骨髄細胞では活性酸素種の亢進は認められなかった.胸腺細胞でみられた活性酸素種の亢進は抗酸化剤NACにより部分的に抑制された.これらの結果は,Pten遺伝子を欠損した造血幹細胞の枯渇が活性酸素種に依存しない機序により起こっていることを示唆していた.

3.抗酸化剤NACはPten遺伝子の欠損後の造血系の異常を抑制しない


 つぎに,抗酸化剤NACがPten遺伝子の欠損ののちにみられる造血系の異常を抑制するかどうかを検討した.NACはPten遺伝子の欠損後に起こる骨髄,脾臓,胸腺の細胞数の変化や,骨髄造血幹細胞の枯渇には影響をあたえなかった.Pten遺伝子の欠損ののちの脾臓への造血幹細胞の流動については,NACによりわずかながらも抑制効果が認められた.これらの結果から,NACはPten遺伝子の欠損後に起こる造血系の異常をほとんど抑制できないことがわかった.
 また,NACがPten遺伝子を欠損した造血幹細胞の機能を回復させるかどうかを検討するため,Pten遺伝子コンディショナルノックアウトマウスにおけるPten遺伝子の誘導的な欠損ののち,造血幹細胞を非常に高純度で含む画分を単離し,放射線で内在する造血幹細胞を除いたレシピエントマウスに10細胞を移植した.移植ののち,レシピエントマウスを2群にわけ,毎日,NACあるいは対照溶媒を投与した.野生型の造血幹細胞をもつレシピエントマウスには長期骨髄再構築がみられたが,Pten遺伝子欠損型の造血幹細胞をもつレシピエントマウスには短期的な骨髄再構築しかみられず,NACによる回復効果もみられなかった.これらの結果から,Pten遺伝子を欠損した幹細胞の枯渇は活性酸素種の亢進によるものではないと考えられた.
 さらに,NACがPten遺伝子の欠損によりひき起こされる白血病の発症を抑えるかどうかを検討した.Pten遺伝子を欠損した骨髄細胞をもつレシピエントマウスは骨髄増殖性疾患やT細胞性急性リンパ性白血病を発症し,Pten遺伝子の誘導的な欠損から33日~112日後に死亡した.NAC処理をうけたPten遺伝子を欠損した骨髄細胞をもつレシピエントマウスも同様の症状を示し,生存日数を延ばすことはできなかった.以上の結果から,NACはラパマイシンとは異なり,Pten遺伝子の欠損後の白血病の発症を抑えることはできないことが明らかになった.

4.Pten遺伝子の欠損はがん抑制遺伝子を誘導する


 つぎに,Pten遺伝子の欠損後,がん抑制遺伝子の誘導がみられるかどうかを検討した.Pten遺伝子を欠損した脾臓細胞ではp19Arfやp53,p21Cip1のタンパク質量と転写産物量とが亢進し,これはラパマイシン処理により抑制されること見い出した.p16Ink4aのタンパク質量には変化は認められなかった.
 このがん抑制遺伝子の誘導が白血病の発症を抑え造血幹細胞の枯渇をまねくものと考え,未分化血球細胞集団でこれらの遺伝子発現が誘導されるかどうかを検討した.免疫沈降により,Pten遺伝子を欠損した未分化血球細胞集団ではp16Ink4a遺伝子とp53遺伝子の発現が誘導されていることを見い出した.また,定量PCRにおいてもPten遺伝子の欠損後のp16Ink4a遺伝子の転写量の亢進を確認した.さらに,造血幹細胞を抗p53抗体で免疫染色したところ,Pten遺伝子の欠損後にp53のタンパク質量の上昇を認めた.これらの手法では造血幹細胞および造血前駆細胞におけるp19Arf遺伝子の発現誘導は認められなかった.以上の結果より,Pten遺伝子の欠損ののち,p16Ink4a遺伝子とp53遺伝子の発現が造血幹細胞および造血前駆細胞で誘導されることが示された.

5.p19Arf遺伝子とp53遺伝子の欠損は白血病を促進するがp16Ink4a遺伝子の欠損は白血病に影響しない


 がん抑制遺伝子であるp16Ink4a遺伝子やp19Arf遺伝子,p53遺伝子の白血病の発症における効果を調べるため,まず,p16Ink4a遺伝子とp19Arf遺伝子のダブルノックアウトマウスとPten遺伝子コンディショナルノックアウトマウスとの二重変異マウスを作製した.Pten遺伝子のみを欠損した骨髄細胞をもつレシピエントマウスは骨髄増殖性疾患やT細胞性急性リンパ性白血病を発症しPten遺伝子の誘導的な欠損ののち49日~162日後に死亡した.一方で,Pten遺伝子にくわえp16Ink4a遺伝子およびp19Arf遺伝子を欠損した骨髄細胞をもつレシピエントマウスは骨髄増殖性疾患やT細胞性急性リンパ性白血病,および,組織球性肉腫を発症しPten遺伝子の誘導的な欠損ののち27日~65日後に死亡した.これらの結果から,p16Ink4a遺伝子とp19Arf遺伝子の欠損は白血病を促進することが明らかになった.
 p16Ink4aとp19Arfのそれぞれの役割を明らかにするため,Pten遺伝子とp16Ink4a遺伝子のダブルノックアウトマウス,および,Pten遺伝子とp19Arf遺伝子のダブルノックアウトマウスを作製した.p16Ink4a遺伝子の欠損は白血病の発症時期および白血病のタイプには影響をあたえなかった.一方で,p19Arf遺伝子の欠損は白血病の発症時期を著しく早めた.これらの結果から,p19ArfPten遺伝子の欠損後の白血病の発症を抑えることがわかった.
 つぎに,p53遺伝子ノックアウトマウスとPten遺伝子コンディショナルノックアウトマウスとの二重変異マウスを作製し,Pten遺伝子の欠損後の白血病の発症におけるp53の効果を検討した.Pten遺伝子にくわえp53遺伝子を欠損した骨髄細胞をもつレシピエントマウスは,Pten遺伝子のみを欠損した骨髄細胞をもつレシピエントマウスと比べて著しく早く白血病を発症し死亡した.すなわち,p53はPten遺伝子の欠損後の白血病の発症を抑えることが示された.

6.p16Ink4aとp53はPten遺伝子の欠損後の造血幹細胞の枯渇を促す


 つぎに,これらがん抑制遺伝子が造血幹細胞の枯渇にかかわるかどうかを検討した.それぞれのがん抑制遺伝子とPten遺伝子とのダブルノックアウトマウスより10細胞の造血幹細胞を単離し,これを移植して,骨髄再構築能を評価した.Pten遺伝子のみを欠損した造血幹細胞は移植後6~8週間のみみられる短期間の骨髄再構築能しか示さなかったが,Pten遺伝子にくわえp16Ink4a遺伝子を欠損した造血幹細胞は,Pten遺伝子のみを欠損した造血幹細胞より有意に長期にわたり骨髄を再構築した.移植後8週間でレシピエントマウスの骨髄を解析したところ,Pten遺伝子のみを欠損した造血幹細胞はみられなかったが,Pten遺伝子にくわえp16Ink4a遺伝子を欠損した造血幹細胞はみられた.これらの結果から,p16Ink4aPten遺伝子を欠損した造血幹細胞の枯渇を促進することがわかった.
 一方で,Pten遺伝子にくわえp19Arf遺伝子を欠損した造血幹細胞はPten遺伝子のみを欠損した造血幹細胞と同じく移植後6~8週間のみみられる短期間の骨髄再構築能しか示さなかった.また,p16Ink4a遺伝子とp19Arf遺伝子のダブルノックアウトマウスではp16Ink4a遺伝子の単独のノックアウトマウスと同様にPten遺伝子を欠損した造血幹細胞の骨髄再構築能を著しく回復させた.
 p53がPten遺伝子の欠損後の造血幹細胞の枯渇にかかわるかどうかを検討した.Pten遺伝子にくわえp53遺伝子を欠損した造血幹細胞は,Pten遺伝子のみを欠損した造血幹細胞より有意に長期間にわたり骨髄を再構築した.移植後8週間でレシピエントマウスの骨髄を解析したところ,Pten遺伝子のみを欠損した造血幹細胞はみられなかったがPten遺伝子にくわえp53遺伝子を欠損した造血幹細胞はみられた.これらの結果から,p53はPten遺伝子を欠損した造血幹細胞の枯渇を促進することがわかった.
 p16Ink4aとp53とがどのようにPten遺伝子を欠損した造血幹細胞を枯渇させるかは不明である.Pten遺伝子の欠損やラパマイシン処理は細胞死や細胞老化関連βガラクトシダーゼの発現をともなう細胞老化を誘導しなかった.また,Pten遺伝子の欠損は細胞周期の遅延もともなわなかった.p16Ink4aやp53は造血幹細胞の分化をひき起こすことで造血幹細胞の枯渇をもたらすのではないかと考えられた.

7.Pten遺伝子を欠損した白血病細胞はがん抑制遺伝子を抑圧する


 Pten遺伝子を欠損した造血細胞はがん抑制遺伝子を欠損することで白血病細胞化しているのかどうかを検討するため,p53遺伝子へ負の選択圧がかかっているのかどうか調べた.Pten遺伝子コンディショナルノックアウトマウスはPten遺伝子の誘導的な欠損ののち21日~45日後に骨髄増殖性疾患やT細胞性急性リンパ性白血病により死亡した.p53遺伝子をヘテロ欠損したPten遺伝子コンディショナルノックアウトマウスは,p53遺伝子をホモでもつPten遺伝子コンディショナルノックアウトマウスより著しく早く白血病を発症し,Pten遺伝子の誘導的な欠損ののち8日~39日後に死亡した.白血病を発症したp53遺伝子をヘテロ欠損したPten遺伝子コンディショナルノックアウトマウスの胸腺細胞ではp53タンパク質の著しい減少およびp53遺伝子の欠損が認められた.これらの結果から,Pten遺伝子の欠損はがん抑制遺伝子を欠損させる強い負の選択圧を生み出し,がん抑制遺伝子を欠損した細胞が白血病細胞化するものと考えられた.

おわりに


 今回の研究により,Pten遺伝子の欠損がmTORの活性化をひき起こし,mTORに依存的ながん抑制遺伝子の誘導が造血幹細胞を枯渇させ,白血病を抑えていることが明らかになった(図1).Pten遺伝子の欠損は造血幹細胞においてAktおよびmTORの活性化をひき起こしたが,FoxOには影響をあたえず活性酸素種の亢進もみられなかった.これと一致して,抗酸化剤NACはPten遺伝子の欠損による造血系の異常を抑制することはできなかった.mTORの活性化はがん抑制遺伝子p16Ink4a遺伝子とp53遺伝子を造血幹細胞において誘導することで造血幹細胞を枯渇させ,そのほかの造血細胞ではがん抑制遺伝子p19Arf遺伝子とp53遺伝子を誘導して白血病の発症を抑えた.mTORがどのようにがん抑制遺伝子の発現誘導を行うかはいまだ不明である.また,がん抑制遺伝子がどのように造血幹細胞を枯渇させているのかも不明であり興味深い.がん抑制遺伝子による細胞死や細胞老化を検出することはできなかった.ひとつの可能性として,がん抑制遺伝子の誘導は造血幹細胞の分化をひき起こしていることが考えられた.この可能性と一致して,p16Ink4a p19Arf p53トリブルノックアウトマウスに由来する分化した造血前駆細胞は造血幹細胞と同じ長期骨髄再構築能をもちあわせていることが報告されている8).これらの点は今後の研究で明らかにしていきたい.




文 献



  1. Yuan, T. L. & Cantley, L. C.: PI3K pathway alterations in cancer: variations on a theme. Oncogene, 27, 5497-5510 (2008)[PubMed]

  2. Yilmaz, O. H., Valdez, R., Theisen, B. K. et al.: Pten dependence distinguishes haematopoietic stem cells from leukaemia-initiating cells. Nature, 441, 475-482 (2006)[PubMed]

  3. Chen, C., Liu, Y., Liu, R. et al.: TSC-mTOR maintains quiescence and function of hematopoietic stem cells by repressing mitochondrial biogenesis and reactive oxygen species. J. Exp. Med., 205, 2397-2408 (2008)[PubMed]

  4. Ito, K., Bernardi, R., Morotti, A. et al.: PML targeting eradicates quiescent leukaemia-initiating cells. Nature, 453, 1072-1078 (2008)[PubMed]

  5. Tothova, Z., Kollipara, R., Huntly, B. J. et al.: FoxOs are critical mediators of hematopoietic stem cell resistance to physiologic oxidative stress. Cell, 128, 325-339 (2007)[PubMed]

  6. Miyamoto, K., Araki, K. Y., Naka, K. et al.: Foxo3a is essential for maintenance of the hematopoietic stem cell pool. Cell Stem Cell, 1, 101-112 (2007)[PubMed]

  7. Kharas, M. G., Okabe, R., Ganis, J. J. et al.: Constitutively active AKT depletes hematopoietic stem cells and induces leukemia in mice. Blood, 115, 1406-1415 (2010)[PubMed]

  8. Akala, O. O., Park, I. K., Qian, D. et al.: Long-term haematopoietic reconstitution by Trp53-/- p16Ink4a-/- p19Arf-/- multipotent progenitors. Nature, 453, 228-232 (2008)[PubMed]





著者プロフィール


中田 大介(Daisuke Nakada)
略歴:2005年 名古屋大学大学院理学研究科 修了,2006年より日本学術振興会 海外特別研究員(米国Michigan大学Sean Morrison研究室).
研究テーマ:幹細胞の自己複製を制御する分子機構の解明.
抱負:分子生物学的な手法,遺伝学的な手法を用いて,幹細胞をつかさどる難解な分子機構を解き明かしたい.

© 2010 中田 大介 Licensed under CC 表示 2.1 日本