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CD301b陽性の単核食細胞はRELMαを産生することにより個体のエネルギー収支を正に制御する

隈本洋介・岩崎明子
(米国Yale大学School of Medicine,Department of Immunobiology)
email:隈本洋介岩崎明子
DOI: 10.7875/first.author.2016.091

CD301b+ mononuclear phagocytes maintain positive energy balance through secretion of resistin-like molecule alpha.
Yosuke Kumamoto, Joao Paulo G. Camporez, Michael J. Jurczak, Marya Shanabrough, Tamas Horvath, Gerald I. Shulman, Akiko Iwasaki
Immunity, 45, 583-596 (2016)




要 約


 マクロファージや樹状細胞などの単核食細胞は全身の臓器に存在し,炎症の制御や病原微生物の排除を担うことにより生体における恒常性の維持に寄与する.創傷や感染をともなわない内因性の炎症は肥満などにより生じ,いわゆるメタボリックシンドロームの原因のひとつとして注目されている.単核食細胞はこのような内因性の炎症が生じる過程において中心的な役割をはたし,たとえば,肥満のごく初期の段階において単核食細胞が脂肪組織に集積することにより炎症が増幅されることが知られている.今回,筆者らは,マウスの単核食細胞のなかでもCD301bを発現するサブタイプに着目し,CD301b陽性の単核食細胞は脂肪組織をはじめとした全身の代謝性の臓器に存在すること,CD301b陽性の単核食細胞を除去したマウスは体重および血糖値が低下すること,この体重および血糖値の低下はCD301b陽性の単核食細胞により産生されるサイトカインRELMαの血中濃度の低下に起因することを明らかにした.

はじめに


 全身の臓器に存在する単核食細胞は微小環境や分化の経路により多様な表現型を示し,一般に,細胞表面タンパク質の発現パターンにもとづき複数のサブタイプに分類される.さらに,おのおののサブタイプはサイトカインや病原体に曝露されることによりさまざまな活性化の状態を示す.このような活性化の状態の違いはマクロファージの極性化とよばれる現象に代表され,インターフェロンγやリポ多糖など炎症性の刺激により活性化したM1型と,インターロイキン4やインターロイキン10など非炎症性の刺激により活性化したM2型とに大きく分けられる.このような極性化の概念はin vitroにおける実験から導かれたものであるが,in vivoにおいても遺伝子の発現パターンにもとづきしばしばM1型あるいはM2型に分類され1),たとえば,肥満において脂肪組織に集積するマクロファージは炎症性のタンパク質を高レベルで発現するためM1型とされ,このようなタンパク質はインスリン受容体のシグナル伝達の効率を直接的に下げることからM1型マクロファージは糖尿病の誘発性が高いと考えられている.一方,正常な脂肪組織に存在するマクロファージは抗炎症性のタンパク質を高発現することからM2型に分類され,抗糖尿病性であるとされている2,3).しかし,M2型マクロファージがインスリン感受性を上昇させる直接的な機構はわかっておらず,また,正常な脂肪組織において生体の恒常性を維持するため単核食細胞がどのような役割をはたすのかもよく理解されていない.
 M1型あるいはM2型に特徴的とされる遺伝子はマーカーとして組織において単核食細胞を分類する際に指標とされるが,生体にはM1型およびM2型の両方のマーカーを発現する単核食細胞も多く存在する4,5).これは,単核食細胞が環境からうける刺激の多様性を反映すると考えられるが,その一方で,M1型あるいはM2型のマーカーとされる遺伝子の一部には,単核食細胞の活性化の状態に応じて一過性に発現のレベルが上下する活性化マーカーだけでなく,単核食細胞のサブタイプを定義する分化マーカーも含まれる.たとえば,インテグリンCD11cはM1型マクロファージの活性化マーカーとして頻用されるが,古くから樹状細胞の代表的なマーカーとしても知られ,その発現は樹状細胞においては活性化の状態によらず比較的安定と考えられている.しかしながら,生体に存在するCD11c陽性の単核食細胞の表現型はきわめて多様で,それらがM1型マクロファージであるか樹状細胞であるかを厳密に分類するのは必ずしも容易ではない6).このように,生体においておのおのの単核食細胞のサブタイプが肥満などの代謝性ストレスに対しどのようにふるまうのかについては不明な点が多い.
 CD301bはガラクトース結合性のC型レクチンであり,生体において単核食細胞のごく一部に選択的に発現する.以前に,筆者らは,マウスのさまざまな臓器においてCD301bはMHCクラスII分子およびCD11cを高レベルに発現する表現型のよく似た細胞に発現することを明らかにした7,8).一方,CD301bのmRNAレベルの発現はインターロイキン4により刺激されたマクロファージにおいて上昇することが知られ,M2型の単核食細胞のマーカーとしてよく用いられる2,9).そこで,CD301b陽性の単核食細胞が個体のレベルにおける代謝の恒常性の維持にどのような役割をはたすのか検討した.

1.異なるM2型マーカーは独自の発現パターンを示すがCD301bはさまざまな臓器においてMHCII陽性CD11b陽性の単核食細胞に選択的に発現する


 脂肪組織,腹腔,肝臓,骨格筋,膵臓においてCD301bのタンパク質レベルの発現を調べたところ,これらの非上皮組織においてCD301bはMHCII陽性CD11c陽性CD11b陽性の単核食細胞の一部に選択的に発現することがわかった.さらに,脂肪組織および腹腔において,CD301bの発現パターンをほかのM2型の単核食細胞のマーカーであるアルギナーゼ1遺伝子およびCD206の発現パターンと比較したところ,脂肪組織においてはCD301b陽性の単核食細胞の一部がアルギナーゼ1遺伝子を発現するのに対し,腹腔のCD301b陽性の単核食細胞はアルギナーゼ1遺伝子を発現しないこと,脂肪組織および腹腔においてCD301b陽性の単核食細胞はCD206を発現するが,CD206を発現するがCD301bを発現しないサブタイプが存在すること,アルギナーゼ1遺伝子は脂肪組織においてはおもにMHCII陽性CD11c陽性CD11b陽性CD206陽性のサブタイプおよびMHCII陰性CD11c陰性CD11b陰性CD206陰性のサブタイプに発現し,一方,腹腔においてはMHCII陰性CD11c陰性CD11b陽性CD206陰性のサブタイプに発現することが明らかにされた.したがって,M2型マーカーであるCD301b,アルギナーゼ1遺伝子,CD206はそれぞれ独自の単核食細胞のサブタイプに対し選択性を示し,なかでも,CD301bは臓器によらずMHCII陽性CD11c陽性CD11b陽性のサブタイプに対し選択的に発現する傾向の強いことがわかった.CD301b陽性の単核食細胞においてはM1型マーカーとされるCD11cとM2型マーカーとされるCD301bおよびCD206が同時に発現したことから,従来のM1型およびM2型の枠組みには必ずしもあてはまらない単核食細胞のサブタイプであるといえた.

2.CD301b陽性の単核食細胞の除去は個体レベルにおけるエネルギー収支の制御に変化をもたらす


 CD301b陽性の単核食細胞の代謝の制御に関する機能を調べるため,ジフテリア毒素の投与により生体においてCD301b陽性の細胞を除去できるマウス8) を用いた.このマウスに10日間にわたりジフテリア毒素を投与したところ,ジフテリア毒素を投与していないマウスと比較して体重が有意に減少し,この傾向は高脂肪食をあたえ肥満を誘発した際にも認められた.一方,CD301b陽性の単核食細胞とは異なる単核食細胞のサブタイプであるランゲルハンス細胞を除去したマウスにおいて体重の減少は認められなかったことから,CD301b陽性の単核食細胞に固有の機構により全身の代謝が制御されることが示唆された.そこで,間接熱量測定法を試みたところ,CD301b陽性の単核食細胞を除去したマウスにおいては対照となるマウスと比較して摂食したカロリーおよびエネルギーの消費とも低下した.しかし,摂食カロリーの低下がエネルギー消費の低下より大きかったため,全体としてエネルギー収支は負にかたむいていた.また,酸素の消費量および二酸化炭素の排出量から呼吸交換率をもとめると,通常食をあたえたマウスにおいてはCD301b陽性の単核食細胞の除去により呼吸交換率は有意に低下した.このことから,CD301b陽性の単核食細胞を除去することにより体内で燃焼されるおもなエネルギー源が糖質から脂質へと変化することが示された.これらの結果から,CD301b陽性の単核食細胞はエネルギー収支を正に制御するのに重要な役割をはたすと結論づけた.

3.CD301b陽性の単核食細胞の除去は肝臓におけるインスリン感受性を上げる


 肥満にともなうマクロファージの極性化のモデルにしたがうと,M1型の単核食細胞はインスリン感受性を下げM2型の単核食細胞はインスリン感受性を上げるが3),CD301b陽性の単核食細胞はM1型マーカーおよびM2型マーカーを発現した.そこで,ジフテリア毒素の投与により生体においてCD301b陽性の細胞を除去できるマウスを用いて,CD301b陽性の単核食細胞が糖の代謝においてはたす役割について調べた.10日間にわたるジフテリア毒素の投与ののちグルコース負荷試験を行ったところ,通常食をあたえたマウスにおいては空腹時の血中インスリン濃度およびピーク時の血糖値が,高脂肪食をあたえたマウスにおいては空腹時およびピーク時の血糖値が,それぞれ有意に低下した.つぎに,高脂肪食を3週間にわたりあたえたマウスにおいて,高インスリン-正常血糖クランプ法によりインスリン感受性について調べた.その結果,CD301b陽性の単核食細胞を除去したマウスにおいて対照となるマウスと比べインスリン投与下の肝臓における糖の産生量が有意に低下した.一方,骨格筋および脂肪における糖の取り込み量は,CD301b陽性の単核食細胞を除去したマウスにおいて対照となるマウスに比べ増加の傾向にあったものの統計学的に有意な差は認められなかった.したがって,CD301b陽性の単核食細胞はおもに肝臓におけるインスリン感受性を制御することにより糖の産生を正に制御すると考えられた.

4.CD301b陽性の単核食細胞の除去は脂肪組織と肝臓とで異なる遺伝子の発現に影響する


 CD301b陽性の単核食細胞は肝臓にも存在するが,脂肪組織と比べすべての単核食細胞にしめるその割合は小さい.そのため,肝臓におけるインスリン感受性の変化は脂肪組織のCD301b陽性の単核食細胞を除去したことに起因すると考え,CD301b陽性の細胞を除去したマウスおよび野生型マウスにおいて,皮下脂肪,内臓脂肪,肝臓における遺伝子の発現パターンがどのように異なるかをマイクロアレイ法により調べた.その結果,CD301b陽性の単核食細胞の除去によりいずれかの臓器において発現量が半分以下に低下した149の遺伝子のうち,42の遺伝子は皮下脂肪および内臓脂肪の両方において発現の低下が認められ,皮下脂肪あるいは内臓脂肪のみで発現の低下した遺伝子はそれぞれ56遺伝子と23遺伝子であった.これらの遺伝子にはCD301b陽性の単核食細胞が発現すると考えられる遺伝子が多く含まれ,CD301b陽性の単核食細胞の除去が脂肪組織における単核食細胞のサブタイプの構成に大きく影響をおよぼすことが確認された.一方,肝臓において発現の低下の認められた遺伝子は28遺伝子あったが,その大部分は酵素や輸送体など代謝に関連する遺伝子であり,脂肪組織と肝臓とで共通して発現の低下が認められた遺伝子はひとつもみつからなかった.さらに,肝臓における遺伝子の発現レベルを定量PCR法により確認したところ,CD301b陽性の単核食細胞の除去により甲状腺ホルモンに関連する遺伝子,脂質の代謝に関連する遺伝子,コレステロールおよび胆汁酸の代謝に関連する遺伝子の発現に有意な変化が認められた.同様に,CD301b陽性の単核食細胞の除去により血中の遊離コレステロールの濃度およびコルチコステロンの濃度は上昇し,活性型の甲状腺ホルモンであるトリヨードチロニンの濃度は低下した.

5.CD301b陽性の単核食細胞により産生されるRELMαがエネルギー収支および血糖値を正に制御する


 これらの結果は,肝臓など脂肪以外の臓器に存在するCD301b陽性の単核食細胞が肝臓における代謝の機能を制御する可能性を否定するものではない.しかし,CD301b陽性の単核食細胞の除去にともない脂肪組織において有意に発現の低下する遺伝子のなかに単核食細胞それ自体が発現すると思われる遺伝子が多く存在したことから,これらの遺伝子に注目した.なかでも,もっとも発現の低下が顕著だったRELMαはインスリン感受性を低下させるサイトカインresistinのホモログとして知られる10).ヒトにはRELMαの直接的なオーソログは存在しないが,ヒトのresistinはマウスのresistinと比べマウスのRELMαにより近い発現パターンを示し,単核食細胞を主要な産生源のひとつとする10).皮下脂肪および内臓脂肪においてRELMαを発現する細胞をフローサイトメーターにより解析したところ,RELMαを産生する細胞の大部分は単核食細胞であり,なかでも,CD301b陽性の単核食細胞が半数以上をしめていた.さらに,CD301b陽性の単核食細胞を除去したマウスは対照となるマウスと比べ血中のRELMαの濃度が10%以下に低下しており,少なくとも,通常食をあたえられたマウスにおいてはCD301b陽性の単核食細胞が血中のRELMαの産生源の大部分であると考えられた.さらに,CD301b陽性の単核食細胞を除去したマウスにRELMαを投与したところ,体重および血糖値が対照となるマウスと同じ程度にまで回復した.したがって,CD301b陽性の単核食細胞はRELMαを産生することにより個体のエネルギー収支および糖の代謝を制御すると考えられた(図1).




おわりに
 肥満にともなうマクロファージの極性化のモデルは炎症とメタボリックシンドロームとを結びつけるキーワードとして広く認知されており,一般に,M2型の単核食細胞は炎症を抑制し血糖値を下げるとされる.今回,筆者らは,典型的なM2型マーカーのひとつであるCD301bを発現する単核食細胞に着目し,極性化のモデルからの予想に反してCD301b陽性の単核食細胞が体重および血糖値を正に制御することを見い出した.このことは,生体においてM2型とされる単核食細胞のなかには機能的に複数のサブタイプの存在することを示唆し,おのおののサブタイプのふるまいや機能をより正確に理解することの重要性を示すものである.

文 献



  1. Martinez, F. O. & Gordon, S.: The M1 and M2 paradigm of macrophage activation: time for reassessment. F1000Prime Rep., 6, 13 (2014)[PubMed]

  2. Lumeng, C. N., Bodzin, J. L. & Saltiel, A. R.: Obesity induces a phenotypic switch in adipose tissue macrophage polarization. J. Clin. Invest., 117, 175-184 (2007)[PubMed]

  3. Odegaard, J. I. & Chawla, A.: Alternative macrophage activation and metabolism. Annu. Rev. Pathol., 6, 275-297 (2011)[PubMed]

  4. Shaul, M. E., Bennett, G., Strissel, K. J. et al.: Dynamic, M2-like remodeling phenotypes of CD11c+ adipose tissue macrophages during high-fat diet: induced obesity in mice. Diabetes, 59, 1171-1181 (2010)[PubMed]

  5. Wentworth, J. M., Naselli, G., Brown, W. A. et al.: Pro-inflammatory CD11c+CD206+ adipose tissue macrophages are associated with insulin resistance in human obesity. Diabetes, 59, 1648-1656 (2010)[PubMed]

  6. Li, P., Lu, M., Nguyen, M. T. et al.: Functional heterogeneity of CD11c-positive adipose tissue macrophages in diet-induced obese mice. J. Biol. Chem., 285, 15333-15345 (2010)[PubMed]

  7. Kumamoto, Y., Denda-Nagai, K., Aida, S. et al.: MGL2+ dermal dendritic cells are sufficient to initiate contact hypersensitivity in vivo. PLoS One, 4, e5619 (2009)[PubMed]

  8. Kumamoto, Y., Linehan, M., Weinstein, J. S. et al.: CD301b+ dermal dendritic cells drive T helper 2 cell-mediated immunity. Immunity, 39, 733-743 (2013)[PubMed]

  9. Raes, G., Brys, L., Dahal, B. K. et al.: Macrophage galactose-type C-type lectins as novel markers for alternatively activated macrophages elicited by parasitic infections and allergic airway inflammation. J. Leukoc. Biol., 77, 321-327 (2005)[PubMed]

  10. Barnes, M. A., Carson, M. J. & Nair, M. G.: Non-traditional cytokines: how catecholamines and adipokines influence macrophages in immunity, metabolism and the central nervous system. Cytokine, 72, 210-219 (2015)[PubMed]


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著者プロフィール


隈本 洋介(Yosuke Kumamoto)
略歴:2007年 東京大学大学院薬学系研究科 修了,同年 米国Yale大学School of Medicineポストドクトラルフェローを経て,2012年より同Associate Research Scientist.
研究テーマ:単核食細胞のサブタイプによる生体における恒常性の維持の機構.

岩崎 明子(Akiko Iwasaki)
米国Yale大学School of Medicine教授.

© 2016 隈本洋介・岩崎明子 Licensed under CC 表示 2.1 日本