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MARCKS様タンパク質はメキシコサンショウウオにおいて外肢の再生を開始する

杉浦太久至・Elly M. Tanaka
(ドイツDresden University of Technology,DFG Research Center for Regenerative Therapies)
email:杉浦太久至
DOI: 10.7875/first.author.2016.025

MARCKS-like protein is an initiating molecule in axolotl appendage regeneration.
Takuji Sugiura, Heng Wang, Rico Barsacchi, Andras Simon, Elly M. Tanaka
Nature, 531, 237-240 (2016)




要 約


 動物は器官あるいは組織に損傷をうけると細胞を増殖させ失われた器官あるいは組織を再生するが,その際には細胞を活発に増殖させる必要がある.メキシコサンショウウオにおいては損傷への応答として,表皮から分泌され細胞の増殖を促進するタンパク質の関与が想定されているが,それがどのようなタンパク質なのかは明らかにされていなかった.筆者らは,機能的な発現クローニング法により再生芽から得たcDNAライブラリーをスクリーニングし,細胞の増殖を促進するタンパク質の候補としてメキシコサンショウウオのMARCKS様タンパク質AxMLPを同定した.また,このAxMLPはこれまで報告されていたMARCKS様タンパク質とは異なり,細胞の外に分泌されてはたらくことが示唆された.さらに,in vivoにおける機能獲得実験および機能抑制実験により,AxMLPはメキシコサンショウウオの外肢の再生の初期において細胞の増殖を促進することが示された.

はじめに


 動物における再生のしくみはさまざまであるが,一般に,器官あるいは組織の再生は細胞の増殖をともなう1).有尾両生類は脊椎動物のなかでも高い再生能をもち,成体になっても器官レベルおよび組織レベルの再生能を維持する2).一方,ヒトを含む高等な脊椎動物の成体では,器官レベルの再生能はかぎられているが,組織レベルの創傷治癒として皮膚,骨,筋肉など多くの組織が,おもにそれぞれの組織に特異的な前駆細胞により修復される1).いずれにしても,器官あるいは組織が損傷をうけた場合,細胞はそれまでの恒常性を維持するための必要最低限の増殖から,損傷した器官あるいは組織を再生するためのより活発な増殖に切り替わる必要がある.この変化はどのようにもたらされるのだろうか.
 メキシコサンショウウオ(Ambystoma mexicanum,アホロートル,ウーパールーパーともよばれる)の再生の過程において,外肢が切断されるとただちに表皮が切断面をおおう.この表皮は傷表皮とよばれ,その内側におのおのの組織の前駆細胞の集団が生じ活発な増殖がはじまり,初期の再生芽が形成される(図1).この初期の再生芽に神経組織からのシグナルがくわわることにより細胞は継続的に増殖し,それぞれの前駆細胞が分化し位置情報にもとづいたパターン形成がなされてもとの器官が再生する3).神経組織からのシグナルは初期の再生芽が形成されたのちの再生の進行に重要であると考えられている.近年,神経組織からのシグナルタンパク質に関する知見は急速に蓄積しており,メキシコサンショウウオと同じ有尾両生類のブチイモリ(Notophthalmus viridescens)においてnAGが同定され4),また,メキシコサンショウウオにおいてはBMPやFGFなどのタンパク質が神経組織からのシグナルと同様にはたらくことが示された5).一方,傷表皮は初期の再生芽の形成に必要であることが示唆されており,傷表皮を通常の表皮と外科的におき換えると再生はそれ以上進行しない6).これまで,外肢を切断したのち再生のための最初の細胞の増殖を促進し初期の再生芽を形成する傷表皮からのシグナルについては明らかにされていなかった(図1).




1.機能的な発現クローニング法によるAxMLPの同定


 スクリーニングにはブチイモリに由来する株化筋芽細胞から分化させた筋管を用いた.この筋管は,ほかの動物種に由来する筋管と同様に細胞周期を離脱しており,低濃度の血清あるいは血清を含まない培地で培養した場合,5-ブロモデオキシウリジンの核への取り込みなど,細胞周期の再進入の指標を示さない.ところが,マウスに由来する筋芽細胞から分化した筋管とは異なり,イモリに由来する筋管を10~20%の血清を含む培地で培養すると5-ブロモデオキシウリジンの核への取り込みが観察され,細胞の増殖に必要なDNAの複製が確認される7).また,in vivoにおける再生の過程においても,イモリの外肢の筋細胞は脱分化して増殖し再生芽の形成に関与することが明らかにされている8).そこで,イモリに由来する筋管の培地において5-ブロモデオキシウリジンの核への取り込みを定量することにより,細胞の増殖を促進するタンパク質をスクリーニングすることを考えた.
 メキシコサンショウウオの再生芽にイモリに由来する筋管において細胞周期の再進入を促進するタンパク質があるかどうかを確かめる目的で,再生芽に発現したmRNAをツメガエルの卵母細胞に注入し,その培養上清をイモリに由来する筋管の培地に添加し5-ブロモデオキシウリジンの核への取り込みを定量した.すると,メキシコサンショウウオの尾あるいは肢の再生芽から得られたmRNAにより10~15%の核において5-ブロモデオキシウリジンの核への取り込みが確認された.一方,再生芽ではなく通常の肢から得られたmRNAにその活性はみられなかった.これらのことから,メキシコサンショウウオの再生芽にはイモリに由来する筋管において細胞周期の再進入を促進するなんらかのタンパク質が含まれることが示された.
 筆者らの研究室のもつメキシコサンショウウオの尾部の再生芽のcDNAライブラリーにおいては,ひとつひとつの大腸菌クローンが288枚の384穴プレートに播種されている.まず,1枚の384穴プレートに含まれるすべてのクローンをひとつにまとめ“プール”とし,合計288個のプールを得た.さらに,24個のプールを“スーパープール”としてまとめ,合計12個のスーパープールを得た.それぞれのスーパープールからプラスミドDNAを精製してHEK293細胞にトランスフェクションし,その培養上清をイモリに由来する筋管の培地に添加した.すると,4つのスーパープールが5-ブロモデオキシウリジンの核へ取り込み活性を示した.スーパープールは24個のプールから構成されることから,この24個のプールからよりサイズの小さいサブプールをつくり,活性を示したスーパープールから逆向きにたどることにより1つのクローンにたどりついた.このクローンの塩基配列を決定したところ,MARCKS様タンパク質に共通してみられる3つの特徴的なドメインをもっていたことから9),AxMLP(axolotl MARCKS-like protein,メキシコサンショウウオMARCKS様タンパク質)を同定した.

2.AxMLPはin vitroにおける細胞周期の再進入に必要十分である


 培養上清から得られたAxMLPは,分泌性のタンパク質にみられる典型的なシグナルペプチドをもたなかった.また,既知のMARCKS様タンパク質につき,細胞の外に分泌されて生理活性をもつという報告はなかった9).そこで,AxMLPが培養上清に分泌されているのかどうかを確かめる目的で,AxMLPと蛍光タンパク質eGFPとの融合タンパク質のコンストラクトを作製しHEK293細胞にトランスフェクションしたところ,eGFPに由来する蛍光が培養上清に検出された.さらに,AxMLPの分泌に関し,ほかの動物種のMARCKS様タンパク質と比較する目的で,ヒト,マウス,ゼブラフィッシュ,ツメガエル,イモリそれぞれのMARCKS様タンパク質とHisタグとの融合タンパク質のコンストラクトを作製し,ウェスタンブロッティング法により培養上清への分泌量を比較したところ,ほかの動物種のMARCKS様タンパク質も培養上清に分泌されたものの,AxMLPより少ないことが明らかにされた.
 AxMLPがイモリに由来する筋管における細胞周期の再進入に必要かどうかを明らかにする目的で,AxMLPを含む培養上清を抗AxMLP抗体により処理してイモリに由来する筋管の培地に添加したところ,処理した抗体の量に応じその活性は低下した.さらに,AxMLPのみでイモリに由来する筋管における細胞周期の再進入に十分であるかどうかを確かめる目的で,AxMLPとHisタグとの融合タンパク質のコンストラクトをHEK293細胞にトランスフェクションし,培養上清からAxMLPを精製して血清を含まない培地で培養したイモリに由来する筋管の培地に添加したところ,5-ブロモデオキシウリジンの核へ取り込み活性が確認された.以上のことから,AxMLPはin vitroにおいてイモリに由来する筋管における細胞周期の再進入に必要十分であることが示された.

3.AxMLPはin vivoにおいて細胞の増殖を促進する


 AxMLPが培養細胞だけでなくメキシコサンショウウオ個体においても同様に5-ブロモデオキシウリジンの核へ取り込みを促進するかどうかを明らかにする目的で,精製したAxMLPを再生中ではない通常の尾部あるいは前肢に注入し,その3日のちに5-ブロモデオキシウリジンを腹腔に注射したところ,AxMLPを注入した個体の尾部において,表皮,脊髄,脊索の細胞,筋衛星細胞,間充織細胞にて5-ブロモデオキシウリジンの核へ取り込みのみられた細胞の割合が上昇した.また,同様の傾向は前肢への注入においても確認された.AxMLPをより過剰に供給した場合に再生を促進できるかどうかを明らかにする目的で,精製したAxMLPを尾部の切断のまえから切断ののち2日目まで複数回にわたり注入したところ,切断ののち4日目の再生芽において対照より大きな再生芽が観察された.
 AxMLPの発現クローニングにはイモリに由来する細胞を用いたが,AxMLPがイモリに対しても同様の活性を示すかどうかを明らかにする目的で,精製したAxMLPをイモリの正常な前肢,あるいは,再生中の上腕部の再生芽に注入した.すると,正常な前肢に注入した場合には5-エチニルデオキシウリジンの核へ取り込みのみられた細胞の割合は上昇しなかったが,再生芽の筋衛星細胞あるいは筋管から脱分化した細胞においては上昇していた.これらの結果から,AxMLPはイモリに対しても細胞の増殖を促進することが示された.

4.AxMLPの発現は再生の初期に上昇し傷表皮においてその局在は変化する


 AxMLPが再生の過程において,いつ,どこで発現しているかを明らかにする目的で,その発現を定量RT-PCR法により,また,その局在を抗AxMLP抗体による免疫組織化学法により解析した.尾部あるいは前肢のどちらの再生の過程においても,AxMLPの発現は切断ののち1日目にピークをむかえ,4日目までには通常のレベルにもどった.再生中ではない通常の尾部あるいは前肢から組織切片を作製し抗体により染色すると,尾部の表皮の細胞,脊髄の細胞,前肢の表皮の細胞においてAxMLPが検出された.これら表皮の細胞においてAxMLPはおもに細胞質に局在しており,この傾向は切断ののち1日目および6日目の再生芽においても観察された.一方,再生の初期に特徴的な傷表皮においては,AxMLPの局在は細胞膜の近傍に変化していた.MARCKS様タンパク質はリン酸化の状態により細胞膜から細胞質へと局在が変化することが知られている9,10).AxMLPの表皮あるいは傷表皮における局在の変化とその分泌についてはさらなる研究が必要である.

5.AxMLPは再生の初期における細胞の増殖に必要である


 メキシコサンショウウオの再生の過程における内在性のAxMLPの機能を明らかにする目的で,モルフォリノアンチセンスオリゴによるAxMLPのノックダウンを試みた.免疫組織染色により脊髄および表皮においてAxMLPの明確なシグナルが観察されたことから,脊髄および表皮にモルフォリノアンチセンスオリゴを導入し,その3日のちに尾部を切断した.切断ののち3日目に,AxMLPをノックダウンした再生芽においては5-ブロモデオキシウリジンの核へ取り込みのみられた細胞は減少していた.また,切断ののち6日目において,AxMLPをノックダウンした再生芽は対照に比べ小さかった.また,この表現型は精製したAxMLPの再生芽への注入により部分的にレスキューされた.これらの結果は,異なる塩基配列に対しデザインされた別のモルフォリノアンチセンスオリゴによっても再現された.さらに,別の機能抑制実験として,抗AxMLP抗体を尾部の再生芽に注入したところ,モルフォリノアンチセンスオリゴによるノックダウンの場合と同様に,切断ののち3日目に5-ブロモデオキシウリジンの核へ取り込みのみられた細胞の顕著な減少が観察された.以上のことから,AxMLPは再生の初期における細胞の増殖に必要であることが示された.

おわりに


 近年,メキシコサンショウウオの脊髄の再生における細胞周期に関する詳細な解析により,脊髄の再生の担い手である神経幹細胞は尾部の切断ののち細胞周期を加速し,最初の有糸分裂は切断ののち3~4日目であることが明らかにされた11).このことは,脊髄が損傷をうけるまえの組織を維持するための細胞分裂から,尾部の切断ののちに再生のためのより活発な細胞分裂への変化が起こっていることを示す.この研究においては,発現クローニング法によりAxMLPが同定され,in vivoにおける検討によりAxMLPは損傷ののち最初に細胞の増殖を促進するタンパク質のひとつであることが示された.再生の開始を狭義的に細胞の増殖と定義するならば,AxMLPは維持から再生へのドラスティックな変化をもたらすタンパク質といえるかもしれない.一方,AxMLPがどのようにして細胞の外へと分泌されるのか,細胞がどのようにしてそのシグナルを受け取り,その応答としてどのように増殖を開始するのか,という作用機序や,なぜ動物種のあいだでMARCKS様タンパク質の分泌に差があるのか,などについてはほとんど何もわかっていない.さらなる詳細な研究が必要と考えられる.

文 献



  1. Heber-Katz, E. & Stocum, L. D. (Eds.): New Perspectives in Regeneration. Springer-Verlag, Berlin (2013)

  2. Eguchi, G., Eguchi, Y., Nakamura, K. et al.: Regenerative capacity in newts is not altered by repeated regeneration and ageing. Nat. Commun., 2, 384 (2011)[PubMed]

  3. Endo, T., Bryant, S. V. & Gardiner, D. M.: A stepwise model system for limbregeneration. Dev. Biol., 270, 135-145 (2004)[PubMed]

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著者プロフィール


杉浦 太久至(Takuji Sugiura)
略歴:2006年 姫路工業大学大学院理学研究科博士後期課程 修了,2007年 ドイツMax Planck Institute of Molecular Cell Biology and GeneticsにてPost doctoral fellowを経て,2009年よりドイツDresden University of TechnologyにてPost doctoral fellow.
研究テーマ:動物をモデルとした再生の研究.再生の過程における細胞の増殖制御に着目し,“静”から“動”へ,“動”から“静”への移り変わりをどのように制御しているのか?

Elly M. Tanaka
ドイツDresden University of TechnologyにてDirector.
研究室URL:https://www.crt-dresden.de/research/crtd-core-groups/tanaka.html

© 2016 杉浦太久至・Elly M. Tanaka Licensed under CC 表示 2.1 日本