アポトーシスを起こした上皮細胞と免疫受容体CD300aとの結合が制御性T細胞の数を制御する
小田 (中橋) ちぐさ・渋谷 彰
(筑波大学医学医療系 免疫制御医学分野)
email:小田 (中橋) ちぐさ
DOI: 10.7875/first.author.2016.014
Apoptotic epithelial cells control the abundance of Treg cells at barrier surfaces.
Chigusa Nakahashi-Oda, Kankanam Gamage Sanath Udayanga, Yoshiyuki Nakamura, Yuta Nakazawa, Naoya Totsuka, Haruka Miki, Shuichi Iino, Satoko Tahara-Hanaoka, Shin-ichiro Honda, Kazuko Shibuya, Akira Shibuya
Nature Immunology, 17, 441-450 (2016)
腸管,皮膚,気道などからだの表面をおおうバリアとしての臓器の上皮細胞には,ターンオーバーにともないアポトーシスが誘導され,そののち,死細胞として排泄される.筆者らは,排泄されるだけと考えられていたアポトーシスを起こした上皮細胞は,ホスファチジルセリンを表出することにより樹状細胞の表面に存在する免疫受容体CD300aと結合し,免疫応答を抑制するはたらきをもつ制御性T細胞の数を制御することを見い出した.制御性T細胞は活性化T細胞の機能を抑制することにより免疫応答を抑制する.CD300aとホスファチジルセリンとの結合は,腸管,皮膚,気道の常在細菌からの活性化シグナルを抑制することにより制御性T細胞の数を制御し,炎症性腸疾患,アトピー性皮膚炎,アレルギー性気道炎症など炎症をきたす疾患を制御していた.
ヒトの体内では毎秒100万個以上の細胞がアポトーシスを起こしている1).細胞がアポトーシスにいたる際には細胞膜の構成成分であるリン脂質の分布が変化し,それまで脂質二重膜の内側を裏打ちしていたホスファチジルセリンが細胞膜の外側に表出する.ホスファチジルセリンを表出した細胞はアポトーシスを起こした細胞として貪食細胞によりすみやかに貪食されるが,その際,貪食細胞の表面に存在するホスファチジルセリン受容体がこのホスファチジルセリンをeat-meシグナルとして認識する.つまり,アポトーシスを起こした細胞は貪食細胞に除去されるためにホスファチジルセリンを表出するともいえ,アポトーシスを起こした細胞が体内に貯留することはない.一方で,腸管,皮膚,気道など外部の環境と接する臓器は上皮細胞におおわれ,外界からの異物や病原体の侵入をふせいでいる.これらの上皮細胞にはターンオーバーにともないつねにアポトーシスが誘導されているが,アポトーシスを起こした上皮細胞は腸では便,皮膚では垢,気道では痰の一部となり排泄される.
免疫担当細胞の表面には活性化あるいは抑制を制御する受容体が存在する.これまで,筆者らは,骨髄球系細胞の免疫応答に関与する新規の免疫受容体としてCD300ファミリーを同定しその機能を報告してきた2-7).CD300ファミリーは細胞外に免疫グロブリン様ドメインを1つもつI型膜貫通型の糖タンパク質である.データベースを用いた解析により,互いに細胞外領域が類似する,マウスで9つ,ヒトで7つのタンパク質がファミリーを形成することが判明している.CD300ファミリーのうち,CD300aは314残基からなり,細胞内領域にITIMとよばれるモチーフを4つもち抑制性シグナルを伝達すると考えられ8),骨髄球系細胞であるマクロファージ,樹状細胞,肥満細胞,顆粒球,樹状細胞などに発現する.さらに,CD300aはアポトーシスを起こした細胞に表出するホスファチジルセリンをリガンドとして結合するが,貪食は促進せず,常在細菌からの活性化シグナルを抑制してサイトカインやケモカインの産生を抑制することが明らかにされてきた9).
腸管,皮膚,気道は上皮細胞におおわれた臓器であり,その上皮細胞にはターンオーバーにともないつねにアポトーシスが誘導されているが,これら臓器においてアポトーシスを起こした細胞は,便,垢,痰とともに排泄される.ホスファチジルセリンと結合するものの貪食を促進しないCD300aの生体における機能を明らかにするため,これらの臓器に着目してCD300aノックアウトマウスを解析した.その結果,CD300aノックアウトマウスにおいては,腸管,皮膚,気道のいずれにおいても,野生型のマウスと比べ制御性T細胞が増加していた.制御性T細胞はCD4陽性T細胞のサブセットのひとつであり,活性化T細胞を抑制する機能をもつ(制御性T細胞については,濱口真英・坂口志文, 領域融合レビュー, 2, e005, 2013 も参照されたい).近年,腸管において常在細菌の一種が制御性T細胞の分化を誘導することが明らかにされたが10),無菌の環境において飼育したCD300aノックアウトマウスの大腸,皮膚,気道における制御性T細胞の数は野生型のマウスと変わらなかったことから,CD300aノックアウトマウスにおける制御性T細胞の増加においても常在細菌は不可欠であると考えられた.また,CD300aノックアウトマウスにおいても,常在細菌の存在しないリンパ節および脾臓において制御性T細胞は増加しなかった.
免疫染色およびフローサイトメトリー法により,CD300aが腸管,皮膚,気道の樹状細胞に発現していること,さらに,これらの臓器の上皮組織にはホスファチジルセリンを表出するアポトーシスを起こした細胞が存在し,CD300aを発現する樹状細胞と近接していることが見い出された.さらに,野生型のマウスにおいて,CD300aとホスファチジルセリンとの結合を阻害するMFG-E8を腸管への注入,皮膚への塗布,気道への経鼻投与により投与したところ,対照となるタンパク質の投与と比べ制御性T細胞が増加した.このことから,CD300aが制御性T細胞を抑制するためには,常在細菌にくわえ,CD300aとそのリガンドであるホスファチジルセリンとの結合が必要であることが示唆された.
CD300aノックアウトマウスにおいて増加した制御性T細胞が生体においてその抑制機能を発揮しているのかどうかを明らかにするため,デキストラン硫酸ナトリウムの経口投与による腸炎モデルを作製した.制御性T細胞は活性化T細胞の抑制に重要であり,生理的あるいは病的な免疫応答を抑制するのに必須であることが知られている.実際に,制御性T細胞を欠損したマウスは腸炎を自然発症することから,制御性T細胞は腸管の恒常性の維持に重要な役割をはたすと考えられる.CD300aノックアウトマウスにデキストラン硫酸ナトリウムを投与し腸炎を誘導したところ,野生型のマウスと比べ腸炎にともなう体重の減少,腸管の萎縮,病理組織学的な変化のいずれもが軽度であった.さらに,CD300aノックアウトマウスから制御性T細胞を除去したところ,この腸炎にともなう体重の減少の軽減が消失したことから,腸炎の症状の軽減には制御性T細胞が必要であることが示唆された.
CD300aは腸管,皮膚,気道の樹状細胞において発現することが見い出されていたが,実際に,樹状細胞の表面に存在するCD300aが制御性T細胞の数を制御するのかどうか検証するため,樹状細胞においてのみCD300aを欠損するコンディショナルノックアウトマウスを作製した.その結果,対照となるマウスと同様に,樹状細胞においてCD300aを欠損するマウスにおいても腸管において制御性T細胞が増加していた.さらに,樹状細胞においてCD300aを欠損するマウスにデキストラン硫酸ナトリウムを投与し腸炎を誘導したところ,対照となるマウスと比べ体重がほとんど減少しなかったことから,CD300aノックアウトマウスにおいて認められた制御性T細胞の増加および腸炎の症状の軽減は樹状細胞の表面に存在するCD300aの機能によるものと考えられた.
CD300aが制御性T細胞の数を制御する分子機構を明らかにするため,野生型のマウスとCD300aノックアウトマウスの腸管の樹状細胞における遺伝子の発現の違いを,DNAマイクロアレイ法および定量PCR法により解析した.その結果,CD300aノックアウトマウスの腸管の樹状細胞においては,野生型のマウスと比べインターフェロンβ遺伝子の発現が上昇していた.樹状細胞からのインターフェロンβの分泌を抗インターフェロンβ抗体により阻害したところ,制御性T細胞の増加および腸炎にともなう体重の減少の軽減が認められなくなったことから,CD300aは樹状細胞によるインターフェロンβの産生を抑制することにより制御性T細胞を抑制していると考えられた.
マウスの腸管から得た腸管上皮細胞を培養し糞便により刺激したものと,骨髄から分化を誘導した樹状細胞とを共培養したところ,CD300aノックアウトマウスに由来する樹状細胞においては,野生型のマウスに由来する樹状細胞と比べインターフェロンβの産生がより増加した.この実験系において,腸管上皮細胞は糞便による刺激により表面にホスファチジルセリンを表出するようになるが,このホスファチジルセリンとCD300aとの結合を阻害したところ,野生型のマウスに由来する樹状細胞においてもインターフェロンβの産生が増加した.また,このインターフェロンβの産生はTLR4(TLR:Toll-like receptor,Toll様受容体)を欠損したマウス,および,TLR4のシグナル伝達アダプタータンパク質のひとつであるTRIFを欠損したマウスにおいては消失したことから,CD300aはTLR4からのTRIFシグナルを抑制していることが示唆された.このことは,CD300aとTRIFのダブルノックアウトマウスにおいて制御性T細胞の増加が認められなかったこと,および,このダブルノックアウトマウスに腸炎を誘導すると対照となるマウスと同じ程度に体重が減少したことからも確認された.
CD300aは細胞内領域にITIMとよばれる細胞に抑制性シグナルを伝達するモチーフをもつ.骨髄から分化を誘導した樹状細胞を糞便により刺激したところ,CD300aにはホスファチジルセリンとの結合によりSHP-1,SHP-2,SHIPの3つのホスファターゼが結合した.さらに,糞便による刺激によるインターフェロンβの産生はSHP-1およびSHP-2により増強されていた.また,CD300aノックアウトマウスに由来する樹状細胞においては,糞便による刺激にともなうCD14とTLR4のインターナリゼーションが増強していた.これらのことから,CD300aはTLR4とCD14のインターナリゼーションをSHP-1およびSHP-2を介し抑制することにより,糞便による刺激によるTRIF経路の活性化を抑制していることが示唆された.
筆者らは,樹状細胞の表面に存在するCD300aがアポトーシスを起こした細胞に表出するホスファチジルセリンと結合することにより,樹状細胞に伝達される活性化シグナルを抑制していることを明らかにした.とくに,定常な状態の腸管においては,常在細菌から樹状細胞へと伝達される活性化シグナルによるインターフェロンβの産生の増強を抑制し,制御性T細胞の数を制御していることが明らかにされた(図1).これらのことは,アポトーシスを起こした上皮細胞が死細胞としてただ排泄されるだけでなく,役割をもつことを示したともいえる.現在,筆者らは,このバリアとしての臓器における制御性T細胞の制御に関与する常在細菌を明らかにすべく研究をつづけている.
略歴:2007年 筑波大学人間総合科学研究科博士課程 修了,筑波大学医学医療系 研究員を経て,2009年より同 助教.
研究テーマ:免疫学.
関心事:がん免疫.
渋谷 彰(Akira Shibuya)
筑波大学医学医療系 教授.
研究室URL:http://immuno-tsukuba.com/index.html
© 2016 小田 (中橋) ちぐさ・渋谷 彰 Licensed under CC 表示 2.1 日本
(筑波大学医学医療系 免疫制御医学分野)
email:小田 (中橋) ちぐさ
DOI: 10.7875/first.author.2016.014
Apoptotic epithelial cells control the abundance of Treg cells at barrier surfaces.
Chigusa Nakahashi-Oda, Kankanam Gamage Sanath Udayanga, Yoshiyuki Nakamura, Yuta Nakazawa, Naoya Totsuka, Haruka Miki, Shuichi Iino, Satoko Tahara-Hanaoka, Shin-ichiro Honda, Kazuko Shibuya, Akira Shibuya
Nature Immunology, 17, 441-450 (2016)
要 約
腸管,皮膚,気道などからだの表面をおおうバリアとしての臓器の上皮細胞には,ターンオーバーにともないアポトーシスが誘導され,そののち,死細胞として排泄される.筆者らは,排泄されるだけと考えられていたアポトーシスを起こした上皮細胞は,ホスファチジルセリンを表出することにより樹状細胞の表面に存在する免疫受容体CD300aと結合し,免疫応答を抑制するはたらきをもつ制御性T細胞の数を制御することを見い出した.制御性T細胞は活性化T細胞の機能を抑制することにより免疫応答を抑制する.CD300aとホスファチジルセリンとの結合は,腸管,皮膚,気道の常在細菌からの活性化シグナルを抑制することにより制御性T細胞の数を制御し,炎症性腸疾患,アトピー性皮膚炎,アレルギー性気道炎症など炎症をきたす疾患を制御していた.
はじめに
ヒトの体内では毎秒100万個以上の細胞がアポトーシスを起こしている1).細胞がアポトーシスにいたる際には細胞膜の構成成分であるリン脂質の分布が変化し,それまで脂質二重膜の内側を裏打ちしていたホスファチジルセリンが細胞膜の外側に表出する.ホスファチジルセリンを表出した細胞はアポトーシスを起こした細胞として貪食細胞によりすみやかに貪食されるが,その際,貪食細胞の表面に存在するホスファチジルセリン受容体がこのホスファチジルセリンをeat-meシグナルとして認識する.つまり,アポトーシスを起こした細胞は貪食細胞に除去されるためにホスファチジルセリンを表出するともいえ,アポトーシスを起こした細胞が体内に貯留することはない.一方で,腸管,皮膚,気道など外部の環境と接する臓器は上皮細胞におおわれ,外界からの異物や病原体の侵入をふせいでいる.これらの上皮細胞にはターンオーバーにともないつねにアポトーシスが誘導されているが,アポトーシスを起こした上皮細胞は腸では便,皮膚では垢,気道では痰の一部となり排泄される.
免疫担当細胞の表面には活性化あるいは抑制を制御する受容体が存在する.これまで,筆者らは,骨髄球系細胞の免疫応答に関与する新規の免疫受容体としてCD300ファミリーを同定しその機能を報告してきた2-7).CD300ファミリーは細胞外に免疫グロブリン様ドメインを1つもつI型膜貫通型の糖タンパク質である.データベースを用いた解析により,互いに細胞外領域が類似する,マウスで9つ,ヒトで7つのタンパク質がファミリーを形成することが判明している.CD300ファミリーのうち,CD300aは314残基からなり,細胞内領域にITIMとよばれるモチーフを4つもち抑制性シグナルを伝達すると考えられ8),骨髄球系細胞であるマクロファージ,樹状細胞,肥満細胞,顆粒球,樹状細胞などに発現する.さらに,CD300aはアポトーシスを起こした細胞に表出するホスファチジルセリンをリガンドとして結合するが,貪食は促進せず,常在細菌からの活性化シグナルを抑制してサイトカインやケモカインの産生を抑制することが明らかにされてきた9).
1.CD300aノックアウトマウスにおいては制御性T細胞が増加している
腸管,皮膚,気道は上皮細胞におおわれた臓器であり,その上皮細胞にはターンオーバーにともないつねにアポトーシスが誘導されているが,これら臓器においてアポトーシスを起こした細胞は,便,垢,痰とともに排泄される.ホスファチジルセリンと結合するものの貪食を促進しないCD300aの生体における機能を明らかにするため,これらの臓器に着目してCD300aノックアウトマウスを解析した.その結果,CD300aノックアウトマウスにおいては,腸管,皮膚,気道のいずれにおいても,野生型のマウスと比べ制御性T細胞が増加していた.制御性T細胞はCD4陽性T細胞のサブセットのひとつであり,活性化T細胞を抑制する機能をもつ(制御性T細胞については,濱口真英・坂口志文, 領域融合レビュー, 2, e005, 2013 も参照されたい).近年,腸管において常在細菌の一種が制御性T細胞の分化を誘導することが明らかにされたが10),無菌の環境において飼育したCD300aノックアウトマウスの大腸,皮膚,気道における制御性T細胞の数は野生型のマウスと変わらなかったことから,CD300aノックアウトマウスにおける制御性T細胞の増加においても常在細菌は不可欠であると考えられた.また,CD300aノックアウトマウスにおいても,常在細菌の存在しないリンパ節および脾臓において制御性T細胞は増加しなかった.
2.CD300aノックアウトマウスにおける制御性T細胞の増加にはCD300aとホスファチジルセリンとの結合が必要である
免疫染色およびフローサイトメトリー法により,CD300aが腸管,皮膚,気道の樹状細胞に発現していること,さらに,これらの臓器の上皮組織にはホスファチジルセリンを表出するアポトーシスを起こした細胞が存在し,CD300aを発現する樹状細胞と近接していることが見い出された.さらに,野生型のマウスにおいて,CD300aとホスファチジルセリンとの結合を阻害するMFG-E8を腸管への注入,皮膚への塗布,気道への経鼻投与により投与したところ,対照となるタンパク質の投与と比べ制御性T細胞が増加した.このことから,CD300aが制御性T細胞を抑制するためには,常在細菌にくわえ,CD300aとそのリガンドであるホスファチジルセリンとの結合が必要であることが示唆された.
3.制御性T細胞の増加は腸炎を軽減させる
CD300aノックアウトマウスにおいて増加した制御性T細胞が生体においてその抑制機能を発揮しているのかどうかを明らかにするため,デキストラン硫酸ナトリウムの経口投与による腸炎モデルを作製した.制御性T細胞は活性化T細胞の抑制に重要であり,生理的あるいは病的な免疫応答を抑制するのに必須であることが知られている.実際に,制御性T細胞を欠損したマウスは腸炎を自然発症することから,制御性T細胞は腸管の恒常性の維持に重要な役割をはたすと考えられる.CD300aノックアウトマウスにデキストラン硫酸ナトリウムを投与し腸炎を誘導したところ,野生型のマウスと比べ腸炎にともなう体重の減少,腸管の萎縮,病理組織学的な変化のいずれもが軽度であった.さらに,CD300aノックアウトマウスから制御性T細胞を除去したところ,この腸炎にともなう体重の減少の軽減が消失したことから,腸炎の症状の軽減には制御性T細胞が必要であることが示唆された.
4.CD300aは樹状細胞によるインターフェロンβの産生を抑制する
CD300aは腸管,皮膚,気道の樹状細胞において発現することが見い出されていたが,実際に,樹状細胞の表面に存在するCD300aが制御性T細胞の数を制御するのかどうか検証するため,樹状細胞においてのみCD300aを欠損するコンディショナルノックアウトマウスを作製した.その結果,対照となるマウスと同様に,樹状細胞においてCD300aを欠損するマウスにおいても腸管において制御性T細胞が増加していた.さらに,樹状細胞においてCD300aを欠損するマウスにデキストラン硫酸ナトリウムを投与し腸炎を誘導したところ,対照となるマウスと比べ体重がほとんど減少しなかったことから,CD300aノックアウトマウスにおいて認められた制御性T細胞の増加および腸炎の症状の軽減は樹状細胞の表面に存在するCD300aの機能によるものと考えられた.
CD300aが制御性T細胞の数を制御する分子機構を明らかにするため,野生型のマウスとCD300aノックアウトマウスの腸管の樹状細胞における遺伝子の発現の違いを,DNAマイクロアレイ法および定量PCR法により解析した.その結果,CD300aノックアウトマウスの腸管の樹状細胞においては,野生型のマウスと比べインターフェロンβ遺伝子の発現が上昇していた.樹状細胞からのインターフェロンβの分泌を抗インターフェロンβ抗体により阻害したところ,制御性T細胞の増加および腸炎にともなう体重の減少の軽減が認められなくなったことから,CD300aは樹状細胞によるインターフェロンβの産生を抑制することにより制御性T細胞を抑制していると考えられた.
5.CD300aは常在細菌-TLR4-TRIF-インターフェロンβ経路を抑制する
マウスの腸管から得た腸管上皮細胞を培養し糞便により刺激したものと,骨髄から分化を誘導した樹状細胞とを共培養したところ,CD300aノックアウトマウスに由来する樹状細胞においては,野生型のマウスに由来する樹状細胞と比べインターフェロンβの産生がより増加した.この実験系において,腸管上皮細胞は糞便による刺激により表面にホスファチジルセリンを表出するようになるが,このホスファチジルセリンとCD300aとの結合を阻害したところ,野生型のマウスに由来する樹状細胞においてもインターフェロンβの産生が増加した.また,このインターフェロンβの産生はTLR4(TLR:Toll-like receptor,Toll様受容体)を欠損したマウス,および,TLR4のシグナル伝達アダプタータンパク質のひとつであるTRIFを欠損したマウスにおいては消失したことから,CD300aはTLR4からのTRIFシグナルを抑制していることが示唆された.このことは,CD300aとTRIFのダブルノックアウトマウスにおいて制御性T細胞の増加が認められなかったこと,および,このダブルノックアウトマウスに腸炎を誘導すると対照となるマウスと同じ程度に体重が減少したことからも確認された.
6.CD300aはCD14とTLR4のインターナリゼーションを抑制する
CD300aは細胞内領域にITIMとよばれる細胞に抑制性シグナルを伝達するモチーフをもつ.骨髄から分化を誘導した樹状細胞を糞便により刺激したところ,CD300aにはホスファチジルセリンとの結合によりSHP-1,SHP-2,SHIPの3つのホスファターゼが結合した.さらに,糞便による刺激によるインターフェロンβの産生はSHP-1およびSHP-2により増強されていた.また,CD300aノックアウトマウスに由来する樹状細胞においては,糞便による刺激にともなうCD14とTLR4のインターナリゼーションが増強していた.これらのことから,CD300aはTLR4とCD14のインターナリゼーションをSHP-1およびSHP-2を介し抑制することにより,糞便による刺激によるTRIF経路の活性化を抑制していることが示唆された.
おわりに
筆者らは,樹状細胞の表面に存在するCD300aがアポトーシスを起こした細胞に表出するホスファチジルセリンと結合することにより,樹状細胞に伝達される活性化シグナルを抑制していることを明らかにした.とくに,定常な状態の腸管においては,常在細菌から樹状細胞へと伝達される活性化シグナルによるインターフェロンβの産生の増強を抑制し,制御性T細胞の数を制御していることが明らかにされた(図1).これらのことは,アポトーシスを起こした上皮細胞が死細胞としてただ排泄されるだけでなく,役割をもつことを示したともいえる.現在,筆者らは,このバリアとしての臓器における制御性T細胞の制御に関与する常在細菌を明らかにすべく研究をつづけている.
文 献
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著者プロフィール
略歴:2007年 筑波大学人間総合科学研究科博士課程 修了,筑波大学医学医療系 研究員を経て,2009年より同 助教.
研究テーマ:免疫学.
関心事:がん免疫.
渋谷 彰(Akira Shibuya)
筑波大学医学医療系 教授.
研究室URL:http://immuno-tsukuba.com/index.html
© 2016 小田 (中橋) ちぐさ・渋谷 彰 Licensed under CC 表示 2.1 日本