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インターフェロンおよびインターロイキン27は2型自然リンパ球による2型免疫反応を抑制する

茂呂和世・加畑宏樹・小安重夫
(理化学研究所統合生命医科学研究センター 免疫細胞システム研究グループ)
email:茂呂和世加畑宏樹
DOI: 10.7875/first.author.2016.001

Interferon and IL-27 antagonize the function of group 2 innate lymphoid cells and type 2 innate immune responses.
Kazuyo Moro, Hiroki Kabata, Masanobu Tanabe, Satoshi Koga, Natsuki Takeno, Miho Mochizuki, Koichi Fukunaga, Koichiro Asano, Tomoko Betsuyaku, Shigeo Koyasu
Nature Immunology, 17, 76-86 (2016)




要 約


 2型自然リンパ球は寄生虫の感染やアレルギー疾患に対する2型免疫反応において重要な役割を担うが,これまで,その制御機構についてはほとんど報告されていなかった.今回,筆者らは,2型自然リンパ球を抑制するサイトカインを探索し,生体における2型自然リンパ球の制御機構について検討した.in vitroにおいて,インターフェロンおよびインターロイキン27は2型自然リンパ球の増殖およびサイトカインの産生を抑制することが見い出された.寄生虫の感染したマウスや喘息モデルマウスに対しこれらのサイトカインを投与したところ,2型自然リンパ球の活性化および好酸球性炎症が抑制された.一方,インターフェロンγ受容体を欠損したマウスでは2型自然リンパ球は抑制されず,好酸球性炎症がより遷延した.インターフェロンおよびインターロイキン27は2型サイトカインの産生能をもつほかの細胞と比較して2型自然リンパ球に対し強い抑制効果が認められた.RNAシークエンス法によりインターフェロンおよびインターロイキン27が2型自然リンパ球においてSTAT1を活性化することが判明し,STAT1ノックアウトマウスを用いて,これらのサイトカインがSTAT1に依存的に2型自然リンパ球を抑制することが明らかにされた.

はじめに


 抗原に依存して分化する獲得免疫系のリンパ球であるTh2細胞はインターロイキン4,インターロイキン5,インターロイキン13などの2型サイトカインを産生し,寄生虫の感染やアレルギー疾患において重要な役割を担う.しかし近年,獲得免疫を介さず,上皮細胞から産生されるインターロイキン33やインターロイキン25などに直接に反応して大量のインターロイキン5およびインターロイキン13を産生する2型自然リンパ球が発見され1),2型サイトカインの新しい産生細胞として注目されている.とくに,気管支喘息においてはインターロイキン33および2型自然リンパ球が重症化に関与することが示唆されており2),2型自然リンパ球の制御が難治性の喘息に対する新しい治療法につながる可能性がある.
 今回,筆者らは,インターフェロンおよびインターロイキン27がSTAT1に依存的に2型自然リンパ球を抑制し,寄生虫や真菌により誘導される好酸球性炎症や粘液の産生を抑制することを明らかにした.

1.2型自然リンパ球は炎症の局所において増殖し2型免疫応答を誘導する


 2010年,筆者らは,マウスの脂肪組織に存在するリンパ節とは異なる小さなリンパ組織FALC(fat-associated lymphoid cluster)において,インターロイキン2とインターロイキン25の共刺激,あるいは,インターロイキン33に反応して大量のインターロイキン5およびインターロイキン13を産生する新しいリンパ球を同定し,ナチュラルヘルパー細胞と名づけた1).この細胞は,既存の血球細胞の発現する表面抗原については陰性であったが,c-Kit,Sca-1,インターロイキン2受容体,インターロイキン7受容体,インターロイキン33受容体などが陽性であり,現在では,総じて2型自然リンパ球とよばれている3)
 インターロイキン33はアレルゲン,ウイルス,真菌,寄生虫などの病原体,細胞の傷害によりおもに上皮細胞や内皮細胞などから放出されるサイトカインである.インターロイキン33をマウスの気道に投与すると肺胞の洗浄液や肺の組織において2型自然リンパ球の数が増加し,2型サイトカインが産生され好酸球性炎症が生じる.この反応は獲得免疫系においてはたらくT細胞およびB細胞を欠損するRag2ノックアウトマウスにおいても同様に認められるが,T細胞およびB細胞にくわえ2型自然リンパ球も欠損するIl2rg Rag2ノックアウトマウスにおいては生じない.しかし,このノックアウトマウスにFALCから単離した2型自然リンパ球を尾静脈から移植すると,インターロイキン33の投与により好酸球性炎症が誘導されることから,インターロイキン33による2型免疫応答は2型自然リンパ球に依存的であると考えられた.
 気道に検出された2型自然リンパ球は,骨髄やFALCから血流により遊走してきたのか,あるいは,肺の局所に存在する2型自然リンパ球が増殖したものなのかについて検討した.FALCから単離した2型自然リンパ球を尾静脈より投与すると肺胞の洗浄液に2型自然リンパ球が検出されることはさきに述べたとおりであるが,実際に生体において2型自然リンパ球が血流により遊走するかどうか確認するため,CD45.1あるいはCD45.2を発現する2種類のマウスの皮膚を結合させ血液の循環を共有するパラビオーシスを作製した.このマウスの気管にインターロイキン33を投与し,肺胞の洗浄液および肺の組織に出現する細胞のCD45.1とCD45.2との比率をフローサイトメトリーにて検討した.その結果,好酸球およびT細胞は脂肪組織,脾臓,肺などにおいてCD45.1とCD45.2とが混在していたのに対し,2型自然リンパ球ではCD45.1とCD45.2の混在は認められなかった.すなわち,インターロイキン33を気道に投与した際,2型自然リンパ球は血流により遊走してくるのではなく,肺の局所において2型自然リンパ球が増殖したことにより肺胞の洗浄液に2型自然リンパ球が出現したと考えられた.
 インターロイキン25によりリンパ節などにおいて分化する細胞はnuocyteあるいは炎症性2型自然リンパ球とよばれ,2型自然リンパ球とは表面抗原の発現パターンやサイトカインに対する反応性が異なる4,5).培養系における実験により,2型自然リンパ球はインターロイキン2,インターロイキン7,インターロイキン25,インターロイキン33の存在のもと数カ月以上も生存するのに対し,nuocyteあるいは炎症性2型自然リンパ球は最大でも10日しか生存しないことが判明した.
 これらの結果をまとめると,2型自然リンパ球はインターロイキン33により肺の局所において増殖し2型免疫反応を起こす.2型自然リンパ球は血流により遊走せず,長期間にわたり生存するため,適切な抑制機構が存在しないと炎症が遷延しアレルギー疾患につながるのではないかと考えられた.

2.インターフェロンは2型自然リンパ球の増殖およびサイトカインの産生を抑制する


 どのようなサイトカインが2型自然リンパ球を抑制するのか調べるため,2型自然リンパ球におけるサイトカイン受容体の発現について評価した.その結果,分化に必須であるインターロイキン7受容体,増殖と活性化にかかわるインターロイキン2受容体,初期の活性化にかかわるインターロイキン4受容体,サイトカインの産生に関与するインターロイキン25およびインターロイキン33受容体のほか,新たにインターフェロン受容体,インターロイキン10受容体,インターロイキン12受容体を発現していることが明らかにされた.そこで,FALCから2型自然リンパ球を単離しこれらのサイトカインの影響について検討したところ,インターロイキン10には2型自然リンパ球の抑制効果は認められず,インターロイキン12は弱い抑制効果をもち,インターフェロンβおよびインターフェロンγは2型自然リンパ球の増殖およびサイトカインの産生を強く抑制した.

3.生体においてインターフェロンは2型自然リンパ球を制御する


 生体におけるインターフェロンの機能について調べるため,インターロイキン2とインターロイキン25,あるいは,インターロイキン33を気管に投与する際,同時にインターフェロンγも投与した.その結果,肺胞の洗浄液における2型自然リンパ球の数およびサイトカインの産生が抑制され,好酸球の浸潤および杯細胞の過形成も抑制された.
 寄生虫の感染の初期に2型自然リンパ球が産生するインターロイキン5およびインターロイキン13が寄生虫の排除に重要な役割を担うことが報告されているが,マウスに腸管寄生線虫Nippostrongylus brasiliensisを感染させたところ,肺において2型自然リンパ球および好酸球の増加が確認された.レポーターマウスを用いてインターフェロンγを産生する細胞について調べたところ,定常状態ではナチュラルキラー細胞および樹状細胞においてインターフェロンγの発現がみられ,寄生虫の感染したときには獲得免疫系のリンパ球であるT細胞およびナチュラルキラーT細胞がインターフェロンγを発現することが示唆された.インターフェロンγ受容体を欠損するマウスに寄生虫を感染させたところ,肺胞の洗浄液において2型自然リンパ球および好酸球がインターフェロンγシグナルの欠損により長期にわたり存在し,生体においてインターフェロンγが2型自然リンパ球による2型免疫応答の終息に関与することが示唆された.また,寄生虫の感染と同時に気道にインターフェロンγを投与すると,2型自然リンパ球および好酸球性炎症が抑制された一方,腸管からの寄生虫の排除が阻害された(図1).




4.生体においてインターロイキン27も2型自然リンパ球を抑制する


 さまざまなサイトカインが2型自然リンパ球にあたえる影響について網羅的に検討した結果,樹状細胞などから産生されるインターロイキン27も2型自然リンパ球の増殖およびサイトカインの産生を抑制することが見い出された.
 生体におけるインターロイキン27の役割について評価するため,喘息モデルマウスを用いた.Alternaria alternataは大気に存在する真菌の一種であり,喘息の増悪との関連が報告されている.その抽出液をマウスの気道に投与すると短時間でインターロイキン33が産生され,2型自然リンパ球およびTh2細胞の分化が誘導されることが知られている.この喘息モデルマウスにおいて,抽出液と同時にインターロイキン27を投与すると,肺胞の洗浄液における2型自然リンパ球の数およびサイトカインの産生は抑制され,好酸球性炎症も抑制された.また,2型自然リンパ球はインターロイキン27の濃度と比例して減少したのに対し,Th2細胞は同じ濃度ではほとんど抑制がみられなかった.インターフェロンγを用いた際も同様の結果が得られた.すなわち,インターフェロンγおよびインターロイキン27は獲得免疫系においてはたらくTh2細胞よりも,自然免疫系においてはたらく2型自然リンパ球を強く抑制することが示された(図2).




5.インターフェロンおよびインターロイキン27はSTAT1に依存的に2型自然リンパ球を抑制する


 インターフェロンおよびインターロイキン27がどのような機序により2型自然リンパ球を抑制するかについて調べるため,RNAシークエンス法により検討した.その結果,2型自然リンパ球の分化や機能に重要な転写因子であるGATA3に依存することなく,インターフェロンおよびインターロイキン27は転写因子STAT1を強く活性化することが明らかにされた.野生型のマウスに由来する2型自然リンパ球はインターフェロンγおよびインターロイキン27により増殖およびサイトカインの産生が抑制されたのに対し,STAT1ノックアウトマウスに由来する2型自然リンパ球では抑制はみられなかった.このことから,インターフェロンおよびインターロイキン27がSTAT1に依存的に2型自然リンパ球を抑制することが示された.
 炎症性2型自然リンパ球と2型自然リンパ球に対する抑制効果を比較したところ,炎症性2型自然リンパ球においてはインターフェロンあるいはインターロイキン27による抑制がほとんどみられなかった.このことから,生存期間の短い炎症性2型自然リンパ球に対してはこれを制御するサイトカインは必要ないが,長期間にわたり生存する2型自然リンパ球には強い抑制効果をもつサイトカインが必須であるという,生体における合理的な機構が存在することが示唆された.

おわりに


 2010年に発見されて以来,2型自然リンパ球は世界中で精力的に研究され,寄生虫の感染をはじめ,アレルギー疾患,好酸球性疾患,悪性腫瘍などさまざまな疾患との関連が示唆されている.2型自然リンパ球の特徴は非常に長期間にわたり生存することであり,生体において抑制系の機序の存在することが示唆されていたが,これまでその機序は明らかにされていなかった.今回,インターフェロンおよびインターロイキン27が2型自然リンパ球に対し非常に強い抑制効果をもつことが明らかにされ,生体においてインターフェロンが欠損することにより2型自然リンパ球が抑制されず好酸球性炎症が遷延するという知見が得られた.2型自然リンパ球の抑制機構を理解することがさまざまな疾患の新しい治療法につながることを期待している.

文 献



  1. Moro, K., Yamada, T., Tanabe, M. et al.: Innate production of TH2 cytokines by adipose tissue-associated c-Kit+Sca-1+ lymphoid cells. Nature, 463, 540-544 (2010)[PubMed]

  2. Kabata, H., Moro, K., Fukunaga, K. et al.: Thymic stromal lymphopoietin induces corticosteroid resistance in natural helper cells during airway inflammation. Nat. Commun., 4, 2675 (2013)[PubMed]

  3. Spits, H., Artis, D., Colonna, M. et al.: Innate lymphoid cells: a proposal for uniform nomenclature. Nat. Rev. Immunol., 13, 145-149 (2013)[PubMed]

  4. Neill, D. R., Wong, S. H., Bellosi, A. et al.: Nuocytes represent a new innate effector leukocyte that mediates type-2 immunity. Nature, 464, 1367-1370 (2010)[PubMed]

  5. Huang, Y., Guo, L., Qiu, J. et al.: IL-25-responsive, lineage-negative KLRG1hi cells are multipotential ‘inflammatory’ type 2 innate lymphoid cells. Nat. Immunol., 16, 161-169 (2015)[PubMed]





著者プロフィール


茂呂 和世(Kazuyo Moro)
略歴:2010年 慶應義塾大学大学院医学研究科にて博士号取得,2012年 理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センター 上級研究員を経て,2015年より理化学研究所統合生命医科学研究センター チームリーダー.
抱負:2型自然リンパ球の生体における役割を解明したい.

加畑 宏樹(Hiroki Kabata)
慶應義塾大学医学部 助教.

小安 重夫(Shigeo Koyasu)
理化学研究所統合生命医科学研究センター グループディレクター.

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