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腸管の上皮細胞より産生された血清アミロイドAによるTh17細胞の機能的な分化の誘導

佐野晃之・Wendy Huang・Dan R. Littman
(米国New York大学School of Medicine,Skirball Institute of Biomolecular Medicine)
email:佐野晃之
DOI: 10.7875/first.author.2015.113

An IL-23R/IL-22 circuit regulates epithelial serum amyloid A to promote local effector Th17 responses.
Teruyuki Sano, Wendy Huang, Jason A. Hall, Yi Yang, Alessandra Chen, Samuel J. Gavzy, June-Yong Lee, Joshua W. Ziel, Emily R. Miraldi, Ana I. Domingos, Richard Bonneau, Dan R. Littman
Cell, 163, 381-393 (2015)




要 約


 Th17細胞は感染防御において重要な役割をはたす一方,その異常な活性化は自己免疫疾患の原因になる.Th17細胞は腸管の粘膜に豊富に存在し,その分化は転写因子RORγtにより制御され,共生細菌や病原性細菌に応答してインターロイキン17やインターロイキン22を分泌する.セグメント細菌はTh17細胞の分化を誘導するユニークな共生細菌であるが,セグメント細菌により分化の誘導されたTh17細胞は自己免疫疾患を増悪させることが報告されている.そのため,Th17細胞を質および量の観点から制御することがもとめられているが,共生細菌によるTh17細胞の分化の誘導の分子機構は不明であった.この研究においては,セグメント細菌をもたないマウスにセグメント細菌を経口投与することによりTh17細胞の分化の誘導を再構築し,Th17細胞の分化がどのように誘導されるかについて検討した.その結果,Th17細胞の分化は2段階で誘導されることが示唆された.1段階目は腸管に所属するリンパ節である腸間膜リンパ節においてRORγtが発現することによりTh17細胞への分化が誘導され,そののち,局所における刺激によりサイトカインを産生する機能的に成熟したTh17細胞の分化が誘導される.この結果は,Th17細胞によりひき起こされる自己免疫疾患の発症の機序および増悪の過程を理解するうえで重要な知見になることが期待される.

はじめに


 腸管は定常な状態において数百種類の細菌との共生状態にあり,腸管の粘膜においては多くの免疫細胞が恒常的に活性化した状態で存在する.宿主の免疫系はこれらの共生細菌を制御し腸管における恒常性を維持する一方で,腸管における共生細菌の定着は宿主の免疫系の活性化に必要であることが報告されている1,2).実際に,Bacteroides fragiliおよび数種のClostridia属細菌からなる細菌の集団は制御性ヘルパーT細胞の分化を誘導することにより全身の免疫寛容において重要な役割をはたす3).筆者らの研究グループは,共生細菌であるセグメント細菌がインターロイキン17を産生するヘルパーT細胞であるTh17細胞の分化を誘導することを報告してきた4).Th17細胞はほかの臓器に比べ腸管の粘膜に豊富に存在する.Th17細胞の分化は転写因子RORγtにより制御され,インターロイキン17やインターロイキン22などのサイトカインを分泌することにより,腸管をはじめとする生体の恒常性の維持に大きく貢献する5).Th17細胞の数が減少するとCandida albicansPseudomonas aeruginosaといった病原細菌の感染に対する抵抗性がいちじるしく低下する6).一方で,Th17細胞の異常な活性化が関節リウマチ,クローン病,多発性硬化症などの自己免疫疾患の原因になることが報告されている7).Th17細胞の分化の機構を解明し生体におけるTh17細胞の量および質を制御することにより,Th17細胞による生体の恒常性の維持,および,Th17細胞によりひき起こされる免疫疾患を制御することが期待されている.
 筆者らの研究グループは,特定の腸内細菌によりTh17細胞の分化が誘導されることを見い出した.実際に,無菌マウスにはTh17細胞はごくわずかしかみられず,一方で,SPF(specific pathogen free,特定の病原微生物がいない)環境においてTh17細胞の分化はすでに誘導されておりインターロイキン17が分泌されている.また,米国Taconic farm社から搬入されたC57BL/6マウスの小腸ではヘルパーT細胞のうち約30%がTh17細胞であったのに対し,米国Jackson Laboratoryから搬入されたC57BL/6マウスにはTh17細胞は3~5%しか存在しなかった.次世代シークエンサーを用いた共生細菌の解析により,Taconic farm社から搬入されたマウスにはセグメント細菌が存在するが,Jackson Laboratoryから搬入されたマウスにはセグメント細菌は存在しないことがわかった.また,無菌マウスにセグメント細菌のみを投与したマウスにおいてはTh17細胞が増加したことから,セグメント細菌はマウスにおいてTh17細胞の分化を誘導することが明らかにされた4).また,完全な無菌マウスに比べ,セグメント細菌のみをもつ無菌マウスにおいては関節リウマチおよび脳脊髄炎の発症および悪性度が有意に上昇することが報告されている8,9).これらの報告は,腸管においてセグメント細菌により分化の誘導されたTh17細胞が局所における自己免疫性の炎症に関与することを示唆していた.
 しかしながら,腸内に生着したセグメント細菌がTh17細胞の分化をどのように誘導するかについては依然として不明であった.そこで,この研究は,セグメント細菌をもたないマウスを用いて,セグメント細菌の腸管への生着およびその結果として起こるTh17細胞の分化の誘導を再構築するマウスのモデルを確立し,どのような分子機構によりTh17細胞の分化が誘導されるかについて検討することを第1の目標にした.

1.セグメント細菌への分化は腸間膜リンパ節において誘導される


 セグメント細菌をもつマウスより糞便を採取し,そこに含まれる細菌を単離したのち,セグメント細菌をもたないマウスに経口投与することにより,腸管におけるセグメント細菌の生着を試みた.投与の1日後にはセグメント細菌は回腸に達し,3日後には回腸において上皮細胞に突き刺さるようなかたちで増殖した.また,セグメント細菌は十二指腸や大腸には生着せず,セグメント細菌と上皮細胞との結合はみられなかった.
 セグメント細菌を投与したのちのTh17細胞の分化を経時的に観察した.投与の14日後にはセグメント細菌が生着する回腸においてTh17細胞の分化が観察された.セグメント細菌が局在する回腸だけでなく,局在しない十二指腸,大腸,腸管膜リンパ節においてもTh17細胞の分化が観察された.セグメント細菌によるTh17細胞の分化の誘導がどこで開始されるかを確認するため分化を経時的に観察したところ,回腸,十二指腸,大腸においては投与の7日後にTh17細胞の分化が確認されたのに対し,腸管膜リンパ節においては4日後には分化が観察された.これらの結果から,セグメント細菌により分化の誘導されたTh17細胞は腸管に所属するリンパ節である腸間膜リンパ節において分化し,そののち腸管の全体に移行することが示唆された.

2.セグメント細菌により分化の誘導されたTh17細胞は回腸においてさらに活性化される


 Th17細胞の産生するインターロイキン17Aに着目し,十二指腸,回腸,大腸,腸間膜リンパ節においてインターロイキン17Aを測定したところ,インターロイキン17Aを産生するTh17細胞はセグメント細菌の局在する回腸にのみ局在していた.これらの結果から,セグメント細菌によるTh17細胞への分化は2段階で進むことが示唆された.1段階目は,腸管膜リンパ節においてTh17細胞への抗原提示が起こり,RORγt陽性Th17細胞へと分化する.そののち,分化したRORγt陽性Th17細胞は腸管の全体に広がるように移行する.2段階目は,回腸に到達したRORγt陽性Th17細胞だけがインターロイキン17Aを産生する細胞へとさらに成熟する.そこで,回腸におけるセグメント細菌の生着がこのTh17細胞の成熟を誘導していると考え,セグメント細菌により誘導される局所的な変化がどのようにTh17細胞の成熟を誘導するかについて調べた.

3.腸管の上皮細胞より分泌される血清アミロイドAはTh17細胞を刺激しインターロイキン17Aを産生させる


 セグメント細菌は回腸において上皮細胞に突き刺さるように生着し,そののち,上皮細胞においてさまざまな遺伝子の活性化を誘導するが,とくに,抗菌ペプチドや炎症性分泌タンパク質をコードする遺伝子が強く活性化される.そこで,Th17細胞を直接的に刺激するタンパク質が存在すると仮定し,上皮細胞においてセグメント細菌により発現の誘導される分泌タンパク質に着目した.セグメント細菌をもたないマウスとセグメント細菌をもつマウスの遺伝子発現の差をRNA-seq法により解析した結果,とくに回腸の上皮細胞において血清アミロイドAをコードする遺伝子の活性化が強く誘導されることがわかった.血清アミロイドAをコードする遺伝子を欠損させたマウスの回腸においては,対照となるマウスに比べ,RORγt陽性Th17細胞の数に変化はみられなかったが,インターロイキン17Aを産生するRORγt陽性Th17細胞の数は有意に減少していた.さらに,in vitroにおいてTh17細胞に分化させた細胞は,組換え体の血清アミロイドAに応答してインターロイキン17Aを多く産生したことから,血清アミロイドAはRORγt陽性Th17細胞に直接的に作用し機能的な成熟を誘導するタンパク質であることが明らかにされた.

4.腸管におけるセグメント細菌の生着により3型自然リンパ球が活性化しインターロイキン22を産生させる


 セグメント細菌による血清アミロイドAの産生の分子機構を解明するため,上皮細胞においてセグメント細菌により活性化された遺伝子の情報をもとにパスウェイ解析を行った.その結果,転写因子であるStat1およびStat3により制御されるカスケードが有意に活性化されている可能性が見い出された.実際に,セグメント細菌の投与ののち上皮細胞においてStat3が強くリン酸化されること,上皮細胞に特異的にStat3を欠損したマウスでは上皮細胞における血清アミロイドAをコードする遺伝子の活性化がいちじるしく減弱することが確認された.Stat3は腸管の粘膜においてインターロイキン6やインターロイキン22といったサイトカインにより活性化されることが知られている.血清アミロイドAをコードする遺伝子はセグメント細菌の投与の2~3日後に強く活性化される一方で,インターロイキン22をコードする遺伝子は投与の24時間後には活性化しはじめた.そこで,これらサイトカインを欠損するマウスにセグメント細菌を投与し血清アミロイドAをコードする遺伝子の発現を解析した結果,その活性化はインターロイキン22に依存していることがわかった.また,in vitroにおいて調製した回腸に由来するオルガノイドにおいてもインターロイキン22の刺激により血清アミロイドAをコードする遺伝子が活性化されたことから,インターロイキン22は上皮細胞を直接的に刺激し血清アミロイドAをコードする遺伝子が活性化されると結論づけた.
 インターロイキン22は上皮細胞からは分泌されない.そこで,ほかの細胞がセグメント細菌を認識してインターロイキン22を分泌している可能性を考えた.セグメント細菌を投与したのち腸管の粘膜から細胞を回収し,フローサイトメトリーによりインターロイキン22を産生する細胞を解析したところ,RORγtを発現する3型自然リンパ球がインターロイキン22を産生していることがわかった.実際に,セグメント細菌の投与の72時間後には3型自然リンパ球は強く活性化しインターロイキン22を分泌した.

5.3型自然リンパ球におけるインターロイキン23受容体シグナルは血清アミロイドAの産生に必要である


 自然リンパ球は近年になり同定された細胞種で,非常にユニークな特徴をもつ.自然リンパ球はヘルパーT細胞と対になっており,同じ転写因子を必須とし同じサイトカインを産生する.3型自然リンパ球はTh17細胞と対になっており,Th17細胞と同様にRORγtを必須としインターロイキン17およびインターロイキン22を産生する.唯一,異なる点は,自然リンパ球は抗原提示による特異性の教育を必要としないことである.つまり,自然リンパ球は特異性をもたない代わりに抗原提示を必要とせず,その応答は速い.また近年,2型リンパ球は抗原を直接に貪食して抗原提示するという報告もあるが,この報告は,自然リンパ球が異物を直接的に認識する可能性を示唆する.そこで,3型自然リンパ球がセグメント細菌を直接的に認識するかどうかを検討した.Th17細胞および3型自然リンパ球によるサイトカインの産生においては,インターロイキン23受容体が重要であるが,インターロイキン23受容体を欠損するマウスにおいてはセグメント細菌に応答した血清アミロイドAをコードする遺伝子の活性化はみられなかった.これらの結果から,腸管へのセグメント細菌の生着ののち,インターロイキン23受容体,インターロイキン22,転写因子Stat3に依存した自然リンパ球と上皮細胞との細胞間コミュニケーションにより分泌された血清アミロイドAが,Th17細胞の機能的な成熟を誘導することが明らかにされた(図1).




おわりに


 近年,腸管に存在する共生細菌が自己免疫疾患に影響をおよぼすことが報告されている8,9).しかしながら,腸管において分化する共生細菌に特異的なTh17細胞が,どのようにして神経や関節において異常に活性化するかは依然として不明である.筆者らの研究の結果から考察されたTh17細胞の分化は2段階で進行するという新たな概念は,腸管において分化の誘導されたTh17細胞が炎症の生じた神経や関節において再活性化されるという可能性を示唆する.このことから,各種の自己免疫疾患においてTh17細胞の異常な活性化に血清アミロイドAが関与するかどうかを調べることは重要であろう.また,各種の自己免疫疾患の局所においてはサイトカインの産生が非常に強く活性化されている.このサイトカインストームがひき起こす局所的な遺伝子発現の変化とTh17細胞の異常な活性化との関係を詳細に解析することは,自己免疫疾患の制御および治療に貢献すると期待される.
 最近,腸管の上皮細胞へのセグメント細菌の強い結合がTh17細胞の分化に必要であることが報告された10).これらの結果は,上皮細胞における血清アミロイドAの活性化には,上皮細胞において直接的にセグメント細菌を認識しインターロイキン22と協調してはたらく経路が相補的に存在することを示唆する.セグメント細菌に対する特異的な受容体を同定することは,共生細菌がどのようにしてTh17細胞の分化を誘導するかだけでなく,共生細菌がいかに宿主免疫系と協調してこれを活性化させるかを理解するために重要な知見になるだろう.

文 献



  1. Honda, K. & Littman, D. R.: The microbiome in infectious disease and inflammation. Annu. Rev. Immunol., 30, 759-795 (2012)[PubMed]

  2. Hooper L. V., Littman, D. R. & Macpherson, A. J.: Interactions between the microbiota and the immune system. Science, 336, 1268-1273 (2012)[PubMed]

  3. Atarashi, K., Tanoue, T., Oshima, W. et al.: Treg induction by a rationally selected mixture of Clostridia strains from the human microbiota. Nature, 500, 232-236 (2013)[PubMed]

  4. Ivanov, I. I., Atarashi, K., Manel, N. et al.: Induction of intestinal Th17 cells by segmented filamentous bacteria. Cell, 139, 485-198 (2009)[PubMed]

  5. Korn, T., Bettelli, E., Oukka, M. et al.: IL-17 and Th17 cells. Annu. Rev. Immunol., 27, 485-517 (2009)[PubMed]

  6. Weaver, C. T., Hatton, R. D., Mangan, P. R. et al.: IL-17 family cytokines and the expanding diversity of effector T cell lineages. Annu. Rev. Immunol., 25, 821-852 (2007)[PubMed]

  7. Stockinger, B. & Veldhoen, M.: Differentiation and function of Th17 T cells. Curr. Opin. Immunol., 19, 281-286 (2007)[PubMed]

  8. Lee, Y. K., Menezes, J. S., Umesaki, Y. et al.: Proinflammatory T-cell responses to gut microbiota promote experimental autoimmune encephalomyelitis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 4615-4622 (2011)[PubMed]

  9. Wu, H. J., Ivanov, I. I., Darce, J. et al.: Gut-residing segmented filamentous bacteria drive autoimmune arthritis via T helper 17 cells. Immunity, 32, 815-827 (2010)[PubMed]

  10. Atarashi, K., Tanoue, T., Ando, M. et al.: Th17 cell induction by adhesion of microbes to intestinal epithelial cells. Cell, 163, 367-380 (2015)[PubMed]





著者プロフィール


佐野 晃之(Teruyuki Sano)
略歴:2012年 京都大学大学院医学系研究科 修了,同年より米国New York大学School of Medicine博士研究員.
研究テーマ:複雑な免疫系の活性化の機構.
抱負:生化学と免疫学の融合.複雑な免疫系の構築を理解し,その破綻および異常な活性化によりひき起こされる疾患の治療に貢献したい.

Wendy Huang
米国New York大学School of Medicine博士研究員.

Dan R. Littman
米国New York大学School of MedicineにてProfessor.
研究室URL:http://www.med.nyu.edu/skirball-lab/littmanlab/Home.html

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