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マメ科植物のもつLysM型受容体様キナーゼEPR3は根粒菌の分泌する菌体外多糖を認識し共生の過程を制御する

川原田 泰之
(デンマークAarhus大学Department of Molecular Biology and Genetics)
email:川原田泰之
DOI: 10.7875/first.author.2015.096

Receptor-mediated exopolysaccharide perception controls bacterial infection.
Y. Kawaharada, S. Kelly, M. Wibroe Nielsen, C. T. Hjuler, K. Gysel, A. Muszyński, R. W. Carlson, M. B. Thygesen, N. Sandal, M. H. Asmussen, M. Vinther, S. U. Andersen, L. Krusell, S. Thirup, K. J. Jensen, C. W. Ronson, M. Blaise, S. Radutoiu, J. Stougaard
Nature, 523, 308-312 (2015)




要 約


 細菌の分泌する菌体外多糖は細菌どうしの相互作用などにおいて重要なはたらきをもつ.マメ科植物と根粒菌との共生においても,根粒菌の分泌する菌体外多糖は根粒の形成において必須であることが明らかにされているが,その機能については不明な点が多く残されている.今回,筆者らは,マメ科のモデル植物であるミヤコグサにおいて,新規のLysM型受容体様キナーゼとしてEPR3を発見し,このEPR3が菌体外多糖の構造を認識し共生の過程を制御することを明らかにした.さらに,Epr3遺伝子の発現は共生の開始シグナル因子であるNod因子により誘導されることが示された.これらのことから,マメ科植物と根粒菌の共生は,Nod因子とその受容体であるNFR1およびNFR5と,菌体外多糖とそれを認識するEPR3の2段階で制御されていることが示唆された.

はじめに


 細菌は菌体外多糖,リポ多糖,きょう膜多糖,環状グルカンなど,さまざまな多糖におおわれている.これらの細胞表層の多糖は,細菌どうしの相互作用,宿主の防御応答からの回避,病原因子,バイオフィルムの合成,環境適応因子など,さまざまな機能をもつ.そして,マメ科植物と根粒菌との共生においても,根粒菌の変異株の解析から,これらの多糖が重要な役割をはたすことが示唆されている1,2)
 根粒菌はマメ科植物の分泌するフラボノイドを認識して,共生の開始シグナル因子であるNod因子を合成し分泌する.そして,マメ科植物はこのNod因子の特異性をその受容体であるNFR1およびNFR5を介し認識する.このことは,すべての根粒菌がすべてのマメ科植物と共生できるのではなく,マメ科植物と根粒菌との共生には特異性のあることを示している.適正なNod因子を認識したマメ科植物は根粒菌を巻き込むように根毛の先端をカールさせ,そこから特殊なストロー状の感染糸を形成し,それと前後して,根の皮層の細胞において細胞分裂を開始する.そして,根粒菌は感染糸を伸長させながら皮層の細胞へと侵入していく.最終的に,皮層の細胞の分裂により形成された特異的な組織である根粒の細胞に根粒菌がエンドサイトーシス様に放出され,そのなかで根粒菌が窒素固定を行うことにより共生が成立する.
 根粒菌の分泌する菌体外多糖は,アルファルファ根粒菌とアルファルファ,および,エンドウ根粒菌とエンドウとの共生関係においてさかんに研究されてきた.これらの根粒菌における菌体外多糖の合成変異株は感染糸を形成あるいは伸長できないという表現型を示す.また,アルファルファ根粒菌の菌体外多糖のうち8糖からなるスクシノグリカンの三量体が共生シグナルに重要であることが示された3).また,根粒菌の種により菌体外多糖の構成は異なることや,菌体外多糖には側鎖としてアセチル基,ピルビル基,サクシニル基などが付与されていることから,Nod因子と同様に,宿主との特異性があると考えられていたが4),共生における機能や構造的な役割については未解明であった.筆者らは,これらの疑問を解決するため,マメ科植物が根粒菌の分泌する菌体外多糖をどのように認識し共生の過程を制御するのかに焦点をあてた.
 なお,マメ科植物と根粒菌との共生については,林 誠, 領域融合レビュー, 4, e010, 2015 も参照されたい.

1.ミヤコグサにおけるサプレッサー変異体のスクリーニング


 ミヤコグサ根粒菌Mesorhizobium loti R7A株は,アセチル基を側鎖にもつ8糖をひとつのユニットとした菌体外多糖を合成し分泌する.グリコシルトランスフェラーゼをコードするexoU遺伝子に変異をもつミヤコグサ根粒菌M. loti株は5糖をひとつのユニットとした短縮型の菌体外多糖を合成し分泌する5).これらを宿主であるミヤコグサに接種すると,野生型の根粒菌とのあいだには共生が成立するのに対し,exoU変異をもつ根粒菌とのあいだでは初期の段階において感染糸の形成が停止し根粒は形成されない5).この表現型をもとに,exoU変異をもつ根粒菌と共生の成立するミヤコグサのサプレッサー変異体をスクリーニングした.その結果,化学変異源により変異を導入したミヤコグサ変異体のプールから,exoU変異をもつ根粒菌とのあいだでも共生を成立させることのできる変異体が得られた.この変異体は第2染色体のLys3遺伝子に変異をもち,602番目のヌクレオチドがCからTに変異することによりアミノ酸がProからLeuに置換していた.このLys3遺伝子を新たにEpr3Exopolysaccharide receptor 3)遺伝子と命名した.さらに,TILLING変異体リソース6) から2株のEpr3遺伝子の変異体,LORE1レトロトランスポゾン変異体リソース7) から3株のEpr3遺伝子の変異体が得られ,これらすべてのEpr3遺伝子の変異体は同様の表現型を示した.

2.Epr3遺伝子は新規のLysM型受容体様キナーゼをコードする


 ミヤコグサのEpr3遺伝子は10個のエキソンから構成され,70 kDaのタンパク質をコードしていた.このタンパク質には,N末端側に1つのシグナルペプチドドメインと3つのLysMドメイン,C末端側にキナーゼドメインが存在し,そのあいだに膜貫通ドメインが確認された.また,タバコの葉において発現させたEPR3と蛍光タンパク質との融合タンパク質は細胞膜に局在した.これらのことから,EPR3は新規のLysM型受容体様キナーゼであることが予想された.ミヤコグサは17種類のLysM型受容体様キナーゼをもつが,系統樹の解析から,EPR3はNod因子の受容体であるNFR1と同じサブファミリーに属することが示された8).しかし,詳細に比較したところEPR3は特殊な構造をもつことが明らかにされた.受容体の構造において重要なCxCモチーフの位置がほかのLysM型受容体様キナーゼとは異なっており,また,通常のLysMドメインはβ1α1α2β2構造をもつのに対し,EPR3のLysM1ドメインはβ1α2β2構造,LysM2ドメインはβ1α1β2構造をもつと予測された.また,BLAST検索により,アブラナ科を除く単子葉植物から双子葉植物の多くがEPR3のホモログをもつことがわかり,マメ科植物のほかの植物における機能についても興味深い.

3.根粒菌の分泌する菌体外多糖はEPR3を介し感染糸の形成を制御する


 Epr3遺伝子に変異をもつミヤコグサとexoU変異をもつ根粒菌とのあいだの共生の過程の詳細を観察したところ,野生型のミヤコグサとexoU変異をもつ根粒菌とのあいだにはほとんどみられなかった感染糸の形成がみられ,その感染糸は根粒の内部へと伸びていた.このことは,ミヤコグサのEPR3はexoU変異をもつ根粒菌の分泌する短縮型の菌体外多糖を認識し感染糸の形成を抑制していることを示唆した.菌体外多糖とEPR3との関係について調べるため,菌体外多糖の合成の初期において重要なUDP-グルコース-4-エピメラーゼをコードするexoB遺伝子に変異をもち菌体外多糖の合成のできないミヤコグサ根粒菌M. loti株を用いた.野生型のミヤコグサにexoB変異をもつ根粒菌を接種したところ,形成された感染糸の数は野生型のミヤコグサに野生型の根粒菌を接種したときより半減した.Epr3遺伝子に変異をもつミヤコグサに野生型の根粒菌を接種したところ同様に感染糸の形成の半減がみられた.そして,exoB変異をもつ根粒菌を接種したところ,Epr3遺伝子に変異をもつミヤコグサに野生型の根粒菌を接種したときと同じ程度の感染糸が形成された.これらの観察から,根粒菌の分泌する菌体外多糖とミヤコグサのEPR3はともに感染糸の形成の頻度において重要なはたらきをすることが示された.菌体外多糖とEPR3との関係性について明らかにするため,野生型のミヤコグサあるいはEpr3遺伝子に変異をもつミヤコグサにexoB変異をもつ根粒菌を接種し,96時間後に精製した菌体外多糖を処理した.その結果,野生型のミヤコグサにおいてのみ,感染糸の形成の増幅が確認された.これらのことから,根粒菌の分泌する菌体外多糖はEPR3を介し感染糸の形成を制御していることが明らかになった.

4.EPR3は根粒菌の分泌する菌体外多糖および短縮型の菌体外多糖を認識する


 exoU変異をもつ根粒菌の分泌する短縮型の菌体外多糖は感染糸の形成を抑制することが示されたが,共生の過程においてEPR3からのシグナルはどの時期に開始されるのか検討した.そのため,野生型のミヤコグサあるいはEpr3遺伝子に変異をもつミヤコグサにexoU変異をもつ根粒菌を接種し,一定の時間をおいたのち,野生型の根粒菌あるいはexoB変異をもつ根粒菌を接種した.その結果,野生型のミヤコグサにおいては,最初にexoU変異をもつ根粒菌を接種してから24時間後まではふたたび根粒菌を接種しても根粒の形成に影響はないものの,96時間後に野生型の根粒菌あるいはexoB変異をもつ根粒菌を接種すると根粒数の減少が確認され,その減少はexoB変異をもつ根粒菌の接種において顕著だった.一方で,Epr3遺伝子に変異をもつミヤコグサではこのような根粒数の減少は確認されなかった.このことから,根粒菌の分泌する短縮型の菌体外多糖の影響は接種ののち96時間以降に現われ,その影響はEPR3に依存的に起こることが示された.

5.EPR3は根粒菌の分泌する菌体外多糖を直接に認識する


 EPR3と根粒菌の分泌する菌体外多糖とが結合するかどうかを確認するため,EPR3の細胞外ドメインおよび菌体外多糖を精製し,表面プラズモン共鳴法を用いてその相互作用を定量した.その結果,EPR3と根粒菌の分泌する菌体外多糖とは強く結合することが示された.

6.Epr3遺伝子の発現は共生の過程において誘導される


 リアルタイム定量PCR法により,Epr3遺伝子の発現は根粒菌の接種ののち,あるいは,Nod因子の処理ののち誘導されることが明らかにされた.プロモーターアッセイ法により,Epr3遺伝子の発現は根粒菌の接種ののち,Nod因子に感受性をもつ領域の表皮細胞において観察された.また,Epr3遺伝子は感染糸が形成されている表皮細胞において強く発現していた.

おわりに


 筆者らは,今回の研究において,マメ科植物と根粒菌の共生の過程が2段階で制御されていることを示した.まず,ミヤコグサのもつNFR1およびNFR5は受容体としてNod因子と強く結合し共生シグナルを開始させる9,10)図1a).つづいて,共生シグナルにより根の表皮細胞や感染糸を形成している細胞においてEpr3遺伝子の発現が誘導され,EPR3が根粒菌の分泌する菌体外多糖を認識し感染糸の形成を制御する(図1b).今後,根粒菌の分泌する菌体外多糖とEPR3とが感染糸の形成をどのように制御しているのかなど,下流のシグナルについても興味がもたれる.




文 献



  1. Fraysse, N., Couderc, F. & Poinsot, V.: Surface polysaccharide involvement in establishing the rhizobium-legume symbiosis. Eur. J. Biochem., 270, 1365-1380 (2003)[PubMed]

  2. Jones, K. M., Kobayashi, H., Davies, B. W. et al.: How rhizobial symbionts invade plants: the Sinorhizobium-Medicago model. Nat. Rev. Microbiol., 5, 619-633 (2007)[PubMed]

  3. Wang, L. X., Wang, Y., Pellock, B. et al.: Structural characterization of the symbiotically important low-molecular-weight succinoglycan of Sinorhizobium meliloti. J. Bacteriol., 181, 6788-6796 (1999)[PubMed]

  4. Skorupska, A., Janczarek, M., Marczak, M. et al.: Rhizobial exopolysaccharides: genetic control and symbiotic functions. Microb. Cell Fact., 5, 7 (2006)[PubMed]

  5. Kelly, S. J., Muszynski, A., Kawaharada, Y. et al.: Conditional requirement for exopolysaccharide in the Mesorhizobium-Lotus symbiosis. Mol. Plant Microbe Interact., 26, 319-329 (2013)[PubMed]

  6. Perry, J. A., Wang, T. L., Welham, T. J. et al.: A TILLING reverse genetics tool and a web-accessible collection of mutants of the legume Lotus japonicus. Plant Physiol., 131, 866-871 (2003)[PubMed]

  7. Urbanski, D. F., Malolepszy, A., Stougaard, J. et al.: Genome-wide LORE1 retrotransposon mutagenesis and high-throughput insertion detection in Lotus japonicus. Plant J., 69, 731-741 (2012)[PubMed]

  8. Lohmann, G. V., Shimoda, Y., Nielsen, M. W. et al.: Evolution and regulation of the Lotus japonicus LysM receptor gene family. Mol. Plant Microbe Interact., 23, 510-521 (2010)[PubMed]

  9. Radutoiu, S., Madsen, L. H., Madsen, E. B. et al.: Plant recognition of symbiotic bacteria requires two LysM receptor-like kinases. Nature, 425, 585-592 (2003)[PubMed]

  10. Broghammer, A., Krusell, L., Blaise, M. et al.: Legume receptors perceive the rhizobial lipochitin oligosaccharide signal molecules by direct binding. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 109, 13859-13864 (2012)[PubMed]



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東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.



著者プロフィール


川原田 泰之(Yasuyuki Kawaharada)
略歴:2008年 東北大学大学院生命科学研究科 修了,同年 同 博士研究員を経て,2009年よりデンマークAarhus大学 博士研究員.
研究テーマ:植物-微生物相互作用,マメ科植物-根粒菌相互作用.

© 2015 川原田 泰之 Licensed under CC 表示 2.1 日本