Candida属細菌に対する粘膜免疫およびMycobacterium属細菌に対する全身性の免疫応答にはRORC遺伝子が必須である
岡田 賢1・小林正夫2
(1米国Rockefeller大学St. Giles Laboratory of Human Genetics of Infectious Diseases,2広島大学大学院医歯薬保健学研究院 小児科学)
email:岡田 賢,小林正夫
DOI: 10.7875/first.author.2015.094
Impairment of immunity to Candida and Mycobacterium in humans with bi-allelic RORC mutations.
Satoshi Okada, Janet G. Markle, Elissa K. Deenick, Federico Mele, Dina Averbuch, Macarena Lagos, Mohammed Alzahrani, Saleh Al-Muhsen, Rabih Halwani, Cindy S. Ma, Natalie Wong, Claire Soudais, Lauren A. Henderson, Hiyam Marzouqa, Jamal Shamma, Marcela Gonzalez, Rubén Martinez-Barricarte, Chizuru Okada, Danielle T. Avery, Daniela Latorre, Caroline Deswarte, Fabienne Jabot-Hanin, Egidio Torrado, Jeffrey Fountain, Aziz Belkadi, Yuval Itan, Bertrand Boisson, Mélanie Migaud, Cecilia S. Lindestam Arlehamn, Alessandro Sette, Sylvain Breton, James McCluskey, Jamie Rossjohn, Jean-Pierre de Villartay, Despina Moshous, Sophie Hambleton, Sylvain Latour, Peter D. Arkwright, Capucine Picard, Olivier Lantz, Dan Engelhard, Masao Kobayashi, Laurent Abel, Andrea M. Cooper, Luigi D. Notarangelo, Stéphanie Boisson-Dupuis, Anne Puel, Federica Sallusto, Jacinta Bustamante, Stuart G. Tangye, Jean-Laurent Casanova
Science, 349, 606-613 (2015)
インターロイキン17シグナル伝達の先天的な障害は慢性皮膚粘膜カンジダ感染を発症し,インターフェロンγシグナル伝達の先天的な障害はメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症をひき起こす.筆者らは,RORγTおよびRORγをコードするRORC遺伝子の生殖細胞における変異により,慢性皮膚粘膜カンジダ感染とメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症を合併した3家系7症例を同定した.すべての患者はRORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもっていた.これらの患者においてはインターロイキン17A/Fを産生するT細胞が欠損しており,これが慢性皮膚粘膜カンジダ感染の原因と考えられた.また,これらの患者においてはMycobacterium属細菌の刺激に対するγδT細胞およびCD4陽性CCR6陽性CXCR3陽性αβT細胞からのインターフェロンγの産生が障害されており,これがメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症の原因と考えられた.この研究により,ヒトにおいてCandida属細菌に対する粘膜免疫,および,Mycobacterium属細菌に対する全身性の免疫応答にRORC遺伝子が必須であることが明らかにされた.
慢性皮膚粘膜カンジダ感染は主として皮膚,爪,外陰部,口腔粘膜に慢性かつ反復性のCandida属細菌の感染を呈する状態を示す.ヘルパーT細胞のサブセットのひとつであるTh17細胞はインターロイキン17を産生しCandida属細菌に対する感染防御にはたらいており,インターロイキン17シグナル伝達が先天的に障害された原発性免疫不全症患者は慢性皮膚粘膜カンジダ感染を発症する1)(図1).一方で,細胞内寄生細菌の排除にはインターフェロンγが重要であり,インターフェロンγシグナル伝達が先天的に障害されるとメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症を発症する2)(図1).メンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症はMycobacterium属細菌やSalmonella属細菌など細胞内寄生細菌に対し先天的に易感染性を呈する原発性の免疫不全症であり,細菌やウイルスなどほかの病原体に対する免疫能は原則的に保たれている.インターロイキン12受容体β1欠損症およびインターロイキン12p40欠損症の患者においては,インターフェロンγの産生を誘導するインターロイキン12シグナル伝達と,Th17細胞の増殖の維持に必須のインターロイキン23シグナル伝達とが同時に障害されることにより,慢性皮膚粘膜カンジダ感染とメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症というまったく異なる病態を合併した原発性の免疫不全症を発症する3,4).
慢性皮膚粘膜カンジダ感染とメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症を合併するものの,インターロイキン12受容体β1やインターロイキン12p40に異常の認められない近親婚家系の患者を対象とし,エキソーム解析と連鎖解析を組み合わせて責任遺伝子の同定を試みた.その結果,RORC遺伝子に先天的な異常をもつ3家系7症例が見い出された.同定されたRORC遺伝子の変異はすべてホモ変異であり,ヘテロ変異をもつ保因者は無症状であった.7症例すべてがメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症を発症し,うち6例は慢性皮膚粘膜カンジダ感染を合併していた.RORC遺伝子は2つのアイソフォームをもち,ひとつのアイソフォームはRORγを,もうひとつのアイソフォームはRORγTをコードする.患者に認められたRORC遺伝子の変異は両方のアイソフォームに影響をあたえると予想された.RORγTはヘルパーT細胞のサブセットのひとつであるTh17細胞のマスター転写因子として知られていることから,患者に認められた慢性皮膚粘膜カンジダ感染はTh17細胞の障害にもとづくと予想された.一方で,メンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症はこれまでのRorcノックアウトマウスを用いた研究からは予想できない表現型であったことから,RORγTの未知の機能にもとづくものと考えた5,6).
HEK293細胞を用いた一過性の遺伝子強制発現実験によりRORC遺伝子の変異の機能を解析した.ウェスタンブロット法によりタンパク質の発現を解析したところ,1つの変異体はほぼ正常に発現していたのに対し,2つの変異体は分子量の小さいタンパク質として発現していた.ホルボール13-ミリステート13-アセテートおよびイオノマイシンにより処理したところ,野生型RORC遺伝子を導入した細胞および変異型RORC遺伝子を導入した細胞においてRORγTの発現の増強が認められた.野生型RORγTおよび変異型RORγTは核において強く発現し,RORC遺伝子の変異による細胞内局在の変化は認められなかった.マウスにおいてRORγTはインターロイキン17をコードする遺伝子のプロモーター領域に存在するRORE配列と結合する7).そこで,ヒトにおけるRORE配列の相同領域を鋳型としてDNAプローブを作製し,野生型RORγTおよび変異型RORγTのDNA結合能について検討した.その結果,野生型RORγTはRORE配列に結合したのに対し,すべてのRORγT変異体はRORE配列への結合能を失っていた.さらに,インターロイキン17をコードする遺伝子のプロモーター領域を用いたレポーターアッセイにより野生型RORγTおよび変異型RORγTの転写活性化能について検討したところ,すべての変異型RORγTおいていちじるしい転写活性化能の障害が認められた.変異型RORγTによる野生型RORγTへの優性阻害は認められなかった.これらの結果から,同定されたRORC遺伝子の変異はすべて機能欠失型であると考えられた.
マウスにおいてRORγTはリンパ組織誘導細胞,インターロイキン17およびインターロイキン22を産生する3型自然リンパ球,iNKT細胞,一部のγδT細胞,CD4陽性CD8陽性αβ胸腺細胞,Th17細胞に発現しており,Rorcノックアウトマウスはリンパ組織誘導細胞,3型自然リンパ球,iNKT細胞,Th17細胞の欠損,CD4陽性CD8陽性αβ胸腺細胞の寿命の短縮を示す8).RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者もマウスと同様にリンパ組織誘導細胞の欠損を反映して頸部および腋窩部の末梢リンパ節を欠損しており,胸腺は低形成であった.CD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞が軽度に減少し,3型自然リンパ球,MAIT細胞,iNKT細胞が欠損していたが,B細胞,NK細胞,γδT細胞は健常者と同じ程度に保たれており,複合型免疫不全症に分類される表現型を呈した.
RORγTはインターロイキン17およびインターロイキン22を産生するTh17細胞,γδT細胞,ILC3などの分化に必要であることから,インターロイキン17A/Fを産生するリンパ球に注目した.RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者のCD3陽性T細胞は,ホルボール13-ミリステート13-アセテートおよびイオノマイシンにより刺激したのちのインターロイキン17A/Fおよびインターロイキン22の産生能がいちじるしく障害されていた.インターロイキン17A/Fおよびインターロイキン22の産生障害はRORC遺伝子の変異をヘテロでもつ保因者においても認められたが,RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者と比較すると障害は軽度であった.さらに,RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者に由来するCD45RA陰性CD4陽性メモリーT細胞において,インターロイキン17A/Fおよびインターロイキン22のいちじるしい産生障害,インターロイキン4,インターロイキン5,インターロイキン13の産生過剰が認められた.CCR6陽性CD4陽性メモリーαβT細胞の画分にはインターロイキン17A/Fを産生し細胞の表面にCCR4を発現するTh17細胞,および,インターロイキン17A/Fおよびインターフェロンγを産生し細胞の表面にCXCR3を発現するTh1*細胞が含まれる.そこで,CCR6陽性CD4陽性メモリーαβT細胞をCandida albicansの抽出液により刺激し増殖能およびサイトカイン産生能について検討した.RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者のCCR6陽性CD4陽性メモリーαβT細胞はC. albicansの刺激に対する増殖能は正常であったが,インターロイキン17A,インターロイキン22,インターフェロンγの産生障害,インターロイキン4の過剰産生を示した.これらの患者に由来する不死化したCD4陽性αβT細胞においてはRORC遺伝子のmRNAおよびインターロイキン17Aをコードする遺伝子のmRNAの発現が低下していた.野生型RORγTを導入したところインターロイキン17Aをコードする遺伝子のmRNAの発現低下が回復したことから,これはRORγTの欠損にともなう表現型と判断された.
RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者において認められたメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症は,これまでのRorcノックアウトマウスの解析からは予想の困難な表現型であった.RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者はT細胞の減少を示したが,αβT細胞のいちじるしい機能の低下を示すZAP70遺伝子をホモで欠損する患者およびTRAC遺伝子をホモで欠損する患者は播種性BCG感染症を発症しないことから,RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者において認められた播種性BCG感染症をT細胞の減少により説明することには矛盾があった.これまでメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症の患者から得られた知見において,Mycobacterium属細菌など細胞内寄生細菌の排除にインターフェロンγが重要であることが示されていたため,インターフェロンγに着目した.RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者に由来するCD3陽性T細胞をホルボール13-ミリステート13-アセテートおよびイオノマイシンによりポリクローナルに刺激したところ,健常人と同じ程度のインターフェロンγを産生した.これらの患者に由来するCD4陽性αβT細胞,CD45RA陰性CD4陽性メモリーT細胞,Th1細胞の分化を誘導する条件において培養したナイーブCD4陽性T細胞のいずれにおいても,ポリクローナルな刺激に対するインターフェロンγの産生能は健常人と同等であった.一方で,BCGペプチドおよびインターロイキン12の共刺激により誘導されるインターフェロンγの産生能について検討したところ,これらの患者に由来する末梢血の単核球においてインターフェロンγのいちじるしい産生障害が認められた.インターフェロンγの産生障害はMAIT細胞の欠損,インターロイキン4,インターロイキン5,インターロイキン13の産生亢進とは無関係の表現型であった.一方で,これらの患者に由来する末梢血の単核球をBCGペプチドおよびインターフェロンγにより共刺激したところ,健常者と同じ程度にインターロイキン12を産生した.これらの結果から,RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者においては,ポリクローナルな刺激に対するインターフェロンγの産生能は健常人と同じ程度に保たれているものの,Mycobacterium属細菌に対する抗原に特異的なインターフェロンγの産生能が障害されていることが明らかにされた.
Mycobacterium属細菌に対する抗原に特異的なインターフェロンγの産生に関与するリンパ球の画分を同定するため,健常者の末梢血の単核球から,それぞれ,ナチュラルキラー細胞,CD14陽性単球,CD4陽性T細胞,CD8陽性T細胞,αβT細胞,γδT細胞を除き,BCGペプチドおよびインターロイキン12の共刺激にともなうインターフェロンγの産生能について検討した.その結果,γδT細胞を除いた条件でのみインターフェロンγの産生の有意な低下が認められ,γδT細胞がBCGペプチドおよびインターロイキン12の共刺激にともなうインターフェロンγの産生に重要と考えられた.γδT細胞はRORC遺伝子のmRNAを高く発現しており,γδT細胞に含まれるTCR Vδ2陽性細胞はBCGワクチンに強く反応することが知られていたため,TCR Vδ2陽性細胞に着目した9).RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者においてはTCR Vδ2陽性細胞の頻度は正常であったが,ポリクローナルな刺激に対するインターフェロンγの産生能が障害されていた.これらの結果から,RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者においてはMycobacterium属細菌に対するγδT細胞からのインターフェロンγの産生が障害されていると考えられた.
これまでの研究により,T-betおよびRORγTを共発現しインターフェロンγおよびインターロイキン17A/Fを産生するCCR6陽性CXCR3陽性Th1*細胞は,Mycobacterium属細菌への感染に反応して増殖することが知られている10).CD45RA陰性αβT細胞を純化したのちBCGヘプチドにより刺激し,その増殖およびサイトカインの産生について検討した.その結果,RORC遺伝子をホモで欠損する患者に由来するCCR6陽性CD4陽性T細胞は健常者と同じ程度に増殖したが,インターフェロンγの産生は障害されていた.これらの結果から,RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者に由来するCCR6陽性CXCR3陽性CD4陽性αβTh1*細胞において,Mycobacterium属細菌に対する抗原に特異的なインターフェロンγの産生が障害されていると考えられた.さらに,RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者におけるメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症がインターフェロンγの産生障害にもとづく症状であれば,インターフェロンγによる治療が有効だと考えられた.
RORC遺伝子のホモでの機能欠失型変異により,T細胞の軽度の減少,3型自然リンパ球,MAIT細胞,iNKT細胞の欠損,胸腺の縮小,頸部および腋窩部のリンパ節の欠損にいたり,慢性皮膚粘膜カンジダ感染およびメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症を合併する原発性の免疫不全症が発症することが明らかにされた.RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者における慢性皮膚粘膜カンジダ感染とメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症というまったく異なる病態の合併は,インターロイキン17A/Fの産生不全およびMycobacterium属細菌に対する抗原に特異的なインターフェロンγの産生障害により説明が可能であった.Rorcノックアウトマウスを用いた感染実験において結核およびBCGに対する易感染性が確認されたことから,RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者の一連の症状はRorcノックアウトマウスの表現型と一致すると考えられた.
略歴:2004年 広島大学大学院医歯薬学総合研究科 早期修了,同年 広島大学病院 助教,2009年 米国Rockefeller大学 ポスドク,2013年 広島大学病院 助教を経て,2015年より広島大学大学院医歯薬保健学研究院 講師.
研究テーマ:原発性の免疫不全症における責任遺伝子の同定および病態の解明.
抱負:遺伝性の疾患を治癒できるようにしたい.
小林 正夫(Masao Kobayashi)
広島大学大学院医歯薬保健学研究院 教授.
© 2015 岡田 賢・小林正夫 Licensed under CC 表示 2.1 日本
(1米国Rockefeller大学St. Giles Laboratory of Human Genetics of Infectious Diseases,2広島大学大学院医歯薬保健学研究院 小児科学)
email:岡田 賢,小林正夫
DOI: 10.7875/first.author.2015.094
Impairment of immunity to Candida and Mycobacterium in humans with bi-allelic RORC mutations.
Satoshi Okada, Janet G. Markle, Elissa K. Deenick, Federico Mele, Dina Averbuch, Macarena Lagos, Mohammed Alzahrani, Saleh Al-Muhsen, Rabih Halwani, Cindy S. Ma, Natalie Wong, Claire Soudais, Lauren A. Henderson, Hiyam Marzouqa, Jamal Shamma, Marcela Gonzalez, Rubén Martinez-Barricarte, Chizuru Okada, Danielle T. Avery, Daniela Latorre, Caroline Deswarte, Fabienne Jabot-Hanin, Egidio Torrado, Jeffrey Fountain, Aziz Belkadi, Yuval Itan, Bertrand Boisson, Mélanie Migaud, Cecilia S. Lindestam Arlehamn, Alessandro Sette, Sylvain Breton, James McCluskey, Jamie Rossjohn, Jean-Pierre de Villartay, Despina Moshous, Sophie Hambleton, Sylvain Latour, Peter D. Arkwright, Capucine Picard, Olivier Lantz, Dan Engelhard, Masao Kobayashi, Laurent Abel, Andrea M. Cooper, Luigi D. Notarangelo, Stéphanie Boisson-Dupuis, Anne Puel, Federica Sallusto, Jacinta Bustamante, Stuart G. Tangye, Jean-Laurent Casanova
Science, 349, 606-613 (2015)
要 約
インターロイキン17シグナル伝達の先天的な障害は慢性皮膚粘膜カンジダ感染を発症し,インターフェロンγシグナル伝達の先天的な障害はメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症をひき起こす.筆者らは,RORγTおよびRORγをコードするRORC遺伝子の生殖細胞における変異により,慢性皮膚粘膜カンジダ感染とメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症を合併した3家系7症例を同定した.すべての患者はRORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもっていた.これらの患者においてはインターロイキン17A/Fを産生するT細胞が欠損しており,これが慢性皮膚粘膜カンジダ感染の原因と考えられた.また,これらの患者においてはMycobacterium属細菌の刺激に対するγδT細胞およびCD4陽性CCR6陽性CXCR3陽性αβT細胞からのインターフェロンγの産生が障害されており,これがメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症の原因と考えられた.この研究により,ヒトにおいてCandida属細菌に対する粘膜免疫,および,Mycobacterium属細菌に対する全身性の免疫応答にRORC遺伝子が必須であることが明らかにされた.
はじめに
慢性皮膚粘膜カンジダ感染は主として皮膚,爪,外陰部,口腔粘膜に慢性かつ反復性のCandida属細菌の感染を呈する状態を示す.ヘルパーT細胞のサブセットのひとつであるTh17細胞はインターロイキン17を産生しCandida属細菌に対する感染防御にはたらいており,インターロイキン17シグナル伝達が先天的に障害された原発性免疫不全症患者は慢性皮膚粘膜カンジダ感染を発症する1)(図1).一方で,細胞内寄生細菌の排除にはインターフェロンγが重要であり,インターフェロンγシグナル伝達が先天的に障害されるとメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症を発症する2)(図1).メンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症はMycobacterium属細菌やSalmonella属細菌など細胞内寄生細菌に対し先天的に易感染性を呈する原発性の免疫不全症であり,細菌やウイルスなどほかの病原体に対する免疫能は原則的に保たれている.インターロイキン12受容体β1欠損症およびインターロイキン12p40欠損症の患者においては,インターフェロンγの産生を誘導するインターロイキン12シグナル伝達と,Th17細胞の増殖の維持に必須のインターロイキン23シグナル伝達とが同時に障害されることにより,慢性皮膚粘膜カンジダ感染とメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症というまったく異なる病態を合併した原発性の免疫不全症を発症する3,4).
1.RORC遺伝子の変異の同定
慢性皮膚粘膜カンジダ感染とメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症を合併するものの,インターロイキン12受容体β1やインターロイキン12p40に異常の認められない近親婚家系の患者を対象とし,エキソーム解析と連鎖解析を組み合わせて責任遺伝子の同定を試みた.その結果,RORC遺伝子に先天的な異常をもつ3家系7症例が見い出された.同定されたRORC遺伝子の変異はすべてホモ変異であり,ヘテロ変異をもつ保因者は無症状であった.7症例すべてがメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症を発症し,うち6例は慢性皮膚粘膜カンジダ感染を合併していた.RORC遺伝子は2つのアイソフォームをもち,ひとつのアイソフォームはRORγを,もうひとつのアイソフォームはRORγTをコードする.患者に認められたRORC遺伝子の変異は両方のアイソフォームに影響をあたえると予想された.RORγTはヘルパーT細胞のサブセットのひとつであるTh17細胞のマスター転写因子として知られていることから,患者に認められた慢性皮膚粘膜カンジダ感染はTh17細胞の障害にもとづくと予想された.一方で,メンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症はこれまでのRorcノックアウトマウスを用いた研究からは予想できない表現型であったことから,RORγTの未知の機能にもとづくものと考えた5,6).
2.同定されたRORC遺伝子の変異は機能欠失型である
HEK293細胞を用いた一過性の遺伝子強制発現実験によりRORC遺伝子の変異の機能を解析した.ウェスタンブロット法によりタンパク質の発現を解析したところ,1つの変異体はほぼ正常に発現していたのに対し,2つの変異体は分子量の小さいタンパク質として発現していた.ホルボール13-ミリステート13-アセテートおよびイオノマイシンにより処理したところ,野生型RORC遺伝子を導入した細胞および変異型RORC遺伝子を導入した細胞においてRORγTの発現の増強が認められた.野生型RORγTおよび変異型RORγTは核において強く発現し,RORC遺伝子の変異による細胞内局在の変化は認められなかった.マウスにおいてRORγTはインターロイキン17をコードする遺伝子のプロモーター領域に存在するRORE配列と結合する7).そこで,ヒトにおけるRORE配列の相同領域を鋳型としてDNAプローブを作製し,野生型RORγTおよび変異型RORγTのDNA結合能について検討した.その結果,野生型RORγTはRORE配列に結合したのに対し,すべてのRORγT変異体はRORE配列への結合能を失っていた.さらに,インターロイキン17をコードする遺伝子のプロモーター領域を用いたレポーターアッセイにより野生型RORγTおよび変異型RORγTの転写活性化能について検討したところ,すべての変異型RORγTおいていちじるしい転写活性化能の障害が認められた.変異型RORγTによる野生型RORγTへの優性阻害は認められなかった.これらの結果から,同定されたRORC遺伝子の変異はすべて機能欠失型であると考えられた.
3.RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者の免疫学的な表現型
マウスにおいてRORγTはリンパ組織誘導細胞,インターロイキン17およびインターロイキン22を産生する3型自然リンパ球,iNKT細胞,一部のγδT細胞,CD4陽性CD8陽性αβ胸腺細胞,Th17細胞に発現しており,Rorcノックアウトマウスはリンパ組織誘導細胞,3型自然リンパ球,iNKT細胞,Th17細胞の欠損,CD4陽性CD8陽性αβ胸腺細胞の寿命の短縮を示す8).RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者もマウスと同様にリンパ組織誘導細胞の欠損を反映して頸部および腋窩部の末梢リンパ節を欠損しており,胸腺は低形成であった.CD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞が軽度に減少し,3型自然リンパ球,MAIT細胞,iNKT細胞が欠損していたが,B細胞,NK細胞,γδT細胞は健常者と同じ程度に保たれており,複合型免疫不全症に分類される表現型を呈した.
4.RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者におけるインターロイキン17A/Fの産生障害
RORγTはインターロイキン17およびインターロイキン22を産生するTh17細胞,γδT細胞,ILC3などの分化に必要であることから,インターロイキン17A/Fを産生するリンパ球に注目した.RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者のCD3陽性T細胞は,ホルボール13-ミリステート13-アセテートおよびイオノマイシンにより刺激したのちのインターロイキン17A/Fおよびインターロイキン22の産生能がいちじるしく障害されていた.インターロイキン17A/Fおよびインターロイキン22の産生障害はRORC遺伝子の変異をヘテロでもつ保因者においても認められたが,RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者と比較すると障害は軽度であった.さらに,RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者に由来するCD45RA陰性CD4陽性メモリーT細胞において,インターロイキン17A/Fおよびインターロイキン22のいちじるしい産生障害,インターロイキン4,インターロイキン5,インターロイキン13の産生過剰が認められた.CCR6陽性CD4陽性メモリーαβT細胞の画分にはインターロイキン17A/Fを産生し細胞の表面にCCR4を発現するTh17細胞,および,インターロイキン17A/Fおよびインターフェロンγを産生し細胞の表面にCXCR3を発現するTh1*細胞が含まれる.そこで,CCR6陽性CD4陽性メモリーαβT細胞をCandida albicansの抽出液により刺激し増殖能およびサイトカイン産生能について検討した.RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者のCCR6陽性CD4陽性メモリーαβT細胞はC. albicansの刺激に対する増殖能は正常であったが,インターロイキン17A,インターロイキン22,インターフェロンγの産生障害,インターロイキン4の過剰産生を示した.これらの患者に由来する不死化したCD4陽性αβT細胞においてはRORC遺伝子のmRNAおよびインターロイキン17Aをコードする遺伝子のmRNAの発現が低下していた.野生型RORγTを導入したところインターロイキン17Aをコードする遺伝子のmRNAの発現低下が回復したことから,これはRORγTの欠損にともなう表現型と判断された.
5.RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者におけるMycobacterium属細菌への感染に特異的なインターフェロンγの産生障害
RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者において認められたメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症は,これまでのRorcノックアウトマウスの解析からは予想の困難な表現型であった.RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者はT細胞の減少を示したが,αβT細胞のいちじるしい機能の低下を示すZAP70遺伝子をホモで欠損する患者およびTRAC遺伝子をホモで欠損する患者は播種性BCG感染症を発症しないことから,RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者において認められた播種性BCG感染症をT細胞の減少により説明することには矛盾があった.これまでメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症の患者から得られた知見において,Mycobacterium属細菌など細胞内寄生細菌の排除にインターフェロンγが重要であることが示されていたため,インターフェロンγに着目した.RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者に由来するCD3陽性T細胞をホルボール13-ミリステート13-アセテートおよびイオノマイシンによりポリクローナルに刺激したところ,健常人と同じ程度のインターフェロンγを産生した.これらの患者に由来するCD4陽性αβT細胞,CD45RA陰性CD4陽性メモリーT細胞,Th1細胞の分化を誘導する条件において培養したナイーブCD4陽性T細胞のいずれにおいても,ポリクローナルな刺激に対するインターフェロンγの産生能は健常人と同等であった.一方で,BCGペプチドおよびインターロイキン12の共刺激により誘導されるインターフェロンγの産生能について検討したところ,これらの患者に由来する末梢血の単核球においてインターフェロンγのいちじるしい産生障害が認められた.インターフェロンγの産生障害はMAIT細胞の欠損,インターロイキン4,インターロイキン5,インターロイキン13の産生亢進とは無関係の表現型であった.一方で,これらの患者に由来する末梢血の単核球をBCGペプチドおよびインターフェロンγにより共刺激したところ,健常者と同じ程度にインターロイキン12を産生した.これらの結果から,RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者においては,ポリクローナルな刺激に対するインターフェロンγの産生能は健常人と同じ程度に保たれているものの,Mycobacterium属細菌に対する抗原に特異的なインターフェロンγの産生能が障害されていることが明らかにされた.
Mycobacterium属細菌に対する抗原に特異的なインターフェロンγの産生に関与するリンパ球の画分を同定するため,健常者の末梢血の単核球から,それぞれ,ナチュラルキラー細胞,CD14陽性単球,CD4陽性T細胞,CD8陽性T細胞,αβT細胞,γδT細胞を除き,BCGペプチドおよびインターロイキン12の共刺激にともなうインターフェロンγの産生能について検討した.その結果,γδT細胞を除いた条件でのみインターフェロンγの産生の有意な低下が認められ,γδT細胞がBCGペプチドおよびインターロイキン12の共刺激にともなうインターフェロンγの産生に重要と考えられた.γδT細胞はRORC遺伝子のmRNAを高く発現しており,γδT細胞に含まれるTCR Vδ2陽性細胞はBCGワクチンに強く反応することが知られていたため,TCR Vδ2陽性細胞に着目した9).RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者においてはTCR Vδ2陽性細胞の頻度は正常であったが,ポリクローナルな刺激に対するインターフェロンγの産生能が障害されていた.これらの結果から,RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者においてはMycobacterium属細菌に対するγδT細胞からのインターフェロンγの産生が障害されていると考えられた.
6.RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者においてはCCR6陽性CD4陽性αβT細胞からのインターフェロンγの産生が障害されている
これまでの研究により,T-betおよびRORγTを共発現しインターフェロンγおよびインターロイキン17A/Fを産生するCCR6陽性CXCR3陽性Th1*細胞は,Mycobacterium属細菌への感染に反応して増殖することが知られている10).CD45RA陰性αβT細胞を純化したのちBCGヘプチドにより刺激し,その増殖およびサイトカインの産生について検討した.その結果,RORC遺伝子をホモで欠損する患者に由来するCCR6陽性CD4陽性T細胞は健常者と同じ程度に増殖したが,インターフェロンγの産生は障害されていた.これらの結果から,RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者に由来するCCR6陽性CXCR3陽性CD4陽性αβTh1*細胞において,Mycobacterium属細菌に対する抗原に特異的なインターフェロンγの産生が障害されていると考えられた.さらに,RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者におけるメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症がインターフェロンγの産生障害にもとづく症状であれば,インターフェロンγによる治療が有効だと考えられた.
おわりに
RORC遺伝子のホモでの機能欠失型変異により,T細胞の軽度の減少,3型自然リンパ球,MAIT細胞,iNKT細胞の欠損,胸腺の縮小,頸部および腋窩部のリンパ節の欠損にいたり,慢性皮膚粘膜カンジダ感染およびメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症を合併する原発性の免疫不全症が発症することが明らかにされた.RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者における慢性皮膚粘膜カンジダ感染とメンデル遺伝型ミコバクテリア易感染症というまったく異なる病態の合併は,インターロイキン17A/Fの産生不全およびMycobacterium属細菌に対する抗原に特異的なインターフェロンγの産生障害により説明が可能であった.Rorcノックアウトマウスを用いた感染実験において結核およびBCGに対する易感染性が確認されたことから,RORC遺伝子の機能欠失型変異をホモでもつ患者の一連の症状はRorcノックアウトマウスの表現型と一致すると考えられた.
文 献
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著者プロフィール
略歴:2004年 広島大学大学院医歯薬学総合研究科 早期修了,同年 広島大学病院 助教,2009年 米国Rockefeller大学 ポスドク,2013年 広島大学病院 助教を経て,2015年より広島大学大学院医歯薬保健学研究院 講師.
研究テーマ:原発性の免疫不全症における責任遺伝子の同定および病態の解明.
抱負:遺伝性の疾患を治癒できるようにしたい.
小林 正夫(Masao Kobayashi)
広島大学大学院医歯薬保健学研究院 教授.
© 2015 岡田 賢・小林正夫 Licensed under CC 表示 2.1 日本