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細菌が細胞の大きさを一定に維持する機構

2015年1月7日

加藤 節
(米国Yale大学Department of Molecular, Cellular, and Developmental Biology)
email:加藤 節
DOI: 10.7875/first.author.2015.006

A constant size extension drives bacterial cell size homeostasis.
Manuel Campos, Ivan V. Surovtsev, Setsu Kato, Ahmad Paintdakhi, Bruno Beltran, Sarah E. Ebmeier, Christine Jacobs-Wagner
Cell, 159, 1433-1446 (2014)

要 約

 細菌はどのようにして細胞の大きさを一定に保つのだろうか.これまで,細胞はある一定の大きさに達したのち細胞分裂するという閾値モデルが強く支持されてきたが,このモデルを決定づける実験的な証拠は得られていなかった.筆者らは,細菌が細胞の大きさを一定に維持する機構を明らかにするため,細胞が伸長し分裂するようすを1細胞のレベルで経時的に観察し解析したところ,細菌には閾値モデルは適用されないことがわかった.その代わり,細菌はある一定の量だけ伸長したのち細胞分裂するという定量伸長モデルにより,細胞の大きさを一定に保つことが明らかにされた.この結果は,細胞がその全長を感知することができなくても,どれだけ伸長したかを認識できれば細胞の大きさの恒常性を維持できることを意味した.この発見は,原核生物において細胞の大きさや細胞周期の制御を考えるうえで基礎的かつ重要な知見となるだろう.

はじめに

 細菌は細胞の大きさを一定の範囲に維持することができる.そのためには,細胞は伸長の度合いと細胞分裂のタイミングをバランスよく制御しなければならない.伸長が足りないときに細胞分裂すると小さな細胞になってしまうし,細胞分裂のタイミングが遅ければ大きな細胞になってしまう.また,細胞分裂が非対称的に起こる場合には,細胞分裂の位置も細胞の大きさを決める要因になる.つまり,細胞の大きさを制御するということは,細胞分裂をどのように制御するのかということにつながる.
 もっとも単純な機構として考えられるのは,細胞がある一定の大きさ(閾値)に達したのち細胞分裂するという閾値モデルである(図1a).閾値モデルの場合には,細胞がどのような大きさで生まれようとも,細胞分裂の直前の大きさはみな同じになる.そのため,新たに誕生する細胞の大きさは閾値と細胞分裂の位置により決定される.閾値モデルによる大きさの制御は酵母において用いられている.ただし,酵母においては細胞分裂の時点ではなく細胞周期のほかの時点にチェックポイントがあり,その時点での大きさが閾値に達した細胞のみがつぎの細胞周期に進む1-3)

figure1

 それでは,原核生物においてもこのような閾値モデルによる細胞の大きさの制御は存在するのだろうか.1968年,DNA複製の開始のときの細胞の大きさは異なる培養条件においても一定であるとの仮説が提唱され4),長いあいだ,細菌においても閾値モデルによる細胞の大きさの制御が存在すると考えられてきた.一方で,細胞の大きさの恒常性の維持は,ある一定の量だけ伸長したのち細胞分裂するという定量伸長モデルによっても説明できることは議論されていた5)図1b).この定量伸長モデルが閾値モデルと大きく異なる点は,細胞分裂のときの細胞の大きさである.細胞分裂のとき,閾値モデルの場合にはすべての細胞は同じ大きさになる一方,定量伸長モデルの場合には細胞は異なる大きさになる.このように,細胞の大きさを制御しうる複数のモデルが提唱されてきたが6),これまで,細菌においてはどのモデルが真実であるかを検証する実験的な証拠は得られていなかった.なぜなら,その検証には大量の試料について複数の細胞周期にわたる高精度の画像解析が必要とされたからである.以前に,筆者らの研究グループは,これらの点をみたす画像解析プログラムを開発していた7).そこで,筆者らは,このプログラムを用いて細胞の伸長するようすを1細胞のレベルで観察し定量的に解析することにより,細菌がどのようにその大きさを制御するのかを明らかにすることを試みた.その結果,細菌はこれまで強く支持されてきた閾値モデルではなく,定量伸長モデルによりその大きさを一定に保っていることが示された.

1.細菌に閾値モデルは適用されない

 モデル生物のうち,対称分裂をする大腸菌(Escherichia coli),および,非対称分裂をするCaulobacter crescentusを対象とし,また,細胞の長さを細胞の大きさの指標とした.原核生物にも大きさの閾値があると仮定すれば,細胞はどのような長さで誕生しようとも細胞の長さのばらつきは閾値によりリセットされ,つぎの世代の細胞の長さには影響しないはずである.すなわち,ある世代の細胞の長さとつぎの世代の細胞の長さには相関はみられないはずである(図2).そこで,細胞分裂した直後の細胞の長さについて,ある世代の細胞の長さとつぎの世代の細胞の長さとのあいだに相関があるかどうかを解析したところ,正の相関があることがわかり,閾値モデルによる細胞の長さの制御は大腸菌およびC. crescentusにはあてはまらないことが示された(図2).

figure2

 一方で,ある世代の細胞の長さとつぎの世代の細胞の長さとのあいだに正の相関があるということは,平均より短く生まれた細胞はつぎの世代においても短い傾向にあることを意味していた.この結果は,細胞はその長さを制御しないようにもうけとれた.そこで,この相関をさらに詳細にみてみると,平均よりも短く生まれた細胞はつぎの世代でも平均より短いままであったが,まえの世代よりはいくらか平均値に近づく(長くなる)傾向にあることがわかった.この結果は,細菌がその細胞の長さを一定の値へと収束させる制御機構をもつこと,また,その制御は1回の細胞周期では完全に達成されないことを示した.

2.細菌はある一定の長さだけ伸長したのち細胞分裂する

 閾値モデルによる細胞の長さの制御は,その定義から,細胞の誕生したときの長さが細胞の誕生からつぎの細胞分裂までに伸長した長さと負に相関するという特徴がある.そこで,大腸菌およびC. crescentusにおいて,細胞が誕生したときの長さと細胞の誕生からつぎの細胞分裂までに伸長した長さとのあいだに相関があるかどうか解析したが,これらの値は相関せず,細胞の誕生からつぎの細胞分裂までに伸長した長さは一定であることがわかった.つまり,細胞はどのような長さで誕生しようとも関係なく,一定の長さだけ伸長したのち細胞分裂するという定量伸長モデルを用いて細胞分裂のタイミング,すなわち,細胞の長さを制御していることが示された.

3.定量伸長モデルは細胞の長さの恒常性の維持に十分である

 定量伸長モデルだけで細胞の長さの恒常性を維持することは可能だろうか.答えは“yes”であった.細胞の中央において細胞分裂する大腸菌を例にして考えてみよう.ある細胞の長さが,定量伸長値である定数LからδLだけ離れているとする(L1 = LL).この細胞はLだけ伸長して細胞の中央において細胞分裂するため,新たに誕生する細胞の長さはL2 = L + 0.5 ×δLとなる.細胞分裂がもういちどくり返されると,新たに誕生する細胞の長さはL3 = L + 0.25 ×δLとなる.このように,細胞分裂がくり返されるにつれδLは減少していき,最終的には,細胞の長さは定数であるLに近づく.実際には,細胞の分裂の位置などにノイズがあるため,すべての細胞の長さはLにならずLを中心に分布する.ここで,数理モデルを構築し実験で得られたノイズをあてはめてシミュレーションをしたところ,得られた細胞の長さは平均値だけでなくその分布のようすまで実験結果とよく一致した.これは,定量伸長モデルにより細胞の長さの恒常性が説明できることを裏づける結果となった.また,非対称分裂するC. crescentusにおいても同様の結果が得られ,定量伸長モデルは対称分裂をする細菌にかぎらず適用されることが明らかになった.

4.定量伸長は培養の条件や細胞分裂の位置には左右されない

 定量伸長モデルはどのくらい普遍的なのかを知るため,大腸菌を対象として,異なる培養条件あるいは変異株を用いて解析した.大腸菌は培養条件に応じてその細胞の長さを変化させることが知られている.そこで,大腸菌を異なる培地で培養したところ,どの条件においても細胞の誕生したときの長さと細胞の誕生からつぎの細胞分裂までに伸長した長さとのあいだに相関はみられず,細胞の誕生からつぎの細胞分裂までに伸長した長さはそれぞれの条件において一定であった.一方で,細胞の誕生からつぎの細胞分裂までに伸長した長さは異なる培養条件では異なる値を示し,大腸菌には培養条件に応じて細胞の誕生からつぎの細胞分裂までに伸長する長さを変化させる機構があることが示唆された.また,細胞分裂が細胞の中央だけではなくさまざまな位置において起こる変異株を用いて同様に解析したところ,やはり,細胞の誕生からつぎの細胞分裂までに伸長した長さは細胞の誕生したときの長さには依存せず一定であった.つまり,培養の条件や細胞分裂の位置には左右されず,細菌はつねに定量伸長モデルにより細胞の長さの恒常性を維持していることが示唆された.

おわりに

 この論文において,筆者らは,大腸菌およびC. crescentusにおいて細胞の長さの恒常性は定量伸長モデルにより維持されていることを示した.このコンセプトは,これまで支持されてきた閾値モデルとはまったく異なるものであった.なぜなら,閾値モデルの場合には細胞はその全長を感知しなければならないことに対し,定量伸長モデルでは細胞はどれだけ伸長したかを感知すればよいからである.筆者らは,細胞の長さを大きさの指標として用いたが,実際に,細胞が何をもってその大きさを感知しているのかは明らかではない.細胞の体積であるかもしれないし,細胞の表面積であるかもしれない.どのようにして細胞が伸長した大きさを感知しているのか,そして,その情報をどのように細胞分裂とリンクさせているのかはまだ謎であり,これからの研究によりその詳細が明らかにされることを期待したい.

文 献

  1. Fantes, P. A.: Control of cell size and cycle time in Schizosaccharomyces pombe. J. Cell Sci., 24, 51-67 (1977)[PubMed]
  2. Johnston, G. C., Pringle, J. R. & Hartwell, L. H.: Coordination of growth with cell division in the yeast Saccharomyces cerevisiae. Exp. Cell Res., 105, 79-98 (1977)[PubMed]
  3. Sveiczer, A., Novak, B. & Mitchison, J. M.: The size control of fission yeast revisited. J. Cell Sci., 109, 2947-2957 (1996)[PubMed]
  4. Donachie, W. D.: Relationship between cell size and time of initiation of DNA replication. Nature, 219, 1077-1079 (1968)[PubMed]
  5. Voorn, W. J. & Koppes, L. J.: Skew or third moment of bacterial generation times. Arch. Microbiol., 169, 43-51 (1998)[PubMed]
  6. Amir, A.: Cell size regulation in bacteria. Phys. Rev. Lett., 112, 208102 (2014)
  7. Sliusarenko, O., Heinritz, J., Emonet, T. et al.: High-throughput, subpixel precision analysis of bacterial morphogenesis and intracellular spatio-temporal dynamics. Mol. Microbiol., 80, 612-627 (2011)[PubMed]

生命科学の教科書における関連するセクションへのリンク

東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.

著者プロフィール

加藤 節(Setsu Kato)
略歴:2010年 東京大学大学院農学生命科学研究科 修了,同年より米国Yale大学 博士研究員.
研究テーマ:同一の遺伝情報をもつ細菌の集団が示す表現型の多様性を1細胞のレベルで解析し,その生物学的な意味について考察する.

© 2015 加藤 節 Licensed under CC 表示 2.1 日本


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