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DNA 2本鎖切断部位の動的および空間的な制御にはクロマチンリモデリング複合体が関与する

堀籠智洋・Susan M. Gasser
(スイスFriedrich Miescher Institute for Biomedical Research)
email:堀籠智洋
DOI: 10.7875/first.author.2014.110

SWR1 and INO80 chromatin remodelers contribute to DNA double-strand break perinuclear anchorage site choice.
Chihiro Horigome, Yukako Oma, Tatsunori Konishi, Roger Schmid, Isabella Marcomini, Michael H. Hauer, Vincent Dion, Masahiko Harata, Susan M. Gasser
Molecular Cell, 55, 626-639 (2014)




要 約


 DNA 2本鎖切断はゲノムの不安定化や細胞のがん化,細胞死にいたる可能性をもつ重篤なDNA損傷であり,その修復機構の理解はたいへん重要である.近年,出芽酵母を用いた研究により,DNA 2本鎖切断が持続的にひき起こされるとDNA 2本鎖切断部位は核膜へと移動し,核膜孔Nup84複合体および核内膜SUNドメインタンパク質であるMps3と結合することが示された.この研究においては,DNA 2本鎖切断部位の動的および空間的な制御について解析し,クロマチンリモデリング複合体であるSWR1複合体およびINO80複合体がDNA 2本鎖切断部位の核膜における結合部位の決定に影響を及ぼすことを明らかにした.ヒストンバリアントであるHtz1のSWR1複合体に依存的な組込みはDNA 2本鎖切断部位の移動性を制御し,核膜孔およびMps3への結合に必須であった.一方,INO80複合体はS期およびG2期に特異的なMps3への結合にのみ影響を及ぼした.核膜孔およびMps3の2つのDNA 2本鎖切断部位との結合部位はDNA修復において代償的な役割をはたすことが示された.

はじめに


 DNA 2本鎖切断は細胞のがん化や細胞死につながるきわめて有害な損傷であり,適切に修復される必要がある.DNA 2本鎖切断はおもに2つの経路,非相同末端結合および相同組換えにより修復されるが,そのほかにも,切断誘導複製,鋳型乗換えなど,さまざまな修復経路が知られている1).非相同末端結合は1倍体の出芽酵母のG1期における主要な修復経路であるが,動物細胞においては細胞周期をとおして優位な反応である.出芽酵母ではS期以降は相同組換えが主要な修復経路となる.相同組換えによる修復においてはDNA合成の鋳型として損傷していない相同配列が必要とされるが,その配列は多くの場合DNA複製により形成される姉妹染色分体により提供される.
 クロマチンリモデリング複合体はATPに依存して局所的にヌクレオソームをスライドさせたりヒストンを交換したりするなどしてクロマチンの構造をダイナミックに変換する.近年,これらクロマチンリモデリング複合体のDNA 2本鎖切断の修復における重要性が明らかになってきた2).出芽酵母においては,クロマチンリモデリング複合体であるRSC複合体,INO80複合体,SWR1複合体がDNA 2本鎖切断部位にリクルートされることが知られている.SWR1複合体はヒストンH2A-ヒストンH2B二量体をヒストンバリアントであるHtz1(H2A.Z)を含むHtz1-ヒストンH2B二量体に置き換える.これにより,DNA 2本鎖切断部位において約1 kbにもわたるHtz1の蓄積がひき起こされる.一方,INO80複合体はHtz1を排除する活性をもち,DNA 2本鎖切断の5’末端の消化において機能をもつ.興味深いことに,DNA 2本鎖切断部位はクロマチンリモデリング複合体によりその移動性が制御されている.DNA 2本鎖切断がひき起こされるとDNA 2本鎖切断部位およびゲノムのほかの部位のクロマチンの移動性が上昇するが,その反応にはINO80複合体が必要である3,4).DNA 2本鎖切断部位の移動性の上昇は相同組換えにおける相同配列の探索を促進すると考えられている.
 近年,核においてDNA 2本鎖切断部位が空間的に制御されていることが明らかになった.DNA 2本鎖切断が持続的にひき起こされるとDNA 2本鎖切断部位や崩壊した複製フォークが核膜へと移動し,核膜孔Nup84複合体および核内膜SUNドメインタンパク質であるMps3と結合することが示されている5-7).筆者らは,この研究において,クロマチンリモデリング複合体であるSWR1複合体およびINO80複合体がDNA 2本鎖切断部位の核膜における結合部位の決定にかかわること,そして,核膜孔およびMps3の2つのDNA 2本鎖切断部位との結合部位の選択がDNA修復を協調的に進めるために重要であることを示した.

1.DNA 2本鎖切断部位の核膜への移動にはSWR1複合体に依存的なHtz1の組込みが必要である


 ヒストンバリアントであるHtz1の欠損はDNA 2本鎖切断部位とMps3との結合を欠失させることが示されたが7),のちの報告により,Htz1はMps3の核膜への局在に必須な役割をはたす分子シャペロンであることが明らかになった8).このため,htz1破壊株におけるDNA 2本鎖切断部位の核膜への移動についての影響は,核膜におけるMps3の不在によるものか,それとも,DNA 2本鎖切断部位におけるHtz1の欠失によるものかを検討する必要が生じた.そこで,lacO配列を持続性のDNA 2本鎖切断部位の近傍に組み込み,lacO配列に特異的に結合するGFP-LacI融合タンパク質を共発現させることにより,DNA 2本鎖切断部位の核における位置情報の定量化を行った.野生株およびINO80複合体の機能欠失株においてDNA 2本鎖切断部位は核膜へと移動したが,swr1破壊株ではDNA 2本鎖切断部位はランダムに局在し核膜への移動はみられなかった.この表現型は野生型のSWR1遺伝子により相補され野生株と同様の核膜への移動が観察されたのに対し,ATPase不活性型のSWR1遺伝子では相補されなかった.同様に,htz1破壊株においてもDNA 2本鎖切断部位の核膜への局在は失われ,その表現型は野生型のHTZ1遺伝子により相補された.一方,SWR1複合体に依存的な組込みに欠陥をもつがMps3の核膜への局在に影響をあたえないようなhtz1変異株においては相補されなかった.これらのことから,SWR1複合体に依存的なHtz1の組込みがDNA 2本鎖切断部位の核膜への移動に必須であることが示された.これまでに,DNA 2本鎖切断部位とMps3との結合には相同組換えによるDNA 2本鎖切断修復にかかわるRad51やDNA損傷チェックポイントタンパク質であるRad9が必要であると報告されていた6,7).しかし,rad51破壊株を用いた顕微鏡解析では,DNA 2本鎖切断部位は野生株と同様に核の辺縁への移動を示した.このことから,Mps3以外のDNA 2本鎖切断部位との結合部位,おそらく,核膜孔がMps3とは独立して機能をはたしている可能性が示唆された.
 核膜におけるDNA 2本鎖切断部位との2つの結合部位を区別するため,クロマチン免疫沈降法によりDNA 2本鎖切断部位と核膜孔およびMps3との結合を調べた.顕微鏡解析の結果と一致して,swr1破壊株では核膜孔およびMps3の両方において結合の欠失が観察された.一方,INO80複合体の機能欠失株ではMps3に特異的にDNA 2本鎖切断部位との結合が失われた.また,核膜孔をクラスター化させる変異株を用いてDNA 2本鎖切断部位と核膜孔との共局在について顕微鏡解析したところ,INO80複合体およびRad51は核膜孔とDNA 2本鎖切断部位との結合に影響をあたえないことが示された.DNA 2本鎖切断部位と核膜孔との結合は細胞周期をとおして観察されたが,Mps3との結合はG1期には観察されなかった.まとめると,DNA 2本鎖切断部位と核膜孔との結合は細胞周期をとおして観察されINO80複合体およびRad51を必要としない反応であり,一方,DNA 2本鎖切断部位とMps3との結合はS期およびG2期に特異的でINO80複合体およびRad51に依存的な現象であった.また,いずれの結合においてもSWR1複合体およびHtz1が必須であった.

2.ヒストンバリアントHtz1は損傷していないクロマチンの核における配置を変換し核膜へと移動させる


 さきに述べたように,DNA 2本鎖切断部位の核膜への移動にはSWR1複合体およびHtz1が重要性な役割をはたしていた.しかし,DNA 2本鎖切断部位には多くの修復タンパク質が連続的に結合して機能していることから,swr1破壊株およびhtz1破壊株を用いた解析ではDNA修復経路の下流タンパク質への影響など2次的な要因を考慮しなければならない.そこで,Htz1の組込みがクロマチンの核における配置にはたす役割を単純化してとらえるため,LexA結合配列へのLexA融合タンパク質の特異的な結合を利用してHtz1またはSwr1をクロマチンに結合させ,その位置を定量的な顕微鏡解析により評価した.LexA-Htz1融合タンパク質を核にランダムに局在する損傷していないクロマチンに結合させると,その部位の核の辺縁への移動および蓄積が観察された.この移動はMps3との結合に依存していた.同様に,LexA-Swr1融合タンパク質のクロマチンへの結合においても核膜への移動が観察されたが,結合したのはHtz1と異なり核膜孔であった.

3.DNA 2本鎖切断部位の移動性の上昇はSWR1複合体およびHtz1により制御されるが核膜への移動には必須ではない


 Rad51およびINO80複合体はDNA 2本鎖切断部位の移動性の上昇に必要である3,9).今回,SWR1複合体およびHtz1も同様に,DNA 2本鎖切断部位の移動性の上昇に役割をもつことが示された.また,LexA-Arp5融合タンパク質,LexA-Apr8融合タンパク質,LexA-Ino80融合タンパク質の損傷していないクロマチンへの結合はその移動性を上昇させるが3),核における配置には影響を及ぼさないことが示された.これらのことから,クロマチンの移動性の上昇と核膜への移動には直接的な相互関係のないことが示唆された.ただし,クロマチンの移動性の上昇が核膜への移動において促進的に寄与する可能性については結論を保留する.

4.核膜孔とMps3は姉妹染色分体の不均等な交換において異なる役割をはたす


 核膜孔とMps3はたがいちがいの独立した核膜への局在を示す10).核膜孔Nup84複合体の変異株ではDNA 2本鎖切断部位と核膜孔との結合は欠失したが,S期およびG2期におけるMps3との結合は維持された.一方,Mps3の部分欠失株では核膜における核膜孔の分布は維持されていたが,DNA 2本鎖切断部位と核膜孔およびMps3との結合は大きく減少した.ただし,Mps3との結合を示さないINO80複合体の機能欠失株およびrad51破壊株において核膜孔との結合が維持されていたことから考えると,Mps3との結合はDNA 2本鎖切断部位と核膜孔との結合に必須ではないと考えられた.つまり,DNA 2本鎖切断部位と核膜孔およびMps3との結合は相互依存的な関係をもたないと考えられた.Mps3の部分欠失株において観察された核膜孔とDNA 2本鎖切断部位との結合の欠失は,核膜孔を含む機能的な核膜タンパク質ネットワークの崩壊など2次的な影響によるものと予想された.
 核膜におけるDNA 2本鎖切断部位との2つの結合部位の機能的な関連を調べるため,核膜孔とMps3の二重変異株を作製した.この二重変異株はDNA損傷を誘導するメチルメタンスルホン酸に対し,おのおのの単独の変異株よりも合成的な高感受性を示した.さらに,非正統的な組換えのマーカーと考えられている姉妹染色分体の不均等な組換えについて解析したところ,核膜孔とMps3の二重変異株において組換え率の追加的な上昇が観察された.これらの結果から,核膜孔およびMps3がDNA修復および組換えに関して代償的に貢献することを示唆された.

おわりに


 1960年代の放射線や紫外線に高感受性を示すrad変異株のスクリーニングを皮切りに,多数のDNA修復経路が同定されその分子機構が明らかにされてきた.近年のおもに顕微鏡を用いた解析は,これらDNA修復経路に関する研究にDNA損傷の動的および空間的な制御という新たな視点をくわえた.DNA 2本鎖切断部位は損傷していないクロマチンよりも高い移動性を示し,核膜へと移動して結合することが明らかになった.
 この研究では,2つのクロマチンリモデリング複合体,SWR1複合体およびINO80複合体がDNA 2本鎖切断部位の核膜への結合にかかわることを示したが(図1),そもそも,DNA 2本鎖切断部位が核膜へと移動し結合することにはどのような意味があるのだろうか? DNA 2本鎖切断はゲノムのあらゆる部位においてひき起こされる可能性のある重篤な損傷である.持続性のDNA 2本鎖切断などすみやかな修復のかなわない損傷は核膜孔あるいはMps3へと運ばれる.その際,Swr1やIno80などDNA 2本鎖切断結合タンパク質との結合とその反応がクロマチンの移動性の上昇と結合部位の決定にかかわる.核膜におけるDNA 2本鎖切断部位との2つの結合部位はそれぞれ独自の専門性をもち,DNA修復経路の拠点として機能すると考えられる.Mps3との結合はDNA 2本鎖切断部位をほかのクロマチン領域から隔離し組換えを抑制する6).一方,核膜孔にはSUMO依存的なユビキチンリガーゼであるSlx5/Slx8やSUMOプロテアーゼであるUlp1が局在しており,核膜の辺縁にはプロテアソームが局在している.興味深いことに,DNA 2本鎖切断部位に結合する多くのタンパク質がSUMOリガーゼであるSiz2によりいっせいにSUMO化修飾をうけることが報告されている11).これらタンパク質のSUMO化と核膜におけるSUMO化タンパク質の代謝がDNA修復経路の決定とその進行に関与しているのかもしれない.このように,Mps3と核膜孔はDNA修復経路の手綱をにぎり,促進的または抑制的に機能することによりゲノム安定性の維持に協調的に貢献している可能性がある(図1).




文 献



  1. Chapman, J. R., Taylor, M. R. & Boulton, S. J.: Playing the end game: DNA double-strand break repair pathway choice. Mol. Cell, 47, 497-510 (2012)[PubMed]

  2. Smeenk, G. & van Attikum, H.: The chromatin response to DNA breaks: leaving a mark on genome integrity. Annu. Rev. Biochem., 82, 55-80 (2013)[PubMed]

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著者プロフィール


堀籠 智洋(Chihiro Horigome)
略歴:2008年 広島大学大学院生物圏科学研究科 修了,同年 同 研究員を経て,2010年よりスイスFriedrich Miescher Institute for Biomedical Research博士研究員.
研究テーマ:DNA 2本鎖切断部位の空間的な制御とDNA修復における核膜の役割.
抱負:イメージング技術により得られる動的および空間的な情報と生化学的な手法および遺伝学的な手法とを組み合わせ,核膜や核小体など,核の機能的な構造について理解したい.

Susan M. Gasser
スイスFriedrich Miescher Institute for Biomedical Research所長.
研究室URL:http://www.fmi.ch/research/groupleader/website/gasserlab/susangasser.php

© 2014 堀籠智洋・Susan M. Gasser Licensed under CC 表示 2.1 日本