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出芽酵母においてヒストン脱アセチル化酵素はリボソームDNA領域におけるクロマチンの制御を介して複製のタイミングを制御している

2014年6月20日

吉田 和真
(フランスInstitute of Human Genetics,Department of Molecular Bases of Human Diseases)
email:吉田和真
DOI: 10.7875/first.author.2014.083

The histone deacetylases Sir2 and Rpd3 act on ribosomal DNA to control the replication program in budding yeast.
Kazumasa Yoshida, Julien Bacal, Damien Desmarais, Ismaël Padioleau, Olga Tsaponina, Andrei Chabes, Véronique Pantesco, Emeric Dubois, Hugues Parrinello, Magdalena Skrzypczak, Krzysztof Ginalski, Armelle Lengronne, Philippe Pasero
Molecular Cell, 54, 691-697 (2014)

要 約

 真核生物においてゲノムの複製は染色体にある多数の複製開始点からさまざまなタイミングではじまるが,どの複製開始点がどのタイミングで使用されるのか,いわゆる,複製プログラムを決定するしくみについては未解明な点も多い.この研究では,出芽酵母におけるゲノムの複製において,ヒストン脱アセチル化酵素であるRpd3およびSir2が複製のタイミングを逆の方向に制御していることを見い出した.つまり,Rpd3は後期の複製開始点からの複製の開始を遅らせ,一方で,Sir2はS期の初期における複製開始点の効率的な活性化に必要であった.この背後には,くり返し配列であるリボソームDNA領域とそれ以外の領域とのあいだにおける複製開始因子の競合という分子機構のあることが示された.さらに,Rpd3およびSir2が多コピーからなるリボソームDNA領域の複製開始点の活性をそれぞれ正と負に対立的に制御することにより,複製プログラムの制御に寄与していることが明らかになった.

はじめに

 ゲノムの正確な複製は遺伝情報の安定な維持において重要である.複製プログラム,すなわち,どの領域がいつ複製されるかという複製のタイミングは,細胞の系統や分化および発生の過程に応じて柔軟に変化することが知られている1).複製プログラムの制御の生理的な意義についてはまだよくわかっていないが,複製と転写あるいは修復など染色体のほかの機能とをうまく協調させることが遺伝情報の正しい継承のために重要であると考えられている2).複製プログラムは複製開始因子の複製開始点へのアクセシビリティを変化させるクロマチンの構造や核における3次元配置などエピジェネティックな機構により制御されている3).複製開始因子のいくつかは複製開始点の数に比べ少なく,そのため,ゲノムにある複製開始点がすべて同時に活性化することはない.律速となる複製開始因子が散在する複製開始点に順に作用していくことにより,あたかもプログラムされていたかのようにゲノムの複製が順序だって行われる(図1).

figure1

 出芽酵母において,後期の複製開始点はヒストンの脱アセチル化のような抑制性のクロマチン修飾により制御されているといわれている.ヒストンのアセチル化の状態を制御するヒストン脱アセチル化酵素のうち,複製の制御にかかわることが早くから報告されていたものにRpd3があり,100以上の複製開始点の活性化を遅らせることが知られている4-6).しかし,Rpd3は後期の複製開始点のみならず初期の複製開始点の活性も負に制御しており,複製プログラムの制御において後期の複製開始点と初期の複製開始点とを分けるタンパク質としては疑問が残っていた.Rpd3にくわえ,2つのSirtuinファミリー(NAD+依存性ヒストン脱アセチル化酵素)の複製の制御への関与が知られている.Sir2はいくつかの複製開始点を抑制的に制御し,一方で,Hst1は別のいくつかの複製開始点を促進的に制御している.また,複製開始点の周辺のヒストンのアセチル化のパターンは,ゲノム全体での複製のタイミングとは相関しないという報告もある7).このように,ヒストン脱アセチル化酵素による複製プログラムの制御の詳細は不明のままであった.
 今回の論文では,初期の複製開始点および後期の複製開始点におけるヒストン脱アセチル化酵素による複製プログラムの制御機構を解明するため,モデル系としてヒストン脱アセチル化酵素を欠損した出芽酵母を用いて,全ゲノム領域における複製の開始の活性について解析した.

1.Rpd3およびSir2は複製を反対の方向に制御する

 ヒストン脱アセチル化酵素がどのように複製プログラムの形成に貢献しているのかを解明するため,出芽酵母のもつすべてのヒストン脱アセチル化酵素について欠失変異体を作製し,複製プログラムへの影響について解析した.BrdU-IP-chip法により複製プロファイルを調べた.これは,DNA合成部位をBrdUにより標識したのち免疫沈降を行い,マイクロアレイにより全ゲノム領域について複製を検出する方法である.全10種類のヒストン脱アセチル化酵素のうち,たった2つが複製プロファイルにいちじるしい影響をあたえ,その影響は逆向きであった.過去の報告のとおり,rpd3欠損株では後期の複製開始点の時期尚早な活性化が起こり,また,初期の複製開始点においてもDNAの合成量(BrdUの取り込み量)が上昇した.複製プロファイルに影響する可能性のある細胞周期やdNTPプールに大きな影響はなく,複製チェックポイント経路は野生株と遜色なく活性化していた.RPD3遺伝子の欠失により脱制御した複製開始点はRpd3による脱アセチル化部位と位置的に近い傾向がみられたが,初期の複製開始点あるいは後期の複製開始点にかかわらず一定の相関を示した.一方で,sir2欠損株では全体的にBrdUの取り込みが低下し,いくつかの初期の複製開始点では活性化が抑制された.これ以外のヒストン脱アセチル化酵素をコードする遺伝子の欠失は複製開始点の活性化に大きな影響をあたえなかった.以上より,出芽酵母においては2つのヒストン脱アセチル化酵素,Sir2およびRpd3が複製開始点の時間的な制御において逆の役割を担うことが明らかになった.つまり,Rpd3は初期の複製開始点および後期の複製開始点をともに抑制しており,Sir2は初期の複製開始点の効率的な活性化に必要であった.

2.sir2欠損株における初期の複製開始点の活性の低下はrDNA領域の複製活性の上昇による

 ここまでのゲノムワイドな解析は技術的な制限によりくり返し配列にある複製開始点を解析の対象とはしていなかった.しかし,出芽酵母の複製開始点の約30%はリボソームDNA(rDNA)領域などのくり返し配列のなかに存在する.出芽酵母では複製開始点の数に比べてある種の複製開始因子の量が少なく,これが複製の開始において律速となっている.ごく最近,rDNA領域にある複製開始点が単一コピーの複製開始点と競合することが報告されたが,この両者のバランスを制御するしくみはわかっていなかった8).Sir2はrDNA領域において転写の抑制に機能しており,rDNA領域にある活性な複製開始点の分布に影響するヒストン脱アセチル化酵素である.rDNA領域は第12染色体にあり,9.1 kbの反復配列がタンデムに150~200コピーほど連なっている.それぞれのくり返し配列ごとに複製開始点があるが,1回のS期において活性化する複製開始点はそのうち20%にすぎない.活性な複製開始点は転写の活性な遺伝子の下流にあること,また,活性な複製開始点はとなりあった2~3個からなる一団を形成しており,Sir2によるヒストン脱アセチル化により抑制された不活性なギャップにより隔てられていることが報告されている.
 定量PCR法によりrDNA領域の複製に対するSIR2遺伝子の破壊の影響を調べたところ,複製活性が上昇していることがわかった.sir2欠損株では複製開始点を含めたrDNA領域において活性なヒストンの標識であるヒストンH4のLys16のアセチル化が上昇していた.また,すでに知られていたことだが,sir2欠損株においては組換えにより産生される染色体外環状rDNAの蓄積がみられた.そこで,sir2欠損株においてrDNA領域の複製活性が上昇することが,ほかの初期の複製開始点における複製活性の低下の第1の要因ではないかと考えた(図2).この可能性を検証するため,rDNAのコピー数を通常の150~200コピーから20コピー程度にまで減少させてその影響をみた.20コピーのrDNAは細胞の増殖には十分であり,rDNAのコピー数の増幅に必要なタンパク質Fob1を欠損させておくことにより維持できる9).野生株ではrDNAのコピー数を減少させても,rDNA領域およびほかの領域ともに複製活性に変化はみられなかった.その一方で,野生株よりもrDNA領域の複製活性が上昇しているsir2欠損株においては,rDNAのコピー数を減少させることによりrDNA領域の複製活性が1/3まで低下した.それに応じるように,sir2欠損株では減弱していた初期の複製開始点からの複製が回復していた.また,rDNAのコピー数は変えずにFOB1遺伝子を単独で欠失させた場合にも,sir2欠損株においてゲノム全体の複製についてかなりの回復がみられた.これは,Sir2により増加する染色体外環状rDNAの形成にFob1が必須であり,sir2 fob1二重欠損株では染色体外環状rDNAの劇的な減少とrDNA領域の複製活性の低下がひき起こされたことと合致した.これらの変異体ではrDNA領域における複製の開始率がほかの領域における複製の開始率と逆相関の関係を示した.

figure2

 総じて,sir2欠損株においてrDNA領域の複製活性を低下させると,複製プロファイルが正常にもどることが示された.これらの結果は,rDNA領域の多コピーの複製開始点と一般的な単一コピーの複製開始点の転写活性のバランスが複製プログラムを制御しているというモデルを強く示唆した.なお,Sir2はrDNA領域以外の領域における転写の抑制に対し,Sir3およびSir4とともにはたらくことが知られている.しかし,SIR3遺伝子の欠失は複製プログラムに影響しなかったので,Sir2によるほかの領域における転写の抑制はグローバルな複製プログラムの制御には関与しないと考えられた.

3.SIR2遺伝子の欠失はrpd3欠損株における複製を正常にもどす

 これまでの結果から,rDNA領域が複製プログラムの制御の鍵となることが示唆された.そこで,rpd3欠損株においても同様にrDNA領域の複製活性が変化しているかどうかを検討した.定量PCR法およびChIP-seq法の結果,rpd3欠損株ではrDNA領域の複製活性が顕著に低下していた.また,rpd3欠損株では染色体外環状rDNAの減少もみられた.これらは,rpd3欠損株における初期の複製開始点および後期の複製開始点の活発な活性化と一致した(図2).さらに興味深いことに,rpd3欠損株におけるrDNA領域の複製の抑制はSir2に依存しており,rpd3欠損株においてSIR2遺伝子を破壊しrDNA領域における転写の抑制を解除すると,rDNA領域の複製活性は回復した.それのみならず,ほかの領域の複製活性も野生株に近いパターンにまでもどった.すなわち,RPD3遺伝子の欠失のゲノムワイドな複製への影響は,rDNA領域の複製活性の変化に大きく起因することが示唆された.
 これら複製開始点のあいだの競合が数の限られた複製開始因子に対し生じていることを検証するため,いくつかの複製開始因子を過剰に発現する株を利用した10).これらの複製開始因子を過剰に発現すると,sir2欠損株において抑制される初期の複製開始点の活性化がみられた.また,野生株と比べて,sir2欠損株において初期の複製開始点におけるBrdUの取り込みが低下することもなかった.よって,sir2欠損株においてみられる初期の複製開始点の抑制は,複製活性の上昇したrDNA領域が律速となる複製開始因子をこれらの複製開始点からうばった結果であると考えられた.
 今回の研究において,Sir2およびRpd3がrDNA領域のクロマチン構造を制御することにより,複製プロプラムを制御していることが明らかになった.数の限られた複製開始因子に対する単一コピーの複製開始点との競合を制御するため,Sir2はrDNA領域の複製活性を抑制し,一方で,Rpd3はこの効果を相殺する役割があった.ヒストン脱アセチル化酵素のもつ複製プロプラムの制御へのおもな効果は,個別の単一コピーの複製開始点における複製活性より,むしろ,rDNA領域の複製開始点における複製活性の変化によるという説明は,出芽酵母においては複製のタイミングとローカルなヒストンアセチル化との相関がみられないことと矛盾しない.

おわりに

 筆者らは,ヒストン脱アセチル化酵素がおもに染色体外環状rDNAの形成およびrDNA領域の複製開始点の活性を制御することにより,出芽酵母において複製プログラムの全体を左右すると考えている.これは,ヒストン脱アセチル化酵素が個別の複製開始点に直接に作用することで複製プログラムを制御しているという,従来のモデルとは異なる新たな分子機構である.ただし,この研究は複製プログラムの制御におけるヒストン脱アセチル化酵素のローカルな効果を否定するものではない.出芽酵母において,rDNA領域の複製活性は寿命に関与し,その上昇は寿命を縮めることが報告されている8,11).この因果関係のなかに複製プログラムの変化がからむのかどうか興味深い.
 また,同様の複製プログラムの制御機構がヒトの細胞にもあるかどうかについては今後の課題である.多細胞生物における複製においても,特定の複製開始因子が量的に律速になっていることはいくつかの脊椎動物のモデル系において報告されはじめている12-14).そして,Rpd3あるいはSir2に関連するヒストン脱アセチル化酵素の遺伝子は酵母からヒトまで保存されている.ただし,出芽酵母のゲノムに比べヒトのゲノムではrDNA領域のしめる割合が低いため,ヒトにおいてヒストン脱アセチル化酵素がまったく同様にrDNA領域の複製を制御することにより複製プログラムに関与するとは考えにくい.しかし,rDNA領域にかぎらなければ,くり返し配列はヒトのゲノムの50%をしめるといわれている.転写の抑制されているヘテロクロマチンにはくり返し配列も多く,これらの領域が複製開始因子についてほかの領域と競合しないよう制御されている可能性はある.出芽酵母のように,ヒストン脱アセチル化酵素がこれら単一コピーの複製開始点と競合するくり返し配列の複製開始点の活性制御を介して複製プログラムに影響するのかどうかを明らかにすることは,多細胞生物のもつ複雑かつ柔軟な複製プログラムを理解するうえで重要であると考えられる.

文 献

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生命科学の教科書における関連するセクションへのリンク

東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.

著者プロフィール

吉田 和真(Kazumasa Yoshida)
略歴:2006年 大阪大学大学院理学研究科博士課程後期 修了,同年 国立がんセンター研究所 リサーチレジデント,2010年 フランスInstitute of Human Geneticsポスドクを経て,2013年より九州大学大学院薬学研究院 助教.
研究テーマ:ゲノムの複製の分子機構.
関心事:発がんや老化につながるゲノムの不安定性は正常な細胞においてどのように生じるのか? また,複製のタイミングはゲノムの機能やその安定な維持にとりどのような意味をもつのか?

© 2014 吉田 和真 Licensed under CC 表示 2.1 日本


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