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Merkel細胞は触知覚細胞として機械刺激を電気シグナルに変換する

2014年5月14日

池田 亮・Jianguo G. Gu
(米国Cincinnati大学College of Medicine,Department of Anesthesiology)
email:池田 亮
DOI: 10.7875/first.author.2014.061

Merkel cells transduce and encode tactile stimuli to drive Aβ-afferent impulses.
Ryo Ikeda, Myeounghoon Cha, Jennifer Ling, Zhanfeng Jia, Dennis Coyle, Jianguo G. Gu
Cell, 157, 664-675 (2014)

要 約

 触刺激を認識する機械受容器は無脊椎動物におけるシンプルな構造から哺乳類における特殊かつ複雑な構造へと進化している.Merkel触盤は皮膚に存在する機械受容器のひとつで,Merkel細胞とAβ求心性神経の終末から構成され,ヒトの指先やげっ歯類の洞毛など鋭敏な感覚が必要とされる部位に多く存在している.触覚センサーとして外界からの機械刺激を遅順応型の活動電位に変換し,物体の質感や大きさなど繊細な識別に関与することが知られている.しかしながら,この機械刺激を電気シグナルに変換するための分子機構は長いあいだ明らかではなかった.筆者らは,ラットの洞毛に着目し電気生理学的な手法を用いて検討した結果,Merkel細胞それ自体がPiezo2チャネルを介して機械刺激を電気シグナルに変換していることを明らかにした.さらに,この電気シグナルはMerkel細胞にCa2+活動電位を発生させ,Aβ求心性神経に遅順応型応答を惹起させることがわかった.また,Merkel細胞においてPiezo2チャネルおよびCa2+活動電位が個体の触覚性の応答に必要であることを行動実験により示した.これらの事実から,Merkel細胞は触知覚細胞として機能することが明らかになった.

はじめに

 触覚は日常生活を営むために必要不可欠な感覚である.触覚受容器は幅広い触刺激を知覚し電気シグナルに変換することにより,その情報を中枢へと伝達している.なかでも,Merkel細胞とAβ求心性神経の終末からなるMerkel触盤はシナプス様の特殊な構造をもち,もっとも感受性の高い触覚受容器として知られている1).触刺激がMerkel触盤を介してAβ求心性神経に遅順応1型応答を惹起することにより,物体の形,大きさ,質感が識別される2).末梢神経の障害のような病的な状態では,触知覚が減弱あるいは増大した結果,触覚性異痛症をひき起こすこともある.1875年にMerkel細胞が発見されて以来,数多くの研究がなされてきたにもかかわらず,いまだ,Merkel触盤による機械刺激の電気シグナルへの変換の分子機構は明らかにされていない3).さらに,生じた電気シグナルがどのようにして遅順応1型応答を発生させるのかも明らかではない.化学的な手法あるいは遺伝学的な手法によりMerkel細胞の機能あるいは発現を抑制すると遅順応1型応答が生じなくなることが報告されている一方4),Merkel細胞は神経終末の支持組織でありセンサーとしては機能していないとする報告もある5).機械刺激を電気シグナルに変換する分子機構として,無脊椎動物においてDEG/ENaCチャネルおよびTRPチャネルファミリーのNOMPCチャネル6,7),哺乳類においてPiezoチャネル(Piezo1チャネルおよびPiezo2チャネル)が,機械感受性チャネルとして発現し機能していることが報告された8).とくに,Piezo2チャネルは後根神経節ニューロンに多く発現し触覚や痛覚に関与することが示唆されている9).しかしながら,触覚受容器が触刺激を直接的に感知し電気シグナルに変換する分子機構は解明されていない.今回,筆者らは,Merkel触盤におけるMerkel細胞の役割,および,機械刺激の電気シグナルへの変換に関与する分子機構を解明するため,ラットの洞毛を用いた.

1.Merkel細胞は遅順応型のCa2+活動電位を発生する興奮性の細胞である

 Merkel細胞の細胞特性を検討するにはパッチクランプ法が有効である.しかしながら,Merkel細胞の存在する基底層は数種類の組織層により被覆されているため,生体の環境においてパッチクランプ法を実施することは困難であった.これまで,培養細胞を用いた研究が数多くなされてきたが,機械刺激に対する応答をとらえることはできなかったことから,Merkel細胞の特殊な形態,および,Merkel細胞をとりまく組織の環境が重要であると考えられた10).そこで,ラットの洞毛のMerkel細胞を標的としたin situパッチクランプ法を確立し,電気生理学的な細胞特性について検討した.皮膚や洞毛を構成する細胞に興奮性の細胞は存在しないと信じられてきたが,驚くべきことに,Merkel細胞はわずかな脱分極性の電流の注入により遅順応型の活動電位を発生した.さらに,この活動電位は電位依存性Ca2+チャネルを介することが薬理学的な手法により明らかにされた.

2.Merkel細胞は触刺激を電流に変換する

 Merkel細胞それ自体は機械刺激を電気シグナルに変換することができるのだろうか? これを明らかにするため,ガラスプローブを用いてMerkel細胞の近傍の細胞層を変位させることにより,細胞に間接的な機械刺激をくわえた.この方法はより自然な触刺激を模倣していると考えられ,細胞への直接的な刺激と同様に,機械刺激に応答して活性化する電流を発生した.Merkel細胞は機械刺激に対し敏感に反応し,その閾値はわずか0.6μmであった.さらに,この機械刺激により活性化する電流は,同じ細胞層に存在するMerkel細胞以外の細胞からは記録できず,潜伏時間は1 ms以内で減衰定数はおよそ6 msと速順応型の電流特性をもっていた.この電流特性は,近年,同定された機械感受性チャネルであるPiezo2チャネルと類似していた.また,陽イオンの透過性を検討したところ,Ca2+透過性の非選択的な陽イオンチャネルであることも明らかになった.

3.Merkel細胞はPiezo2チャネルを介して機械刺激を電気シグナルに変換する

 Merkel細胞におけるPiezo2のmRNAの発現を確認するため,ガラス電極を用いて外毛根鞘からMerkel細胞およびMerkel細胞以外の細胞を個々に収集し,RT-PCR法により解析した.その結果,Piezo2はMerkel細胞にのみ発現しMerkel細胞以外の細胞には発現していなかった.Piezo2チャネルの非選択的な遮断薬はMerkel細胞において機械刺激に応答して活性化する電流を抑制した.さらに,抗Piezo2抗体を記録電極から細胞内へ投与したところPiezo2チャネル遮断薬と同様の結果を示し,ブロッキングタンパク質によりその効果は消失した.抗Piezo2抗体は後根神経節ニューロンにおいてPiezo2チャネルにより生じる速順応型の機械刺激に応答して活性化する電流に対しても抑制効果を示した.
 これらの結果から,Merkel細胞における機械刺激の電気シグナルへの変換はPiezo2チャネルの開口により惹起されると考えられたため,遺伝子ノックダウン法により解析した.Merkel触盤を構成するAβ求心性神経の終末にもPiezo2チャネルが発現している可能性があるため,Piezo2のshRNAを組み込んだレンチウイルスをベクターとして使用した.洞毛へのレンチウイルスの注入により,マーカーであるGFPの発現はおもにMerkel細胞の存在する洞毛前部および膨大部に認められ,求心性神経の三叉神経節ニューロンおよび神経線維には認められなかった.このことから,レンチウイルスは逆行性輸送されず,Merkel触盤のMerkel細胞においてPiezo2を選択的にノックダウンすることが示された.さらに,発現の効率を安定させるWPRE(Woodchuck hepatitis virus post-transcriptional regulatory element)のゲノムDNAへの組み込みを洞毛の細胞においてのみ確認した.ノックダウンののちPiezo2のmRNAの発現量は半減し,機械刺激に応答して活性化する電流も有意に減弱した.以上の結果から,Merkel細胞はPiezo2チャネルを機能的に発現し,その開口を介して機械刺激を電気シグナルに変換することが明らかになった.

4.Merkel細胞は電気シグナルに変換した触刺激の情報を活動電位に転換する

 Merkel細胞は自然な触刺激を電気シグナルに変換できるのだろうか? これを明らかにするため,洞毛の毛幹を変位させその応答をMerkel細胞から記録した.細胞層への局所の刺激と同じく,機械刺激に応答して活性化する電流が発生し,その振幅はわずか4μmの変位により基電流のおよそ2倍に相当する60 pAに達した.この機械刺激に応答して活性化する電流がMerkel細胞に活動電位を発生させるほど十分に細胞膜を脱分極できるかどうかを確認するため,細胞内の環境を維持した状態で毛幹に変位をくわえたところ,確かに活動電位のスパイクが観察された.さらに,全細胞記録のもと同じ変位距離をもつ間接的な局所への刺激をくわえた結果,機械刺激に応答して活性化する電流と活動電位の発生が同一の細胞において確認された.以上の結果から,Merkel細胞はPiezo2チャネルにより電気シグナルに変換された触刺激の情報を活動電位に転換することが明らかになった.

5.Merkel細胞のCa2+活動電位とPiezo2チャネルはAβ求心性神経に遅順応1型応答をひき起こす

 Merkel細胞においてCa2+活動電位に転換された触刺激は,Aβ求心性神経の遅順応1型応答を導くことができるのだろうか? この問いに答えるため,求心性神経を付随した洞毛の標本を準備し,毛幹の変位にともなう応答を神経線維より記録した.遅順応1型応答は38μmの変位により確かに惹起され,電位依存性Na+チャネルの拮抗薬により抑制された.電位依存性Ca2+チャネルの拮抗薬によっても同様の結果が得られたが,神経線維への局所的な投与では抑制は認められなかった.求心性神経の活動電位はニューロンに存在する電位依存性Na+チャネルを介して発生するため,これらの結果から,遅順応1型応答にはMerkel細胞におけるCa2+活動電位が必要であることが示された.さらに,機械刺激を電気シグナルに変換するPiezo2チャネルがこの遅順応1型応答の発生に必要であるかどうかを確かめるため,遺伝子ノックダウン法を用いてその効果を検討した.Piezo2をノックダウンしたところ,対照と比較し遅順応1型応答は有意に減弱していたことから,Merkel細胞のPiezo2チャネルは機械感受性チャネルとしての機能をもち,遅順応1型応答を惹起することが明らかになった.

6.洞毛への触刺激に対する行動学的な応答はMerkel細胞におけるCa2+活動電位およびPiezo2チャネルを必要とする

 中枢性の感作を導くことで知られるカプサイシンを洞毛の存在する口吻部の皮下に注入し,触刺激による行動について解析した.洞毛のAβ求心性神経の終末はMerkel終末だけでなく,機械刺激に対し速順応型に応答する槍型終末としても存在することが知られている.この応答は刺激の速度に依存して反応する特性があるため,遅順応1型応答による行動を選択的に検討するために低速度の刺激をくわえた.カプサイシンを投与したのちの触刺激に対する疼痛を回避するような行動は,電位依存性Ca2+チャネル拮抗薬の洞毛への投与およびPiezo2のノックダウンにより有意に減少した.以上の結果から,Merkel細胞におけるCa2+活動電位およびPiezo2チャネルは,微細な触刺激に対する行動学的な応答を惹起させることが示された.

おわりに

 Merkel細胞による機械刺激の電気シグナルへの変換は,細胞膜に存在するPiezo2チャネルが刺激に対して開口し,陽イオンが細胞内へ流入,細胞膜に脱分極性の変化が起こり電位依存性Ca2+チャネルが活性化し,遅順応型のCa2+活動電位が発生する,という一連の分子機序によることが示された.また,Aβ求心性神経の触刺激に対する遅順応1型応答には,Merkel細胞におけるCa2+活動電位およびPiezo2チャネルが必要であることが示された.これらの事実から,機械受容器であるMerkel触盤では,Merkel細胞が主体となって機械刺激を電気シグナルに変換し,求心性神経に遅順応1型応答を惹起して触覚に応答していることが明らかになった(図1).この機構は無脊椎動物における求心性神経による直接的な電気シグナルの変換とは異なっていた.哺乳類においても,体性感覚の大部分は直接的な刺激の変換により伝達されるが,耳や目のような特殊な感覚器は,そこに存在する有毛細胞や視細胞により外界からの刺激を電気シグナルに変換し神経終末へと伝達する.今回の研究は,Merkel細胞が繊細な触知覚に特化した変換器としての機能をもつことを明らかにした.

figure1

 Merkel細胞の生理学的な意義は解明されたが,Aβ求心性神経の終末とのあいだに構成されるシナプス様の構造において,どの神経伝達物質が主体となって遅順応1型応答を惹起しているかについては未解明のままである.今後の研究で,この神経伝達物質が明らかにされることにより機械受容器としてのMerkel触盤の全容が解明され,糖尿病や慢性炎症,抗がん剤治療により生じる知覚の鈍麻や触覚性の疼痛などの機序の解明に臨床的な意義を生じることが期待される.

文 献

  1. Iggo, A. & Muir, A. R.: The structure and function of a slowly adapting touch corpuscle in hairy skin. J. Physiol., 200, 763-796 (1969)[PubMed]
  2. Johnson, K. O.: The roles and functions of cutaneous mechanoreceptors. Curr. Opin. Neurobiol., 11, 455-461 (2001)[PubMed]
  3. Halata, Z., Grim, M. & Bauman, K. I.: Friedrich Sigmund Merkel and his “Merkel cell”, morphology, development, and physiology: review and new results. Anat. Rec. A. Discov. Mol. Cell. Evol. Biol., 271, 225-239 (2003)[PubMed]
  4. Maricich, S. M., Wellnitz, S. A., Nelson, A. M. et al.: Merkel cells are essential for light-touch responses. Science, 324, 1580-1582 (2009)[PubMed]
  5. Gottschaldt, K. M. & Vahle-Hinz, C.: Merkel cell receptors: structure and transducer function. Science, 214, 183-186 (1981)[PubMed]
  6. Huang, M. & Chalfie, M.: Gene interactions affecting mechanosensory transduction in Caenorhabditis elegans. Nature, 367, 467-470 (1994)[PubMed]
  7. Yan, Z., Zhang, W., He, Y. et al.: Drosophila NOMPC is a mechanotransduction channel subunit for gentle-touch sensation. Nature, 493, 221-225 (2013)[PubMed]
  8. Coste, B., Mathur, J., Schmidt, M. et al.: Piezo1 and Piezo2 are essential components of distinct mechanically activated cation channels. Science, 330, 55-60 (2010)[PubMed]
  9. Eijkelkamp, N., Linley, J. E., Torres, J. M. et al.: A role for Piezo2 in EPAC1-dependent mechanical allodynia. Nat. Commun., 4, 1682 (2013)[PubMed]
  10. Yamashita, Y., Akaike, N., Wakamori, M. et al.: Voltage-dependent currents in isolated single Merkel cells of rats. J. Physiol., 450, 143-162 (1992)[PubMed]

生命科学の教科書における関連するセクションへのリンク

東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.

著者プロフィール

池田 亮(Ryo Ikeda)
略歴:2007年 東京慈恵会医科大学大学院医学研究科博士課程 修了,2011年より米国Cincinnati大学College of Medicine博士研究員.
研究テーマ:慢性疼痛の病態.
関心事:触覚や固有知覚と痛みとの関連性.

Jianguo G. Gu
米国Cincinnati大学College of MedicineにてProfessor.

© 2014 池田 亮・Jianguo G. Gu Licensed under CC 表示 2.1 日本


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