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細胞内ウイルスセンサーMDA5の機能獲得型の変異は自己免疫疾患を誘発する

船曳正英・藤田尚志
(京都大学ウイルス研究所 分子遺伝学研究分野)
email:船曳正英藤田尚志
DOI: 10.7875/first.author.2014.036

Autoimmune disorders associated with gain of function of the intracellular sensor MDA5.
Masahide Funabiki, Hiroki Kato, Yoshiki Miyachi, Hideaki Toki, Hiromi Motegi, Maki Inoue, Osamu Minowa, Aiko Yoshida, Katashi Deguchi, Hiroshi Sato, Sadayoshi Ito, Toshihiko Shiroishi, Kunio Takeyasu, Tetsuo Noda, Takashi Fujita
Immunity, 40, 199-212 (2014)




要 約


 細胞内ウイルスセンサーであるMDA5はウイルスが感染した際にウイルスに由来する2本鎖RNAを認識して自然免疫応答を誘導する.一方,近年,MDA5の自己免疫疾患への関与が示唆されている.しかし,MDA5がどのように自己免疫疾患に関与しているのか,その機構はいまだ明らかにされていない.この研究では,MDA5に生じた点変異が過剰な免疫応答を誘導し自己免疫疾患を誘発する機構をマウスにおいて明らかにした.化学変異原物質による変異誘発により樹立されたこのマウスは自己免疫疾患にみられる糸球体腎炎を発症し,MDA5に単一のアミノ酸変異をもつことが判明した.腎炎の発症はアダプタータンパク質であるMAVSに依存し,MDA5-MAVSシグナル伝達経路がこのマウスの病態において必須であることが明らかになった.一方,I型インターフェロン受容体を欠損させたMDA5変異マウスでは,程度は軽快するものの依然として腎炎が惹起されたことから,I型インターフェロンとともにNF-κBに依存的な炎症性サイトカインも病態に関与することが推測された.また,この変異MDA5はリガンドである2本鎖RNAに対する応答性を喪失していた一方,リガンドの非存在下においてはI型インターフェロン遺伝子のプロモーター活性を強く誘導し,この変異は恒常活性型の変異であることが明らかになった.これらの結果は,MDA5に依存的な自己免疫疾患に対する予防および新たな治療法への可能性を示唆すると同時に,異常な自然免疫応答が自己免疫疾患を誘発する可能性を示した.

はじめに


 I型インターフェロンのかかわる自然免疫応答は,外部から侵入したウイルスなどの微生物を自然免疫受容体により感知し,その排除にはたらく.細胞の表面やエンドソームにはToll様受容体(Toll-like receptor:TLR)が存在し,病原体関連分子パターン(pathogen-associated molecular pattern:PAMP)を認識することにより抗ウイルス応答を起こす1-3).一方,細胞内にはRIG-I,MDA5,LGP2といったRIG-I様受容体(RIG-I-like receptor:RLR)が存在し,ウイルスに由来するRNAを認識していることも知られている4).RIG-I様受容体はマウス胎仔線維芽細胞,樹状細胞,マクロファージといった多くの細胞種において発現し,自己の核酸と非自己の核酸とを識別している.たとえば,RIG-Iは2本鎖RNAや5’末端に3つのリン酸基をもつRNAなどの認識し5-8),MDA5はとくに2 kbより長いポリI:Cなどの2本鎖RNAを認識する9)
 I型インターフェロンのかかわる自然免疫応答はウイルスに感染した際に重要なはたらきをする一方で,過剰なインターフェロンの産生が自己免疫疾患を誘発する可能性も指摘されてきた10).一方,MDA5にみられるSNP(single nucleotide polymorphism,1塩基多型)と1型糖尿病との関連性を示唆する報告や11),筋炎症状をともなわない皮膚筋炎の患者の血清に出現する抗CADM-140抗体の対応抗原がMDA5であるとする報告など12),近年,MDA5と自己免疫疾患との関連を示唆する報告もなされてきたが,その詳細な機構は明らかにされていない.
 この研究では,化学変異原物質による変異誘発により作製されたMDA5に点変異をもつマウスを用いて,MDA5変異が自己免疫疾患にみられる糸球体腎炎を誘発する機構について明らかにした.

1.MDA5に点変異をもつマウスは自己免疫疾患にみられる糸球体腎炎を自然発症する


 この研究で使用されたMDA5に点変異をもつマウスは化学変異原物質による変異誘発により作製された.N-エチル-N-ニトロソウレア(ENU)はゲノムDNAに人為的に変異を導入する化学変異原物質であり,この物質を用いて変異をもつ動物を作製することができる13).作製された変異マウスから自己免疫疾患のひとつ全身性エリテマトーデスの患者にみられる糸球体腎炎を発症するマウス系統が樹立され,遺伝子マッピングの結果,MDA5に単一のアミノ酸変異(821番目のGlyがSerに置換)をもつことが判明した.この変異マウスのヘテロ接合体は生後6~8週間で腎炎を発症した.変異マウスの糸球体には免疫グロブリンおよび補体の沈着が認められ,血清には免疫グロブリン,抗核抗体,抗2本鎖DNA抗体が出現し,自己免疫疾患にみられる糸球体腎炎の表現型を呈した.ほかの表現型としては,多核白血球の浸潤をともなう軽度の皮膚炎および肝臓の石灰化がみられた.変異マウスの腎臓にはインターフェロンβ,インターロイキン6,CXCL10,ISG56,TNFαなどが発現していた.インターフェロンβおよびインターロイキン6の発現は全身の臓器においてみられたものの,腎炎がもっとも明らかな表現型であり,インターフェロンの発現の上昇に一致してRIG-I様受容体の発現の上昇もみられた.

2.樹状細胞およびマクロファージが内因性の持続的な炎症を惹起する可能性


 MDA5は古典的樹状細胞やマクロファージといった免疫細胞を含む細胞種における発現が知られている.変異マウスの脾細胞を蛍光セルソーターにより解析したところ,古典的樹状細胞,形質細胞様樹状細胞,マクロファージのいずれもが増加しており,細胞の表面におけるCD86の発現の上昇がみられた.これらの細胞を分離しmRNAを定量したところ,インターフェロンβ,インターロイキン6,CXCL10などの発現の誘導がみられた.一方,T細胞やB細胞においてはこれらの発現は誘導されておらず,樹状細胞およびマクロファージが持続的な炎症を惹起している可能性が考えられた.また,骨髄細胞よりGM-CSFの存在のもとで古典的樹状細胞を分化させたところ,変異マウスにおいてはインターフェロンβの発現の誘導がみられたことから,樹状細胞およびマクロファージの内因的な活性化が示唆された.
 ほかの細胞については,変異マウスではエフェクターT細胞の増加およびナイーブT細胞の減少がみられた.T細胞の表面マーカーであるCD69の発現の上昇はCD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞の両方においてみられた.一方,B細胞ではCD69やGL7といった細胞表面マーカーの発現の上昇はみられなかったものの,形質細胞の数は増加していたことから,これらの細胞が抗体の産生を誘導している可能性が示唆された.

3.血球細胞の腎炎の発症への関与


 血球細胞の病態への関与についてさらに検討するため,変異マウスから骨髄細胞を採取し野生型のマウスに移植した.移植ののち6週間で移植をうけたマウスの腎臓を調べたところ,変異マウスの骨髄を移植したマウスでは糸球体において抗体の沈着がみられ,腎臓においてインターフェロンβおよびサイトカインの産生がみられた.また,脾臓の樹状細胞やマクロファージにおいてCD86の発現の誘導されていることが明らかになり,血球細胞により腎炎が誘発されることが明らかになった.一方,血球細胞のみの移植により誘発される腎炎は変異マウスに比べ軽度であったことから,非血球細胞の病態への関与についても検討する必要があると考えている.

4.アダプタータンパク質MAVSは変異マウスにおける腎炎の発症に必須である


 RIG-I様受容体からのシグナルの伝達はアダプタータンパク質であるMAVSを介すことが知られている.そこで,MDA5に依存的なシグナルの病態への関与について検討するため,MAVSを欠損させた変異マウスを作製した.MAVS欠損変異マウスにおいては腎炎の発症はみられず,また,腎臓におけるインターフェロンβおよびサイトカインの産生も消失していた.MAVS欠損変異マウスの脾臓の樹状細胞においても同様にインターフェロンβの産生が消失しており,MDA5-MAVSシグナル伝達経路が変異マウスにおける病態に必須であることが明らかになった.

5.MDA5に依存的な病態に対しI型インターフェロンは部分的に関与するが必須ではない


 MDA5-MAVSシグナル伝達経路の下流には,I型インターフェロンを誘導する経路およびNF-κBに依存的に炎症性サイトカインを誘導する経路が知られている.そこで,I型インターフェロンの病態への関与を検討するため,I型インターフェロン受容体を欠損させた変異マウスを作製した.I型インターフェロン受容体欠損変異マウスにおいては軽快がみられたものの依然として腎炎が惹起されたことから,I型インターフェロン受容体は病態に部分的に関与するものの必須ではなく,NF-κBに依存的な炎症性サイトカインやMAVSの下流の転写因子なども同様に病態に関与している可能性が示唆された.

6.変異MDA5はRNAリガンドに対する反応性を消失するが恒常的な活性を誘導する


 Huh7細胞にMDA5を強制発現させたところ,821番目のGlyがSerに置換した変異MDA5は野生型MDA5よりも強くI型インターフェロン遺伝子のプロモーター活性を誘導することが判明した.このとき,ヒトのMDA5にみられるSNPで全身性エリテマトーデスに対する関与の報告されている946番目のAlaがThrに置換した変異14) についても同様に検討したところ,この変異MDA5は野生型MDA5よりも強くI型インターフェロン遺伝子のプロモーター活性を誘導することが判明した.
 ウイルスに感染した際の応答性について,マウス胎仔線維芽細胞を用いて検討した.RIG-Iにより選択的に認識されるニューキャッスル病ウイルスに感染した際には,変異MDA5をもつマウス胎仔線維芽細胞において野生型MDA5をもつ細胞と同じ程度のI型インターフェロンの産生がみられた.一方,MDA5により選択的に認識されることの知られる脳心筋炎ウイルスに対しては,変異MDA5をホモでもつマウス胎仔線維芽細胞においてI型インターフェロンの産生はみられず,MDA5に依存的なウイルスに対する応答性を消失していることが判明した.

7.変異MDA5は構造変化を誘導する一方でATPase活性を消失する


 821番目のGlyがSerに置換した変異MDA5および946番目のAlaがThrに置換した変異MDA5の物理化学的な性質を検討するため,組換えタンパク質を発現し精製して,原子間力顕微鏡による形態的な観察を行った.野生型MDA5は3つに分かれた分節状の構造をとっていたのに対し,これらの変異MDA5は球状の構造を呈し,この構造学的な違いが変異MDA5の恒常的な活性化をもたらす可能性が示唆された.
 MDA5はシグナルを伝達する際にそれ自体のもつATPase活性を利用して構造変化を誘導することにより下流へのシグナルの伝達を可能にすると推測されている.そこで,組換えタンパク質を用いて野生型MDA5および変異MDA5のもつATPase活性について検討した.野生型MDA5はリガンドであるポリI:Cの存在のもとでは強いATPase活性を示したのに対し,821番目のGlyがSerに置換した変異MDA5および946番目のAlaがThrに置換した変異MDA5はATPase活性を喪失していた.これらの結果から,変異MDA5の恒常的な活性化は,RNAリガンドに対する過剰な応答ではなく,分子構造的な相違によることが示唆された.

おわりに


 この研究においては,細胞内ウイルスセンサーであるMDA5の機能獲得型の変異が自己免疫疾患を誘発する機序をマウスにおいて明らかにし(図1),また,ヒトのMDA5にみられるSNPのひとつである946番目のAlaがThrに置換した変異MDA5が全身性エリテマトーデスの発症にどのように関与しうるかを示した.これらのMDA5変異は恒常活性型の変異であるが,そのI型インターフェロンおよびサイトカインの誘導性は,一般にウイルスに感染した際にみられるものと比べ微量であることは注目される.一方,I型インターフェロン受容体を欠損したMDA5変異マウスにおいて腎炎が惹起されたことから,NF-κBに依存的な炎症性サイトカインやMAVSの下流の転写因子なども病態に関与する可能性が示唆され,今後,それらについてより詳細に検討する必要がある.また,この研究において用いたMDA5変異マウスにおいては,樹状細胞およびマクロファージが主要な病態にかかわる細胞である可能性が示されたが,今後,どのような細胞が持続的な炎症へ関与しているかについて,より詳細に検討を進めたい.さらに,I型インターフェロンの関与が推測される全身性エリテマトーデス以外の自己免疫疾患において,MDA5が関与しうるか検討することも重要であると考えている.




文 献



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著者プロフィール


船曳 正英(Masahide Funabiki)
略歴:2013年 京都大学大学院医学研究科 修了,同年より京都大学ウイルス研究所 研究員.
研究テーマ:自己免疫疾患への自然免疫の関与.

藤田 尚志(Takashi Fujita)
京都大学ウイルス研究所 教授.
研究室URL:http://www.virus.kyoto-u.ac.jp/Lab/bunshiiden2012/Japanese/index.html

© 2014 船曳正英・藤田尚志 Licensed under CC 表示 2.1 日本