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タキキニンを発現するニューロンはショウジョウバエの雄に特異的な攻撃的な性向を制御する

2014年2月10日

朝比奈 健太
(米国California Institute of Technology,Division of Biology and Biological Engineering)
email:朝比奈健太
DOI: 10.7875/first.author.2014.018

Tachykinin-expressing neurons control male-specific aggressive arousal in Drosophila.
Kenta Asahina, Kiichi Watanabe, Brian J. Duistermars, Eric Hoopfer, Carlos Roberto González, Eyrún Arna Eyjólfsdóttir, Pietro Perona, David J. Anderson
Cell, 156, 221-235 (2014)

要 約

 攻撃行動はヒトも含めた多くの生物種において普遍的にみられ,動物においては序列の維持をはじめコミュニケーションの一環として重要な役割をはたしている.多くの動物において雄のほうが雌より攻撃性の高い傾向のあることは一般にも知られているが,攻撃行動を制御する神経回路については未知の部分が多いため,この攻撃性における性的二型の分子基盤および神経基盤については多くが未解明である.筆者らは,遺伝学的な操作の容易なショウジョウバエを用いて,雄の攻撃行動を制御する神経ペプチドをコードする遺伝子,および,神経ペプチド性ニューロンを探索することにより,タキキニンとよばれる神経ペプチドを発現する雄に特異的な少数のニューロンが攻撃性の制御においてきわめて重要な役割を担っていることを見い出した.タキキニン発現ニューロンを強制発火すると雄どうしは激しく争う一方,雌に対する求愛行動や交尾行動には影響はみられなかった.タキキニン欠失変異体では攻撃性が低下し,タキキニン発現ニューロンにタキキニンを強制発現させることによりこの低下は回復した.また,タキキニン受容体の変異体ではタキキニン発現ニューロンの強制発火ののちも攻撃行動の上昇が抑制された.タキキニン発現ニューロンの強制発火はショウジョウバエの高次中枢において攻撃的な性向を上昇させる効果のあることも見い出された.タキキニンは動物において広く存在するペプチドファミリーで,哺乳類のタキキニンは攻撃行動の制御にかかわっているという報告がある.したがって,タキキニンの神経回路に及ぼす影響や分子的な作用機序の解明は,ヒトも含めた動物の攻撃性について脳における制御機構の理解に寄与する可能性がある.

はじめに

 有性生殖を行う動物の多くは,見た目だけでなく雌雄で行動パターンも異なることが多い.ほぼ同一のゲノムからこのような行動学的な性的二型の現われる機構は神経生物学的な観点からもきわめて興味深い.性的二型は生殖に関係する行動においてとくに顕著であり,同種の個体に対する攻撃行動はその一例である.カブトムシやネコなどなじみ深い動物を例にあげるまでもなく,侵入してくる同種の個体をなわばりから追いはらったり,交尾の相手やえさ場をめぐって争ったりする動物のすがたを目にすることはそうめずらしくないが,このような行動をとる個体はほぼ例外なく雄である.
 哺乳類において,身体的および行動学的な性的二型は性ホルモンのはたらきにより説明されてきた.すなわち,性に特異的なホルモンが“雌らしさ”“雄らしさ”をそれぞれ規定するというものである.しかし,これら性ホルモンが神経系にどのように作用することにより行動における性的二型をもたらすかについては未知の部分が多い.近年,マウスにおいてプロゲステロン受容体を発現するニューロンがその数や投射パターンにおいて性的二型を示し,これらのニューロンは雌雄それぞれにおいて生殖行動に必要であることが示された1).しかし,性的二型を示しかつ攻撃行動に選択的に関与するニューロンはどの生物種においても確認されていない.このようなニューロンの存在が確認されれば,雄に特徴的な高い攻撃性をもたらす神経基盤を解明する糸口になることが期待される.
 神経回路は,いわゆる神経伝達物質にくわえさまざまな神経修飾物質をその制御に利用している.なかでも,神経ペプチドは分子的にきわめて多様であり(哺乳類では約100遺伝子にコードされている),動物の行動にさまざまな影響をあたえることが知られている点でも,神経生物学において注目すべき分子である2).神経ペプチドをコードする遺伝子の多くには動物において広く相同遺伝子が存在し,神経ペプチドY(摂食行動)やバソプレッシン(生殖行動)のように生物種をこえて共通する行動の制御に関与するとみられる神経ペプチドも知られている.多くの神経ペプチドはGタンパク質共役受容体を介してニューロンに作用するが,おのおのの神経ペプチドについて神経系や行動に及ぼす影響の詳細については未解明な部分が多い.筆者らは,遺伝学的な操作の容易なショウジョウバエを用い,ショウジョウバエのゲノムに存在する神経ペプチドをコードする遺伝子には攻撃行動を選択的に制御する遺伝子が存在すると仮定し,そのような神経ペプチドをコードする遺伝子,さらには,神経ペプチド性ニューロンを同定することを目標に研究を行った.

1.攻撃性を上昇させる神経ペプチド性ニューロンの同定

 筆者らのグループは,GAL4-UAS系を利用して約20の神経ペプチドをコードする遺伝子を発現するニューロンを標識することのできるGAL4遺伝子組換えショウジョウバエを作製していた3).これらのニューロンを熱感受性の陽イオンチャネルであるdTRPA1を利用して強制発火させ,この操作により雄どうしの攻撃性を上昇させるような神経ペプチドGAL4系統をスクリーニングした.その結果,タキキニン遺伝子の推定プロモーター領域より作製されたGAL4系統のうち2つで有意な攻撃性の上昇が観察された.
 免疫染色により,この2つの系統により標識されたニューロンには性的二型を顕著に示すニューロンが含まれることが確認された.とくに,攻撃性をより強力に上昇させるTk-GAL41系統では,雄において明確に標識された約5~6個のニューロンが雌においては完全にみえなくなっていた.また,これらのニューロンはショウジョウバエにおいておもに神経系の性分化に重要な転写因子であるFruの雄に特異的なアイソフォームFruMを発現していることも確認された.そこで,このニューロンを“Tk-GAL4FruMニューロン”と名づけ,遺伝学的な手法を活用してTk-GAL41系統により標識されるニューロンのうち約4個のTk-GAL4FruMニューロンのみを特異的に操作する実験を行った(図1).Tk-GAL4FruMニューロンのdTRPA1による強制発火は雄どうしの攻撃行動を上昇させる一方,整流性K+チャネルKir2.1を発現させて発火を抑制させると攻撃行動は有意に低下した.したがって,Tk-GAL4FruMニューロンは雄のショウジョウバエの攻撃行動の制御にきわめて重要であることが示された.

figure1

2.Tk-GAL4FruMニューロンの制御する攻撃行動の特異性

 FruMを発現するニューロンは雌に対する求愛行動に重要な役割をはたすことがこれまで多くの研究により裏づけられてきた4).Tk-GAL4FruMニューロンが求愛行動にも関与しているかどうかを調べるため,雌の存在のもとでTk-GAL4FruMニューロンのみに対し特異的な操作を行った.dTRPA1による強制発火およびKir2.1による発火抑制の両方の操作において,雄の求愛行動および交尾行動に有意な変化は観察されなかった.以上のことから,Tk-GAL4FruMニューロンは雄に対する攻撃行動のみを選択的に制御し,雌に対する求愛行動には関与していないことが示された.攻撃行動に関与するFruMニューロンが同定されたのはこれがはじめてであり,また,攻撃行動を選択的に制御し,かつ,性的二型を示すニューロンはすべての生物種をつうじ,はじめての報告であった.これは,雄に特徴的な高い攻撃性を説明する神経回路のひとつの機構として興味深いものといえた.

3.タキキニンは雄の攻撃性の維持に必要である

 Tk-GAL41系統はもともとタキキニン遺伝子の推定プロモーター領域より作製されたものであるため,タキキニンそのものの攻撃性への関与も示唆された.そこで,タキキニン遺伝子座をほぼ特異的に欠失した変異体を作製した.このタキキニン欠失変異体の雄は野生型の雄と比較して攻撃行動を有意に低下させたが,自発的な運動性や求愛行動および交尾行動には変化はなかった.したがって,タキキニン遺伝子は雄に対する攻撃性に選択的に関与していることが示された.
 タキキニン遺伝子の産物であるタキキニンペプチドは雄および雌の脳に広く発現しているが,タキキニンペプチドに対する免疫染色により,Tk-GAL4FruMニューロンの少なくとも一部にその発現が確認された.タキキニン欠失変異体における攻撃性の低下は,Tk-GAL4FruMニューロンを標識する2つのGAL4系統にタキキニン遺伝子を発現させることにより野生型と同じ程度にまで回復させることができたが,Tk-GAL4FruMニューロンを標識しないGAL4系統では回復できなかった.この結果は,タキキニンペプチドがTk-GAL4FruMニューロンにおいて攻撃性の制御に必要であり,ホルモンのように不特定のニューロンからの単純な拡散では攻撃性の維持には寄与できないことを示した.

4.タキキニンによるTk-GAL4FruMニューロンの攻撃性の制御

 タキキニンはどのようにしてTk-GAL4FruMニューロンの攻撃性の制御にかかわるのであろうか.まず,タキキニンペプチドの発現量を変化させることによりTk-GAL4FruMニューロンの強制発火にともなう攻撃性の上昇がどのように影響されるかを観察した.タキキニン欠失変異体においてはTk-GAL41系統により標識されたニューロンを強制発火させても野生型より低いレベルの攻撃性しか誘起しなかった.一方,Tk-GAL41系統により標識されたニューロンをタキキニンペプチドを過剰発現させたうえで強制発火させると,タキキニンペプチドを過剰発現させていない野生型と比較してさらに攻撃性が高まった.したがって,タキキニンペプチドの発現量はTk-GAL4FruMニューロンの発火による攻撃性の上昇の度合いを規定する機能のあることが示された.
 ショウジョウバエのゲノムには2つのタキキニン受容体Takr86CおよびTakr99Dがコードされていることが知られており,これらはいずれもGタンパク質共役受容体である.このうちTakr86Cの欠失変異体を作製したところ,Tk-GAL41系統により標識されたニューロンの強制発火による攻撃性の上昇は有意に抑制された.この抑制はTakr86Cを含む領域のゲノム断片を導入することにより部分的に回復した.以上の結果は,Tk-GAL4FruMニューロンから放出されるタキキニンペプチドがタキキニン受容体Takr86Cに作用することにより雄の攻撃性の上昇をもたらすことを示した.

5.Tk-GAL4FruMニューロンは雄に特異的な攻撃的な性向を制御する

 Tk-GAL4FruMニューロンは神経回路においてどのような役割をはたしているのであろうか.雄の単独あるいは雌の存在のもとでTk-GAL4FruMニューロンを強制発火させても攻撃行動は誘起されなかったことから,Tk-GAL4FruMニューロンは単純に攻撃行動を機械的にひき起こす“コマンドニューロン”としては機能しないことが想定された(図2a).一方で,Tk-GAL4FruMニューロンが攻撃行動に必要な特定の感覚情報の伝達にのみにかかわっている可能性はあった.雄のショウジョウバエの攻撃行動には嗅覚,味覚,視覚などさまざまな感覚情報が必要であることがわかっている.これらの感覚情報を取り除いた状況においてTk-GAL41系統により標識されたニューロンを強制発火させ,攻撃行動の上昇が影響をうけるかどうか観察する実験を行った.

figure2

 ショウジョウバエはえさが存在しないと攻撃性が低下するが,Tk-GAL41系統により標識されたニューロンを強制発火させると,えさの存在しない状況でも攻撃行動が有意に上昇した.雄に特有の揮発性フェロモンは嗅覚系をとおして感知され攻撃行動を上昇させることが知られている5).触角を切り落として嗅覚を大幅に制限した個体は攻撃性が低下するが,Tk-GAL41系統により標識されたニューロンを強制発火させると触角がなくとも攻撃性が上昇した.さらに,雄に特有の体表の炭化水素は攻撃行動の誘発に必要な味覚フェロモンとして作用するが6),Tk-GAL41系統により標識されたニューロンを強制発火させた雄はこの炭化水素を遺伝的に欠失させた個体に対しても攻撃行動をとった.以上の結果より,Tk-GAL4FruMニューロンの強制発火は攻撃行動にかかわる多様な感覚情報の欠損をおぎなうことが示された(図2b).
 Tk-GAL41系統により標識されたニューロンの強制発火により攻撃の対象をどの程度まで単純化できるかを調べるため,ショウジョウバエとほぼ同じ大きさの小型磁石を動かして,Tk-GAL41系統により標識されたニューロンを強制発火させた状況においてこの小型磁石に対する攻撃行動が起こるかどうかを観察した.野生型の雄は動く小型磁石に対しては求愛行動をとることがほとんどで,約80匹の野生型の雄のうち小型磁石に対し攻撃行動をとった個体はひとつも確認されなかった.一方,Tk-GAL41系統により標識されたニューロンの強制発火により,頻度はまれであったものの,とくに同時にタキキニンペプチドを過剰に発現させた雄では小型磁石に対し攻撃行動をとる個体が現われた.この結果は,Tk-GAL41系統により標識されたニューロンの強制発火は雄のショウジョウバエの攻撃的な性向を高めるはたらきをもつことを示唆した.
 この可能性をさらに追求するため,からだの小さい雄の個体においてTk-GAL41系統により標識されたニューロンを強制発火することで,からだの大きい雄との争いに変化をもたらすことができるどうか実験した.一般に,動物ではからだの大きさが争いの結果を決定する重要な要因であり,ショウジョウバエにおいてもわずか数%の体長の差が有意に影響することが知られている7).幼虫期の栄養分を制限することにより,普通の野生型の雄の個体と比較して約77%小型の雄を作製した.野生型の小型の個体は通常の大きさの野生型との争いにほぼ一方的に敗れたが,Tk-GAL41系統により標識されたニューロンを強制発火させた小型の個体は,通常の大きさの野生型との争いにほぼ完全に勝利するようになった.以上の結果,Tk-GAL4FruMニューロンは特定の感覚情報の伝達に特化するニューロンではなく,より高次に雄の攻撃的な性向を制御していることが強く示唆された(図2c).

おわりに

 多くの動物の行動の系統的な観察から,行動をつかさどる神経回路は階層的な構造をとっているとの仮説がとなえられている8).すなわち,生殖などの高次の動機が,そのしたにある生殖に関連する行動,たとえば,巣作り,なわばり,求愛などを状況に応じて選択的に活性化するというものである.この仮説にしたがうと,それぞれの行動に特化した神経回路の存在が予測されるが,実際に,特定の行動を選択的に制御するニューロンの同定にまでいたった例は少数である.その点,半脳あたり4個というごく少数のニューロンにおいて行動に特異的な性向が制御されているという今回の発見は,攻撃行動にかぎらず,動物の行動制御の全般的な理解にとっても興味深いものである.Tk-GAL4FruMニューロンが雄にのみ確認されたことから,性的二型を示すニューロンおよび神経回路が両性の攻撃性の差異の基盤になりうることも示された.今後,雌の攻撃性がどのように制御されているかを調べることにより,攻撃行動という動物の基本的な行動の神経学的な原理の解明につながることが期待される.
 また,タキキニンが哺乳類においても攻撃行動の制御にかかわっているという報告は,動物の行動に対する神経ペプチドの重要性のみならず,ショウジョウバエがわれわれヒトも含む哺乳類の行動を理解するうえで有用なモデル生物であることの証左ともいえる.遺伝学的な操作が容易で,哺乳類に比べ少ないニューロンから神経回路が構成され,かつ,攻撃行動や求愛行動といった複雑な行動パターンを示すショウジョウバエは,行動神経生物学の分子的なモデルとして今後も有用であると考えられる.タキキニンのシグナル伝達の機構や神経回路への生理学的な影響を検証していくことにより,将来的には薬理学的に有効な標的遺伝子が見い出され,心的外傷後ストレス障害やパーキンソン病など,暴力的な行動障害をともないうる精神病の治療に生かされる可能性もあるだろう.

文 献

  1. Yang, C. F., Chiang, M. C., Gray, D. C. et al.: Sexually dimorphic neurons in the ventromedial hypothalamus govern mating in both sexes and aggression in males. Cell, 153, 896-909 (2013)[PubMed]
  2. Marder, E.: Neuromodulation of neuronal circuits: back to the future. Neuron, 76, 1-11 (2012)[PubMed]
  3. Tayler, T. D., Pacheco, D. A., Hergarden, A. C. et al.: A neuropeptide circuit that coordinates sperm transfer and copulation duration in Drosophila. Proc. Natl .Acad. Sci. USA, 109, 20697-20702 (2012)[PubMed]
  4. Yamamoto, D. & Koganezawa, M.: Genes and circuits of courtship behaviour in Drosophila males. Nat. Rev. Neurosci., 14, 681-692 (2013)[PubMed]
  5. Wang, L. & Anderson, D. J.: Identification of an aggression-promoting pheromone and its receptor neurons in Drosophila. Nature, 463, 227-231 (2010)[PubMed]
  6. Fernandez, M. P., Chan, Y. B., Yew, J. Y. et al.: Pheromonal and behavioral cues trigger male-to-female aggression in Drosophila. PLoS Biol., 8, e1000541 (2010)[PubMed]
  7. Hoyer, S. C., Eckart, A., Herrel, A. et al.: Octopamine in male aggression of Drosophila. Curr. Biol., 18, 159-167 (2008)[PubMed]
  8. Tinbergen, N.: The Study of Instinct. Clarendon Press, Oxford (1951)

生命科学の教科書における関連するセクションへのリンク

東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.

著者プロフィール

朝比奈 健太(Kenta Asahina)
略歴:2008年 米国Rockefeller大学大学院博士課程 修了,同年より米国California Institute of Technologyポスドク.
研究テーマ:ショウジョウバエを用いた,おもに攻撃行動を中心とした“社会的な行動”の遺伝神経学的な基本過程.
抱負:動物の行動の“動機”および“選択”の神経系における形成過程を,遺伝子から行動観察まで幅広い手法を横断的に活用して解明していきたい.

© 2014 朝比奈 健太 Licensed under CC 表示 2.1 日本


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