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脂肪組織の制御性B細胞は肥満にともなう脂肪組織の炎症を負に制御する

2013年11月5日

西村 智・真鍋一郎・永井良三
(東京大学大学院医学系研究科 循環器内科学)
email:西村 智
DOI: 10.7875/first.author.2013.132

Adipose natural regulatory B cells negatively control adipose tissue inflammation.
Satoshi Nishimura, Ichiro Manabe, Satoshi Takaki, Mika Nagasaki, Makoto Otsu, Hiroshi Yamashita, Junichi Sugita, Kotaro Yoshimura, Koji Eto, Issei Komuro, Takashi Kadowaki, Ryozo Nagai
Cell Metabolism, 18, 759-766 (2013)

要 約

脂肪組織は肥満にともない炎症におちいるが,その詳細な分子機構は明らかになっておらず,とくに,免疫細胞は炎症の制御において重要と考えられる.マウスの脂肪組織の間質には多数の制御性B細胞が存在し,インターロイキン10を恒常的に発現していた.B細胞に特異的にインターロイキン10を欠損させたマウスでは,肥満にともなう脂肪組織の炎症およびインスリン抵抗性が増悪していた.肥満したマウスではこれらのB細胞の数および機能は減弱していた.以上より,脂肪組織に存在する制御性B細胞は脂肪組織の炎症を負に制御していると考えられた.

はじめに

B細胞のなかには免疫応答を負に制御するサブセットの存在することが明らかになっている.これらはおもにインターロイキン10を発現し,脾臓におけるB1細胞など,特異なサブセットを形成している.ただし,これらはすべて刺激のもとインターロイキン10を発現する細胞であり,インターロイキン10を恒常的に発現するサブセットはみつかっていない1)
近年の研究では,肥満にともない脂肪組織に慢性の炎症が生じることが明らかになっている.肥満にともなう脂肪組織にはM1マクロファージが浸潤するだけでなく,最近では,CD8陽性T細胞が浸潤し脂肪組織の炎症を正に制御していることが明らかになっている2).さらに,CD4陽性T細胞,制御性T細胞,M2マクロファージは脂肪組織の炎症を負に制御している.このように,脂肪組織には多数の免疫細胞が存在し,細胞のあいだの複雑な相互作用のもと脂肪組織の炎症が規定されている.2011年,脂肪組織には免疫グロブリンGを産生するB細胞が存在し,炎症を惹起しているとの報告がなされた3).しかし,脂肪組織に制御性B細胞が存在するかどうかは明らかになっていない.この論文において,筆者らは,脂肪組織には制御性B細胞が存在し,炎症を負に制御していることを明らかにした.
(2014年1月19日 著者からの依頼により,タイトルを一部変更)

1.脂肪組織にはインターロイキン10を産生する多数のB細胞が存在する

多色を用いるフローサイトメトリーにより解析したところ,内臓脂肪の間質の7~10%,皮下脂肪の間質の30%程度は,CD19陽性CD45R陽性の成熟B細胞であった.この脂肪組織のB細胞はインターロイキン10を高く発現しており,培養すると高い濃度のインターロイキン10を放出した.このインターロイキン10の発現はM2マクロファージや制御性T細胞などほかの細胞種より高かった.一方,脂肪組織のB細胞は脾臓などほかの組織から単離されたB細胞よりインターロイキン10の発現が高かった.これらのB細胞は,いわゆるB1細胞などとは表面マーカーの発現がまったく異なっており,新しいサブセットであることが示唆された.

2.脂肪組織のB細胞に由来するインターロイキン10は脂肪組織における炎症を規定する

脂肪組織のB細胞の産生するインターロイキン10の意義をさらに明らかにするため,B細胞に特異的にインターロイキン10を欠損させたキメラマウスを作製した.このキメラマウスでは脂肪組織の炎症が増悪していたほか,M1マクロファージの集積,CD8陽性T細胞の活性化が認められた.また,全身のインスリン抵抗性は増悪していた.実際に,CD8陽性T細胞とB細胞とを共培養するとT細胞の活性化は抑制され,B細胞には抗炎症作用のあることが明らかになった.さらに,脂肪組織および全身にB細胞を移植する実験においても同様の抗炎症作用が確認された.以上より,脂肪組織のB細胞に由来するインターロイキン10は炎症を規定していることが明らかになった.

3.脂肪組織のB細胞は組織環境のもと活性化する

抗炎症作用をもつほかのB細胞とは異なり,脂肪組織のB細胞はインターロイキン10を恒常的に発現していた.この発現を助けている脂肪組織における組織環境を明らかにするためin vitroにおける検討を行ったところ,リポ多糖のほか,インターロイキン10,遊離の脂肪酸(パルミチン酸),CXCL12リガンドによっても脂肪組織のB細胞は生存率を伸ばしインターロイキン10の発現を増加させた.脂肪組織のB細胞はインターロイキン10やCXCR4を発現し,これらの液性因子により活性化していると考えられた.CXCL12を脂肪組織に投与したところB細胞の集積が確認された.

4.肥満したマウスでは脂肪組織のB細胞は減少する

高脂肪食を負荷した肥満マウスでは脂肪組織の間質のB細胞の数は週齢とともに低下した.さらに,B細胞からのインターロイキン10の発現も低下した.肥満にともなう脂肪組織ではアポトーシスにおちいるB細胞が増加し,一方,脂肪組織へのB細胞のリクルートは低下していた.また,肥満にともなう脂肪組織ではCXCL12の発現も低下しており,B細胞のリクルートの低下への寄与が疑われた.

5.ヒトにおいても脂肪組織にB細胞が存在し肥満とともに減少する

ヒトの皮下脂肪における肥満度と遺伝子発現を検討したところ,これまで報告されていたとおり,EMR1,CCL2,TNFの発現は肥満度と正の相関を示した.一方,CD19,CD22,インターロイキン10の発現は肥満度と負の相関を示し,ヒトの皮下脂肪のB細胞も肥満により減少することが明らかになった.

おわりに

筆者らは,脂肪組織にインターロイキン10を恒常性に発現する制御性B細胞の存在することを示し,このB細胞は肥満にともなう脂肪組織の炎症を負に制御していることを明らかにした(図1).このB細胞を活性化するとインスリン抵抗性が改善したことから,メタボリックシンドロームへの治療における新たな標的にもなると考えられた.

図1 脂肪組織における免疫細胞のクロストーク
(a)正常な脂肪組織.
(b)肥満にともなう脂肪組織.CD8陽性T細胞およびM1マクロファージが優位となり,B細胞の機能が減弱し炎症が起こると考えられる.
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figure1

文 献

  1. DiLillo, D. J., Matsushita, T. & Tedder, T. F.: B10 cells and regulatory B cells balance immune responses during inflammation, autoimmunity, and cancer. Ann. N Y Acad. Sci., 1183, 38-57 (2010)[PubMed]
  2. Nishimura, S., Manabe, I., Nagasaki, M. et al.: CD8+ effector T cells contribute to macrophage recruitment and adipose tissue inflammation in obesity. Nat. Med., 15, 914-920 (2009)[PubMed]
  3. Winer, D. A., Winer, S., Shen, L. et al.: B cells promote insulin resistance through modulation of T cells and production of pathogenic IgG antibodies. Nat. Med., 17, 610-617 (2011)[PubMed]

生命科学の教科書における関連するセクションへのリンク

東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.

著者プロフィール

西村 智(Satoshi Nishimura)
略歴:2008年 東京大学大学院医学系研究科博士課程 修了,同年 科学技術振興機構さきがけ 研究員,2011年 東京大学システム疾患生命科学による先端医療技術開発拠点 特任助教,2012年 同 特任准教授を経て,2013年より自治医科大学分子病態治療研究センター 教授.
研究テーマ:バイオイメージングと生活習慣病.

真鍋 一郎(Ichiro Manabe)
東京大学大学院医学系研究科 講師.

永井 良三(Ryozo Nagai)
自治医科大学 学長.

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