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First author's

クローナルな解析により明らかにされた造血系の新しい分化経路

2013年10月8日

山本 玲・中内啓光
(東京大学医科学研究所 幹細胞治療研究センター幹細胞治療分野)
email:山本 玲中内啓光
DOI: 10.7875/first.author.2013.121

Clonal analysis unveils self-renewing lineage-restricted progenitors generated directly from hematopoietic stem cells.
Ryo Yamamoto, Yohei Morita, Jun Ooehara, Sanae Hamanaka, Masafumi Onodera, Karl Lenhard Rudolph, Hideo Ema, Hiromitsu Nakauchi
Cell, 154, 1112-1126 (2013)

要 約

 造血幹細胞は自己複製能と多分化能により体内の造血系を恒常的に維持している.しかし,造血幹細胞からどのような経路をとおり成熟した血液細胞が産生されるかという血液細胞の分化のモデルに関しては,いまだ不明な点も多い.その要因として,これまでの研究では赤血球および血小板のin vivoにおける解析がむずかしいため1個の前駆細胞に由来する白血球,赤血球,血小板を同時に観察することができなかったこと,それぞれの段階の血液細胞のあいだのヒエラルキーを1細胞のレベルで評価していないことがあげられる.そこで,筆者らは,白血球だけでなく赤血球および血小板も蛍光タンパク質により安定に標識したトランスジェニックマウスを作製し,1細胞の移植ののち末梢血を経時的に解析することにより,この問題にアプローチした.その結果,成熟した骨髄球系の血液細胞において自己複製能をもつ分化能の限定した前駆細胞を同定し,それらは従来の血液細胞の分化のモデルにおいて考えられていた経路とは異なる,新規の経路である骨髄球系バイパス経路を経由することを明らかにした.

はじめに

 造血幹細胞(hematopoietic stem cell:HSC)は自己複製能と多分化能をもち,骨髄に存在し体内の造血系を一生涯にわたり維持している.造血幹細胞の分化の経路には,造血幹細胞を頂点とし成熟した血液細胞を終点とするヒエラルキーの存在していることがわかっている.この分化経路を明らかにすることは,血液細胞の自己複製や分化の分子機構を明らかにするうえでの基礎的な知見となり,骨髄移植における医療技術の向上のためにも非常に重要であると考えられる.
 現在,提唱されている血液細胞の分化のモデルにおいては,造血幹細胞は分化能を維持したまま自己複製能を失った多能性前駆細胞(multipotent progenitor:MPP)を産生し,骨髄球性共通前駆細胞(common myeloid progenitor:CMP)とリンパ球性共通前駆細胞(common lymphoid progenitor:CLP)とに分かれ,その段階においてはじめて細胞系譜の決定がなされると考えられている1-4).しかし,その細胞系譜の決定の段階に関しては複数のモデルが提唱されており,多能性前駆細胞から,巨核球系および赤芽球系への分化能の弱くなったリンパ球系前駆細胞(lymphoid-primed multipotent progenitor:LMPP)と骨髄球性共通前駆細胞あるいは巨核球-赤芽球前駆細胞(megakaryocyte-erythroid progenitor:MEP)とに分かれるというモデルも提唱されており,分岐点に関してはいまだ結論はでていない5-7).いずれのモデルにおいても,細胞系譜の決定は,まず造血幹細胞が自己複製能を失い多能性前駆細胞をへて起こることが基本になっている.造血幹細胞はCD34陰性c-Kit陽性Sca-1陽性Lin陰性の画分に濃縮される8,9).そして,自己複製能を失った多能性前駆細胞はCD34陽性c-Kit陽性Sca-1陽性Lin陰性の画分に存在すると考えられている.以前は,このCD34陽性の画分のほとんどの細胞は多能性をもつと考えられていたが,最近の報告からは必ずしも多能性を維持しているわけではない.また,報告により使用される画分の名前も異なっている.これらの混乱の理由としては,表面マーカーにもとづく分類と機能にもとづく分類とが混在し,表面マーカーにより定義された名称がその機能を表わしているかのような誤解を生んでしまったこと,1細胞レベルでの解析が行われていないことが考えられる.さらに従来,血液細胞の分化の研究においては,白血球,赤血球,血小板をin vivoにおいて同時に評価してこなかったこともあげられる.
 そこで,筆者らは,マウスの個体において白血球だけでなく血小板および赤血球にてKusabira Orange蛍光タンパク質を安定して発現するトランスジェニックマウスを作製し10)in vivoにおける機能をクローナルに白血球,赤血球,血小板において解析することにより,造血幹細胞画分の再定義を行った.また,造血幹細胞から多能性前駆細胞が実際に生じるのか,造血幹細胞からどの種類の血液細胞が産生されるのか,いまだ実験的な証明はなされていないことから,造血幹細胞の下流における前駆細胞のヒエラルキーを決定するにあたり,1細胞の移植と母細胞の培養により生じる2個の娘細胞についての解析とを組み合わせてこの問題にアプローチした.

1.自己複製能をもつ骨髄球系前駆細胞の同定

 造血幹細胞画分において,1細胞レベルで顆粒球,B細胞,T細胞,赤血球,血小板への分化能を評価することを目的とした.予備実験から,表面マーカーとしてCD41を用いることで造血幹細胞画分において再構築能の異なる細胞を分けることのできることがわかっていた.白血球,血小板,赤血球にてKusabira Orangeを安定して発現するトランスジェニックマウスから骨髄細胞を採取し,CD150およびCD41の発現により3つの画分に分け,おのおのの画分より1細胞ソーティングを行い,この1細胞を競合する細胞2×105個とともに致死量の放射線を照射したマウスに移植した.そののち,末梢血を定期的に採取し,顆粒球,B細胞,T細胞,赤血球,血小板におけるKusabira Orange陽性率を測定した.観察したポイントで0.1%以上のキメラ化を認めた場合に,移植した細胞はその系統の血球を再構築する能力をもつと定義し,また,自己複製能の評価として,1次移植マウスより骨髄を採取し,致死量の放射線を照射したマウスに1×107個の骨髄有核細胞を移植したのち,定期的に末梢血のキメラ化を測定した.
 末梢血への分化能をもとに,移植した細胞を後方視的に定義した.顆粒球,B細胞,T細胞,赤血球,血小板のすべてへの再構築能の認められた細胞を造血幹細胞と定義した.さらに,顆粒球,赤血球,血小板の骨髄球系細胞のみを再構築する能力をもつ多数のクローンが認められ,これらをまとめて,自己複製能をもつ骨髄球系に限定した前駆細胞(myeloid-restricted repopulating progenitor:MyRP)と命名した.これらは,白血球,血小板,赤血球にてKusabira Orangeを安定して発現するトランスジェニックマウスを用い,クローナルに顆粒球,B細胞,T細胞,赤血球,血小板への分化能を評価することによりはじめて明らかになった細胞であり,閾値を0.1%未満に設定したとしても,B細胞およびT細胞の出現は認められなかった.さらに,これらの多くは8週間以上にわたる再構築能をもっており,少数のクローンにおいては2次移植ののち20週間においても再構築をもっていた.
 多能性前駆細胞画分とされているCD34陽性c-Kit陽性Sca-1陽性Lin陰性の画分の細胞は,50個の細胞を移植しても8週間以上にわたる血小板の再構築能をもたず,自己複製能をもつ骨髄球系に限定した前駆細胞は,1細胞でも多数の多能性前駆細胞画分の細胞より強い再構築能をもつと考えられた.また,これまで骨髄球系に限定した分化能をもつことが知られている多能性前駆細胞のさらに下流に存在する骨髄球性共通前駆細胞,巨核球-赤芽球前駆細胞,巨核球前駆細胞は,400個を移植しても4週間以上にわたる骨髄の再構築能を認めず,これら前駆細胞と自己複製能をもつ骨髄球系に限定した前駆細胞とは異なるものと考えられた.これらの結果は,自己複製能と多分化能とは解離しており,分化の段階における特定の細胞種へのコミットメントに自己複製能の消失は必須ではないことを示唆した.
 Kusabira Orange陽性細胞の認められたマウス130匹のうち126匹(96.9%)において血小板の再構築が認められ,造血幹細胞を移植されたマウスにおいては,顆粒球,B細胞,T細胞,赤血球,血小板のうち血小板が必ず最初に出現した.これらの知見は,造血幹細胞の自己複製能と血小板の再構築能は密接に関連し,さらに,分化の過程において血小板は造血幹細胞と近いことを示唆した.
 1細胞から再構築したマウスの骨髄を解析したところ,移植した細胞が実際に骨髄において増殖していることが示唆された.末梢血および骨髄の解析により,今回,認められた自己複製能をもつ骨髄球系に限定した前駆細胞は自己複製能をもつことが考えられた.

2.CD34陽性c-Kit陽性Sca-1陽性Lin陰性の画分の細胞は多能性前駆細胞ではなく少能性前駆細胞である

 CD34陽性c-Kit陽性Sca-1陽性Lin陰性の画分の細胞は多能性前駆細胞とよばれ,ほとんどの細胞は顆粒球,B細胞,T細胞,赤血球,血小板に分化する能力をもつと考えられているが,これまで,この5つの系統の血球はクローナルには解析されていない.そこで,この画分の細胞について1細胞あるいは10細胞の移植を行った.顆粒球,B細胞,T細胞,赤血球,血小板のすべてを産生するマウスは,多能性前駆細胞画分の10細胞の移植では9匹のうち3匹,巨核球系および赤芽球系への分化能が弱くなったリンパ球系前駆細胞画分の10細胞の移植では9匹のうち5匹であり,ともに1細胞の移植では認められなかった.多能性前駆細胞画分は骨髄球系への分化能が優位であり,巨核球系および赤芽球系への分化能が弱くなったリンパ球系前駆細胞画分はさまざまな分化パターンを示した.
 このように,CD34陽性c-Kit陽性Sca-1陽性Lin陰性の画分には顆粒球,B細胞,T細胞,赤血球,血小板のすべてに分化する能力をもつ細胞がクローナルには存在しない,あるいは,存在したとしてもきわめて少数であると考えられ,細胞系譜の決定は,これまで考えられていたように,多能性前駆細胞画分あるいは巨核球系および赤芽球系への分化能が弱くなったリンパ球系前駆細胞画分において行われるのではないことが示唆された.この画分の細胞は多能性前駆細胞ではなく,むしろ,少能性(oligopotent)前駆細胞とよぶほうが妥当であると考えられた.

3.自己複製能をもつ骨髄球系に限定した前駆細胞は造血幹細胞から直接に産生される

 以上の結果より,造血幹細胞と自己複製能をもつ骨髄球系に限定した前駆細胞とは分化段階の近い可能性が示唆された.造血幹細胞の分裂パターンを検討するため,娘細胞ペアアッセイを行った.これは,母細胞が分裂したのちの2個の娘細胞の機能を比較することにより,母細胞がどのような分裂様式をとったのかを評価するものである.1細胞を短時間だけ培養し2細胞に分裂した際に,生じた2個の娘細胞を1つずつに分け,それぞれの娘細胞について1細胞の移植を行った.そののち,末梢血のキメラ化を定期的に測定することにより,2個の娘細胞の分化能を評価した.母細胞の分化能は,2個の娘細胞の分化能をあわせたものであると推測できる.その結果,造血幹細胞が非対称性の自己複製により,造血幹細胞と自己複製能をもつ骨髄球系に限定した前駆細胞とに分裂したことが示された.さらに,造血幹細胞どうし,および,自己複製能をもつ骨髄球系に限定した前駆細胞どうしの産生も認められた.
 以上より,造血幹細胞からは,造血幹細胞および自己複製能をもつ骨髄球系に限定した前駆細胞を非対称性に産生する経路の存在することが明らかになった.この自己複製能をもつ骨髄球系に限定した前駆細胞を産生する細胞系譜の決定の過程においては,これまで血液細胞の分化の過程において必ずとおる分化段階であると考えられていたCD34陽性c-Kit陽性Sca-1陽性Lin陰性の画分の多能性前駆細胞を経由してはおらず,成熟した骨髄球系の血液細胞である顆粒球,赤血球,血小板への分化の過程においては,造血幹細胞から直接にこれらの前駆細胞が産生される骨髄球系バイパス経路の存在することが示された(図1).

figure1

おわりに

 この研究は,1)顆粒球,B細胞,T細胞,赤血球,血小板への分化能の評価,2)1細胞レベルでの解析,3)ヒエラルキーおよび分裂様式の決定のため母細胞の培養により生じる2個の娘細胞おのおの1細胞の移植,という3つの戦略をとった.その結果,自己複製能をもつ骨髄球系に限定した前駆細胞の同定,通常の血液細胞の分化経路とは異なる骨髄球系バイパス経路の存在を明らかにすることができた.
 これらの結果は,自己複製能と多分化能とは解離しているという概念を示し,最初の細胞系譜の決定はこれまで考えられていたより上流の造血幹細胞のレベルで行われていることを示した.また,段階的に分化能を失うという細胞系譜の決定様式とは異なり,造血幹細胞のレベルにおいて血小板などが非段階的に産生されるという細胞系譜の決定様式の存在することが示された.さらに,造血幹細胞画分は非常にヘテロな集団であり,さらなる表面マーカーによる濃縮が必要であることも示された.母細胞の培養により生じる2個の娘細胞についての解析により,造血幹細胞の対称性の自己複製分裂および非対称性の自己複製分裂を示すことができたが,2次移植においても,2個の娘細胞において顆粒球,B細胞,T細胞,赤血球,血小板が長期にわたり再構築されるクローン1例を認めた.この対称性の自己複製に関与する分子機構を明らかにすることにより,造血幹細胞の真の自己複製を達成することができると考えられる.また同様に,造血幹細胞から自己複製能をもつ骨髄球系に限定した前駆細胞への分化の分子機構を明らかにすることができれば,血小板の誘導あるいは増幅の達成が期待できる.造血幹細胞の分化モデルは,神経幹細胞や小腸幹細胞などほかの体性幹細胞のモデルにもなっている.血液細胞の分化様式を正しく理解することにより,造血幹細胞の自己複製や分化の制御にかかわる分子機構の同定や,その破綻による疾患の理解および治療に貢献することが期待される.

文 献

  1. Christensen, J. L. & Weissman, I. L.: Flk-2 is a marker in hematopoietic stem cell differentiation: a simple method to isolate long-term stem cells. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98, 14541-14546 (2001)[PubMed]
  2. Akashi, K., Traver, D., Miyamoto, T. et al.: A clonogenic common myeloid progenitor that gives rise to all myeloid lineages. Nature, 404, 193-197 (2000)[PubMed]
  3. Kondo, M., Weissman, I. L. & Akashi, K.: Identification of clonogenic common lymphoid progenitors in mouse bone marrow. Cell, 91, 661-672 (1997)[PubMed]
  4. Osawa, M., Hanada, K., Hamada, H. et al.: Long-term lymphohematopoietic reconstitution by a single CD34-low/negative hematopoietic stem cell. Science, 273, 242-245 (1996)[PubMed]
  5. Yoshida, T., Ng, S. Y., Zuniga-Pflucker, J. C. et al.: Early hematopoietic lineage restrictions directed by Ikaros. Nat. Immunol., 7, 382-391 (2006)[PubMed]
  6. Lai, A. Y. & Kondo, M.: Asymmetrical lymphoid and myeloid lineage commitment in multipotent hematopoietic progenitors. J. Exp. Med., 203, 1867-1873 (2006)[PubMed]
  7. Adolfsson, J., Mansson, R., Buza-Vidas, N. et al.: Identification of Flt3+ lympho-myeloid stem cells lacking erythro-megakaryocytic potential a revised road map for adult blood lineage commitment. Cell, 121, 295-306 (2005)[PubMed]
  8. Morita, Y., Ema, H. & Nakauchi, H.: Heterogeneity and hierarchy within the most primitive hematopoietic stem cell compartment. J. Exp. Med., 207, 1173-1182 (2010)[PubMed]
  9. Kiel, M. J., Yilmaz, O. H., Iwashita, T. et al.: SLAM family receptors distinguish hematopoietic stem and progenitor cells and reveal endothelial niches for stem cells. Cell, 121, 1109-1121 (2005)[PubMed]
  10. Hamanaka, S., Ooehara, J., Morita, Y. et al.: Generation of transgenic mouse line expressing Kusabira Orange throughout body, including erythrocytes, by random segregation of provirus method. Biochem. Biophys. Res. Commun., 435, 586-591 (2013)[PubMed]

生命科学の教科書における関連するセクションへのリンク

東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.

著者プロフィール

山本 玲(Ryo Yamamoto)
略歴:2009年 京都大学大学院医学研究科 修了,同年より東京大学医科学研究所 特任研究員.
研究テーマ:造血幹細胞,血液疾患.

中内 啓光(Hiromitsu Nakauchi)
東京大学医科学研究所 教授.
研究室URL:http://stemcell-u-tokyo.org/sct/

© 2013 山本 玲・中内啓光 Licensed under CC 表示 2.1 日本


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