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ホスファチジルイノシトール5-リン酸による自然免疫応答の制御

2013年9月9日

川崎拓実・審良静男・河合太郎
(大阪大学免疫学フロンティア研究センター 自然免疫学研究室)
email:川崎拓実河合太郎
DOI: 10.7875/first.author.2013.111

The second messenger phosphatidylinositol-5-phosphate facilitates antiviral innate immune signaling.
Takumi Kawasaki, Naoki Takemura, Daron M. Standley, Shizuo Akira, Taro Kawai
Cell Host & Microbe, 14, 148-158 (2013)

要 約

 細胞にウイルスが感染すると,I型インターフェロンや炎症性サイトカインといったサイトカインを産生することによりウイルスを排除しようとする.そして,これらのサイトカインは,ひきつづきT細胞やB細胞などにより担当される獲得免疫の誘導において重要な役割をはたす.これまで,筆者らのグループは,病原体の認識からサイトカインの産生にいたる自然免疫応答とよばれる過程について研究を進めてきた.そしてとくに,ウイルス感染の認識からサイトカインの産生にいたる細胞内シグナル伝達系において,リン酸化酵素TBK1による転写因子IRF3のリン酸化が必須であることを明らかにしてきたが,このTBK1-IRF3シグナル伝達系が活性化する分子機構については不明のままであった.今回,TBK1-IRF3シグナル伝達系の活性化を指標としたスクリーニング系を構築し,その結果,ホスファチジルイノシトール5-リン酸がTBK1-IRF3シグナル伝達系を活性化していることを明らかにした.

はじめに

 細胞にウイルスが感染すると,I型インターフェロンや炎症性サイトカインの産生といった一連の自然免疫応答がひき起こされる.細胞から放出されたこれらのサイトカインは,ひきつづきキラーT細胞の活性化やB細胞による抗体の産生といった獲得免疫による生体防御の誘導に重要な役割をはたす1).細胞がウイルスに感染すると,ウイルスに由来するRNAやDNAなどの特徴的な成分を特異的な受容体が認識する.それらの受容体からのシグナルはさまざまなシグナル伝達タンパク質の活性化をへて転写因子へと伝達され,サイトカインの産生が誘導される.自然免疫応答における受容体からサイトカインの産生にいたる細胞内シグナル伝達系の全容は明らかになりつつあるが,依然として不明な点も多く残されている.TBK1(TANK-binding kinase 1)はウイルスの感染にともない活性化し,転写因子IRF3(interferon regulatory factor 3)を直接にリン酸化するキナーゼである.リン酸化されたIRF3は核へと移行し,I型インターフェロンをはじめとするサイトカインの産生を誘導する.筆者らのグループをはじめとして,TBK1によるIRF3のリン酸化はウイルスの感染に対するサイトカインの産生に必須であることが明らかにされてきた2-4).しかし,依然として,TBK1-IRF3シグナル伝達系の活性化がどのように制御されているのかは不明であった.

1.ホスファチジルイノシトール5-リン酸はin vitroにおいてTBK1-RIF3シグナル伝達系の活性化に必要である

 TBK1-IRF3シグナル伝達系の活性化の分子機構を明らかにするため,このシグナル伝達系を活性化しうる細胞内の因子をスクリーニングした.精製したTBK1とIRF3を試験管内で反応させ,そこにさまざまな化合物をくわえIRF3のリン酸化が増幅するものをin vitroにおけるリン酸化反応系により探索した.さまざまな試薬を試したものの,IRF3のリン酸化を増幅する化合物は得られなかった.そこで,クロロホルム-メタノールを用いて細胞を脂質などの不溶性物質を含む画分とATPといった水溶性物質を含む画分とに分け,その画分をin vitroにおけるリン酸化反応系にくわえてみた.その結果,不溶性画分をくわえたときIRF3のリン酸化が増加したことから,なんらかの脂質がTBK1-IRF3シグナル伝達系に寄与することが示唆された.
 どのような脂質がこのシグナル伝達系に関与しているかを調べるため,IRF3およびTBK1に結合する脂質について調べたところ,いくつかのイノシトールリン脂質が結合することがわかった.イノシトールリン脂質はグリセロール骨格にイノシトール環をもつ脂質であり,イノシトール環のリン酸化の状態により8つのタイプの存在することが知られている.そのうち,どのイノシトールリン脂質がTBK1-IRF3シグナル伝達系においてIRF3のリン酸化を増加させるのか調べるため,8つのタイプのイノシトールリン脂質よりそれぞれリポソームを作製しin vitroにおけるリン酸化反応系にくわえたところ,ホスファチジルイノシトール5-リン酸を含むリポソームをくわえたとき有意にリン酸化の増加することがわかった.以上のことから,in vitroにおいてホスファチジルイノシトール5-リン酸がTBK1-IRF3シグナル伝達系の活性化に関与することが示唆された.

2.リン酸化酵素PIKfyveはホスファチジルイノシトール5-リン酸の産生に必要である

 細胞においてイノシトールリン脂質はさまざまなリン酸化酵素や脱リン酸化酵素により代謝され産生する.ホスファチジルイノシトール5-リン酸もいくつかの酵素により産生される可能性が示唆されており,実際に,どの酵素によりホスファチジルイノシトール5-リン酸が産生され,サイトカインの産生の誘導に関与するのかを調べた.その結果,ホスファチジルイノシトールの5位をリン酸化することによりホスファチジルイノシトール5-リン酸の産生にかかわるリン酸化酵素PIKfyveの過剰な発現により,I型インターフェロンの遺伝子プロモーターからの遺伝子発現の誘導されることがわかった.また,PIKfyveの活性を薬剤により阻害したり,ノックダウン法によりその発現を抑制したりすると,ウイルスの感染によるIRF3のリン酸化は抑制され,その結果,I型インターフェロンの産生は減少することがわかった.また,ウイルスの感染により細胞においてホスファチジルイノシトール5-リン酸の量は増加することもわかった.このホスファチジルイノシトール5-リン酸の産生はPIKfyveの阻害により抑制された.以上のことから,ウイルスに感染したときの細胞の自然免疫応答には,PIKfyveによるホスファチジルイノシトール5-リン酸の産生が必要であることがわかった.

3.IRF3はホスファチジルイノシトール5-リン酸と結合することによりTBK1によるリン酸化をうけやすくなる

 では,ホスファチジルイノシトール5-リン酸はどのような分子機構によりTBK1-IRF3シグナル伝達系に影響をあたえているのだろうか? まず,ホスファチジルイノシトール5-リン酸がTBK1と結合するとTBK1は活性化しIRF3をリン酸化すると考えた.しかし,in vitroにおけるリン酸化系においてはTBK1の活性化(自己リン酸化)の状態はホスファチジルイノシトール5-リン酸により変化しなかったことから,ホスファチジルイノシトール5-リン酸はTBK1の活性化は制御していないと考えられた.つぎに,ホスファチジルイノシトール5-リン酸がIRF3と結合するとIRF3はリン酸化をうけやすい構造となりTBK1により効率的にリン酸化をされると考えた.ホスファチジルイノシトール5-リン酸とIRF3との結合を調べると,ヒトおよびマウスにおいて保存されたLys360およびArg361がその結合に重要であることがわかった.これまでの研究により,IRF3の結晶構造が明らかになっている5).このIRF3の構造を用いてホスファチジルイノシトール5-リン酸との結合をシュミレーションしたところ,実験の結果と一致して,ホスファチジルイノシトール5-リン酸はArg361を中心としたポケット構造によくフィットすることがわかった.以上のことから,ホスファチジルイノシトール5-リン酸のIRF3への結合は,TBK1によるIRF3のリン酸化を促進することによりサイトカインの産生を促進していると考えた.

4.ホスファチジルイノシトール5-リン酸は樹状細胞を活性化し免疫の賦活能をもつ

 樹状細胞はウイルスの感染にともないサイトカインを産生すると同時に,抗原の提示を行うことにより自然免疫と獲得免疫とを媒介する重要な細胞である.マウスの骨髄に由来する樹状細胞にホスファチジルイノシトール5-リン酸をくわえると,I型インターフェロンなどのサイトカインの産生されることがわかった.ホスファチジルイノシトール5-リン酸は,RNAウイルスに対する自然免疫応答における重要な受容体であるRIG-I様受容体の主要なアダプターであるIPS-1をノックアウトした細胞においてもサイトカインの産生を誘導したが,IRF3およびIRF7をダブルノックアウトした細胞ではサイトカインは産生されなかった.また,TBK1およびそのファミリータンパク質であるIKKiキナーゼをダブルノックアウトした細胞では,同様に,ホスファチジルイノシトール5-リン酸によるI型インターフェロンの産生の誘導はみられなかったことから,ホスファチジルイノシトール5-リン酸はTBK1-IRF3シグナル伝達系に対し直接に影響をあたえることにより樹状細胞を活性化していることが示唆された.このように,ホスファチジルイノシトール5-リン酸は樹状細胞を活性化したことから,生体において抗体を産生する際の補助的な役割である“免疫の賦活能”を発揮している可能性がある.そこで,ホスファチジルイノシトール5-リン酸を抗原とともにマウスに免疫したところ,抗原に特異的な抗体の産生が認められたことから,ホスファチジルイノシトール5-リン酸には免疫の賦活能のあることがわかった.
 以上のことから,自然免疫応答における細胞内シグナル伝達系において,ホスファチジルイノシトール5-リン酸はTBK1-IRF3シグナル伝達系を活性化し,サイトカインの産生を誘導していることが明らかになった.細胞にウイルスが感染するとリン酸化酵素PIKfyveは活性化し細胞におけるホスファチジルイノシトール5-リン酸の量は増加する.ホスファチジルイノシトール5-リン酸とIRF3とが結合することによりIRF3はリン酸化をうけやすい構造となり,TBK1により効率的にリン酸化されることでIRF3は活性化し,サイトカインの産生を誘導するものと考えられた(図1).

figure1

おわりに

 ホスファチジルイノシトール5-リン酸は,ホスファチジルイノシトール3-リン酸やホスファチジルイノシトール4-リン酸などと比べ,その役割はあまり知られておらず,生体における存在量も少ない.今回,はじめて,自然免疫応答における受容体からサイトカインの産生にいたる細胞内シグナル伝達系において,ホスファチジルイノシトール5-リン酸が重要な役割をもつことが明らかになった.また,ホスファチジルイノシトール5-リン酸が免疫の賦活能をもっていたことから,新しいタイプの免疫賦活剤として活用できる可能性がある.すでにいくつもの免疫賦活剤が臨床に応用されているが,より安全性の高い免疫賦活剤の開発が望まれている6).ホスファチジルイノシトール5-リン酸はこれまでの免疫賦活剤とは異なり生体に由来する化合物であり,より毒性が少なく安全性の高い免疫賦活剤としての応用が期待される.

文 献

  1. Kawai, T. & Akira, S.: Toll-like receptors and their crosstalk with other innate receptors in infection and immunity. Immunity, 34, 637-650 (2011)[PubMed]
  2. Ishii, K. J., Coban, C., Kato, H. et al.: A Toll-like receptor-independent antiviral response induced by double-stranded B-form DNA. Nat. Immunol., 7, 40-48 (2006)[PubMed]
  3. Hemmi, H., Takeuchi, O., Sato, S. et al.: The roles of two IκB kinase-related kinases in lipopolysaccharide and double stranded RNA signaling and viral infection. J. Exp. Med., 199, 1641-1650 (2004)[PubMed]
  4. Fitzgerald, K. A., McWhirter, S. M., Faia, K. L. et al.: IKKε and TBK1 are essential components of the IRF3 signaling pathway. Nat. Immunol., 4, 491-496 (2003)[PubMed]
  5. Takahasi, K., Suzuki, N. N., Horiuchi, M. et al.: X-ray crystal structure of IRF-3 and its functional implications. Nat. Struct. Biol., 10, 922-927 (2003)[PubMed]
  6. Levitz, S. M. & Golenbock, D. T.: Beyond empiricism: informing vaccine development through innate immunity research. Cell, 148, 1284-1292 (2012)[PubMed]

生命科学の教科書における関連するセクションへのリンク

東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構自然科学教育高度化部門から公開されている生命科学の教科書 “A Comprehensive Approach To LIFE SCIENCE”(羊土社『理系総合のための生命科学 第2版』の英語版)における関連するセクションへのリンクです.

著者プロフィール

川崎 拓実(Takumi Kawasaki)
略歴:奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 助教.
研究テーマ:分子免疫制御.

審良 静男(Shizuo Akira)
大阪大学免疫学フロンティア研究センター 教授.

河合 太郎(Taro Kawai)
奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 准教授.

© 2013 川崎拓実・審良静男・河合太郎 Licensed under CC 表示 2.1 日本


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